ゼロの使い魔保管庫
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才人は一人でも稽古は欠かさない
魔法回避訓練と舞姫を踊った後は、森で瞬動稽古である
昨日帰って来た後も、しっかりと稽古もしている
アニエスが去ってしまった学院は、ちょっと静かだ
そんな学院に更なる嵐が来たのは、夏休みに入る6日前である
「ちょっと其処のデブ」
「い、いきなり初対面でデブ呼ばわりなんて……もっと言って下...
ハァハァするマリコルヌ
やっぱり、このぽっちゃりさんはアレである
「ルイズ知らない?」
「今から教室に向かいますよ。同じクラスなんです」
「そう、さっさと歩きなさい。この豚」
ピシィ!!
いきなり乗馬鞭、エレオノールもアレである
「行きます!!行きますからぁ、もっと罵って下さい!!女帝様ぁ!...
そのまま乗馬鞭に叩かれながら悦に入るマリコルヌに、業を煮...
何故か他の人間に尋ねる事をしない
ってか、出来ない。誰も傍に寄らないのだ
やはり、このお方は少しずれている
ガタン!?
教室にマリコルヌが転がされ、エレオノールがたっぷり時間を...
「ル〜イ〜ズ〜!」
「姉さま!?」
ガタリと思わず立ち上がり、剣幕に気付き逃げ出すルイズ
そんなルイズにレビテーションを掛け、捕獲するエレオノール
「なあに逃げてんのよ?このちびルイズ!!」
「だって姉さま。怒る時の仕草なんだもん」
「怒ってないわ。仕事よ仕事。ゼロ機関の所長は何処?」
「姉さま、アカデミーは?」
「出向よ、出向」
「左遷?」
やっぱりルイズもアレである。あっさり逆鱗に触れる
「左遷なんて言う口は此かしら?このっこのっ!?」
「いふぁい、いふぁい、いふぁいれす」
ほっぺをつねられるルイズ。姉妹のやり取りに、授業を始めよ...
「あの、ミスタギトー。止めて下さい」
「……無理だ。彼女が学院在籍時の二つ名は『金の女帝』彼女に...
完全に尻込みするギトー
「あら、ミスタギトー。お久し振りでございます」
「…久し振りだな、ミスヴァリエール。此方には妹御に用かね?」
「いえ、女王陛下より直々に賜った命令でして、ゼロ機関の所...
「ゼロ機関?」
「知りませんの?」
「初耳だ」
「では仕方有りませんわね。ちびルイズ、さっさと吐きなさい!...
今度は耳を引っ張るエレオノール
「痛い痛い痛い!?こんなんじゃ、知ってても答えられません!!」
「あ、そうか」
やっと気付き、耳から指を離す
「あたし、何も悪い事してないのに」
すっかり涙目で、ルイズはエレオノールに訴える
「……さっき、左遷とか言って無かった?」
「ご、ご免なさい、姉さま」
「解れば宜しい。で、ゼロ機関の所長は?」
「何ですか?ゼロ機関って?」
今度はエレオノールが目が点になる
「だって、陛下が懐かしい顔に通せば話は通じると」
「姫様が?」
「えぇ」
「…多分お探しの人は、今洗濯してると思うわよ?」
掛けられた声に振り向くと、エレオノールは戦闘体制を取る
「赤髪に褐色の肌。ツェルプストー!?」
「あら、やるの?ヴァリエール?」
「貴方の父親に殺されたお爺様の仇。取らせて貰うわよ!!」
すかさずゴーレムを呼び出すエレオノールに、キュルケはフレ...
そんな二人に疾風が飛び、二人共逆方向に飛ばされる
「止めたまえ、二人共。ツェルプストーとヴァリエールの遺恨...
エレオノールが身体に付いた煤を払うと、ギトーに対し、礼を...
「失礼しましたわ、ミスタ。貴方に謝罪を」
するとキュルケは、挑発的に答えた
「ミスタギトー。貴方に礼を。貴方の生徒を殺さずに済みまし...
「何ですって?」
「あら、本当の事よ。あんたがスクウェアだろうとも、私はあ...
「ふざけないでよ」
すると、炎の矢がエレオノールスレスレに複数飛来し、通過し...
「詠唱読めたかしら?」
キュルケが軽々しく言い、エレオノールがぞっとする
全く反応出来ず、髪の毛が焼け焦げた跡が出来ている
「……フレイムアロー」
「大人しく仕事相手を探すのね。私はヴァリエール相手でも軽...
そう言って、廊下側に飛ばされたので、扉を譲るキュルケ
ツカツカ歩いたエレオノールは、キュルケを一睨みし、扉を開...
ガラ
「後でケリつけましょ」
「ダーリンに怒られない様に出来ないから、お断り」
「……あんたのダーリンって、誰?」
「私のイーヴァルディって、所かしら?今度は、ヴァリエール...
「今度?」
「あぁ、良いの良いの、戯言だから忘れて頂戴」
「ふん」
ツカツカ歩み去るエレオノール
ギトーは溜め息を付いて声を掛ける
「全く、本来のツェルプストーとヴァリエールはこうなのか?」
「その通りですわ、ミスタ」
「君達が此でも大人しい事が解って、私も一つ勉強になった様...
* * *
エレオノールがメイドをひっつかみ、洗濯場を案内させると、...
「何よ?ゼロ機関の所長なんか居ないじゃない。ツェルプスト...
後でやっぱり殺すと呟き、周りのメイドが一斉に引く
非常に危険な空気を感じたのだ
「あんれ?初めましての人かい?」
才人が洗濯籠を持って、エレオノールに話し掛ける
だが、エレオノールは才人を無視する
平民に声を掛ける必要を感じないのだ
典型的な貴族の振る舞いである
才人は久し振りにカチンとする
「返事位したらどうだ?屑貴族」
ぴくん
「……上手く聞こえなかったわ。空耳ね」
「屑に用はねぇぞ。さっさと帰れ」
流石にエレオノールも、無視出来なくなって反応する
「……平民、もう一度言ってみなさい」
「屑の上に、無駄にプライド高い役立たずがこんな所で突っ立...
「…あんた、貴族にそんな事言って、無事で済むと思ってんの?」
「さあね。女だからと言っても、屑に優しくする積もりは無い...
才人が挑発し、エレオノールが応じる
「…生意気な平民には教育が必要ね」
「死にたくなきゃ帰れ」
二人のやり取りを見てたメイド達が、おろおろする
才人の強さは知っては居ても、この貴族の反応も尋常じゃない
強くなければ、この様な反応は、貴族でもしないのだ
「ちょっと、教育してあげるわ」
「場所を替えろ、馬鹿女。洗濯物を巻き込む気か?」
「ふん、良いわ。付いて来なさい」
エレオノールがツカツカ歩むと、才人が付いて行き、デルフが...
「あの姉ちゃん。確かに強ぇぞ?」
「隊長殿程か?」
「いんや。あれは別格」
「じゃあ、余裕だな」
「全く、相棒は女に甘いんじゃなかったのかよ?」
「ルイズはまだ可愛げが合った。あの女には全く無い。一度叩...
「ほう、甘ちゃんねぇ」
歩いた先は、授業中の生徒達から見える正門前の広場
「良くもまあ、衆人環視の場所を選んだもんだ」
「貴族に生意気な口聞く平民がどうなるか、教えてあげないと...
「あっそ」
才人は悪びれない
途端に騒ぎが起きる
「おい、平民の使い魔が決闘だ!?」
「相手は誰だ?」
「エレオノールさん、止めなさい!!」
慌ててシュヴルーズが飛び出て来る
「あら、ミセスお変わりなく」
「良いから止めなさい!!貴女は、とんでもない相手に決闘仕掛...
「平民の何処がです?」
エレオノールは聞く耳を持たないので、才人に向き話し掛ける
「才人さんお願いします。どうか手加減を」
「大丈夫ですよ、先生。きっちり、お尻ぺんぺんで済ませます...
「なら大丈夫ですわね」
そう言うと、シュヴルーズが離れる
「何で平民にお願いを?」
エレオノールには理解出来ない
その時、窓から馴染みの大声が上がった
「馬鹿犬〜〜〜〜!!大怪我させたら、お仕置きなんだからぁ〜...
「解ってるよ、ルイズ」
ルイズは、ほっとしながら見守る
「……あんた、何貴族の子女を呼び捨てにしてるの?」
「悪いか?」
「半殺しから全殺しに訂正」
圧倒的な魔力が立ち上がり、デルフが感想を漏らす
「お〜すげ。魔力だけなら、あのおっちゃんしのぐぜ」
「ヒュ〜、凄いねぇ」
「死ね!!」
ブレッドを詠唱し、圧倒的な散弾が飛ぶが、散弾が視界を遮り...
「え、嘘?何処?」
キョロキョロ探すが、視界から消えてしまった
そんなエレオノールの後ろから、むんずと杖を掴まれて取り上...
「きゃっ、何触ってんのよ?」
「いい加減にしろ!!俺が本気なら、もう死んでる事位気付け!!」
エレオノールがその事実に真っ青になる
「い、いや。助けて」
「はぁ?散々偉そうな事言っておいて何言ってんだ?」
「な、淑女にはそれ相応の態度があるでしょ?」
「高圧的に接するのは、淑女の行為じゃねぇ。お仕置きだ!!」
ぱぁん!!
「痛い!?」
ぱぁん!!ぱぁん!!ぱぁん!!
「痛、痛、痛ぁ!?」
ぱぁん!!ぱぁん!!ぱぁん!!
「嫌、嫌、嫌ぁ!!」
エレオノールの心が折れる迄、たっぷり10分以上叩かれるハメ...
正に、自分の行為を呪うしか無かった
「ぐすっ、ひっく、も、許してぇ」
「なら、言う言葉が有るだろう?」
ぱぁん!!
「痛ぁい!?平民に言う言葉なんて……無い」
ぱぁん!!
「痛ぁ!?だって、無いもん」
ダダダダ
「馬鹿犬!!もう、止めて!?これ以上恥をかかさないで!!」
流石にルイズが駆け寄り懇願するが、才人は無視する
「駄目だ。この女はお仕置きが必要だ。誰にも、きちんと躾さ...
ぱぁん!!
「痛ぁ!?」
「お願い、身内に恥をかかせないでぇ。私の姉さまなのぉ」
「知るか!?だったら、きちんと躾出来ない親の代わりにやって...
「お願い!!あんまり恥をかかされると、姉さま結婚出来なくな...
「…使い魔?」
「姉さま、聞いて無いの?サイトはマンティコア隊長ド=ゼッ...
エレオノールはハッとする
流石に無冠の騎士の噂は、アカデミーにも伝わっている
自分が、どういう人間に喧嘩を売ったか、やっと理解する
だが、平民に謝る事など出来ない
「だ、だからと言って。へ、平民に」
「サイトに謝って、お願い!!今のあたし、杖が無いから止めら...
ぱぁん!!
「痛ぁ!?」
「サイトも止めて!!お願い!!」
「因果応報。自業自得って知ってるか、ルイズ?」
ルイズはこくりと頷く
「なら、意地っ張りが何処まで続くか、黙って見てろ。俺が悲...
ルイズはぐっと詰まる
才人はそのまま無言で叩き続ける
エレオノールが謝る迄更に一時間の時間がかかり、才人も叩き...
* * *
授業をサボり、ルイズは泣きじゃくったエレオノールにハンカ...
才人は隣で無言で座っている
エレオノールが才人を時折伺う顔は、びくついている
強気が完全に剥がされ、臆病な部分が露出してしまっている
「で、ルイズの姉さんが、学院に何の用だ?」
ビクビク
エレオノールが過剰に反応する
「ちょっと、サイト」
「普通に話してるだろ?」
「そうだけど……姉さまにもう少し優しく」
「してるだろ?本来なら、首と胴が生き別れだ。俺が手加減す...
流石にルイズも黙る
才人の言う通りだからだ
才人に向けた魔法だって、才人で無ければ死んでいる
「姉さま、サイトには貴族の誇りなんか通用しないわよ?貴族...
こくりと頷くエレオノール。才人を見る目は怪物を見る目だ
自分達の常識の外に生きてるモノを、生命の危機と共に初めて...
恐怖以外の何者でもない
「サイトを怖がらないで。サイトはね、とっても優しいの。怒...
「……あれに当てられて、同じ事言えるの?」
ガチガチ震えるエレオノール
最悪の顔合わせだ
ルイズは溜め息をつく
「言えるわよ。サイトの恐怖に当てられても、サイトの傍から...
「誰よ?」
「ツェルプストーよ」
「あの女が、恐怖を味わってるの?」
「そうよ。今の姉さまみたいに、腰を抜かして震えっぱなしだ...
ツェルプストーに負ける
ヴァリエールにとって、屈辱にまみれる禁句である
「そそそそんな訳無いでしょ?今はちょっと怖いけど、きちん...
「流石は姉さまですわ。私の苦手な姉さまだけあります」
「余計な台詞言わない」
ピシっと、デコピンを放つ
「痛っ!?」
ルイズがおでこを押さえて涙目になる
「……で、用事は?」
黙って聞いてた才人がエレオノールに問いかけると、エレオノ...
「……あのな、用件すら言えないなら、マジで帰れ。俺はやる事...
ルイズは反論しようとするが、才人が正論しか言って無いのに...
エレオノールは暫く震えた後、非常に小さい声で言い始めた
「…出向」
「何処からだい?」
「王立アカデミー」
「何処へ?」
「……ゼロ機関」
「あぁ、成程ね。俺が所長の平賀才人だよ。じゃ、早速仕事す...
そう言うと、才人はエレオノールの手を引っ張り立たせ、その...
エレオノールはそのまま引かれて行ってしまい、ルイズがベン...
「…昨日王宮に呼ばれて謁見したって聞いたけど、サイトは何を...
ルイズは放課後に研究室に行く事を決意し、一旦教室に戻る事...
* * *
研究室に来た才人とエレオノール
コルベールは授業の為、留守である
「さてと、機関とは言っても、建屋も何にも無い、有名無実な...
「君の妹の使い魔召喚の儀で、ハルケギニアに召喚された日本...
「じゃあ、平民で」
「クックックック。もう復活したか」
才人は笑い、エレオノールがブスっと応じる
「決闘じゃ遅れを取ったけど、仕事となれば話は別よ。私はエ...
「由緒正しいヴァリエール公爵家が長女にして、貴方の主人の...
才人は自己紹介を聞き、答える
「ふうん、じゃあ姉さんで」
「平民に呼ばれる筋合いは無いわね」
「じゃあ、エレオノールさんで」
「名前で呼ぶな、平民」
「あっそ、ミスヴァリエール」
エレオノールは背筋にぞくりとしたモノを感じる
才人の雰囲気が変わったのだ
そう、凍てついた感情の無い瞳になっている
『私、何かしたのかしら?』
「では、ミスヴァリエールの仕事を指示する。秘書として、王...
「ちょっと待ってよ?何で、私なんかが書類作成?」
「俺は自分自身の仕事だけで手一杯だ。嫌なら、俺の代わりに...
エレオノールは、一応第三の路も提案してみる
「両方嫌だと言ったら?」
「解雇。姫様には過不足無く伝えるわ。ミスヴァリエールは、...
エレオノールは思案する
『この平民は、感情抜きで完全に仕事のみで話している。陛下...
「楽な方はどちらかしら?」
「図面は知らないと書けない。だから、書類作成をお願いした...
エレオノールは、才人が合理的判断の元で、指示を下している...
「了解、書類作成を致します。作成しなければならない書類を...
「じゃあ口頭で指示すっから、先生の机使って作ってくれ。俺...
「はい」
エレオノールが机に座ると、才人がドラフターを動かしながら...
エレオノールはペンを走らせながら、冷や汗を足らし始めた
「平民、何これ?訳解んない」
「何だ?未来の公爵が解らんのか?次期公爵領は、衰退決定だ...
「な、そんな事決めつけ無いでよ?」
流石にエレオノールが噛みつく
「財務卿と宰相は理解して小踊りしたぞ?まだまだ、勉強が足...
うぐっと、詰まるエレオノール
宰相達が小踊りするって事は、画期的な提案な筈なのだが、ア...
全く、この平民は規格外である
簡潔に書類を作成すると、才人にサインを求める
才人は書類に目を通し、頷いた
「へぇ、綺麗な文字だな。俺や学生、教師より綺麗だわ。内容...
才人が漢字でサインを書くと、エレオノールが目を点にする
「平民、何その文字?」
「日本語。俺の国の文字。此なら、俺の証明に一発でなるだろ...
「…確かに、一発で解るわね」
外国人で有る事を、才人は全く隠さない
周りには、非常に遠い所で、空船や風竜ですら、行き来は不可...
才人と深い付き合いしてる人間のみ、才人が異世界(他惑星)出...
エレオノールは書類作成が終了すると、手持ち無沙汰になった...
「平民、何の図面?」
「ボイラー」
シャッシャッ
先程から才人がドラフターをかちりと動かし、基線を当て、一...
エレオノールは優雅に動く様を、ついつい見惚れてしまう
仕事で稼動する躍動美を感じたのだ
「こんな作図道具、見たこと無い」
「俺の国の作図道具だ。ドラフターと言ってな、今じゃ時代遅...
この平民は、エレオノールを使い倒す気満々らしい
エレオノールは冷や汗を垂らす
「魔法の方はどうするのよ?さっきから、魔法の指示無いじゃ...
魔法が必要だから呼ばれた筈なのに、魔法を使わない
エレオノールの不満は、当然である
「あぁ、じゃあ胴パイプを錬金で出してくれ。直径1サント、...
「ふん、銅なんて基本じゃない。私に掛ればちょろいわよ。イ...
積まれていた石炭を材料に錬金し、才人に突き出すと、才人は...
「φ10.8、t3.5、L1010……随分適当だな」
エレオノールはカチンと来る
「問題無いでしょ?」
「長さは良い。だが経と板厚は不合格」
才人の宣告は無情だ
更に曲げるとぽきりと折れる
「……あのな、色からして感付いてたが、誰がブロンズ(青銅)を...
エレオノールは彫像研究と魔法による合成がメインであり、材...
才人が要求したのは、精錬技術であり、エレオノールには畑が...
いきなり駄目出しの連続、流石にエレオノールが抗議をする
「平民の癖に、魔法も使えない癖に、偉そうな事言わないでよ」
「俺の国じゃ、魔法無しでそれ位やってるわ。抗議したきゃ、...
「ふざけないでよ!!魔法のなんたるかを知らない平民風情が、...
いつの間にかシエスタとミミが入室しており、二人に紅茶と菓...
「今、何と言った?ミスヴァリエール」
才人の言い方に気付いた二人は、顔を青くする
いつもの才人が纏っている空気ではない。完全に張り詰めてお...
今の才人に近寄るべきではないのを、二人共知っているからだ
才人がドラフターから立ち上がり、がしりとエレオノールの腕...
エレオノールは先程の事を思い出し、眼を瞑り、思わず身体を...
「ひっ」
「なら、魔法を知ってる事を証明すりゃ、言う事聞くんだな?」
エレオノールは折檻されるかとびくついたのだが、才人が何も...
「え、えぇそうよ。何だって、言う事聞いてあげるわ。ま、平...
「言質取ったからな。証明後に逆らったらクビだ。良いな?」
「…良いわよ。其より離してよ?私にはバーガンディ伯爵が居る...
才人はあっさり言い返す
「知るか。逃げ出されると困るからな、行くぞ」
そう言って、才人はエレオノールの手を引っ張り、研究室を出...
* * *
ガラ
「で、あるから、この様に炎は燃やす材質によっても色が変わ...
才人がエレオノールと共に入室すると、コルベールが教鞭を取...
「コルベール先生済まない。ちょっと、ギーシュ借りるよ」
「教室から出さないでくれたまえ」
「解った。ギーシュ、銅パイプを錬金。φ10,t3.0,L1000を2本」
ドンと材料の土を机の上に置き、才人考案のミリメイル単位で...
ギーシュは教えて貰ってる為、心良く応じる
「解ったよ。イル・アース・デル」
土から銅パイプが2本錬金され、才人がノギスを用いてチェッ...
「φ10.2,t3.25,L1002、合格。もうちょいでJIS規格入れるよ」
パイプはエレオノールとは違い、赤銅だ
一本の銅パイプをくにゃりと曲げ、何の問題も無い事を確認する
「青銅系の合金でも、ドットで此くらい出来るんだ。言い訳す...
エレオノールにぽいっと放り、エレオノールが受け取り、材質...
「ふ、ふん。偶々精錬が得意なメイジって事じゃない。平民の...
才人が馬鹿にされ、ギーシュがカチンとする
「才人を馬鹿にしないで欲しいな。僕は才人に教えられてから...
そう言って、以前の青銅品を錬金して渡す
「ほら、土メイジなら解るだろ?」
「……私のと大して変わらない」
「才人の言う事は合理的だよ。出来ないなら、自分が悪いのさ」
ギーシュが不満気に言い、正面を向く
エレオノールは、まだ不満気だ
「た、偶々よ、偶々。平民と相性良いだけじゃない」
「まだ認めないと。じゃあ、どうする?」
「そうね。新しい魔法でも開発してみなさい。其が出来るなら...
聞いた瞬間に、モンモランシーが額に手を乗せる
「あちゃー。終わったわ、あの人」
才人は少し考え込むと、授業を行ってたコルベールに話しかける
「コルベール先生。悪いけど、授業ジャックするわ」
「きちんと、魔法の授業かね?」
「えぇ」
「ふむ、面白そうだ。諸君、無冠の騎士の番外授業だ。たまに...
「やた、潰れた!!」
「コルベール先生太っ腹!!」
あちこちでピーピー口笛が吹き歓声が上がる
「ミスタ、お久しぶりです。更に輝きが美しくなってますわね」
「君が才人君の助手かね。まぁ、才人君の指示に従うのは、貴...
才人が教壇に立ち、皆を見回して声を掛ける
「さて、悪いな皆。なるべく面白くやろうと思う。内容は、物...
一人、手を上げる
「僕が答えて構わないか?」
「良いぞ。マリコルヌ、答えてくれ」
「ライトニング系のスペル。最低でトライアングルクラスが必...
「お、有り難う。じゃあ、ドットのライトニングを開発しよう...
才人があっさり言うので、皆がぽかんとする
「んな、馬鹿な」
「平民。あんまり無茶言わないでくれよ」
「まぁまぁ。実験だから、試すのは構わないだろう?って訳で...
言われた生徒がロックを唱え、閉める
「それじゃ次、土メイジの皆、手を上げて」
クラスの1/4が手を上げる
「適当に材料見繕って。水を入れる桶を錬金してくれ」
そう言うと、先程の土を利用して桶が複数出来る
「有り難う。では水メイジの皆。全員で凝集のスペルを唱えて...
一斉に凝集を掛けた為、一気に空気が乾燥する
「有り難う。此で条件が整ったな。タバサ、此方来てくれ」
タバサが席を立ち、ちょこちょこと才人に寄ると
「はい、万歳」
タバサが両手を上げると、才人ががばりとパーカーを脱ぎ、タ...
その瞬間、周りから黄色い悲鳴が上がる
「キャー!?授業にかこつけて、何て事してますの?」
「まぁまぁ、ほらタバサ、身体を軽く動かす」
才人のパーカーを被るとタバサは言われた通り、身体を動かす
パーカーが静電気を帯び、タバサに纏わり付くと、タバサに才...
「イメージは、雷を増幅して、触れた相手に一気に流す」
タバサはコクリと頷く
「じゃあタバサ、スペルはスリサーズ・デル・ウィンデ」
「スリサーズ・デル・ウィンデ」
杖を持ったタバサがスペルを唱えると、一瞬紫電が疾るのが見...
「…何も起きないじゃないか」
「何だ、失敗かよ」
口々に不満の声が上がると、才人はニヤリとする
「う〜ん、そうだな。マリコルヌ、ちょっとタバサの杖に触っ...
「何だよ?一体」
マリコルヌが立ち上がり、タバサに近寄ると、タバサが杖を差...
バチン!!
触れた所で閃光が発生し、マリコルヌがひっくり返ってしまう
「はい、成功。スペル名はスタンだね。タバサ、動いちゃ駄目」
皆が唖然とし、タバサは頷く
「次、ギムリ触ってみて」
「い、嫌だ」
「大丈夫、もう電力使ったから。ほら」
才人がそう言って、杖にぺたぺた触る
「あれ、本当だ」
ギムリが立ち上がり、歩いて来ると、才人がタバサに指示する
「身体を軽く震わせる」
タバサが身体を震わせ、ギムリが触れると
バチン!!
ギムリもひっくり返ってしまう
「悪いけど水メイジの皆。二人を気付けしてくれ」
そう言うと、水メイジ達が気付けし、二人は才人に抗議する
「何なんだよ?酷いじゃないか?」
「騙したな?才人は、もうちょい良い奴だと思ってたのに」
「悪い悪い、協力感謝。実験で俺が被験者でひっくり返っちま...
「あ、そうか」
二人共頷いてしまうが、納得し難い表情だ
「じゃ、実験終了。原理を説明するね」
才人が黒板に書き出す
「此は静電気を起電力に魔力で増幅して、見た通り、触れた相...
そう言って、黒板に人の身体を書いて静電気発生の図を書いて...
「この静電気は乾燥した状態で発生しやすい。つまり、水を凝...
皆がふんふん頷く
「この静電気を、魔力で増幅して、触れた相手に一気に流すイ...
「質問」
「何だ?レイナール?」
「タバサはトライアングルだ。実際には、三乗してないだなん...
「そう言われれば、そうだな」
「ドットで試せよ、ドットで」
口々に抗議が上がる
「いやぁ、やっても良いんだけどさぁ。俺の服、タバサはとも...
瞬間、教室に爆笑の渦に巻き込まれる
「「「「ギャハハハハハ」」」」
「き、気持ちは解るな、うん」
「じゃあ、私がやる。私、風のドットだし、毛糸のベスト着て...
一人の女生徒が立ち上がり、教壇に歩く
「お、有難うな」
「こんなに面白いの、参加しなきゃ損だって」
そう言って、才人に笑いかける
「じゃあ、身体を動かして」
「こう?」
生徒が身体をふるふる動かす
「イメージはさっき言った通りだ。良いね?」
「うん、イメージ……大丈夫」
「良し、スペルはスリサーズ・デル・ウィンデ」
「解った。スリサーズ・デル・ウィンデ」
一瞬紫電が疾り、収まる
才人が杖に触れると
バチン!!
才人が倒れる
慌ててモンモランシーが近寄り、才人を気付けする
「モンモンサンキュ。あ〜効いた。此で証明終了だ。ドットで...
才人が礼をすると、一気に周りから拍手が巻き起こる
コルベールはエレオノールの隣で見ており、愕然として才人を...
「才人君はこう言う人間だ。解ったかね?」
「……何なの?あの平民……魔法を即興で開発?……信じられない」
「物理現象に通じてるから、応用しただけなんだろう。我々よ...
「貴族の要らない……国」
「才人君と何を話したのかね?」
「魔法に通じてる事を証明したら、絶対服従」
「君の負けだな、ミスヴァリエール」
「平民………平民の上司に絶対服従………ヴァリエール始まって以来...
うわ言の様にぶつぶつ言い、エレオノールの目が泳いだ
* * *
終了行:
才人は一人でも稽古は欠かさない
魔法回避訓練と舞姫を踊った後は、森で瞬動稽古である
昨日帰って来た後も、しっかりと稽古もしている
アニエスが去ってしまった学院は、ちょっと静かだ
そんな学院に更なる嵐が来たのは、夏休みに入る6日前である
「ちょっと其処のデブ」
「い、いきなり初対面でデブ呼ばわりなんて……もっと言って下...
ハァハァするマリコルヌ
やっぱり、このぽっちゃりさんはアレである
「ルイズ知らない?」
「今から教室に向かいますよ。同じクラスなんです」
「そう、さっさと歩きなさい。この豚」
ピシィ!!
いきなり乗馬鞭、エレオノールもアレである
「行きます!!行きますからぁ、もっと罵って下さい!!女帝様ぁ!...
そのまま乗馬鞭に叩かれながら悦に入るマリコルヌに、業を煮...
何故か他の人間に尋ねる事をしない
ってか、出来ない。誰も傍に寄らないのだ
やはり、このお方は少しずれている
ガタン!?
教室にマリコルヌが転がされ、エレオノールがたっぷり時間を...
「ル〜イ〜ズ〜!」
「姉さま!?」
ガタリと思わず立ち上がり、剣幕に気付き逃げ出すルイズ
そんなルイズにレビテーションを掛け、捕獲するエレオノール
「なあに逃げてんのよ?このちびルイズ!!」
「だって姉さま。怒る時の仕草なんだもん」
「怒ってないわ。仕事よ仕事。ゼロ機関の所長は何処?」
「姉さま、アカデミーは?」
「出向よ、出向」
「左遷?」
やっぱりルイズもアレである。あっさり逆鱗に触れる
「左遷なんて言う口は此かしら?このっこのっ!?」
「いふぁい、いふぁい、いふぁいれす」
ほっぺをつねられるルイズ。姉妹のやり取りに、授業を始めよ...
「あの、ミスタギトー。止めて下さい」
「……無理だ。彼女が学院在籍時の二つ名は『金の女帝』彼女に...
完全に尻込みするギトー
「あら、ミスタギトー。お久し振りでございます」
「…久し振りだな、ミスヴァリエール。此方には妹御に用かね?」
「いえ、女王陛下より直々に賜った命令でして、ゼロ機関の所...
「ゼロ機関?」
「知りませんの?」
「初耳だ」
「では仕方有りませんわね。ちびルイズ、さっさと吐きなさい!...
今度は耳を引っ張るエレオノール
「痛い痛い痛い!?こんなんじゃ、知ってても答えられません!!」
「あ、そうか」
やっと気付き、耳から指を離す
「あたし、何も悪い事してないのに」
すっかり涙目で、ルイズはエレオノールに訴える
「……さっき、左遷とか言って無かった?」
「ご、ご免なさい、姉さま」
「解れば宜しい。で、ゼロ機関の所長は?」
「何ですか?ゼロ機関って?」
今度はエレオノールが目が点になる
「だって、陛下が懐かしい顔に通せば話は通じると」
「姫様が?」
「えぇ」
「…多分お探しの人は、今洗濯してると思うわよ?」
掛けられた声に振り向くと、エレオノールは戦闘体制を取る
「赤髪に褐色の肌。ツェルプストー!?」
「あら、やるの?ヴァリエール?」
「貴方の父親に殺されたお爺様の仇。取らせて貰うわよ!!」
すかさずゴーレムを呼び出すエレオノールに、キュルケはフレ...
そんな二人に疾風が飛び、二人共逆方向に飛ばされる
「止めたまえ、二人共。ツェルプストーとヴァリエールの遺恨...
エレオノールが身体に付いた煤を払うと、ギトーに対し、礼を...
「失礼しましたわ、ミスタ。貴方に謝罪を」
するとキュルケは、挑発的に答えた
「ミスタギトー。貴方に礼を。貴方の生徒を殺さずに済みまし...
「何ですって?」
「あら、本当の事よ。あんたがスクウェアだろうとも、私はあ...
「ふざけないでよ」
すると、炎の矢がエレオノールスレスレに複数飛来し、通過し...
「詠唱読めたかしら?」
キュルケが軽々しく言い、エレオノールがぞっとする
全く反応出来ず、髪の毛が焼け焦げた跡が出来ている
「……フレイムアロー」
「大人しく仕事相手を探すのね。私はヴァリエール相手でも軽...
そう言って、廊下側に飛ばされたので、扉を譲るキュルケ
ツカツカ歩いたエレオノールは、キュルケを一睨みし、扉を開...
ガラ
「後でケリつけましょ」
「ダーリンに怒られない様に出来ないから、お断り」
「……あんたのダーリンって、誰?」
「私のイーヴァルディって、所かしら?今度は、ヴァリエール...
「今度?」
「あぁ、良いの良いの、戯言だから忘れて頂戴」
「ふん」
ツカツカ歩み去るエレオノール
ギトーは溜め息を付いて声を掛ける
「全く、本来のツェルプストーとヴァリエールはこうなのか?」
「その通りですわ、ミスタ」
「君達が此でも大人しい事が解って、私も一つ勉強になった様...
* * *
エレオノールがメイドをひっつかみ、洗濯場を案内させると、...
「何よ?ゼロ機関の所長なんか居ないじゃない。ツェルプスト...
後でやっぱり殺すと呟き、周りのメイドが一斉に引く
非常に危険な空気を感じたのだ
「あんれ?初めましての人かい?」
才人が洗濯籠を持って、エレオノールに話し掛ける
だが、エレオノールは才人を無視する
平民に声を掛ける必要を感じないのだ
典型的な貴族の振る舞いである
才人は久し振りにカチンとする
「返事位したらどうだ?屑貴族」
ぴくん
「……上手く聞こえなかったわ。空耳ね」
「屑に用はねぇぞ。さっさと帰れ」
流石にエレオノールも、無視出来なくなって反応する
「……平民、もう一度言ってみなさい」
「屑の上に、無駄にプライド高い役立たずがこんな所で突っ立...
「…あんた、貴族にそんな事言って、無事で済むと思ってんの?」
「さあね。女だからと言っても、屑に優しくする積もりは無い...
才人が挑発し、エレオノールが応じる
「…生意気な平民には教育が必要ね」
「死にたくなきゃ帰れ」
二人のやり取りを見てたメイド達が、おろおろする
才人の強さは知っては居ても、この貴族の反応も尋常じゃない
強くなければ、この様な反応は、貴族でもしないのだ
「ちょっと、教育してあげるわ」
「場所を替えろ、馬鹿女。洗濯物を巻き込む気か?」
「ふん、良いわ。付いて来なさい」
エレオノールがツカツカ歩むと、才人が付いて行き、デルフが...
「あの姉ちゃん。確かに強ぇぞ?」
「隊長殿程か?」
「いんや。あれは別格」
「じゃあ、余裕だな」
「全く、相棒は女に甘いんじゃなかったのかよ?」
「ルイズはまだ可愛げが合った。あの女には全く無い。一度叩...
「ほう、甘ちゃんねぇ」
歩いた先は、授業中の生徒達から見える正門前の広場
「良くもまあ、衆人環視の場所を選んだもんだ」
「貴族に生意気な口聞く平民がどうなるか、教えてあげないと...
「あっそ」
才人は悪びれない
途端に騒ぎが起きる
「おい、平民の使い魔が決闘だ!?」
「相手は誰だ?」
「エレオノールさん、止めなさい!!」
慌ててシュヴルーズが飛び出て来る
「あら、ミセスお変わりなく」
「良いから止めなさい!!貴女は、とんでもない相手に決闘仕掛...
「平民の何処がです?」
エレオノールは聞く耳を持たないので、才人に向き話し掛ける
「才人さんお願いします。どうか手加減を」
「大丈夫ですよ、先生。きっちり、お尻ぺんぺんで済ませます...
「なら大丈夫ですわね」
そう言うと、シュヴルーズが離れる
「何で平民にお願いを?」
エレオノールには理解出来ない
その時、窓から馴染みの大声が上がった
「馬鹿犬〜〜〜〜!!大怪我させたら、お仕置きなんだからぁ〜...
「解ってるよ、ルイズ」
ルイズは、ほっとしながら見守る
「……あんた、何貴族の子女を呼び捨てにしてるの?」
「悪いか?」
「半殺しから全殺しに訂正」
圧倒的な魔力が立ち上がり、デルフが感想を漏らす
「お〜すげ。魔力だけなら、あのおっちゃんしのぐぜ」
「ヒュ〜、凄いねぇ」
「死ね!!」
ブレッドを詠唱し、圧倒的な散弾が飛ぶが、散弾が視界を遮り...
「え、嘘?何処?」
キョロキョロ探すが、視界から消えてしまった
そんなエレオノールの後ろから、むんずと杖を掴まれて取り上...
「きゃっ、何触ってんのよ?」
「いい加減にしろ!!俺が本気なら、もう死んでる事位気付け!!」
エレオノールがその事実に真っ青になる
「い、いや。助けて」
「はぁ?散々偉そうな事言っておいて何言ってんだ?」
「な、淑女にはそれ相応の態度があるでしょ?」
「高圧的に接するのは、淑女の行為じゃねぇ。お仕置きだ!!」
ぱぁん!!
「痛い!?」
ぱぁん!!ぱぁん!!ぱぁん!!
「痛、痛、痛ぁ!?」
ぱぁん!!ぱぁん!!ぱぁん!!
「嫌、嫌、嫌ぁ!!」
エレオノールの心が折れる迄、たっぷり10分以上叩かれるハメ...
正に、自分の行為を呪うしか無かった
「ぐすっ、ひっく、も、許してぇ」
「なら、言う言葉が有るだろう?」
ぱぁん!!
「痛ぁい!?平民に言う言葉なんて……無い」
ぱぁん!!
「痛ぁ!?だって、無いもん」
ダダダダ
「馬鹿犬!!もう、止めて!?これ以上恥をかかさないで!!」
流石にルイズが駆け寄り懇願するが、才人は無視する
「駄目だ。この女はお仕置きが必要だ。誰にも、きちんと躾さ...
ぱぁん!!
「痛ぁ!?」
「お願い、身内に恥をかかせないでぇ。私の姉さまなのぉ」
「知るか!?だったら、きちんと躾出来ない親の代わりにやって...
「お願い!!あんまり恥をかかされると、姉さま結婚出来なくな...
「…使い魔?」
「姉さま、聞いて無いの?サイトはマンティコア隊長ド=ゼッ...
エレオノールはハッとする
流石に無冠の騎士の噂は、アカデミーにも伝わっている
自分が、どういう人間に喧嘩を売ったか、やっと理解する
だが、平民に謝る事など出来ない
「だ、だからと言って。へ、平民に」
「サイトに謝って、お願い!!今のあたし、杖が無いから止めら...
ぱぁん!!
「痛ぁ!?」
「サイトも止めて!!お願い!!」
「因果応報。自業自得って知ってるか、ルイズ?」
ルイズはこくりと頷く
「なら、意地っ張りが何処まで続くか、黙って見てろ。俺が悲...
ルイズはぐっと詰まる
才人はそのまま無言で叩き続ける
エレオノールが謝る迄更に一時間の時間がかかり、才人も叩き...
* * *
授業をサボり、ルイズは泣きじゃくったエレオノールにハンカ...
才人は隣で無言で座っている
エレオノールが才人を時折伺う顔は、びくついている
強気が完全に剥がされ、臆病な部分が露出してしまっている
「で、ルイズの姉さんが、学院に何の用だ?」
ビクビク
エレオノールが過剰に反応する
「ちょっと、サイト」
「普通に話してるだろ?」
「そうだけど……姉さまにもう少し優しく」
「してるだろ?本来なら、首と胴が生き別れだ。俺が手加減す...
流石にルイズも黙る
才人の言う通りだからだ
才人に向けた魔法だって、才人で無ければ死んでいる
「姉さま、サイトには貴族の誇りなんか通用しないわよ?貴族...
こくりと頷くエレオノール。才人を見る目は怪物を見る目だ
自分達の常識の外に生きてるモノを、生命の危機と共に初めて...
恐怖以外の何者でもない
「サイトを怖がらないで。サイトはね、とっても優しいの。怒...
「……あれに当てられて、同じ事言えるの?」
ガチガチ震えるエレオノール
最悪の顔合わせだ
ルイズは溜め息をつく
「言えるわよ。サイトの恐怖に当てられても、サイトの傍から...
「誰よ?」
「ツェルプストーよ」
「あの女が、恐怖を味わってるの?」
「そうよ。今の姉さまみたいに、腰を抜かして震えっぱなしだ...
ツェルプストーに負ける
ヴァリエールにとって、屈辱にまみれる禁句である
「そそそそんな訳無いでしょ?今はちょっと怖いけど、きちん...
「流石は姉さまですわ。私の苦手な姉さまだけあります」
「余計な台詞言わない」
ピシっと、デコピンを放つ
「痛っ!?」
ルイズがおでこを押さえて涙目になる
「……で、用事は?」
黙って聞いてた才人がエレオノールに問いかけると、エレオノ...
「……あのな、用件すら言えないなら、マジで帰れ。俺はやる事...
ルイズは反論しようとするが、才人が正論しか言って無いのに...
エレオノールは暫く震えた後、非常に小さい声で言い始めた
「…出向」
「何処からだい?」
「王立アカデミー」
「何処へ?」
「……ゼロ機関」
「あぁ、成程ね。俺が所長の平賀才人だよ。じゃ、早速仕事す...
そう言うと、才人はエレオノールの手を引っ張り立たせ、その...
エレオノールはそのまま引かれて行ってしまい、ルイズがベン...
「…昨日王宮に呼ばれて謁見したって聞いたけど、サイトは何を...
ルイズは放課後に研究室に行く事を決意し、一旦教室に戻る事...
* * *
研究室に来た才人とエレオノール
コルベールは授業の為、留守である
「さてと、機関とは言っても、建屋も何にも無い、有名無実な...
「君の妹の使い魔召喚の儀で、ハルケギニアに召喚された日本...
「じゃあ、平民で」
「クックックック。もう復活したか」
才人は笑い、エレオノールがブスっと応じる
「決闘じゃ遅れを取ったけど、仕事となれば話は別よ。私はエ...
「由緒正しいヴァリエール公爵家が長女にして、貴方の主人の...
才人は自己紹介を聞き、答える
「ふうん、じゃあ姉さんで」
「平民に呼ばれる筋合いは無いわね」
「じゃあ、エレオノールさんで」
「名前で呼ぶな、平民」
「あっそ、ミスヴァリエール」
エレオノールは背筋にぞくりとしたモノを感じる
才人の雰囲気が変わったのだ
そう、凍てついた感情の無い瞳になっている
『私、何かしたのかしら?』
「では、ミスヴァリエールの仕事を指示する。秘書として、王...
「ちょっと待ってよ?何で、私なんかが書類作成?」
「俺は自分自身の仕事だけで手一杯だ。嫌なら、俺の代わりに...
エレオノールは、一応第三の路も提案してみる
「両方嫌だと言ったら?」
「解雇。姫様には過不足無く伝えるわ。ミスヴァリエールは、...
エレオノールは思案する
『この平民は、感情抜きで完全に仕事のみで話している。陛下...
「楽な方はどちらかしら?」
「図面は知らないと書けない。だから、書類作成をお願いした...
エレオノールは、才人が合理的判断の元で、指示を下している...
「了解、書類作成を致します。作成しなければならない書類を...
「じゃあ口頭で指示すっから、先生の机使って作ってくれ。俺...
「はい」
エレオノールが机に座ると、才人がドラフターを動かしながら...
エレオノールはペンを走らせながら、冷や汗を足らし始めた
「平民、何これ?訳解んない」
「何だ?未来の公爵が解らんのか?次期公爵領は、衰退決定だ...
「な、そんな事決めつけ無いでよ?」
流石にエレオノールが噛みつく
「財務卿と宰相は理解して小踊りしたぞ?まだまだ、勉強が足...
うぐっと、詰まるエレオノール
宰相達が小踊りするって事は、画期的な提案な筈なのだが、ア...
全く、この平民は規格外である
簡潔に書類を作成すると、才人にサインを求める
才人は書類に目を通し、頷いた
「へぇ、綺麗な文字だな。俺や学生、教師より綺麗だわ。内容...
才人が漢字でサインを書くと、エレオノールが目を点にする
「平民、何その文字?」
「日本語。俺の国の文字。此なら、俺の証明に一発でなるだろ...
「…確かに、一発で解るわね」
外国人で有る事を、才人は全く隠さない
周りには、非常に遠い所で、空船や風竜ですら、行き来は不可...
才人と深い付き合いしてる人間のみ、才人が異世界(他惑星)出...
エレオノールは書類作成が終了すると、手持ち無沙汰になった...
「平民、何の図面?」
「ボイラー」
シャッシャッ
先程から才人がドラフターをかちりと動かし、基線を当て、一...
エレオノールは優雅に動く様を、ついつい見惚れてしまう
仕事で稼動する躍動美を感じたのだ
「こんな作図道具、見たこと無い」
「俺の国の作図道具だ。ドラフターと言ってな、今じゃ時代遅...
この平民は、エレオノールを使い倒す気満々らしい
エレオノールは冷や汗を垂らす
「魔法の方はどうするのよ?さっきから、魔法の指示無いじゃ...
魔法が必要だから呼ばれた筈なのに、魔法を使わない
エレオノールの不満は、当然である
「あぁ、じゃあ胴パイプを錬金で出してくれ。直径1サント、...
「ふん、銅なんて基本じゃない。私に掛ればちょろいわよ。イ...
積まれていた石炭を材料に錬金し、才人に突き出すと、才人は...
「φ10.8、t3.5、L1010……随分適当だな」
エレオノールはカチンと来る
「問題無いでしょ?」
「長さは良い。だが経と板厚は不合格」
才人の宣告は無情だ
更に曲げるとぽきりと折れる
「……あのな、色からして感付いてたが、誰がブロンズ(青銅)を...
エレオノールは彫像研究と魔法による合成がメインであり、材...
才人が要求したのは、精錬技術であり、エレオノールには畑が...
いきなり駄目出しの連続、流石にエレオノールが抗議をする
「平民の癖に、魔法も使えない癖に、偉そうな事言わないでよ」
「俺の国じゃ、魔法無しでそれ位やってるわ。抗議したきゃ、...
「ふざけないでよ!!魔法のなんたるかを知らない平民風情が、...
いつの間にかシエスタとミミが入室しており、二人に紅茶と菓...
「今、何と言った?ミスヴァリエール」
才人の言い方に気付いた二人は、顔を青くする
いつもの才人が纏っている空気ではない。完全に張り詰めてお...
今の才人に近寄るべきではないのを、二人共知っているからだ
才人がドラフターから立ち上がり、がしりとエレオノールの腕...
エレオノールは先程の事を思い出し、眼を瞑り、思わず身体を...
「ひっ」
「なら、魔法を知ってる事を証明すりゃ、言う事聞くんだな?」
エレオノールは折檻されるかとびくついたのだが、才人が何も...
「え、えぇそうよ。何だって、言う事聞いてあげるわ。ま、平...
「言質取ったからな。証明後に逆らったらクビだ。良いな?」
「…良いわよ。其より離してよ?私にはバーガンディ伯爵が居る...
才人はあっさり言い返す
「知るか。逃げ出されると困るからな、行くぞ」
そう言って、才人はエレオノールの手を引っ張り、研究室を出...
* * *
ガラ
「で、あるから、この様に炎は燃やす材質によっても色が変わ...
才人がエレオノールと共に入室すると、コルベールが教鞭を取...
「コルベール先生済まない。ちょっと、ギーシュ借りるよ」
「教室から出さないでくれたまえ」
「解った。ギーシュ、銅パイプを錬金。φ10,t3.0,L1000を2本」
ドンと材料の土を机の上に置き、才人考案のミリメイル単位で...
ギーシュは教えて貰ってる為、心良く応じる
「解ったよ。イル・アース・デル」
土から銅パイプが2本錬金され、才人がノギスを用いてチェッ...
「φ10.2,t3.25,L1002、合格。もうちょいでJIS規格入れるよ」
パイプはエレオノールとは違い、赤銅だ
一本の銅パイプをくにゃりと曲げ、何の問題も無い事を確認する
「青銅系の合金でも、ドットで此くらい出来るんだ。言い訳す...
エレオノールにぽいっと放り、エレオノールが受け取り、材質...
「ふ、ふん。偶々精錬が得意なメイジって事じゃない。平民の...
才人が馬鹿にされ、ギーシュがカチンとする
「才人を馬鹿にしないで欲しいな。僕は才人に教えられてから...
そう言って、以前の青銅品を錬金して渡す
「ほら、土メイジなら解るだろ?」
「……私のと大して変わらない」
「才人の言う事は合理的だよ。出来ないなら、自分が悪いのさ」
ギーシュが不満気に言い、正面を向く
エレオノールは、まだ不満気だ
「た、偶々よ、偶々。平民と相性良いだけじゃない」
「まだ認めないと。じゃあ、どうする?」
「そうね。新しい魔法でも開発してみなさい。其が出来るなら...
聞いた瞬間に、モンモランシーが額に手を乗せる
「あちゃー。終わったわ、あの人」
才人は少し考え込むと、授業を行ってたコルベールに話しかける
「コルベール先生。悪いけど、授業ジャックするわ」
「きちんと、魔法の授業かね?」
「えぇ」
「ふむ、面白そうだ。諸君、無冠の騎士の番外授業だ。たまに...
「やた、潰れた!!」
「コルベール先生太っ腹!!」
あちこちでピーピー口笛が吹き歓声が上がる
「ミスタ、お久しぶりです。更に輝きが美しくなってますわね」
「君が才人君の助手かね。まぁ、才人君の指示に従うのは、貴...
才人が教壇に立ち、皆を見回して声を掛ける
「さて、悪いな皆。なるべく面白くやろうと思う。内容は、物...
一人、手を上げる
「僕が答えて構わないか?」
「良いぞ。マリコルヌ、答えてくれ」
「ライトニング系のスペル。最低でトライアングルクラスが必...
「お、有り難う。じゃあ、ドットのライトニングを開発しよう...
才人があっさり言うので、皆がぽかんとする
「んな、馬鹿な」
「平民。あんまり無茶言わないでくれよ」
「まぁまぁ。実験だから、試すのは構わないだろう?って訳で...
言われた生徒がロックを唱え、閉める
「それじゃ次、土メイジの皆、手を上げて」
クラスの1/4が手を上げる
「適当に材料見繕って。水を入れる桶を錬金してくれ」
そう言うと、先程の土を利用して桶が複数出来る
「有り難う。では水メイジの皆。全員で凝集のスペルを唱えて...
一斉に凝集を掛けた為、一気に空気が乾燥する
「有り難う。此で条件が整ったな。タバサ、此方来てくれ」
タバサが席を立ち、ちょこちょこと才人に寄ると
「はい、万歳」
タバサが両手を上げると、才人ががばりとパーカーを脱ぎ、タ...
その瞬間、周りから黄色い悲鳴が上がる
「キャー!?授業にかこつけて、何て事してますの?」
「まぁまぁ、ほらタバサ、身体を軽く動かす」
才人のパーカーを被るとタバサは言われた通り、身体を動かす
パーカーが静電気を帯び、タバサに纏わり付くと、タバサに才...
「イメージは、雷を増幅して、触れた相手に一気に流す」
タバサはコクリと頷く
「じゃあタバサ、スペルはスリサーズ・デル・ウィンデ」
「スリサーズ・デル・ウィンデ」
杖を持ったタバサがスペルを唱えると、一瞬紫電が疾るのが見...
「…何も起きないじゃないか」
「何だ、失敗かよ」
口々に不満の声が上がると、才人はニヤリとする
「う〜ん、そうだな。マリコルヌ、ちょっとタバサの杖に触っ...
「何だよ?一体」
マリコルヌが立ち上がり、タバサに近寄ると、タバサが杖を差...
バチン!!
触れた所で閃光が発生し、マリコルヌがひっくり返ってしまう
「はい、成功。スペル名はスタンだね。タバサ、動いちゃ駄目」
皆が唖然とし、タバサは頷く
「次、ギムリ触ってみて」
「い、嫌だ」
「大丈夫、もう電力使ったから。ほら」
才人がそう言って、杖にぺたぺた触る
「あれ、本当だ」
ギムリが立ち上がり、歩いて来ると、才人がタバサに指示する
「身体を軽く震わせる」
タバサが身体を震わせ、ギムリが触れると
バチン!!
ギムリもひっくり返ってしまう
「悪いけど水メイジの皆。二人を気付けしてくれ」
そう言うと、水メイジ達が気付けし、二人は才人に抗議する
「何なんだよ?酷いじゃないか?」
「騙したな?才人は、もうちょい良い奴だと思ってたのに」
「悪い悪い、協力感謝。実験で俺が被験者でひっくり返っちま...
「あ、そうか」
二人共頷いてしまうが、納得し難い表情だ
「じゃ、実験終了。原理を説明するね」
才人が黒板に書き出す
「此は静電気を起電力に魔力で増幅して、見た通り、触れた相...
そう言って、黒板に人の身体を書いて静電気発生の図を書いて...
「この静電気は乾燥した状態で発生しやすい。つまり、水を凝...
皆がふんふん頷く
「この静電気を、魔力で増幅して、触れた相手に一気に流すイ...
「質問」
「何だ?レイナール?」
「タバサはトライアングルだ。実際には、三乗してないだなん...
「そう言われれば、そうだな」
「ドットで試せよ、ドットで」
口々に抗議が上がる
「いやぁ、やっても良いんだけどさぁ。俺の服、タバサはとも...
瞬間、教室に爆笑の渦に巻き込まれる
「「「「ギャハハハハハ」」」」
「き、気持ちは解るな、うん」
「じゃあ、私がやる。私、風のドットだし、毛糸のベスト着て...
一人の女生徒が立ち上がり、教壇に歩く
「お、有難うな」
「こんなに面白いの、参加しなきゃ損だって」
そう言って、才人に笑いかける
「じゃあ、身体を動かして」
「こう?」
生徒が身体をふるふる動かす
「イメージはさっき言った通りだ。良いね?」
「うん、イメージ……大丈夫」
「良し、スペルはスリサーズ・デル・ウィンデ」
「解った。スリサーズ・デル・ウィンデ」
一瞬紫電が疾り、収まる
才人が杖に触れると
バチン!!
才人が倒れる
慌ててモンモランシーが近寄り、才人を気付けする
「モンモンサンキュ。あ〜効いた。此で証明終了だ。ドットで...
才人が礼をすると、一気に周りから拍手が巻き起こる
コルベールはエレオノールの隣で見ており、愕然として才人を...
「才人君はこう言う人間だ。解ったかね?」
「……何なの?あの平民……魔法を即興で開発?……信じられない」
「物理現象に通じてるから、応用しただけなんだろう。我々よ...
「貴族の要らない……国」
「才人君と何を話したのかね?」
「魔法に通じてる事を証明したら、絶対服従」
「君の負けだな、ミスヴァリエール」
「平民………平民の上司に絶対服従………ヴァリエール始まって以来...
うわ言の様にぶつぶつ言い、エレオノールの目が泳いだ
* * *
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