ゼロの使い魔保管庫
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我が家はメイドお断り ぎふと氏
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「なんとか卒業までには間に合いそうだな」
「そうね。客室やお庭は後で構わないし。食事と寝床さえあれ...
「二人きりを邪魔されなければ、もうなんでもいいよ。なあル...
「……って、ちょっとこら、なにすんのよ」
「週末さ、買い物に行こうよ。家具とか日用品とか、服も」
「……や……だめ、そこだめッ」
「いろいろと、けっこう物入りだよなぁ。金足りっかな」
「……し、使用人は、どうするの?」
「それもあったな。どうしようか」
「……私の実家に言って、はうッ、身元のしっかりした人、あん...
「それいいな。頼める?」
「も、もちろん。……あ、でもっ」
そこでルイズは言葉を切った。それから真顔で、
「メイドだけは要らないわ」
きっぱり宣言した。
+ + +
満天の星空の下。夜風をつっきって飛ぶ一匹の風竜がいる。
その背にひしとしがみついているのは、黒髪の少年。ルイズ...
王宮での仕事を終えて、自宅への帰り道。
おりしも通り過ぎた強い突風に煽られて、才人は嘆きの声を...
「うひぃ! さみーって! 冷えるって! 凍死しちまうよ!」
上空はるか三千メイル。
首を伸ばして下界を見下ろせば、鬱蒼とした森が黒々と広が...
落ちれば確実に命はない。握りしめる手綱が文字通り、唯一...
「なあ頼むから、もっと風とか乗り心地とか考えて飛んでくれ...
声を張り上げて、才人は哀願した。
「俺が魔法使えないの知ってんだろ! 風を避けたり宙を飛ん...
風竜は頭を才人の方に向け、笑うように歯をむき出した。魔...
「なんだよ魔法、魔法ってそんなに偉いもんかよ。俺なんてガ...
返答なし。
残念なことにドラゴンは人語を解さないのだ。
それでも構わずに才人は続ける。
「別に尊敬しろとまでは言わねーよ。言わねーけどさ、ちっと...
寒い上に、体はへとへと。今にもまぶたが落ちそうだ。
だが寝てしまえば、天国行きのチケットを手に入れてしまう...
だからせめて口だけでも動かしていようと、才人はひたすら...
タバサの使い魔シルフィードの口利きで、毎日の王宮への行...
ところがこの誇り高く長命な種族は、容易に馴れ合おうとは...
契約だから仕方なく相手してやってるんだと言わんばかりの...
今じゃすっかり懐いた仔猫のようなピンクのもふもふ。その...
あーあ、と才人は低く呟いた。
「じゃじゃ馬ならしなんてもう二度とごめんだよ」
竜は、風をつかまえるべく大きく身をくねらせた。ぐんとス...
才人の体が風圧で浮き上がった。
吹き飛ばされそうになりながら、才人は目をつむりひたすら...
一時間。それだけ我慢すれば至福の時が待っている。
「新婚さん新婚さん新婚さん……。メイドメイドメイド……」
一心に唱える。
木の枝にひっついている枯葉のように、才人は竜の背の上で...
才人とルイズの屋敷は、ラ・ヴァリエールの領地の隅っこに...
「親の監視下に置かれるなんて、冗談じゃないわ! もう子供...
当初ルイズは猛反対した。
しかし『虚無』でありかつ『第二の王位継承者』でもある人...
アンリエッタ女王からも、「それでは王城内で暮らした方が...
もとより才人の方は賛成である。四六時中ルイズの傍にいて...
そしていざふたを開けてみると、この提案は別の意味でも利...
無償で土地を手に入れたために、予算に余裕ができ、城とは...
本館は二階建。
横に長いスタイルで、青い屋根に白壁の優雅で瀟洒な佇まい。
正面には広い車回しと薔薇の咲き乱れる花壇があり、それを...
横手にはゼロ戦やドラゴンが着陸できる広いスペースが設け...
さらに先を行くと、小舟の浮かぶ池や、足休めの東屋が配さ...
休日の穏やかな午後、そんな風景の中にいるルイズは、花の...
さらに敷地内には、本館とは別に厩や使用人専用の宿舎まで...
そんな我が家を上空から見下ろすと、砂漠の中のオアシスの...
その灯りの暖かさに、才人はほっと息をついた。
まだ住み始めて僅かだけれど、すっかり住み慣れた自分の城...
風竜はぐるり円を描いてから、静かに着地した。
主人の帰宅は、遠目のきく訓練されたフクロウによって報さ...
皆かなりの年配……、それも年寄りといってもいい年齢の者ば...
唐突に、子供の頃に家族旅行で訪れた温泉旅館を思い出す。...
「おかえりなさーい!」
上から声がした。
見上げると、屋敷の二階の窓から桃髪の少女が身を乗り出し...
「ルイズ!」
才人は嬉しそうな声をあげた。
頬を上気させて手を振る少女の姿は、美しい西洋風の館とあ...
腰まで届く波打つプロンド。宝石のように煌く大きな瞳。
こんな距離からでも容易にわかる。
まぎれもなくルイズ・フランソワーズは極上の美少女だった。
いやはやこんな可愛い子、映画の中やゲームの中でだって早...
ファンタジー世界万歳である。
そんな少女の頭を飾るのは、白のカチューシャ。
体を包むのは、漆黒のワンピースに、レースひらひら純白エ...
さて問題です。この衣装はなんでしょう? 答え。萌え装備...
「ルイズ、たっだいまー!」
「行くわよ!」
少女は勇ましげにそう言うと、杖を掲げてなにやら呪文を詠...
ひらりそのまま宙を舞う。
桃色がかったブロンドが、広がってなびく。
これがもし背中に羽でも生えていて、鳥のように軽やかに降...
目もくらむ衝撃とともに、その体を才人は全身で受け止めた...
ともかく才人はルイズの下敷きになったまま……、切なげに漏...
「お前さ、俺のこと生身の人間だってわかってんの?」
「わかってるわよ!」
ルイズは痛みに顔をゆがめ、悔しげに拳を震わせる。
「いい、見てなさい? 明日はしっかり決めてみせるんだから...
「諦める気、ない?」
念押しに聞いてみたが、
「聞くだけ無駄!」
軽く一蹴されて、才人は諦めて肩を落とす。
まあ、いいけどさ。こういうのが子供の頃からの夢だったと...
その程度の度量は持ち合わせているし、それに自分だって似...
「ほらほらほらぁ」
いきなりルイズが甘え声に変わった。
「なんだよ」
「だからぁ、帰ってきたらぁ、まず言うことあるでしょ」
指でぐりぐりと才人の胸をつつきまわす。
「もしかしてあれ?」
「そうよ」
「言わなきゃだめかな」
「当たり前じゃない」
仕方ないなぁ、と才人は、こほんと咳一つ。
「ただいま、俺の可愛い奥さん。会えない間すっごくさびしか...
すらすらと言い切る。コツは深く意味を考えないこと。要は...
ほわんとルイズの瞳が夢見る乙女のそれに変わる。
「ちゃんと言ったぞ。ほら、お前も言えよ」
「う、うん……」
ルイズは恥ずかしそうに俯いて、両の人差し指をもじもじと...
「おおお、おかえりなさいませ。ごごご、ご主人様っ!」
しぼりだすように、言った。さらにワンピースの裾を握りし...
「ごご、ご主人様がいらっしゃらないので、ルイズとってもさ...
真っ赤に染まった顔で、言った。
くはぁ、と才人の口から間抜けた息が漏れる。
(……やっぱ俺って天才! 天才ここに極まれり!)
これぞ平賀才人考案・日替わりお帰りメッセージ。
本日のお題は『メイド』。
他にも、制服バージョン、猫バージョン、ゴスロリバージョ...
そして今ルイズの身につけているメイド服は、学院のそれの...
馬乗りになっているルイズの下半身に目をやると……、究極の...
「じゃ、じゃあ、寂しくさせたお詫びに、今日はいっぱいかわ...
興奮しきりに、ああちくしょう、どうやってかわいがってや...
「ん……」
ルイズは素直に目をつむった。その薔薇の唇に己のそれをゆ...
ぎゃんと叫びをあげて、二人は地面をゴロゴロ転がった。
上空に現れた黒い影がわんわんとがなる。
「下界の者どもに告ぐぅ! 即刻そのいちゃいちゃを止めろー...
ぽかんとした表情でルイズはそれを見上げ、呟いた。
「……王室の竜籠?」
いかにもそれは王室専用の竜籠であった。
四隅を飛竜につながれた王室の紋章付きの籠は、空からゆっ...
「まったく君たちは変わらないな。いったい恥ずかしくないの...
最初に姿を現したのはギーシュ。続いてマリコルヌが、ねっ...
「そうかぁ。これが噂の“新婚さんごっこ”ってやつかぁ。なぜ...
勝手に納得し、次いでルイズに意味ありげな視線を送る。
「というかね、ルイズ。君のその格好はなんだい? それがサ...
「ちち違うわ! したくてしてるんじゃないわ!」
ルイズは弾けるように立ち上がった。
前かがみに、極ミニワンピースの裾を引っ張る。すると困っ...
「し、仕方ないじゃない! これがサイトの故郷の習慣だって...
「習慣ねぇ」
「本当なんだから! ね、そうよねサイト!」
才人は顔を赤らめ、苦しい言い訳をした。
「あー俺のいた国じゃさ、新妻はこういった格好で夫に奉仕す...
「そういえば、君は東方の出身だったな。向こうじゃそんな素...
しきりに感心するギーシュの様子に、おいおい信じるなよ、...
「それよりあんたたち、いったい何しに来たのよ!」
「ずいぶんとご挨拶だな。君のためにわざわざこんな辺鄙な場...
ギーシュは脇に寄ると、背後にいた人物をつと前に押し出し...
明るい懐かしい声が、ルイズに向けられる。
「お久しぶりです、ミス・ヴァリエール。またしばらくお世話...
にっこり微笑んでお辞儀をしたのは……、ついこの前まで同じ...
「シエスタ……!」
ルイズの瞳が大きく見開かれる。
「なによこれ、どういうこと?」
ルイズは才人の方を振り返った。すでに話は通じているらし...
「ひとまず詳しい話は、陛下から直接伺ってくれないか。お待...
そう言って、ギーシュが杖を一振りすると、すうっと布に覆...
ふぁさりと布が地面に落ちる。一枚の鏡が姿を現した。
「あいかわらずね、ルイズ・フランソワーズ。あなたの元気な...
鏡の中から語りかけてきたのは、麗しきトリステインの女王...
+ + +
「ガリア行きに、サイトを同行させるですって! そんな話は...
ルイズの声がこだまのように部屋に響き、テーブルの上のグ...
一同は、中庭から応接間に場を移していた。
立ち話をするには春の夜風は冷えすぎるし、それにアンリエ...
「落ち着いてちょうだい、ルイズ・フランソワーズ。まだそう...
魔法の鏡を通じて、アンリエッタは宥めるようにルイズに声...
「サイト殿が、どうしてもあなたの許可がないと行けないとい...
“ガリア行き”とは、今からちょうど一週間後にガリア東の国...
その会議に、アンリエッタは才人を護衛として随行させたい...
長期間にわたる会議である。行けば少なく見積もっても、二...
会議の成り行きによってはさらに長引くかもしれない。
「では私もお供します! 非常時には、きっと私の『虚無』が...
「なりませぬ。あなたの『虚無』は国外に出すわけには参りま...
「ですが……」
ルイズは顔を曇らせた。
才人と離れるといっても、せいぜい一ヶ月足らず。
たったそれだけなのに、なぜこんなにも不安に思うのだろう。
才人が護衛として優秀なことは理解できる。
ガンダールヴの力は元来守るための能力。とっさの対処はメ...
護衛につけるとしたら、才人以上の人材は考えられない。
自分がアンリエッタの立場なら、きっと同じことをするに違...
けれども……。
アンリエッタが、わざわざ才人を望んだ理由が、他にもない...
単に才人を側に置きたいだけ……。そんなふうには考えられな...
もしかしたらと疑念が黒い靄のように胸の中に湧きあがる。
もしかしたら……。
アンリエッタはまだ才人に特別な感情を抱いているのではな...
才人はそれに気づいていて、そのために同行を拒んでいるの...
疑念が、ルイズの首を縦に振らせてくれない。
そうやって悶々としながら、ルイズが黙っていると、
「やっぱりこの話はなかったことにして下さい」
力強くきっぱりとした才人の声に、ルイズははっと我に返っ...
「……サイト?」
「そりゃ俺は近衛ですし、姫さまをお守りするのが役目です。...
鏡をまっすぐに見据えて才人は言った。
「ですが、サイト殿。ガリアに行けば、エルフの長と、直接話...
「それは……」
才人の表情が翳りを帯びる。
しかしすぐさま、吹き飛ばすように首を振った。
「今回は諦めます。いずれ東には自分の足で行くつもりだし、...
「こんなに頼んでも駄目でしょうか……」
アンリエッタの瞳が潤んだような気がして、才人はそれを見...
つくづくこういった高貴な儚げな人のお願いには弱いのであ...
「あ、あの、姫さま!」
その時、ガタンと大きな音を立てて、ルイズが立ち上がった。
「お話はすべて承知いたしました! サイトは姫さまの騎士で...
「ちょ、お前。ルイズ。何言い出すんだよ!」
するとルイズは、才人の方に向き直り、眉を大きく吊り上げ...
両手を腰にあて、薄い胸をめいっぱい反らし、冷ややかに目...
「あんたね、何勘違いしてんのよ。いつからそんなに偉くなっ...
「え、いや、でも」
「仕事じゃない。お給金頂いてるんじゃない。ったく少しは自...
びしぃと、決め台詞よろしく言い放つ。
「まあ、お前がそう言うんなら……」
才人は困りきったように頭をかいた。さっきまでの威勢はど...
周囲からくすくすと失笑が漏れた。かくいう女王陛下も例外...
「感謝します。ルイズ・フランソワーズ。サイト殿はきっと無...
「いいえ、当然のことをしたまでですわ。単にこいつがわから...
「そんなことを言ってはいけないわ、ルイズ。サイト殿はあな...
ルイズの顔が真っ赤に染まる。
「それでは、ルイズ・フランソワーズ。しばらくサイト殿をお...
アンリエッタは、視線を別の方へと向けた。
その先にいるのは、今までずっと無言だった黒髪のメイド。
「そちらのシエスタです。サイト殿から、あなたの家にはメイ...
「で、でも、シエスタはもう王宮付きで!」
「かまいませんわ」
にっこりと微笑むアンリエッタ。
ち、ち、違うんです姫さま! かまうのは私の方で!
ルイズは、ぱくぱくと声にならない言葉を発した。
この家にメイドがいないのは、なにも人材が見つからないせ...
ぶっちゃけ言えば、シエスタのような相手に二度と煩わされ...
二番目でいいですからー、どうですかこの胸ー、いつでも触...
そんなイヤらしいメイドを、同じ屋根の下に置いておけるわ...
ルイズは黒髪のメイドを横目で睨みつけながら、わなわなと...
ぜーったいに、どんなに不自由したってぜぇーったいに、メ...
「ご安心なさって、ミス・ヴァリエール。そちらの私は、サイ...
へ? とルイズの目が丸くなる。
今のは確かにメイドの声。けれども聞こえてきた方向は……。
その方向、つまり鏡の方に目を移すと、驚いたことに問題の...
ただし私服でも魔法学院のメイド服でもなく、高級で上品な...
あっちにもメイド。こっちにもメイド。
「メイドが二人? ……どういうこと?」
「スキルニルですわ」
アンリエッタの朗らかな声が伝える。
スキルニルとは、マジックアイテムの一つ。魔法人形のこと...
血を吸わせることによって、その血の持ち主と寸分たがわぬ...
容姿だけではない。能力や記憶までもが正確に複写される。
但し、感情は持たない。
「そのスキルニルは、あなたとサイト殿の命令を聞くように作...
なるほど、とルイズはようやく納得した。
シエスタが終始行儀よく振舞っていることを、ルイズはずっ...
いつもの彼女なら、たとえ女王陛下の御前であっても、こっ...
というより、絶対にそうする。
なぁんだ。そっかぁ。人形なんだ。ルイズはほっと力を抜い...
まあ人形ならいいかもしれない。せいぜいこきつかってやろ...
「あ、サイトさん、サイトさん」
「なに、シエスタ?」
「その人形、サイトさんの言うことも聞くようにしてあります...
ぴきっ。ルイズのこめかみに青筋が立つ。
「もちろんガリアでも、お好きになさってかまわないんですよ...
ぴきぴき。ルイズの青筋が枝分かれした。
「ちょっとメイド! まさかあんたも一緒にガリアについてく...
すると、鏡の中のメイドは、勝ち誇ったような表情でにっこ...
「はい、その通りですわ。ミス・ヴァリエール」
+ + +
客人が帰った後、才人とルイズは遅い夕食を済ませると、自...
「あのさ。俺、風呂に入るけど……」
才人は声をかけたが、いってらっしゃい、とルイズの返事は...
不機嫌だとか怒ってるとか、そういう感じではなく、机に向...
ようするに上の空。
皆が帰ってからというもの、どういう訳かルイズはずっとこ...
「えっとさ、ルイズ。俺、今日とっても疲れてて、そのう、背...
「ん。なに?」
「いや、なんでもない。入ってくる」
どうやら今日は諦めた方が良さそうだ。
しょんぼり肩を落とした才人は、一人さみしくバスルームに...
「……ま、怒っていないだけマシだよな」
熱い湯につかりながら、一人ごちる。
人形とはいえ、あれだけ嫌がっていたメイドを連れてきたの...
こんなにスムーズに受け入れてくれるとは、正直思ってもみ...
そのメイド人形は、休むまもなく、さっそく精力的に家事を...
とても今日来たばかりと思えない手際の良さに、この分なら...
メイドの仕事は、なにも掃除や洗濯ばかりではない。
メイド長ともなれば、鍵や貴重品の管理だの、使用人の監督...
ましてや今は屋敷の工事もあるから、やるべきことは相当に...
「あいつ、お嬢さん育ちのくせに、案外たくましいんだよなあ...
試しに、平民バージョンのルイズを頭に描いてみる。
平民の暮らしというと、まず思い浮かぶのはシエスタの実家...
昼間は水汲みに炊事洗濯。夜は大勢の子供に囲まれながら繕...
うーん……。
そういえば、ぐにゃぐにゃクラゲの手作りセーターが、今も...
やっぱりあいつにゃ農村暮らしは無理だ。
次に街娘ジェシカを思い浮かべる。
トリスタニアの下町の隅っこに、安い石造りのアパートの一...
いそいそと市場に買い物に行くルイズ。
「お嬢さん、今日は魚が安いよ! 可愛いお嬢さんには大サー...
「ならおじさんは、この肉をサービスしようかな!」
仕事から帰ってみると、テーブルの上に山と積まれた食材が…...
「ごめんなさい、サイト。今月分のお給料ぜんぶなくなっちゃ...
無理すぎる……。
「結局、あいつは根っからの貴族なんだよなあ」
しみじみと思う。
頭に浮かぶルイズは、いつだって胸を張って、誇りを持って...
肝心かなめのところでは、決して媚びたり頼ったりなどしな...
そんな貴族の娘が、結婚もしない男と一つ屋根の下で暮らす...
その風当たりは強く、世間からもありもしない噂を言い立て...
「その辺は日本も似たようなもんだろうけどさ。やっぱなんと...
はあ、と大きく息を吐いて、才人はぶくぶくと湯船に沈んだ。
+ + +
才人が、風呂から戻ってみると……。
ルイズは、書き物机を前にして、寝息をたてていた。
腕を前に投げ出して、頬を机にくっつけて、すやすやと気持...
「……ルイズ、風呂いいのか?」
揺さぶり起こそうと手を伸ばしかけた、その時。
才人は机の上に、革表紙の本のようなものを見つけた。
それはルイズの日記帳だった。
なるほど、風呂に入っている間、ルイズはこれを書いていた...
才人は納得して頷く。
きっと書いているうちに、昼間の疲れが出てしまったのだろ...
そうとわかると、無理に起こすのも忍びなくなって、才人は...
「こうして眠っているところは、ほんと可愛いんだよな……」
机に片ひじをつきながら、うっとりとルイズの寝顔を見つめ...
人形のように整った顔立ち。柔らかでいい香りのする桃色の...
その髪の合間からのぞく透き通るような首筋。どれもが才人...
そんなルイズを眺めていると……、懐かしい過去の記憶が思い...
ギーシュと初めて揉めた時の記憶だ。
大怪我の末に、才人が長い眠りから目を覚ましてみると、今...
その神がかったような愛らしさと、そして思いがけなく知っ...
もしかして、と才人は疑問に思った。
その頃から、もうルイズに惚れてたのかな?
どうなんだろう? 首をひねったが、よくわからない。
とっくに出会い頭の一目惚れだったような気もするし、ずっ...
結局……、悩むのを諦めた。
だいたいが、才人は深く考えるのが得意ではない。
ただ一つわかるのは、目の前にいる少女を、何がなんでも守...
好きかどうかなんて、実のところは口にするほどわかっちゃ...
だけど……、守りたいという気持ちならば、自信がある。
理屈じゃない。守りたい。ただそれだけだ。
いつしか才人の中に温かい気持ちが生まれて、それが大きく...
才人はそっとルイズの頬に手を伸ばし、指で触れた。
すると、ルイズはいやいやをするように、頭を振る。
淡く色づいた、桜色のほっぺ。
キスを待っているかのような、半開きの唇。
なんだか赤ん坊みたいだな……、と才人は苦笑し、そして思っ...
赤ん坊はミルクの香りがすると言うけれど、じゃあルイズの...
しばし考えて……、はたと思いついた。
「いちごみるく?」
あの甘酸っぱくて、とろりコクのある、淡桃色のキャンディ。
それだ! と才人は心の中で叫んだ。
少し酸っぱいけど、よく味わえば飛び抜けて甘い。うん、ま...
その時。とんでもない考えが才人の頭にすべりこんだ。
待てよ、舐めたら本当に“いちごみるく”の味がするんじゃな...
あの甘酸っぱい味がするんじゃないか?
いや、常識的に考えれば、人間がキャンディの味なんてする...
つまり……、『味』というより『味わい』だ。
そっと口に含むだけで、甘くとろける小粒のキャンディ。ほ...
酸味がだんだんと甘みに変わって、ほろりと蕩けてカタチが...
ああやっぱり“いちごみるく”味だ! 間違いない。
今すぐそれを確かめなくてはと、衝動に駆られて、ガタン!...
息を弾ませながら、背後からルイズに忍び寄る。
抱きしめるように両腕をルイズの体に回すと、もどかしげに...
ルイズの手触りは、とても柔らかで温かい。まるで生まれた...
髪から漂う香りはストロベリーではなく、甘ったるいフロー...
着ているメイド服の丈はとても短いので、才人はしごく簡単...
触れた場所の温かく湿った感触に、ゴクリ唾を飲む。いよい...
ルイズの寝息がぴたりと止まった。
ハっと反射的に後ろに飛びすさり、才人は胸の高さに両手を...
「や、やあ。おはよう、ルイズ」
「おはようじゃないわよ……。何してるのよ」
目をこすりながら、ルイズは聞いた。
「いやナニというか。ちょっとした勢いっていうか。……ほらつ...
「へ?」
いかにもな微妙な言い回しに、察したルイズの頬がみるみる...
「だだ、だったら起こせばいいのに……。なにも寝込みを襲うこ...
「だってさお前、そういう気分じゃなさそうだったし。何だか...
んー、とルイズは腕を組み、首を傾げた。
「……少しね、頭を冷やしたかったのよ」
「ガリアのことか?」
尋ねると、ルイズは深く頷いた。
才人はルイズの正面に座りながら、参ったなという顔をした。
「そりゃさ、悪いとは思ってるよ。お前に相談もせずに断った...
「わかってるんじゃない」
「だけどな、今度のガリア行きは、別に俺が行く必要はなかっ...
「でも、姫さまは、あんたが必要だって言ってたわ」
「念には念をってやつだろ。それより」
才人は声に力をこめた。
「危険なのは、むしろお前の方だぜ。姫さまが留守の間、どう...
才人の意見はもっともだった。
たび重なる戦闘のせいで、『虚無』の存在は、多くの人間の...
そんな強大な力が、何事もなく放っておかれるはずもない。...
才人は悔しそうに拳を握りしめ、そして力強く断言した。
「けどなルイズ。俺がいる限り、お前に手を出させたりはしな...
こんな時の才人は、とても頼もしく見えて、ルイズは舞い上...
どうしようもなく胸が高鳴って、顔が熱くなる。
でも、そんな態度を見せるのは照れくさいので、ことさらに...
「だ、だったら、なんでガリアに行くことにしたのよ。それじ...
「行けっつったのはお前だろ?」
「知るもんですか。私が言ったからって、はいはいってすぐ聞...
「姫さまが言ってただろ。ガリアに行けば、エルフ族の偉い人...
それから才人は、ルイズの両肩に手をおくと、目をまっすぐ...
「なあ、ルイズ。俺たちもさ、いつまでも“ごっこ”って訳には...
ルイズは目を大きく見開いた。
「だからさ、一日でも早く地球に帰る方法を見つけて、ちゃん...
「……うん」
「もちろんお前のことも心配だよ。だから俺が留守の間は、ヴ...
「……うん」
才人の言葉を聞きながら、段々とルイズは頷くしかできなく...
ルイズが思っている以上に、才人はルイズの考えを理解して...
一方でルイズは思った。
そんな才人に、自分は釣りあうだけのものを返せているだろ...
自分がどれだけ、才人のことを大切に思っているか……。
そのことを、ルイズはまだはっきりと、才人に言葉で伝えて...
今回のガリア行きだって本音では、才人に行って欲しくはな...
ようやく苦労して二人きりになれたのに。
それなのに一ヶ月も離ればなれなんて、とても耐えられそう...
ましてや、あの二人が一緒とあっては。
アンリエッタ。そしてシエスタ。
過去に才人と、一方ならぬ経緯のあった二人である。
それだけじゃない。タバサやティファニアも同行するという。
才人を信じていないわけじゃない。でも……。
ああ、そうじゃない。ルイズは必死に首を振った。
違う。ヤキモチを妬きたいわけじゃない。
いかに自分が才人を好きか、まずそれを伝えなければ……。
ルイズはそのことを、ギーシュ達が帰った後で、ずっと考え...
告げるとしたら、今というタイミングをおいて他にない。
「……ルイズ?」
黙りこんだルイズを、才人が心配そうに見た。
ルイズは勇気を振り絞って、口を開いた。
「あ、あのね、サイト」
「ん、どした」
ルイズは言いづらそうに、もごもごと言葉を紡いだ。
「あのね、サイト。私ね、ほ、本当はその……」
ようやくそこまで言って、ルイズは急に言葉を飲みこんだ。
気づいたからだ。
“本当はサイトにそばにいてもらいたい。”
もしそう言ってしまえば、
今度こそ才人はガリア行きを止めてしまうかもしれない。
しかしそれは、自分の求める結果とは違う。
どうしていいかわからず、ルイズは唇を噛んで下を向いてし...
「なんだよ。言いたいことがあるなら言えよ。明後日にはいな...
けれども、ルイズは続く言葉を見つけられず、黙りこくるば...
しばらくの沈黙の後で、才人はゆっくりと俯いているルイズ...
同時に、ルイズの中に才人の“記憶”が流れ込んでくる……。
最近は才人も注意を払っているのか、ルイズが怒りを感じる...
今流れこんで来ているのは、今日の夕方、ルイズが才人を出...
妄想の中の才人は、メイド姿のルイズに対して、実際にあっ...
え、え、え、ちょっと! やだみんな見てるじゃない!
才人から本物のキスを受けながら、一方で、頭の中で繰り広...
や、ちょっと、そんなコト、やめ、無理、イヤって、言って...
びくびくんと跳ねて、ルイズは才人を突き飛ばし、その唇か...
ぜえぜえと真っ赤な顔で息を荒げている、そんなルイズを見...
「ってお前、今度は何見たんだよ」
才人は呆れたように言う。するとルイズは真っ赤な顔でう〜...
ああああんたが悪いのよ! あんたがあんなあんな……。
それから、ルイズはハっと気がついた。
そうだ、その手があったじゃない!
自分が、才人の記憶を見せてもらったのと同様に、自分の記...
実に簡単なことだ。
それなら言葉よりずっと、正確に自分の気持ちを伝えること...
そうだ、そうしよう!
「サイト、これガリアに持っていって!」
ルイズは机の上からあるものを取り上げて、それを才人の胸...
才人は驚きの声をあげた。
「ってこれ、お前の日記帳じゃねえか!」
「どうせ向こうにいる間、暇なんでしょ。時間つぶしぐらいに...
そこには、ルイズが才人と過ごした日々の中で、何をどんな...
その内容は……、どちらかと言えば、才人に対する愚痴がほと...
アンリエッタやシエスタ、他の女の子たち関係のモロモロも...
それでも、ルイズの本心が書かれていることには違いなかっ...
「なあ、本当にこれ、俺が読んでかまわないのか?」
目の前で、才人が日記帳の表紙をめくろうとしたので、ルイ...
「まままだダメ! 出発してからにして!」
もし目の前で読まれでもしたら堪らない。決心が揺らぎかね...
「わかったわかった。じゃあ向こうで大事に読ませてもらうか...
才人は嬉しそうな声で、ルイズの頭をぐりぐりやると、日記...
「さてと。じゃあ続きしようぜ」
「続き?」
「そそ、続き。……はい、立って。起立〜」
「え?」
わけもわからず、ルイズは立ち上がった。
「そのまま回れ右して、……はい、礼っ!」
「え? え? え?」
ルイズは才人に言われるがままに、才人に背中を向け、そし...
「なによこれ、いったい何の真似よ」
「じゃ。いい子だから。ここに手をついて下さいね〜」
才人は鼻歌でも歌うようにそう言って、ルイズの両手をぺた...
それから、背中で蝶々結びになっているエプロンドレスのリ...
さらに余ったリボンの端っこを、手際よく椅子の脚にくくり...
「なな、何よこれっ!」
ここに至って、ルイズはようやく自分の置かれた状況を理解...
客観的視点からみるに、どうやら自分は腰を上に突き出した...
ずるり。
才人の手によってメイド服の裾が、一気に胸の辺りまでめく...
露わになった腰から胸にかけての素肌を、空気がひんやりと...
「やぁあああああああああ!」
ルイズは叫び声を上げて、椅子を抱きかかえるように、しゃ...
「ばか、ばかばかばかっ! いきなりなんて格好させるのよぅ...
涙声でルイズは訴える。
しかし才人はけろりとしたものだ。
「こらメイド。ご主人様にその口の利き方はないでしょ」
なぜならこれはプレイの一種。
決して恋人をイジめているわけではないのだからして。
「さ、立って。ご主人様にちゃんとご奉仕しなさい」
「いやっ、いやったら絶対にいや!」
「い〜や〜じゃないの。ほら、立って。はい、いい子いい子」
「ううううう゛〜〜〜」
腰に手を添えてを持ち上げようとするが、ルイズは頑なに抵...
仕方なく才人は、ルイズに言い聞かせた。
「なあ、ルイズ。ガリアに出発したらさ、俺、毎晩ひとりぼっ...
「で、でもっ」
「毎晩、お前のこと思い出すからさ。あのメイド姿、可愛かっ...
優しく頭を撫でてやりながらそう言うと、
「ばかぁ、もうサイトなんて嫌いなんだから……」
ルイズは頬をふくらませながら、ぐすぐすと力なく、すねた...
「お風呂ぉ……、明かりぃ……」
「風呂はあと。明かりこのまま」
しれっと言った後で、それから才人は、あ、と思いついた。
「そうだ。お前の日記さ。ずいぶん詳しく書いてるみたいだけ...
「それがどうかしたの?」
「やっぱり……、こういうのも書いちゃってるわけ?」
「こういうの?」
「うん。こんなの。『今日はメイドの曜日です。私もメイドの...
「なななな、なわけないでしょ! バカ〜〜〜〜〜〜!」
「や、やっぱり?」
才人は、いやあ残念だ、とかなんとか言いながら、真っ赤な...
ついでに耳だの首筋だのに舌を遊ばせていると……、風船がし...
「……あんまり、恥ずかしいのはやめてね?」
とか言いながら、おずおずと自分から膝立ちを始めた。
恥ずかしそうに突き出された白い二つのふくらみ。それを僅...
「あ、あんまり見ちゃ……、やだ」
テンションが急上昇を始める。
「こら台詞。今日はメイドじゃなかったっけ」
「う、ううっ……。あ、あんまり見ないで下さいまし〜。ご主人...
照れと屈辱で、ルイズの声と体がぴりぴりと震える。
刹那、才人の体を熱いものが走り抜けた。もう待ったなし!...
「めめめメイドさん最高! いちごみるく最高! ルイズ最高...
イきます! その布に指をかけて、一気に引きおろそうとし...
「あ、サイト……、だめ」
覚悟を決めてルイズが目をつむる。その時、ノックの音とと...
「お飲み物をお持ちいたしましたぁ」
すたすたと歩み寄りながら、その人物は明るい声で言った。
+ + +
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我が家はメイドお断り ぎふと氏
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「なんとか卒業までには間に合いそうだな」
「そうね。客室やお庭は後で構わないし。食事と寝床さえあれ...
「二人きりを邪魔されなければ、もうなんでもいいよ。なあル...
「……って、ちょっとこら、なにすんのよ」
「週末さ、買い物に行こうよ。家具とか日用品とか、服も」
「……や……だめ、そこだめッ」
「いろいろと、けっこう物入りだよなぁ。金足りっかな」
「……し、使用人は、どうするの?」
「それもあったな。どうしようか」
「……私の実家に言って、はうッ、身元のしっかりした人、あん...
「それいいな。頼める?」
「も、もちろん。……あ、でもっ」
そこでルイズは言葉を切った。それから真顔で、
「メイドだけは要らないわ」
きっぱり宣言した。
+ + +
満天の星空の下。夜風をつっきって飛ぶ一匹の風竜がいる。
その背にひしとしがみついているのは、黒髪の少年。ルイズ...
王宮での仕事を終えて、自宅への帰り道。
おりしも通り過ぎた強い突風に煽られて、才人は嘆きの声を...
「うひぃ! さみーって! 冷えるって! 凍死しちまうよ!」
上空はるか三千メイル。
首を伸ばして下界を見下ろせば、鬱蒼とした森が黒々と広が...
落ちれば確実に命はない。握りしめる手綱が文字通り、唯一...
「なあ頼むから、もっと風とか乗り心地とか考えて飛んでくれ...
声を張り上げて、才人は哀願した。
「俺が魔法使えないの知ってんだろ! 風を避けたり宙を飛ん...
風竜は頭を才人の方に向け、笑うように歯をむき出した。魔...
「なんだよ魔法、魔法ってそんなに偉いもんかよ。俺なんてガ...
返答なし。
残念なことにドラゴンは人語を解さないのだ。
それでも構わずに才人は続ける。
「別に尊敬しろとまでは言わねーよ。言わねーけどさ、ちっと...
寒い上に、体はへとへと。今にもまぶたが落ちそうだ。
だが寝てしまえば、天国行きのチケットを手に入れてしまう...
だからせめて口だけでも動かしていようと、才人はひたすら...
タバサの使い魔シルフィードの口利きで、毎日の王宮への行...
ところがこの誇り高く長命な種族は、容易に馴れ合おうとは...
契約だから仕方なく相手してやってるんだと言わんばかりの...
今じゃすっかり懐いた仔猫のようなピンクのもふもふ。その...
あーあ、と才人は低く呟いた。
「じゃじゃ馬ならしなんてもう二度とごめんだよ」
竜は、風をつかまえるべく大きく身をくねらせた。ぐんとス...
才人の体が風圧で浮き上がった。
吹き飛ばされそうになりながら、才人は目をつむりひたすら...
一時間。それだけ我慢すれば至福の時が待っている。
「新婚さん新婚さん新婚さん……。メイドメイドメイド……」
一心に唱える。
木の枝にひっついている枯葉のように、才人は竜の背の上で...
才人とルイズの屋敷は、ラ・ヴァリエールの領地の隅っこに...
「親の監視下に置かれるなんて、冗談じゃないわ! もう子供...
当初ルイズは猛反対した。
しかし『虚無』でありかつ『第二の王位継承者』でもある人...
アンリエッタ女王からも、「それでは王城内で暮らした方が...
もとより才人の方は賛成である。四六時中ルイズの傍にいて...
そしていざふたを開けてみると、この提案は別の意味でも利...
無償で土地を手に入れたために、予算に余裕ができ、城とは...
本館は二階建。
横に長いスタイルで、青い屋根に白壁の優雅で瀟洒な佇まい。
正面には広い車回しと薔薇の咲き乱れる花壇があり、それを...
横手にはゼロ戦やドラゴンが着陸できる広いスペースが設け...
さらに先を行くと、小舟の浮かぶ池や、足休めの東屋が配さ...
休日の穏やかな午後、そんな風景の中にいるルイズは、花の...
さらに敷地内には、本館とは別に厩や使用人専用の宿舎まで...
そんな我が家を上空から見下ろすと、砂漠の中のオアシスの...
その灯りの暖かさに、才人はほっと息をついた。
まだ住み始めて僅かだけれど、すっかり住み慣れた自分の城...
風竜はぐるり円を描いてから、静かに着地した。
主人の帰宅は、遠目のきく訓練されたフクロウによって報さ...
皆かなりの年配……、それも年寄りといってもいい年齢の者ば...
唐突に、子供の頃に家族旅行で訪れた温泉旅館を思い出す。...
「おかえりなさーい!」
上から声がした。
見上げると、屋敷の二階の窓から桃髪の少女が身を乗り出し...
「ルイズ!」
才人は嬉しそうな声をあげた。
頬を上気させて手を振る少女の姿は、美しい西洋風の館とあ...
腰まで届く波打つプロンド。宝石のように煌く大きな瞳。
こんな距離からでも容易にわかる。
まぎれもなくルイズ・フランソワーズは極上の美少女だった。
いやはやこんな可愛い子、映画の中やゲームの中でだって早...
ファンタジー世界万歳である。
そんな少女の頭を飾るのは、白のカチューシャ。
体を包むのは、漆黒のワンピースに、レースひらひら純白エ...
さて問題です。この衣装はなんでしょう? 答え。萌え装備...
「ルイズ、たっだいまー!」
「行くわよ!」
少女は勇ましげにそう言うと、杖を掲げてなにやら呪文を詠...
ひらりそのまま宙を舞う。
桃色がかったブロンドが、広がってなびく。
これがもし背中に羽でも生えていて、鳥のように軽やかに降...
目もくらむ衝撃とともに、その体を才人は全身で受け止めた...
ともかく才人はルイズの下敷きになったまま……、切なげに漏...
「お前さ、俺のこと生身の人間だってわかってんの?」
「わかってるわよ!」
ルイズは痛みに顔をゆがめ、悔しげに拳を震わせる。
「いい、見てなさい? 明日はしっかり決めてみせるんだから...
「諦める気、ない?」
念押しに聞いてみたが、
「聞くだけ無駄!」
軽く一蹴されて、才人は諦めて肩を落とす。
まあ、いいけどさ。こういうのが子供の頃からの夢だったと...
その程度の度量は持ち合わせているし、それに自分だって似...
「ほらほらほらぁ」
いきなりルイズが甘え声に変わった。
「なんだよ」
「だからぁ、帰ってきたらぁ、まず言うことあるでしょ」
指でぐりぐりと才人の胸をつつきまわす。
「もしかしてあれ?」
「そうよ」
「言わなきゃだめかな」
「当たり前じゃない」
仕方ないなぁ、と才人は、こほんと咳一つ。
「ただいま、俺の可愛い奥さん。会えない間すっごくさびしか...
すらすらと言い切る。コツは深く意味を考えないこと。要は...
ほわんとルイズの瞳が夢見る乙女のそれに変わる。
「ちゃんと言ったぞ。ほら、お前も言えよ」
「う、うん……」
ルイズは恥ずかしそうに俯いて、両の人差し指をもじもじと...
「おおお、おかえりなさいませ。ごごご、ご主人様っ!」
しぼりだすように、言った。さらにワンピースの裾を握りし...
「ごご、ご主人様がいらっしゃらないので、ルイズとってもさ...
真っ赤に染まった顔で、言った。
くはぁ、と才人の口から間抜けた息が漏れる。
(……やっぱ俺って天才! 天才ここに極まれり!)
これぞ平賀才人考案・日替わりお帰りメッセージ。
本日のお題は『メイド』。
他にも、制服バージョン、猫バージョン、ゴスロリバージョ...
そして今ルイズの身につけているメイド服は、学院のそれの...
馬乗りになっているルイズの下半身に目をやると……、究極の...
「じゃ、じゃあ、寂しくさせたお詫びに、今日はいっぱいかわ...
興奮しきりに、ああちくしょう、どうやってかわいがってや...
「ん……」
ルイズは素直に目をつむった。その薔薇の唇に己のそれをゆ...
ぎゃんと叫びをあげて、二人は地面をゴロゴロ転がった。
上空に現れた黒い影がわんわんとがなる。
「下界の者どもに告ぐぅ! 即刻そのいちゃいちゃを止めろー...
ぽかんとした表情でルイズはそれを見上げ、呟いた。
「……王室の竜籠?」
いかにもそれは王室専用の竜籠であった。
四隅を飛竜につながれた王室の紋章付きの籠は、空からゆっ...
「まったく君たちは変わらないな。いったい恥ずかしくないの...
最初に姿を現したのはギーシュ。続いてマリコルヌが、ねっ...
「そうかぁ。これが噂の“新婚さんごっこ”ってやつかぁ。なぜ...
勝手に納得し、次いでルイズに意味ありげな視線を送る。
「というかね、ルイズ。君のその格好はなんだい? それがサ...
「ちち違うわ! したくてしてるんじゃないわ!」
ルイズは弾けるように立ち上がった。
前かがみに、極ミニワンピースの裾を引っ張る。すると困っ...
「し、仕方ないじゃない! これがサイトの故郷の習慣だって...
「習慣ねぇ」
「本当なんだから! ね、そうよねサイト!」
才人は顔を赤らめ、苦しい言い訳をした。
「あー俺のいた国じゃさ、新妻はこういった格好で夫に奉仕す...
「そういえば、君は東方の出身だったな。向こうじゃそんな素...
しきりに感心するギーシュの様子に、おいおい信じるなよ、...
「それよりあんたたち、いったい何しに来たのよ!」
「ずいぶんとご挨拶だな。君のためにわざわざこんな辺鄙な場...
ギーシュは脇に寄ると、背後にいた人物をつと前に押し出し...
明るい懐かしい声が、ルイズに向けられる。
「お久しぶりです、ミス・ヴァリエール。またしばらくお世話...
にっこり微笑んでお辞儀をしたのは……、ついこの前まで同じ...
「シエスタ……!」
ルイズの瞳が大きく見開かれる。
「なによこれ、どういうこと?」
ルイズは才人の方を振り返った。すでに話は通じているらし...
「ひとまず詳しい話は、陛下から直接伺ってくれないか。お待...
そう言って、ギーシュが杖を一振りすると、すうっと布に覆...
ふぁさりと布が地面に落ちる。一枚の鏡が姿を現した。
「あいかわらずね、ルイズ・フランソワーズ。あなたの元気な...
鏡の中から語りかけてきたのは、麗しきトリステインの女王...
+ + +
「ガリア行きに、サイトを同行させるですって! そんな話は...
ルイズの声がこだまのように部屋に響き、テーブルの上のグ...
一同は、中庭から応接間に場を移していた。
立ち話をするには春の夜風は冷えすぎるし、それにアンリエ...
「落ち着いてちょうだい、ルイズ・フランソワーズ。まだそう...
魔法の鏡を通じて、アンリエッタは宥めるようにルイズに声...
「サイト殿が、どうしてもあなたの許可がないと行けないとい...
“ガリア行き”とは、今からちょうど一週間後にガリア東の国...
その会議に、アンリエッタは才人を護衛として随行させたい...
長期間にわたる会議である。行けば少なく見積もっても、二...
会議の成り行きによってはさらに長引くかもしれない。
「では私もお供します! 非常時には、きっと私の『虚無』が...
「なりませぬ。あなたの『虚無』は国外に出すわけには参りま...
「ですが……」
ルイズは顔を曇らせた。
才人と離れるといっても、せいぜい一ヶ月足らず。
たったそれだけなのに、なぜこんなにも不安に思うのだろう。
才人が護衛として優秀なことは理解できる。
ガンダールヴの力は元来守るための能力。とっさの対処はメ...
護衛につけるとしたら、才人以上の人材は考えられない。
自分がアンリエッタの立場なら、きっと同じことをするに違...
けれども……。
アンリエッタが、わざわざ才人を望んだ理由が、他にもない...
単に才人を側に置きたいだけ……。そんなふうには考えられな...
もしかしたらと疑念が黒い靄のように胸の中に湧きあがる。
もしかしたら……。
アンリエッタはまだ才人に特別な感情を抱いているのではな...
才人はそれに気づいていて、そのために同行を拒んでいるの...
疑念が、ルイズの首を縦に振らせてくれない。
そうやって悶々としながら、ルイズが黙っていると、
「やっぱりこの話はなかったことにして下さい」
力強くきっぱりとした才人の声に、ルイズははっと我に返っ...
「……サイト?」
「そりゃ俺は近衛ですし、姫さまをお守りするのが役目です。...
鏡をまっすぐに見据えて才人は言った。
「ですが、サイト殿。ガリアに行けば、エルフの長と、直接話...
「それは……」
才人の表情が翳りを帯びる。
しかしすぐさま、吹き飛ばすように首を振った。
「今回は諦めます。いずれ東には自分の足で行くつもりだし、...
「こんなに頼んでも駄目でしょうか……」
アンリエッタの瞳が潤んだような気がして、才人はそれを見...
つくづくこういった高貴な儚げな人のお願いには弱いのであ...
「あ、あの、姫さま!」
その時、ガタンと大きな音を立てて、ルイズが立ち上がった。
「お話はすべて承知いたしました! サイトは姫さまの騎士で...
「ちょ、お前。ルイズ。何言い出すんだよ!」
するとルイズは、才人の方に向き直り、眉を大きく吊り上げ...
両手を腰にあて、薄い胸をめいっぱい反らし、冷ややかに目...
「あんたね、何勘違いしてんのよ。いつからそんなに偉くなっ...
「え、いや、でも」
「仕事じゃない。お給金頂いてるんじゃない。ったく少しは自...
びしぃと、決め台詞よろしく言い放つ。
「まあ、お前がそう言うんなら……」
才人は困りきったように頭をかいた。さっきまでの威勢はど...
周囲からくすくすと失笑が漏れた。かくいう女王陛下も例外...
「感謝します。ルイズ・フランソワーズ。サイト殿はきっと無...
「いいえ、当然のことをしたまでですわ。単にこいつがわから...
「そんなことを言ってはいけないわ、ルイズ。サイト殿はあな...
ルイズの顔が真っ赤に染まる。
「それでは、ルイズ・フランソワーズ。しばらくサイト殿をお...
アンリエッタは、視線を別の方へと向けた。
その先にいるのは、今までずっと無言だった黒髪のメイド。
「そちらのシエスタです。サイト殿から、あなたの家にはメイ...
「で、でも、シエスタはもう王宮付きで!」
「かまいませんわ」
にっこりと微笑むアンリエッタ。
ち、ち、違うんです姫さま! かまうのは私の方で!
ルイズは、ぱくぱくと声にならない言葉を発した。
この家にメイドがいないのは、なにも人材が見つからないせ...
ぶっちゃけ言えば、シエスタのような相手に二度と煩わされ...
二番目でいいですからー、どうですかこの胸ー、いつでも触...
そんなイヤらしいメイドを、同じ屋根の下に置いておけるわ...
ルイズは黒髪のメイドを横目で睨みつけながら、わなわなと...
ぜーったいに、どんなに不自由したってぜぇーったいに、メ...
「ご安心なさって、ミス・ヴァリエール。そちらの私は、サイ...
へ? とルイズの目が丸くなる。
今のは確かにメイドの声。けれども聞こえてきた方向は……。
その方向、つまり鏡の方に目を移すと、驚いたことに問題の...
ただし私服でも魔法学院のメイド服でもなく、高級で上品な...
あっちにもメイド。こっちにもメイド。
「メイドが二人? ……どういうこと?」
「スキルニルですわ」
アンリエッタの朗らかな声が伝える。
スキルニルとは、マジックアイテムの一つ。魔法人形のこと...
血を吸わせることによって、その血の持ち主と寸分たがわぬ...
容姿だけではない。能力や記憶までもが正確に複写される。
但し、感情は持たない。
「そのスキルニルは、あなたとサイト殿の命令を聞くように作...
なるほど、とルイズはようやく納得した。
シエスタが終始行儀よく振舞っていることを、ルイズはずっ...
いつもの彼女なら、たとえ女王陛下の御前であっても、こっ...
というより、絶対にそうする。
なぁんだ。そっかぁ。人形なんだ。ルイズはほっと力を抜い...
まあ人形ならいいかもしれない。せいぜいこきつかってやろ...
「あ、サイトさん、サイトさん」
「なに、シエスタ?」
「その人形、サイトさんの言うことも聞くようにしてあります...
ぴきっ。ルイズのこめかみに青筋が立つ。
「もちろんガリアでも、お好きになさってかまわないんですよ...
ぴきぴき。ルイズの青筋が枝分かれした。
「ちょっとメイド! まさかあんたも一緒にガリアについてく...
すると、鏡の中のメイドは、勝ち誇ったような表情でにっこ...
「はい、その通りですわ。ミス・ヴァリエール」
+ + +
客人が帰った後、才人とルイズは遅い夕食を済ませると、自...
「あのさ。俺、風呂に入るけど……」
才人は声をかけたが、いってらっしゃい、とルイズの返事は...
不機嫌だとか怒ってるとか、そういう感じではなく、机に向...
ようするに上の空。
皆が帰ってからというもの、どういう訳かルイズはずっとこ...
「えっとさ、ルイズ。俺、今日とっても疲れてて、そのう、背...
「ん。なに?」
「いや、なんでもない。入ってくる」
どうやら今日は諦めた方が良さそうだ。
しょんぼり肩を落とした才人は、一人さみしくバスルームに...
「……ま、怒っていないだけマシだよな」
熱い湯につかりながら、一人ごちる。
人形とはいえ、あれだけ嫌がっていたメイドを連れてきたの...
こんなにスムーズに受け入れてくれるとは、正直思ってもみ...
そのメイド人形は、休むまもなく、さっそく精力的に家事を...
とても今日来たばかりと思えない手際の良さに、この分なら...
メイドの仕事は、なにも掃除や洗濯ばかりではない。
メイド長ともなれば、鍵や貴重品の管理だの、使用人の監督...
ましてや今は屋敷の工事もあるから、やるべきことは相当に...
「あいつ、お嬢さん育ちのくせに、案外たくましいんだよなあ...
試しに、平民バージョンのルイズを頭に描いてみる。
平民の暮らしというと、まず思い浮かぶのはシエスタの実家...
昼間は水汲みに炊事洗濯。夜は大勢の子供に囲まれながら繕...
うーん……。
そういえば、ぐにゃぐにゃクラゲの手作りセーターが、今も...
やっぱりあいつにゃ農村暮らしは無理だ。
次に街娘ジェシカを思い浮かべる。
トリスタニアの下町の隅っこに、安い石造りのアパートの一...
いそいそと市場に買い物に行くルイズ。
「お嬢さん、今日は魚が安いよ! 可愛いお嬢さんには大サー...
「ならおじさんは、この肉をサービスしようかな!」
仕事から帰ってみると、テーブルの上に山と積まれた食材が…...
「ごめんなさい、サイト。今月分のお給料ぜんぶなくなっちゃ...
無理すぎる……。
「結局、あいつは根っからの貴族なんだよなあ」
しみじみと思う。
頭に浮かぶルイズは、いつだって胸を張って、誇りを持って...
肝心かなめのところでは、決して媚びたり頼ったりなどしな...
そんな貴族の娘が、結婚もしない男と一つ屋根の下で暮らす...
その風当たりは強く、世間からもありもしない噂を言い立て...
「その辺は日本も似たようなもんだろうけどさ。やっぱなんと...
はあ、と大きく息を吐いて、才人はぶくぶくと湯船に沈んだ。
+ + +
才人が、風呂から戻ってみると……。
ルイズは、書き物机を前にして、寝息をたてていた。
腕を前に投げ出して、頬を机にくっつけて、すやすやと気持...
「……ルイズ、風呂いいのか?」
揺さぶり起こそうと手を伸ばしかけた、その時。
才人は机の上に、革表紙の本のようなものを見つけた。
それはルイズの日記帳だった。
なるほど、風呂に入っている間、ルイズはこれを書いていた...
才人は納得して頷く。
きっと書いているうちに、昼間の疲れが出てしまったのだろ...
そうとわかると、無理に起こすのも忍びなくなって、才人は...
「こうして眠っているところは、ほんと可愛いんだよな……」
机に片ひじをつきながら、うっとりとルイズの寝顔を見つめ...
人形のように整った顔立ち。柔らかでいい香りのする桃色の...
その髪の合間からのぞく透き通るような首筋。どれもが才人...
そんなルイズを眺めていると……、懐かしい過去の記憶が思い...
ギーシュと初めて揉めた時の記憶だ。
大怪我の末に、才人が長い眠りから目を覚ましてみると、今...
その神がかったような愛らしさと、そして思いがけなく知っ...
もしかして、と才人は疑問に思った。
その頃から、もうルイズに惚れてたのかな?
どうなんだろう? 首をひねったが、よくわからない。
とっくに出会い頭の一目惚れだったような気もするし、ずっ...
結局……、悩むのを諦めた。
だいたいが、才人は深く考えるのが得意ではない。
ただ一つわかるのは、目の前にいる少女を、何がなんでも守...
好きかどうかなんて、実のところは口にするほどわかっちゃ...
だけど……、守りたいという気持ちならば、自信がある。
理屈じゃない。守りたい。ただそれだけだ。
いつしか才人の中に温かい気持ちが生まれて、それが大きく...
才人はそっとルイズの頬に手を伸ばし、指で触れた。
すると、ルイズはいやいやをするように、頭を振る。
淡く色づいた、桜色のほっぺ。
キスを待っているかのような、半開きの唇。
なんだか赤ん坊みたいだな……、と才人は苦笑し、そして思っ...
赤ん坊はミルクの香りがすると言うけれど、じゃあルイズの...
しばし考えて……、はたと思いついた。
「いちごみるく?」
あの甘酸っぱくて、とろりコクのある、淡桃色のキャンディ。
それだ! と才人は心の中で叫んだ。
少し酸っぱいけど、よく味わえば飛び抜けて甘い。うん、ま...
その時。とんでもない考えが才人の頭にすべりこんだ。
待てよ、舐めたら本当に“いちごみるく”の味がするんじゃな...
あの甘酸っぱい味がするんじゃないか?
いや、常識的に考えれば、人間がキャンディの味なんてする...
つまり……、『味』というより『味わい』だ。
そっと口に含むだけで、甘くとろける小粒のキャンディ。ほ...
酸味がだんだんと甘みに変わって、ほろりと蕩けてカタチが...
ああやっぱり“いちごみるく”味だ! 間違いない。
今すぐそれを確かめなくてはと、衝動に駆られて、ガタン!...
息を弾ませながら、背後からルイズに忍び寄る。
抱きしめるように両腕をルイズの体に回すと、もどかしげに...
ルイズの手触りは、とても柔らかで温かい。まるで生まれた...
髪から漂う香りはストロベリーではなく、甘ったるいフロー...
着ているメイド服の丈はとても短いので、才人はしごく簡単...
触れた場所の温かく湿った感触に、ゴクリ唾を飲む。いよい...
ルイズの寝息がぴたりと止まった。
ハっと反射的に後ろに飛びすさり、才人は胸の高さに両手を...
「や、やあ。おはよう、ルイズ」
「おはようじゃないわよ……。何してるのよ」
目をこすりながら、ルイズは聞いた。
「いやナニというか。ちょっとした勢いっていうか。……ほらつ...
「へ?」
いかにもな微妙な言い回しに、察したルイズの頬がみるみる...
「だだ、だったら起こせばいいのに……。なにも寝込みを襲うこ...
「だってさお前、そういう気分じゃなさそうだったし。何だか...
んー、とルイズは腕を組み、首を傾げた。
「……少しね、頭を冷やしたかったのよ」
「ガリアのことか?」
尋ねると、ルイズは深く頷いた。
才人はルイズの正面に座りながら、参ったなという顔をした。
「そりゃさ、悪いとは思ってるよ。お前に相談もせずに断った...
「わかってるんじゃない」
「だけどな、今度のガリア行きは、別に俺が行く必要はなかっ...
「でも、姫さまは、あんたが必要だって言ってたわ」
「念には念をってやつだろ。それより」
才人は声に力をこめた。
「危険なのは、むしろお前の方だぜ。姫さまが留守の間、どう...
才人の意見はもっともだった。
たび重なる戦闘のせいで、『虚無』の存在は、多くの人間の...
そんな強大な力が、何事もなく放っておかれるはずもない。...
才人は悔しそうに拳を握りしめ、そして力強く断言した。
「けどなルイズ。俺がいる限り、お前に手を出させたりはしな...
こんな時の才人は、とても頼もしく見えて、ルイズは舞い上...
どうしようもなく胸が高鳴って、顔が熱くなる。
でも、そんな態度を見せるのは照れくさいので、ことさらに...
「だ、だったら、なんでガリアに行くことにしたのよ。それじ...
「行けっつったのはお前だろ?」
「知るもんですか。私が言ったからって、はいはいってすぐ聞...
「姫さまが言ってただろ。ガリアに行けば、エルフ族の偉い人...
それから才人は、ルイズの両肩に手をおくと、目をまっすぐ...
「なあ、ルイズ。俺たちもさ、いつまでも“ごっこ”って訳には...
ルイズは目を大きく見開いた。
「だからさ、一日でも早く地球に帰る方法を見つけて、ちゃん...
「……うん」
「もちろんお前のことも心配だよ。だから俺が留守の間は、ヴ...
「……うん」
才人の言葉を聞きながら、段々とルイズは頷くしかできなく...
ルイズが思っている以上に、才人はルイズの考えを理解して...
一方でルイズは思った。
そんな才人に、自分は釣りあうだけのものを返せているだろ...
自分がどれだけ、才人のことを大切に思っているか……。
そのことを、ルイズはまだはっきりと、才人に言葉で伝えて...
今回のガリア行きだって本音では、才人に行って欲しくはな...
ようやく苦労して二人きりになれたのに。
それなのに一ヶ月も離ればなれなんて、とても耐えられそう...
ましてや、あの二人が一緒とあっては。
アンリエッタ。そしてシエスタ。
過去に才人と、一方ならぬ経緯のあった二人である。
それだけじゃない。タバサやティファニアも同行するという。
才人を信じていないわけじゃない。でも……。
ああ、そうじゃない。ルイズは必死に首を振った。
違う。ヤキモチを妬きたいわけじゃない。
いかに自分が才人を好きか、まずそれを伝えなければ……。
ルイズはそのことを、ギーシュ達が帰った後で、ずっと考え...
告げるとしたら、今というタイミングをおいて他にない。
「……ルイズ?」
黙りこんだルイズを、才人が心配そうに見た。
ルイズは勇気を振り絞って、口を開いた。
「あ、あのね、サイト」
「ん、どした」
ルイズは言いづらそうに、もごもごと言葉を紡いだ。
「あのね、サイト。私ね、ほ、本当はその……」
ようやくそこまで言って、ルイズは急に言葉を飲みこんだ。
気づいたからだ。
“本当はサイトにそばにいてもらいたい。”
もしそう言ってしまえば、
今度こそ才人はガリア行きを止めてしまうかもしれない。
しかしそれは、自分の求める結果とは違う。
どうしていいかわからず、ルイズは唇を噛んで下を向いてし...
「なんだよ。言いたいことがあるなら言えよ。明後日にはいな...
けれども、ルイズは続く言葉を見つけられず、黙りこくるば...
しばらくの沈黙の後で、才人はゆっくりと俯いているルイズ...
同時に、ルイズの中に才人の“記憶”が流れ込んでくる……。
最近は才人も注意を払っているのか、ルイズが怒りを感じる...
今流れこんで来ているのは、今日の夕方、ルイズが才人を出...
妄想の中の才人は、メイド姿のルイズに対して、実際にあっ...
え、え、え、ちょっと! やだみんな見てるじゃない!
才人から本物のキスを受けながら、一方で、頭の中で繰り広...
や、ちょっと、そんなコト、やめ、無理、イヤって、言って...
びくびくんと跳ねて、ルイズは才人を突き飛ばし、その唇か...
ぜえぜえと真っ赤な顔で息を荒げている、そんなルイズを見...
「ってお前、今度は何見たんだよ」
才人は呆れたように言う。するとルイズは真っ赤な顔でう〜...
ああああんたが悪いのよ! あんたがあんなあんな……。
それから、ルイズはハっと気がついた。
そうだ、その手があったじゃない!
自分が、才人の記憶を見せてもらったのと同様に、自分の記...
実に簡単なことだ。
それなら言葉よりずっと、正確に自分の気持ちを伝えること...
そうだ、そうしよう!
「サイト、これガリアに持っていって!」
ルイズは机の上からあるものを取り上げて、それを才人の胸...
才人は驚きの声をあげた。
「ってこれ、お前の日記帳じゃねえか!」
「どうせ向こうにいる間、暇なんでしょ。時間つぶしぐらいに...
そこには、ルイズが才人と過ごした日々の中で、何をどんな...
その内容は……、どちらかと言えば、才人に対する愚痴がほと...
アンリエッタやシエスタ、他の女の子たち関係のモロモロも...
それでも、ルイズの本心が書かれていることには違いなかっ...
「なあ、本当にこれ、俺が読んでかまわないのか?」
目の前で、才人が日記帳の表紙をめくろうとしたので、ルイ...
「まままだダメ! 出発してからにして!」
もし目の前で読まれでもしたら堪らない。決心が揺らぎかね...
「わかったわかった。じゃあ向こうで大事に読ませてもらうか...
才人は嬉しそうな声で、ルイズの頭をぐりぐりやると、日記...
「さてと。じゃあ続きしようぜ」
「続き?」
「そそ、続き。……はい、立って。起立〜」
「え?」
わけもわからず、ルイズは立ち上がった。
「そのまま回れ右して、……はい、礼っ!」
「え? え? え?」
ルイズは才人に言われるがままに、才人に背中を向け、そし...
「なによこれ、いったい何の真似よ」
「じゃ。いい子だから。ここに手をついて下さいね〜」
才人は鼻歌でも歌うようにそう言って、ルイズの両手をぺた...
それから、背中で蝶々結びになっているエプロンドレスのリ...
さらに余ったリボンの端っこを、手際よく椅子の脚にくくり...
「なな、何よこれっ!」
ここに至って、ルイズはようやく自分の置かれた状況を理解...
客観的視点からみるに、どうやら自分は腰を上に突き出した...
ずるり。
才人の手によってメイド服の裾が、一気に胸の辺りまでめく...
露わになった腰から胸にかけての素肌を、空気がひんやりと...
「やぁあああああああああ!」
ルイズは叫び声を上げて、椅子を抱きかかえるように、しゃ...
「ばか、ばかばかばかっ! いきなりなんて格好させるのよぅ...
涙声でルイズは訴える。
しかし才人はけろりとしたものだ。
「こらメイド。ご主人様にその口の利き方はないでしょ」
なぜならこれはプレイの一種。
決して恋人をイジめているわけではないのだからして。
「さ、立って。ご主人様にちゃんとご奉仕しなさい」
「いやっ、いやったら絶対にいや!」
「い〜や〜じゃないの。ほら、立って。はい、いい子いい子」
「ううううう゛〜〜〜」
腰に手を添えてを持ち上げようとするが、ルイズは頑なに抵...
仕方なく才人は、ルイズに言い聞かせた。
「なあ、ルイズ。ガリアに出発したらさ、俺、毎晩ひとりぼっ...
「で、でもっ」
「毎晩、お前のこと思い出すからさ。あのメイド姿、可愛かっ...
優しく頭を撫でてやりながらそう言うと、
「ばかぁ、もうサイトなんて嫌いなんだから……」
ルイズは頬をふくらませながら、ぐすぐすと力なく、すねた...
「お風呂ぉ……、明かりぃ……」
「風呂はあと。明かりこのまま」
しれっと言った後で、それから才人は、あ、と思いついた。
「そうだ。お前の日記さ。ずいぶん詳しく書いてるみたいだけ...
「それがどうかしたの?」
「やっぱり……、こういうのも書いちゃってるわけ?」
「こういうの?」
「うん。こんなの。『今日はメイドの曜日です。私もメイドの...
「なななな、なわけないでしょ! バカ〜〜〜〜〜〜!」
「や、やっぱり?」
才人は、いやあ残念だ、とかなんとか言いながら、真っ赤な...
ついでに耳だの首筋だのに舌を遊ばせていると……、風船がし...
「……あんまり、恥ずかしいのはやめてね?」
とか言いながら、おずおずと自分から膝立ちを始めた。
恥ずかしそうに突き出された白い二つのふくらみ。それを僅...
「あ、あんまり見ちゃ……、やだ」
テンションが急上昇を始める。
「こら台詞。今日はメイドじゃなかったっけ」
「う、ううっ……。あ、あんまり見ないで下さいまし〜。ご主人...
照れと屈辱で、ルイズの声と体がぴりぴりと震える。
刹那、才人の体を熱いものが走り抜けた。もう待ったなし!...
「めめめメイドさん最高! いちごみるく最高! ルイズ最高...
イきます! その布に指をかけて、一気に引きおろそうとし...
「あ、サイト……、だめ」
覚悟を決めてルイズが目をつむる。その時、ノックの音とと...
「お飲み物をお持ちいたしましたぁ」
すたすたと歩み寄りながら、その人物は明るい声で言った。
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