ゼロの使い魔保管庫
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リンゴーン。リンゴーン。
その街に、荘厳な鐘の音が鳴り響く。
サン・モルティエ大聖堂の鐘の音だ。白色に輝く大理石で作ら...
その鐘の音が鳴り響くのは、大きな祝い事がある場合。
新年以外で今日以前に鳴り響いたのは、一年前に教皇ヴィット...
その日、サン・モルティエ大聖堂では、ある大貴族の結婚式が...
このトリステイン王国でも、三本の指に入る、ラ・ヴァリエー...
そのラ・ヴァリエールの娘と、英雄サイト・シュヴァリエ・ド...
平民出の英雄である才人の人気は平民たちの間ではまさに始祖...
そして、鐘の音を響かせ続ける大聖堂に向かう目抜き通りに、...
その馬車の側面には大きなラ・ヴァリエールの紋章。
それを確認した平民たちが、一斉に声を上げる。
「シュヴァリエ・サイト万歳!」
「トリステインの盾、万歳!」
「われらが英雄に幸あれ!」
紙吹雪が乱れ飛び、調子っぱずれのファンファーレが鳴り響く。
道化たちが舞い踊り、娘たちは黄色い声を上げる。
国王の成婚の儀でも、ここまで盛り上がらないだろう。
この結婚式は、それほど皆に祝福されたものであったのだ。
外から見ると。
中から見ると。
それは三ヶ月ほど前の出来事。
おなかが膨らんできて、さすがにちょっと夜のおたのしみはお...
そーいやここ数ヶ月ちい姉さまたちと顔合わせてないわね、と...
意外なことに姉たちはラ・ヴァリエール本邸にいた。
まあ病弱で定期的に『お薬』の必要なカトレアは仕方ないが、...
「あらルイズ。ずいぶん久しぶりね」
「ちびルイズどーしたのよその顔。まるでインプに騙されたゴ...
本邸にてルイズを出迎えた二人は。
オレンジと薄いブルーというふうに色こそ違えど、揃いのマタ...
ルイズと揃えたように、お腹がふくらんでいた。
「ち、ちちちちちちい姉さまソレ」
「あ、これ?あはは。実はね、ルイズ孕んでからすぐ、油断し...
お姉ちゃんヒニン失敗しちゃった♪えへ」
「そんな可憐な笑顔でごまかすなああああああああああ!」
もちろん、その相手は才人である。
「そーよ、あの平民が悪いのよ。
ちょっと『もう前もおっけーだから、遠慮しなくていいのよ...
「まてこらソレ誘ってんでしょ?おもっきし誘ってんでしょ?...
なんなのよ二人ともーーーーーっ!」
『最初に孕んだ者がラ・ヴァリエールの当主となる』そんな阿...
ある日、二人の姉は才人がいればぶっちゃけラ・ヴァリエール...
そして、めでたく才人とルイズは子を成し、ルイズがラ・ヴァ...
中出し解禁と知るや否や、さっそく二人は才人と行為に励み。
ばっちり二人とも授かってしまってしまったというわけである。
「あら別にいいじゃない。私とお姉さまは愛妾扱いでおっけー...
にっこり笑って身を引く、ような台詞を吐くカトレア。
それに、エレオノールが続ける。
「そそ。だから領地経営とかその他もろもろのめんどいとこは...
さわやかな笑顔で親指なんぞ立てながら、ぽん、とルイズの肩...
「あんたらあああああああ!ハナっからそれが目的かああああ...
長女の手を乱暴に振り払い激昂するルイズ。
そう、ふたりの狙いはまさにそれ。
面倒なことを全部ルイズに押し付け、二人して才人との愛欲の...
ルイズが二人と喧々諤々やりあっていると。
「煩いわよルイズ。静かになさい」
そこへ現れたのは、ラ・ヴァリエールにおいて、最も巨大な権...
三人の母親にして、ラ・ヴァリエール最強の人…カリーヌ・デジ...
「お腹の子に障るでしょ」
もちろん、その言葉は娘のお腹の中にいる我が孫の事を心配し...
「…おかーさまの、でしょ」
ではなかった。
呆れた声で、半眼の呆れた目で、母親を見つめるルイズ。
四十も半ばをすぎ、しかしその見た目は三十でも十分通じるカ...
いや、三人の娘以上に、大きく丸くお腹が膨らんでいた。
「なんで出てきてんのよ!もうすぐ産まれるんでしょ!
ってーかおかーさまの正気を疑うわ!十七も年の離れたきょ...
「また娘ですって。ほんと、ウチは男の子に恵まれないわねえ」
ほう、とため息をつくカリーヌ。論点が見事にずれている。
彼女もまた、次期当主がルイズに決まる少し前。
盛り上がる娘たちにあおられ、あのテこのテで男として枯れ始...
ヴァリエール卿が腰痛で施療院に通うようになったころ、見事...
そして、カリーヌは隣で幽霊のように立ちすくむ、以前に比べ...
「あなた、次は男の子がんばりましょーね♪」
「は、ははは…も、もういいんじゃないかなあ、カリーヌや?」
ヴァリエール卿の言うとおり、さすがに二人とも年も年だ。
しかし、カリーヌは続ける。
「ああら、あなた新婚の時に言った言葉をお忘れですか?
『一個中隊が組めるほど子供がほしいな』って言ってたじゃ...
にっこり笑顔で期待に満ちた台詞。
その顔は、新婚時代のツヤとハリを取り戻しつつあるように見...
「いやまてちょっとまってソレ言葉のアヤっていうか若気の至...
慌てて否定するヴァリエール卿。その顔は青ざめ、シワの目立...
そんな二人のやりとりを、呆れ返った目で見つめる三姉妹。
「認めたくないものね、若さゆえの過ちというものを…」
「若さ、若さってなんでしょうね…」
「なんなのこの状況?バカなの?死ぬの!?」
そうして結局うやむやのうちに時間は流れ。
産む前に式だけは済ませておけ、というヴァリエール卿の最期...
今、盛大な結婚式が執り行われている。
馬車の中はまさに針の筵だった。
才人にとっては。
ピンク色の、マタニティのウエディングドレス、というちょっ...
才人の右隣で、純白のこれまたマタニティのウエディングドレ...
その逆サイドでは、薄い紫のまたまたマタニティのウエディン...
そのレオノールが口を開く。
「ねえカトレア、男の子だったらロッソ、女の子はシオン、で...
「あらお姉さま、水魔法の鑑定はなされていないの?それに旦...
「…産まれる前から分かってたらつまんないじゃない。このどっ...
で、このバカ旦那に決めさせるのは間違い。昨日聞いたら『...
「…サイト君、それは正直ないわー」
「正直ないのはアンタらだっ!」
ついにルイズがキレた。
「ちい姉さまもっ!姉さまもっ!何で私たちの結婚式にっ!
ってーかうちで大人しくしてなさいよ!お腹の子に障るでし...
「ルイズー。おちつこー。『天に唾を吐く』って意味わかるか...
「せっかくだから私らもウエディング着たいのよ。まあ式は無...
「むっきいいいいいいいいいいいいい!」
ヴェールを振り乱し、頭を掻き毟るルイズを見かねて、才人は...
「な、なあ落ち着こうぜルイズ?
俺が一番愛してるのはお前だから」
そしてそれが墓穴となる。
「じゃあ私にばんー」
「私さんばんー」
ぎゅむ、と両側から、ラ・ヴァリエールの美人姉妹の腕が才人...
ぴた、とルイズの動きが止まった。
爆発五秒前。
「ああそう」
四秒前。
「そういう態度なわけ」
三秒前。
「い、いや待って落ち着こう!二人の門出を祝う式じゃないか...
二秒前。
「あらイヤだ。子供も含めると七人よ。いきなり大家族ね♪」
一秒前。
「安心なさいルイズ、お乳なら私たちが余るほど出せるから。
でもフシギねえ、ここまで大きくなっても膨らみすらしない...
ゼロ。
「お前らいっぺん死んでこぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉい!」
極大の虚無の花が、サン・モルティエの大通りの一部と、白亜...
その頃、ヴァリエール別邸。
才人とルイズの、通称『愛の巣』。
その中庭で、鼻歌など歌いながら、黒髪のメイド長が、今日も...
「ふ〜んふ〜ん、ふ〜んふ〜ん、私の夫は〜英雄さ〜ん♪」
シエスタはパンッ、と小気味いい音を立て、白いシャツの水気...
その瞬間。
びええええええええええええ!
物干し台の近くに置かれていた大きなかごから、泣き声が轟い...
「あ、もうそんな時間なの?ごめんなさいねえ」
慌ててシエスタは籠に駆け寄る。
そして、以前より簡単に前の開くデザインに改造されたメイド...
溢れた母乳で服を汚さぬよう当てられた胸当てを外し。
ぽろん、と飛び出た以前より数段サイズを増した乳房を放り出...
「ほらハヤト、ごはんでちゅよー」
籠の中の、黒髪の赤子を抱き上げ、膨らんで母乳の零れだす乳...
ハヤトと呼ばれた赤子は母の臭いに泣き止むと、その大きな乳...
んくんくんくとおちちを飲みだしたハヤトを、聖母の微笑で見...
そう、ハヤトは。
シエスタと才人の子供である。
ルイズが孕むもう二ヶ月以上前から、シエスタは妊娠していた...
ルイズやラ・ヴァリエールの姉妹と違い、彼女は避妊なんぞし...
それを知ったルイズに、才人はもちろんさんざん折檻を受けた。
しかしシエスタはそこで言ったのである。
『私はメイドでいいですよー。サイトさんの傍にいられれば、...
あ、でもこの子といる時は『パパ』って呼びますけど』
もちろんその後才人はルイズに踏み潰された。
まあそんなこんなで、出産後もシエスタはこのヴァリエール別...
そして、ハヤトがお乳を飲み終わり、すやすやと眠り始めた時。
南西の方角で、空が光った。
見慣れた光。虚無の爆発の光だ。
「…あー。だから気をつけてって言ったのにサイトさんてば。
八ヶ月で気が立ってるから余計になのにねえ」
シエスタはハヤトの面倒をみなきゃいけないから、とルイズに...
もちろん、彼女とて女の子。才人との結婚式を夢見ないわけで...
しかし。
これ以上望んだら、ルイズとも険悪になっちゃうし。私はこの...
…それにどーせ式場は戦場になるから、ハヤト危なくて連れて行...
ハヤトを籠に戻しながら、そんなことを考える。
そして、この屋敷の主人たちが帰ってくるまでに、かかりつけ...
「ほらっ、始めなさい!」
ボロボロのウエディングドレスに身を包み、ルイズは消し炭に...
祭壇の上には、おびえた顔のひげ面の司祭。サン・モルティエ...
ちなみに、あれだけいた観客たちは人っ子一人いない。虚無の...
がらんどうの聖堂に、司祭は一人だけ気丈にも残っていた、の...
腰が抜けて動けなくなったのである。
もう七十も超えようというおじいちゃんは、長い人生で最大の...
目の前に鬼神がいた。
お腹の大きな、桃色の髪の鬼神である。
その鬼神は魔力を操り、全てを破壊する。
そう、まるで始祖の書にあった伝説の悪魔のようではないか。
がくがくと震える哀れな老人に、ルイズはパキパキと炭の爆ぜ...
ルイズの湧き出る怒りが、彼女の魔力を無尽蔵に増幅していた...
「早く、祝詞を唱えろっつってんのよ!」
半眼で睨まれると司祭はもうどうにでもなれ、とばかりに祝詞...
「わ、わが始祖は全てを見守られ」
「そのへんはパスよ。誓いのとこだけでいいから」
「し、しかし」
「いーから早くなさい!」
「は、はい!」
圧倒的な暴力の前に、力なきものはただひれ伏すしかなかった。
司祭は黒こげの才人を見下ろして、言っていいのかな、なんて...
「で、では汝に問う。新郎は新婦と永久にあることを誓えるか...
その言葉に才人は答えない。消し炭になりかけていれば当然っ...
「コイツの意思は私のものだから、そこは『はい』でいいわ。...
反論しようと思ったがそれは意味がないと悟った司祭は、その...
「新婦に問う。汝は新郎と永久を添い遂げる事を誓えるか?」
「添い遂げる?はぁ?なんで私がこんな駄犬と!」
げし、と黒くこげたのか元々なのかわからなくなってしまった...
じゃあなんで式なんかしてんだよ、と司祭は思わず年甲斐もな...
そして、ルイズは続けた。
「でも、私が傍にいないとこの駄犬このハルケギニア中の女に...
私が責任を持って、死ぬまで鎖をつけて飼うわ。ま、仕方な...
だからとりあえず、その質問には『はい』」
まあ一応新郎新婦ともに意思の確認はした。新郎の意識は儀式...
司祭はルイズの『さあ、続けて』といわんばかりの視線に怯え...
「で、では始祖ブリミルの加護のもと、汝らを夫婦として祝福...
汝らの魂が、双つの月の如く永遠に共にあらんことを」
儀式は完了し、祝福の聖水を、夫婦に振りかける司祭。
これで儀式は完了し、二人は晴れて夫婦となったわけである。
「さーてそれじゃあお屋敷に帰るわよ駄犬。
あと二ヶ月もしたら産まれるんだから、身体大事にしないと...
そう言いながら、消し炭をずるずる引きずって聖堂から出て行...
司祭は、それを目で追いながら思ったのだった。
もう二度と、結婚式の祝詞役なんか引き受けないぞ、と。
これが、後の世に語り継がれる『サン・モルティエの悪夢』の...
そして。
無事に生還した才人は、晴れてラ・ヴァリエールの入り婿とな...
三姉妹とともに、いろんな意味で波乱万丈の人生を歩んでいく...
それはまた、別の、話。〜fin
終了行:
リンゴーン。リンゴーン。
その街に、荘厳な鐘の音が鳴り響く。
サン・モルティエ大聖堂の鐘の音だ。白色に輝く大理石で作ら...
その鐘の音が鳴り響くのは、大きな祝い事がある場合。
新年以外で今日以前に鳴り響いたのは、一年前に教皇ヴィット...
その日、サン・モルティエ大聖堂では、ある大貴族の結婚式が...
このトリステイン王国でも、三本の指に入る、ラ・ヴァリエー...
そのラ・ヴァリエールの娘と、英雄サイト・シュヴァリエ・ド...
平民出の英雄である才人の人気は平民たちの間ではまさに始祖...
そして、鐘の音を響かせ続ける大聖堂に向かう目抜き通りに、...
その馬車の側面には大きなラ・ヴァリエールの紋章。
それを確認した平民たちが、一斉に声を上げる。
「シュヴァリエ・サイト万歳!」
「トリステインの盾、万歳!」
「われらが英雄に幸あれ!」
紙吹雪が乱れ飛び、調子っぱずれのファンファーレが鳴り響く。
道化たちが舞い踊り、娘たちは黄色い声を上げる。
国王の成婚の儀でも、ここまで盛り上がらないだろう。
この結婚式は、それほど皆に祝福されたものであったのだ。
外から見ると。
中から見ると。
それは三ヶ月ほど前の出来事。
おなかが膨らんできて、さすがにちょっと夜のおたのしみはお...
そーいやここ数ヶ月ちい姉さまたちと顔合わせてないわね、と...
意外なことに姉たちはラ・ヴァリエール本邸にいた。
まあ病弱で定期的に『お薬』の必要なカトレアは仕方ないが、...
「あらルイズ。ずいぶん久しぶりね」
「ちびルイズどーしたのよその顔。まるでインプに騙されたゴ...
本邸にてルイズを出迎えた二人は。
オレンジと薄いブルーというふうに色こそ違えど、揃いのマタ...
ルイズと揃えたように、お腹がふくらんでいた。
「ち、ちちちちちちい姉さまソレ」
「あ、これ?あはは。実はね、ルイズ孕んでからすぐ、油断し...
お姉ちゃんヒニン失敗しちゃった♪えへ」
「そんな可憐な笑顔でごまかすなああああああああああ!」
もちろん、その相手は才人である。
「そーよ、あの平民が悪いのよ。
ちょっと『もう前もおっけーだから、遠慮しなくていいのよ...
「まてこらソレ誘ってんでしょ?おもっきし誘ってんでしょ?...
なんなのよ二人ともーーーーーっ!」
『最初に孕んだ者がラ・ヴァリエールの当主となる』そんな阿...
ある日、二人の姉は才人がいればぶっちゃけラ・ヴァリエール...
そして、めでたく才人とルイズは子を成し、ルイズがラ・ヴァ...
中出し解禁と知るや否や、さっそく二人は才人と行為に励み。
ばっちり二人とも授かってしまってしまったというわけである。
「あら別にいいじゃない。私とお姉さまは愛妾扱いでおっけー...
にっこり笑って身を引く、ような台詞を吐くカトレア。
それに、エレオノールが続ける。
「そそ。だから領地経営とかその他もろもろのめんどいとこは...
さわやかな笑顔で親指なんぞ立てながら、ぽん、とルイズの肩...
「あんたらあああああああ!ハナっからそれが目的かああああ...
長女の手を乱暴に振り払い激昂するルイズ。
そう、ふたりの狙いはまさにそれ。
面倒なことを全部ルイズに押し付け、二人して才人との愛欲の...
ルイズが二人と喧々諤々やりあっていると。
「煩いわよルイズ。静かになさい」
そこへ現れたのは、ラ・ヴァリエールにおいて、最も巨大な権...
三人の母親にして、ラ・ヴァリエール最強の人…カリーヌ・デジ...
「お腹の子に障るでしょ」
もちろん、その言葉は娘のお腹の中にいる我が孫の事を心配し...
「…おかーさまの、でしょ」
ではなかった。
呆れた声で、半眼の呆れた目で、母親を見つめるルイズ。
四十も半ばをすぎ、しかしその見た目は三十でも十分通じるカ...
いや、三人の娘以上に、大きく丸くお腹が膨らんでいた。
「なんで出てきてんのよ!もうすぐ産まれるんでしょ!
ってーかおかーさまの正気を疑うわ!十七も年の離れたきょ...
「また娘ですって。ほんと、ウチは男の子に恵まれないわねえ」
ほう、とため息をつくカリーヌ。論点が見事にずれている。
彼女もまた、次期当主がルイズに決まる少し前。
盛り上がる娘たちにあおられ、あのテこのテで男として枯れ始...
ヴァリエール卿が腰痛で施療院に通うようになったころ、見事...
そして、カリーヌは隣で幽霊のように立ちすくむ、以前に比べ...
「あなた、次は男の子がんばりましょーね♪」
「は、ははは…も、もういいんじゃないかなあ、カリーヌや?」
ヴァリエール卿の言うとおり、さすがに二人とも年も年だ。
しかし、カリーヌは続ける。
「ああら、あなた新婚の時に言った言葉をお忘れですか?
『一個中隊が組めるほど子供がほしいな』って言ってたじゃ...
にっこり笑顔で期待に満ちた台詞。
その顔は、新婚時代のツヤとハリを取り戻しつつあるように見...
「いやまてちょっとまってソレ言葉のアヤっていうか若気の至...
慌てて否定するヴァリエール卿。その顔は青ざめ、シワの目立...
そんな二人のやりとりを、呆れ返った目で見つめる三姉妹。
「認めたくないものね、若さゆえの過ちというものを…」
「若さ、若さってなんでしょうね…」
「なんなのこの状況?バカなの?死ぬの!?」
そうして結局うやむやのうちに時間は流れ。
産む前に式だけは済ませておけ、というヴァリエール卿の最期...
今、盛大な結婚式が執り行われている。
馬車の中はまさに針の筵だった。
才人にとっては。
ピンク色の、マタニティのウエディングドレス、というちょっ...
才人の右隣で、純白のこれまたマタニティのウエディングドレ...
その逆サイドでは、薄い紫のまたまたマタニティのウエディン...
そのレオノールが口を開く。
「ねえカトレア、男の子だったらロッソ、女の子はシオン、で...
「あらお姉さま、水魔法の鑑定はなされていないの?それに旦...
「…産まれる前から分かってたらつまんないじゃない。このどっ...
で、このバカ旦那に決めさせるのは間違い。昨日聞いたら『...
「…サイト君、それは正直ないわー」
「正直ないのはアンタらだっ!」
ついにルイズがキレた。
「ちい姉さまもっ!姉さまもっ!何で私たちの結婚式にっ!
ってーかうちで大人しくしてなさいよ!お腹の子に障るでし...
「ルイズー。おちつこー。『天に唾を吐く』って意味わかるか...
「せっかくだから私らもウエディング着たいのよ。まあ式は無...
「むっきいいいいいいいいいいいいい!」
ヴェールを振り乱し、頭を掻き毟るルイズを見かねて、才人は...
「な、なあ落ち着こうぜルイズ?
俺が一番愛してるのはお前だから」
そしてそれが墓穴となる。
「じゃあ私にばんー」
「私さんばんー」
ぎゅむ、と両側から、ラ・ヴァリエールの美人姉妹の腕が才人...
ぴた、とルイズの動きが止まった。
爆発五秒前。
「ああそう」
四秒前。
「そういう態度なわけ」
三秒前。
「い、いや待って落ち着こう!二人の門出を祝う式じゃないか...
二秒前。
「あらイヤだ。子供も含めると七人よ。いきなり大家族ね♪」
一秒前。
「安心なさいルイズ、お乳なら私たちが余るほど出せるから。
でもフシギねえ、ここまで大きくなっても膨らみすらしない...
ゼロ。
「お前らいっぺん死んでこぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉい!」
極大の虚無の花が、サン・モルティエの大通りの一部と、白亜...
その頃、ヴァリエール別邸。
才人とルイズの、通称『愛の巣』。
その中庭で、鼻歌など歌いながら、黒髪のメイド長が、今日も...
「ふ〜んふ〜ん、ふ〜んふ〜ん、私の夫は〜英雄さ〜ん♪」
シエスタはパンッ、と小気味いい音を立て、白いシャツの水気...
その瞬間。
びええええええええええええ!
物干し台の近くに置かれていた大きなかごから、泣き声が轟い...
「あ、もうそんな時間なの?ごめんなさいねえ」
慌ててシエスタは籠に駆け寄る。
そして、以前より簡単に前の開くデザインに改造されたメイド...
溢れた母乳で服を汚さぬよう当てられた胸当てを外し。
ぽろん、と飛び出た以前より数段サイズを増した乳房を放り出...
「ほらハヤト、ごはんでちゅよー」
籠の中の、黒髪の赤子を抱き上げ、膨らんで母乳の零れだす乳...
ハヤトと呼ばれた赤子は母の臭いに泣き止むと、その大きな乳...
んくんくんくとおちちを飲みだしたハヤトを、聖母の微笑で見...
そう、ハヤトは。
シエスタと才人の子供である。
ルイズが孕むもう二ヶ月以上前から、シエスタは妊娠していた...
ルイズやラ・ヴァリエールの姉妹と違い、彼女は避妊なんぞし...
それを知ったルイズに、才人はもちろんさんざん折檻を受けた。
しかしシエスタはそこで言ったのである。
『私はメイドでいいですよー。サイトさんの傍にいられれば、...
あ、でもこの子といる時は『パパ』って呼びますけど』
もちろんその後才人はルイズに踏み潰された。
まあそんなこんなで、出産後もシエスタはこのヴァリエール別...
そして、ハヤトがお乳を飲み終わり、すやすやと眠り始めた時。
南西の方角で、空が光った。
見慣れた光。虚無の爆発の光だ。
「…あー。だから気をつけてって言ったのにサイトさんてば。
八ヶ月で気が立ってるから余計になのにねえ」
シエスタはハヤトの面倒をみなきゃいけないから、とルイズに...
もちろん、彼女とて女の子。才人との結婚式を夢見ないわけで...
しかし。
これ以上望んだら、ルイズとも険悪になっちゃうし。私はこの...
…それにどーせ式場は戦場になるから、ハヤト危なくて連れて行...
ハヤトを籠に戻しながら、そんなことを考える。
そして、この屋敷の主人たちが帰ってくるまでに、かかりつけ...
「ほらっ、始めなさい!」
ボロボロのウエディングドレスに身を包み、ルイズは消し炭に...
祭壇の上には、おびえた顔のひげ面の司祭。サン・モルティエ...
ちなみに、あれだけいた観客たちは人っ子一人いない。虚無の...
がらんどうの聖堂に、司祭は一人だけ気丈にも残っていた、の...
腰が抜けて動けなくなったのである。
もう七十も超えようというおじいちゃんは、長い人生で最大の...
目の前に鬼神がいた。
お腹の大きな、桃色の髪の鬼神である。
その鬼神は魔力を操り、全てを破壊する。
そう、まるで始祖の書にあった伝説の悪魔のようではないか。
がくがくと震える哀れな老人に、ルイズはパキパキと炭の爆ぜ...
ルイズの湧き出る怒りが、彼女の魔力を無尽蔵に増幅していた...
「早く、祝詞を唱えろっつってんのよ!」
半眼で睨まれると司祭はもうどうにでもなれ、とばかりに祝詞...
「わ、わが始祖は全てを見守られ」
「そのへんはパスよ。誓いのとこだけでいいから」
「し、しかし」
「いーから早くなさい!」
「は、はい!」
圧倒的な暴力の前に、力なきものはただひれ伏すしかなかった。
司祭は黒こげの才人を見下ろして、言っていいのかな、なんて...
「で、では汝に問う。新郎は新婦と永久にあることを誓えるか...
その言葉に才人は答えない。消し炭になりかけていれば当然っ...
「コイツの意思は私のものだから、そこは『はい』でいいわ。...
反論しようと思ったがそれは意味がないと悟った司祭は、その...
「新婦に問う。汝は新郎と永久を添い遂げる事を誓えるか?」
「添い遂げる?はぁ?なんで私がこんな駄犬と!」
げし、と黒くこげたのか元々なのかわからなくなってしまった...
じゃあなんで式なんかしてんだよ、と司祭は思わず年甲斐もな...
そして、ルイズは続けた。
「でも、私が傍にいないとこの駄犬このハルケギニア中の女に...
私が責任を持って、死ぬまで鎖をつけて飼うわ。ま、仕方な...
だからとりあえず、その質問には『はい』」
まあ一応新郎新婦ともに意思の確認はした。新郎の意識は儀式...
司祭はルイズの『さあ、続けて』といわんばかりの視線に怯え...
「で、では始祖ブリミルの加護のもと、汝らを夫婦として祝福...
汝らの魂が、双つの月の如く永遠に共にあらんことを」
儀式は完了し、祝福の聖水を、夫婦に振りかける司祭。
これで儀式は完了し、二人は晴れて夫婦となったわけである。
「さーてそれじゃあお屋敷に帰るわよ駄犬。
あと二ヶ月もしたら産まれるんだから、身体大事にしないと...
そう言いながら、消し炭をずるずる引きずって聖堂から出て行...
司祭は、それを目で追いながら思ったのだった。
もう二度と、結婚式の祝詞役なんか引き受けないぞ、と。
これが、後の世に語り継がれる『サン・モルティエの悪夢』の...
そして。
無事に生還した才人は、晴れてラ・ヴァリエールの入り婿とな...
三姉妹とともに、いろんな意味で波乱万丈の人生を歩んでいく...
それはまた、別の、話。〜fin
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