ゼロの使い魔保管庫
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マリコルヌの冒険(その4) 痴女109号氏
#br
剣と剣とを打ち鳴らす鋭い金属音が、王宮の中庭に響く。
いや、響くのは撃剣の音だけではない。
太く、短く、荒い呼気。
鋭い気合。
空を斬る音に地を蹴る音。
それらの響きが組み合わさり、重ね合わさって、壮大なる一...
――が、もちろん若き女王は、そんな音声情報など気にする余裕...
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、……」
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、……どうしたサイト、もう...
「まだまだぁっ!!」
からかうようなアニエスの台詞に、才人は全身の疲労を感じ...
「ひっ!?」
思わずアンリエッタが目を伏せるほどに無雑作な間の詰め方。
当然、そのがら空きの頭蓋も砕けよとばかりに、アニエスの...
だが、来るのが分かっていれば、どんなに鋭い斬撃であろう...
しかしアニエスも黙って間合いを詰められるようなヘマはし...
乾坤一擲の上段を防がれたと知るや、才人以上の敏捷さで後...
「隙ありっ!!」
心中に勝利を叫びつつ更に一歩踏み込み、必殺の一剣を繰り...
(ッッ!?)
才人の突きを、首を振って躱したアニエスの顔には薄い笑い...
「ぐっ!?」
才人の剣が宙に舞った。
そのまま丸腰になった彼の喉元に、逆に間合いを詰めたアニ...
何が起こったのか、端で見ていたアンリエッタにも分からな...
ただ、当事者の二人と、彼らを取り巻く銃士隊の隊士たちだ...
「サイト殿っ、大丈夫ですかっ!?」
顔をしかめながら、水桶に痛む右手首を突っ込む才人は、狼...
「大丈夫ですよ。折れたわけじゃありませんし、冷やしておけ...
と答え、半ば憧れの目線で傍らの女剣士を見上げた。
「まだまだっスね。俺じゃあやっぱり、まだまだアニエスさん...
「いや、いまのは結果が示すほどに、わたしにも余裕があった...
才人がわざと正面をがら空きにして、アニエスの攻撃を誘導...
だが、これは口で言うほど簡単なことではない。
わざとであろうがなかろうが、隙は隙だ。
もしも自分が意図した通りの攻撃が来なかったら。いや、読...
彼女が評価しているのも、まさにその才人のクソ度胸である。
だが、いつもの事ながら、彼女の舌鋒は優しいだけでは済ま...
「しかしサイト、今のままでは、いささかマズイのではないか...
「え?」
「銃士隊の隊長職を任されているとはいえ、わたしごときに、...
その言葉に才人は思わず息を呑んだ。
「わたしがアルビオンで稽古をつけてやってからかなり経つが...
「……ッッッ!!」
少年は黙りこくったまま、身じろぎも出来ない。
「アニエスッ、控えなさいっ!! 王の御前ですよっ!!」
アンリエッタが、突然の部下の無礼に怒りの声を荒げるが、...
「サイト……どの……」
「アニエスさん、もう一本お願いします」
彼の相貌に浮かぶ厳しい表情は、決して手首の痛みだけが生...
そんな才人の顔を見て、アニエスはにやりと笑った。
「いいだろう。一本と言わず、貴様の気が済むまで何本でも相...
[[[[[[[[[[[[[[[[
「ああ、サイト殿、お目覚めになられましたか?」
高い天井に燦然と輝くシャンデリアが、目覚めたばかりの彼...
いや、才人の網膜を貫いたのは、その強烈な光だけではない。
胸元の谷間を強調した、女王としてはいささか自由過ぎる部...
「……ッッ、ひめさまっ!?」
その瞬間に眠気は吹っ飛んだ。
当然だろう。目を開けた瞬間に、まるで互いの額と額をくっ...
彼女は、顔を真っ赤にして狼狽する才人とは反対に、聖女の...
「大したケガもなく安心いたしましたわ。でも、念のために今...
と、にっこり笑って言った。
だが、
(そうか、おれ……アニエスさんにやられて……)
真新しい包帯だらけの我が身を厳しい眼で見つめる才人には...
(ここにいるこの方は、わたくしの知るサイト殿、なのですよ...
アンリエッタは痣だらけの少年の肌を見て、思うともなく思...
世界のあらゆる文化文明の根幹を魔法に依存するメイジにと...
たとえば、刀槍弓銃といった闘争武器術などというものに、...
女剣士アニエスを銃士隊長として取り立て、側近に加えてか...
そんなアンリエッタが、中庭で行われているという撃剣の稽...
無論、その鍔迫り合いは、嵐を起こし、燃え盛る炎を自在に...
だが……いや、だからこそ、剣という武具による闘技は、アン...
それは、アンリエッタにとって、とてつもなく寂しい事であ...
だが、そんな彼女の寂寥感など、自らの傷を眺める少年には...
アニエスに言われた言葉が、ひたすらに才人の心を打ちのめ...
アンリエッタ暗殺計画の噂がトリスタニアを席巻し、銃士隊...
だが、その副長である彼の担当は、城門でも王宮でもなく、...
無論、シュヴァリエとはいえ平民上がりの少年ごときが、国...
だが、当の才人としては、この任務は実際のところ、退屈極...
無論、奥座敷詰めの護衛は、才人一人ではない。銃士隊の隊...
アンリエッタが彼の稽古を見学しようなどと酔狂を起こした...
「サイト殿……貴方が落ち込む気持ちも分かります。でも、アニ...
――そう。稽古中の才人の左手に、ルーンが輝きを放つことはな...
彼ら二人が使っていた剣は、稽古用の刃引きの剣に過ぎず、...
たとえばそれはM72 ロケットランチャーであったり、
たとえばそれは零式艦上戦闘機であったり、
たとえばそれはナチス・ドイツ製タイガー戦車であったり、
たとえばそれは『ガンダールヴの左腕』たるデルフリンガー...
だが、やはり才人の心は落ち着かない。
アンリエッタの言うことなど百も承知だ。
家族や故郷を奪われ、女性の身でありながら剣一本を携えて...
(年季が違い過ぎる)
そう言い訳する事はいくらでも出来る。
だが、それで自分まで騙し切ることは、とうてい不可能だ。
才人には分かっている。
アニエスが言った言葉は、決して間違ってはいない。
虚無の使い魔だ、ガンダールヴだとふんぞり返ったところで...
(いや、違う……)
そうじゃない。
おそらく、あの女丈夫の言いたかったことは、おそらくそう...
彼女は、才人に『ルイズを守り切れるのか』と言った。
守るというからには、そこには“敵”の存在が不可欠になる。...
「姫様……虚無の使い魔は、虚無の担い手に勝てると思います?」
「なっ!?」
アンリエッタは絶句した。
そう、無能王ジョゼフがいない今、ルイズに触手を伸ばそう...
彼がジョゼフを葬った真の理由は、明白だ。
それは、ジョゼフが自分以外の“虚無の担い手”の抹殺を図っ...
本来、国王となるはずだった弟を暗殺し、王位を奪った簒奪...
享楽に耽り、政治を、信仰を、民を顧みない暴虐の王だった...
ともにエルフを討ち、聖地を奪回するための同志には、ジョ...
だからこそ、ジョゼフは消されたのだ。
そして、そういう意味では、教皇がルイズに毒牙を伸ばさぬ...
「ルイズは、この前の聖戦で、完全に教皇とジュリオを敵視し...
「でも、でもサイト殿……たとえそうでも、ルイズは無能王とは...
確かにそうだ。
このハルケギニアが、あくまでキリスト教文明に沿った社会...
宗教圏からの社会的抹殺を意味する、この処分をちらつかさ...
だが、それでも才人には分かる。
ルイズが教皇の同志になる事は、絶対に在り得ない、と。
そして、才人は考える。
実際問題、ロマリアが何かを仕掛けてきた時、おれはどうす...
世界への絶望と破壊欲に凍てついたジョゼフの精神さえも、...
ならば、できる事をするしかない。
世界を手玉に取るような男を相手に、詰め将棋をしても勝ち...
だが、今の自分は……あまりにも無力だ。絶望したくなるほど...
「デルフ」
「おう」
「おれは、虚無に勝てるか?」
「……どうだろうな」
「おまえは、虚無を吸収できるか?」
「やったことねえからな。わかんね、としか言えねえなぁ」
「そうか……」
そのとき、俯いた額をこつんと小突かれる感触に、顔を上げ...
「サイト殿……貴方の苦衷は分かりますが、それでも少しは、こ...
「えっ?」
「ルイズを守るのが貴方の仕事。でも、あの子を守れるのは、...
彼女はその豊かな胸に手を置くと、硬い声で言い切った。
「わたくしが、守ります。――貴方とルイズは、このトリステイ...
「ひめさま……」
その言葉は、少年の心にとても力強いものとして響く。
一国に君臨する権力者が真摯な瞳で、自分が味方になってや...
が、少年の心に満ちたぬくもりは、次の瞬間には氷点下に冷...
眼前の若き女王の瞳に灯った真摯な光が、いつの間にか、湿...
(ちょっ、またかよっ!?)
包帯だらけの若い体に、アンリエッタが乗り出すように自ら...
「ですから、サイト殿……この哀れな女王に、貴方たちを守る“報...
(もう、女王としての顔しか見せないって、言ったじゃないか...
彼としても、そうツッコミたいところだが、最近のアンリエ...
目を潤ませ、頬を染め、饒舌になり、二人きりの場所なら、...
(やべえよルイズ、やっぱこの人、露骨過ぎるよ……)
いまさら朴念仁を気取るつもりは、すでに彼には無い。アン...
だが、理由が分からない。
この高貴なる女性が、今更ながらのデレモードを再開させた...
いや、分からないといっても推測は出来る。
(やっぱ、なんのかんのと暗殺計画の噂に怯えてるんだろうな…...
この女性は、自らの権勢欲によって為政者の座を得たわけで...
無論、今のアンリエッタは、即位したてのころとは違う。王...
だが、この女性の本質は、自ら屍山血河を築いてでも鉄腕を...
実は才人は、アニエスに釘を刺されている。
「陛下のたっての希望ということで、貴様を奥座敷の警護につ...
と、彼女は眉間に皺を寄せて語った。
才人からすれば、自分の配置を勝手に決められた挙げ句、そ...
だが、まあ才人も正直言って、タカを括っていた。
いまさらアンリエッタが、自分にモーションをかけて来るわ...
だが、……結果からすれば、才人は自分の認識の甘さを大いに...
(この人、まさかおれを殺したいのか?)
アンリエッタの誘惑は、まさにそう疑わんばかりの勢いで、...
だが、……いまこのとき、平賀才人は追い詰められつつあった。
「サイト殿、少しでいいのです。多くを望むつもりは有りませ...
「なっ、何が……スか?」
「あなたがルイズに与える、その半分で構わないのです。です...
そう言いながら、少年の胸板にそっと手を置くアンリエッタ。
細く、白く、形のいい指が蠢き始め、包帯に覆われた彼の乳...
「……ッッ!?」
「愛を誓えとは申しません。伽を命じるつもりもありません。...
「いや、でも姫さま、やっぱソレまずいっていうか――」
返事を聞く気はなかったようだ。
女王は、慌てふためく男の唇を、薔薇の花弁のような自らの...
]]]]]]]]]]]]]]
――暑いな。
マリコルヌは、思わずそう呟いた。
店先から、愛馬のいななきが聞こえる。
早く乗れよ、こんな峠の茶屋で、暇潰ししている場合じゃな...
茶屋の店頭に繋いだ馬がそう言っているように聞こえた。
まあ、そう聞こえるのも無理はない。
街道沿いの宿を出てから、まだいくらも進まぬうちに、この...
僅かな食事と数杯の水で粘りまくる彼の姿は、まるで現れぬ...
グラスに注がれた水を一気に飲み干す。
(ぬるい)
思わず顔をしかめたが、誰に文句を言う筋合いもない。この...
ズキリとした疼痛が背骨を走る。
痛いのは、尻だ。
椅子が安物過ぎる、というわけではない。
何が原因かは分かっている。
(お尻叩きって、……こんなに後に引くんだな……)
快楽に酔うモンモランシーの顔が脳裡に浮かぶ。
満腔の屈辱と、恐怖と、嘔吐しそうになる程の不快感を伴っ...
「じじいめ……!!」
吐き捨てたはずの唾液が、ひたすら苦い。
あの後、モンモランシーの膣内にたっぷり発射してしまった...
もはや、モンモランシーは何も覚えていないし、ふたたび彼...
というのは、モンモランシーをオスマンに預けるや否や、マ...
(王都には……ギーシュがいる……!!)
そして、いま、都から数リーグの地点で進退窮まったように...
男が一人、店に入って来た。
「親父、酒をくれ」
その声に、店の奥から慌てて亭主が出て来る。
「済みません、お待たせしました。――ご注文は酒と仰られまし...
「そうだな、なら羊の干し肉でも貰おうか」
「はい、かしこまりました」
輝くような営業スマイルを見せ、ちょび髭を生やした店の亭...
マリコルヌは、そのまま店の隅のボックスシートに陣取った...
こんなところで、供も連れずに一人出歩くメイジに会うなど...
いや、ひょっとすると男は、メイジではあっても貴族ではな...
そのマントは旅塵にまみれて真っ白になっており、テーブル...
ただ、この男がただものでないということだけは、マリコル...
ぼさぼさの髪から覗く鋭い眼と、一面のヒゲに覆われた口元...
そして、マリコルヌが彼から目が離せなかったのは、さらに...
少年は、その男に見覚えがあったのだ。
(どこで見たっけ……? いや、確かにどっかで見たよな……間違...
「小僧、俺に何か用か」
猛禽を思わせる鋭い視線がマリコルヌを貫く。
「あっ、いっ、いえっ! すみませんっっ!!」
慌てて頭を下げる少年に、男は、さらに追い討ちをかけた
「そのように、他人をじろじろ見るのは感心せんな。俺の機嫌...
「すっ、すみません! すみませんっっ!!」
狼狽するマリコルヌは、懐から銀貨を取り出し、自分が座っ...
自分が飲んだ数杯の水と食事。銀貨一枚では、かなりの額の...
「なんだったんだ、あのヤロウ……」
マリコルヌがさっきの男を馬上で回想したのは、馬が店から...
いきなり全速力で早駆けをさせたものだから、馬もかなり息...
「この老いぼれ馬が……!」
舌打ちしながら、思わず呟く。
まさか追ってくるとは思わないが、もしも男が、まともな馬...
「せめてペガサスかユニコーンとまでは言わないがよ。やっぱ...
その瞬間、袋小路が開いた。
閉ざされていた記憶が連結し、そこに鮮やかに、男の姿が甦...
(ユニ、コーン……!)
あれはフリッグの舞踏会から数日後。
当時はまだ即位していなかったアンリエッタが学院を訪れた...
王女を乗せた、ユニコーンが牽引する王家の馬車。その傍ら...
「たしか……ワルド子爵……とか……っっ!?」
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マリコルヌの冒険(その4) 痴女109号氏
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剣と剣とを打ち鳴らす鋭い金属音が、王宮の中庭に響く。
いや、響くのは撃剣の音だけではない。
太く、短く、荒い呼気。
鋭い気合。
空を斬る音に地を蹴る音。
それらの響きが組み合わさり、重ね合わさって、壮大なる一...
――が、もちろん若き女王は、そんな音声情報など気にする余裕...
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、……」
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、……どうしたサイト、もう...
「まだまだぁっ!!」
からかうようなアニエスの台詞に、才人は全身の疲労を感じ...
「ひっ!?」
思わずアンリエッタが目を伏せるほどに無雑作な間の詰め方。
当然、そのがら空きの頭蓋も砕けよとばかりに、アニエスの...
だが、来るのが分かっていれば、どんなに鋭い斬撃であろう...
しかしアニエスも黙って間合いを詰められるようなヘマはし...
乾坤一擲の上段を防がれたと知るや、才人以上の敏捷さで後...
「隙ありっ!!」
心中に勝利を叫びつつ更に一歩踏み込み、必殺の一剣を繰り...
(ッッ!?)
才人の突きを、首を振って躱したアニエスの顔には薄い笑い...
「ぐっ!?」
才人の剣が宙に舞った。
そのまま丸腰になった彼の喉元に、逆に間合いを詰めたアニ...
何が起こったのか、端で見ていたアンリエッタにも分からな...
ただ、当事者の二人と、彼らを取り巻く銃士隊の隊士たちだ...
「サイト殿っ、大丈夫ですかっ!?」
顔をしかめながら、水桶に痛む右手首を突っ込む才人は、狼...
「大丈夫ですよ。折れたわけじゃありませんし、冷やしておけ...
と答え、半ば憧れの目線で傍らの女剣士を見上げた。
「まだまだっスね。俺じゃあやっぱり、まだまだアニエスさん...
「いや、いまのは結果が示すほどに、わたしにも余裕があった...
才人がわざと正面をがら空きにして、アニエスの攻撃を誘導...
だが、これは口で言うほど簡単なことではない。
わざとであろうがなかろうが、隙は隙だ。
もしも自分が意図した通りの攻撃が来なかったら。いや、読...
彼女が評価しているのも、まさにその才人のクソ度胸である。
だが、いつもの事ながら、彼女の舌鋒は優しいだけでは済ま...
「しかしサイト、今のままでは、いささかマズイのではないか...
「え?」
「銃士隊の隊長職を任されているとはいえ、わたしごときに、...
その言葉に才人は思わず息を呑んだ。
「わたしがアルビオンで稽古をつけてやってからかなり経つが...
「……ッッッ!!」
少年は黙りこくったまま、身じろぎも出来ない。
「アニエスッ、控えなさいっ!! 王の御前ですよっ!!」
アンリエッタが、突然の部下の無礼に怒りの声を荒げるが、...
「サイト……どの……」
「アニエスさん、もう一本お願いします」
彼の相貌に浮かぶ厳しい表情は、決して手首の痛みだけが生...
そんな才人の顔を見て、アニエスはにやりと笑った。
「いいだろう。一本と言わず、貴様の気が済むまで何本でも相...
[[[[[[[[[[[[[[[[
「ああ、サイト殿、お目覚めになられましたか?」
高い天井に燦然と輝くシャンデリアが、目覚めたばかりの彼...
いや、才人の網膜を貫いたのは、その強烈な光だけではない。
胸元の谷間を強調した、女王としてはいささか自由過ぎる部...
「……ッッ、ひめさまっ!?」
その瞬間に眠気は吹っ飛んだ。
当然だろう。目を開けた瞬間に、まるで互いの額と額をくっ...
彼女は、顔を真っ赤にして狼狽する才人とは反対に、聖女の...
「大したケガもなく安心いたしましたわ。でも、念のために今...
と、にっこり笑って言った。
だが、
(そうか、おれ……アニエスさんにやられて……)
真新しい包帯だらけの我が身を厳しい眼で見つめる才人には...
(ここにいるこの方は、わたくしの知るサイト殿、なのですよ...
アンリエッタは痣だらけの少年の肌を見て、思うともなく思...
世界のあらゆる文化文明の根幹を魔法に依存するメイジにと...
たとえば、刀槍弓銃といった闘争武器術などというものに、...
女剣士アニエスを銃士隊長として取り立て、側近に加えてか...
そんなアンリエッタが、中庭で行われているという撃剣の稽...
無論、その鍔迫り合いは、嵐を起こし、燃え盛る炎を自在に...
だが……いや、だからこそ、剣という武具による闘技は、アン...
それは、アンリエッタにとって、とてつもなく寂しい事であ...
だが、そんな彼女の寂寥感など、自らの傷を眺める少年には...
アニエスに言われた言葉が、ひたすらに才人の心を打ちのめ...
アンリエッタ暗殺計画の噂がトリスタニアを席巻し、銃士隊...
だが、その副長である彼の担当は、城門でも王宮でもなく、...
無論、シュヴァリエとはいえ平民上がりの少年ごときが、国...
だが、当の才人としては、この任務は実際のところ、退屈極...
無論、奥座敷詰めの護衛は、才人一人ではない。銃士隊の隊...
アンリエッタが彼の稽古を見学しようなどと酔狂を起こした...
「サイト殿……貴方が落ち込む気持ちも分かります。でも、アニ...
――そう。稽古中の才人の左手に、ルーンが輝きを放つことはな...
彼ら二人が使っていた剣は、稽古用の刃引きの剣に過ぎず、...
たとえばそれはM72 ロケットランチャーであったり、
たとえばそれは零式艦上戦闘機であったり、
たとえばそれはナチス・ドイツ製タイガー戦車であったり、
たとえばそれは『ガンダールヴの左腕』たるデルフリンガー...
だが、やはり才人の心は落ち着かない。
アンリエッタの言うことなど百も承知だ。
家族や故郷を奪われ、女性の身でありながら剣一本を携えて...
(年季が違い過ぎる)
そう言い訳する事はいくらでも出来る。
だが、それで自分まで騙し切ることは、とうてい不可能だ。
才人には分かっている。
アニエスが言った言葉は、決して間違ってはいない。
虚無の使い魔だ、ガンダールヴだとふんぞり返ったところで...
(いや、違う……)
そうじゃない。
おそらく、あの女丈夫の言いたかったことは、おそらくそう...
彼女は、才人に『ルイズを守り切れるのか』と言った。
守るというからには、そこには“敵”の存在が不可欠になる。...
「姫様……虚無の使い魔は、虚無の担い手に勝てると思います?」
「なっ!?」
アンリエッタは絶句した。
そう、無能王ジョゼフがいない今、ルイズに触手を伸ばそう...
彼がジョゼフを葬った真の理由は、明白だ。
それは、ジョゼフが自分以外の“虚無の担い手”の抹殺を図っ...
本来、国王となるはずだった弟を暗殺し、王位を奪った簒奪...
享楽に耽り、政治を、信仰を、民を顧みない暴虐の王だった...
ともにエルフを討ち、聖地を奪回するための同志には、ジョ...
だからこそ、ジョゼフは消されたのだ。
そして、そういう意味では、教皇がルイズに毒牙を伸ばさぬ...
「ルイズは、この前の聖戦で、完全に教皇とジュリオを敵視し...
「でも、でもサイト殿……たとえそうでも、ルイズは無能王とは...
確かにそうだ。
このハルケギニアが、あくまでキリスト教文明に沿った社会...
宗教圏からの社会的抹殺を意味する、この処分をちらつかさ...
だが、それでも才人には分かる。
ルイズが教皇の同志になる事は、絶対に在り得ない、と。
そして、才人は考える。
実際問題、ロマリアが何かを仕掛けてきた時、おれはどうす...
世界への絶望と破壊欲に凍てついたジョゼフの精神さえも、...
ならば、できる事をするしかない。
世界を手玉に取るような男を相手に、詰め将棋をしても勝ち...
だが、今の自分は……あまりにも無力だ。絶望したくなるほど...
「デルフ」
「おう」
「おれは、虚無に勝てるか?」
「……どうだろうな」
「おまえは、虚無を吸収できるか?」
「やったことねえからな。わかんね、としか言えねえなぁ」
「そうか……」
そのとき、俯いた額をこつんと小突かれる感触に、顔を上げ...
「サイト殿……貴方の苦衷は分かりますが、それでも少しは、こ...
「えっ?」
「ルイズを守るのが貴方の仕事。でも、あの子を守れるのは、...
彼女はその豊かな胸に手を置くと、硬い声で言い切った。
「わたくしが、守ります。――貴方とルイズは、このトリステイ...
「ひめさま……」
その言葉は、少年の心にとても力強いものとして響く。
一国に君臨する権力者が真摯な瞳で、自分が味方になってや...
が、少年の心に満ちたぬくもりは、次の瞬間には氷点下に冷...
眼前の若き女王の瞳に灯った真摯な光が、いつの間にか、湿...
(ちょっ、またかよっ!?)
包帯だらけの若い体に、アンリエッタが乗り出すように自ら...
「ですから、サイト殿……この哀れな女王に、貴方たちを守る“報...
(もう、女王としての顔しか見せないって、言ったじゃないか...
彼としても、そうツッコミたいところだが、最近のアンリエ...
目を潤ませ、頬を染め、饒舌になり、二人きりの場所なら、...
(やべえよルイズ、やっぱこの人、露骨過ぎるよ……)
いまさら朴念仁を気取るつもりは、すでに彼には無い。アン...
だが、理由が分からない。
この高貴なる女性が、今更ながらのデレモードを再開させた...
いや、分からないといっても推測は出来る。
(やっぱ、なんのかんのと暗殺計画の噂に怯えてるんだろうな…...
この女性は、自らの権勢欲によって為政者の座を得たわけで...
無論、今のアンリエッタは、即位したてのころとは違う。王...
だが、この女性の本質は、自ら屍山血河を築いてでも鉄腕を...
実は才人は、アニエスに釘を刺されている。
「陛下のたっての希望ということで、貴様を奥座敷の警護につ...
と、彼女は眉間に皺を寄せて語った。
才人からすれば、自分の配置を勝手に決められた挙げ句、そ...
だが、まあ才人も正直言って、タカを括っていた。
いまさらアンリエッタが、自分にモーションをかけて来るわ...
だが、……結果からすれば、才人は自分の認識の甘さを大いに...
(この人、まさかおれを殺したいのか?)
アンリエッタの誘惑は、まさにそう疑わんばかりの勢いで、...
だが、……いまこのとき、平賀才人は追い詰められつつあった。
「サイト殿、少しでいいのです。多くを望むつもりは有りませ...
「なっ、何が……スか?」
「あなたがルイズに与える、その半分で構わないのです。です...
そう言いながら、少年の胸板にそっと手を置くアンリエッタ。
細く、白く、形のいい指が蠢き始め、包帯に覆われた彼の乳...
「……ッッ!?」
「愛を誓えとは申しません。伽を命じるつもりもありません。...
「いや、でも姫さま、やっぱソレまずいっていうか――」
返事を聞く気はなかったようだ。
女王は、慌てふためく男の唇を、薔薇の花弁のような自らの...
]]]]]]]]]]]]]]
――暑いな。
マリコルヌは、思わずそう呟いた。
店先から、愛馬のいななきが聞こえる。
早く乗れよ、こんな峠の茶屋で、暇潰ししている場合じゃな...
茶屋の店頭に繋いだ馬がそう言っているように聞こえた。
まあ、そう聞こえるのも無理はない。
街道沿いの宿を出てから、まだいくらも進まぬうちに、この...
僅かな食事と数杯の水で粘りまくる彼の姿は、まるで現れぬ...
グラスに注がれた水を一気に飲み干す。
(ぬるい)
思わず顔をしかめたが、誰に文句を言う筋合いもない。この...
ズキリとした疼痛が背骨を走る。
痛いのは、尻だ。
椅子が安物過ぎる、というわけではない。
何が原因かは分かっている。
(お尻叩きって、……こんなに後に引くんだな……)
快楽に酔うモンモランシーの顔が脳裡に浮かぶ。
満腔の屈辱と、恐怖と、嘔吐しそうになる程の不快感を伴っ...
「じじいめ……!!」
吐き捨てたはずの唾液が、ひたすら苦い。
あの後、モンモランシーの膣内にたっぷり発射してしまった...
もはや、モンモランシーは何も覚えていないし、ふたたび彼...
というのは、モンモランシーをオスマンに預けるや否や、マ...
(王都には……ギーシュがいる……!!)
そして、いま、都から数リーグの地点で進退窮まったように...
男が一人、店に入って来た。
「親父、酒をくれ」
その声に、店の奥から慌てて亭主が出て来る。
「済みません、お待たせしました。――ご注文は酒と仰られまし...
「そうだな、なら羊の干し肉でも貰おうか」
「はい、かしこまりました」
輝くような営業スマイルを見せ、ちょび髭を生やした店の亭...
マリコルヌは、そのまま店の隅のボックスシートに陣取った...
こんなところで、供も連れずに一人出歩くメイジに会うなど...
いや、ひょっとすると男は、メイジではあっても貴族ではな...
そのマントは旅塵にまみれて真っ白になっており、テーブル...
ただ、この男がただものでないということだけは、マリコル...
ぼさぼさの髪から覗く鋭い眼と、一面のヒゲに覆われた口元...
そして、マリコルヌが彼から目が離せなかったのは、さらに...
少年は、その男に見覚えがあったのだ。
(どこで見たっけ……? いや、確かにどっかで見たよな……間違...
「小僧、俺に何か用か」
猛禽を思わせる鋭い視線がマリコルヌを貫く。
「あっ、いっ、いえっ! すみませんっっ!!」
慌てて頭を下げる少年に、男は、さらに追い討ちをかけた
「そのように、他人をじろじろ見るのは感心せんな。俺の機嫌...
「すっ、すみません! すみませんっっ!!」
狼狽するマリコルヌは、懐から銀貨を取り出し、自分が座っ...
自分が飲んだ数杯の水と食事。銀貨一枚では、かなりの額の...
「なんだったんだ、あのヤロウ……」
マリコルヌがさっきの男を馬上で回想したのは、馬が店から...
いきなり全速力で早駆けをさせたものだから、馬もかなり息...
「この老いぼれ馬が……!」
舌打ちしながら、思わず呟く。
まさか追ってくるとは思わないが、もしも男が、まともな馬...
「せめてペガサスかユニコーンとまでは言わないがよ。やっぱ...
その瞬間、袋小路が開いた。
閉ざされていた記憶が連結し、そこに鮮やかに、男の姿が甦...
(ユニ、コーン……!)
あれはフリッグの舞踏会から数日後。
当時はまだ即位していなかったアンリエッタが学院を訪れた...
王女を乗せた、ユニコーンが牽引する王家の馬車。その傍ら...
「たしか……ワルド子爵……とか……っっ!?」
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