ゼロの使い魔保管庫
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『ギーシュ・ド・グラモンの最後』 前編
#br
パチリと小さな音共に杖が少女の身体に押し付けられる。
気を失う寸前に向けられた、驚いたような瞳に彼は……
――明かりの消えた部屋の中で、握った拳をテーブルに叩き付...
骨まで響く痛みと、耳に突き刺さる騒音が一瞬だけカルロの...
が、
『逃げた聖堂騎士隊だぜ……あいつら……』
『いっつも、威張ってるくせによぉ』
『しかも、学生は逃げなかったらしいぜぇ』
耳の奥に、いつまでも残る幻聴が彼の心を揺さぶった。
「うわぁぁああああっっ!」
狂ったような詠唱に導かれて、杖が光を帯びる。
「ちくしょぉ、ちくしょぉっ、ちっっしょぉぉぉっ」
鍛え上げられた魔力は、数秒でテーブルを細切れにした。
いびつな形に切り刻まれ、無残に床に転がるテーブルに目も...
ここ毎日の狂乱で、部屋の中にはまともな家具など一つも無...
「黙れっ、黙れぇっ、黙れよおぉぉっ!」
メイジたる聖堂騎士のための宿舎の『固定化』を掛けられた...
――彼は……いや、聖堂騎士隊は逃げた。
聖別された、守るべき聖女を一人残して。
最後まで踏みとどまり、一人戦おうとした少女を守ったのは...
そのメンバーのほぼ全員が学生からなる、『水精霊騎士隊』
もし、彼らが逃げていれば、まだ言い訳も出来た。
『聖女だから踏み止まれたのだ』と。
もし、負けていたのなら、まだ言い訳も出来た。
『あの場は引くのが正しい選択だった』と。
――現実は、言い訳一つ出来ぬままに彼らを押しつぶした。
――敵前逃亡で告発される事を覚悟していた。
その覚悟も有った。
「ん? あぁ、いいさ、別に」
水精霊騎士隊の隊長の言葉を、最初は理解できなかった。
「言っただろう? 『僕も含めて』からっきしだったのさ。人...
戦いの前に彼は言っていた。『地獄を見た』と。
ハッタリだと判断した自分を魔法で撃ち殺したかった。
顔が赤く染まり、自分より年下のはずの少年に、自然と頭が...
謝罪の言葉を口にする前に、慌てたギーシュが叫んでいた。
「誰だって、最初はそんなものさ、”最初から期待していなかっ...
――呼吸が止まった。
ギシリと、魂に何かが食い込む音がした。
サイショカラキタイシテイナカッタ
努力して、努力して、努力して、聖堂騎士隊隊長まで上り詰...
負けたこと等無かった男の心に、凍った楔が打ち込まれた。
その後の事は、余り良く覚えていない。
気付けば自室でただ泣いていた。
そして……
――水精霊騎士隊が黙っていても、自然と噂は広まった。
ぽっかりと穴の開いてしまったカルロの心は、心無い陰口に...
騎士隊の宿舎の壁は、今日も黙って呪文を受けていた。
――長かった船旅ももうすぐ終わる。
モンモランシーは旅費を切り詰めた事を後悔しながら、強張...
(ギーシュの馬鹿っ! どうしてわたしがこんな苦労しないと...
ルイズを連れて行くだけなら安全だろうと。
そう、高を括って送り出したのは間違いだった。
(戦争って……どういう事よ……)
握られた手のひらが、じっとりと熱くなる。
とくとくと心臓の音が高鳴り、じっとしているのが辛くなる。
怪我を……してないないだろうか?
(あの馬鹿……変な所で格好付けたがるんだから……)
『ぼくがいる』とか言って、あっさり無茶をしそうだった。
(わたしの……事なんて)
『コイビト』という言葉が、口の奥で小さく消える。
そう口に出せるほどの想いを、彼と交わした自信がなくて。
心配で夜もゆっくり休めないし、食事だっていつもの半分も...
――前にギーシュが戦争に行った時と同じ。
それだけ心配しているのに。
(あ、あ、あ、あの馬鹿だけはぁぁぁぁっ)
平気でまた戦争に行くのだ。
それに、折角帰ってきたから、少しでも一緒に居たいのに。
最近のギーシュは騎士隊の練習優先だ、僕は隊長だからねと...
あまつさえ……
(覗きとかしてるんじゃないわよ……馬鹿ぁ……)
ギーシュは以前よりはるかにもてる。
本人は気付いていないようだが、女王直属の騎士で最年少の...
多少の問題点には目を瞑ろう。そんな相手はいくらでも居る。
モンモランシーが随分焦っていた状態での覗き騒ぎ。
彼女には自信がない。
1年生だというのに、ギーシュを始め男性生徒がこぞって覗...
ルイズの様に綺麗な顔立ちも、自分には無いと。
自分より美人など、学院にはいくらでも居る、彼女はそう思...
努力は以前からしていた。
身に付いたスキルでお金を儲けることも、うっとりとする程...
全てはその延長。
大貴族の女の子には劣るかもしれないけれど、稼いだお金で...
他の娘には無いアクセントで自分を演出する。
築かれた自信と、十分な結果は彼女を内面からも輝かせる。
誰かを癒すその優しさと、幾人かが知る芯の強さは、ルイズ...
だから、モンモランシーにもギーシュ以外の選択肢は在る。
……それでも、彼女はギーシュを待っているのに。
(他の娘見るなんて……)
平均よりやや下回る胸の前で手を組みながら、ふつふつと湧...
――悪い事ばかりを考えてしまうより、その方がはるかに楽だ...
次に会った時に、どんな言葉を交わすのか想像するのだ。
そうすると、少しだけ気が楽になった。
張り詰めていた気配が緩むのを待ち構えていたかの様に、す...
「もうすぐかねぇ、お嬢ちゃん」
船代を安く上げるための、同性との合い部屋。
戦争に向かった孫が心配らしく、随分体調を崩したらしい老...
”なぜか”大量に持っていた水の魔法の触媒を惜しむ事無く振...
貯金を殆どはたいて購入した触媒は、学生の持ち物とは思え...
「お嬢ちゃんは、恋人に会いに行くんだったのかねぇ?」
「……ちがっ……」
「お嬢ちゃん、みたいな子が孫の嫁に来てくれたら、思い残す...
他愛ない話は、ロマリアの港に付くまで尽きることは無く。
モンモランシーの旅は、それなりに楽しく過ぎ……
港で水精霊騎士隊の評判を聞いた時には、安堵の余りその場...
晴れやかな気持ちで、ギーシュが居るはずの聖堂の方を見つ...
恋人の自慢をしながら案内を受けていた彼女が、人気の無い...
喜悦に満ちた騎士の顔。
「あれ? ギーシュ、モンモランシーは一緒じゃないのか?」
「は?」
唐突な言葉に、ギーシュはまじまじとギムリを見つめた。
「どうしてモンモランシーがこんな所にいるんだね?」
「いや、なんか、うちのばーちゃんが、陣中見舞いに来たんだ...
「ほうほう」
「船で一緒になった娘が、美人で、トリステインの制服着てて...
一瞬の硬直の後に、ギーシュは無言で港に向かった。。
素晴らしい速度で入国管理の神官に会い、口先三寸でトリス...
「何処でモンモランシーと会ったって?」
「はやっ、いや、港で別れたらしいけど……まだ会えてないのか...
唐突に、ギーシュの脳裏によみがえる幾つかの話。
『最近はロマリアも物騒だねぇ』
『光の国も物騒なことだな、ここに来る途中物盗りに会ったよ』
『しかも最近は難民が押し寄せて来てるとか……』
治安の悪化している国で、美人の恋人が行方不明。
「モンモランシィーーーーーーー」
ギーシュの絶叫が聖堂の中に響き渡り、人目を一瞬引いた後...
泣き出しそうな瞳は必死に愛しい人の姿を求め、真っ直ぐに...
が、側を通りかかったサイトがあっさりとギーシュを捕まえ...
「いきなりどうしたんだ?」
「サ、サイトか……モンモランシーが……モンモランシーが行方不...
その説明の合間にも、ギーシュは前に進もうとしていた。
虫の知らせとでも言うのだろうか? 嫌な予感がギーシュを...
「早く見つけないと……」
落ちつか無げなギーシュを取り押さえながら、サイトは回り...
「ギーシュ、落ち着けよ。人数が居た方が探しやすいだろ」
「……あ……」
「それに……あ、そこの人たち、ちょっといいか?」
サイトは半ば強引に、通りすがりの騎士に声を掛けた。
「我々も暇ではないのですがね」
ギーシュの耳に届くよう、カルロは呟いた。
「すまない、でも……土地に詳しい人間の案内が居るんだ」
サイトの判断で、土地に詳しい聖堂騎士とモンモランシーの...
隊長のカルロは、部屋で待機中の所を呼び出されたらしく機...
「その……できれば、手をかして欲しいんだ……」
「……お願いしますは?」
「あ、お、お願いします、カルロ騎士隊長」
深々と頭を下げたギーシュの頭上で、カルロの顔は嫌らしく...
「まぁ、恋人が危ないんじゃ、仕方ないよなぁ」
「あ、ありがとう……」
ギーシュに見えないように笑い続けながら、カルロは呟く。
「この先で、良く婦女暴行が行われているらしいんだが」
ついと指差された方向に、蒼白になったギーシュが走り出す。
「あぁ、そこを左、次は真っ直ぐ、その建物の中だ」
「良かったな、何も無かったようじゃないか……次に怪しいのは...
一言一言に過剰反応するギーシュを、玩具の様に操りながら...
走りつかれ、その場に崩れたギーシュには更に言葉を送る。
「ここで最近殺人事件が有ってね、犯人はまだ捕まっていない...
「被害者の状況は酷くてね……女性相手の快楽殺人犯だったみた...
死力を振り絞るギーシュを、見つめる冷たい瞳のその色は……
それはそれは楽しそうだった。
「げ……ほっ……ぁ……ぅ……」
「あぁ、いいのかな? この先にも怪しい建物が在るのだが?」
僅かに反応したギーシュの手が、ぱたりと道の上に落ちる。
数時間走り続けたギーシュは、気絶することでようやく初め...
(ちっ……水でもかけるか)
辺りを見回すカルロの視界に、部下がこっそりと忍んでくる...
流石に他人にこの様を見られると不審に思われる。
そう考えたカルロは自分から部下に近づき、ギーシュをその...
「どうした?」
「隊長……気付きませんか?」
手がかりを見つけた。
つまり、自分が何かへまをしていたのか。
カルロは焦りながら先を促した。
「証拠が無さ過ぎます。ここまで完璧にこの街で痕跡を消せる...
カルロの背中を冷たい物が走った。
周りを見回し、人影を確認する……が……
(こいつが、他の誰かに言ってから来ているとすると……消した...
「最後に姿を確認された地点はかなり人通りがあったはずなの...
それにそれらしい人影と聖堂騎士が一緒だったという報告も...
(無駄に優秀な男だ)
「聖下に聖堂騎士全てについての査察をするよう、隊長から進...
瞑目し、黙考。
「……事は軽々しく話す事もできないな……所で、この事は君が気...
「はい」
「ここに相談に来ることを他に知っている者は?」
「いえ、連れとははぐれた振りをして来ましたので、誰にも悟...
……
「君に見てほしいものが在るのだが、ちょっとそこの路地まで...
「た、隊長は手がかりを? 流石です、内部犯等とは自分の考...
ほっとした様子で付いてくる騎士の背後から、カルロはそっ...
「彼女の周りにゴーレムを作って、それに鎧を着せたのさ。
聖堂騎士と私服とはいえ騎士隊長だ、何処でもフリーパスだ...
振り向くより速く、ナイフが闇に煌いた。
「グラモン! グラモン! 起きろ……」
「ぐ……ぁ……げほっ……」
ギーシュは乱暴に揺さぶられ、無理やり意識を覚醒させられ...
「す、すまな……い……」
「いいから、ちょっと来てくれ」
それは、ギーシュが倒れていた位置からほんの少し通りを奥...
距離すれば、十数メートルしか離れていないその通りは、真...
「……え? ……な……」
ギーシュが事態を把握しきる前に、カルロが首を切り裂かれ...
「僕たちは街で嫌われているからね、そろそろ日が落ちて通り...
本来、こんな時間に我々は街をうろつかないのだがね。
そう続けるカルロの声を、どこか遠くに聞きながらギーシュ...
冷たい腕。妙に重く感じるその感触は、生き物のそれでは無...
戦場で幾度か見た、ただの肉塊と成り果てた、元・生き物。
「あ……ぁ……」
「こんな時間に我々をここに連れ出したのは誰だったかな?」
カルロは静かにギーシュの魂に毒を垂らす。
「優秀な男だったのに残念だよ」
「良かったな、被害者が君の恋人じゃなくて」
「これからも、まだ何人か死ぬかもしれないな」
力なく遺体の腕を握り締めていたギーシュの身体が、ビクリ...
「まぁ、君は騎士隊長だ。自分の隊の事は好きにすればいいさ」
虚ろな眼で物言わぬ騎士を返し下に見つめるギーシュの肩を...
「女王からの預かり物とはいえ、君の隊は君の物だ。好きに使...
「なっ、み、皆は僕のクラスメイトだ、友達なんだ。そんな危...
「なら……恋人は見捨てるのか? グラモン」
痛いほどに掴まれていた腕の力が、ふっと緩み優しいほどの...
「いいじゃないか、たとえ何人死のうと、苦しもうと、君の大...
そのままギーシュから離れ、うな垂れ蒼い顔をしている彼を...
……そして……
立ち上がったギーシュが騎士隊を呼び集め始めると、カルロ...
用事が在るので少し外す。
カルロはそれだけ伝えると、聖堂へ撤収した部隊から別行動...
真っ直ぐに自室に戻り、掛けてあった『ロック』の呪文を確...
いまだ解除されていないその呪文が、誰も部屋に出入りして...
気配を殺し、物音を立てないように注意しながら自分の部屋...
よほど暴れたらしく、硬く結んだ後に頭上でベットに固定さ...
「……モンモランシーというそうだな」
恐怖を煽るため、部屋に入ったことに気づかれる前にカルロ...
「んっ……んんんっ、ぁっ…………」
万が一に悲鳴が漏れて人が駆けつけないように、その口には...
身動きの出来ないモンモランシーの傍らに、にやにやと笑う...
「いい事を教えてやろうか?」
そう言いながら、鍛えられた手が胸の上に乗せられる。
モンモランシーの身体は嫌悪で暴れだそうとするのに、怯え...
嫌なのに、まるで無抵抗になってしまった自分に対する悔し...
だが……
その涙が零れ落ちる前に、カルロは躊躇なく右腕に力を注い...
成長途中の胸は、繊細で敏感で自分でも強く触ると痛みを感...
――世界が灼熱し、言葉を封じられた喉からありったけの空気...
カルロは、恐怖も怯えも全て吹き飛ばしてしまう激痛にモン...
身体が軋み、間接が悲鳴を上げるほどの力で歪められ、場所...
カルロはほっとくつろいだ。
憎い相手の恋人を……あそこまで必死に探す意中の相手を。
自分は完全に掌握している。
その事実はどんな美酒より極上で……
「っ……ぁ…………っく…………」
時間を掛けて痛みが一段楽するまで眺めていたカルロは、モ...
「グラモンはお前を見捨てたよ」
モンモランシーが驚愕に目を見開くと同時に、カルロの手は...
「隊長! 何処にいらしたんですか?」
「いや、少し纏める書類があったのでね」
ギーシュと共に聖堂に帰ったカルロは、ほんの十数分席を外...
「申し訳ありませんが、至急こちらに……水精霊騎士隊のグラモ...
「ほぅ……それは、それは」
目を輝かせたカルロが導かれるままに進むと、人の迷惑にな...
「ギーシュっ、モンモンが見つかったから撤収したんじゃなか...
「…………捜索は……明日に……続きを……」
「ギーシュ!」
ギーシュは激昂したサイトに壁に叩き付けられ、そのままず...
サイト達の顔を見ないように、うつむいたまま撤収の理由を...
「……モンモランシーじゃなかったのかもしれないしね」
「ギーシュ、悪いがそれはない。港の係員に君の持ち込んでい...
間違いなくこの国に入国しているし……行方不明だ」
誰かのつぶやきの後、自然に全員が黙り込み不自然な沈黙が...
皆心配なのだ。
訓練で怪我の耐えない騎士隊のメンバーの中に、彼女の世話...
ギーシュとのじゃれ合う様な掛け合いも、その後に続く微笑...
なにより、自分が守れなかったときに、大切な相手のために...
しかし、それでも……体温を失った騎士の腕が、ギーシュをサ...
「め、命令だ、騎士隊長としての命令だ……みんな、部屋に戻る...
端から見ていても、お互いを大切に思っている事がわかる一...
そして、水精霊騎士達をギーシュを始めとした一団を尊敬の...
――周りに聞こえないように小さく舌打ちしたカルロは、ギー...
「ギーシュ・ド・グラモンという男は、隊長として問題がある...
部下に命令のひとつも下せないなんてな」
ギーシュを馬鹿にした途端にサイト達からの冷たい視線が集...
それすらも、思い通りに人を動かしてきたカルロにとっては...
「説明ひとつろくに出来ないようじゃ、隊長としてこの先やっ...
水精霊騎士の注目が一身に集まるのを感じながら、彼らの注...
「グラモンは君たちの力を信用していないだけだ」
「は?」
ギーシュが思わず反論しようとするのを、カルロはまっすぐ...
『黙って僕に任せたまえ』
――最悪の結果を招いてやる。
そんなカルロの心の声が聞こえるはずもなく、ギーシュは大...
……それは、まるでギーシュがカルロの言葉を認めたかのよう...
「先ほど、聖堂騎士隊に欠員が出た……街に下りた際に何者かに...
ギーシュの反論がないため、サイト達は大人しくカルロの言...
部下を鼓舞し、指揮することに慣れたカルロの声は、力強く...
「死体を発見したのは僕とグラモンの二人だ……
見事な手並みでね、並みの使い手ではかなわないだろうね」
そしてカルロは語り始める。
ロマリアでは騎士がいかに嫌われているかを。
サイト達との始めてあった時の群衆の行動を交え、詳細に語...
そして……
「君たちでは勝てない、グラモンはそう判断したのだよ」
そんな事は無い、危ない目に合わせたくないだけだ。
ギーシュはそう言いたかったが、今口を挟むわけにもいかな...
「……ギーシュ……俺たちそんなに頼りないか?」
「ち、ちがっ……」
「そうっ、君たちが心配なんだグラモンは」
……確かに心配だった……が、このタイミングで認めても、何の...
「……ギーシュ、僕たちもモンモランシーが心配なんだ……たとえ...
「ま、待て、待ってくれ」
ギーシュ自身も、今すぐ街に下りたかったが自分の都合で騎...
そんな男になるのは、貴族としての誇りが許さなかった。
「め、命令だ……水精霊騎士隊・隊長としても命令だ……みんな、...
そこまで言った瞬間、ギーシュはもう一度壁まで突き飛ばさ...
「ギーシュっ! いい加減にしろよ! 困った時くらい俺たち...
自分が居ない間に、ギーシュは決死でルイズを守ってくれた。
その思いが、サイトを過剰なまでに反応させた。
お互いがお互いを思っていても、暴力に出てしまっては容易...
「……だ……れのっ……」
誰のためを思って言っていると思っているんだ?
その言葉はギーシュの口の中で消えながら、拳がサイトに向...
続いて起きた乱闘で、水精霊騎士隊が街に下りる話はうやむ...
「げ……ほっ……げほっ……ぐ……ぁ……」
ギーシュはカルロの手で取り押さえられていたが、その際に...
「落ち着けよ、グラモン……暴れていても、彼女の無事は保証さ...
無力に取り押さえた状態で、愛しい人の危機と、自分には何...
カルロは笑いをこらえるので精一杯だった。
「……なせ」
「んんん? 何かな? グラモン」
「離せっ」
どこにそんな力が残っていたのか、ギーシュは力任せに立ち...
追い詰められた獣のように、荒い息を吐きながらカルロを睨...
「ちょっ……ギーシュ落ち着け」
「まてっ、サイト……離せっ、離してくれっ!」
数秒前まで喧嘩してはいても、サイトにとってギーシュは大...
「落ち着け、ギーシュ」
「離せっ! 離せぇぇぇぇっ!! 離せサイトォォォォォ!」
狂ったように暴れ始めたギーシュを見て、カルロはまた一つ...
「副隊長だったな? ちゃんとその狂犬を押さえつけておいて...
自分が無力だからといって、言い難いことを言っただけで襲...
「ちっ、なんだか分からんが、ギーシュの目の前から消えろっ!
何を言ったのか分からなかったけど、ギーシュが普通ここま...
「離せぇぇぇぇぇっ、離してくれっ、サイトォォォォ!!」
体力はサイトのほうが上回っているはずなのに、ギーシュは...
その瞳には狂おしいまでの炎が宿り、ほんの一瞬目が合った...
「わ、私は悪く無いからなっ、しっかりそいつを監視しておけ...
勝ち誇っていた筈のカルロは、ギーシュの一睨みで精神的優...
そして……それは彼のプライドに大きな傷を付け……
(こ、この報いはお前の女に、たっぷりとくれてやるからなぁ...
自室への足を急がせた。
ガチャガチャと乱暴にドアが開かれる。
怯えと共に、僅かな希望……
(ギーシュ! お願いっ……助け……)
「知っているか?」
期待と裏腹に、部屋に立ち入ってきた男の声は、忘れたくと...
「聖都の消灯は早い……つまり……時間はたっぷりと有る……」
(やあぁぁぁぁぁっ!)
カルロは振り向くと扉に厳重な『ロック』を掛ける。
(や……ぁ……そんなの……そんなの……)
他に入り口の無い部屋。
つまりは、この男がその気になるまで自分はここに拘束され...
「……まだ、仕事はあるが……まず手始めに手付けだけでも貰うと...
カルロの視線が足の間に絡み付いているのを察した、モンモ...
たとえ、猿轡を噛まされていて言葉に成らなくとも。
始祖より、父母より、いつの間にか頼りにしている愛しい人...
(ギーシュっ! ギーシュゥゥゥ、いやぁぁぁぁ、お願いっ助...
拘束された手首に、ぎりぎりとロープが食い込み皿に出血を...
――そんなモンモランシーを、カルロはまるで慈しむ様に見つ...
「このままじゃ、悲鳴が聞けないな……あの男の名前を呼ぶ相手...
狂ってる。
モンモランシーは、そう確信したが。
同時にカルロが口にした言葉に、絶望を深くする。
『初めての男』そう言ったのだ。
絶望は彼女の力を奪い、拘束を解かれたというのに、逃れら...
「おや? 騒ぐのは止めたのか?」
凍ってしまった心で、物でも見るようにカルロを見つめる。
(ごめんね……ギーシュ……ごめんね……)
こんなどうでもいい男に、奪われる位なら……もっと早く貴方...
自分の腕がねじり上げられ、無造作に体が固定されるのを見...
「あぁ……そうだ……使い終わったら、ギーシュに返そう。一晩掛...
あいつ、俺の中古品で大喜びすることになるんだなぁぁぁぁ」
……どこまでもギーシュを愚弄する言葉に、凍った筈の心が悲...
「やぁぁぁぁぁぁっ、ギーーシュ、助けてぇぇぇぇ」
耳が痛いほどの悲鳴を聞きながら、悦に入ったカルロは濡れ...
が、そのとき。
――バキン
耳慣れない音が、廊下から響き渡る。
――メキメキメキメキ
「な、なんだっ?」
石造りの頑丈な壁が、熱せられた飴細工のように形を変える。
地震のような激しい振動に、カルロは体勢を維持できずモン...
モンモランシーはその機会を逃さず、ぼろぼろに裂かれた服...
――そして、形を変えた壁の向こうから、ギーシュ・ド・グラ...
「見つけた……」
「ギーシュ!」
モンモランシーはそのままギーシュに駆け寄り、その腕の中...
ギーシュは黙って傷だらけのモンモランシーを見ると、静か...
カルロは慌てながらもズボンを上げ、杖をギーシュに向ける。
(まだ……だ、まだ……)
カルロはギーシュがここにたどり着いたのを偶然だと判断し...
ならば……先ほどの猛り狂ったギーシュが自分に挑んできたた...
そうすればギーシュが見たことは闇に消え、モンモランシー...
その……つもりだった。
「香水が……ね……カルロ」
「? な、なんだと?」
「彼女の香水の香りが君からしたんだ……」
「……そ、そんな、どこにでも有る物で、こんな暴挙をしでかし...
カルロは知らない。
モンモランシーの香水が彼女のオリジナルである事も、今付...
ギーシュがその香りを間違えることなどありえない事も、彼...
「暴挙?」
「聖堂騎士の宿舎を破るなどっ……誅殺してくれるっ! 死ねっ」
カルロは知っている。
水精霊騎士隊・隊長。
その立派な肩書きに見合わず、ギーシュ・ド・グラモンがド...
一度杖を交わした彼は、本気を出せば自分ならば容易く彼を...
カルロが詠唱を始めたというのに、ギーシュは冷たい瞳でじ...
(諦めたのか?)
自分に勝てるはずが無いことを理解しているグラモンが、恋...
カルロはそう判断し、愉しみの予感に震えた。
(ならば……半死半生にして、奴の前で恋人を嬲ってからあの世...
ギーシュと目が合った瞬間、カルロの舌が凍りついた。
背筋を這い上がる冷たい予感が、逃げろと叫んでいた。
この男には勝てないと、自分がこいつを殺せるはず……そんな...
そう……叫んでいた。
(そんな筈は無いっ!)
惨めなプライドを振り絞り、詠唱を再開する。
そして……ギーシュに杖を向けながら……
カルロは思い出していた。
自分の呪文では、この部屋の壁に傷一つ付けられなかった事...
今、飴の様に曲がった壁が、どれほど強力な『固定化』に守...
「ワルキューレ」
ぼそりとギーシュが呟くと、”作りかけられた居た”ゴーレム...
部屋の壁を材料に構成されたゴーレムは、その作成過程の”つ...
「ちょっ! まてぇぇぇぇぇ、ぐぁ」
カルロは忘れていた。
メイジがその能力を飛躍的に伸ばす可能性を。
知っては居ても、めったに起き得ぬその現象をよもやこの男...
ここまで追い詰められた、ギーシュのモンモランシーを求め...
ワルキューレに握りつぶされかけているカルロを取り出すの...
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『ギーシュ・ド・グラモンの最後』 前編
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パチリと小さな音共に杖が少女の身体に押し付けられる。
気を失う寸前に向けられた、驚いたような瞳に彼は……
――明かりの消えた部屋の中で、握った拳をテーブルに叩き付...
骨まで響く痛みと、耳に突き刺さる騒音が一瞬だけカルロの...
が、
『逃げた聖堂騎士隊だぜ……あいつら……』
『いっつも、威張ってるくせによぉ』
『しかも、学生は逃げなかったらしいぜぇ』
耳の奥に、いつまでも残る幻聴が彼の心を揺さぶった。
「うわぁぁああああっっ!」
狂ったような詠唱に導かれて、杖が光を帯びる。
「ちくしょぉ、ちくしょぉっ、ちっっしょぉぉぉっ」
鍛え上げられた魔力は、数秒でテーブルを細切れにした。
いびつな形に切り刻まれ、無残に床に転がるテーブルに目も...
ここ毎日の狂乱で、部屋の中にはまともな家具など一つも無...
「黙れっ、黙れぇっ、黙れよおぉぉっ!」
メイジたる聖堂騎士のための宿舎の『固定化』を掛けられた...
――彼は……いや、聖堂騎士隊は逃げた。
聖別された、守るべき聖女を一人残して。
最後まで踏みとどまり、一人戦おうとした少女を守ったのは...
そのメンバーのほぼ全員が学生からなる、『水精霊騎士隊』
もし、彼らが逃げていれば、まだ言い訳も出来た。
『聖女だから踏み止まれたのだ』と。
もし、負けていたのなら、まだ言い訳も出来た。
『あの場は引くのが正しい選択だった』と。
――現実は、言い訳一つ出来ぬままに彼らを押しつぶした。
――敵前逃亡で告発される事を覚悟していた。
その覚悟も有った。
「ん? あぁ、いいさ、別に」
水精霊騎士隊の隊長の言葉を、最初は理解できなかった。
「言っただろう? 『僕も含めて』からっきしだったのさ。人...
戦いの前に彼は言っていた。『地獄を見た』と。
ハッタリだと判断した自分を魔法で撃ち殺したかった。
顔が赤く染まり、自分より年下のはずの少年に、自然と頭が...
謝罪の言葉を口にする前に、慌てたギーシュが叫んでいた。
「誰だって、最初はそんなものさ、”最初から期待していなかっ...
――呼吸が止まった。
ギシリと、魂に何かが食い込む音がした。
サイショカラキタイシテイナカッタ
努力して、努力して、努力して、聖堂騎士隊隊長まで上り詰...
負けたこと等無かった男の心に、凍った楔が打ち込まれた。
その後の事は、余り良く覚えていない。
気付けば自室でただ泣いていた。
そして……
――水精霊騎士隊が黙っていても、自然と噂は広まった。
ぽっかりと穴の開いてしまったカルロの心は、心無い陰口に...
騎士隊の宿舎の壁は、今日も黙って呪文を受けていた。
――長かった船旅ももうすぐ終わる。
モンモランシーは旅費を切り詰めた事を後悔しながら、強張...
(ギーシュの馬鹿っ! どうしてわたしがこんな苦労しないと...
ルイズを連れて行くだけなら安全だろうと。
そう、高を括って送り出したのは間違いだった。
(戦争って……どういう事よ……)
握られた手のひらが、じっとりと熱くなる。
とくとくと心臓の音が高鳴り、じっとしているのが辛くなる。
怪我を……してないないだろうか?
(あの馬鹿……変な所で格好付けたがるんだから……)
『ぼくがいる』とか言って、あっさり無茶をしそうだった。
(わたしの……事なんて)
『コイビト』という言葉が、口の奥で小さく消える。
そう口に出せるほどの想いを、彼と交わした自信がなくて。
心配で夜もゆっくり休めないし、食事だっていつもの半分も...
――前にギーシュが戦争に行った時と同じ。
それだけ心配しているのに。
(あ、あ、あ、あの馬鹿だけはぁぁぁぁっ)
平気でまた戦争に行くのだ。
それに、折角帰ってきたから、少しでも一緒に居たいのに。
最近のギーシュは騎士隊の練習優先だ、僕は隊長だからねと...
あまつさえ……
(覗きとかしてるんじゃないわよ……馬鹿ぁ……)
ギーシュは以前よりはるかにもてる。
本人は気付いていないようだが、女王直属の騎士で最年少の...
多少の問題点には目を瞑ろう。そんな相手はいくらでも居る。
モンモランシーが随分焦っていた状態での覗き騒ぎ。
彼女には自信がない。
1年生だというのに、ギーシュを始め男性生徒がこぞって覗...
ルイズの様に綺麗な顔立ちも、自分には無いと。
自分より美人など、学院にはいくらでも居る、彼女はそう思...
努力は以前からしていた。
身に付いたスキルでお金を儲けることも、うっとりとする程...
全てはその延長。
大貴族の女の子には劣るかもしれないけれど、稼いだお金で...
他の娘には無いアクセントで自分を演出する。
築かれた自信と、十分な結果は彼女を内面からも輝かせる。
誰かを癒すその優しさと、幾人かが知る芯の強さは、ルイズ...
だから、モンモランシーにもギーシュ以外の選択肢は在る。
……それでも、彼女はギーシュを待っているのに。
(他の娘見るなんて……)
平均よりやや下回る胸の前で手を組みながら、ふつふつと湧...
――悪い事ばかりを考えてしまうより、その方がはるかに楽だ...
次に会った時に、どんな言葉を交わすのか想像するのだ。
そうすると、少しだけ気が楽になった。
張り詰めていた気配が緩むのを待ち構えていたかの様に、す...
「もうすぐかねぇ、お嬢ちゃん」
船代を安く上げるための、同性との合い部屋。
戦争に向かった孫が心配らしく、随分体調を崩したらしい老...
”なぜか”大量に持っていた水の魔法の触媒を惜しむ事無く振...
貯金を殆どはたいて購入した触媒は、学生の持ち物とは思え...
「お嬢ちゃんは、恋人に会いに行くんだったのかねぇ?」
「……ちがっ……」
「お嬢ちゃん、みたいな子が孫の嫁に来てくれたら、思い残す...
他愛ない話は、ロマリアの港に付くまで尽きることは無く。
モンモランシーの旅は、それなりに楽しく過ぎ……
港で水精霊騎士隊の評判を聞いた時には、安堵の余りその場...
晴れやかな気持ちで、ギーシュが居るはずの聖堂の方を見つ...
恋人の自慢をしながら案内を受けていた彼女が、人気の無い...
喜悦に満ちた騎士の顔。
「あれ? ギーシュ、モンモランシーは一緒じゃないのか?」
「は?」
唐突な言葉に、ギーシュはまじまじとギムリを見つめた。
「どうしてモンモランシーがこんな所にいるんだね?」
「いや、なんか、うちのばーちゃんが、陣中見舞いに来たんだ...
「ほうほう」
「船で一緒になった娘が、美人で、トリステインの制服着てて...
一瞬の硬直の後に、ギーシュは無言で港に向かった。。
素晴らしい速度で入国管理の神官に会い、口先三寸でトリス...
「何処でモンモランシーと会ったって?」
「はやっ、いや、港で別れたらしいけど……まだ会えてないのか...
唐突に、ギーシュの脳裏によみがえる幾つかの話。
『最近はロマリアも物騒だねぇ』
『光の国も物騒なことだな、ここに来る途中物盗りに会ったよ』
『しかも最近は難民が押し寄せて来てるとか……』
治安の悪化している国で、美人の恋人が行方不明。
「モンモランシィーーーーーーー」
ギーシュの絶叫が聖堂の中に響き渡り、人目を一瞬引いた後...
泣き出しそうな瞳は必死に愛しい人の姿を求め、真っ直ぐに...
が、側を通りかかったサイトがあっさりとギーシュを捕まえ...
「いきなりどうしたんだ?」
「サ、サイトか……モンモランシーが……モンモランシーが行方不...
その説明の合間にも、ギーシュは前に進もうとしていた。
虫の知らせとでも言うのだろうか? 嫌な予感がギーシュを...
「早く見つけないと……」
落ちつか無げなギーシュを取り押さえながら、サイトは回り...
「ギーシュ、落ち着けよ。人数が居た方が探しやすいだろ」
「……あ……」
「それに……あ、そこの人たち、ちょっといいか?」
サイトは半ば強引に、通りすがりの騎士に声を掛けた。
「我々も暇ではないのですがね」
ギーシュの耳に届くよう、カルロは呟いた。
「すまない、でも……土地に詳しい人間の案内が居るんだ」
サイトの判断で、土地に詳しい聖堂騎士とモンモランシーの...
隊長のカルロは、部屋で待機中の所を呼び出されたらしく機...
「その……できれば、手をかして欲しいんだ……」
「……お願いしますは?」
「あ、お、お願いします、カルロ騎士隊長」
深々と頭を下げたギーシュの頭上で、カルロの顔は嫌らしく...
「まぁ、恋人が危ないんじゃ、仕方ないよなぁ」
「あ、ありがとう……」
ギーシュに見えないように笑い続けながら、カルロは呟く。
「この先で、良く婦女暴行が行われているらしいんだが」
ついと指差された方向に、蒼白になったギーシュが走り出す。
「あぁ、そこを左、次は真っ直ぐ、その建物の中だ」
「良かったな、何も無かったようじゃないか……次に怪しいのは...
一言一言に過剰反応するギーシュを、玩具の様に操りながら...
走りつかれ、その場に崩れたギーシュには更に言葉を送る。
「ここで最近殺人事件が有ってね、犯人はまだ捕まっていない...
「被害者の状況は酷くてね……女性相手の快楽殺人犯だったみた...
死力を振り絞るギーシュを、見つめる冷たい瞳のその色は……
それはそれは楽しそうだった。
「げ……ほっ……ぁ……ぅ……」
「あぁ、いいのかな? この先にも怪しい建物が在るのだが?」
僅かに反応したギーシュの手が、ぱたりと道の上に落ちる。
数時間走り続けたギーシュは、気絶することでようやく初め...
(ちっ……水でもかけるか)
辺りを見回すカルロの視界に、部下がこっそりと忍んでくる...
流石に他人にこの様を見られると不審に思われる。
そう考えたカルロは自分から部下に近づき、ギーシュをその...
「どうした?」
「隊長……気付きませんか?」
手がかりを見つけた。
つまり、自分が何かへまをしていたのか。
カルロは焦りながら先を促した。
「証拠が無さ過ぎます。ここまで完璧にこの街で痕跡を消せる...
カルロの背中を冷たい物が走った。
周りを見回し、人影を確認する……が……
(こいつが、他の誰かに言ってから来ているとすると……消した...
「最後に姿を確認された地点はかなり人通りがあったはずなの...
それにそれらしい人影と聖堂騎士が一緒だったという報告も...
(無駄に優秀な男だ)
「聖下に聖堂騎士全てについての査察をするよう、隊長から進...
瞑目し、黙考。
「……事は軽々しく話す事もできないな……所で、この事は君が気...
「はい」
「ここに相談に来ることを他に知っている者は?」
「いえ、連れとははぐれた振りをして来ましたので、誰にも悟...
……
「君に見てほしいものが在るのだが、ちょっとそこの路地まで...
「た、隊長は手がかりを? 流石です、内部犯等とは自分の考...
ほっとした様子で付いてくる騎士の背後から、カルロはそっ...
「彼女の周りにゴーレムを作って、それに鎧を着せたのさ。
聖堂騎士と私服とはいえ騎士隊長だ、何処でもフリーパスだ...
振り向くより速く、ナイフが闇に煌いた。
「グラモン! グラモン! 起きろ……」
「ぐ……ぁ……げほっ……」
ギーシュは乱暴に揺さぶられ、無理やり意識を覚醒させられ...
「す、すまな……い……」
「いいから、ちょっと来てくれ」
それは、ギーシュが倒れていた位置からほんの少し通りを奥...
距離すれば、十数メートルしか離れていないその通りは、真...
「……え? ……な……」
ギーシュが事態を把握しきる前に、カルロが首を切り裂かれ...
「僕たちは街で嫌われているからね、そろそろ日が落ちて通り...
本来、こんな時間に我々は街をうろつかないのだがね。
そう続けるカルロの声を、どこか遠くに聞きながらギーシュ...
冷たい腕。妙に重く感じるその感触は、生き物のそれでは無...
戦場で幾度か見た、ただの肉塊と成り果てた、元・生き物。
「あ……ぁ……」
「こんな時間に我々をここに連れ出したのは誰だったかな?」
カルロは静かにギーシュの魂に毒を垂らす。
「優秀な男だったのに残念だよ」
「良かったな、被害者が君の恋人じゃなくて」
「これからも、まだ何人か死ぬかもしれないな」
力なく遺体の腕を握り締めていたギーシュの身体が、ビクリ...
「まぁ、君は騎士隊長だ。自分の隊の事は好きにすればいいさ」
虚ろな眼で物言わぬ騎士を返し下に見つめるギーシュの肩を...
「女王からの預かり物とはいえ、君の隊は君の物だ。好きに使...
「なっ、み、皆は僕のクラスメイトだ、友達なんだ。そんな危...
「なら……恋人は見捨てるのか? グラモン」
痛いほどに掴まれていた腕の力が、ふっと緩み優しいほどの...
「いいじゃないか、たとえ何人死のうと、苦しもうと、君の大...
そのままギーシュから離れ、うな垂れ蒼い顔をしている彼を...
……そして……
立ち上がったギーシュが騎士隊を呼び集め始めると、カルロ...
用事が在るので少し外す。
カルロはそれだけ伝えると、聖堂へ撤収した部隊から別行動...
真っ直ぐに自室に戻り、掛けてあった『ロック』の呪文を確...
いまだ解除されていないその呪文が、誰も部屋に出入りして...
気配を殺し、物音を立てないように注意しながら自分の部屋...
よほど暴れたらしく、硬く結んだ後に頭上でベットに固定さ...
「……モンモランシーというそうだな」
恐怖を煽るため、部屋に入ったことに気づかれる前にカルロ...
「んっ……んんんっ、ぁっ…………」
万が一に悲鳴が漏れて人が駆けつけないように、その口には...
身動きの出来ないモンモランシーの傍らに、にやにやと笑う...
「いい事を教えてやろうか?」
そう言いながら、鍛えられた手が胸の上に乗せられる。
モンモランシーの身体は嫌悪で暴れだそうとするのに、怯え...
嫌なのに、まるで無抵抗になってしまった自分に対する悔し...
だが……
その涙が零れ落ちる前に、カルロは躊躇なく右腕に力を注い...
成長途中の胸は、繊細で敏感で自分でも強く触ると痛みを感...
――世界が灼熱し、言葉を封じられた喉からありったけの空気...
カルロは、恐怖も怯えも全て吹き飛ばしてしまう激痛にモン...
身体が軋み、間接が悲鳴を上げるほどの力で歪められ、場所...
カルロはほっとくつろいだ。
憎い相手の恋人を……あそこまで必死に探す意中の相手を。
自分は完全に掌握している。
その事実はどんな美酒より極上で……
「っ……ぁ…………っく…………」
時間を掛けて痛みが一段楽するまで眺めていたカルロは、モ...
「グラモンはお前を見捨てたよ」
モンモランシーが驚愕に目を見開くと同時に、カルロの手は...
「隊長! 何処にいらしたんですか?」
「いや、少し纏める書類があったのでね」
ギーシュと共に聖堂に帰ったカルロは、ほんの十数分席を外...
「申し訳ありませんが、至急こちらに……水精霊騎士隊のグラモ...
「ほぅ……それは、それは」
目を輝かせたカルロが導かれるままに進むと、人の迷惑にな...
「ギーシュっ、モンモンが見つかったから撤収したんじゃなか...
「…………捜索は……明日に……続きを……」
「ギーシュ!」
ギーシュは激昂したサイトに壁に叩き付けられ、そのままず...
サイト達の顔を見ないように、うつむいたまま撤収の理由を...
「……モンモランシーじゃなかったのかもしれないしね」
「ギーシュ、悪いがそれはない。港の係員に君の持ち込んでい...
間違いなくこの国に入国しているし……行方不明だ」
誰かのつぶやきの後、自然に全員が黙り込み不自然な沈黙が...
皆心配なのだ。
訓練で怪我の耐えない騎士隊のメンバーの中に、彼女の世話...
ギーシュとのじゃれ合う様な掛け合いも、その後に続く微笑...
なにより、自分が守れなかったときに、大切な相手のために...
しかし、それでも……体温を失った騎士の腕が、ギーシュをサ...
「め、命令だ、騎士隊長としての命令だ……みんな、部屋に戻る...
端から見ていても、お互いを大切に思っている事がわかる一...
そして、水精霊騎士達をギーシュを始めとした一団を尊敬の...
――周りに聞こえないように小さく舌打ちしたカルロは、ギー...
「ギーシュ・ド・グラモンという男は、隊長として問題がある...
部下に命令のひとつも下せないなんてな」
ギーシュを馬鹿にした途端にサイト達からの冷たい視線が集...
それすらも、思い通りに人を動かしてきたカルロにとっては...
「説明ひとつろくに出来ないようじゃ、隊長としてこの先やっ...
水精霊騎士の注目が一身に集まるのを感じながら、彼らの注...
「グラモンは君たちの力を信用していないだけだ」
「は?」
ギーシュが思わず反論しようとするのを、カルロはまっすぐ...
『黙って僕に任せたまえ』
――最悪の結果を招いてやる。
そんなカルロの心の声が聞こえるはずもなく、ギーシュは大...
……それは、まるでギーシュがカルロの言葉を認めたかのよう...
「先ほど、聖堂騎士隊に欠員が出た……街に下りた際に何者かに...
ギーシュの反論がないため、サイト達は大人しくカルロの言...
部下を鼓舞し、指揮することに慣れたカルロの声は、力強く...
「死体を発見したのは僕とグラモンの二人だ……
見事な手並みでね、並みの使い手ではかなわないだろうね」
そしてカルロは語り始める。
ロマリアでは騎士がいかに嫌われているかを。
サイト達との始めてあった時の群衆の行動を交え、詳細に語...
そして……
「君たちでは勝てない、グラモンはそう判断したのだよ」
そんな事は無い、危ない目に合わせたくないだけだ。
ギーシュはそう言いたかったが、今口を挟むわけにもいかな...
「……ギーシュ……俺たちそんなに頼りないか?」
「ち、ちがっ……」
「そうっ、君たちが心配なんだグラモンは」
……確かに心配だった……が、このタイミングで認めても、何の...
「……ギーシュ、僕たちもモンモランシーが心配なんだ……たとえ...
「ま、待て、待ってくれ」
ギーシュ自身も、今すぐ街に下りたかったが自分の都合で騎...
そんな男になるのは、貴族としての誇りが許さなかった。
「め、命令だ……水精霊騎士隊・隊長としても命令だ……みんな、...
そこまで言った瞬間、ギーシュはもう一度壁まで突き飛ばさ...
「ギーシュっ! いい加減にしろよ! 困った時くらい俺たち...
自分が居ない間に、ギーシュは決死でルイズを守ってくれた。
その思いが、サイトを過剰なまでに反応させた。
お互いがお互いを思っていても、暴力に出てしまっては容易...
「……だ……れのっ……」
誰のためを思って言っていると思っているんだ?
その言葉はギーシュの口の中で消えながら、拳がサイトに向...
続いて起きた乱闘で、水精霊騎士隊が街に下りる話はうやむ...
「げ……ほっ……げほっ……ぐ……ぁ……」
ギーシュはカルロの手で取り押さえられていたが、その際に...
「落ち着けよ、グラモン……暴れていても、彼女の無事は保証さ...
無力に取り押さえた状態で、愛しい人の危機と、自分には何...
カルロは笑いをこらえるので精一杯だった。
「……なせ」
「んんん? 何かな? グラモン」
「離せっ」
どこにそんな力が残っていたのか、ギーシュは力任せに立ち...
追い詰められた獣のように、荒い息を吐きながらカルロを睨...
「ちょっ……ギーシュ落ち着け」
「まてっ、サイト……離せっ、離してくれっ!」
数秒前まで喧嘩してはいても、サイトにとってギーシュは大...
「落ち着け、ギーシュ」
「離せっ! 離せぇぇぇぇっ!! 離せサイトォォォォォ!」
狂ったように暴れ始めたギーシュを見て、カルロはまた一つ...
「副隊長だったな? ちゃんとその狂犬を押さえつけておいて...
自分が無力だからといって、言い難いことを言っただけで襲...
「ちっ、なんだか分からんが、ギーシュの目の前から消えろっ!
何を言ったのか分からなかったけど、ギーシュが普通ここま...
「離せぇぇぇぇぇっ、離してくれっ、サイトォォォォ!!」
体力はサイトのほうが上回っているはずなのに、ギーシュは...
その瞳には狂おしいまでの炎が宿り、ほんの一瞬目が合った...
「わ、私は悪く無いからなっ、しっかりそいつを監視しておけ...
勝ち誇っていた筈のカルロは、ギーシュの一睨みで精神的優...
そして……それは彼のプライドに大きな傷を付け……
(こ、この報いはお前の女に、たっぷりとくれてやるからなぁ...
自室への足を急がせた。
ガチャガチャと乱暴にドアが開かれる。
怯えと共に、僅かな希望……
(ギーシュ! お願いっ……助け……)
「知っているか?」
期待と裏腹に、部屋に立ち入ってきた男の声は、忘れたくと...
「聖都の消灯は早い……つまり……時間はたっぷりと有る……」
(やあぁぁぁぁぁっ!)
カルロは振り向くと扉に厳重な『ロック』を掛ける。
(や……ぁ……そんなの……そんなの……)
他に入り口の無い部屋。
つまりは、この男がその気になるまで自分はここに拘束され...
「……まだ、仕事はあるが……まず手始めに手付けだけでも貰うと...
カルロの視線が足の間に絡み付いているのを察した、モンモ...
たとえ、猿轡を噛まされていて言葉に成らなくとも。
始祖より、父母より、いつの間にか頼りにしている愛しい人...
(ギーシュっ! ギーシュゥゥゥ、いやぁぁぁぁ、お願いっ助...
拘束された手首に、ぎりぎりとロープが食い込み皿に出血を...
――そんなモンモランシーを、カルロはまるで慈しむ様に見つ...
「このままじゃ、悲鳴が聞けないな……あの男の名前を呼ぶ相手...
狂ってる。
モンモランシーは、そう確信したが。
同時にカルロが口にした言葉に、絶望を深くする。
『初めての男』そう言ったのだ。
絶望は彼女の力を奪い、拘束を解かれたというのに、逃れら...
「おや? 騒ぐのは止めたのか?」
凍ってしまった心で、物でも見るようにカルロを見つめる。
(ごめんね……ギーシュ……ごめんね……)
こんなどうでもいい男に、奪われる位なら……もっと早く貴方...
自分の腕がねじり上げられ、無造作に体が固定されるのを見...
「あぁ……そうだ……使い終わったら、ギーシュに返そう。一晩掛...
あいつ、俺の中古品で大喜びすることになるんだなぁぁぁぁ」
……どこまでもギーシュを愚弄する言葉に、凍った筈の心が悲...
「やぁぁぁぁぁぁっ、ギーーシュ、助けてぇぇぇぇ」
耳が痛いほどの悲鳴を聞きながら、悦に入ったカルロは濡れ...
が、そのとき。
――バキン
耳慣れない音が、廊下から響き渡る。
――メキメキメキメキ
「な、なんだっ?」
石造りの頑丈な壁が、熱せられた飴細工のように形を変える。
地震のような激しい振動に、カルロは体勢を維持できずモン...
モンモランシーはその機会を逃さず、ぼろぼろに裂かれた服...
――そして、形を変えた壁の向こうから、ギーシュ・ド・グラ...
「見つけた……」
「ギーシュ!」
モンモランシーはそのままギーシュに駆け寄り、その腕の中...
ギーシュは黙って傷だらけのモンモランシーを見ると、静か...
カルロは慌てながらもズボンを上げ、杖をギーシュに向ける。
(まだ……だ、まだ……)
カルロはギーシュがここにたどり着いたのを偶然だと判断し...
ならば……先ほどの猛り狂ったギーシュが自分に挑んできたた...
そうすればギーシュが見たことは闇に消え、モンモランシー...
その……つもりだった。
「香水が……ね……カルロ」
「? な、なんだと?」
「彼女の香水の香りが君からしたんだ……」
「……そ、そんな、どこにでも有る物で、こんな暴挙をしでかし...
カルロは知らない。
モンモランシーの香水が彼女のオリジナルである事も、今付...
ギーシュがその香りを間違えることなどありえない事も、彼...
「暴挙?」
「聖堂騎士の宿舎を破るなどっ……誅殺してくれるっ! 死ねっ」
カルロは知っている。
水精霊騎士隊・隊長。
その立派な肩書きに見合わず、ギーシュ・ド・グラモンがド...
一度杖を交わした彼は、本気を出せば自分ならば容易く彼を...
カルロが詠唱を始めたというのに、ギーシュは冷たい瞳でじ...
(諦めたのか?)
自分に勝てるはずが無いことを理解しているグラモンが、恋...
カルロはそう判断し、愉しみの予感に震えた。
(ならば……半死半生にして、奴の前で恋人を嬲ってからあの世...
ギーシュと目が合った瞬間、カルロの舌が凍りついた。
背筋を這い上がる冷たい予感が、逃げろと叫んでいた。
この男には勝てないと、自分がこいつを殺せるはず……そんな...
そう……叫んでいた。
(そんな筈は無いっ!)
惨めなプライドを振り絞り、詠唱を再開する。
そして……ギーシュに杖を向けながら……
カルロは思い出していた。
自分の呪文では、この部屋の壁に傷一つ付けられなかった事...
今、飴の様に曲がった壁が、どれほど強力な『固定化』に守...
「ワルキューレ」
ぼそりとギーシュが呟くと、”作りかけられた居た”ゴーレム...
部屋の壁を材料に構成されたゴーレムは、その作成過程の”つ...
「ちょっ! まてぇぇぇぇぇ、ぐぁ」
カルロは忘れていた。
メイジがその能力を飛躍的に伸ばす可能性を。
知っては居ても、めったに起き得ぬその現象をよもやこの男...
ここまで追い詰められた、ギーシュのモンモランシーを求め...
ワルキューレに握りつぶされかけているカルロを取り出すの...
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