ゼロの使い魔保管庫
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開始行:
コルベールは研究室で熟考をしている
そして、結論を出そうとしていた
「……私一人では、やはり無理だ。技術に関してはやはり、更に...
ワインを煽り、更に呟く
「一度踏み外した私よりも、彼なら……きっと」
* * *
トリスタニア王宮
アンリエッタの私室
アンリエッタとアニエスは対面で座り、ワインを片手に持って...
「アニエス」
「はっ」
「そろそろ休暇は終了です。動きますよ」
「はっ。どの様に?」
「先ずは、獅子身中の虫の駆除を致します。調査には銃士隊が...
「御意」
「アニエス」
「はっ」
「もしかすると、貴女の復讐相手、公然と達成出来るかも知れ...
「…ご存知だったのですか?」
「身辺調査位しております。だから、貴女が隊長なのです。そ...
「はっ」
「貴女がミシェルとしてきた事、今回の件を上手く出来たら、...
「……御意」
「復讐心を持つ者として、そして女としてお聞きします」
「何なりと」
「達成する迄、諦められませんか?」
すると、アニエスは一度躊躇し、ゆっくりと話しだした
「私の場合は、村一つを背負っております。彼らの命に捧げる...
「愛した男が居てもですか?」
「……いざとなれば、私一人煉獄に落ちる覚悟は出来ております...
アニエスの覚悟にアンリエッタは確認する
「女とは、愛に生きるモノでは無いのですか?」
「少なくとも、私自身は愛を語る資格などありません。私は、...
「‥‥そうですか。それと、依頼した件はどうなっているのです...
「まだ返事は出ておりません。才人が言うには、歴史に残るレ...
「そんなにですか?」
「はい。私には全く解らないのですが。只、冶金技術や度量衡...
「‥私にも全く解りませんね」
「えぇ、良い返事を期待しましょう」
* * *
「失敗……失敗だと?」
「はい」
クロムウェルは報告に呆然とする
「エルフ迄投入して……失敗?」
どさりと椅子の背もたれに腰を預ける
「で、内容は?」
「迎えに行った竜騎士が全滅を確認。その際、一騎撃墜されま...
「他には?」
「はっ、衛士隊が主戦力として阻止した模様です。その際、異...
「く、何者だ?」
「トリステインの公文書を確認すると、サイト=ヒラガ」
「サイト=ヒラガ?妙な名だ」
「はっ、ナイトの称号を拒否した変わり種です」
「今回は魔法兵器には、乗って無かったのだな?」
「はっ、確認されてません」
「ふん、エルフに勝る剣士か……厄介だな。だが、個人単位では...
「イエス・サー」
カッ
踵を合わせ敬礼し、退出する
「魔法兵器一騎でレキシントンクラスの戦列艦複数は落とせん...
クロムウェルの自信は、間違っていない
* * *
ガチャ
「先生、失礼します」
「良く来てくれた、才人君」
コルベールは椅子を才人に促し、ビーカーに紅茶を煎れ、才人...
「で、話とは?」
「うむ、才人君はどうしたいか、漠然とで構わないから、何か...
「そうですね……東、かな?」
「東?」
「えぇ、零戦の元の持ち主が東から来たそうです。ですから東...
「成程、では新型の空船を造ろう」
「空船ですか?」
「うむ。零戦をバラして解析した結果、愉快な蛇君と原理は変...
「そうですね」
「あのエンジンは、作れると思うかね?」
「無理です」
才人は断言する
「ふむ、理由は?」
「まぁ、クランクシャフトは一応案が有ります。しかし、電気...
コルベールは嘆息する
「そうか。なら才人君なら、どうやってエンジンを作るかね?」
才人は悪戯を思い付いた悪ガキの如く表情を浮かべ、逆に問い...
「コルベール先生ならどうします?」
コルベールは才人の問掛けに考え込み、答える
「そうだな………以前に考えた、水蒸気を動力に使おうかと思う」
「続きを、紙付きで」
「うむ、先ずは燃焼炉を用意して、其所で水を沸騰、水蒸気を...
「ふむふむ。動かした後の水蒸気は?」
「?排出だな」
「水はどの様に用意します?」
「この様に、燃焼炉の上が直接水タンクで、水を暖める」
カリカリと原案を書いて行くコルベール
だが、才人はニヤニヤが止まらない
「ピストンの材質とシリンダーの材質と加工方法は?」
「苦しい所を突いて来るな、才人君。ううむ、鋼鉄を使おうか...
「クランクシャフトとコンロッドは?」
「ぐっ、同じく鋼鉄だ」
「圧力をカットしないと、仕事中に反力が加わり、作動しませ...
「うむむむむ」
コルベールは唸り、頭を抱えてしまう
「ボイラーの材質は?」
「同じく鋼鉄だ。才人君、あんまりいじめないでくれ!!降参だ!...
とうとう才人は笑いだしてしまう
「あははははは。いや、失礼。本当に他意は無いです。そうで...
「何!?何処が悪いかね?」
「ええとですね、原理並びにシステムは間違ってません」
「ふむ」
「先ずは内燃機関と外燃機関の違いは、燃焼室を外部にするか...
「うむ、其は私にも解る」
「機関部が仕事を行う場合、内燃機関は、吸入→圧縮→燃焼(仕事...
才人が紙にシステムの概要を書いていき、コルベールが頷く
「成程。外燃機関の場合はどうなるのかね?」
「今から書きます」
才人が書いた絵図は動弁機構の無い2サイクルだ
「先程の2ストロークエンジンと変わらないでは無いかね?」
「えぇ、機関的には変わりません。但し、吸入→圧縮の工程が排...
「ほうほう、つまり機関的には圧縮といった、仕事に反発する...
「正解。つまり、仕事の機械損失を減らせるんです」
「ふむふむ」
「次にボイラーです」
才人が書いたのは、箱に沢山の線を内部に内蔵したモノだ
「何だね、これは?」
「コルベール先生の書いたのは、炉筒ボイラーと呼ばれるモノ...
「成程。特徴は?」
「その前に問題。熱を効率良く伝えるには、どうすれば良いで...
途端にコルベールは唸りだし、そして結論を述べる
「ううむ、熱を伝える部分を増やす事……かな?」
「正解。より正確には、単位時間当たりの接触面積です」
「つまり、一秒当たりで、面積が広ければ広い程良いのだね?」
「流石先生。話が早い。その通りです。では先生のボイラーと...
コルベールは、はたと気付く
「才人君の方だな」
「その通り。つまり同じ圧力を発生させると仮定した場合、沸...
「おぉ、成程」
ぽんと手の平を叩くコルベール
「次に航空船舶の場合、出力が変動しやすいです。つまり運行...
「ふむふむ」
「水管ボイラーはその辺についても有利で、圧力制御が容易な...
「成程」
「更に低圧から超高圧迄使用でき、仕事の幅を選びません。正...
コルベールは感心する
「流石才人君だな」
「ボイラー溶接士舐めんなトリステイン、って所ですね」
「才人君、それも?」
「えぇ、俺の国のお墨付きです」
「君は……本当に、元の国で、地位を持ってたんだな」
「大したもんじゃ無いですよ。では、次に材質です」
「うむ」
「熱交換に使うパイプは全て銅、圧力配管も銅を使い、燃焼炉...
コルベールは仰天する
「ちょっと待ってくれ才人君。銅なんて柔らか過ぎて、使いも...
「やっぱりそう思うか」
才人はニヤニヤしながら語りだす
「実はですね。耐圧と熱伝導に於て、銅は鉄より優れてるんで...
コルベールはゴクリと息を飲む
「ほ、本当かね?」
「本当です。直径1サント未満の銅配管で、1500kg/cm2以上耐...
コルベールはキョトンとする
「才人君。単位が解らないんだが?」
「コルベール先生の設計だと、通常耐圧5kg/cm2。限界が10kg/...
コルベールは、口をあんぐり開けて絶句する
「な、私の設計の150倍以上?」
「そういう事。まぁ、配管は細い程強いってのも有りますが、...
「本当は圧力配管には、熱損失考えるとステンレス使いたいん...
「クロム?ニッケル?なんだねそれは?」
「非鉄金属の一種です。知られてない素材は使えないので説明...
すらりと村雨を抜き、コルベールに見せる
「才人君の国の刀には、そのクロムが使われてるのかね?」
「正確には、玉鋼に知らずに混ざっていた、が正しいです。日...
「ふむ、流石に現物すらない、採掘されてない金属を、錬金で...
「その通り。だから忘れて下さい。それにクロムは毒です。下...
「…了解した」
「次に機関部です」
「うむ」
「機関部のガワには鋳鉄を用います」
「な、なんだって?」
「ガワに強度は要りません。寧ろ鋳鉄の持つ振動吸収と、擦動...
「う、うむ。私も付いて行くのがやっとだ」
「次にシリンダーとピストンとコンロッド、それにクランクシ...
「う、うむ」
「ピストンとシリンダーライナーは同じく鋳鉄。理由は言った...
「熱処理?」
「はい、焼鈍→焼き入れ→焼き戻しの工程を経過して、やっと使...
「ほう、色々やり方があるんだな」
朝から二人してずっとやり方を協議してる間に、気が付いたら...
だが二人共特に気付かず、更に議論が白熱していく
「次に付属品です」
「うむ」
「ボイラーは熱効率を上げる為に、予熱機構と廃熱回収機構を...
「ふむ、熱効率とは何かね?」
「燃料を燃やした分が、どれだけ実際の仕事に回されたかの比...
「コルベール先生のシステムの場合、せっかくの水蒸気並びに...
才人が棒グラフをかりかり書き、コルベールは唸る
「むむむ、熱とは大事なモノなのだな」
「えぇ。そして熱は全てを仕事に変換出来ないのが宿命です。...
「解った。ではどうするね?」
「ボイラー対する吸気系統に熱交換器を設置して、排熱を吸入...
「次にボイラーの給水系統にも同じく熱交換器を設置。これも...
「成程ね。水蒸気を排出しないならどうする?」
「圧力が掛った蒸気を一次系統。仕事が終わった蒸気を二次系...
才人が概略をすらすら書いていくのを熱心にコルベールは見る
「ふむふむ、成程な」
「更に各蒸気配管は断熱材で覆い、熱を排出しない様にします...
「素材は?」
「硝子を繊維状にして布の様に出来ますか?」
「……難しいな」
「じゃあ、軽石は錬金出来ます?」
「多孔質の石ころだね?石ころなら簡単だ、誰でも出来る」
「じゃあ、軽石を用意して、配管を覆う様に錬金しなおせば良...
「成程。確かに出来るな」
「次に給水槽と蒸気→水熱交換器ですが、冷気魔法をかけ凍らせ...
「何故かね?」
コルベールは疑問を口にする
「蒸気の水は温度差が激しい程出力が向上し、蒸気が水に変換...
顎に手を置いて頷くコルベール
「成程。つまり、より力を出せるのか」
「そういう事。船の大きさはどうしましょう?」
「色々貨物を積んで、長期航行する事を前提にするなら、最大...
「成程、先生ならどういう形状にします?」
何故かサンドイッチを食べながら、更に違う紙を用意して、二...
紅茶もきちんとしたカップが差し出されてるのだが、互いと概...
「そうだな、こういうのはどうだろう?」
船に二等辺三角形の翼を書き、プロペラとボイラー機関を翼に...
才人は考えると、質問する
「コルベール先生、なんで翼に機関を?」
「一番効率が良いからだ」
「…成程、確かに。でもダウト」
コルベールが問い正す。最早コルベールが生徒で才人が教師に...
「何が問題かね?」
「重量です。外燃機関の欠点は非常に重くなる事。つまり翼に...
コルベールは考え込み、答える
「どれ位の重量になるか、解るかね?」
「そうですね。大体、1メイル×1メイル×1〜2メイルの水重...
「ふむ、確かに重いな。負担が掛かるのは感心しない。才人君...
「そうですね、船体中央やや後部にかけて設置して、そこから...
才人は船体内部にボイラーを設置したイラストをカリカリ書く
「成程。では翼はどうだろう?」
才人は考え込み、イラストを書き始めた
「そうですね。俺は航空力学は専門外なんで、翼の面積は零戦...
「成程。参考になるものが有るなら、使うのが一番だ」
「それで、現在の航空機は後退翼が基本なので、こういう風に...
才人が船体中央から、やや後部に後退翼を書く
「ほぅ、何故後ろに傾かせるのかね?」
「俺も詳しくは知らないんですが、風切りに有利なんだとか。...
「ほうほう」
コルベールは顎に手を当て、しきりに頷く
更に才人は、先尾翼を船体前部に追加する
「コイツは先尾翼。航空機の操舵には必須です」
「成程。舵はいくつ用意するかね?」
「左右舵が一、主翼舵が一対、尾翼舵が一対計5つ。更に可変...
「本当は一人が良いんですが、帆船とは完全に違うし、航空機...
才人がウォームギヤの概略図を書く
コルベールは零戦と違う舵仕様に疑問を持つ
「ウォームギヤってのは解った。だけどどうしてやるのかね?...
「貨物運搬を目的とした、高荷重船だからです。急な舵は揺ら...
「ふむ、成程ね。上手くいくと思うかね?」
才人はあっさり答える
「解りません。なんせ、航空船舶なんざ、初めてなもので」
それでも、コルベールはしきりに感心する
「それでも、アイデアがすらすら出るのだから、大したものだ」
「まぁ、色々な器材の組み合わせですからね。駆動方式はチェ...
才人がプーリーに溝が入った物を書き、普通の鎖を追加する
「チェーンプーリー?何だね?これは?」
「本来はドライブチェーンとスプロケットが良いのですが、チ...
「利点としては、スプロケットだとラインを通さないと故障の...
「コイツはチェーンブロックや船舶に使われてる方式なんで、...
「更に、翼にチェーンを通す理由は他にも有りまして、翼が揚...
翼を根本から上下に振ったイラストを書き、コルベールがしき...
「良くもまぁ、すらすらと出るものだ。私には到底思い付かな...
「あぁ、バイクのチェーンスプロケットとスイングアームと一...
才人は言うと、更にプロペラ軸の構造を書き始めた
「プロペラは可変ピッチにしないと燃費と加速に影響するので...
才人が翼にプロペラを3基ずつ追加する
コルベールは其を見て唸る
「才人君、後退翼で、軸がずれてるが?」
「あぁ、こうやってプロペラ軸の終端から、次のプロペラの中...
「あ、成程」
ぽんと手を叩くコルベール
「更に、駆動軸は中空にして、中にプロペラピッチ調整軸を挿...
「プロペラの根本部分にもウォームギヤを採用して、ピッチが...
才人がプロペラギヤボックス内部のイラストを書く
「…出来るかね?」
「プロペラは十字継手で対面を繋ぎ、ベベルギヤで一斉作動。...
「成程、大体解った。問題は、どうやって加工するのかね?そ...
「冶金技術は俺が引き上げましょう。現場を見てからですから...
コルベールは一通り説明を受けた後、確認する
「……水車で、加工出来るのかね?」
「俺を誰だと思ってるんです?世界一の職人大国『ニッポン』...
ブルブルとコルベールは震え始める
そして、歓声をあげた
「君は、君は最高だ!!私は君に全面的に協力するぞ!!私の行く...
ガッと才人の手を堅く握り締め、次いで抱き締め、才人に熱い...
ちゅう
才人はいきなりそんな事されるとは露とも思わず、無防備に受...
ちゅぽん
音を立てて離れたコルベール
「「「きゃあ〜〜〜〜〜!?」」」
ビクッ
「えっ、な、何かね?」
コルベールが辺りを見回すと、アニエス、シエスタ、タバサ、...
「君達、いつの間に?」
「いつの間には無いだろう?ミスタコルベール。今日の授業全...
「あぁ、ミスタがそういう趣味だとは露とも知らなかった。存...
そう言って、ギトーはさっさと退出する
「ちょ、ちょっと待ってくれミスタ」
「……才人さんに何してるんです?」
ギトーを呼び止めようとしたコルベールを遮り、恐ろしい形相...
「……シエスタ君、いつの間に?」
「何を言ってるんですか?午前中から、ずっと居たじゃないで...
見ると、確かにサンドイッチを無意識に食い散らかした跡があ...
「あ、済まない。全く気付かなかった」
「いいえぇ。聞いててもさっぱり解りませんでしたし、気にし...
やっぱり形相は変わらない
そんなコルベールの喉元に刃が走る
「な、シュヴァリエ。冗談はよしてくれないか?」
「私は笑えぬ冗談が嫌いだ。私も朝から居たぞ?才人が何時ま...
「あっ!?」
コルベールはだらだら冷や汗を垂らす
「で、どうやら科学の話らしいが、此処で命を絶つのと、軍に...
「シュヴァリエもキツイ冗談を……」
コルベールは両手を上げて降参の意を示すが、アニエスは取り...
「貴様、男の癖にアイツの唇を………殺す!!」
殺意を見せるアニエス。瞳に躊躇は無い
「わ、解った。提供する、提供させて頂きます!!」
アニエスがやっと剣を下げたので、コルベールは溜め息を吐き...
「ミスヴァリエール?」
コルベールがルイズの様子がおかしいのに気付き、手を顔の前...
「気絶してるな。才人君?」
才人に振り向くと、真っ白になった才人が椅子に腰掛け、顔を...
「燃え尽きた………真っ白な……灰に……なっちまった………ぜ………少し……...
カクンと才人も倒れる
そして、シエスタとアニエスのツインアッパーを喰らい、コル...
「…シルフィードの本と一緒」
僅かに頬を染め、タバサは呟いた
* * *
終了行:
コルベールは研究室で熟考をしている
そして、結論を出そうとしていた
「……私一人では、やはり無理だ。技術に関してはやはり、更に...
ワインを煽り、更に呟く
「一度踏み外した私よりも、彼なら……きっと」
* * *
トリスタニア王宮
アンリエッタの私室
アンリエッタとアニエスは対面で座り、ワインを片手に持って...
「アニエス」
「はっ」
「そろそろ休暇は終了です。動きますよ」
「はっ。どの様に?」
「先ずは、獅子身中の虫の駆除を致します。調査には銃士隊が...
「御意」
「アニエス」
「はっ」
「もしかすると、貴女の復讐相手、公然と達成出来るかも知れ...
「…ご存知だったのですか?」
「身辺調査位しております。だから、貴女が隊長なのです。そ...
「はっ」
「貴女がミシェルとしてきた事、今回の件を上手く出来たら、...
「……御意」
「復讐心を持つ者として、そして女としてお聞きします」
「何なりと」
「達成する迄、諦められませんか?」
すると、アニエスは一度躊躇し、ゆっくりと話しだした
「私の場合は、村一つを背負っております。彼らの命に捧げる...
「愛した男が居てもですか?」
「……いざとなれば、私一人煉獄に落ちる覚悟は出来ております...
アニエスの覚悟にアンリエッタは確認する
「女とは、愛に生きるモノでは無いのですか?」
「少なくとも、私自身は愛を語る資格などありません。私は、...
「‥‥そうですか。それと、依頼した件はどうなっているのです...
「まだ返事は出ておりません。才人が言うには、歴史に残るレ...
「そんなにですか?」
「はい。私には全く解らないのですが。只、冶金技術や度量衡...
「‥私にも全く解りませんね」
「えぇ、良い返事を期待しましょう」
* * *
「失敗……失敗だと?」
「はい」
クロムウェルは報告に呆然とする
「エルフ迄投入して……失敗?」
どさりと椅子の背もたれに腰を預ける
「で、内容は?」
「迎えに行った竜騎士が全滅を確認。その際、一騎撃墜されま...
「他には?」
「はっ、衛士隊が主戦力として阻止した模様です。その際、異...
「く、何者だ?」
「トリステインの公文書を確認すると、サイト=ヒラガ」
「サイト=ヒラガ?妙な名だ」
「はっ、ナイトの称号を拒否した変わり種です」
「今回は魔法兵器には、乗って無かったのだな?」
「はっ、確認されてません」
「ふん、エルフに勝る剣士か……厄介だな。だが、個人単位では...
「イエス・サー」
カッ
踵を合わせ敬礼し、退出する
「魔法兵器一騎でレキシントンクラスの戦列艦複数は落とせん...
クロムウェルの自信は、間違っていない
* * *
ガチャ
「先生、失礼します」
「良く来てくれた、才人君」
コルベールは椅子を才人に促し、ビーカーに紅茶を煎れ、才人...
「で、話とは?」
「うむ、才人君はどうしたいか、漠然とで構わないから、何か...
「そうですね……東、かな?」
「東?」
「えぇ、零戦の元の持ち主が東から来たそうです。ですから東...
「成程、では新型の空船を造ろう」
「空船ですか?」
「うむ。零戦をバラして解析した結果、愉快な蛇君と原理は変...
「そうですね」
「あのエンジンは、作れると思うかね?」
「無理です」
才人は断言する
「ふむ、理由は?」
「まぁ、クランクシャフトは一応案が有ります。しかし、電気...
コルベールは嘆息する
「そうか。なら才人君なら、どうやってエンジンを作るかね?」
才人は悪戯を思い付いた悪ガキの如く表情を浮かべ、逆に問い...
「コルベール先生ならどうします?」
コルベールは才人の問掛けに考え込み、答える
「そうだな………以前に考えた、水蒸気を動力に使おうかと思う」
「続きを、紙付きで」
「うむ、先ずは燃焼炉を用意して、其所で水を沸騰、水蒸気を...
「ふむふむ。動かした後の水蒸気は?」
「?排出だな」
「水はどの様に用意します?」
「この様に、燃焼炉の上が直接水タンクで、水を暖める」
カリカリと原案を書いて行くコルベール
だが、才人はニヤニヤが止まらない
「ピストンの材質とシリンダーの材質と加工方法は?」
「苦しい所を突いて来るな、才人君。ううむ、鋼鉄を使おうか...
「クランクシャフトとコンロッドは?」
「ぐっ、同じく鋼鉄だ」
「圧力をカットしないと、仕事中に反力が加わり、作動しませ...
「うむむむむ」
コルベールは唸り、頭を抱えてしまう
「ボイラーの材質は?」
「同じく鋼鉄だ。才人君、あんまりいじめないでくれ!!降参だ!...
とうとう才人は笑いだしてしまう
「あははははは。いや、失礼。本当に他意は無いです。そうで...
「何!?何処が悪いかね?」
「ええとですね、原理並びにシステムは間違ってません」
「ふむ」
「先ずは内燃機関と外燃機関の違いは、燃焼室を外部にするか...
「うむ、其は私にも解る」
「機関部が仕事を行う場合、内燃機関は、吸入→圧縮→燃焼(仕事...
才人が紙にシステムの概要を書いていき、コルベールが頷く
「成程。外燃機関の場合はどうなるのかね?」
「今から書きます」
才人が書いた絵図は動弁機構の無い2サイクルだ
「先程の2ストロークエンジンと変わらないでは無いかね?」
「えぇ、機関的には変わりません。但し、吸入→圧縮の工程が排...
「ほうほう、つまり機関的には圧縮といった、仕事に反発する...
「正解。つまり、仕事の機械損失を減らせるんです」
「ふむふむ」
「次にボイラーです」
才人が書いたのは、箱に沢山の線を内部に内蔵したモノだ
「何だね、これは?」
「コルベール先生の書いたのは、炉筒ボイラーと呼ばれるモノ...
「成程。特徴は?」
「その前に問題。熱を効率良く伝えるには、どうすれば良いで...
途端にコルベールは唸りだし、そして結論を述べる
「ううむ、熱を伝える部分を増やす事……かな?」
「正解。より正確には、単位時間当たりの接触面積です」
「つまり、一秒当たりで、面積が広ければ広い程良いのだね?」
「流石先生。話が早い。その通りです。では先生のボイラーと...
コルベールは、はたと気付く
「才人君の方だな」
「その通り。つまり同じ圧力を発生させると仮定した場合、沸...
「おぉ、成程」
ぽんと手の平を叩くコルベール
「次に航空船舶の場合、出力が変動しやすいです。つまり運行...
「ふむふむ」
「水管ボイラーはその辺についても有利で、圧力制御が容易な...
「成程」
「更に低圧から超高圧迄使用でき、仕事の幅を選びません。正...
コルベールは感心する
「流石才人君だな」
「ボイラー溶接士舐めんなトリステイン、って所ですね」
「才人君、それも?」
「えぇ、俺の国のお墨付きです」
「君は……本当に、元の国で、地位を持ってたんだな」
「大したもんじゃ無いですよ。では、次に材質です」
「うむ」
「熱交換に使うパイプは全て銅、圧力配管も銅を使い、燃焼炉...
コルベールは仰天する
「ちょっと待ってくれ才人君。銅なんて柔らか過ぎて、使いも...
「やっぱりそう思うか」
才人はニヤニヤしながら語りだす
「実はですね。耐圧と熱伝導に於て、銅は鉄より優れてるんで...
コルベールはゴクリと息を飲む
「ほ、本当かね?」
「本当です。直径1サント未満の銅配管で、1500kg/cm2以上耐...
コルベールはキョトンとする
「才人君。単位が解らないんだが?」
「コルベール先生の設計だと、通常耐圧5kg/cm2。限界が10kg/...
コルベールは、口をあんぐり開けて絶句する
「な、私の設計の150倍以上?」
「そういう事。まぁ、配管は細い程強いってのも有りますが、...
「本当は圧力配管には、熱損失考えるとステンレス使いたいん...
「クロム?ニッケル?なんだねそれは?」
「非鉄金属の一種です。知られてない素材は使えないので説明...
すらりと村雨を抜き、コルベールに見せる
「才人君の国の刀には、そのクロムが使われてるのかね?」
「正確には、玉鋼に知らずに混ざっていた、が正しいです。日...
「ふむ、流石に現物すらない、採掘されてない金属を、錬金で...
「その通り。だから忘れて下さい。それにクロムは毒です。下...
「…了解した」
「次に機関部です」
「うむ」
「機関部のガワには鋳鉄を用います」
「な、なんだって?」
「ガワに強度は要りません。寧ろ鋳鉄の持つ振動吸収と、擦動...
「う、うむ。私も付いて行くのがやっとだ」
「次にシリンダーとピストンとコンロッド、それにクランクシ...
「う、うむ」
「ピストンとシリンダーライナーは同じく鋳鉄。理由は言った...
「熱処理?」
「はい、焼鈍→焼き入れ→焼き戻しの工程を経過して、やっと使...
「ほう、色々やり方があるんだな」
朝から二人してずっとやり方を協議してる間に、気が付いたら...
だが二人共特に気付かず、更に議論が白熱していく
「次に付属品です」
「うむ」
「ボイラーは熱効率を上げる為に、予熱機構と廃熱回収機構を...
「ふむ、熱効率とは何かね?」
「燃料を燃やした分が、どれだけ実際の仕事に回されたかの比...
「コルベール先生のシステムの場合、せっかくの水蒸気並びに...
才人が棒グラフをかりかり書き、コルベールは唸る
「むむむ、熱とは大事なモノなのだな」
「えぇ。そして熱は全てを仕事に変換出来ないのが宿命です。...
「解った。ではどうするね?」
「ボイラー対する吸気系統に熱交換器を設置して、排熱を吸入...
「次にボイラーの給水系統にも同じく熱交換器を設置。これも...
「成程ね。水蒸気を排出しないならどうする?」
「圧力が掛った蒸気を一次系統。仕事が終わった蒸気を二次系...
才人が概略をすらすら書いていくのを熱心にコルベールは見る
「ふむふむ、成程な」
「更に各蒸気配管は断熱材で覆い、熱を排出しない様にします...
「素材は?」
「硝子を繊維状にして布の様に出来ますか?」
「……難しいな」
「じゃあ、軽石は錬金出来ます?」
「多孔質の石ころだね?石ころなら簡単だ、誰でも出来る」
「じゃあ、軽石を用意して、配管を覆う様に錬金しなおせば良...
「成程。確かに出来るな」
「次に給水槽と蒸気→水熱交換器ですが、冷気魔法をかけ凍らせ...
「何故かね?」
コルベールは疑問を口にする
「蒸気の水は温度差が激しい程出力が向上し、蒸気が水に変換...
顎に手を置いて頷くコルベール
「成程。つまり、より力を出せるのか」
「そういう事。船の大きさはどうしましょう?」
「色々貨物を積んで、長期航行する事を前提にするなら、最大...
「成程、先生ならどういう形状にします?」
何故かサンドイッチを食べながら、更に違う紙を用意して、二...
紅茶もきちんとしたカップが差し出されてるのだが、互いと概...
「そうだな、こういうのはどうだろう?」
船に二等辺三角形の翼を書き、プロペラとボイラー機関を翼に...
才人は考えると、質問する
「コルベール先生、なんで翼に機関を?」
「一番効率が良いからだ」
「…成程、確かに。でもダウト」
コルベールが問い正す。最早コルベールが生徒で才人が教師に...
「何が問題かね?」
「重量です。外燃機関の欠点は非常に重くなる事。つまり翼に...
コルベールは考え込み、答える
「どれ位の重量になるか、解るかね?」
「そうですね。大体、1メイル×1メイル×1〜2メイルの水重...
「ふむ、確かに重いな。負担が掛かるのは感心しない。才人君...
「そうですね、船体中央やや後部にかけて設置して、そこから...
才人は船体内部にボイラーを設置したイラストをカリカリ書く
「成程。では翼はどうだろう?」
才人は考え込み、イラストを書き始めた
「そうですね。俺は航空力学は専門外なんで、翼の面積は零戦...
「成程。参考になるものが有るなら、使うのが一番だ」
「それで、現在の航空機は後退翼が基本なので、こういう風に...
才人が船体中央から、やや後部に後退翼を書く
「ほぅ、何故後ろに傾かせるのかね?」
「俺も詳しくは知らないんですが、風切りに有利なんだとか。...
「ほうほう」
コルベールは顎に手を当て、しきりに頷く
更に才人は、先尾翼を船体前部に追加する
「コイツは先尾翼。航空機の操舵には必須です」
「成程。舵はいくつ用意するかね?」
「左右舵が一、主翼舵が一対、尾翼舵が一対計5つ。更に可変...
「本当は一人が良いんですが、帆船とは完全に違うし、航空機...
才人がウォームギヤの概略図を書く
コルベールは零戦と違う舵仕様に疑問を持つ
「ウォームギヤってのは解った。だけどどうしてやるのかね?...
「貨物運搬を目的とした、高荷重船だからです。急な舵は揺ら...
「ふむ、成程ね。上手くいくと思うかね?」
才人はあっさり答える
「解りません。なんせ、航空船舶なんざ、初めてなもので」
それでも、コルベールはしきりに感心する
「それでも、アイデアがすらすら出るのだから、大したものだ」
「まぁ、色々な器材の組み合わせですからね。駆動方式はチェ...
才人がプーリーに溝が入った物を書き、普通の鎖を追加する
「チェーンプーリー?何だね?これは?」
「本来はドライブチェーンとスプロケットが良いのですが、チ...
「利点としては、スプロケットだとラインを通さないと故障の...
「コイツはチェーンブロックや船舶に使われてる方式なんで、...
「更に、翼にチェーンを通す理由は他にも有りまして、翼が揚...
翼を根本から上下に振ったイラストを書き、コルベールがしき...
「良くもまぁ、すらすらと出るものだ。私には到底思い付かな...
「あぁ、バイクのチェーンスプロケットとスイングアームと一...
才人は言うと、更にプロペラ軸の構造を書き始めた
「プロペラは可変ピッチにしないと燃費と加速に影響するので...
才人が翼にプロペラを3基ずつ追加する
コルベールは其を見て唸る
「才人君、後退翼で、軸がずれてるが?」
「あぁ、こうやってプロペラ軸の終端から、次のプロペラの中...
「あ、成程」
ぽんと手を叩くコルベール
「更に、駆動軸は中空にして、中にプロペラピッチ調整軸を挿...
「プロペラの根本部分にもウォームギヤを採用して、ピッチが...
才人がプロペラギヤボックス内部のイラストを書く
「…出来るかね?」
「プロペラは十字継手で対面を繋ぎ、ベベルギヤで一斉作動。...
「成程、大体解った。問題は、どうやって加工するのかね?そ...
「冶金技術は俺が引き上げましょう。現場を見てからですから...
コルベールは一通り説明を受けた後、確認する
「……水車で、加工出来るのかね?」
「俺を誰だと思ってるんです?世界一の職人大国『ニッポン』...
ブルブルとコルベールは震え始める
そして、歓声をあげた
「君は、君は最高だ!!私は君に全面的に協力するぞ!!私の行く...
ガッと才人の手を堅く握り締め、次いで抱き締め、才人に熱い...
ちゅう
才人はいきなりそんな事されるとは露とも思わず、無防備に受...
ちゅぽん
音を立てて離れたコルベール
「「「きゃあ〜〜〜〜〜!?」」」
ビクッ
「えっ、な、何かね?」
コルベールが辺りを見回すと、アニエス、シエスタ、タバサ、...
「君達、いつの間に?」
「いつの間には無いだろう?ミスタコルベール。今日の授業全...
「あぁ、ミスタがそういう趣味だとは露とも知らなかった。存...
そう言って、ギトーはさっさと退出する
「ちょ、ちょっと待ってくれミスタ」
「……才人さんに何してるんです?」
ギトーを呼び止めようとしたコルベールを遮り、恐ろしい形相...
「……シエスタ君、いつの間に?」
「何を言ってるんですか?午前中から、ずっと居たじゃないで...
見ると、確かにサンドイッチを無意識に食い散らかした跡があ...
「あ、済まない。全く気付かなかった」
「いいえぇ。聞いててもさっぱり解りませんでしたし、気にし...
やっぱり形相は変わらない
そんなコルベールの喉元に刃が走る
「な、シュヴァリエ。冗談はよしてくれないか?」
「私は笑えぬ冗談が嫌いだ。私も朝から居たぞ?才人が何時ま...
「あっ!?」
コルベールはだらだら冷や汗を垂らす
「で、どうやら科学の話らしいが、此処で命を絶つのと、軍に...
「シュヴァリエもキツイ冗談を……」
コルベールは両手を上げて降参の意を示すが、アニエスは取り...
「貴様、男の癖にアイツの唇を………殺す!!」
殺意を見せるアニエス。瞳に躊躇は無い
「わ、解った。提供する、提供させて頂きます!!」
アニエスがやっと剣を下げたので、コルベールは溜め息を吐き...
「ミスヴァリエール?」
コルベールがルイズの様子がおかしいのに気付き、手を顔の前...
「気絶してるな。才人君?」
才人に振り向くと、真っ白になった才人が椅子に腰掛け、顔を...
「燃え尽きた………真っ白な……灰に……なっちまった………ぜ………少し……...
カクンと才人も倒れる
そして、シエスタとアニエスのツインアッパーを喰らい、コル...
「…シルフィードの本と一緒」
僅かに頬を染め、タバサは呟いた
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