ゼロの使い魔保管庫
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翌日、才人はコルベールと共に王宮に赴いている
夏休み前の最終週である
迎えに来たのはルネである
コルベールの研究室で、製作図面と格闘する為、ドラフターの...
「おはよう才人、其にミスタコルベール。陛下よりお呼び出し...
「お早う。そう言えばアニエスさんは?」
「シュヴァリエは先週より、別任務に付いてるよ。急な為、挨...
「そりゃ、急だねぇ。呼び出しは、この前のロケット弾の礼か...
「さぁ?とにかく来てくれよ。じゃないと僕がどやされる」
「ああ、それじゃしょうがないな。先生」
「うむ、才人君。この前の話、忘れて無いかね?」
「……えぇ、まぁ」
「なら、良い機会だ。良いね?」
「…まぁ、先生が良いなら」
コルベールの決意の眼に、才人は曖昧に頷いた
「無冠の騎士殿。其にミスタコルベール。呼び出しに応じて頂...
「いえ、で、何の用ですか?」
「シュヴァリエになって下さいまし。そして、近衛になって下...
「お断り」
「今なら、トリステイン女王もセットに付けさせて頂きますわ...
「何処のTV通販だよ?」
才人は苦笑する
「まだ心変わりなさらないのですわね。仕方有りません。今日...
想像したコルベールが、鼻からポタポタ血を垂らす
「あ、先生大丈夫ですか?」
「う、うむ。じ、実にけしからん。いや羨ま、あ、いや教育者...
喋る度に墓穴を掘るコルベール
「コルベール先生も、好きモノですねぇ」
ゴホンと咳払いし、澄まして答えるコルベール
「女性こそ、最大の謎であり、最高の研究対象だよ。才人君」
「否定はしません」
くすくす笑い出すアンリエッタ
「サイト殿の周りは、本当に楽しそうですわね。では本題に入...
「はい、何でしょう?」
「出兵を決意しました。サイト殿とミスタコルベールに、ロケ...
カチンとする才人
睨み返されたまま歩み出され、アンリエッタは失敗を悟る
「あぁ!!申し訳有りません!!怒らないで、お願いだからお尻ぺ...
涙を貯めてふるふる首を振るアンリエッタ
玉座に座ってるせいで逃げられない
杖の存在は失念と言うより、完全にお仕置きされモードに入っ...
この前のお尻ぺんぺんが、相当トラウマになったらしい
すたすたすた、ぴた
才人がアンリエッタの真ん前に立つ
「あ、ごめんなさい。お願いだから叱らないでぇ!?」
言葉とは裏腹に、お仕置きに期待の眼を向けてる事をアンリエ...
ガバッ
「きゃん!?」
「才人君、何を?」
コルベールは唖然としながら才人の行為を見守る
ぱぁん!ぱぁん!ぱぁん!
「きゃん、あん、あん」
才人は三発だけやると、アンリエッタを玉座に下ろす
アンリエッタはぽぅっとしながら、才人を見つめ、小さく呟いた
「‥‥もっと」
「今なんて言いました?姫様?」
「‥‥は、いえ、何でも有りません」
慌てて、アンリエッタは言い繕う
才人が立ち位置に戻ると、改めてアンリエッタが言い直す
「コホン‥‥では改めて。サイト殿、ロケット弾の量産化に協力...
「ん〜、どうすっかな?コルベール先生は?」
「そうですな。王政府がきちんと協力を確約出来るなら、才人...
「例えば?」
「実はですな、我々は現在新型空船の設計開発を行っておりま...
「新型の空船?」
「はい、具体的には風竜は無理でも、火竜レベルの速度は出せ...
がたり
アンリエッタは思わず立ち上がり、王冠を取り落とす
「‥‥そんな事が、可能なのですか?」
「我々が、才人君の設計を実現させる事が出来れば可能です」
流石にアンリエッタは首を振る
「また、ご冗談を」
「仕方有りません。では、話をツェルプストーに持って行きま...
「だ、駄目です!!」
アンリエッタは堪らず悲鳴を上げる
せっかく見つけたトリステイン発展の鍵、同盟なんぞいつ解消...
言った通りの性能が出た場合、仮にツェルプストーが母港にな...
アンリエッタには絶対に飲めない
正に目の前に居るのは、使い方を誤れば、全てを壊す爆弾だ
暗殺もちらつくが、直ぐに頭の中で首を振る
『返り討ちにしてしまいますわね。其にヴァリエールが敵対し...
今でも彼の機嫌を損ね無いように綱渡り。何て頭が痛い
ルイズが暗殺しそうと言い、自分が本当にそう考え、自己嫌悪...
「まぁまぁ、先生。あんまり苛めるのもあれですし」
「私は夢が実現出来れば、パトロンは誰でも構わないのだがね」
「と、言う訳で、姫様がコルベール先生に協力を確約出来るっ...
「‥本当ですか?」
「俺は、約束は守りますよ?」
アンリエッタは玉座に座り考える
資金の問題さえクリア出来れば、産業発展のチャンスである
科学を実際に見せられたので、説得力は有る
乗った方が良いと、頭が囁く
「サイト殿。質問が有ります」
「どうぞ?」
「何故、今になって提供を?」
「コルベール先生の夢だから。俺の目的と水の精霊の依頼内容...
答えを頭の中で反芻する
嘘を付いてる様には見えない。基本的に嘘が嫌いなのは、ルイ...
『義理を果たす人だから、トリステインに持って来てくれた。...
『断れば、トリステインがどうなるか迄、完璧に予測しての‥‥...
アンリエッタは考えをまとめ、結論を出す
「解りました。結論を言います」
コルベールはごくりと息を飲み、才人は漂々とする
「協力を確約しましょう。ですが条件が有ります」
「何でしょう?」
「生産技術をトリステインで独占させて頂きます。此が条件で...
「ま、妥当だね。では此方からも」
「何でしょう?」
「生産用品が足らず、外国から輸入しなければならない場合、...
少し考え込み、答える
「‥相手によります。アルビオン、ガリア、ネフテスには止めて...
「ネフテス?」
「エルフ達の国ですよ」
「つまり、今以上に強くなられても、困る相手と」
「えぇ、ゲルマニアは同盟国なので仕方有りませんが、なるべ...
「成程ね。ロマリアは?」
「あの国では、異端扱いするでしょう。するだけ無駄です」
「其処まで酷いのか」
才人は苦笑する
「じゃあ、交渉成立かな?」
「はい、では名称を決めましょう。具体的には何をお作りにな...
「蒸気機関船だね。後は応用で、蒸気機関式工作機械他」
「機関ですか‥‥そしたら、ゼロの使い魔が機関を作るので、ゼ...
「コルベール先生が「問題有りません。女王陛下」
「では、給与は‥‥残念ですが支払い出来ません」
ガクリと二人して傾き、コルベールが堪らず問い正す
「陛下、何故ですか?」
「貴方達がやるのは新しい試みです。伝統を重んじる他の貴族...
「貴方達は新しい道具を開発し、量産手段を王政府にレポート...
「ヒュ〜、お見事」
パチパチパチパチ
才人が思わず拍手を送る
「ミスタコルベール、異論は?降りても構いませんよ?」
「……いや、才人君が喜んだ。其だけやり甲斐が有ると言う事だ...
「ではサイト殿。一番最初に必要なモノは何でしょう?」
「あぁ、書類製作に必要なんで、秘書兼有能な土メイジを専属...
「えぇ、解りましたわ。では、ミスタコルベール。先に退出お...
「解りました陛下。ではお先に失礼致します」
礼をしたコルベールが退出し、謁見の間はアンリエッタと才人...
「出兵……決意されたんですね?」
「‥はい」
「…復讐ですか?」
「はい」
「達成しても、得るのは有りませんよ?」
「‥ご存知ですの?」
「まぁ……ね」
「では、ご存知ですね?」
「…えぇ、止めても無駄だってね」
「助けて‥‥下さいまし」
「……資金は?」
「デムリ財務卿に試算させてます。一応大丈夫かと」
「どんな状態?」
「増税です」
才人は即答する
「あぁ、駄目だ。トリステインが疲弊する。勝っても負けても...
「‥宜しいのですか?」
「……俺はね、女のコの涙に弱いんだ」
頭をぼりぼりかきながら答える
「今の姫様。涙を流してる時より泣いてるよ」
アンリエッタはハッとし、才人を見上げる
才人は背を向け、ひらひら手を振りながら、退出する最中だった
アンリエッタは急いで小姓を呼ぶ
「誰か、今直ぐマザリーニとデムリを案内して、サイト殿と共...
「ウ、ウィ!!」
駆け寄った小姓が慌てて飛び出す
才人は自分自身に絡んだしがらみを、肩をすくめて受け入れよ...
気が変わらない内に、お願いするしかない
* * *
「無冠の騎士殿。我々を、仕事を中断させて呼び出すとは、偉...
デムリと一緒に会議をすっ飛ばして呼び出され、つい皮肉を言...
何せ財政問題を協議中に叩き切られたのだ
しかも、無位無冠の異国の人間である
強さならば確実に負けるが、政治のなんたるかを知らない青二...
「あぁ、すいません。邪魔する積もり無かったんですけど。姫...
「ほう、どういう風の吹き回しかな?」
「まぁ、俺にも目的が有るんですよ」
「ふむ、利害の一致か。此もそうかね?」
「そういう事。では、質問です。今の財政状態を教えて下さい」
「ふん、平民の所長殿に理解出来るか?」
デムリが答え、財政の大まかな歳入歳出を書いて行く
才人が気になったのが、数字が二つ有る事だ
「ちょっと待って」
「何だ?もうギブアップかね?所長殿」
デムリが皮肉を混ぜながら答える
「いやぁ、だって変じゃないか。何で数字が二種類有るんだい...
余りに余りの基本的な質問に、マザリーニが愕然とする
「そんな事も知らないのか平民?」
だが、デムリは目を光らせる
「…何か理由が有りそうだな。理由は金本位制で、旧エキューと...
才人は途端に目を点にする
「は、何で?」
「だから、金の含有量がエキューの価値を定めるからだ」
マザリーニが吐き捨てる
才人の言い分は、経済素人の言い分と断じたのだ
「無駄だ無駄。帰るぞ、デムリ殿」
「ちょっと待って下さい、マザリーニ殿。彼の言い分聞いてか...
「何か引っかかるのか?」
「えぇ」
立ち上がったマザリーニは、またドスンと腰を下ろす
才人は様子を見ると喋りだす
「じゃあ良いかい?そもそも、新エキューも旧エキューも、1...
「……何を馬鹿な」
「いえ、続けてくれ、所長殿」
デムリが促す
「つまり、新旧でエキューが有るのは改鋳したって事だよね?...
「あぁ、そうだ」
マザリーニが答える
「改鋳したって事は、其だけ貨幣が必要だって事だよね?つま...
「ウィだ」
マザリーニが答え、デムリが感心する
「所長の言葉に聞く価値があると、私は判断します。宰相は?」
「聞くだけは聞いても構うまい。判断は別だがな」
才人は口笛を吹く
「ヒュ〜、流石宰相、冷静だ。あんたが居ればトリステインは...
「世辞は良い。我々も時間が惜しい。続けてくれたまえ」
「了解。デフレの理由は、封建貴族の過剰な蓄財じゃないか?...
「ウィだ」
才人はニヤリとする
「とりあえず、現状の把握は出来た。じゃあ、次にエキューの...
才人は黒板に簡単な数字を書く
「えっと、此処で書かれた数字を換算すると旧:新の価格差が、...
「1.5倍の貨幣が余剰し、国庫に1.5倍の資金が入るだな」
マザリーニが答えるとデムリが反論する
「違いますぞ、宰相。流通貨幣量は、国家予算より遥かに多い...
「なっ!?」
マザリーニががたりと立ち上がり、呆然とする
「だから言ったでしょ?新エキューと旧エキューで、価格差が...
マザリーニがトスンと座る
「確かに、価格差が無くなれば其に越した事は無い。だが不可...
「何言ってるんですか?可能ですよ?」
「馬鹿を言うな」
才人の言い分を否定するマザリーニ
まぁ、当然である
「俺の国の貨幣はですね、紙幣です」
聞き間違いかと、マザリーニが確認する
「……今、何と言った?」
「紙ですよ、紙。金なんかで保証してません」
「な、馬鹿な!?」
流石にデムリすら唖然とする
金本位に生きている者達にすれば、夢物語だ
「そう、馬鹿な事です。貨幣なんざその程度の価値しかない。...
「…その通りだ」
「だから、交換出来る金の含有量が減るから、エキューの価値...
「その通りですね」
デムリも頷く
「じゃあ、政府でエキュー価値を定めてしまえば良いのですよ...
「あ、そうか」
マザリーニはやっと納得し、ポンと手を叩く
「ですが、そんな事、市場が受け入れないでしょう?」
デムリが疑問を呈す
「その通り。だから、王政府からこう知らせます。新旧エキュ...
「……封建貴族含めて、全員交換するな」
「はい、此で国内の財政問題終了です」
才人がポンと両手を叩く
二人は唖然と才人を見る
「そんなに簡単に………我々が長年掛けて出来なかった問題を」
「ま、貨幣価値が国内で統一されないせいで起きてる問題なん...
「封建貴族の財産迄は、把握出来てないな」
「じゃあ、俺の国で単純化しましょう。俺の国の国内総生産が5...
「実際には旧エキューと新エキューとの流通量と固定資産を勘...
「成程」
「次は外国との為替問題ですね?」
「う、うむ」
最早マザリーニとデムリがゴクリと唾を飲み、頷く
「外国と為替条約を結びます。旧エキューの価値に近い為替レ...
「成程、国内価値が定まっても、内外価格差が生じるから、為...
「流石宰相、理解が早い。更に出兵先のアルビオンに、通貨攻...
「何?」
「アルビオン金貨を片っ端から手に入れて、エキューに改鋳し...
マザリーニが黙考し、答える
「向こうの貨幣量が減るから、我々の問題が、そのままアルビ...
「その通り。一戦するより、ずっと恐ろしい攻撃です。攻撃力...
「おおぉぉ!?」
マザリーニとデムリは、思わずガッツポーズをしてしまう
前線を越える攻撃が、まさか財政側で出来ると聞かされたのだ
普段から陰口叩かれてる立場としては、痛快過ぎる
「此処迄やれば、負けても良いです。外国と為替条約結べた時...
暫く震えていた、マザリーニとデムリ
そのまま、マザリーニは喋り出した
「デムリ卿」
「はい、宰相」
「この案で行くぞ」
「勿論です。増税なんざ捨てましょう」
立ち上がったマザリーニが才人に振り向く
「ゼロ機関所長殿!!」
「何でしょう?宰相殿」
「貴殿の給与は私と一緒か?」
「いえ、ゼロですよ。なんせ、成功報酬なもので」
「アッハッハッハ、任せたまえ。所長殿のお陰で光明が見えた...
「……いやぁ、俺そんなに要らないしなぁ」
マザリーニは才人の肩をばんばん叩く
「ハッハッハ、なら任せたまえ。この策のみで、貴殿はトリス...
そういうと、マザリーニとデムリが才人に相次いで抱擁する
「あの?トリステインの習慣?」
「その通りだ、我慢しろ。最大の親愛を込めている」
「…キスは無しで」
「やられたのか?」
「…えぇまぁ」
「クックックック。しても良いぞ?」
「女のコが良いなぁ」
「アッハッハッハ。では、また何か有れば宜しく頼むぞ、所長...
バタバタと二人は退出する。スタッフに号令をかける為だ
一気にてんてこまいになるだろう
「とりあえず、一仕事終わりっと。コルベール先生、退屈だっ...
バタム
才人が部屋から出ると、コルベールが廊下で待っていた
「終わったかね?才人君。宰相達が、大急ぎで駆けて行くのが...
「えぇ、なるべく民に迷惑を与えない形で出来る様に」
才人達が廊下を歩きながら、先程のを語る
「君は、知識の宝庫だな」
「何、俺の国の常識伝えてるだけなんで、はっきり言ってズル...
「君の国に是非とも行きたいものだ。その為ならば、戦いに手...
「じゃあ、帰りましょう。ドラフター作らないと」
「そうだな。先ずは図面を書かないと始まらない。では行こう...
少しずつ、歯車が加速を始めてるのを、誰も気付いていない
そう、才人の傍らには、鼠が出入りしてるのを、誰も気付いて...
* * *
エレオノール=アルベルティーヌ=ル=ブラン=ド=ラ=ブロ...
専門研究は、始祖ブリミルの彫像の研究である
アカデミーの研究は基本的に王政府とは距離をとっており、神...
同僚の水メイジが、マジックアイテムで水の剣を作ると云う依...
メイジが剣士の稽古道具を作るのは、馬鹿げている
そんな彼女に魔の手が伸びたのは、才人が謁見を午前にこなし...
「失礼します。エレオノール=ド=ラ=ヴァリエール。お呼び...
「聞いております。どうぞ」
秘書にあっさり通される
普段は一悶着有るのが通常なのだが
『一体どういう風の吹き回し?』
ガチャ
「おぉ、来てくれたかね?ミスヴァリエール」
「何の用でしょうか?ゴンドラン卿」
ジロリと睨むエレオノール。ゴンドランはつい後退る
「まぁ、そう睨まないで貰えるかね?此を見て欲しい」
一通の王宮からの手紙だ
「何ですか?此」
既に封は切って有るので読み進むと、わなわな震え出す
「アカデミーより優秀な土メイジを一名、王宮経由でゼロ機関...
ダァン!!
思わず拳で机を叩き付け、ゴンドランがヒッとびくつく
「そう怒鳴らないでくれないかね?私とて、命令に応じるなら...
うぐっと、声を詰まらせるエレオノール
確かに一番の自負がある
だが、到底納得出来る物ではない
「えぇ、ゴンドラン卿の言う通りです。ですが、私で無くても...
ギロリと睨みつけ、ゴンドランは蛇に睨まれた蛙の如くだ
「そうは言ってもだね。女王陛下直々のサインだ。君は、女王...
押されながらもトドメで有る
「……くっ、解りました。出向ですね?給与は?」
「アカデミーが支払うので問題無い。君は、彼方の所長の指示...
「……謹んで拝命しました。では王宮に向かいます」
バタン!!
一際強く扉が閉められ、ゴンドランは最後の最後迄びくつかさ...
「あらあら、都落ち?有能なのも大変ねぇ」
「ふん、帰って来るから覚悟しときなさい」
「あらやだ。怖〜〜〜〜い」
カッカッカッカッ
廊下に高らかに靴音が鳴り響く
「くっそ〜、だから大人しかったのか?帰って来たら、ケリつ...
杖すら持たずに魔力が立ち上がり、髪が逆立ち、周りの研究員...
怒れるエレオノールに、声を掛ける猛者等居ないのである
エレオノールが荷物をまとめ、さっさとアカデミーから竜籠で...
少々順番待ちで時間が掛ったが、陛下の謁見とはそんな物で有...
「アカデミー主席研究員で間違い有りませんね?」
「はい、アカデミーから参りました」
「では、どうぞ。陛下がお待ちです」
扉が近衛に開かれ、中にはアンリエッタのみが待っている
エレオノールはアンリエッタの前に跪き、拝謁の許可を得る為...
「アカデミーの土の主席研究員、エレオノール=アルベルティ...
「顔を上げなさい、ヴァリエール」
「はいっ」
エレオノールが顔を上げると懐かしい顔が微笑んでいる
「あぁ、エレオノール姉様。懐かしいですわね、何年ぶりでし...
「あの、どうして私に?」
「私は優秀な土メイジと指定しただけです。エレオノール姉様...
「えぇ、その通りですね。で、ゼロ機関とは一体何でしょうか...
「新しい事をやる機関です。今日設立されたばかりの新設の研...
「そんなあやふやな機関に、アカデミーの人材を投入するので...
「あら、今日既に結果を出してますのよ?トリステインの財政...
流石にエレオノールが唖然とする
「な、たった一日で出来る筈が?」
「やってしまうのが所長なのです。実行に移すのは、まだかか...
「はい。では、どちらに向かえば宜しいのでしょう?」
「魔法学院です。懐かしい顔に聞いてみなさい。後は良くして...
「はい」
エレオノールはいぶかしむ
「陛下、何をお隠しなのですか?」
「多分、貴女が驚く事ですわ」
「はぁ」
エレオノールは翌日、自身の境遇を呪う事になる
* * *
終了行:
翌日、才人はコルベールと共に王宮に赴いている
夏休み前の最終週である
迎えに来たのはルネである
コルベールの研究室で、製作図面と格闘する為、ドラフターの...
「おはよう才人、其にミスタコルベール。陛下よりお呼び出し...
「お早う。そう言えばアニエスさんは?」
「シュヴァリエは先週より、別任務に付いてるよ。急な為、挨...
「そりゃ、急だねぇ。呼び出しは、この前のロケット弾の礼か...
「さぁ?とにかく来てくれよ。じゃないと僕がどやされる」
「ああ、それじゃしょうがないな。先生」
「うむ、才人君。この前の話、忘れて無いかね?」
「……えぇ、まぁ」
「なら、良い機会だ。良いね?」
「…まぁ、先生が良いなら」
コルベールの決意の眼に、才人は曖昧に頷いた
「無冠の騎士殿。其にミスタコルベール。呼び出しに応じて頂...
「いえ、で、何の用ですか?」
「シュヴァリエになって下さいまし。そして、近衛になって下...
「お断り」
「今なら、トリステイン女王もセットに付けさせて頂きますわ...
「何処のTV通販だよ?」
才人は苦笑する
「まだ心変わりなさらないのですわね。仕方有りません。今日...
想像したコルベールが、鼻からポタポタ血を垂らす
「あ、先生大丈夫ですか?」
「う、うむ。じ、実にけしからん。いや羨ま、あ、いや教育者...
喋る度に墓穴を掘るコルベール
「コルベール先生も、好きモノですねぇ」
ゴホンと咳払いし、澄まして答えるコルベール
「女性こそ、最大の謎であり、最高の研究対象だよ。才人君」
「否定はしません」
くすくす笑い出すアンリエッタ
「サイト殿の周りは、本当に楽しそうですわね。では本題に入...
「はい、何でしょう?」
「出兵を決意しました。サイト殿とミスタコルベールに、ロケ...
カチンとする才人
睨み返されたまま歩み出され、アンリエッタは失敗を悟る
「あぁ!!申し訳有りません!!怒らないで、お願いだからお尻ぺ...
涙を貯めてふるふる首を振るアンリエッタ
玉座に座ってるせいで逃げられない
杖の存在は失念と言うより、完全にお仕置きされモードに入っ...
この前のお尻ぺんぺんが、相当トラウマになったらしい
すたすたすた、ぴた
才人がアンリエッタの真ん前に立つ
「あ、ごめんなさい。お願いだから叱らないでぇ!?」
言葉とは裏腹に、お仕置きに期待の眼を向けてる事をアンリエ...
ガバッ
「きゃん!?」
「才人君、何を?」
コルベールは唖然としながら才人の行為を見守る
ぱぁん!ぱぁん!ぱぁん!
「きゃん、あん、あん」
才人は三発だけやると、アンリエッタを玉座に下ろす
アンリエッタはぽぅっとしながら、才人を見つめ、小さく呟いた
「‥‥もっと」
「今なんて言いました?姫様?」
「‥‥は、いえ、何でも有りません」
慌てて、アンリエッタは言い繕う
才人が立ち位置に戻ると、改めてアンリエッタが言い直す
「コホン‥‥では改めて。サイト殿、ロケット弾の量産化に協力...
「ん〜、どうすっかな?コルベール先生は?」
「そうですな。王政府がきちんと協力を確約出来るなら、才人...
「例えば?」
「実はですな、我々は現在新型空船の設計開発を行っておりま...
「新型の空船?」
「はい、具体的には風竜は無理でも、火竜レベルの速度は出せ...
がたり
アンリエッタは思わず立ち上がり、王冠を取り落とす
「‥‥そんな事が、可能なのですか?」
「我々が、才人君の設計を実現させる事が出来れば可能です」
流石にアンリエッタは首を振る
「また、ご冗談を」
「仕方有りません。では、話をツェルプストーに持って行きま...
「だ、駄目です!!」
アンリエッタは堪らず悲鳴を上げる
せっかく見つけたトリステイン発展の鍵、同盟なんぞいつ解消...
言った通りの性能が出た場合、仮にツェルプストーが母港にな...
アンリエッタには絶対に飲めない
正に目の前に居るのは、使い方を誤れば、全てを壊す爆弾だ
暗殺もちらつくが、直ぐに頭の中で首を振る
『返り討ちにしてしまいますわね。其にヴァリエールが敵対し...
今でも彼の機嫌を損ね無いように綱渡り。何て頭が痛い
ルイズが暗殺しそうと言い、自分が本当にそう考え、自己嫌悪...
「まぁまぁ、先生。あんまり苛めるのもあれですし」
「私は夢が実現出来れば、パトロンは誰でも構わないのだがね」
「と、言う訳で、姫様がコルベール先生に協力を確約出来るっ...
「‥本当ですか?」
「俺は、約束は守りますよ?」
アンリエッタは玉座に座り考える
資金の問題さえクリア出来れば、産業発展のチャンスである
科学を実際に見せられたので、説得力は有る
乗った方が良いと、頭が囁く
「サイト殿。質問が有ります」
「どうぞ?」
「何故、今になって提供を?」
「コルベール先生の夢だから。俺の目的と水の精霊の依頼内容...
答えを頭の中で反芻する
嘘を付いてる様には見えない。基本的に嘘が嫌いなのは、ルイ...
『義理を果たす人だから、トリステインに持って来てくれた。...
『断れば、トリステインがどうなるか迄、完璧に予測しての‥‥...
アンリエッタは考えをまとめ、結論を出す
「解りました。結論を言います」
コルベールはごくりと息を飲み、才人は漂々とする
「協力を確約しましょう。ですが条件が有ります」
「何でしょう?」
「生産技術をトリステインで独占させて頂きます。此が条件で...
「ま、妥当だね。では此方からも」
「何でしょう?」
「生産用品が足らず、外国から輸入しなければならない場合、...
少し考え込み、答える
「‥相手によります。アルビオン、ガリア、ネフテスには止めて...
「ネフテス?」
「エルフ達の国ですよ」
「つまり、今以上に強くなられても、困る相手と」
「えぇ、ゲルマニアは同盟国なので仕方有りませんが、なるべ...
「成程ね。ロマリアは?」
「あの国では、異端扱いするでしょう。するだけ無駄です」
「其処まで酷いのか」
才人は苦笑する
「じゃあ、交渉成立かな?」
「はい、では名称を決めましょう。具体的には何をお作りにな...
「蒸気機関船だね。後は応用で、蒸気機関式工作機械他」
「機関ですか‥‥そしたら、ゼロの使い魔が機関を作るので、ゼ...
「コルベール先生が「問題有りません。女王陛下」
「では、給与は‥‥残念ですが支払い出来ません」
ガクリと二人して傾き、コルベールが堪らず問い正す
「陛下、何故ですか?」
「貴方達がやるのは新しい試みです。伝統を重んじる他の貴族...
「貴方達は新しい道具を開発し、量産手段を王政府にレポート...
「ヒュ〜、お見事」
パチパチパチパチ
才人が思わず拍手を送る
「ミスタコルベール、異論は?降りても構いませんよ?」
「……いや、才人君が喜んだ。其だけやり甲斐が有ると言う事だ...
「ではサイト殿。一番最初に必要なモノは何でしょう?」
「あぁ、書類製作に必要なんで、秘書兼有能な土メイジを専属...
「えぇ、解りましたわ。では、ミスタコルベール。先に退出お...
「解りました陛下。ではお先に失礼致します」
礼をしたコルベールが退出し、謁見の間はアンリエッタと才人...
「出兵……決意されたんですね?」
「‥はい」
「…復讐ですか?」
「はい」
「達成しても、得るのは有りませんよ?」
「‥ご存知ですの?」
「まぁ……ね」
「では、ご存知ですね?」
「…えぇ、止めても無駄だってね」
「助けて‥‥下さいまし」
「……資金は?」
「デムリ財務卿に試算させてます。一応大丈夫かと」
「どんな状態?」
「増税です」
才人は即答する
「あぁ、駄目だ。トリステインが疲弊する。勝っても負けても...
「‥宜しいのですか?」
「……俺はね、女のコの涙に弱いんだ」
頭をぼりぼりかきながら答える
「今の姫様。涙を流してる時より泣いてるよ」
アンリエッタはハッとし、才人を見上げる
才人は背を向け、ひらひら手を振りながら、退出する最中だった
アンリエッタは急いで小姓を呼ぶ
「誰か、今直ぐマザリーニとデムリを案内して、サイト殿と共...
「ウ、ウィ!!」
駆け寄った小姓が慌てて飛び出す
才人は自分自身に絡んだしがらみを、肩をすくめて受け入れよ...
気が変わらない内に、お願いするしかない
* * *
「無冠の騎士殿。我々を、仕事を中断させて呼び出すとは、偉...
デムリと一緒に会議をすっ飛ばして呼び出され、つい皮肉を言...
何せ財政問題を協議中に叩き切られたのだ
しかも、無位無冠の異国の人間である
強さならば確実に負けるが、政治のなんたるかを知らない青二...
「あぁ、すいません。邪魔する積もり無かったんですけど。姫...
「ほう、どういう風の吹き回しかな?」
「まぁ、俺にも目的が有るんですよ」
「ふむ、利害の一致か。此もそうかね?」
「そういう事。では、質問です。今の財政状態を教えて下さい」
「ふん、平民の所長殿に理解出来るか?」
デムリが答え、財政の大まかな歳入歳出を書いて行く
才人が気になったのが、数字が二つ有る事だ
「ちょっと待って」
「何だ?もうギブアップかね?所長殿」
デムリが皮肉を混ぜながら答える
「いやぁ、だって変じゃないか。何で数字が二種類有るんだい...
余りに余りの基本的な質問に、マザリーニが愕然とする
「そんな事も知らないのか平民?」
だが、デムリは目を光らせる
「…何か理由が有りそうだな。理由は金本位制で、旧エキューと...
才人は途端に目を点にする
「は、何で?」
「だから、金の含有量がエキューの価値を定めるからだ」
マザリーニが吐き捨てる
才人の言い分は、経済素人の言い分と断じたのだ
「無駄だ無駄。帰るぞ、デムリ殿」
「ちょっと待って下さい、マザリーニ殿。彼の言い分聞いてか...
「何か引っかかるのか?」
「えぇ」
立ち上がったマザリーニは、またドスンと腰を下ろす
才人は様子を見ると喋りだす
「じゃあ良いかい?そもそも、新エキューも旧エキューも、1...
「……何を馬鹿な」
「いえ、続けてくれ、所長殿」
デムリが促す
「つまり、新旧でエキューが有るのは改鋳したって事だよね?...
「あぁ、そうだ」
マザリーニが答える
「改鋳したって事は、其だけ貨幣が必要だって事だよね?つま...
「ウィだ」
マザリーニが答え、デムリが感心する
「所長の言葉に聞く価値があると、私は判断します。宰相は?」
「聞くだけは聞いても構うまい。判断は別だがな」
才人は口笛を吹く
「ヒュ〜、流石宰相、冷静だ。あんたが居ればトリステインは...
「世辞は良い。我々も時間が惜しい。続けてくれたまえ」
「了解。デフレの理由は、封建貴族の過剰な蓄財じゃないか?...
「ウィだ」
才人はニヤリとする
「とりあえず、現状の把握は出来た。じゃあ、次にエキューの...
才人は黒板に簡単な数字を書く
「えっと、此処で書かれた数字を換算すると旧:新の価格差が、...
「1.5倍の貨幣が余剰し、国庫に1.5倍の資金が入るだな」
マザリーニが答えるとデムリが反論する
「違いますぞ、宰相。流通貨幣量は、国家予算より遥かに多い...
「なっ!?」
マザリーニががたりと立ち上がり、呆然とする
「だから言ったでしょ?新エキューと旧エキューで、価格差が...
マザリーニがトスンと座る
「確かに、価格差が無くなれば其に越した事は無い。だが不可...
「何言ってるんですか?可能ですよ?」
「馬鹿を言うな」
才人の言い分を否定するマザリーニ
まぁ、当然である
「俺の国の貨幣はですね、紙幣です」
聞き間違いかと、マザリーニが確認する
「……今、何と言った?」
「紙ですよ、紙。金なんかで保証してません」
「な、馬鹿な!?」
流石にデムリすら唖然とする
金本位に生きている者達にすれば、夢物語だ
「そう、馬鹿な事です。貨幣なんざその程度の価値しかない。...
「…その通りだ」
「だから、交換出来る金の含有量が減るから、エキューの価値...
「その通りですね」
デムリも頷く
「じゃあ、政府でエキュー価値を定めてしまえば良いのですよ...
「あ、そうか」
マザリーニはやっと納得し、ポンと手を叩く
「ですが、そんな事、市場が受け入れないでしょう?」
デムリが疑問を呈す
「その通り。だから、王政府からこう知らせます。新旧エキュ...
「……封建貴族含めて、全員交換するな」
「はい、此で国内の財政問題終了です」
才人がポンと両手を叩く
二人は唖然と才人を見る
「そんなに簡単に………我々が長年掛けて出来なかった問題を」
「ま、貨幣価値が国内で統一されないせいで起きてる問題なん...
「封建貴族の財産迄は、把握出来てないな」
「じゃあ、俺の国で単純化しましょう。俺の国の国内総生産が5...
「実際には旧エキューと新エキューとの流通量と固定資産を勘...
「成程」
「次は外国との為替問題ですね?」
「う、うむ」
最早マザリーニとデムリがゴクリと唾を飲み、頷く
「外国と為替条約を結びます。旧エキューの価値に近い為替レ...
「成程、国内価値が定まっても、内外価格差が生じるから、為...
「流石宰相、理解が早い。更に出兵先のアルビオンに、通貨攻...
「何?」
「アルビオン金貨を片っ端から手に入れて、エキューに改鋳し...
マザリーニが黙考し、答える
「向こうの貨幣量が減るから、我々の問題が、そのままアルビ...
「その通り。一戦するより、ずっと恐ろしい攻撃です。攻撃力...
「おおぉぉ!?」
マザリーニとデムリは、思わずガッツポーズをしてしまう
前線を越える攻撃が、まさか財政側で出来ると聞かされたのだ
普段から陰口叩かれてる立場としては、痛快過ぎる
「此処迄やれば、負けても良いです。外国と為替条約結べた時...
暫く震えていた、マザリーニとデムリ
そのまま、マザリーニは喋り出した
「デムリ卿」
「はい、宰相」
「この案で行くぞ」
「勿論です。増税なんざ捨てましょう」
立ち上がったマザリーニが才人に振り向く
「ゼロ機関所長殿!!」
「何でしょう?宰相殿」
「貴殿の給与は私と一緒か?」
「いえ、ゼロですよ。なんせ、成功報酬なもので」
「アッハッハッハ、任せたまえ。所長殿のお陰で光明が見えた...
「……いやぁ、俺そんなに要らないしなぁ」
マザリーニは才人の肩をばんばん叩く
「ハッハッハ、なら任せたまえ。この策のみで、貴殿はトリス...
そういうと、マザリーニとデムリが才人に相次いで抱擁する
「あの?トリステインの習慣?」
「その通りだ、我慢しろ。最大の親愛を込めている」
「…キスは無しで」
「やられたのか?」
「…えぇまぁ」
「クックックック。しても良いぞ?」
「女のコが良いなぁ」
「アッハッハッハ。では、また何か有れば宜しく頼むぞ、所長...
バタバタと二人は退出する。スタッフに号令をかける為だ
一気にてんてこまいになるだろう
「とりあえず、一仕事終わりっと。コルベール先生、退屈だっ...
バタム
才人が部屋から出ると、コルベールが廊下で待っていた
「終わったかね?才人君。宰相達が、大急ぎで駆けて行くのが...
「えぇ、なるべく民に迷惑を与えない形で出来る様に」
才人達が廊下を歩きながら、先程のを語る
「君は、知識の宝庫だな」
「何、俺の国の常識伝えてるだけなんで、はっきり言ってズル...
「君の国に是非とも行きたいものだ。その為ならば、戦いに手...
「じゃあ、帰りましょう。ドラフター作らないと」
「そうだな。先ずは図面を書かないと始まらない。では行こう...
少しずつ、歯車が加速を始めてるのを、誰も気付いていない
そう、才人の傍らには、鼠が出入りしてるのを、誰も気付いて...
* * *
エレオノール=アルベルティーヌ=ル=ブラン=ド=ラ=ブロ...
専門研究は、始祖ブリミルの彫像の研究である
アカデミーの研究は基本的に王政府とは距離をとっており、神...
同僚の水メイジが、マジックアイテムで水の剣を作ると云う依...
メイジが剣士の稽古道具を作るのは、馬鹿げている
そんな彼女に魔の手が伸びたのは、才人が謁見を午前にこなし...
「失礼します。エレオノール=ド=ラ=ヴァリエール。お呼び...
「聞いております。どうぞ」
秘書にあっさり通される
普段は一悶着有るのが通常なのだが
『一体どういう風の吹き回し?』
ガチャ
「おぉ、来てくれたかね?ミスヴァリエール」
「何の用でしょうか?ゴンドラン卿」
ジロリと睨むエレオノール。ゴンドランはつい後退る
「まぁ、そう睨まないで貰えるかね?此を見て欲しい」
一通の王宮からの手紙だ
「何ですか?此」
既に封は切って有るので読み進むと、わなわな震え出す
「アカデミーより優秀な土メイジを一名、王宮経由でゼロ機関...
ダァン!!
思わず拳で机を叩き付け、ゴンドランがヒッとびくつく
「そう怒鳴らないでくれないかね?私とて、命令に応じるなら...
うぐっと、声を詰まらせるエレオノール
確かに一番の自負がある
だが、到底納得出来る物ではない
「えぇ、ゴンドラン卿の言う通りです。ですが、私で無くても...
ギロリと睨みつけ、ゴンドランは蛇に睨まれた蛙の如くだ
「そうは言ってもだね。女王陛下直々のサインだ。君は、女王...
押されながらもトドメで有る
「……くっ、解りました。出向ですね?給与は?」
「アカデミーが支払うので問題無い。君は、彼方の所長の指示...
「……謹んで拝命しました。では王宮に向かいます」
バタン!!
一際強く扉が閉められ、ゴンドランは最後の最後迄びくつかさ...
「あらあら、都落ち?有能なのも大変ねぇ」
「ふん、帰って来るから覚悟しときなさい」
「あらやだ。怖〜〜〜〜い」
カッカッカッカッ
廊下に高らかに靴音が鳴り響く
「くっそ〜、だから大人しかったのか?帰って来たら、ケリつ...
杖すら持たずに魔力が立ち上がり、髪が逆立ち、周りの研究員...
怒れるエレオノールに、声を掛ける猛者等居ないのである
エレオノールが荷物をまとめ、さっさとアカデミーから竜籠で...
少々順番待ちで時間が掛ったが、陛下の謁見とはそんな物で有...
「アカデミー主席研究員で間違い有りませんね?」
「はい、アカデミーから参りました」
「では、どうぞ。陛下がお待ちです」
扉が近衛に開かれ、中にはアンリエッタのみが待っている
エレオノールはアンリエッタの前に跪き、拝謁の許可を得る為...
「アカデミーの土の主席研究員、エレオノール=アルベルティ...
「顔を上げなさい、ヴァリエール」
「はいっ」
エレオノールが顔を上げると懐かしい顔が微笑んでいる
「あぁ、エレオノール姉様。懐かしいですわね、何年ぶりでし...
「あの、どうして私に?」
「私は優秀な土メイジと指定しただけです。エレオノール姉様...
「えぇ、その通りですね。で、ゼロ機関とは一体何でしょうか...
「新しい事をやる機関です。今日設立されたばかりの新設の研...
「そんなあやふやな機関に、アカデミーの人材を投入するので...
「あら、今日既に結果を出してますのよ?トリステインの財政...
流石にエレオノールが唖然とする
「な、たった一日で出来る筈が?」
「やってしまうのが所長なのです。実行に移すのは、まだかか...
「はい。では、どちらに向かえば宜しいのでしょう?」
「魔法学院です。懐かしい顔に聞いてみなさい。後は良くして...
「はい」
エレオノールはいぶかしむ
「陛下、何をお隠しなのですか?」
「多分、貴女が驚く事ですわ」
「はぁ」
エレオノールは翌日、自身の境遇を呪う事になる
* * *
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