ゼロの使い魔保管庫
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マリコルヌの冒険(その2) 痴女109号氏
#br
「なあギーシュ、訊きたい事があるんだけどさ」
「ん?」
「モンモランシーとはもう、ヤったのか?」
「ッッ!?」
その瞬間、ギーシュ・ド・グラモンは、口にしていた水を反...
「ごほっ、ごほっ、――何を言い出すんだ君は、いきなりっ!?」
その慌て方を見て、マリコルヌは、
(どうやら、まだみたいだな)
と、思った。
無論、胸中に呟いたのは、その一言だけではない。
――この二股ヤロウが……!
という、吐き捨てるような悪罵も、当然含まれている。
いま彼らは、アンリエッタ暗殺計画を未然に防ぐ、という名...
――といっても、正式な訓練を受けてもいない貴族学生に過ぎな...
悔しいが、――しかし、それも仕方が無い。
手柄を立てるチャンスを貰えただけでも、良しとすべきであ...
なんせ、王宮の警備状況といえば、アリ一匹入り込む隙さえ...
宰相マザリーニは、この女王陛下暗殺計画の噂に、ことのほ...
さらに噂では、宰相は予備兵力として、予備役の召集はおろ...
暗殺計画とやらを、どこの賊が画策したかは知らないが、こ...
「だいたいマリコルヌ、何できみがモンモランシーの事なんか...
そう口を尖らせるギーシュに、マリコルヌは答えない。
「腹減ったな〜〜」
はぐらかしながらマリコルヌは壁にもたれると、そのままず...
「……真面目にやれよ」
ギーシュが苦々しげに言うが、マリコルヌは頭を掻くばかり...
「いいじゃないか。誰も見てないんだから」
それにここは――掘っ立て小屋とはいえ――門衛責任者のための...
彼らは今、王都北西部にある、城門の一つの警護を任されて...
城門と言えば聞こえはいいが、城塞都市トリスタニアの外郭...
城壁の外には無限の荒野が広がるばかりで、侵入者どころか...
王都トリスタニアの本丸御殿――いわゆる王宮と呼ばれる場所...
もっとも彼らは、一応は十人以上の兵卒を率いる立場なので...
だが、任務を負って、今日でほぼ二週間。
下手をすれば、魔法学院にいるよりも平和な日常は、彼らに...
「なあマリコルヌ、きみはなんだ、その、……モンモランシーか...
声を上ずらせて、それでも必死に狼狽を抑えているギーシュ...
(よく、これだけ嘘もつけないくせに浮気なんかしやがったよ...
そんなギーシュを見て、マリコルヌは少し憐憫に近い感情さ...
モンモランシーは、トリステインの貴族女性の例に洩れず、...
ましてや(ルイズほどではないが)かなり問答無用のカンシ...
ギーシュの浮気の相手は、ケティ・ド・ラ・ロッタ。
もっとも彼女とは学年が違うという事もあり、マリコルヌは...
かつてギーシュとの仲を噂されたこの少女が、決闘騒動で彼...
その女子援護団なる集団も、いつぞやの女風呂突入事件以来...
――マリコルヌは、ケティがどういう人間かは知らない。だが、...
彼のような男女交際に無縁な男の立場から言わせれば、プレ...
外見や称号やらで男を選ぶ女が、自分のような男に関心を持...
無論、世間の大多数は、そういう女で占められている事も知...
その証拠というわけではないが、かつてマリコルヌは、コル...
女性に縁が無いからこそ、女性に理想を追求してしまう。そ...
話を戻そう。
そんなケティが、どういう経緯でギーシュとヨリを戻したの...
そして、使い魔の視界に彼らが入った瞬間に、マリコルヌは...
「…………」
さすがのマリコルヌも、しばしその眺めに絶句したが、喜悦...
だが、まあ翌日になるや、ギーシュのあまりの挙動不審さに...
「別に何も聞いちゃいないけど、なんでそんなに動揺してるん...
白々しくも、訊いてやる。
ギーシュは顔を青くしたり赤くしたりしていたが、
「……いや、聞いてないなら別にいいんだ」
と言って、壁にもたれて座り込んだ。
そんな彼を、マリコルヌは、
(このバカたれが)
と思いながら、見ていた。
魔法学院入学以来の付き合いだから、決して親友と呼べるほ...
だからこそ思う。隠し切れない浮気なら、とっととやめちま...
クヴァーシルの「巡回」によって、ギーシュとケティの二人...
そして、関係が深まれば深まるほどに、ギーシュの挙動不審...
モンモランシーに何かを聞いたのか、とギーシュは尋ねたが...
王都に出張して、今日でほぼ二週間。
ケティとのほとぼりを冷まして、関係を打ち切るには充分な...
これ以上、この不器用な友人が苦しむのを見るのは、マリコ...
だが、客観的に見れば、ギーシュの壮絶なる自業自得だし、...
――こんな事で悩めるきみが羨ましいよ。
とは、さすがにマリコルヌも言わない。
羨ましいといえば、無論“女性問題”で悩めること自体、マリ...
本当はマリコルヌにも分かっている。
自分が、いま口にも出せず頭を抱えている懸案に比べれば、...
ネフテスのビダーシャル。
深夜の学長室に出現した、あのエルフ。
あのエルフがオールド・オスマンと何を話していたかは分か...
ならばエルフが次にどういう行動を取るかは容易に想像がつ...
(かりにも一校の教育者の長が、自分の生徒を殺すことに同意...
――とは、当然マリコルヌは思わない。
むしろ、オスマンの方が積極的に、目撃者の口を封じようと...
貴族の子弟を預かる国内随一の名門・トリステイン魔法学院...
そう考えれば不思議なもので、普段の飄々としたオスマンの...
しかし、思い返せばフーケを秘書に雇ったのも、異端審問ま...
だから、マリコルヌは、あの晩見た光景を誰にも話していな...
そもそもエルフの目撃譚を話すためには、自分が使い魔を使...
いや、重要なのはそこ――これはこれで、放校処分モノの犯罪...
誰かに話せば、噂が回り回ってオスマンの耳に入る可能性も...
わざと事件を起こして自宅謹慎処分を命じさせるとか、何も...
そういう意味では、この女王陛下暗殺計画の一騒ぎは、マリ...
使い魔クヴァーシルの無事は確認してある。
エルフの一睨みで気死してしまったかと思ったが、主のマリ...
さすがに王都にまで来て、覗きはしていないが。
「あれ?」
ギーシュが、むくりと体を起こす。
「どうした?」
「聞こえないか? サイトの声がする」
「サイト?」
立ち上がったマリコルヌは、からりと窓を開け、頭を外に出...
いた。
才人が門衛警備の兵卒たち相手に何かを話している。
(相変わらずマントが似合わないヤツだな)
何故こんなところに才人がいるのか、ではなく、マリコルヌ...
後頭部にフードが着いた、青と白のツートンカラーの厚手の...
マントを羽織っているが杖を持たず、剣を背負っている。――...
そんな彼が、兵たちに向かって自分たちの責任者を連れて来...
(相変わらず世間慣れしないヤツだな)
マリコルヌは、苦笑いする。
水精霊士騎士隊の平隊員の一人でも同伴していれば、それで...
「サイトが兵たちに絡まれてる。早く行ってやろう」
そう言って、二人は小屋を出た。
「ああ、隊長殿」
ギーシュとマリコルヌをじろりと見たのは、兵たちを実質的...
「あの頭のおかしいガキが、イキナリやって来て、あんたたち...
「なっ、なんだとぉ!?」
それを聞いて才人が反射的に怒鳴り返す。
頭がおかしいとまで言われて、さすがにカッとしたのだろう...
苦笑を抑えながらギーシュが、
「ああ諸君、彼は僕の客だ。無礼は許さんぞ」
「じゃあ、いいんですかい? 通しちまって?」
「ああ。――で、悪いがデニム、紅茶を三人前いれて、隊長室ま...
「へえ。では、さっそく」
そう言うとデニムは去り、兵卒たちも思い思いに散っていっ...
「あああっ!! 胸くそ悪いなまったく!!」
吐き捨てるように言うと、才人はデルフリンガーを外し、兵...
「だから言ったろう相棒。知らない人の前じゃ、せめてマント...
「俺の服はこれ一着だ!! 着替える必要なんかあるか!!」
「強情だねえ相棒も。貴族の娘っ子に言やあ、服なんか今すぐ...
そんな漫才を続ける剣と少年のコンビを見ながら、ギーシュ...
「ご機嫌斜めだなサイト。デルフ、彼に何かあったのかい?」
ギーシュが、「隊長室」という名の掘っ立て小屋の扉を開き...
「ああ、それがな――」
「言わなくていい!!」
「相棒のヤツ、王宮で大立ち回りをやらかしやがってな」
「へえ!? そりゃ面白い!!」
思わず目を輝かせたマリコルヌを、才人はじろりと睨み、
「お前を面白がらせるために暴れたわけじゃねえよ」
と、噛みつくように言った。
才人の担当は、王城本丸最奥部にあるはずの女王の奥座敷。
つまり、アンリエッタが私生活を送るはずの場所。
いまのトリステイン王家には、嫡出妾腹を問わず男子はいな...
現に銃士隊結成までは、城中の警護責任者たる王宮魔法衛士...
無論、王室のプライベートエリアだからという理由で警護が...
そして、才人が配置されたのは、まさにそんな、江戸城大奥...
――何を目的に、彼がそんな場所に配されたのか、まさに問うま...
さすがに外聞を憚って、彼の配置場所は「銃士隊長アニエス...
彼がトラブルを起こしたのは、そんなある日。
目立たぬように、アニエスとともに城の奥へ向かっていた時。
「別に大した事じゃねえよ。こないだ城に上ったときに、初め...
ぽつりぽつり、呟くように言う才人の言葉に、むしろ唖然と...
「かっとなって張り倒したって……相手は?」
「バーガンディ男爵とか言ってたっけ。……いや、侯爵だったか...
ギーシュとマリコルヌは、その言葉に凍りついた。
「バーガンディって、あのバーガンディ伯爵かい!? そんな...
「え? その人えらいの?」
キョトンと訊き返す才人を見て、マリコルヌは、むしろ爆笑...
「なっ、なんだよっ!? 喧嘩売られたのは、むしろこっちな...
いや、笑っているのは、マリコルヌだけではない。ギーシュ...
「東部の名門バーガンディ伯爵家も、虚無の使い魔ガンダール...
「売られた喧嘩を買うことと、ガンダールヴは関係ねえっ!!」
才人は叫んだ。
「――で、結局きみの用件は何だったんだい?」
デニムが淹れてくれた紅茶を飲みながら、ギーシュは尋ねる。
この門に詰めている兵たちが飲む紅茶らしいが、茶葉は古く...
兵卒たちならばともかく、一応は責任者である自分たちが、...
「あ、そうか」
それを問われて、初めて才人は目的を思い出したようだ。
「これ、預かってきたんだ」
そう言いながらポケットから取り出したのは、一枚の手紙。
「こないだ面会に来たルイズから受け取ったんだがな。――確か...
それを、才人から手渡されたギーシュは、ぽかんとしていた...
そこには、モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド...
「モンモンのヤツ、なんだかんだと寂しがってるそうだぜ」
「そうか……ぼくがいなくて寂しがってるのか、モンモランシー...
少しだけ嬉しそうに頬を染めるギーシュを、このこの、と言...
さんざん浮気しまくってるくせに、本命の女の子には指一本...
――マリコルヌは、そんなギーシュを見ながら、いささか複雑な...
(あいつくらいは心配してくれるかな?)
去年の帰省以来、顔を合わせていない妹を思い出すが、――妹...
「ああ、そうだ。おまえにはこれだ」
「え?」
多少驚きながらマリコルヌは、才人が取り出した新たな封筒...
宛先はマリコルヌ・ド・グランドプレ。
差出人の名は無い。
マリコルヌの目が、反射的に見開かれた。
「サイト、これって、まさかラブレター、か?」
うわずる肥満児に才人は笑う。
「知らねえよ。勝手に中見てよかったってんなら、事前に確認...
「ル、ルイズは、誰から預かったって?」
「俺に面会に来る前日に、ドアに挟んであったそうだ。だから...
「おいおい、やっと春が来たじゃないかマリコルヌ!!」
ギーシュも黄色い声を上げる。
そんな友人たちに言葉を返す余裕も無く、マリコルヌはあわ...
「マリコルヌ・ド・グランドプレ
この手紙を読んで、二日後の正午に、使い魔を伴い学院長室...
トリステイン魔法学院学院長オールド・オスマン」
手紙には、そう記されてあった。
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マリコルヌの冒険(その2) 痴女109号氏
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「なあギーシュ、訊きたい事があるんだけどさ」
「ん?」
「モンモランシーとはもう、ヤったのか?」
「ッッ!?」
その瞬間、ギーシュ・ド・グラモンは、口にしていた水を反...
「ごほっ、ごほっ、――何を言い出すんだ君は、いきなりっ!?」
その慌て方を見て、マリコルヌは、
(どうやら、まだみたいだな)
と、思った。
無論、胸中に呟いたのは、その一言だけではない。
――この二股ヤロウが……!
という、吐き捨てるような悪罵も、当然含まれている。
いま彼らは、アンリエッタ暗殺計画を未然に防ぐ、という名...
――といっても、正式な訓練を受けてもいない貴族学生に過ぎな...
悔しいが、――しかし、それも仕方が無い。
手柄を立てるチャンスを貰えただけでも、良しとすべきであ...
なんせ、王宮の警備状況といえば、アリ一匹入り込む隙さえ...
宰相マザリーニは、この女王陛下暗殺計画の噂に、ことのほ...
さらに噂では、宰相は予備兵力として、予備役の召集はおろ...
暗殺計画とやらを、どこの賊が画策したかは知らないが、こ...
「だいたいマリコルヌ、何できみがモンモランシーの事なんか...
そう口を尖らせるギーシュに、マリコルヌは答えない。
「腹減ったな〜〜」
はぐらかしながらマリコルヌは壁にもたれると、そのままず...
「……真面目にやれよ」
ギーシュが苦々しげに言うが、マリコルヌは頭を掻くばかり...
「いいじゃないか。誰も見てないんだから」
それにここは――掘っ立て小屋とはいえ――門衛責任者のための...
彼らは今、王都北西部にある、城門の一つの警護を任されて...
城門と言えば聞こえはいいが、城塞都市トリスタニアの外郭...
城壁の外には無限の荒野が広がるばかりで、侵入者どころか...
王都トリスタニアの本丸御殿――いわゆる王宮と呼ばれる場所...
もっとも彼らは、一応は十人以上の兵卒を率いる立場なので...
だが、任務を負って、今日でほぼ二週間。
下手をすれば、魔法学院にいるよりも平和な日常は、彼らに...
「なあマリコルヌ、きみはなんだ、その、……モンモランシーか...
声を上ずらせて、それでも必死に狼狽を抑えているギーシュ...
(よく、これだけ嘘もつけないくせに浮気なんかしやがったよ...
そんなギーシュを見て、マリコルヌは少し憐憫に近い感情さ...
モンモランシーは、トリステインの貴族女性の例に洩れず、...
ましてや(ルイズほどではないが)かなり問答無用のカンシ...
ギーシュの浮気の相手は、ケティ・ド・ラ・ロッタ。
もっとも彼女とは学年が違うという事もあり、マリコルヌは...
かつてギーシュとの仲を噂されたこの少女が、決闘騒動で彼...
その女子援護団なる集団も、いつぞやの女風呂突入事件以来...
――マリコルヌは、ケティがどういう人間かは知らない。だが、...
彼のような男女交際に無縁な男の立場から言わせれば、プレ...
外見や称号やらで男を選ぶ女が、自分のような男に関心を持...
無論、世間の大多数は、そういう女で占められている事も知...
その証拠というわけではないが、かつてマリコルヌは、コル...
女性に縁が無いからこそ、女性に理想を追求してしまう。そ...
話を戻そう。
そんなケティが、どういう経緯でギーシュとヨリを戻したの...
そして、使い魔の視界に彼らが入った瞬間に、マリコルヌは...
「…………」
さすがのマリコルヌも、しばしその眺めに絶句したが、喜悦...
だが、まあ翌日になるや、ギーシュのあまりの挙動不審さに...
「別に何も聞いちゃいないけど、なんでそんなに動揺してるん...
白々しくも、訊いてやる。
ギーシュは顔を青くしたり赤くしたりしていたが、
「……いや、聞いてないなら別にいいんだ」
と言って、壁にもたれて座り込んだ。
そんな彼を、マリコルヌは、
(このバカたれが)
と思いながら、見ていた。
魔法学院入学以来の付き合いだから、決して親友と呼べるほ...
だからこそ思う。隠し切れない浮気なら、とっととやめちま...
クヴァーシルの「巡回」によって、ギーシュとケティの二人...
そして、関係が深まれば深まるほどに、ギーシュの挙動不審...
モンモランシーに何かを聞いたのか、とギーシュは尋ねたが...
王都に出張して、今日でほぼ二週間。
ケティとのほとぼりを冷まして、関係を打ち切るには充分な...
これ以上、この不器用な友人が苦しむのを見るのは、マリコ...
だが、客観的に見れば、ギーシュの壮絶なる自業自得だし、...
――こんな事で悩めるきみが羨ましいよ。
とは、さすがにマリコルヌも言わない。
羨ましいといえば、無論“女性問題”で悩めること自体、マリ...
本当はマリコルヌにも分かっている。
自分が、いま口にも出せず頭を抱えている懸案に比べれば、...
ネフテスのビダーシャル。
深夜の学長室に出現した、あのエルフ。
あのエルフがオールド・オスマンと何を話していたかは分か...
ならばエルフが次にどういう行動を取るかは容易に想像がつ...
(かりにも一校の教育者の長が、自分の生徒を殺すことに同意...
――とは、当然マリコルヌは思わない。
むしろ、オスマンの方が積極的に、目撃者の口を封じようと...
貴族の子弟を預かる国内随一の名門・トリステイン魔法学院...
そう考えれば不思議なもので、普段の飄々としたオスマンの...
しかし、思い返せばフーケを秘書に雇ったのも、異端審問ま...
だから、マリコルヌは、あの晩見た光景を誰にも話していな...
そもそもエルフの目撃譚を話すためには、自分が使い魔を使...
いや、重要なのはそこ――これはこれで、放校処分モノの犯罪...
誰かに話せば、噂が回り回ってオスマンの耳に入る可能性も...
わざと事件を起こして自宅謹慎処分を命じさせるとか、何も...
そういう意味では、この女王陛下暗殺計画の一騒ぎは、マリ...
使い魔クヴァーシルの無事は確認してある。
エルフの一睨みで気死してしまったかと思ったが、主のマリ...
さすがに王都にまで来て、覗きはしていないが。
「あれ?」
ギーシュが、むくりと体を起こす。
「どうした?」
「聞こえないか? サイトの声がする」
「サイト?」
立ち上がったマリコルヌは、からりと窓を開け、頭を外に出...
いた。
才人が門衛警備の兵卒たち相手に何かを話している。
(相変わらずマントが似合わないヤツだな)
何故こんなところに才人がいるのか、ではなく、マリコルヌ...
後頭部にフードが着いた、青と白のツートンカラーの厚手の...
マントを羽織っているが杖を持たず、剣を背負っている。――...
そんな彼が、兵たちに向かって自分たちの責任者を連れて来...
(相変わらず世間慣れしないヤツだな)
マリコルヌは、苦笑いする。
水精霊士騎士隊の平隊員の一人でも同伴していれば、それで...
「サイトが兵たちに絡まれてる。早く行ってやろう」
そう言って、二人は小屋を出た。
「ああ、隊長殿」
ギーシュとマリコルヌをじろりと見たのは、兵たちを実質的...
「あの頭のおかしいガキが、イキナリやって来て、あんたたち...
「なっ、なんだとぉ!?」
それを聞いて才人が反射的に怒鳴り返す。
頭がおかしいとまで言われて、さすがにカッとしたのだろう...
苦笑を抑えながらギーシュが、
「ああ諸君、彼は僕の客だ。無礼は許さんぞ」
「じゃあ、いいんですかい? 通しちまって?」
「ああ。――で、悪いがデニム、紅茶を三人前いれて、隊長室ま...
「へえ。では、さっそく」
そう言うとデニムは去り、兵卒たちも思い思いに散っていっ...
「あああっ!! 胸くそ悪いなまったく!!」
吐き捨てるように言うと、才人はデルフリンガーを外し、兵...
「だから言ったろう相棒。知らない人の前じゃ、せめてマント...
「俺の服はこれ一着だ!! 着替える必要なんかあるか!!」
「強情だねえ相棒も。貴族の娘っ子に言やあ、服なんか今すぐ...
そんな漫才を続ける剣と少年のコンビを見ながら、ギーシュ...
「ご機嫌斜めだなサイト。デルフ、彼に何かあったのかい?」
ギーシュが、「隊長室」という名の掘っ立て小屋の扉を開き...
「ああ、それがな――」
「言わなくていい!!」
「相棒のヤツ、王宮で大立ち回りをやらかしやがってな」
「へえ!? そりゃ面白い!!」
思わず目を輝かせたマリコルヌを、才人はじろりと睨み、
「お前を面白がらせるために暴れたわけじゃねえよ」
と、噛みつくように言った。
才人の担当は、王城本丸最奥部にあるはずの女王の奥座敷。
つまり、アンリエッタが私生活を送るはずの場所。
いまのトリステイン王家には、嫡出妾腹を問わず男子はいな...
現に銃士隊結成までは、城中の警護責任者たる王宮魔法衛士...
無論、王室のプライベートエリアだからという理由で警護が...
そして、才人が配置されたのは、まさにそんな、江戸城大奥...
――何を目的に、彼がそんな場所に配されたのか、まさに問うま...
さすがに外聞を憚って、彼の配置場所は「銃士隊長アニエス...
彼がトラブルを起こしたのは、そんなある日。
目立たぬように、アニエスとともに城の奥へ向かっていた時。
「別に大した事じゃねえよ。こないだ城に上ったときに、初め...
ぽつりぽつり、呟くように言う才人の言葉に、むしろ唖然と...
「かっとなって張り倒したって……相手は?」
「バーガンディ男爵とか言ってたっけ。……いや、侯爵だったか...
ギーシュとマリコルヌは、その言葉に凍りついた。
「バーガンディって、あのバーガンディ伯爵かい!? そんな...
「え? その人えらいの?」
キョトンと訊き返す才人を見て、マリコルヌは、むしろ爆笑...
「なっ、なんだよっ!? 喧嘩売られたのは、むしろこっちな...
いや、笑っているのは、マリコルヌだけではない。ギーシュ...
「東部の名門バーガンディ伯爵家も、虚無の使い魔ガンダール...
「売られた喧嘩を買うことと、ガンダールヴは関係ねえっ!!」
才人は叫んだ。
「――で、結局きみの用件は何だったんだい?」
デニムが淹れてくれた紅茶を飲みながら、ギーシュは尋ねる。
この門に詰めている兵たちが飲む紅茶らしいが、茶葉は古く...
兵卒たちならばともかく、一応は責任者である自分たちが、...
「あ、そうか」
それを問われて、初めて才人は目的を思い出したようだ。
「これ、預かってきたんだ」
そう言いながらポケットから取り出したのは、一枚の手紙。
「こないだ面会に来たルイズから受け取ったんだがな。――確か...
それを、才人から手渡されたギーシュは、ぽかんとしていた...
そこには、モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド...
「モンモンのヤツ、なんだかんだと寂しがってるそうだぜ」
「そうか……ぼくがいなくて寂しがってるのか、モンモランシー...
少しだけ嬉しそうに頬を染めるギーシュを、このこの、と言...
さんざん浮気しまくってるくせに、本命の女の子には指一本...
――マリコルヌは、そんなギーシュを見ながら、いささか複雑な...
(あいつくらいは心配してくれるかな?)
去年の帰省以来、顔を合わせていない妹を思い出すが、――妹...
「ああ、そうだ。おまえにはこれだ」
「え?」
多少驚きながらマリコルヌは、才人が取り出した新たな封筒...
宛先はマリコルヌ・ド・グランドプレ。
差出人の名は無い。
マリコルヌの目が、反射的に見開かれた。
「サイト、これって、まさかラブレター、か?」
うわずる肥満児に才人は笑う。
「知らねえよ。勝手に中見てよかったってんなら、事前に確認...
「ル、ルイズは、誰から預かったって?」
「俺に面会に来る前日に、ドアに挟んであったそうだ。だから...
「おいおい、やっと春が来たじゃないかマリコルヌ!!」
ギーシュも黄色い声を上げる。
そんな友人たちに言葉を返す余裕も無く、マリコルヌはあわ...
「マリコルヌ・ド・グランドプレ
この手紙を読んで、二日後の正午に、使い魔を伴い学院長室...
トリステイン魔法学院学院長オールド・オスマン」
手紙には、そう記されてあった。
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