ゼロの使い魔保管庫
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青春時代 ツンデレ王子
#br
チクトンネ街中央広場、噴水前にサイトは立っていた。先日...
呼び出しを受けたのだ。
(アニエスさん、遅いなぁ)
待ち合わせ時間は12時、今はそれを10分ほど過ぎている...
30分待っていた。
(20分も早く着いた俺が悪いのかの知れねーけどさ)
何故呼び出されたのか、理由は聞いていない。ただ一言、こ...
われただけなのだ。用があるなら直接王宮に出向いた方が早い...
が。
彼女の意図がわからず思案していると、声を掛けられた。
「サイトくん、お待たせ」
声のするほうを振り返ってみると、そこには一人の少女が僅...
てこちらを見上げている。いつぞやシエスタに送ったのと同じ...
を着込み、紺色のプリーツスカート(膝上20cm程)、黄色...
テールに結ばれた栗色の髪、細い銀縁の眼鏡を掛けているその...
憶を探るが思い出せず、サイトはぽかんと口を開けたまま固ま...
「えっと…どちら様でしょう?」
「分からない?」
悪戯っぽく微笑むと、ついと眼鏡をずらして小さく舌を出す。
その薄いブルーの瞳を見た瞬間、サイトはその少女が誰なの...
った様である。
「ひんぐ…!」
大声を出しそうになったサイトの口を、少女は慌てて両手で...
「しっ!ここでそう呼ばないで下さい」
コクコク…
首を上下に振り了承の意を示す。
少女はホッと息を吐くもサイトの口を押さえていた手を外す...
苦しくなった彼はぺろりとその指に舌を這わした。
「きゃっ!」
「あ…ご、ごめん」
「い、いえ…」
「でも、どうしたんですか?そんな格好で…」
少女の正体を見破ったサイトは、彼女がその様な格好でこの...
思議で堪らなかった。
「だって…この服はサイトくんの思い入れのある物なんでしょ?...
サイトの故郷、そこでは彼と同年代の少女達がこういった服...
いる――それはシエスタにこの服を送ったときに教えた事。それ...
き
出したのだと言う。
「で?今日は一体何をしてるんですか?」
彼女の説明は今の服装を知る経緯であり、今ここでわざわざ...
い
る説明にはなっていない。しかも自分の事を“くん”付けで呼ん...
解けた感じ―悪く言えば馴れ馴れしい―で話しかけたりと、普段...
考えも付かない事だらけなのだ。
額に手をやり、やれやれと言った感じで頭を振るサイトに少...
と、生地を押し上げる豊満な乳房を押し付けながら囁いた。
「デートしよ♪」
「…は?」
(何言ってんだ、この人は)
「勉強したのよ、サイトくんとデートしたくて。喋り方も変装...
喋り方、確かに街娘の様にくだけたものになっている。
変装、これも初め自分ですら分からなかったのだ。彼女の事...
会の少ない者が見たところで、彼女がこの国の王女だと気付か...
だろう。
「その為にアニエスに協力してもらって、貴方を呼び出したの...
何日も前から計画し、執務を終わらせていたのだと言う。
そこまで言われては、サイトとしては無下に断るわけにいか...
(ま、いっか。これはこれで新鮮だし)
しぶしぶながらも頷くと、アンリエッタは満面の笑みを浮か...
くるりとターンしながら出ると、手を後ろに組み上半身を屈め...
「行こ♪」
回転によってふわりと持ち上がるプリーツ。
それと同時にチラリと目に飛び込んでくるスカートの生地と...
眩しく映る絶対領域。
ニーソックスに包まれた、今にも頬ずりしたくなる脚。
襟元から覗く三角地帯。
それらへと一瞬にして視線を這わすと、サイズが合ってない...
ちた眼鏡の間から上目使いに見上げる視線から逃れるように目...
女の頭に手をやってクシャクシャと撫でると、そのまま肩を抱...
だった。背後から自分たちを見詰める視線に気付かぬままに――
#br
彼等の後姿を涙ぐみながら見詰める初老の男が1人。
「陛下、良くお似合いですぞ」
くっくっと嗚咽を漏らしながらボソボソと呟く。
近くを歩いていた子供が『あのおじちゃん、どうしたの?』...
親らしき人物が『見てはいけません』と言って連れ去っていく...
ら異様なものを見る目で遠巻きに見られている。
(特訓の成果がありましたな)
ズズズと鼻をすすり、男性は空を見上げる。
遠い目をして何やら思い出している様だ。
――特訓
それは数日前に遡る。
王宮の一室、そこで彼―マザリーニ―はアンリエッタに指導を...
「もっと柔らかく!」
彼の目前にはアンリエッタとアニエスが腕を組んでいる。
「陛下、ちょっと宜しいですかな」
マザリーニはアンリエッタを押し退けると、代わって自分が...
める。身長差はあるものの、それを全く感じさせない雰囲気を...
「こう、良く見ていてくだされ」
絡めた腕を解くと、半歩前に出てクルリと180度ターン。
「ここで…こうです。
ただ、気を付けてくだされ。回転速度が弱すぎてはスカート...
せぬ。逆に強すぎては持ち上がりすぎて興醒めですぞ。力加...
です」
「は、はい」
「ではアニエス君、一度やってみなさい」
「…は?」
いきなり振られて反応出来ず、間抜けな声を漏らす銃士隊隊...
この日の彼女は何時もの甲冑ではなく、萌葱のシャツにエン...
スカートといった出で立ちである。もちろんミニスカートだ。
(この姿でやるのか、あれを)
普段人前には出す事の無い肌を晒しているだけでも恥ずかし...
アンリエッタの為とは言えこれは彼女にとっては拷問に近いも...
「何をしておる、早くせぬか」
しかしながら、今“監督”のオーラを纏った彼には彼女の心の...
るはずもなく、声を荒げて促すのみ。
腑に落ちないながらも立ち位置を入れ替えると、アニエスは...
に自分の腕を絡める。彼女の決して小さいとは言えない胸が薄...
腕に押し付けられ、マザリーニは鼻の下を伸ばすがそれも一瞬...
リリと表情を引き締めると、先程自分が見せたようにやってみ...
促した。
「陛下、ご覧になりましたか。今の様ですとスカートが捲れ上...
彼のような人物の関心を惹く事は出来ませぬ!アニエス君、...
次は先程より強めに回転するアニエス。
今度は反動が強すぎて、下着までもが見えてしまった。
「この様に強すぎても、スカートの中が見えすぎて逆に白けて...
微妙な力加減が大切なのですぞ」
力説する彼に呆れた顔を向けるアニエス。それとは打って変...
頷き、その場で回る練習をし始めるアンリエッタ。
「では陛下、やってみてくだされ」
アニエスを男役に腕を絡めるアンリエッタ。
さすが王女と言うべきであろうか。やはり社交ダンスの経験...
か、感覚を掴むのはマザリーニの想像より格段と早かった。
「では次ですが…」
アンリエッタを下がらせアニエスの前に出ると、再度ターン...
30度屈めてアニエスを見上げる。
「この時、あまり上半身を屈め過ぎないように!当日陛下がお...
兵の服は胸元が開いております。あまりに上半身を落としすぎ...
見えすぎてしまいます」
今度は自分の前で直接やってみるようにアンリエッタに命じ...
「それでは上げすぎです。もっと上半身を落として」
角度が大事ですぞ、と何度も何度も繰り返す。
アンリエッタの服装もアニエスが来ているものと相違ないも...
練習中チラリチラリと彼女の胸元がマザリーニの目に飛び込ん...
その都度、彼は目尻を下げて口元をだらしなく緩ませる。
「…オホン!」
その度にアニエスは咳払いをして注意を促す。帯剣していな...
るのか、腰に手を伸ばし空を切ってしまう事もしばしばであっ...
「完璧ですぞ、陛下」
漸く満足のいく結果が得られた時には、マザリーニの顔には...
リエッタは息を荒げ、アニエスは今にも飛び掛らんとするのを...
る状態だった。
マザリーニが涙を拭い顔を正面に向けた時には2人の姿は既...
無い。追いかけようかと1歩踏み出し……思いとどまった様だ。...
って行く。
(成功を祈っております、陛下)
馬車へと戻っていく彼の顔には、まるで娘を嫁に出す父親の...
色と、今にもスキップを始めそうな程晴れやかな色を共存させ...
#br
「なかなか美味しかったな」
満足そうに呟くサイト。
ちょっと遅めの昼食を2人で終わらせたところだった。
アンリエッタは会計を終わらせたサイトの手を取って指を絡...
「ね、サイトくん。次はどこに行く?」
ニコリと微笑む彼女に見とれて、立ち止まってしまう。
「ん?どうしたの?」
「い、いや…」
店の中からは『羨ましいぜ、このやろー』や『幸せにな、シ...
言った野次が飛んで来、照れくさそうに顔を見合わせる。
「ありがとうございました〜」
店員の声を後ろに未だに聞こえてくる野次から逃げるように...
見知った顔がサイトの目に飛び込んできた。
(やべっ)
見つからない様にと背を屈めるが、どうやら無駄な抵抗に終...
様だ。人ごみを掻き分け近付いてくる。
「げ、見つかった!」
「どうしたの?」
「俺の後ろに隠れてて」
小声で告げてアンリエッタを背後に回したところで、相手が...
した。
「サイトじゃない、久しぶり」
「や、やあジェシカ」
果たしてそれは、魅惑の妖精亭店長の一人娘ジェシカであっ...
「奇遇ね、今日はどうしたの?」
「え、いやその、えっと…そ、そう買い物に来たんだよ、シエス...
背後に気付かれないようにと気を配りながら何とか答えよう...
も良い言い訳が思い付かずしどろもどろになってしまう。
「へー、シエちゃんにねぇ」
「そ、そうなんだよ」
「ふーん…ところで、後ろの娘は誰なの?」
何とか誤魔化せたかと思ったのも束の間、気付かれてしまっ...
「…え?」
「髪の毛が見えてるわよ」
本人達にとってはしっかりと隠れたつもりだったのだろうが...
ツインテールの尻尾が見え隠れしていたのだ。
やはりジェシカだ、目敏い。
「ちぇ、ジェシカには隠し事出来ねぇな」
「そりゃそうよ、何年客商売してきてると思ってるのよ」
そう言いながら、ジェシカはひょいと覗き込む。
「あら?また違う女の子連れてるのね、そんなマニアックな格...
この女泣かせ〜と肘でサイトをつつくジェシカ。
その言葉を聞いて、アンリエッタは彼女に見られないように...
僅かに歪めると、彼の背中を軽く抓る。
「痛っ!あのなぁ変な事言うなよ」
「変な事って何よ」
にやにやとからかう様にサイトを見上げるジェシカ。
「またって事は無いだろ!」
「前に連れてたのはルイズだったじゃない」
「前にって…それだけだろが」
そこで漸く背中を抓る手が離れ、サイトはホッと息を吐いた。
「シエちゃんに告げ口しちゃおうかなー」
「ちょ、待った!それだけは勘弁してくれ」
「クスッ、冗談よ冗談。その代り、またお店手伝ってよね」
ひらひらと手を振ってその場を離れていくジェシカ。
アンリエッタの事を深く追求されずに済み、サイトは胸を撫...
背後に手を回し、それまでしがみつく様に彼の背中に張り付...
リエッタの手を取って歩き出そうとすると、当のアンリエッタ...
して不安そうにサイトを見上げた。
女王の貌に戻っている。
「…いまの方は?」
「ああ、魅惑の妖精亭の店長の娘さん。シエスタの従姉妹らし...
「……」
何ら悪びれる事無く答えるサイトに対し、自分から聞いたに...
示さないアンリエッタ。
訳が分らず、サイトは彼女の顔を腰を折って覗き込む。
表情は街娘のそれに戻っていた。
「どうしたの?」
「……」
「正体がばれたと思った?」
違います、そう答えてアンリエッタはプイとそっぽを向く。
正体がばれたのでは無いか、と初めは心配が先立った。だが...
だろうと思い至る。変装している上に顔は見られなかったのだ...
上したのは、ジェシカと呼ばれた彼女とやけに親しげに話す、...
ち――
(これってもしかして…)
「あ、ひょっとして…ヤキモチ?」
「し、知らない!」
繋いだ手を振り解くと、さっさと歩き出してしまうアンリエ...
その顔はほんのりと赤くなっている。
「ちょっと待てよ、アン」
サイトは早足で追い越すと、彼女を振り返って頭を下げる。
(何かギーシュとモンモンみたいだな)
そんな詰まらない事を考えながらアンリエッタの機嫌を取る...
彼女もそれほど臍を曲げてはいなかったのか、2〜3言葉を...
ら指を絡めて共に歩き出した。
#br
「あら?あれサイトじゃない?」
チクトンネ街中央広場の上空で、褐色の肌に赤い髪といった...
して呟く。キュルケだ。
「……」
隣に座って本を読む青い髪の少女がピクリと眉を動かした。
「珍しいわね、貴方が反応を示すなんて」
キュルケはそう言って彼女の頭に手を置くと、そのまま揺さ...
だ手元に落としたままの少女の頭が左右にぐりぐりと動かされ...
「でも、だれかしらあの娘。もしかしてデートだったりして」
丁度サイトはアンリエッタと手を繋いで1つの露天を覗いて...
た。上空からなので話し声までは聞こえないが、やけに楽しそ...
いるのが見て取れる。
キュルケの言葉に手にしていた本を閉じると、青髪の少女は...
せた風竜に命じた。
「下降」
少女のポツリと漏らした一言を聞き逃さず、風竜は高度を下...
近付きすぎると気付かれてしまうので、地上からこちらの姿が...
ないくらいの高度を保ってだが。
「あの服、メイド…じゃないわね、あの娘の髪は黒色だし…誰か...
「……」
「しっかし、サイトもやるわね〜。どこで引っ掛けたのかしら...
ま、あたしの美貌には叶わないけどね。と呟きながら隣を見...
段と何ら変わる事の無い無表情なままの少女が居たが、長い付...
キュルケには解っていた。彼女の纏うオーラが若干ではあるが...
いる事を。
「タバサ、どうするの?」
しかしタバサはキュルケの問いかけには返事を返さず、風竜...
と告げただけ。2人を乗せたままチクトンネ街の入口付近へと...
「ちょっとタバサ、どこ行くのよ」
ずんずんと先に歩いていくタバサの後を追いかけながら、キ...
議そうに尋ねる。
「サイトたちを追いかけるの?」
「……」
小さく頭を振って否定を示すタバサ。
そしてある一軒の店を指差した。
「え、洋服屋?」
「あれに…勝つ!」
彼女らしかぬ強い台詞と、普段からは想像も付かない決意を...
お金は大丈夫なの?と要らぬ心配をしてしまう。
彼女たちがここに居た理由、それはタバサが新しい書物が欲...
キュルケを荷物持ちに付き合わせたのだった。
彼女のような貴族の興味を惹くものなら城下町ブルドンネ街...
良いと思われがちなのだが、決してそうではない。掘り出し物...
らかと言えばチクトンネの方が確率は高い。ましてや彼女の目...
る。マジックアイテムの類がブルドンネに比べて少ない分、数...
れているのだ。
キュルケも普段世話になってるからと快く承諾し、サイトた...
は目的の物を購入した帰りであった。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ」
既に店内で戦闘服を物色している親友の背を追いかけ、キュ...
赤い髪をなびかせながら消えていった。
#br
終了行:
青春時代 ツンデレ王子
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チクトンネ街中央広場、噴水前にサイトは立っていた。先日...
呼び出しを受けたのだ。
(アニエスさん、遅いなぁ)
待ち合わせ時間は12時、今はそれを10分ほど過ぎている...
30分待っていた。
(20分も早く着いた俺が悪いのかの知れねーけどさ)
何故呼び出されたのか、理由は聞いていない。ただ一言、こ...
われただけなのだ。用があるなら直接王宮に出向いた方が早い...
が。
彼女の意図がわからず思案していると、声を掛けられた。
「サイトくん、お待たせ」
声のするほうを振り返ってみると、そこには一人の少女が僅...
てこちらを見上げている。いつぞやシエスタに送ったのと同じ...
を着込み、紺色のプリーツスカート(膝上20cm程)、黄色...
テールに結ばれた栗色の髪、細い銀縁の眼鏡を掛けているその...
憶を探るが思い出せず、サイトはぽかんと口を開けたまま固ま...
「えっと…どちら様でしょう?」
「分からない?」
悪戯っぽく微笑むと、ついと眼鏡をずらして小さく舌を出す。
その薄いブルーの瞳を見た瞬間、サイトはその少女が誰なの...
った様である。
「ひんぐ…!」
大声を出しそうになったサイトの口を、少女は慌てて両手で...
「しっ!ここでそう呼ばないで下さい」
コクコク…
首を上下に振り了承の意を示す。
少女はホッと息を吐くもサイトの口を押さえていた手を外す...
苦しくなった彼はぺろりとその指に舌を這わした。
「きゃっ!」
「あ…ご、ごめん」
「い、いえ…」
「でも、どうしたんですか?そんな格好で…」
少女の正体を見破ったサイトは、彼女がその様な格好でこの...
思議で堪らなかった。
「だって…この服はサイトくんの思い入れのある物なんでしょ?...
サイトの故郷、そこでは彼と同年代の少女達がこういった服...
いる――それはシエスタにこの服を送ったときに教えた事。それ...
き
出したのだと言う。
「で?今日は一体何をしてるんですか?」
彼女の説明は今の服装を知る経緯であり、今ここでわざわざ...
い
る説明にはなっていない。しかも自分の事を“くん”付けで呼ん...
解けた感じ―悪く言えば馴れ馴れしい―で話しかけたりと、普段...
考えも付かない事だらけなのだ。
額に手をやり、やれやれと言った感じで頭を振るサイトに少...
と、生地を押し上げる豊満な乳房を押し付けながら囁いた。
「デートしよ♪」
「…は?」
(何言ってんだ、この人は)
「勉強したのよ、サイトくんとデートしたくて。喋り方も変装...
喋り方、確かに街娘の様にくだけたものになっている。
変装、これも初め自分ですら分からなかったのだ。彼女の事...
会の少ない者が見たところで、彼女がこの国の王女だと気付か...
だろう。
「その為にアニエスに協力してもらって、貴方を呼び出したの...
何日も前から計画し、執務を終わらせていたのだと言う。
そこまで言われては、サイトとしては無下に断るわけにいか...
(ま、いっか。これはこれで新鮮だし)
しぶしぶながらも頷くと、アンリエッタは満面の笑みを浮か...
くるりとターンしながら出ると、手を後ろに組み上半身を屈め...
「行こ♪」
回転によってふわりと持ち上がるプリーツ。
それと同時にチラリと目に飛び込んでくるスカートの生地と...
眩しく映る絶対領域。
ニーソックスに包まれた、今にも頬ずりしたくなる脚。
襟元から覗く三角地帯。
それらへと一瞬にして視線を這わすと、サイズが合ってない...
ちた眼鏡の間から上目使いに見上げる視線から逃れるように目...
女の頭に手をやってクシャクシャと撫でると、そのまま肩を抱...
だった。背後から自分たちを見詰める視線に気付かぬままに――
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彼等の後姿を涙ぐみながら見詰める初老の男が1人。
「陛下、良くお似合いですぞ」
くっくっと嗚咽を漏らしながらボソボソと呟く。
近くを歩いていた子供が『あのおじちゃん、どうしたの?』...
親らしき人物が『見てはいけません』と言って連れ去っていく...
ら異様なものを見る目で遠巻きに見られている。
(特訓の成果がありましたな)
ズズズと鼻をすすり、男性は空を見上げる。
遠い目をして何やら思い出している様だ。
――特訓
それは数日前に遡る。
王宮の一室、そこで彼―マザリーニ―はアンリエッタに指導を...
「もっと柔らかく!」
彼の目前にはアンリエッタとアニエスが腕を組んでいる。
「陛下、ちょっと宜しいですかな」
マザリーニはアンリエッタを押し退けると、代わって自分が...
める。身長差はあるものの、それを全く感じさせない雰囲気を...
「こう、良く見ていてくだされ」
絡めた腕を解くと、半歩前に出てクルリと180度ターン。
「ここで…こうです。
ただ、気を付けてくだされ。回転速度が弱すぎてはスカート...
せぬ。逆に強すぎては持ち上がりすぎて興醒めですぞ。力加...
です」
「は、はい」
「ではアニエス君、一度やってみなさい」
「…は?」
いきなり振られて反応出来ず、間抜けな声を漏らす銃士隊隊...
この日の彼女は何時もの甲冑ではなく、萌葱のシャツにエン...
スカートといった出で立ちである。もちろんミニスカートだ。
(この姿でやるのか、あれを)
普段人前には出す事の無い肌を晒しているだけでも恥ずかし...
アンリエッタの為とは言えこれは彼女にとっては拷問に近いも...
「何をしておる、早くせぬか」
しかしながら、今“監督”のオーラを纏った彼には彼女の心の...
るはずもなく、声を荒げて促すのみ。
腑に落ちないながらも立ち位置を入れ替えると、アニエスは...
に自分の腕を絡める。彼女の決して小さいとは言えない胸が薄...
腕に押し付けられ、マザリーニは鼻の下を伸ばすがそれも一瞬...
リリと表情を引き締めると、先程自分が見せたようにやってみ...
促した。
「陛下、ご覧になりましたか。今の様ですとスカートが捲れ上...
彼のような人物の関心を惹く事は出来ませぬ!アニエス君、...
次は先程より強めに回転するアニエス。
今度は反動が強すぎて、下着までもが見えてしまった。
「この様に強すぎても、スカートの中が見えすぎて逆に白けて...
微妙な力加減が大切なのですぞ」
力説する彼に呆れた顔を向けるアニエス。それとは打って変...
頷き、その場で回る練習をし始めるアンリエッタ。
「では陛下、やってみてくだされ」
アニエスを男役に腕を絡めるアンリエッタ。
さすが王女と言うべきであろうか。やはり社交ダンスの経験...
か、感覚を掴むのはマザリーニの想像より格段と早かった。
「では次ですが…」
アンリエッタを下がらせアニエスの前に出ると、再度ターン...
30度屈めてアニエスを見上げる。
「この時、あまり上半身を屈め過ぎないように!当日陛下がお...
兵の服は胸元が開いております。あまりに上半身を落としすぎ...
見えすぎてしまいます」
今度は自分の前で直接やってみるようにアンリエッタに命じ...
「それでは上げすぎです。もっと上半身を落として」
角度が大事ですぞ、と何度も何度も繰り返す。
アンリエッタの服装もアニエスが来ているものと相違ないも...
練習中チラリチラリと彼女の胸元がマザリーニの目に飛び込ん...
その都度、彼は目尻を下げて口元をだらしなく緩ませる。
「…オホン!」
その度にアニエスは咳払いをして注意を促す。帯剣していな...
るのか、腰に手を伸ばし空を切ってしまう事もしばしばであっ...
「完璧ですぞ、陛下」
漸く満足のいく結果が得られた時には、マザリーニの顔には...
リエッタは息を荒げ、アニエスは今にも飛び掛らんとするのを...
る状態だった。
マザリーニが涙を拭い顔を正面に向けた時には2人の姿は既...
無い。追いかけようかと1歩踏み出し……思いとどまった様だ。...
って行く。
(成功を祈っております、陛下)
馬車へと戻っていく彼の顔には、まるで娘を嫁に出す父親の...
色と、今にもスキップを始めそうな程晴れやかな色を共存させ...
#br
「なかなか美味しかったな」
満足そうに呟くサイト。
ちょっと遅めの昼食を2人で終わらせたところだった。
アンリエッタは会計を終わらせたサイトの手を取って指を絡...
「ね、サイトくん。次はどこに行く?」
ニコリと微笑む彼女に見とれて、立ち止まってしまう。
「ん?どうしたの?」
「い、いや…」
店の中からは『羨ましいぜ、このやろー』や『幸せにな、シ...
言った野次が飛んで来、照れくさそうに顔を見合わせる。
「ありがとうございました〜」
店員の声を後ろに未だに聞こえてくる野次から逃げるように...
見知った顔がサイトの目に飛び込んできた。
(やべっ)
見つからない様にと背を屈めるが、どうやら無駄な抵抗に終...
様だ。人ごみを掻き分け近付いてくる。
「げ、見つかった!」
「どうしたの?」
「俺の後ろに隠れてて」
小声で告げてアンリエッタを背後に回したところで、相手が...
した。
「サイトじゃない、久しぶり」
「や、やあジェシカ」
果たしてそれは、魅惑の妖精亭店長の一人娘ジェシカであっ...
「奇遇ね、今日はどうしたの?」
「え、いやその、えっと…そ、そう買い物に来たんだよ、シエス...
背後に気付かれないようにと気を配りながら何とか答えよう...
も良い言い訳が思い付かずしどろもどろになってしまう。
「へー、シエちゃんにねぇ」
「そ、そうなんだよ」
「ふーん…ところで、後ろの娘は誰なの?」
何とか誤魔化せたかと思ったのも束の間、気付かれてしまっ...
「…え?」
「髪の毛が見えてるわよ」
本人達にとってはしっかりと隠れたつもりだったのだろうが...
ツインテールの尻尾が見え隠れしていたのだ。
やはりジェシカだ、目敏い。
「ちぇ、ジェシカには隠し事出来ねぇな」
「そりゃそうよ、何年客商売してきてると思ってるのよ」
そう言いながら、ジェシカはひょいと覗き込む。
「あら?また違う女の子連れてるのね、そんなマニアックな格...
この女泣かせ〜と肘でサイトをつつくジェシカ。
その言葉を聞いて、アンリエッタは彼女に見られないように...
僅かに歪めると、彼の背中を軽く抓る。
「痛っ!あのなぁ変な事言うなよ」
「変な事って何よ」
にやにやとからかう様にサイトを見上げるジェシカ。
「またって事は無いだろ!」
「前に連れてたのはルイズだったじゃない」
「前にって…それだけだろが」
そこで漸く背中を抓る手が離れ、サイトはホッと息を吐いた。
「シエちゃんに告げ口しちゃおうかなー」
「ちょ、待った!それだけは勘弁してくれ」
「クスッ、冗談よ冗談。その代り、またお店手伝ってよね」
ひらひらと手を振ってその場を離れていくジェシカ。
アンリエッタの事を深く追求されずに済み、サイトは胸を撫...
背後に手を回し、それまでしがみつく様に彼の背中に張り付...
リエッタの手を取って歩き出そうとすると、当のアンリエッタ...
して不安そうにサイトを見上げた。
女王の貌に戻っている。
「…いまの方は?」
「ああ、魅惑の妖精亭の店長の娘さん。シエスタの従姉妹らし...
「……」
何ら悪びれる事無く答えるサイトに対し、自分から聞いたに...
示さないアンリエッタ。
訳が分らず、サイトは彼女の顔を腰を折って覗き込む。
表情は街娘のそれに戻っていた。
「どうしたの?」
「……」
「正体がばれたと思った?」
違います、そう答えてアンリエッタはプイとそっぽを向く。
正体がばれたのでは無いか、と初めは心配が先立った。だが...
だろうと思い至る。変装している上に顔は見られなかったのだ...
上したのは、ジェシカと呼ばれた彼女とやけに親しげに話す、...
ち――
(これってもしかして…)
「あ、ひょっとして…ヤキモチ?」
「し、知らない!」
繋いだ手を振り解くと、さっさと歩き出してしまうアンリエ...
その顔はほんのりと赤くなっている。
「ちょっと待てよ、アン」
サイトは早足で追い越すと、彼女を振り返って頭を下げる。
(何かギーシュとモンモンみたいだな)
そんな詰まらない事を考えながらアンリエッタの機嫌を取る...
彼女もそれほど臍を曲げてはいなかったのか、2〜3言葉を...
ら指を絡めて共に歩き出した。
#br
「あら?あれサイトじゃない?」
チクトンネ街中央広場の上空で、褐色の肌に赤い髪といった...
して呟く。キュルケだ。
「……」
隣に座って本を読む青い髪の少女がピクリと眉を動かした。
「珍しいわね、貴方が反応を示すなんて」
キュルケはそう言って彼女の頭に手を置くと、そのまま揺さ...
だ手元に落としたままの少女の頭が左右にぐりぐりと動かされ...
「でも、だれかしらあの娘。もしかしてデートだったりして」
丁度サイトはアンリエッタと手を繋いで1つの露天を覗いて...
た。上空からなので話し声までは聞こえないが、やけに楽しそ...
いるのが見て取れる。
キュルケの言葉に手にしていた本を閉じると、青髪の少女は...
せた風竜に命じた。
「下降」
少女のポツリと漏らした一言を聞き逃さず、風竜は高度を下...
近付きすぎると気付かれてしまうので、地上からこちらの姿が...
ないくらいの高度を保ってだが。
「あの服、メイド…じゃないわね、あの娘の髪は黒色だし…誰か...
「……」
「しっかし、サイトもやるわね〜。どこで引っ掛けたのかしら...
ま、あたしの美貌には叶わないけどね。と呟きながら隣を見...
段と何ら変わる事の無い無表情なままの少女が居たが、長い付...
キュルケには解っていた。彼女の纏うオーラが若干ではあるが...
いる事を。
「タバサ、どうするの?」
しかしタバサはキュルケの問いかけには返事を返さず、風竜...
と告げただけ。2人を乗せたままチクトンネ街の入口付近へと...
「ちょっとタバサ、どこ行くのよ」
ずんずんと先に歩いていくタバサの後を追いかけながら、キ...
議そうに尋ねる。
「サイトたちを追いかけるの?」
「……」
小さく頭を振って否定を示すタバサ。
そしてある一軒の店を指差した。
「え、洋服屋?」
「あれに…勝つ!」
彼女らしかぬ強い台詞と、普段からは想像も付かない決意を...
お金は大丈夫なの?と要らぬ心配をしてしまう。
彼女たちがここに居た理由、それはタバサが新しい書物が欲...
キュルケを荷物持ちに付き合わせたのだった。
彼女のような貴族の興味を惹くものなら城下町ブルドンネ街...
良いと思われがちなのだが、決してそうではない。掘り出し物...
らかと言えばチクトンネの方が確率は高い。ましてや彼女の目...
る。マジックアイテムの類がブルドンネに比べて少ない分、数...
れているのだ。
キュルケも普段世話になってるからと快く承諾し、サイトた...
は目的の物を購入した帰りであった。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ」
既に店内で戦闘服を物色している親友の背を追いかけ、キュ...
赤い髪をなびかせながら消えていった。
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