ゼロの使い魔保管庫
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359 名前:魔王[sage] 投稿日:2006/10/23(月) 00:06:00 ID:d...
「おお、誰だいお前さんたち。こんな辺鄙なところまでやって...
なに、お前は誰だって。俺のこと知らねえのかい。となると...
ふんふん。なるほどやっぱり知らねえ年号だ。こりゃ洒落に...
で、何の用だいこんなところに。言っとくが、ここには価値...
ところでさっきから後ろの嬢ちゃんはずいぶん驚いた顔して...
となると、あんたら魔法を知らないのかね。お、笑ったな。...
っつーことは、相棒の目論見は成功したってことなんだろう...
ああそうそう。俺のことが聞きたいんだったな。俺の名前は...
おやおや、また笑ったなお前さんたち。魔王なんて神話でし...
なるほど、あの時代のことはもう神話にまでなっちまってる...
よし、そんじゃ遠路はるばる来てくださったお二人のために...
ところでお二人さんよ、サイトとルイズって名前に聞き覚え...
なに、ないだって。そうかね、多分俺が知る限りじゃ世界的...
お、思い出したって顔だね嬢ちゃん。神話や伝説でなら聞い...
ほうほう、聖騎士アニエスとその恋人ジュリオに倒された魔...
悪い悪い、別に馬鹿にした訳じゃねえんだよ。単に、俺が知...
おっと、顔が輝いてきたね兄さん。歴史学者なのかい。そり...
何せ今から俺が教えようとしてるのは、あんたらが神話だと...
おいおいそう焦るもんじゃないよ。慌てなくてもちゃんと一...
さて、それでは聞かせてやるとしようかね。魔王ヒラガサイ...
事の起こりは、とある戦争が終結して数ヶ月経った頃のこと。
ロマリアの教皇とガリアとゲルマニアの王様が何者かに暗殺...
360 名前:魔王[sage] 投稿日:2006/10/23(月) 00:07:16 ID:d...
不意に意識を取り戻したルイズは、自分がどこか暗くて冷た...
頭の上に上げられた両手は壁から伸びた手枷で固定され、足...
まるで大罪人である。大貴族の娘として育てられてきたルイ...
そのとき、不意に暗闇の中に光が差した。その眩しさに目を...
石造りの狭苦しい部屋だった。蝋燭などの小さな照明すらな...
何もない部屋だ。ただ、自分の自由を奪っている手枷と足枷...
光が差し込んだのは、誰かが入り口の扉を開けたかららしか...
逆光で顔がよく見えないその人物は、まるでこの部屋に光が...
「誰」
自分の置かれた状況がよく把握できない混乱と、突然の侵入...
貴族としての誇りと彼女自身の気性が、自分をこんなところ...
暗闇の中で、人影が驚いたように肩を震わせたのが見えたよ...
「起きたのか」
聞きなれた声だった。驚くルイズの前で、小さな明かりが灯...
手に小さな燭台を持ったその人物は、間違いなくルイズの使...
助けにくれたのか、と喜びの声を上げそうになって、ルイズ...
救出に来たにしては、先程の言葉は妙だった。まるで、彼自...
「これはどういうことよ」
燭台を手にこちらに近寄ってくる才人に、ルイズは怒りの声...
すると才人は慌てて唇に指を押し当てた。静かにしろ、と言...
「大きな声を出すな。外に聞こえたらまずいだろ」
「じゃあやっぱりあんたなのね、わたしをこんな風にしたのは...
「いや、それあんま許されてる気がしないんだけど。まあ落ち...
「こんな状態で落ち着ける訳がないでしょう」
怒鳴りつけてやるが、才人は困った様子で頬を掻くだけであ...
とは言え、自分を拘束したのが未知の相手でなくて幾分かほ...
才人はなんだかんだで今まで自分を助けてきてくれた少年だ。
今回のこともかなり異様ではあるが、何か事情があるのだろ...
「分かった、落ち着くわ。とりあえず状況を説明しなさい」
再び怒鳴りつけたくなる衝動を抑えながら、ルイズは簡潔に...
才人は疲れた様子でため息を吐くと、床に燭台を置いて自身...
「説明ったってな。何から説明したらいいもんだか」
呟きながら、じっとこちらを見つめてくる。ルイズは今の己...
(こんな状況で、この馬鹿犬)
いやらしい目で見るんじゃないと叫びそうになったルイズは...
こちらを見つめる才人の瞳には、好色な色など全く含まれて...
むしろ、まるで哀れむような、あるいは気遣うような気配が...
「なによ、その目。どうしたの、一体何があったのよ」
「いや、あのな」
才人は何か言おうと口を開きかけたが、何かを言う前に口を...
「ちょっと」
「ごめんルイズ、とてもじゃねえけど俺には教えられねえよ。...
こちらに背をむけたまま、才人は苦しげな口調でそう言う。
残酷なこと、とは一体なんなのか。才人の重い口調もあって...
「とにかく、ここでじっとしててくれ。大丈夫、俺に任せてお...
そう言ってドアノブに手をかけた才人に、ルイズは叫んだ。
361 名前:魔王[sage] 投稿日:2006/10/23(月) 00:08:14 ID:d...
「待ちなさい」
強い声音に、才人の手が止まった。
「言ってみなさいよ、その残酷なことっていうのを」
「でも」
「舐めないでよね。どんなことを聞かされたって、わたしはな...
才人はしばらく黙っていたが、やがてため息をつきながら振...
「相変わらずだなお前も。分かった、全部話すよ。ちょっと待...
それだけ言って出て行った才人は、言葉どおりすぐに戻って...
「ルイズ、本当にいいんだな」
慎重な口調で、才人が問いかけてくる。
「これから俺が言うことは、お前を凄く傷つけると思う。知ら...
普段の才人らしからぬ深刻な雰囲気に、ルイズは一瞬躊躇し...
「大丈夫だって言ってるでしょう。いいから、さっさと話しな...
才人は一つ頷くと、包みを解いて中身を床に転がした。それ...
人の頭だった。生首である。目を見開いた見知らぬ男の生首...
予想していなかったものが唐突に眼前に現れた衝撃で、ルイ...
「なに、これ」
それでも何とかそう言うと、才人は淡々とした口調で答えた。
「暗殺者だ」
「暗殺者って、一体」
「お前を狙ってたんだよ」
「わたしを、何のために」
理由として思い当たることはいくつかある。自分が公爵家の...
しかし、公爵家の娘と言っても自分は所詮三女で、政治に深...
身代金目的の誘拐というならともかく、暗殺しても大してメ...
虚無の魔法の使い手というのだって、ほとんど公にはされて...
才人もその辺は理解していると見えて、一つ頷いてみせた。
「そうだな。俺もその辺りはよく分からなかった。だけど、こ...
お前を殺そうとしたのは本当だ。かなり強かったから、殺す...
正当防衛とは言え人殺しをしてしまったことを悔やむような...
「分かったわ。でも、それでどうしてわたしをこんな風にする...
「それを説明する前に、よく見てくれ」
そう言いつつ、才人は男の生首を持ち上げてルイズの眼前に...
思わず顔を背けかけたルイズだったが、よく見てくれという...
蝋燭の灯りに照らされた男は、特徴的な顔をしていた。頬に...
その傷を見たとき、ルイズは自分がこの男の顔を知っている...
「この男、確か屋敷で」
「やっぱり、か。どこかで見たような気はしてたんだけど」
ルイズの呟きを聞き、才人は辛そうに眉根を寄せた。
その仕草に、ルイズの不安がさらに膨れ上がった。
「なに、一体どういうこと」
「こいつがな、死ぬ間際に言ってたんだよ」
才人はそれから数秒ほど迷うような様子を見せた後、思い切...
「ヴァリエール公爵に依頼されて、お前を殺しに来たってな」
ルイズは目を見開いた。ヴァリエール公爵と言えば、自分の...
つまり、父親が自分を暗殺するようにとこの男に命じたとい...
「嘘よ」
ルイズはほとんど悲鳴のような声で叫んでいた。才人は否定...
「ああ、俺もきっと何かの間違いだと思う。こいつが出鱈目言...
「サイト、今すぐわたしをここから出しなさい」
ルイズは体の内から湧き上がる衝動に任せるままにそう叫ん...
362 名前:魔王[sage] 投稿日:2006/10/23(月) 00:09:17 ID:d...
「そう言うと思ったからお前をそんな風にしとかなきゃならな...
「どうして」
「親父さんがってのは嘘だと思うけど、お前を殺そうとしてる...
そんな奴等がうろついてる中でお前を歩き回らせる訳にはい...
「でも」
「大丈夫だ、俺に任せとけ。絶対、本当のこと調べてやるよ。...
才人は真っ直ぐにルイズの瞳を見つめてそう言った。
まだいくつか納得できないことはあるものの、才人の言うこ...
そう言うからには、この場所が絶対に見つからないという自...
ならば、数日ぐらい才人の調査結果を待つのが一番にも思え...
異常な事態に自分が冷静な判断力を失っているのではないか...
「分かったわ。出来るだけ早く調べなさいよ」
「ああ、もちろんだ」
「あと、これは解いていきなさい。大丈夫よ、出て行きゃしな...
ルイズがそう命ずると、才人は素直に手枷と足枷を外した。
ようやく自由になった手足を回してほぐしていると、何故か...
「なにやってんの」
「いや、勝手にこんなことしちまったから、さぞかし怒ってる...
要するにお仕置きを待っていたらしい。こんな状況でもあま...
「そうね、でも」
呟きながら、ルイズは才人の胸にしがみついた。
「ルイズ」
驚く才人の胸に顔を埋め、ルイズは鼻をすすり上げる。
「それ以上に不安だわ。一体何がどうなってるの」
自分でも意外なほど素直に言葉が出た。
才人は無言でそんなルイズを抱きしめ、落ち着かせるような...
(気持ちいい)
胸の奥から湧き出した安堵感が不安を取り除き、ルイズの体...
(ずっとこうしていたい)
しかし、才人はやがて体を離した。思わず縋りつこうとする...
「ごめんなルイズ。出来ればお前の傍にいてやりたいけど、そ...
早くお前をこんなところから出してやりたいから、さ」
謝るような口調で言う才人に、ルイズは何とか頷いた。
「分かってるわ。わたしのことは気にしないで、早く本当のこ...
「ああ。後で毛布とか持ってくるよ。本当にごめんな。もうち...
才人が生首を持って出て行った後で、ルイズは無言で膝を抱...
「お父様が、なんて、嘘よね」
確認するように口に出して呟くが、何故か確信が湧いてこな...
この石造りの部屋同様、自分を取り巻く世界全てが冷たいも...
363 名前:魔王[sage] 投稿日:2006/10/23(月) 00:10:24 ID:d...
その後すぐに生活用品一式を持ってきた後、才人はしばらく...
まさか暗殺者に殺されてしまったのでは、などという不安が...
ずっと暗闇の中で生活していると、時間の経過が分からなく...
才人のことを心配する気持ちや、まさか本当に父親が自分を...
そうして正気を保ち続けるのが難しくなってくるほどにルイ...
何日ぶりになるか分からない外界の光が部屋に差し込んだ瞬...
「サイト」
だが、彼女が浮かべた笑顔は、現れた才人の姿を見て凍りつ...
外界の光に浮かび上がる才人の体には、無数の傷が刻まれて...
一目見るだけで、厳しい拷問を受けたあと分かる醜い傷跡だ。
だと言うのに、才人はルイズを見つけて傷だらけの顔に微笑...
「ようルイズ。帰って来たぜ」
扉を閉めて床に崩れ落ちた才人に、ルイズは悲鳴を上げなが...
「サイト、どうしたの、一体誰がこんなことを」
抱え起こし膝に頭を乗せてやると、才人は薄目を開いてぼん...
「お前、痩せたなあ。そりゃ干し肉なんかまずいだろうけど、...
弱弱しい掠れ声で呟きながら、才人は傷だらけの手でルイズ...
(この馬鹿、こんなになってまでわたしの心配なんかして)
大粒の涙が流れると同時に、胸の奥からどうしようもないほ...
ルイズは涙を拭おうともせずに才人の手を握り締め、すっか...
「泣くなよ、ルイズ。遅くなっちまってごめんな」
「いいのよ。こんなひどい怪我して帰ってきて。また、無理し...
「そうだな、ちょっと、無理しちまったかもしれねえな」
「傷の手当て、しなくちゃ」
ルイズは才人の体をその場に寝かせ、彼がルイズのために運...
あまり綺麗な水とは言えなかったが、この際仕方がない。自...
そうして傷口を洗い、布団代わりに使っていた布を裂いて作...
364 名前:魔王[sage] 投稿日:2006/10/23(月) 00:11:08 ID:d...
しばらくして起き上がった彼は、まず傷の手当てに関してル...
「あの後、他にも何人か暗殺者が来てさ。何とか全員倒したん...
「でしょうね。暗殺者ってそういうものだわ」
「でも、やっぱりどこかで見たような顔した奴等ばっかりだっ...
つまり、自分の屋敷で見かけたということだろうか。ルイズ...
「学園じゃルイズがいなくなったって噂が広まり始めてて、俺...
思い切って、お前の屋敷まで行ってみることにしたんだ」
「そんな無茶をしたの」
「それ以外に確かめる方法なんて思いつかなくてさ。場所は一...
才人は不意に言葉を切った。苦悶するように眉根を寄せ、顔...
余程気分の悪いものを見てきたらしい仕草だった。
「いいわ、サイト。話してちょうだい」
「だけどな、ルイズ」
「あんたのその怪我を見れば、ひどいことがあったのはいちい...
大丈夫、覚悟は出来てる。どんな辛い現実も受け止めてみせ...
口を真一文字に引き結んだルイズの顔を見て、それでも才人...
だが、やがて諦めたように息を吐き出すと、腰にくくりつけ...
それは、小さな青い宝玉だった。
「これは」
「風の魔法が封じ込められてるらしくてさ。音を記録しておけ...
俺は夜中に屋敷に侵入して、お前の家族が談笑してる部屋を...
正直、お前には聞かせたくないんだけど」
「構わないわ。いいから、聞かせてちょうだい」
その小さな宝玉の中に封じられているであろう残酷な事実を...
才人はきつく目を閉じると、辛そうな声で何かを呟いた。同...
「聞いたかお前たち、ルイズのことを」
鼻歌でも歌い出しそうなほどに上機嫌な父の声。
「ええ。行方不明だそうですわね」
取り澄ました、しかし喜色を隠しきれていない母の声。
「よく言うわ、行方不明だなんて。今頃は」
嘲るようなエレオノールの声。
「あら姉さま、ルイズは間違いなく行方不明よ。だって、あの...
いつもどおりの優しい声音の裏に、聞いたこともないほど冷...
聞き間違えるはずもない。間違いなく、自分の家族の声だっ...
いや、間違いないという言い方は正しくないかもしれない。
少なくとも、家族がこんな口調で話すのを、ルイズは今まで...
「やれやれ。ようやく死んでくれたか、あれも」
「本当にどうしようもない子でしたわね。あんなのが自分の娘...
「魔法も使えないで、ゼロのルイズだなんて呼ばれてたんです...
「あらあら、それはいい恥さらしだわ。そんなのが貴族だなん...
「全くだ。あんなものを外に出しておいたら我が家の名は地に...
「どうせあの子のことなど誰も気にしないでしょうし、大した...
「そうね。魔法学院でも『うまくいかない憂さ晴らしに、遊び...
もう捜索は打ち切ったって話よ。一応、葬儀ぐらいはした方...
「あら、お金と時間の無駄よそんなの。それより、『ルイズは...
「なるほど、それは名案だ」
「そうすれば葬儀なんてする必要もなくなりますね」
「さすがカトレアだわ」
「ふふ、それほどでも」
「さて、それではようやく死んでくれた我が家の恥、一族で一...
楽しげな賛同と共に、グラスが打ち合わされる音が響き渡る。
365 名前:魔王[sage] 投稿日:2006/10/23(月) 00:14:08 ID:d...
それまでただ無言で肩を震わせていた才人が、不意に宝玉を...
宝玉はすぐに光を失い、同時に流れていた音もぴたりと止ま...
「すまねえ。これ以上は、とても聞かせられねえ。聞いてほし...
絞り出すような声で吐き出す才人に、ルイズはゆっくりと首...
「もういい」
「そうか。俺はこれを記録した後、逃げる途中で見つかって、...
でも、どうしてもお前に伝えなくちゃいけねえと思って、何...
「そうなんだ」
「ああ」
それきり、二人は黙り込んでしまう。
ルイズは何も考えていなかった。いや、何も考えたくなかっ...
ただ、あまりにも過酷な事実に、身も心も打ちのめされて、...
そんな彼女の体を、不意に誰かが抱きしめた。
呆然としたままそちらに目を向けると、瞳に涙を溜めて辛そ...
「どうして泣いてるの」
才人は数度ほど唇を戦慄かせたが、結局は何も言わなかった...
ルイズは無理矢理唇をひん曲げて微笑を作り、明るい声を出...
「何よ、あんたがそんな顔することないじゃない。言ったでし...
自分がどうしようもない役立たずで家の恥晒しだってことぐ...
自身の言葉が無数の刃のように体の芯に突き刺さるのを感じ...
「いいのよ、別に。辛いことなんか何もないわ。わたしは昔か...
わたしの家族も昔から何も変わってない。ただ、皆の本心が...
「ルイズ」
不意に、才人が後ろから抱きしめてきた。彼の体の温かさに...
「俺、何て言ってお前を元気付けてやればいいのか分からない...
「いいってば。わたしは落ち込んでなんか」
「俺だけは、どんなことがあってもお前を愛してるからさ」
不意に涙がこみ上げてきて、ルイズの視界が滲んだ。自分を...
「他の皆が敵になっちまっても、俺だけはお前の味方でいるか...
大粒の涙が次々と瞳から零れ落ち、頬を熱く濡らしていく。
ルイズは激しくしゃくり上げながら、途切れ途切れの声で背...
「ほんとう」
「ああ、本当だ」
「本当に、わたしのこと愛してくれるの」
「絶対だ」
「裏切らない」
「裏切らないよ」
「わたしのこと、守ってくれる」
「死ぬまで守り抜いてみせる。なんて、俺なんかじゃ頼りない...
「サイト」
名を呼びながら、ルイズは振り返って才人の胸に縋りついた。
才人も、絶対に離さないとでも言うかのように、強い力でル...
家族から見捨てられ、生きる意義を失ったかに見えたルイズ...
(サイトだけはわたしを見捨てない。サイトだけがわたしの希...
胸の中で何度もそう繰り返しながら、ルイズはいつまでも泣...
366 名前:魔王[sage] 投稿日:2006/10/23(月) 00:15:00 ID:d...
それからしばらくの間、ルイズは才人の言いつけに従って石...
敵はルイズが死んだと思っているのだ。外にいるところを誰...
「もう少し経って準備が出来たら、この部屋を抜け出して一緒...
「サイト、帰る方法を探すの」
「違うよ。もう帰らない。だけど、俺たちが静かに暮らしてい...
魔法が使えなくても誰もお前を馬鹿にしない、誰もお前を裏...
「素敵」
「そうだろ。だからもうちょっと我慢してくれな」
才人はそう言ってルイズを励ました。
ルイズ自身は才人と一緒ならばどこにでも行ける気持ちだっ...
また、皮肉にもこんな状況になってようやくお互いに気持ち...
ほとんど毎日のようにこの暗い石造りの部屋の中で互いの体...
(才人はわたしを愛してくれる。才人だけがわたしを愛してく...
才人に抱かれるたびに、ルイズの胸に溢れる想いは強くなっ...
才人もまだ不慣れな手つきで一生懸命にルイズの体を愛撫し...
「ルイズ、愛してるぜ。俺だけはお前の味方でいてやるからな」
体を重ねるたびに、才人は何度もルイズの耳元でそう囁いた。
そうして月日は瞬く間に過ぎ去った。才人の話では、彼が帰...
その間に彼は準備を済ませ、いよいよ明日東方へ旅立とうと...
「なあ、ルイズ」
不意に才人が話しかけてきたのは、いつものように彼と交わ...
互いに体を寄せ合って座っているため、才人の顔はすぐそば...
「なあに、サイト」
甘えるようにそう答えたルイズは、才人の横顔に浮かぶ表情...
ひょっとして何か彼の気に入らないことをしてしまったのだ...
「ごめんなさい」
泣きながらそう言うと、才人は驚いたようにこちらに振り向...
「どうした、急に」
「わたし、何か悪いことしたんでしょう。謝るから、悪いとこ...
縋りつくルイズに優しい微笑を向けて、才人は彼女の体を抱...
「ルイズに悪いところなんかないさ。俺がルイズを嫌いになる...
「本当」
「本当だって」
そう言いつつ、才人はルイズの顔や首筋に何度も唇を寄せる。
自分は愛されているのだという実感が湧いてきて、ルイズの...
367 名前:魔王[sage] 投稿日:2006/10/23(月) 00:17:59 ID:d...
「俺が言いたかったのはそういうんじゃなくてな。俺たちは、...
だけど、本当にそれでいいのかって思ったんだ」
どういう意味だろう、とルイズが首を傾げると、才人は真剣...
「なあルイズ、お前、悔しくないか」
才人が何を言いたいのか、ルイズにはすぐに分かった。才人...
「魔法が使えないなんて下らない理由でお前を捨てた家族が、...
「それは、少しはそう思うけど」
今のルイズにとって、そんなことは些細なことだった。
才人と一緒にいられるなら、家族に捨てられたことなどどう...
「俺は憎い」
一言、短い声でそう言った才人の顔を、ルイズは驚いて見上...
彼の顔は抑えきれない激情で歪み、触れるだけで切れそうな...
「サイト、怒ってるの」
「当たり前だろ」
才人が急に怒鳴ったので、ルイズはびくりと身を縮ませた。...
「ごめんなさい」
「あ、悪い。お前に怒ってる訳じゃないんだ」
才人は慌てたようにそう弁解しながら、ルイズの体を強く抱...
「俺はなルイズ。俺の大好きなルイズをゴミみたいに扱った奴...
そんな悪い奴等は罰を受けるべきだろう」
「罰」
「そう。だけど神様って奴はそんな奴等に罰を与えてくれない。
それどころか、ルイズみたいにたくさん傷つけられた人たち...
そんなのおかしいだろ。割に合わないだろ。間違ってるだろ」
「うん」
「だからなルイズ、俺たちで罰を与えやろうぜ。あんなに頑張...
お前にはその権利があるんだ。復讐する権利がな」
「復讐」
思わず呟いたその言葉が、ルイズの体の方々に散らばってい...
怒りは炎なって燃え盛り、憎しみは氷の刃として研ぎ澄まさ...
今までに感じたこともないような激情が、ルイズの心の中で...
そんなルイズの内心を感じ取ったように、才人は彼女の耳元...
「ルイズ、教えてくれ。お前は、お前にひどいことをした奴等...
「殺したい」
「ただ殺すだけでいいのか」
「ううん。足元に這いつくばらせて出来るだけ苦しませて、わ...
そうしてから体をバラバラにして殺してやりたい」
迸る激情に任せるままに、ルイズは一瞬の躊躇いもなくそう...
言ってしまってから、不意に怖くなる。こんなことを言う自...
しかし、恐る恐る見上げた才人の顔は、この上もなく優しい...
「そうか、そんな風にしてやりたいのか」
声音もまた包み込むような優しさを保っている。ルイズは安...
「じゃあ、そうしてやろうぜ」
そう言われて、ルイズの心にわずかな躊躇が生まれる。
まだ心のどこかで「何かの間違いなんじゃないか」とかすか...
ルイズの葛藤を見抜いたように、才人は彼女の頭を撫でなが...
「分かった。それじゃあ、奴等に弁解するチャンスを与えてや...
「弁解」
「そう。いいかルイズ、これから俺が言うことをよく聞くんだ。
そうすれば、奴等がどうしようもないクズどもかどうかって...
ルイズに指示を出したあと、才人は一層強い力でルイズの体...
「よし、それじゃあ行こうかルイズ。お前を認めなかった世界...
「うまくできるかしら」
不安に思ってそう言うと、才人はルイズを安心させるように...
「大丈夫だよ。いざってときは俺が助けてやる。俺はお前の望...
お前以上に優先するべきことなんか俺にとっては一つも存在...
俺は、お前のためだったら、悪魔にでも魔王にでもなってみ...
才人はルイズを抱きかかえて、石造りの部屋の扉を開けた。
差し込む光が、自分の体を何か別の強い物に作り変えていく...
それは、とても心地よい感覚だった。
575 名前:魔王[sage] 投稿日:2006/10/28(土) 23:04:55 ID:E...
魔法学院に通っている妹が行方不明になったという報が届い...
カトレアは自室の椅子に座ったまま、物憂げなため息を吐き...
体が弱く、屋敷の外に出ることをほとんど許されていない自...
それでも、まだ妹が見つかっていないことだけははっきりし...
(わたしの小さなルイズ)
妹の姿を脳裏に思い浮かべ、カトレアは両手を強く握り合わ...
先日の戦争の前この家に帰って来たとき、もう少し話を聞い...
ひょっとしたら、妹は女王からの極秘任務を託され、その途...
(あの子は、とても頑張り屋さんだから)
幼い頃から魔法が使えずに馬鹿にされ、必死になって勉強し...
彼女が他人に認められたいと願っていることは、カトレア自...
だから、無理をしてしまったのかもしれない。出来ないこと...
(どうしてわたしは、「魔法なんか使えなくてもいいんだよ」...
何度か、そう言ってあげようかと考えたことはあった。
しかし、歯を食いしばって魔法の勉強に励むルイズの姿に、...
カトレアはため息を吐いて立ち上がった。部屋にいても何も...
部屋を出て、ある場所へ向かう。そこは、前にルイズが帰っ...
木の扉を開けて、中に入る。以前よりも片付けられたその部...
いや、滞在しているという言い方は正しくないかもしれない...
そっと部屋に入り、ベッドに歩み寄る。少年は今日も変わら...
美しい顔立ちの、金髪の少年である。まるで天才的な腕を持...
この少年は、妹が失踪するより一ヶ月ほども前に、この屋敷...
現れた、と言っても、そのとき少年は既に意識を失っていた。
その日の夜半、何となく眠れずにいたカトレアは、窓の向こ...
胸騒ぎを覚えて窓を開くと、その影は静かにゆっくりと近づ...
立派な体躯を持つ、風竜だった。その竜が、今カトレアの目...
竜は少年をカトレアに託すと、何処かへと飛び去ってしまっ...
少年はひどい傷を負っていた。カトレアがすぐに水魔法で治...
身元も分からない少年を屋敷に置いておくことなど、きっと...
迷った末に信頼できる使用人を呼びつけ、相談した結果彼を...
この物置なら滅多に人が近寄らない区画にあるから、きっと...
実際、そもそもが広すぎる屋敷であるので、この少年のこと...
576 名前:魔王[sage] 投稿日:2006/10/28(土) 23:06:09 ID:E...
「まだ目を覚まさないのね」
一人、呟く。答える者はいない。カトレアはため息を吐いて...
頭に浮かぶのは、やはり妹のことである。最近では、何をし...
ルイズのことといいこの少年のことといい、胸をざわつかせ...
おかしなことはカトレアの周りだけに留まらない。
ここ数ヶ月というもの、ハルケギニアを取り巻く状況は、カ...
事の起こりはロマリアの教皇が暗殺されたことである。若い...
枢機卿たちは今でも後継者を決めかねて内乱じみた争いを繰...
それから一ヶ月も経たない内に、今度はガリアとゲルマニア...
そうなると当然起きるのは後継者争いである。
ガリアでは謀殺と暗殺が流行し、ゲルマニアでは既に有力な...
トリステインでも女王周辺の警護が物々しくなってきており...
父もまた様々な雑事に忙殺されて疲れ果てており、そこに娘...
エレオノールも妹の失踪や王都の危険な状況のためにこの屋...
(なのに、わたしは何もできないでいる。大切な家族が、皆大...
自分の無力が悔しく、不完全な体が心底憎らしい。
気付くと、瞳から涙が零れていた。これほど弱気な気分にな...
(駄目ね。せめて、元気な顔をしていないと)
そう思って涙を拭ったとき、不意に知らない誰かの声が響い...
「どうしてそんな風に涙を零されるのですか」
はっとして目を開くと、目の前の少年が薄い微笑を浮かべて...
(月目だわ)
左右で色が違う少年の瞳を見て少し驚きながらも、カトレア...
「気がついたのね。良かった、数ヶ月もずっと眠っていたのよ...
「それでは、あなたが助けて下さったのですか。これは感激だ...
起きるなりこれである。カトレアは口元に手を当てて小さく...
「あらあら、お上手なのね」
「いえ、ぼくなどが万の言葉を尽くしたところで、あなたの美...
申し遅れました、ぼくはジュリオ・チェザーレと申します。...
カトレアはにっこり笑って手を差し出す。ジュリオは慣れた...
「以後お見知りおきを、お嬢様」
「わたしはカトレアよ。よろしくね、ジュリオ」
577 名前:魔王[sage] 投稿日:2006/10/28(土) 23:07:05 ID:E...
「ところで、一体どのような難事があなたのお心を悩ませてい...
気障な笑顔を浮かべて甘い声で囁きかけるジュリオに、カト...
「ありがとう。でも、助けが必要なのはわたしではなくてあな...
「ぼくでしたら大丈夫、あなたの献身的な看護で体はすっかり」
「体ではなく、心よ」
ジュリオはわずかに目を見張る。予想もしていなかったこと...
カトレアは彼の両手をそっと握り締め、声をひそめて囁きか...
「悲しいことがあったのね。自分の生きる意義を見失ってしま...
ジュリオが鋭く息を呑んだ。一瞬その端正な顔から表情が消...
先程までの、余裕と自信に溢れた気障な笑みではなかった。
それは、自分の弱さを必死で隠そうとしている人間特有の、...
「神は実に気まぐれだ。あなたのような美しいお人に、優しさ...
天はニ物を与えずなどという戯言を世に広めたのは一体誰な...
カトレアは何も言わずにただじっとジュリオを見つめる。
ジュリオはそれでもなお何か軽口を叩こうとするかのように...
やがて彼の顔から微笑が消えた。自らの内面を見つめるよう...
「主を、失ったのです」
か細い呟きと共に、ジュリオの瞳から涙が溢れ出した。
「あの方のためなら、この命を投げ出してもいいとすら思って...
互いに色の違う両目から同じ色の涙が零れ落ち、硬く握り締...
「ぼくはなにもできなかった。あの方が目の前で殺されたとい...
カトレアは小さくしゃくり上げているジュリオをそっと胸元...
声を殺して泣き続ける少年を抱きしめ、カトレアはただ黙っ...
578 名前:魔王[sage] 投稿日:2006/10/28(土) 23:08:03 ID:E...
「申し訳ありません、お恥ずかしいところをお見せしてしまっ...
しばらくして元の調子を取り戻したジュリオは、まだ赤い目...
カトレアはゆっくりと首を振ってジュリオに笑いかける。
「恥ずかしくなんかないわ。悲しいときにちゃんと泣いておか...
「そう、ですね」
ジュリオは目を閉じ、疲労に満ちた重い息を吐き出した。
落ち着いてはいるが決して悲しみが消えた訳ではない彼の横...
「これから、どうするの」
「まだ分かりません」
ジュリオは迷うようにそう言ったが、ゆっくりと開かれた瞳...
「ですが、出来るならば仇を討ちたいと思っています」
「大切な人の」
「はい。それが、今の僕に出来る唯一のことでしょうから」
「そう」
カトレアは目を伏せて、ただ一言だけそう言った。
部屋を覆う沈黙の中、ジュリオは探るような視線でカトレア...
「意外ですね。てっきり、ぼくの行為を無意味だと言ってお止...
「止めてほしいの」
ジュリオは首を横に振る。カトレアは目を細めて言った。
「あなたの苦しみや悲しみは、あなただけのもの。他人が完全...
あなたが苦しみ、悩み抜いてその道を選んだのなら、わたし...
もちろん、わたし個人としては危ないことはしないでほしい...
ジュリオは少し苦しげに目を閉じた。
「ぼくも、頭では分かっているのです。そんなことをしてもあ...
ですが、どれだけ心に言い聞かせようとも、この胸の中で暴...
布団の上で握り締められた拳が細かく震えていた。ジュリオ...
「申し訳ありません、カトレア様。やはり僕は、この愚かな決...
カトレアは微笑み、ジュリオの拳を自分の両手でそっと包み...
「いいのよ。自分の気持ちは大事にするべきだわ。だけど、ま...
元気になるまではここでゆっくり休んで、その間にいろいろ...
ひょっとしたらその気持ちが治まってくれるかもしれないし...
ジュリオは少し目を伏せてカトレアの言葉を聞いていた。だ...
579 名前:魔王[sage] 投稿日:2006/10/28(土) 23:09:04 ID:E...
「不思議だな」
カトレアが首を傾げると、ジュリオは少し眩しそうに目を細...
「あなたと話していると、何故か自分の本心をさらけ出してし...
本心を隠すために嘘を吐くことも、弱さを悟られないために...
自分がこんな風になるだなんて、ぼくは今まで想像したこと...
あなたには何か、人智を超えた不思議な力があるようですね...
色の違う左右の瞳に、半ば崇拝めいている憧憬の情が浮かん...
「それはきっと、わたしの力ではないわ。疲れ果て、弱りきっ...
少し休んで元気になれば、こんなつまらない女のことなんて...
「そんなことはありません」
ジュリオは強い口調で断言しながら、カトレアの手を取って...
真摯な光を宿している色違いの双眸に真っ直ぐ見つめられ、...
「あなたは素晴らしい女性です。見かけの美しさは元より」
そこまで言って、ジュリオは不意に眉をひそめた。
何かおかしなものを見たような、あるいは何かを思い出そう...
最初はてっきり彼が口説き文句に詰まったのかと思って内心...
「あなたは」
不意に、ジュリオが目を見張った。信じられないものを見て...
「まさか。いや、そうか。だが、何故最初に気付かなかったん...
ということは、まだ間に合うのか。いや、それはまだ分から...
一人、混乱しているかのように呟き続けるジュリオの顔には...
困惑するカトレアに、ジュリオは深刻な表情を浮かべて問い...
「カトレア様、あなたにはひょっとしてルイズという名の妹君...
驚いたカトレアの表情を見て、自分の想像が正しかったこと...
「やはり。それで、最近、彼女に何か変わったことは」
と、ジュリオが焦った声音で言いかけたとき、不意に入り口...
「ああ、カトレアお嬢様、やはりこちらにおいででございまし...
そう言ったのは、ジュリオをこの物置に隠すようにと勧めた...
老婦は髪と服を乱し、全力で走ってきたように息を荒げてい...
「どうしたの、そんなに慌てて。何かあったの」
「それが、大変なんでございます、カトレアお嬢様」
「大変なのはお前を見れば分かるわ。落ち着いて話してちょう...
カトレアの穏やかな声音に、老婦はほんの少しだけ落ち着い...
しかし、その顔はまだ興奮に赤らんでおり、余程驚くべき事...
老婦は数度ほども深呼吸したあと、腕を震わせながら廊下の...
「つい先程、ルイズお嬢様がお帰りになられたそうで」
「まあ、本当なの」
カトレアは驚き、思わず老婦の肩をつかんでそう問いかけて...
老婦もまた興奮がぶり返してきたようで、声を詰まらせなが...
「本当でございます。ひどく沈んだご様子でいらっしゃいまし...
「今はどこに」
「談話室の方で、旦那様と奥様、それにエレオノールお嬢様と...
「ええ、分かったわ」
そう言って駆け出そうとしたカトレアを、後方からの声が止...
「お待ちください、カトレア様」
叫びながら身を乗り出したジュリオが、ベッドの上から転が...
外傷は既にないものの、ずっと眠っていたせいで体力がほと...
カトレアは一瞬振り返り、ジュリオを見た。ジュリオは何か...
彼のことも気になるが、今は一刻も早くルイズの無事を確認...
「彼をお願い」
カトレアは老婦に一言だけ頼んで、制止の声も聞かずに駆け...
580 名前:魔王[sage] 投稿日:2006/10/28(土) 23:11:51 ID:E...
「カトレア様、お待ちください、お待ちを」
ジュリオは無様に地べたに這いずったまま、遠ざかっていく...
「ほら立ちなあんた、折角カトレアお嬢様が治療して下さった...
呆れた声で言いながら肩を貸す老婦に、ジュリオは必死に問...
「さっき、ルイズお嬢様がお帰りになられたと仰っていました...
「何だいあんた、カトレアお嬢様からルイズお嬢様のこと聞い...
そうだよ。ここしばらくの間行方知れずになってたルイズお...
行方知れず、という単語が、ジュリオの焦燥感をさらに掻き...
「ここしばらく、とは、どれぐらいですか」
「そうだねえ、二ヶ月ぐらいかね。あんたがここに現れてから...
(つまり、三ヶ月間も何もせずに眠っていたのか、ぼくは)
ジュリオは内心歯軋りした。意識を失う直前に見た光景が、...
赤い月を背に薄ら笑いを浮かべる男。その手に握られた禍々...
そして、男の両手で眩く光り輝いていた二つのルーン。
ジュリオはちらりと自分の右手に目をやる。
病的なほどに白い手の甲には、何の文様も描かれてはいなか...
「ほら、あんたもさっさと元気になってカトレアお嬢様の悩み...
「休んでいる暇などありません」
自分を寝かしつけようとする老婦の手を振り解いて、ジュリ...
しかし、やはり体に力が入らず、床に倒れ伏してしまう。
(僕はまた、何もできずに)
ジュリオは必死に叫んだ。
「カトレア様」
不甲斐なさと焦燥感に苛まれながら、ジュリオは必死に床を...
「どうか、お逃げください」
少し前まで確かに自分の目の前にあったカトレアの笑顔が、...
「あの男は、悪魔です」
必死に絞り出した叫びは、しかし誰にも届くことなく空しく...
171 名前:魔王[sage] 投稿日:2006/11/09(木) 13:41:24 ID:u...
弱い体に必死の思いで鞭を打ち、カトレアは自分でも驚くほ...
普段は家族の憩いの場として使われる部屋である。カトレア...
父と母と姉がいた。皆、心からの安堵と、何故か多少の困惑...
そして暖炉のそばの椅子には、ここ数ヶ月カトレアが一番会...
「ああ、わたしの小さなルイズ」
カトレアは歓喜に声を震わせながらルイズに駆け寄ろうとし...
妹が、見たこともない表情を浮かべている。
こちらを警戒するような、あるいは恐れるような、露骨な猜...
それは、間違いなくこちらに対する敵意の色だった。
先程から家族が浮かべている戸惑いの表情の意味を悟り、カ...
行方知れずになっている期間に、何かしら彼女を急変させる...
外傷は見当たらないし、多少痩せたように見えるが顔色も悪...
ただ、大貴族の令嬢らしい美貌に浮かぶ警戒の表情と、鳶色...
この少女は本当にルイズなのだろうか。頭に浮かんだ疑念を...
きっと、行方知れずになっている期間に余程辛い目に遭った...
その経験が家族すら疑わせるほどに彼女を追い詰めたのだと...
「この子ったら、何も喋らないのよ」
部屋の真ん中で立ち止まったカトレアに、エレオノールが呆...
「先程から、一体何があったのかと何度も聞いているのだがな」
父もまた、疲労に満ちた声でそう呟く。
カトレアは少し迷いながらも、ルイズの前に立った。
椅子に座ったルイズは、やはり相手の真意を探るような疑い...
以前ならば真っ直ぐに自分の胸に飛び込んできた小さな妹の...
だが、ここで優先すべきは自分の感情ではない。
自分は姉なのだから、傷ついた妹を優しく迎え入れ、頑なに...
カトレアはそう決意し、微笑を浮かべてそっとルイズを抱き...
172 名前:魔王[sage] 投稿日:2006/11/09(木) 13:43:28 ID:u...
「お帰りなさい、わたしの小さなルイズ」
抱きしめた腕の中で、ルイズが体を固くするのが分かる。
まるでこのまま体をへし折られるのではないかと警戒してい...
しかしそれを顔には出さず、カトレアは優しく囁きかける。
「可哀想に、何か辛いことがあったのね。大丈夫、話したくな...
今はゆっくり休みなさい。ここはあなたの家なんですからね」
「ちいねえさま」
ようやく、ルイズが小さく口を開いた。声はか細く弱弱しか...
そのことがとても嬉しく、カトレアは自然と腕の中のルイズ...
「そうですね。確かに、事情を聞くのは後からでも構いません...
今ようやくその事実に気付いたかのように、母が言う。父も...
「そうだな。そのとおりだ。すまんなルイズ。お前がようやく...
エレオノールは何も言わず、ただ苦笑を浮かべてため息を吐...
ルイズは目だけを動かして不安げに家族を見回し、長い悪夢...
しかしそれは本当に一瞬のことで、その顔はすぐに元の警戒...
カトレアは内心ため息を吐いたが、とにかく今は妹を休ませ...
「さ、とりあえず部屋に行きましょう。今夜はゆっくり眠ると...
父が重々しく頷きかけたとき、不意にルイズが口を開いた。
「待って」
追い詰められた人間のような、余裕のない硬い声である。
驚くカトレアの前で、ルイズはゆっくりと立ち上がり、家族...
一体何をするつもりなのかと家族が困惑して顔を見合わせる...
「見てもらいたいものがあるの」
凍りついたように見開かれたその瞳を見たとき、カトレアの...
この子は何か、危険なことをしようとしている。そんな予感...
しかしカトレアが止めるよりも早く、ルイズは杖を取り出し...
愛用していると言っても、彼女がその杖によって魔法を成功...
にも関わらず、ルイズは小さな声で呪文の詠唱を始める。
聞いたことのない呪文だった。少なくとも、四系統に属する...
息を詰めて事の推移を見守る家族の前で、詠唱を終えたらし...
その瞬間、周囲の景色が一変した。
気付くとカトレアは重苦しく厚い雲に覆われた空の下、見知...
状況が把握できずに困惑するカトレアを、憎悪に満ちたいく...
彼らは口々に何かを叫びながら、手を振り上げて一斉に石を...
カトレアは咄嗟に目を瞑って両手で顔を庇ったが、痛みはい...
恐る恐る目を開けると、景色は元に戻っていた。そこは自分...
173 名前:魔王[sage] 投稿日:2006/11/09(木) 13:44:01 ID:u...
「なに、今のは」
エレオノールがこわごわと言う。見ると、父と母も眉根を寄...
どうやら、先程の光景を目にしたのは自分だけではないらし...
(じゃあ、今のは)
カトレアは信じられない思いで、壁際の妹に目を向ける。
ルイズは杖を振り下ろした姿勢のまま、硬い表情でこちらを...
「ルイズ、今のはあなたが」
今ひとつ確信が持てないまま問いかけると、ルイズは小さく...
どうやら、彼女が魔法で幻影を作り出したらしい。カトレア...
しかし、幻影を作り出す魔法など聞いたこともない。
エレオノールの方を見ると、彼女も心当たりがないらしく、...
「本当なの。王立魔法研究所の所員のわたしでも、そんな魔法...
「知らなくて当然よ」
ルイズはゆっくりと杖を下げながら言った。
「さっきの魔法はイリュージョン。虚無系統の魔法だもの」
カトレアは目を見張った。背後から、姉と父母が息を呑む気...
虚無と言えば、現在はもう失われてしまったという伝説の系...
四系統のいずれにも属さず、その全てを超越するという最強...
にわかには信じ難い。
だが、先程の未知の魔法といい聞いたこともない詠唱といい...
(じゃあ、今のは本当に)
カトレアの胸の奥から様々な感情が湧き出してきた。
妹が虚無系統に目覚めたことに対する純粋な驚きもある。
何故ルイズがわざわざあんな恐ろしい幻影を作ったのかとい...
だがそれ以上に、喜びが大きかった。
全身を駆け巡る歓喜に任せるままに、カトレアはルイズに抱...
「おめでとう、ルイズ」
妹の小さな体を抱きしめ、心の底から祝福の言葉を呟く。
陰で馬鹿にされても、何度失敗してもひたすら勉強を重ねて...
その努力がようやく報われたのだと思うと、本人でもないの...
カトレアの素直な祝福に心を動かされたのか、背後で困惑し...
「そうね。なんだかよく分からないことばかりだけど、ルイズ...
「おめでとう、ルイズ。これであなたも一人前の貴族ね」
「そうだな。その上伝説の虚無の系統に目覚めたとはな。お前...
ルイズを賞賛する家族の声を、カトレアは微笑みながら聞い...
174 名前:魔王[sage] 投稿日:2006/11/09(木) 13:45:08 ID:u...
だが、腕の中のルイズが小刻みに肩を震わせているのに気付...
嬉し涙を流しているのかとも思ったが、違う。
顔を伏せているために表情はよく見えないが、ルイズはこみ...
そのために戦慄いている妹の口元を見たとき、またカトレア...
今、目の前で、何かとても悪いことが起きようとしている気...
そんな不吉な予感を振り払うように、カトレアは努めて優し...
「どうしたの、ルイズ。どこか具合でも」
そのとき、不意にルイズが顔を上げた。
眉間に幾筋もの深い縦皺が刻まれた凄まじい形相で、ルイズ...
カトレアは目を見開いて硬直する。何が起きたのかと考え始...
「ふざけるな」
室内の空気が凍りつくのが肌で分かるほどに、ルイズの低い...
いや、敵意などという生易しいものではない。憎悪と憤怒に...
勝気な姉も威厳ある母も、豪胆な父ですら、ルイズの豹変に...
「魔法を使えなかったときはゴミだとか恥だとか言っておいて...
馬鹿にしないで。わたしが何も知らないとでも思ってるの。...
怒りのためか悲しみのためか、ルイズの声は激しく震えてい...
「本当は、全部嘘なんじゃないかって思ってた。でも今のでは...
皆にとってわたしは家の面汚しで、ただ目障りなだけのゴミ...
ルイズはしゃくり上げながら言った。カトレアの胸が締め付...
何故だか分からないが、ルイズはひどい誤解をしているよう...
カトレアは本当のことを知っている。
口では酷いことを言うエレオノールだが、本人のいないとこ...
厳しい態度を崩さない母も、しかし瞳には優しい色を浮かべ...
厳格な父に至っては、一生魔法が使えなかったとしてもそれ...
ルイズのことをゴミだの邪魔だの家の恥などと言っていた者...
誰かがルイズに残酷な嘘を吹き込んだのだ。そして、何故か...
とにかくまずは誤解を解かなければならない。カトレアは立...
「ルイズ、聞いて」
「でもいいの」
カトレアの説得を遮るように、ルイズは一際高い声で叫んだ。
先程までの殺意に満ちた声音ではない。深く揺るぎない安心...
ルイズは焦点の合わない瞳を頭上に向けた。涙の跡が残る頬...
「だってわたしにはサイトがいるんだもの。サイトはわたしを...
サイトはわたしを裏切らない。サイトはわたしを傷つけない...
サイトがいてくれればいいの。サイトだけがいてくれればい...
不意に、ルイズの声が途切れた。焦点の合わない瞳も形だけ...
「だからもう、みんないらない」
寒々しいほどに平坦な声で呟いたあと、ルイズは何気ない動...
カトレアの背筋に再び悪寒が走った。もう手遅れだ、間に合...
それでも最後の望みを捨てきれず、カトレアは必死に叫んだ。
「ルイズ、やめ」
「死んじゃえ」
ルイズが無造作に杖を振り下ろした。
爆風と共に視界が真っ白に染まり、カトレアは軽々と吹き飛...
頭を強かに打ちつけたために、意識が朦朧としてくる。
無理矢理開いた目蓋の向こうに見えたのは、バラバラになっ...
(どうして、こんなことに)
無念と後悔に苛まれながら、カトレアは必死に手を伸ばす。
しかし、カトレアの腕は短すぎて、その指先ですらルイズに...
震える腕から力が抜ける。カトレアの意識は途切れた。
266 名前:魔王[sage] 投稿日:2006/11/12(日) 06:55:05 ID:a...
その二人はヴァリエール邸から少し離れた丘の上で、燃え上...
「うまくいきましたね」
そう呟きながら微笑んだのは、魔法学院で働いているメイド...
傍らには、彼女と同様満足げな微笑を浮かべている才人の姿...
愛しい少年の横顔を盗み見たあと、シエスタは再びヴァリエ...
炎はますます火勢を増し、今や屋敷全体を包まんばかりに燃...
シエスタには、その激しい炎が自分たちの行く手を祝福して...
事の起こりは数ヶ月前。世界が今のように乱れた状態になる...
アルビオンとの戦争がようやく終結し、才人も無事に帰って...
シエスタは、ある相談を才人から持ちかけられたのだった。
「もう耐えられない」
人気のない場所にシエスタを呼び出した才人は、疲れ切った...
彼の話すところでは、魔法学院に戻ってきて以来ルイズの態...
長い間主人のことを放っていたお仕置きだなどと称して、無...
才人が行方不明だった時期のルイズの憔悴ぶりを知っていた...
すぐに直談判しようと提案したシエスタを、才人は引き留め...
そんなことをしてシエスタまでルイズに嬲られるようになっ...
ただ、あまりにもルイズの虐待が酷すぎるために誰かに愚痴...
シエスタは仕方なく才人を慰め、そうこうしている内に二人...
そんな風にルイズに隠れて逢瀬を重ねている内に、才人が思...
「ルイズを殺そう」
と。その顔は溜まりに溜まった怒りに満ちており、シエスタ...
才人はシエスタにも協力を求めた。
シエスタは最初こそ拒んだものの、
「何もかも忘れて二人だけで暮らそう」
「そうするためにはどうしてもルイズを殺さなければならない」
という才人の再三に渡る説得と甘い囁きに心を揺り動かされ...
267 名前:魔王[sage] 投稿日:2006/11/12(日) 06:56:01 ID:a...
その後は才人の指示通り至って冷静に行動したつもりである。
他人には絶対に見つからないであろう石造りの部屋を探し当...
そうしている間、シエスタ胸の中は薄暗い喜びに満たされて...
シエスタ自身、ルイズに対してはあまりいい感情を抱いてい...
高慢なところが気に入らないのは当然として、才人に対する...
何よりも許せなかったのは、そんな風に才人を嬲っておきな...
そんなルイズが自分の存在意義を疑って悶え苦しんでいるの...
騙されているとも知らずに才人に縋りついていたときには、...
根の暗い喜び方だったが、ルイズが今までしてきたことを思...
そんな訳で、シエスタは何の躊躇もなくルイズの苦しみや滑...
ただ一つ不満だったのは、才人がシエスタだけでなくルイズ...
「今はルイズを信用させる必要があるんだ。安心しろよ、あい...
あんな痩せっぽち、抱いたって気持ちよくもなんともねえし...
なに、今だけだよ。その内にルイズを殺したら、シエスタ以...
という才人の言葉に、一応は納得することにした。
実際、才人はその言葉どおりに着々と計画を進めていった。
彼の目的は、今まで自分が受けてきた痛みを全てルイズに与...
ルイズに嘘の情報を教え込んで才人だけが味方であると思い...
そうした後に真実を全て明かして身も心も地獄の底に叩き落...
計画は嘘のようにうまく進み、今まさに最終段階を迎えつつ...
あとは才人の言いつけ通りに家族を殺害して嬉々として帰っ...
全てを失ったルイズが浮かべる絶望的な表情を想像して、シ...
「シエスタ」
不意にそう囁きながら、傍らの才人がシエスタの体を抱き寄...
自分の肩に回された才人の腕の力強さにうっとりしながら、...
「なんですか、サイトさん」
「あれ、見ろよ」
才人が指差した先に目をやると、屋敷の正門からルイズらし...
遠くてよく見えないが、何やら大きな袋らしきものを引きず...
「さあ、いよいよ幕引きだ。あの馬鹿女に本当のことを全部教...
「はい、サイトさん」
「それにしても、シエスタがいてくれて助かったよ。シエスタ...
シエスタの頭を撫でながら、才人は優しい口調で囁く。シエ...
「こんなの、どうってことないです。わたし、サイトさんのた...
「そうか、何だってするのか」
「はい、もちろんです」
「じゃあ、死んでくれ」
「え」
才人が笑顔で言い放った言葉をシエスタが聞き返すよりも早...
突如として自分の体を貫いた鋭い衝撃に、シエスタは目を見...
どうして、という言葉の代わりに、喉の奥から大量の血が溢...
才人は剣を捻って念入りにシエスタの体を抉り、先程と全く...
「悪いな、シエスタ。お前のことはそんなに嫌いじゃなかった...
そう言いながら、不意に汚らわしい物を見るように顔をしか...
「臭いんだよ、お前。都会育ちの俺にはとても耐えられねえぐ...
愛しい人の冷たい声を闇の向こうに聞きながら、シエスタは...
268 名前:魔王[sage] 投稿日:2006/11/12(日) 06:57:00 ID:a...
「さて、と。後は本当に最後の仕上げを残すのみだな。ったく...
目を見開いたまま横たわるシエスタの死体を顧みることもな...
「相棒よ」
不意に、硬い声がした。才人は笑顔で応じる。
「何だデルフ。ああ、そういやお前を使うのも久しぶりだっけ...
「俺に騒がれちゃ困るからだろう」
シエスタの血に汚れた刀身から、怒りを抑えているような低...
常人ならば威圧感で動けなくなるようなその声に、しかし才...
「そりゃそうだ。何だかんだで口うるせえもんな、お前」
デルフリンガーは少し黙り込んだあと、絞り出すような声で...
「何を考えてる」
「そうだな、ルイズがここに来るまでまだちょっとかかるだろ...
才人はデルフリンガーを地に突き立て、近くにあった石に腰...
「事の発端は先生だ。正確にはあのコッパゲのコルベール先生...
始祖ブリミルとその使い魔についてあれこれと書かれた本さ...
先生の話だと図書館の隠し部屋に厳重に封印されてたんだと...
で、その本の中には驚くべき秘密がたくさん書いてあった訳...
その中には異世界に関わる魔法もいくつかあった。たとえば...
異世界の物を自由自在に召喚できる魔法とかだ。嘘臭いほど...
で、先生は興奮しながらそれを俺に見せてきた。虚無の魔法...
だが俺にとって重要だったのはそこじゃねえ。いや、地球に...
今となっちゃもうどうでもいいんだ。虚無の使い魔に関する...
「その秘密ってのは、何だね」
才人は意識して唇を吊り上げながら、右手で前髪を上げてみ...
才人自身の目には見えないが、右手の甲と額にそれぞれルー...
神の右手ヴィンダールヴのルーンと、神の頭脳ミョズニトニ...
以前は別の人間のものだったルーンである。
「主人である虚無の担い手が死ねば、その使い魔のルーンは消...
なるほど、始祖ブリミルって奴も考えたもんだ。こういう仕...
んな。
虚無系統の魔法自体は遺物に依存するものだから、担い手に...
ああ、この辺は説明する必要もねえか。どうせお前は知って...
デルフリンガーは何も答えなかった。その沈黙を肯定と受け...
「俺は震えたね。ガンダールヴは武器を使えるだけだから、単...
だが、そういう意味じゃヴィンダールヴとミョズニトニルン...
ヴィンダールヴはドラゴンみたいな強力な魔獣でも思い通り...
ミョズニトニルンだってアルヴィーやらガーゴイルやら揃え...
何より、あのゾンビを作る指輪みたいな面白いマジック・ア...
この三つのルーンを一人で操れば、マジで天下取るのも夢じ...
そう思ったら、元の世界のことなんかどうでも良くなったん...
男として生まれたら、一度はそういうデカい夢を見たくなる...
「さっぱり理解できんね」
269 名前:魔王[sage] 投稿日:2006/11/12(日) 06:57:45 ID:a...
「つれねえ奴だな。まあいいや、後は知っての通りだ。俺は早...
まずは虚無の担い手の情報を集めて、そいつらがそれぞれロ...
最初に狙ったのはロマリアの教皇だ。ヴィンダールヴ、ジュ...
教皇庁なんて言っても、中身はドロドロしたもんだ。教皇と...
で、お次はガリアだ。こっちに関してもヴィンダールヴのル...
魔獣集めて騒ぎを起こさせて、兵やらミョズニトニルンやら...
虚無の担い手が残ってると後々面倒なことになるだろうから...
そこまで言って、才人は不意に顔をしかめた。
「誤算だったのはジュリオやミョズニトニルンを逃がしちまっ...
まあルーンを失ったあの連中に何かが出来るとも思えねえし...
で、計画はいよいよ最終段階だ。閉じ込めておいたルイズに...
マジック・アイテムが使えりゃ、あの偽者の家族の会話を用...
風魔法で声を記録できるなら、同じ原理で声を作ることだっ...
最も、慣れない作業だったからちっとばかり手間取っちまっ...
「その辺が一番解せねえところだ」
デルフリンガーがいかにも不可解そうな口調で呟いた。
「何であの嬢ちゃんはあんなにアッサリお前さんの嘘を信じち...
風魔法で声を作れるってことぐらい、勉強家のお嬢ちゃんな...
「暗いところに一人で閉じ込められてて判断力が鈍ったっての...
才人は含み笑いを漏らした。
「結局のところ、あいつ自身も確信が持てずにいたのさ。
魔法を使えない家族が、本当に自分のことを愛してくれてい...
だから、よく考えてみればすぐに見破れる嘘に騙されちまっ...
後は簡単だ。独りぼっちになったと思い込んでる寂しい女の...
だが、それだけじゃまだ不十分だ。あの時点じゃ、ルイズ自...
本当に自分が家族に捨てられたのかどうかってな。だから俺...
『奴等の前で虚無の魔法を見せてやれ。もしも連中が喜んだ...
今までゴミだと思ってた娘に、とんでもない利用価値が出来...
家の誇りだとか一人前の貴族だとか言い出したら、こりゃも...
で、結果があれだ」
才人は愉快そうに笑いながら、燃え盛るヴァリエール邸を指...
「そりゃ喜ぶだろ、今まで魔法使えなかった娘が魔法使えるよ...
だがルイズはそう考えずに、結局自分の価値は魔法が使える...
こうして、誰にも愛されなかった孤独な少女は、憎い家族に...
そう締めくくった後、才人は堪えきれずに笑い出した。燃え...
ひとしきり笑ったあと、才人は不意に口を噤み、デルフリン...
「さて、話は一旦中断させてもらうぜ。そろそろルイズが来る...
丘を登る道の向こうに現れた小さな人影を見つめながら、才...
195 名前:魔王[sage] 投稿日:2006/11/25(土) 02:36:12 ID:0...
赤く染まった重い袋を引き摺りながら丘を登りきったルイズ...
二人の人間がいる。一人は地に倒れ伏してぴくりとも動かな...
もう一人はそのそばに膝を突いてうなだれている黒髪の少年...
この、ヴァリエール邸のすぐそばにある小高い丘は、ルイズ...
だから才人がいるのは当然として、何故魔法学院のメイドで...
その上、シエスタは倒れたまま身じろぎもしないし、胸の辺...
どうやらもう既に事切れているらしい。
混乱しながらも、ルイズはこちらに気付いていない才人に恐...
「サイト」
才人がゆっくりとこちらに顔を向ける。ひどくぼんやりした...
「ああ、ルイズ。無事だったか」
才人の顔に疲れたような微笑が浮かぶ。
才人が何よりもまず自分の心配をしてくれていることに喜び...
「これは、なに」
言葉に迷った末にそう問うと、才人は苦悩するように眉根を...
「シエスタも、連中とグルだったんだ」
予想もしない言葉に、ルイズは目を見開いた。才人は今にも...
「ここでルイズを待ってたら、急にシエスタがやってきたんだ」
どうしてこんなところに、と驚く才人に、シエスタは自分が...
殺す機会を窺っていたところ、才人がルイズを隠してしまっ...
そこまで説明した後、シエスタは才人にもルイズ殺しを持ち...
邪魔なルイズを殺して二人でどこか遠いところで暮らそう、...
才人は拒んだがシエスタはなおも才人に詰め寄り、
最後には「これでルイズを殺す」と短剣を見せてきたので、...
そう語り終えたあと、才人は深く重いため息を吐いて黙り込...
突然の事態に頭が混乱して、うまく考えることができない。
(だけど、サイトがわたしに嘘を吐くはずがないわ)
自分に向かって一言そう言い聞かせた途端、ルイズの頭の中...
(そうよ、サイトはわたしに嘘なんか吐かない。シエスタは本...
一つだけ、大きな不安が残っている。ルイズはまだ黙り込ん...
「後悔してるの」
「どうして」
才人は驚いたように顔を上げた。ルイズはちらりとシエスタ...
「才人、シエスタのこと好きだったんでしょう」
「馬鹿言うな」
才人は怒鳴りながら立ち上がった。たじろぐルイズをきつく...
「何度も言わせるなよ。俺が愛してるのはルイズだけだ」
愛してる、という言葉を聞いた瞬間、ルイズの背筋が歓喜に...
体の力が抜けそうになるほどの圧倒的な幸福感にうっとりと...
「ねえサイト、本当にわたしのこと愛してる」
「ああ、もちろんだ。愛してるよ、ルイズ」
「サイトはわたしのこと裏切らないよね。ずっとそばにいてく...
胸の中の不安を完全に消し去りたい一心でそう問いかけると...
「ああ。お前を愛してる。お前だけを愛してるぞ、ルイズ。お...
シエスタはお前を殺そうとしたんだ、そんな女が死んだって...
むしろ今殺せてよかったと思ってる。これでこの女がルイズ...
お前だけを愛してる、という言葉を、ルイズは頭の中で何度...
一度、二度と繰り返すたびに胸を覆っていた不安が少しずつ...
196 名前:魔王[sage] 投稿日:2006/11/25(土) 02:36:58 ID:0...
「そう。そうよね」
笑いながら呟き、ルイズは才人から体を離す。
シエスタの死体のそばにしゃがみ込むと、確かに才人の言う...
(馬鹿な女)
ルイズは含み笑いを浮かべた。
(才人が愛してるのはわたしだけなのよ。そんなことも知らな...
本当に、可哀想になってくるぐらい馬鹿な女)
堪えきれずに嘲笑を漏らしながら、ルイズは無造作にシエス...
虚ろに見開かれた瞳は何も映さず、半開きになった口からは...
もうこの瞳が媚びた視線を才人に送ることはないし、この唇...
そんなことを考えていると、ルイズの胸にふつふつと怒りが...
(そうだったわね。あんた、薄汚い農民の豚娘のくせに散々わ...
ルイズは再びしゃがみこむと、シエスタの手から短剣を取り...
そのまま力一杯振り下ろし、シエスタの顔と言わず手と言わ...
(死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね死ね死ね死ね死...
水の精霊でも蘇らせられないぐらいに完全に完璧に完膚なき...
特に豊かな乳房を念入りに潰した。何度も短剣を振り下ろし...
でしまい、その段階になってようやくルイズは満足感を覚えた。
(いい気味だわ。豚のくせに身の程知らずなこと考えるからこ...
ルイズは立ち上がって自分の仕事を見下ろしたが、そうやっ...
才人に媚びた視線を送った瞳が気に入らない。豚の癖に整っ...
胸と同じように才人を誘惑した足も気に入らないし、べたべ...
「全部潰そう」
呟き、ルイズは再び仕事に没頭し始めた。
目玉を抉り顔を潰し足を切り裂き手を刻む。
そうして原型を留めないぐらいにシエスタの死体を潰し終わ...
先程よりももっと深い満足感に吐息を吐きながら、ルイズは...
「サイト、見て」
はしゃいで才人を呼ぶ。「どうした」と歩み寄ってきた才人...
「また派手にやったなあ」
「どうサイト、これ見てもまだシエスタが綺麗だとか思う」
期待して問いかけると、才人は大げさに肩を竦めてみせた。
「まさか。こんなの野良犬の餌にもならねえよ」
「そうよね、そうよね」
才人の腕に絡み付いて、ルイズは頬を綻ばせる。
これでもう才人はシエスタの色香に惑わされることもないの...
「そうだ」
と、才人が急に思いついたように言って、崩れきったシエス...
「再利用するか、これ」
「再利用って」
「アンドバリの指輪あったろ。あれで操ったらどうだ。身の回...
まるでアンドバリの指輪を持っているかのような才人の口ぶ...
「いらない。汚いもん」
「そうかあ」
才人は少し残念そうに呟く。ルイズは内心焦った。
シエスタを復活させたら、この哀れで汚らしい姿をダシにし...
(そしたら優しい才人はまたシエスタの方を見ちゃう)
そんなことになったら自分はまた一人ぼっちになってしまう...
焦って才人から体を離し、「いらないったら」と叫びながら...
肉が削がれてかなり軽くなったシエスタの死体は、ごろごろ...
197 名前:魔王[sage] 投稿日:2006/11/25(土) 02:37:57 ID:0...
転がり落ちていくシエスタの死体を見ながら満足げに頷いて...
「うまくやったもんだな」
背中から、嫌悪感を隠そうともしない声が聞こえてくる。才...
「そういやずいぶん静かだったなデルフ。てっきりルイズに事...
「馬鹿言うな、ここで事情をばらそうもんなら、あの子は本当...
ここで嬢ちゃんが壊れちまったって、お前さんはこの愚行を...
陰鬱な声で訊くデルフリンガーに、才人は「もちろんだ」と...
「虚無の魔法ってのは確かに魅力的だが、俺の計画にはどうし...
「なら黙っておくさ。どの道、単なる剣に過ぎねえ俺の手じゃ...
「下手な冗談だな。手なんかねえくせに」
「うるせえや。んで、こっからどうするんだね」
デルフリンガーは皮肉げな口調で訊いてきた。
「虚無系統の担い手が一人に、三つの能力を手に入れた使い魔...
「そいつはどうかな」
まるでシエスタが這い登ってこないか恐れるように丘の下を...
「一応、いろいろと手は打ってある。他の虚無の担い手殺して...
「知りたかねえがね」
「そう言うなよ。まず、さっき言ってた再利用って奴だがな、...
言って、才人は懐から指輪を一つ取り出した。
「アンドバリの指輪は俺の手の中にある。ぶっ殺したガリア王...
それにこの指輪には人の心を操る機能もついてる。今ゲルマ...
俺の命令ですぐに矛を収めてトリステインを目指すようにな...
ヴィンダールヴの力で魔獣も一個軍団作れるぐらいにゃ操れ...
で、いざ戦争となったら戦場突っ切ってとっととお姫様とっ...
「随分とまあ周到なこって」
吐き捨てるように言ったあと、デルフリンガーは問いかけて...
「で、その後はどうすんだね」
「ハルケギニアの国を全部潰したら、統一国家を作って俺が王...
その後はまあゾンビども操って適当に国治めさせて、反乱が...
才人は人差し指を立てた。
「メイジはルイズ以外全員殺す」
その宣言に、デルフリンガーは一拍間を置いて返してきた。
「お前さんに勝てる可能性があるからかい」
「ま、そんなことだな。そして俺はハルケギニアの魔王になる...
爽快な気分だねえデルフ。ニ、三年もすりゃ、どいつもこい...
俺の名前が歴史の教科書に載って、千年二千年先の人間にま...
想像しただけでも震えるってもんだ、なあ」
「そのためにはお前さんの友人も殺すって訳かい」
「尊い犠牲って奴さ」
才人がさらりと返すと、デルフリンガーは長い長いため息を...
「力に溺れたな、相棒」
「なに、見てろよ。立派に泳ぎきってみせるさ」
「最後に、一つだけいいか」
「なんだ」
「反吐が出るぜ」
「いい褒め言葉だな」
嫌悪感を隠そうともしないデルフリンガーに笑って答えたあ...
激しい炎に包まれている屋敷の一角から、見覚えのある竜が...
「しくじりやがったな、ルイズの奴。まあいいか」
才人がため息を吐くのと同時に、ルイズが赤く染まった大き...
198 名前:魔王[sage] 投稿日:2006/11/25(土) 02:38:56 ID:0...
「ねえサイト、見て見て」
ルイズは嬉しそうに笑いながら、袋の中身を地面にぶちまけ...
中から転がり落ちてきたのは、手、足、頭など、人間の体の...
才人はそれらをじっと眺め、カトレアのものと思しきパーツ...
「これが父様で、これが母様。エレオノール姉さまったら、こ...
元は家族のものだった肉塊を楽しそうに弄繰り回しているル...
「ルイズ、一つ訊いてもいいか」
「なあに、サイト」
「この中には、お前の大好きなちいねえさまはいないみたいだ...
そう指摘された瞬間、ルイズの体が大きく震えた。
やっぱりな、と内心で呆れながら、才人はしゃがみ込んでル...
ルイズは処刑前の死刑囚のように顔を青ざめさせてガタガタ...
そんなルイズの顔を無言で見つめたあと、才人はにっこりと...
「逃がしたのか」
「違うの」
悲鳴のような声を上げて、ルイズは必死で弁解する。
「ちいねえさまもちゃんと殺そうとしたの。でも止めを刺す前...
つまり、その一瞬で何者かがカトレアを助け出したというこ...
(ジュリオ、か。いなくなったと思ったらこんなところに潜ん...
先程竜が飛び去った方向を見やりながら、才人は立ち上がっ...
(病弱なお嬢様とルーンを失った使い魔なんかに何ができる。...
そのとき、才人はふとルイズが自分を見つめていることに気...
恐怖に見開いた瞳一杯に涙を溜めているその顔は、縋りつこ...
才人が無言で見つめ返すと、ルイズは一瞬小さな悲鳴を上げ...
恐慌を起こしたような勢いで必死にしがみついてきた。
「ごめんなさい、今度はうまくやるから、今度はちゃんと殺す...
才人は内心で高笑いを上げた。
(こいつは、もう俺の言うことならなんだって聞くな)
そのことに対する確信を一層強めながら、才人は笑顔でルイ...
「何言ってんだ、どうして俺がルイズを捨てたりするんだよ」
「本当」
「もちろんさ」
恐る恐るこちらを見上げてくるルイズに、才人は冗談めかし...
「でもお前、本当に殺しちまっていいのか。好きなんだろ、ち...
「そのことなんだけど、あのね」
プレゼントをねだる小娘のようにもじもじしながら、ルイズ...
「ちいねえさまだけは生かしておいて、わたしの奴隷にしたい...
「お前の好きなようにすりゃいいよ」
「本当」
ぱっと顔を輝かせるルイズに何となく興味を惹かれて、才人...
「うんとね、うんとね」
ルイズは興奮したように頬を上気させながら数秒考え、一息...
「まずはね、逃げられないように手足を切り落としてあげてね...
それでちいねえさまが痛いよ痛いよって泣いてるのを慰めて...
餌を食べさせてあげておしっことかうんちとかの世話もして...
何度もそうしてあげたら、ちいねえさまもきっとわたしのこ...
嬉しそうに話すルイズに、才人はいちいち頷き返してやった。
「そうだな、きっとお前なしじゃ生きられなくなると思うぜ」
「本当。楽しみだなあ」
実際にそうしているところを想像したのだろうか。
ルイズはその内夢見るようにうっとりとした表情を浮かべて...
締まりのない笑みを浮かべながら陰部を弄くり出した。
自慰に没頭するルイズを眺めながら、才人は満足げに大きく...
(これで、準備は全部整った)
燃え盛る炎の音と走り回る人々の悲鳴が、耳の中で祝砲のよ...
199 名前:魔王[sage] 投稿日:2006/11/25(土) 02:40:38 ID:0...
目が覚めて痛む体を自覚したとき、カトレアは先程までの記...
「まだ休んでいてください」
傍らに立っているジュリオが、優しく声をかけてくる。
目だけで周囲を見回すと、そこが鬱蒼とした森の中であるこ...
「ああジュリオ、教えてちょうだい、わたしの家族は、ルイズ...
カトレアの問いに、ジュリオは悔しげに唇を噛んで目をそら...
「申し訳ありません、わたしがあの部屋に辿りついたときには...
カトレア様を救い出すのが精一杯で、他の皆様のことはなに...
「ああごめんなさいジュリオ。あなたを責めているのではない...
それにわたしには分かります。父様や母様や姉様は、きっと...
厳しくも優しかった父、厳格だが慈愛に満ちていた母、勝気...
それぞれの笑顔が頭に浮かんでは消えていく。カトレアは一...
「ジュリオ、話してちょうだい」
「何をでしょうか」
「あなたの知ること、全てを」
そう訊かれることがある程度予想できていたのだろう。
ジュリオは何も言わずに数秒目を瞑ったあと、自分が知る限...
自分の主であるロマリア王を殺した男のこと、その男の圧倒...
そして恐らくルイズがその男に心酔しているのであろうこと...
全てを聞き終えたカトレアは、そこでようやく涙を拭い、宣...
「ジュリオ、わたしはルイズを取り戻します」
「無理なことを仰いますね。あなたのようなか弱いお方が、あ...
「それでも、取り戻します。何年、何十年かかろうとも、必ず」
カトレアは力の入らぬ体に無理矢理活を入れて立ち上がった。
そうするだけでも息が苦しくなる。空を見上げると、金色の...
「見ていなさい平賀才人。地獄に落ちるのはお前一人で十分。...
震える足を必死に立たせ、カトレアは全身の力をかき集めて...
怒りに満ちた瞳で空を睨むカトレアの姿に、ジュリオは胸の...
(あなたの言うとおりだ、カトレア様。確かに、こんな状態の...
ジュリオは自分が過ちを犯そうとしていることを自覚しなが...
「あなたの決意、しかと聞き届けました。このジュリオ・チェ...
この日、世界は燃え盛る炎の中から四人の英雄を産み落とし...
「魔王」平賀才人。
「破滅<ゼロ>」のルイズ。
「悲嘆」のカトレア。
「忘我」のジュリオ。
彼らがこの先辿ることになる数奇な運命を知る者は誰一人と...
200 名前:魔王[sage] 投稿日:2006/11/25(土) 02:41:54 ID:0...
「とまあこんな感じかねえ。いやあずいぶん長いこと話してた...
なに、短ぇ上にまだ序章みたいな感じじゃないか、だと。
馬鹿野郎、元々これ以上は話す気なんかねえっつーの。
この先はドロドロのグチャグチャだ。胸糞悪すぎて思い出す...
まあ大まかに説明しとくとだな。あの後はほとんど相棒の思...
一ヶ月後にはトリステイン女王のアンリエッタっつー嬢ちゃ...
晴れて魔王ヒラガサイトが統一帝国の王位についたのさ。
で、相棒は俺に宣言したとおりのことをやったよ。反乱鎮圧...
その方法があんまりにも残酷だったもんで、五年もする頃に...
ところが、この頃になってうまく逃げ延びてたカトレア嬢ち...
同じく逃げ延びてた旧トリステイン銃士隊の隊長さんと一緒...
まあこの辺りは血湧き肉踊る合戦がなくもなかったんで、暇...
どうだい、聞いててあんまり愉快な話じゃあなかっただろう...
なに、それなら話す方もあまり愉快じゃないだろうに、何故...
いいところに気がついた。実はな、他人に意見を聞いてみた...
何かって、まあ馬鹿馬鹿しいと思うかもしれんが、笑わない...
俺は相棒に『メイジはルイズ以外全員殺す』って言われたと...
『ひょっとしたら、この男は本当にルイズ・ド・ラ・ヴァリ...
彼女を蔑ろにしたメイジって存在を心底憎んでるんじゃな...
イカレた行動に踏み切ったんじゃないか』ってな。
いやそんなはずはねえんだ。だから相棒にも直接尋ねたこと...
でもなあ、こんなところで埃を被ってると、ついつい『やっ...
なにせ、あんなことになる前の相棒は本当にいい奴だったし...
そんなこと考えてるところにお前さんたちが来たんだ。これ...
で、どうだね、兄ちゃん、姉ちゃん。あんたたちの思うとお...
ほう。
ふんふん。
そうかそうか。
なるほど、あんたたちの考えはよく分かったよ。
いやいいんだ弁解しなくても。俺も本当はそう思ってたんだ...
今日は本当にありがとうよ。また気が向いたら続きも話して...
本当かって。さあ、分からんね。何しろ俺は見ての通りオン...
無責任? 知らねえよ馬鹿野郎。
まあいいや。そんじゃ、またその内会いに来てくれや。
ああちょっと待て。最後に、もう一つだけ聞いておきたいこ...
どうやら相棒の念願は叶って、メイジのいない、魔法が存在...
その世界は、魔法があった頃の世界よりも楽しいかい?」
男は答えた。
201 名前:205[sage] 投稿日:2006/11/25(土) 02:49:06 ID:0n...
以上、終了です。グダグダだぜチクショウ!
なんか続きがありそうな雰囲気ですが俺の脳内にしかないです。
続きを書くつもりは今のところありませんのでこれはこれで完...
ちなみに全体量80KB.これでもまだ「少女の〜」の半分もい...
個人的にはあっちよりも余程長く書いてた気がするんですが、...
やっぱ苦手なジャンルは書いちゃいかんっつーことですかね。...
具体的にはシエスタ殺すシーンとかシエスタ潰すシーンとかシ...
……いやシエスタは好きですよ? ふたなりのシエスタがルイズ...
とまあグダグダなまま終了。正直な感想を頂けると個人的にと...
終了行:
359 名前:魔王[sage] 投稿日:2006/10/23(月) 00:06:00 ID:d...
「おお、誰だいお前さんたち。こんな辺鄙なところまでやって...
なに、お前は誰だって。俺のこと知らねえのかい。となると...
ふんふん。なるほどやっぱり知らねえ年号だ。こりゃ洒落に...
で、何の用だいこんなところに。言っとくが、ここには価値...
ところでさっきから後ろの嬢ちゃんはずいぶん驚いた顔して...
となると、あんたら魔法を知らないのかね。お、笑ったな。...
っつーことは、相棒の目論見は成功したってことなんだろう...
ああそうそう。俺のことが聞きたいんだったな。俺の名前は...
おやおや、また笑ったなお前さんたち。魔王なんて神話でし...
なるほど、あの時代のことはもう神話にまでなっちまってる...
よし、そんじゃ遠路はるばる来てくださったお二人のために...
ところでお二人さんよ、サイトとルイズって名前に聞き覚え...
なに、ないだって。そうかね、多分俺が知る限りじゃ世界的...
お、思い出したって顔だね嬢ちゃん。神話や伝説でなら聞い...
ほうほう、聖騎士アニエスとその恋人ジュリオに倒された魔...
悪い悪い、別に馬鹿にした訳じゃねえんだよ。単に、俺が知...
おっと、顔が輝いてきたね兄さん。歴史学者なのかい。そり...
何せ今から俺が教えようとしてるのは、あんたらが神話だと...
おいおいそう焦るもんじゃないよ。慌てなくてもちゃんと一...
さて、それでは聞かせてやるとしようかね。魔王ヒラガサイ...
事の起こりは、とある戦争が終結して数ヶ月経った頃のこと。
ロマリアの教皇とガリアとゲルマニアの王様が何者かに暗殺...
360 名前:魔王[sage] 投稿日:2006/10/23(月) 00:07:16 ID:d...
不意に意識を取り戻したルイズは、自分がどこか暗くて冷た...
頭の上に上げられた両手は壁から伸びた手枷で固定され、足...
まるで大罪人である。大貴族の娘として育てられてきたルイ...
そのとき、不意に暗闇の中に光が差した。その眩しさに目を...
石造りの狭苦しい部屋だった。蝋燭などの小さな照明すらな...
何もない部屋だ。ただ、自分の自由を奪っている手枷と足枷...
光が差し込んだのは、誰かが入り口の扉を開けたかららしか...
逆光で顔がよく見えないその人物は、まるでこの部屋に光が...
「誰」
自分の置かれた状況がよく把握できない混乱と、突然の侵入...
貴族としての誇りと彼女自身の気性が、自分をこんなところ...
暗闇の中で、人影が驚いたように肩を震わせたのが見えたよ...
「起きたのか」
聞きなれた声だった。驚くルイズの前で、小さな明かりが灯...
手に小さな燭台を持ったその人物は、間違いなくルイズの使...
助けにくれたのか、と喜びの声を上げそうになって、ルイズ...
救出に来たにしては、先程の言葉は妙だった。まるで、彼自...
「これはどういうことよ」
燭台を手にこちらに近寄ってくる才人に、ルイズは怒りの声...
すると才人は慌てて唇に指を押し当てた。静かにしろ、と言...
「大きな声を出すな。外に聞こえたらまずいだろ」
「じゃあやっぱりあんたなのね、わたしをこんな風にしたのは...
「いや、それあんま許されてる気がしないんだけど。まあ落ち...
「こんな状態で落ち着ける訳がないでしょう」
怒鳴りつけてやるが、才人は困った様子で頬を掻くだけであ...
とは言え、自分を拘束したのが未知の相手でなくて幾分かほ...
才人はなんだかんだで今まで自分を助けてきてくれた少年だ。
今回のこともかなり異様ではあるが、何か事情があるのだろ...
「分かった、落ち着くわ。とりあえず状況を説明しなさい」
再び怒鳴りつけたくなる衝動を抑えながら、ルイズは簡潔に...
才人は疲れた様子でため息を吐くと、床に燭台を置いて自身...
「説明ったってな。何から説明したらいいもんだか」
呟きながら、じっとこちらを見つめてくる。ルイズは今の己...
(こんな状況で、この馬鹿犬)
いやらしい目で見るんじゃないと叫びそうになったルイズは...
こちらを見つめる才人の瞳には、好色な色など全く含まれて...
むしろ、まるで哀れむような、あるいは気遣うような気配が...
「なによ、その目。どうしたの、一体何があったのよ」
「いや、あのな」
才人は何か言おうと口を開きかけたが、何かを言う前に口を...
「ちょっと」
「ごめんルイズ、とてもじゃねえけど俺には教えられねえよ。...
こちらに背をむけたまま、才人は苦しげな口調でそう言う。
残酷なこと、とは一体なんなのか。才人の重い口調もあって...
「とにかく、ここでじっとしててくれ。大丈夫、俺に任せてお...
そう言ってドアノブに手をかけた才人に、ルイズは叫んだ。
361 名前:魔王[sage] 投稿日:2006/10/23(月) 00:08:14 ID:d...
「待ちなさい」
強い声音に、才人の手が止まった。
「言ってみなさいよ、その残酷なことっていうのを」
「でも」
「舐めないでよね。どんなことを聞かされたって、わたしはな...
才人はしばらく黙っていたが、やがてため息をつきながら振...
「相変わらずだなお前も。分かった、全部話すよ。ちょっと待...
それだけ言って出て行った才人は、言葉どおりすぐに戻って...
「ルイズ、本当にいいんだな」
慎重な口調で、才人が問いかけてくる。
「これから俺が言うことは、お前を凄く傷つけると思う。知ら...
普段の才人らしからぬ深刻な雰囲気に、ルイズは一瞬躊躇し...
「大丈夫だって言ってるでしょう。いいから、さっさと話しな...
才人は一つ頷くと、包みを解いて中身を床に転がした。それ...
人の頭だった。生首である。目を見開いた見知らぬ男の生首...
予想していなかったものが唐突に眼前に現れた衝撃で、ルイ...
「なに、これ」
それでも何とかそう言うと、才人は淡々とした口調で答えた。
「暗殺者だ」
「暗殺者って、一体」
「お前を狙ってたんだよ」
「わたしを、何のために」
理由として思い当たることはいくつかある。自分が公爵家の...
しかし、公爵家の娘と言っても自分は所詮三女で、政治に深...
身代金目的の誘拐というならともかく、暗殺しても大してメ...
虚無の魔法の使い手というのだって、ほとんど公にはされて...
才人もその辺は理解していると見えて、一つ頷いてみせた。
「そうだな。俺もその辺りはよく分からなかった。だけど、こ...
お前を殺そうとしたのは本当だ。かなり強かったから、殺す...
正当防衛とは言え人殺しをしてしまったことを悔やむような...
「分かったわ。でも、それでどうしてわたしをこんな風にする...
「それを説明する前に、よく見てくれ」
そう言いつつ、才人は男の生首を持ち上げてルイズの眼前に...
思わず顔を背けかけたルイズだったが、よく見てくれという...
蝋燭の灯りに照らされた男は、特徴的な顔をしていた。頬に...
その傷を見たとき、ルイズは自分がこの男の顔を知っている...
「この男、確か屋敷で」
「やっぱり、か。どこかで見たような気はしてたんだけど」
ルイズの呟きを聞き、才人は辛そうに眉根を寄せた。
その仕草に、ルイズの不安がさらに膨れ上がった。
「なに、一体どういうこと」
「こいつがな、死ぬ間際に言ってたんだよ」
才人はそれから数秒ほど迷うような様子を見せた後、思い切...
「ヴァリエール公爵に依頼されて、お前を殺しに来たってな」
ルイズは目を見開いた。ヴァリエール公爵と言えば、自分の...
つまり、父親が自分を暗殺するようにとこの男に命じたとい...
「嘘よ」
ルイズはほとんど悲鳴のような声で叫んでいた。才人は否定...
「ああ、俺もきっと何かの間違いだと思う。こいつが出鱈目言...
「サイト、今すぐわたしをここから出しなさい」
ルイズは体の内から湧き上がる衝動に任せるままにそう叫ん...
362 名前:魔王[sage] 投稿日:2006/10/23(月) 00:09:17 ID:d...
「そう言うと思ったからお前をそんな風にしとかなきゃならな...
「どうして」
「親父さんがってのは嘘だと思うけど、お前を殺そうとしてる...
そんな奴等がうろついてる中でお前を歩き回らせる訳にはい...
「でも」
「大丈夫だ、俺に任せとけ。絶対、本当のこと調べてやるよ。...
才人は真っ直ぐにルイズの瞳を見つめてそう言った。
まだいくつか納得できないことはあるものの、才人の言うこ...
そう言うからには、この場所が絶対に見つからないという自...
ならば、数日ぐらい才人の調査結果を待つのが一番にも思え...
異常な事態に自分が冷静な判断力を失っているのではないか...
「分かったわ。出来るだけ早く調べなさいよ」
「ああ、もちろんだ」
「あと、これは解いていきなさい。大丈夫よ、出て行きゃしな...
ルイズがそう命ずると、才人は素直に手枷と足枷を外した。
ようやく自由になった手足を回してほぐしていると、何故か...
「なにやってんの」
「いや、勝手にこんなことしちまったから、さぞかし怒ってる...
要するにお仕置きを待っていたらしい。こんな状況でもあま...
「そうね、でも」
呟きながら、ルイズは才人の胸にしがみついた。
「ルイズ」
驚く才人の胸に顔を埋め、ルイズは鼻をすすり上げる。
「それ以上に不安だわ。一体何がどうなってるの」
自分でも意外なほど素直に言葉が出た。
才人は無言でそんなルイズを抱きしめ、落ち着かせるような...
(気持ちいい)
胸の奥から湧き出した安堵感が不安を取り除き、ルイズの体...
(ずっとこうしていたい)
しかし、才人はやがて体を離した。思わず縋りつこうとする...
「ごめんなルイズ。出来ればお前の傍にいてやりたいけど、そ...
早くお前をこんなところから出してやりたいから、さ」
謝るような口調で言う才人に、ルイズは何とか頷いた。
「分かってるわ。わたしのことは気にしないで、早く本当のこ...
「ああ。後で毛布とか持ってくるよ。本当にごめんな。もうち...
才人が生首を持って出て行った後で、ルイズは無言で膝を抱...
「お父様が、なんて、嘘よね」
確認するように口に出して呟くが、何故か確信が湧いてこな...
この石造りの部屋同様、自分を取り巻く世界全てが冷たいも...
363 名前:魔王[sage] 投稿日:2006/10/23(月) 00:10:24 ID:d...
その後すぐに生活用品一式を持ってきた後、才人はしばらく...
まさか暗殺者に殺されてしまったのでは、などという不安が...
ずっと暗闇の中で生活していると、時間の経過が分からなく...
才人のことを心配する気持ちや、まさか本当に父親が自分を...
そうして正気を保ち続けるのが難しくなってくるほどにルイ...
何日ぶりになるか分からない外界の光が部屋に差し込んだ瞬...
「サイト」
だが、彼女が浮かべた笑顔は、現れた才人の姿を見て凍りつ...
外界の光に浮かび上がる才人の体には、無数の傷が刻まれて...
一目見るだけで、厳しい拷問を受けたあと分かる醜い傷跡だ。
だと言うのに、才人はルイズを見つけて傷だらけの顔に微笑...
「ようルイズ。帰って来たぜ」
扉を閉めて床に崩れ落ちた才人に、ルイズは悲鳴を上げなが...
「サイト、どうしたの、一体誰がこんなことを」
抱え起こし膝に頭を乗せてやると、才人は薄目を開いてぼん...
「お前、痩せたなあ。そりゃ干し肉なんかまずいだろうけど、...
弱弱しい掠れ声で呟きながら、才人は傷だらけの手でルイズ...
(この馬鹿、こんなになってまでわたしの心配なんかして)
大粒の涙が流れると同時に、胸の奥からどうしようもないほ...
ルイズは涙を拭おうともせずに才人の手を握り締め、すっか...
「泣くなよ、ルイズ。遅くなっちまってごめんな」
「いいのよ。こんなひどい怪我して帰ってきて。また、無理し...
「そうだな、ちょっと、無理しちまったかもしれねえな」
「傷の手当て、しなくちゃ」
ルイズは才人の体をその場に寝かせ、彼がルイズのために運...
あまり綺麗な水とは言えなかったが、この際仕方がない。自...
そうして傷口を洗い、布団代わりに使っていた布を裂いて作...
364 名前:魔王[sage] 投稿日:2006/10/23(月) 00:11:08 ID:d...
しばらくして起き上がった彼は、まず傷の手当てに関してル...
「あの後、他にも何人か暗殺者が来てさ。何とか全員倒したん...
「でしょうね。暗殺者ってそういうものだわ」
「でも、やっぱりどこかで見たような顔した奴等ばっかりだっ...
つまり、自分の屋敷で見かけたということだろうか。ルイズ...
「学園じゃルイズがいなくなったって噂が広まり始めてて、俺...
思い切って、お前の屋敷まで行ってみることにしたんだ」
「そんな無茶をしたの」
「それ以外に確かめる方法なんて思いつかなくてさ。場所は一...
才人は不意に言葉を切った。苦悶するように眉根を寄せ、顔...
余程気分の悪いものを見てきたらしい仕草だった。
「いいわ、サイト。話してちょうだい」
「だけどな、ルイズ」
「あんたのその怪我を見れば、ひどいことがあったのはいちい...
大丈夫、覚悟は出来てる。どんな辛い現実も受け止めてみせ...
口を真一文字に引き結んだルイズの顔を見て、それでも才人...
だが、やがて諦めたように息を吐き出すと、腰にくくりつけ...
それは、小さな青い宝玉だった。
「これは」
「風の魔法が封じ込められてるらしくてさ。音を記録しておけ...
俺は夜中に屋敷に侵入して、お前の家族が談笑してる部屋を...
正直、お前には聞かせたくないんだけど」
「構わないわ。いいから、聞かせてちょうだい」
その小さな宝玉の中に封じられているであろう残酷な事実を...
才人はきつく目を閉じると、辛そうな声で何かを呟いた。同...
「聞いたかお前たち、ルイズのことを」
鼻歌でも歌い出しそうなほどに上機嫌な父の声。
「ええ。行方不明だそうですわね」
取り澄ました、しかし喜色を隠しきれていない母の声。
「よく言うわ、行方不明だなんて。今頃は」
嘲るようなエレオノールの声。
「あら姉さま、ルイズは間違いなく行方不明よ。だって、あの...
いつもどおりの優しい声音の裏に、聞いたこともないほど冷...
聞き間違えるはずもない。間違いなく、自分の家族の声だっ...
いや、間違いないという言い方は正しくないかもしれない。
少なくとも、家族がこんな口調で話すのを、ルイズは今まで...
「やれやれ。ようやく死んでくれたか、あれも」
「本当にどうしようもない子でしたわね。あんなのが自分の娘...
「魔法も使えないで、ゼロのルイズだなんて呼ばれてたんです...
「あらあら、それはいい恥さらしだわ。そんなのが貴族だなん...
「全くだ。あんなものを外に出しておいたら我が家の名は地に...
「どうせあの子のことなど誰も気にしないでしょうし、大した...
「そうね。魔法学院でも『うまくいかない憂さ晴らしに、遊び...
もう捜索は打ち切ったって話よ。一応、葬儀ぐらいはした方...
「あら、お金と時間の無駄よそんなの。それより、『ルイズは...
「なるほど、それは名案だ」
「そうすれば葬儀なんてする必要もなくなりますね」
「さすがカトレアだわ」
「ふふ、それほどでも」
「さて、それではようやく死んでくれた我が家の恥、一族で一...
楽しげな賛同と共に、グラスが打ち合わされる音が響き渡る。
365 名前:魔王[sage] 投稿日:2006/10/23(月) 00:14:08 ID:d...
それまでただ無言で肩を震わせていた才人が、不意に宝玉を...
宝玉はすぐに光を失い、同時に流れていた音もぴたりと止ま...
「すまねえ。これ以上は、とても聞かせられねえ。聞いてほし...
絞り出すような声で吐き出す才人に、ルイズはゆっくりと首...
「もういい」
「そうか。俺はこれを記録した後、逃げる途中で見つかって、...
でも、どうしてもお前に伝えなくちゃいけねえと思って、何...
「そうなんだ」
「ああ」
それきり、二人は黙り込んでしまう。
ルイズは何も考えていなかった。いや、何も考えたくなかっ...
ただ、あまりにも過酷な事実に、身も心も打ちのめされて、...
そんな彼女の体を、不意に誰かが抱きしめた。
呆然としたままそちらに目を向けると、瞳に涙を溜めて辛そ...
「どうして泣いてるの」
才人は数度ほど唇を戦慄かせたが、結局は何も言わなかった...
ルイズは無理矢理唇をひん曲げて微笑を作り、明るい声を出...
「何よ、あんたがそんな顔することないじゃない。言ったでし...
自分がどうしようもない役立たずで家の恥晒しだってことぐ...
自身の言葉が無数の刃のように体の芯に突き刺さるのを感じ...
「いいのよ、別に。辛いことなんか何もないわ。わたしは昔か...
わたしの家族も昔から何も変わってない。ただ、皆の本心が...
「ルイズ」
不意に、才人が後ろから抱きしめてきた。彼の体の温かさに...
「俺、何て言ってお前を元気付けてやればいいのか分からない...
「いいってば。わたしは落ち込んでなんか」
「俺だけは、どんなことがあってもお前を愛してるからさ」
不意に涙がこみ上げてきて、ルイズの視界が滲んだ。自分を...
「他の皆が敵になっちまっても、俺だけはお前の味方でいるか...
大粒の涙が次々と瞳から零れ落ち、頬を熱く濡らしていく。
ルイズは激しくしゃくり上げながら、途切れ途切れの声で背...
「ほんとう」
「ああ、本当だ」
「本当に、わたしのこと愛してくれるの」
「絶対だ」
「裏切らない」
「裏切らないよ」
「わたしのこと、守ってくれる」
「死ぬまで守り抜いてみせる。なんて、俺なんかじゃ頼りない...
「サイト」
名を呼びながら、ルイズは振り返って才人の胸に縋りついた。
才人も、絶対に離さないとでも言うかのように、強い力でル...
家族から見捨てられ、生きる意義を失ったかに見えたルイズ...
(サイトだけはわたしを見捨てない。サイトだけがわたしの希...
胸の中で何度もそう繰り返しながら、ルイズはいつまでも泣...
366 名前:魔王[sage] 投稿日:2006/10/23(月) 00:15:00 ID:d...
それからしばらくの間、ルイズは才人の言いつけに従って石...
敵はルイズが死んだと思っているのだ。外にいるところを誰...
「もう少し経って準備が出来たら、この部屋を抜け出して一緒...
「サイト、帰る方法を探すの」
「違うよ。もう帰らない。だけど、俺たちが静かに暮らしてい...
魔法が使えなくても誰もお前を馬鹿にしない、誰もお前を裏...
「素敵」
「そうだろ。だからもうちょっと我慢してくれな」
才人はそう言ってルイズを励ました。
ルイズ自身は才人と一緒ならばどこにでも行ける気持ちだっ...
また、皮肉にもこんな状況になってようやくお互いに気持ち...
ほとんど毎日のようにこの暗い石造りの部屋の中で互いの体...
(才人はわたしを愛してくれる。才人だけがわたしを愛してく...
才人に抱かれるたびに、ルイズの胸に溢れる想いは強くなっ...
才人もまだ不慣れな手つきで一生懸命にルイズの体を愛撫し...
「ルイズ、愛してるぜ。俺だけはお前の味方でいてやるからな」
体を重ねるたびに、才人は何度もルイズの耳元でそう囁いた。
そうして月日は瞬く間に過ぎ去った。才人の話では、彼が帰...
その間に彼は準備を済ませ、いよいよ明日東方へ旅立とうと...
「なあ、ルイズ」
不意に才人が話しかけてきたのは、いつものように彼と交わ...
互いに体を寄せ合って座っているため、才人の顔はすぐそば...
「なあに、サイト」
甘えるようにそう答えたルイズは、才人の横顔に浮かぶ表情...
ひょっとして何か彼の気に入らないことをしてしまったのだ...
「ごめんなさい」
泣きながらそう言うと、才人は驚いたようにこちらに振り向...
「どうした、急に」
「わたし、何か悪いことしたんでしょう。謝るから、悪いとこ...
縋りつくルイズに優しい微笑を向けて、才人は彼女の体を抱...
「ルイズに悪いところなんかないさ。俺がルイズを嫌いになる...
「本当」
「本当だって」
そう言いつつ、才人はルイズの顔や首筋に何度も唇を寄せる。
自分は愛されているのだという実感が湧いてきて、ルイズの...
367 名前:魔王[sage] 投稿日:2006/10/23(月) 00:17:59 ID:d...
「俺が言いたかったのはそういうんじゃなくてな。俺たちは、...
だけど、本当にそれでいいのかって思ったんだ」
どういう意味だろう、とルイズが首を傾げると、才人は真剣...
「なあルイズ、お前、悔しくないか」
才人が何を言いたいのか、ルイズにはすぐに分かった。才人...
「魔法が使えないなんて下らない理由でお前を捨てた家族が、...
「それは、少しはそう思うけど」
今のルイズにとって、そんなことは些細なことだった。
才人と一緒にいられるなら、家族に捨てられたことなどどう...
「俺は憎い」
一言、短い声でそう言った才人の顔を、ルイズは驚いて見上...
彼の顔は抑えきれない激情で歪み、触れるだけで切れそうな...
「サイト、怒ってるの」
「当たり前だろ」
才人が急に怒鳴ったので、ルイズはびくりと身を縮ませた。...
「ごめんなさい」
「あ、悪い。お前に怒ってる訳じゃないんだ」
才人は慌てたようにそう弁解しながら、ルイズの体を強く抱...
「俺はなルイズ。俺の大好きなルイズをゴミみたいに扱った奴...
そんな悪い奴等は罰を受けるべきだろう」
「罰」
「そう。だけど神様って奴はそんな奴等に罰を与えてくれない。
それどころか、ルイズみたいにたくさん傷つけられた人たち...
そんなのおかしいだろ。割に合わないだろ。間違ってるだろ」
「うん」
「だからなルイズ、俺たちで罰を与えやろうぜ。あんなに頑張...
お前にはその権利があるんだ。復讐する権利がな」
「復讐」
思わず呟いたその言葉が、ルイズの体の方々に散らばってい...
怒りは炎なって燃え盛り、憎しみは氷の刃として研ぎ澄まさ...
今までに感じたこともないような激情が、ルイズの心の中で...
そんなルイズの内心を感じ取ったように、才人は彼女の耳元...
「ルイズ、教えてくれ。お前は、お前にひどいことをした奴等...
「殺したい」
「ただ殺すだけでいいのか」
「ううん。足元に這いつくばらせて出来るだけ苦しませて、わ...
そうしてから体をバラバラにして殺してやりたい」
迸る激情に任せるままに、ルイズは一瞬の躊躇いもなくそう...
言ってしまってから、不意に怖くなる。こんなことを言う自...
しかし、恐る恐る見上げた才人の顔は、この上もなく優しい...
「そうか、そんな風にしてやりたいのか」
声音もまた包み込むような優しさを保っている。ルイズは安...
「じゃあ、そうしてやろうぜ」
そう言われて、ルイズの心にわずかな躊躇が生まれる。
まだ心のどこかで「何かの間違いなんじゃないか」とかすか...
ルイズの葛藤を見抜いたように、才人は彼女の頭を撫でなが...
「分かった。それじゃあ、奴等に弁解するチャンスを与えてや...
「弁解」
「そう。いいかルイズ、これから俺が言うことをよく聞くんだ。
そうすれば、奴等がどうしようもないクズどもかどうかって...
ルイズに指示を出したあと、才人は一層強い力でルイズの体...
「よし、それじゃあ行こうかルイズ。お前を認めなかった世界...
「うまくできるかしら」
不安に思ってそう言うと、才人はルイズを安心させるように...
「大丈夫だよ。いざってときは俺が助けてやる。俺はお前の望...
お前以上に優先するべきことなんか俺にとっては一つも存在...
俺は、お前のためだったら、悪魔にでも魔王にでもなってみ...
才人はルイズを抱きかかえて、石造りの部屋の扉を開けた。
差し込む光が、自分の体を何か別の強い物に作り変えていく...
それは、とても心地よい感覚だった。
575 名前:魔王[sage] 投稿日:2006/10/28(土) 23:04:55 ID:E...
魔法学院に通っている妹が行方不明になったという報が届い...
カトレアは自室の椅子に座ったまま、物憂げなため息を吐き...
体が弱く、屋敷の外に出ることをほとんど許されていない自...
それでも、まだ妹が見つかっていないことだけははっきりし...
(わたしの小さなルイズ)
妹の姿を脳裏に思い浮かべ、カトレアは両手を強く握り合わ...
先日の戦争の前この家に帰って来たとき、もう少し話を聞い...
ひょっとしたら、妹は女王からの極秘任務を託され、その途...
(あの子は、とても頑張り屋さんだから)
幼い頃から魔法が使えずに馬鹿にされ、必死になって勉強し...
彼女が他人に認められたいと願っていることは、カトレア自...
だから、無理をしてしまったのかもしれない。出来ないこと...
(どうしてわたしは、「魔法なんか使えなくてもいいんだよ」...
何度か、そう言ってあげようかと考えたことはあった。
しかし、歯を食いしばって魔法の勉強に励むルイズの姿に、...
カトレアはため息を吐いて立ち上がった。部屋にいても何も...
部屋を出て、ある場所へ向かう。そこは、前にルイズが帰っ...
木の扉を開けて、中に入る。以前よりも片付けられたその部...
いや、滞在しているという言い方は正しくないかもしれない...
そっと部屋に入り、ベッドに歩み寄る。少年は今日も変わら...
美しい顔立ちの、金髪の少年である。まるで天才的な腕を持...
この少年は、妹が失踪するより一ヶ月ほども前に、この屋敷...
現れた、と言っても、そのとき少年は既に意識を失っていた。
その日の夜半、何となく眠れずにいたカトレアは、窓の向こ...
胸騒ぎを覚えて窓を開くと、その影は静かにゆっくりと近づ...
立派な体躯を持つ、風竜だった。その竜が、今カトレアの目...
竜は少年をカトレアに託すと、何処かへと飛び去ってしまっ...
少年はひどい傷を負っていた。カトレアがすぐに水魔法で治...
身元も分からない少年を屋敷に置いておくことなど、きっと...
迷った末に信頼できる使用人を呼びつけ、相談した結果彼を...
この物置なら滅多に人が近寄らない区画にあるから、きっと...
実際、そもそもが広すぎる屋敷であるので、この少年のこと...
576 名前:魔王[sage] 投稿日:2006/10/28(土) 23:06:09 ID:E...
「まだ目を覚まさないのね」
一人、呟く。答える者はいない。カトレアはため息を吐いて...
頭に浮かぶのは、やはり妹のことである。最近では、何をし...
ルイズのことといいこの少年のことといい、胸をざわつかせ...
おかしなことはカトレアの周りだけに留まらない。
ここ数ヶ月というもの、ハルケギニアを取り巻く状況は、カ...
事の起こりはロマリアの教皇が暗殺されたことである。若い...
枢機卿たちは今でも後継者を決めかねて内乱じみた争いを繰...
それから一ヶ月も経たない内に、今度はガリアとゲルマニア...
そうなると当然起きるのは後継者争いである。
ガリアでは謀殺と暗殺が流行し、ゲルマニアでは既に有力な...
トリステインでも女王周辺の警護が物々しくなってきており...
父もまた様々な雑事に忙殺されて疲れ果てており、そこに娘...
エレオノールも妹の失踪や王都の危険な状況のためにこの屋...
(なのに、わたしは何もできないでいる。大切な家族が、皆大...
自分の無力が悔しく、不完全な体が心底憎らしい。
気付くと、瞳から涙が零れていた。これほど弱気な気分にな...
(駄目ね。せめて、元気な顔をしていないと)
そう思って涙を拭ったとき、不意に知らない誰かの声が響い...
「どうしてそんな風に涙を零されるのですか」
はっとして目を開くと、目の前の少年が薄い微笑を浮かべて...
(月目だわ)
左右で色が違う少年の瞳を見て少し驚きながらも、カトレア...
「気がついたのね。良かった、数ヶ月もずっと眠っていたのよ...
「それでは、あなたが助けて下さったのですか。これは感激だ...
起きるなりこれである。カトレアは口元に手を当てて小さく...
「あらあら、お上手なのね」
「いえ、ぼくなどが万の言葉を尽くしたところで、あなたの美...
申し遅れました、ぼくはジュリオ・チェザーレと申します。...
カトレアはにっこり笑って手を差し出す。ジュリオは慣れた...
「以後お見知りおきを、お嬢様」
「わたしはカトレアよ。よろしくね、ジュリオ」
577 名前:魔王[sage] 投稿日:2006/10/28(土) 23:07:05 ID:E...
「ところで、一体どのような難事があなたのお心を悩ませてい...
気障な笑顔を浮かべて甘い声で囁きかけるジュリオに、カト...
「ありがとう。でも、助けが必要なのはわたしではなくてあな...
「ぼくでしたら大丈夫、あなたの献身的な看護で体はすっかり」
「体ではなく、心よ」
ジュリオはわずかに目を見張る。予想もしていなかったこと...
カトレアは彼の両手をそっと握り締め、声をひそめて囁きか...
「悲しいことがあったのね。自分の生きる意義を見失ってしま...
ジュリオが鋭く息を呑んだ。一瞬その端正な顔から表情が消...
先程までの、余裕と自信に溢れた気障な笑みではなかった。
それは、自分の弱さを必死で隠そうとしている人間特有の、...
「神は実に気まぐれだ。あなたのような美しいお人に、優しさ...
天はニ物を与えずなどという戯言を世に広めたのは一体誰な...
カトレアは何も言わずにただじっとジュリオを見つめる。
ジュリオはそれでもなお何か軽口を叩こうとするかのように...
やがて彼の顔から微笑が消えた。自らの内面を見つめるよう...
「主を、失ったのです」
か細い呟きと共に、ジュリオの瞳から涙が溢れ出した。
「あの方のためなら、この命を投げ出してもいいとすら思って...
互いに色の違う両目から同じ色の涙が零れ落ち、硬く握り締...
「ぼくはなにもできなかった。あの方が目の前で殺されたとい...
カトレアは小さくしゃくり上げているジュリオをそっと胸元...
声を殺して泣き続ける少年を抱きしめ、カトレアはただ黙っ...
578 名前:魔王[sage] 投稿日:2006/10/28(土) 23:08:03 ID:E...
「申し訳ありません、お恥ずかしいところをお見せしてしまっ...
しばらくして元の調子を取り戻したジュリオは、まだ赤い目...
カトレアはゆっくりと首を振ってジュリオに笑いかける。
「恥ずかしくなんかないわ。悲しいときにちゃんと泣いておか...
「そう、ですね」
ジュリオは目を閉じ、疲労に満ちた重い息を吐き出した。
落ち着いてはいるが決して悲しみが消えた訳ではない彼の横...
「これから、どうするの」
「まだ分かりません」
ジュリオは迷うようにそう言ったが、ゆっくりと開かれた瞳...
「ですが、出来るならば仇を討ちたいと思っています」
「大切な人の」
「はい。それが、今の僕に出来る唯一のことでしょうから」
「そう」
カトレアは目を伏せて、ただ一言だけそう言った。
部屋を覆う沈黙の中、ジュリオは探るような視線でカトレア...
「意外ですね。てっきり、ぼくの行為を無意味だと言ってお止...
「止めてほしいの」
ジュリオは首を横に振る。カトレアは目を細めて言った。
「あなたの苦しみや悲しみは、あなただけのもの。他人が完全...
あなたが苦しみ、悩み抜いてその道を選んだのなら、わたし...
もちろん、わたし個人としては危ないことはしないでほしい...
ジュリオは少し苦しげに目を閉じた。
「ぼくも、頭では分かっているのです。そんなことをしてもあ...
ですが、どれだけ心に言い聞かせようとも、この胸の中で暴...
布団の上で握り締められた拳が細かく震えていた。ジュリオ...
「申し訳ありません、カトレア様。やはり僕は、この愚かな決...
カトレアは微笑み、ジュリオの拳を自分の両手でそっと包み...
「いいのよ。自分の気持ちは大事にするべきだわ。だけど、ま...
元気になるまではここでゆっくり休んで、その間にいろいろ...
ひょっとしたらその気持ちが治まってくれるかもしれないし...
ジュリオは少し目を伏せてカトレアの言葉を聞いていた。だ...
579 名前:魔王[sage] 投稿日:2006/10/28(土) 23:09:04 ID:E...
「不思議だな」
カトレアが首を傾げると、ジュリオは少し眩しそうに目を細...
「あなたと話していると、何故か自分の本心をさらけ出してし...
本心を隠すために嘘を吐くことも、弱さを悟られないために...
自分がこんな風になるだなんて、ぼくは今まで想像したこと...
あなたには何か、人智を超えた不思議な力があるようですね...
色の違う左右の瞳に、半ば崇拝めいている憧憬の情が浮かん...
「それはきっと、わたしの力ではないわ。疲れ果て、弱りきっ...
少し休んで元気になれば、こんなつまらない女のことなんて...
「そんなことはありません」
ジュリオは強い口調で断言しながら、カトレアの手を取って...
真摯な光を宿している色違いの双眸に真っ直ぐ見つめられ、...
「あなたは素晴らしい女性です。見かけの美しさは元より」
そこまで言って、ジュリオは不意に眉をひそめた。
何かおかしなものを見たような、あるいは何かを思い出そう...
最初はてっきり彼が口説き文句に詰まったのかと思って内心...
「あなたは」
不意に、ジュリオが目を見張った。信じられないものを見て...
「まさか。いや、そうか。だが、何故最初に気付かなかったん...
ということは、まだ間に合うのか。いや、それはまだ分から...
一人、混乱しているかのように呟き続けるジュリオの顔には...
困惑するカトレアに、ジュリオは深刻な表情を浮かべて問い...
「カトレア様、あなたにはひょっとしてルイズという名の妹君...
驚いたカトレアの表情を見て、自分の想像が正しかったこと...
「やはり。それで、最近、彼女に何か変わったことは」
と、ジュリオが焦った声音で言いかけたとき、不意に入り口...
「ああ、カトレアお嬢様、やはりこちらにおいででございまし...
そう言ったのは、ジュリオをこの物置に隠すようにと勧めた...
老婦は髪と服を乱し、全力で走ってきたように息を荒げてい...
「どうしたの、そんなに慌てて。何かあったの」
「それが、大変なんでございます、カトレアお嬢様」
「大変なのはお前を見れば分かるわ。落ち着いて話してちょう...
カトレアの穏やかな声音に、老婦はほんの少しだけ落ち着い...
しかし、その顔はまだ興奮に赤らんでおり、余程驚くべき事...
老婦は数度ほども深呼吸したあと、腕を震わせながら廊下の...
「つい先程、ルイズお嬢様がお帰りになられたそうで」
「まあ、本当なの」
カトレアは驚き、思わず老婦の肩をつかんでそう問いかけて...
老婦もまた興奮がぶり返してきたようで、声を詰まらせなが...
「本当でございます。ひどく沈んだご様子でいらっしゃいまし...
「今はどこに」
「談話室の方で、旦那様と奥様、それにエレオノールお嬢様と...
「ええ、分かったわ」
そう言って駆け出そうとしたカトレアを、後方からの声が止...
「お待ちください、カトレア様」
叫びながら身を乗り出したジュリオが、ベッドの上から転が...
外傷は既にないものの、ずっと眠っていたせいで体力がほと...
カトレアは一瞬振り返り、ジュリオを見た。ジュリオは何か...
彼のことも気になるが、今は一刻も早くルイズの無事を確認...
「彼をお願い」
カトレアは老婦に一言だけ頼んで、制止の声も聞かずに駆け...
580 名前:魔王[sage] 投稿日:2006/10/28(土) 23:11:51 ID:E...
「カトレア様、お待ちください、お待ちを」
ジュリオは無様に地べたに這いずったまま、遠ざかっていく...
「ほら立ちなあんた、折角カトレアお嬢様が治療して下さった...
呆れた声で言いながら肩を貸す老婦に、ジュリオは必死に問...
「さっき、ルイズお嬢様がお帰りになられたと仰っていました...
「何だいあんた、カトレアお嬢様からルイズお嬢様のこと聞い...
そうだよ。ここしばらくの間行方知れずになってたルイズお...
行方知れず、という単語が、ジュリオの焦燥感をさらに掻き...
「ここしばらく、とは、どれぐらいですか」
「そうだねえ、二ヶ月ぐらいかね。あんたがここに現れてから...
(つまり、三ヶ月間も何もせずに眠っていたのか、ぼくは)
ジュリオは内心歯軋りした。意識を失う直前に見た光景が、...
赤い月を背に薄ら笑いを浮かべる男。その手に握られた禍々...
そして、男の両手で眩く光り輝いていた二つのルーン。
ジュリオはちらりと自分の右手に目をやる。
病的なほどに白い手の甲には、何の文様も描かれてはいなか...
「ほら、あんたもさっさと元気になってカトレアお嬢様の悩み...
「休んでいる暇などありません」
自分を寝かしつけようとする老婦の手を振り解いて、ジュリ...
しかし、やはり体に力が入らず、床に倒れ伏してしまう。
(僕はまた、何もできずに)
ジュリオは必死に叫んだ。
「カトレア様」
不甲斐なさと焦燥感に苛まれながら、ジュリオは必死に床を...
「どうか、お逃げください」
少し前まで確かに自分の目の前にあったカトレアの笑顔が、...
「あの男は、悪魔です」
必死に絞り出した叫びは、しかし誰にも届くことなく空しく...
171 名前:魔王[sage] 投稿日:2006/11/09(木) 13:41:24 ID:u...
弱い体に必死の思いで鞭を打ち、カトレアは自分でも驚くほ...
普段は家族の憩いの場として使われる部屋である。カトレア...
父と母と姉がいた。皆、心からの安堵と、何故か多少の困惑...
そして暖炉のそばの椅子には、ここ数ヶ月カトレアが一番会...
「ああ、わたしの小さなルイズ」
カトレアは歓喜に声を震わせながらルイズに駆け寄ろうとし...
妹が、見たこともない表情を浮かべている。
こちらを警戒するような、あるいは恐れるような、露骨な猜...
それは、間違いなくこちらに対する敵意の色だった。
先程から家族が浮かべている戸惑いの表情の意味を悟り、カ...
行方知れずになっている期間に、何かしら彼女を急変させる...
外傷は見当たらないし、多少痩せたように見えるが顔色も悪...
ただ、大貴族の令嬢らしい美貌に浮かぶ警戒の表情と、鳶色...
この少女は本当にルイズなのだろうか。頭に浮かんだ疑念を...
きっと、行方知れずになっている期間に余程辛い目に遭った...
その経験が家族すら疑わせるほどに彼女を追い詰めたのだと...
「この子ったら、何も喋らないのよ」
部屋の真ん中で立ち止まったカトレアに、エレオノールが呆...
「先程から、一体何があったのかと何度も聞いているのだがな」
父もまた、疲労に満ちた声でそう呟く。
カトレアは少し迷いながらも、ルイズの前に立った。
椅子に座ったルイズは、やはり相手の真意を探るような疑い...
以前ならば真っ直ぐに自分の胸に飛び込んできた小さな妹の...
だが、ここで優先すべきは自分の感情ではない。
自分は姉なのだから、傷ついた妹を優しく迎え入れ、頑なに...
カトレアはそう決意し、微笑を浮かべてそっとルイズを抱き...
172 名前:魔王[sage] 投稿日:2006/11/09(木) 13:43:28 ID:u...
「お帰りなさい、わたしの小さなルイズ」
抱きしめた腕の中で、ルイズが体を固くするのが分かる。
まるでこのまま体をへし折られるのではないかと警戒してい...
しかしそれを顔には出さず、カトレアは優しく囁きかける。
「可哀想に、何か辛いことがあったのね。大丈夫、話したくな...
今はゆっくり休みなさい。ここはあなたの家なんですからね」
「ちいねえさま」
ようやく、ルイズが小さく口を開いた。声はか細く弱弱しか...
そのことがとても嬉しく、カトレアは自然と腕の中のルイズ...
「そうですね。確かに、事情を聞くのは後からでも構いません...
今ようやくその事実に気付いたかのように、母が言う。父も...
「そうだな。そのとおりだ。すまんなルイズ。お前がようやく...
エレオノールは何も言わず、ただ苦笑を浮かべてため息を吐...
ルイズは目だけを動かして不安げに家族を見回し、長い悪夢...
しかしそれは本当に一瞬のことで、その顔はすぐに元の警戒...
カトレアは内心ため息を吐いたが、とにかく今は妹を休ませ...
「さ、とりあえず部屋に行きましょう。今夜はゆっくり眠ると...
父が重々しく頷きかけたとき、不意にルイズが口を開いた。
「待って」
追い詰められた人間のような、余裕のない硬い声である。
驚くカトレアの前で、ルイズはゆっくりと立ち上がり、家族...
一体何をするつもりなのかと家族が困惑して顔を見合わせる...
「見てもらいたいものがあるの」
凍りついたように見開かれたその瞳を見たとき、カトレアの...
この子は何か、危険なことをしようとしている。そんな予感...
しかしカトレアが止めるよりも早く、ルイズは杖を取り出し...
愛用していると言っても、彼女がその杖によって魔法を成功...
にも関わらず、ルイズは小さな声で呪文の詠唱を始める。
聞いたことのない呪文だった。少なくとも、四系統に属する...
息を詰めて事の推移を見守る家族の前で、詠唱を終えたらし...
その瞬間、周囲の景色が一変した。
気付くとカトレアは重苦しく厚い雲に覆われた空の下、見知...
状況が把握できずに困惑するカトレアを、憎悪に満ちたいく...
彼らは口々に何かを叫びながら、手を振り上げて一斉に石を...
カトレアは咄嗟に目を瞑って両手で顔を庇ったが、痛みはい...
恐る恐る目を開けると、景色は元に戻っていた。そこは自分...
173 名前:魔王[sage] 投稿日:2006/11/09(木) 13:44:01 ID:u...
「なに、今のは」
エレオノールがこわごわと言う。見ると、父と母も眉根を寄...
どうやら、先程の光景を目にしたのは自分だけではないらし...
(じゃあ、今のは)
カトレアは信じられない思いで、壁際の妹に目を向ける。
ルイズは杖を振り下ろした姿勢のまま、硬い表情でこちらを...
「ルイズ、今のはあなたが」
今ひとつ確信が持てないまま問いかけると、ルイズは小さく...
どうやら、彼女が魔法で幻影を作り出したらしい。カトレア...
しかし、幻影を作り出す魔法など聞いたこともない。
エレオノールの方を見ると、彼女も心当たりがないらしく、...
「本当なの。王立魔法研究所の所員のわたしでも、そんな魔法...
「知らなくて当然よ」
ルイズはゆっくりと杖を下げながら言った。
「さっきの魔法はイリュージョン。虚無系統の魔法だもの」
カトレアは目を見張った。背後から、姉と父母が息を呑む気...
虚無と言えば、現在はもう失われてしまったという伝説の系...
四系統のいずれにも属さず、その全てを超越するという最強...
にわかには信じ難い。
だが、先程の未知の魔法といい聞いたこともない詠唱といい...
(じゃあ、今のは本当に)
カトレアの胸の奥から様々な感情が湧き出してきた。
妹が虚無系統に目覚めたことに対する純粋な驚きもある。
何故ルイズがわざわざあんな恐ろしい幻影を作ったのかとい...
だがそれ以上に、喜びが大きかった。
全身を駆け巡る歓喜に任せるままに、カトレアはルイズに抱...
「おめでとう、ルイズ」
妹の小さな体を抱きしめ、心の底から祝福の言葉を呟く。
陰で馬鹿にされても、何度失敗してもひたすら勉強を重ねて...
その努力がようやく報われたのだと思うと、本人でもないの...
カトレアの素直な祝福に心を動かされたのか、背後で困惑し...
「そうね。なんだかよく分からないことばかりだけど、ルイズ...
「おめでとう、ルイズ。これであなたも一人前の貴族ね」
「そうだな。その上伝説の虚無の系統に目覚めたとはな。お前...
ルイズを賞賛する家族の声を、カトレアは微笑みながら聞い...
174 名前:魔王[sage] 投稿日:2006/11/09(木) 13:45:08 ID:u...
だが、腕の中のルイズが小刻みに肩を震わせているのに気付...
嬉し涙を流しているのかとも思ったが、違う。
顔を伏せているために表情はよく見えないが、ルイズはこみ...
そのために戦慄いている妹の口元を見たとき、またカトレア...
今、目の前で、何かとても悪いことが起きようとしている気...
そんな不吉な予感を振り払うように、カトレアは努めて優し...
「どうしたの、ルイズ。どこか具合でも」
そのとき、不意にルイズが顔を上げた。
眉間に幾筋もの深い縦皺が刻まれた凄まじい形相で、ルイズ...
カトレアは目を見開いて硬直する。何が起きたのかと考え始...
「ふざけるな」
室内の空気が凍りつくのが肌で分かるほどに、ルイズの低い...
いや、敵意などという生易しいものではない。憎悪と憤怒に...
勝気な姉も威厳ある母も、豪胆な父ですら、ルイズの豹変に...
「魔法を使えなかったときはゴミだとか恥だとか言っておいて...
馬鹿にしないで。わたしが何も知らないとでも思ってるの。...
怒りのためか悲しみのためか、ルイズの声は激しく震えてい...
「本当は、全部嘘なんじゃないかって思ってた。でも今のでは...
皆にとってわたしは家の面汚しで、ただ目障りなだけのゴミ...
ルイズはしゃくり上げながら言った。カトレアの胸が締め付...
何故だか分からないが、ルイズはひどい誤解をしているよう...
カトレアは本当のことを知っている。
口では酷いことを言うエレオノールだが、本人のいないとこ...
厳しい態度を崩さない母も、しかし瞳には優しい色を浮かべ...
厳格な父に至っては、一生魔法が使えなかったとしてもそれ...
ルイズのことをゴミだの邪魔だの家の恥などと言っていた者...
誰かがルイズに残酷な嘘を吹き込んだのだ。そして、何故か...
とにかくまずは誤解を解かなければならない。カトレアは立...
「ルイズ、聞いて」
「でもいいの」
カトレアの説得を遮るように、ルイズは一際高い声で叫んだ。
先程までの殺意に満ちた声音ではない。深く揺るぎない安心...
ルイズは焦点の合わない瞳を頭上に向けた。涙の跡が残る頬...
「だってわたしにはサイトがいるんだもの。サイトはわたしを...
サイトはわたしを裏切らない。サイトはわたしを傷つけない...
サイトがいてくれればいいの。サイトだけがいてくれればい...
不意に、ルイズの声が途切れた。焦点の合わない瞳も形だけ...
「だからもう、みんないらない」
寒々しいほどに平坦な声で呟いたあと、ルイズは何気ない動...
カトレアの背筋に再び悪寒が走った。もう手遅れだ、間に合...
それでも最後の望みを捨てきれず、カトレアは必死に叫んだ。
「ルイズ、やめ」
「死んじゃえ」
ルイズが無造作に杖を振り下ろした。
爆風と共に視界が真っ白に染まり、カトレアは軽々と吹き飛...
頭を強かに打ちつけたために、意識が朦朧としてくる。
無理矢理開いた目蓋の向こうに見えたのは、バラバラになっ...
(どうして、こんなことに)
無念と後悔に苛まれながら、カトレアは必死に手を伸ばす。
しかし、カトレアの腕は短すぎて、その指先ですらルイズに...
震える腕から力が抜ける。カトレアの意識は途切れた。
266 名前:魔王[sage] 投稿日:2006/11/12(日) 06:55:05 ID:a...
その二人はヴァリエール邸から少し離れた丘の上で、燃え上...
「うまくいきましたね」
そう呟きながら微笑んだのは、魔法学院で働いているメイド...
傍らには、彼女と同様満足げな微笑を浮かべている才人の姿...
愛しい少年の横顔を盗み見たあと、シエスタは再びヴァリエ...
炎はますます火勢を増し、今や屋敷全体を包まんばかりに燃...
シエスタには、その激しい炎が自分たちの行く手を祝福して...
事の起こりは数ヶ月前。世界が今のように乱れた状態になる...
アルビオンとの戦争がようやく終結し、才人も無事に帰って...
シエスタは、ある相談を才人から持ちかけられたのだった。
「もう耐えられない」
人気のない場所にシエスタを呼び出した才人は、疲れ切った...
彼の話すところでは、魔法学院に戻ってきて以来ルイズの態...
長い間主人のことを放っていたお仕置きだなどと称して、無...
才人が行方不明だった時期のルイズの憔悴ぶりを知っていた...
すぐに直談判しようと提案したシエスタを、才人は引き留め...
そんなことをしてシエスタまでルイズに嬲られるようになっ...
ただ、あまりにもルイズの虐待が酷すぎるために誰かに愚痴...
シエスタは仕方なく才人を慰め、そうこうしている内に二人...
そんな風にルイズに隠れて逢瀬を重ねている内に、才人が思...
「ルイズを殺そう」
と。その顔は溜まりに溜まった怒りに満ちており、シエスタ...
才人はシエスタにも協力を求めた。
シエスタは最初こそ拒んだものの、
「何もかも忘れて二人だけで暮らそう」
「そうするためにはどうしてもルイズを殺さなければならない」
という才人の再三に渡る説得と甘い囁きに心を揺り動かされ...
267 名前:魔王[sage] 投稿日:2006/11/12(日) 06:56:01 ID:a...
その後は才人の指示通り至って冷静に行動したつもりである。
他人には絶対に見つからないであろう石造りの部屋を探し当...
そうしている間、シエスタ胸の中は薄暗い喜びに満たされて...
シエスタ自身、ルイズに対してはあまりいい感情を抱いてい...
高慢なところが気に入らないのは当然として、才人に対する...
何よりも許せなかったのは、そんな風に才人を嬲っておきな...
そんなルイズが自分の存在意義を疑って悶え苦しんでいるの...
騙されているとも知らずに才人に縋りついていたときには、...
根の暗い喜び方だったが、ルイズが今までしてきたことを思...
そんな訳で、シエスタは何の躊躇もなくルイズの苦しみや滑...
ただ一つ不満だったのは、才人がシエスタだけでなくルイズ...
「今はルイズを信用させる必要があるんだ。安心しろよ、あい...
あんな痩せっぽち、抱いたって気持ちよくもなんともねえし...
なに、今だけだよ。その内にルイズを殺したら、シエスタ以...
という才人の言葉に、一応は納得することにした。
実際、才人はその言葉どおりに着々と計画を進めていった。
彼の目的は、今まで自分が受けてきた痛みを全てルイズに与...
ルイズに嘘の情報を教え込んで才人だけが味方であると思い...
そうした後に真実を全て明かして身も心も地獄の底に叩き落...
計画は嘘のようにうまく進み、今まさに最終段階を迎えつつ...
あとは才人の言いつけ通りに家族を殺害して嬉々として帰っ...
全てを失ったルイズが浮かべる絶望的な表情を想像して、シ...
「シエスタ」
不意にそう囁きながら、傍らの才人がシエスタの体を抱き寄...
自分の肩に回された才人の腕の力強さにうっとりしながら、...
「なんですか、サイトさん」
「あれ、見ろよ」
才人が指差した先に目をやると、屋敷の正門からルイズらし...
遠くてよく見えないが、何やら大きな袋らしきものを引きず...
「さあ、いよいよ幕引きだ。あの馬鹿女に本当のことを全部教...
「はい、サイトさん」
「それにしても、シエスタがいてくれて助かったよ。シエスタ...
シエスタの頭を撫でながら、才人は優しい口調で囁く。シエ...
「こんなの、どうってことないです。わたし、サイトさんのた...
「そうか、何だってするのか」
「はい、もちろんです」
「じゃあ、死んでくれ」
「え」
才人が笑顔で言い放った言葉をシエスタが聞き返すよりも早...
突如として自分の体を貫いた鋭い衝撃に、シエスタは目を見...
どうして、という言葉の代わりに、喉の奥から大量の血が溢...
才人は剣を捻って念入りにシエスタの体を抉り、先程と全く...
「悪いな、シエスタ。お前のことはそんなに嫌いじゃなかった...
そう言いながら、不意に汚らわしい物を見るように顔をしか...
「臭いんだよ、お前。都会育ちの俺にはとても耐えられねえぐ...
愛しい人の冷たい声を闇の向こうに聞きながら、シエスタは...
268 名前:魔王[sage] 投稿日:2006/11/12(日) 06:57:00 ID:a...
「さて、と。後は本当に最後の仕上げを残すのみだな。ったく...
目を見開いたまま横たわるシエスタの死体を顧みることもな...
「相棒よ」
不意に、硬い声がした。才人は笑顔で応じる。
「何だデルフ。ああ、そういやお前を使うのも久しぶりだっけ...
「俺に騒がれちゃ困るからだろう」
シエスタの血に汚れた刀身から、怒りを抑えているような低...
常人ならば威圧感で動けなくなるようなその声に、しかし才...
「そりゃそうだ。何だかんだで口うるせえもんな、お前」
デルフリンガーは少し黙り込んだあと、絞り出すような声で...
「何を考えてる」
「そうだな、ルイズがここに来るまでまだちょっとかかるだろ...
才人はデルフリンガーを地に突き立て、近くにあった石に腰...
「事の発端は先生だ。正確にはあのコッパゲのコルベール先生...
始祖ブリミルとその使い魔についてあれこれと書かれた本さ...
先生の話だと図書館の隠し部屋に厳重に封印されてたんだと...
で、その本の中には驚くべき秘密がたくさん書いてあった訳...
その中には異世界に関わる魔法もいくつかあった。たとえば...
異世界の物を自由自在に召喚できる魔法とかだ。嘘臭いほど...
で、先生は興奮しながらそれを俺に見せてきた。虚無の魔法...
だが俺にとって重要だったのはそこじゃねえ。いや、地球に...
今となっちゃもうどうでもいいんだ。虚無の使い魔に関する...
「その秘密ってのは、何だね」
才人は意識して唇を吊り上げながら、右手で前髪を上げてみ...
才人自身の目には見えないが、右手の甲と額にそれぞれルー...
神の右手ヴィンダールヴのルーンと、神の頭脳ミョズニトニ...
以前は別の人間のものだったルーンである。
「主人である虚無の担い手が死ねば、その使い魔のルーンは消...
なるほど、始祖ブリミルって奴も考えたもんだ。こういう仕...
んな。
虚無系統の魔法自体は遺物に依存するものだから、担い手に...
ああ、この辺は説明する必要もねえか。どうせお前は知って...
デルフリンガーは何も答えなかった。その沈黙を肯定と受け...
「俺は震えたね。ガンダールヴは武器を使えるだけだから、単...
だが、そういう意味じゃヴィンダールヴとミョズニトニルン...
ヴィンダールヴはドラゴンみたいな強力な魔獣でも思い通り...
ミョズニトニルンだってアルヴィーやらガーゴイルやら揃え...
何より、あのゾンビを作る指輪みたいな面白いマジック・ア...
この三つのルーンを一人で操れば、マジで天下取るのも夢じ...
そう思ったら、元の世界のことなんかどうでも良くなったん...
男として生まれたら、一度はそういうデカい夢を見たくなる...
「さっぱり理解できんね」
269 名前:魔王[sage] 投稿日:2006/11/12(日) 06:57:45 ID:a...
「つれねえ奴だな。まあいいや、後は知っての通りだ。俺は早...
まずは虚無の担い手の情報を集めて、そいつらがそれぞれロ...
最初に狙ったのはロマリアの教皇だ。ヴィンダールヴ、ジュ...
教皇庁なんて言っても、中身はドロドロしたもんだ。教皇と...
で、お次はガリアだ。こっちに関してもヴィンダールヴのル...
魔獣集めて騒ぎを起こさせて、兵やらミョズニトニルンやら...
虚無の担い手が残ってると後々面倒なことになるだろうから...
そこまで言って、才人は不意に顔をしかめた。
「誤算だったのはジュリオやミョズニトニルンを逃がしちまっ...
まあルーンを失ったあの連中に何かが出来るとも思えねえし...
で、計画はいよいよ最終段階だ。閉じ込めておいたルイズに...
マジック・アイテムが使えりゃ、あの偽者の家族の会話を用...
風魔法で声を記録できるなら、同じ原理で声を作ることだっ...
最も、慣れない作業だったからちっとばかり手間取っちまっ...
「その辺が一番解せねえところだ」
デルフリンガーがいかにも不可解そうな口調で呟いた。
「何であの嬢ちゃんはあんなにアッサリお前さんの嘘を信じち...
風魔法で声を作れるってことぐらい、勉強家のお嬢ちゃんな...
「暗いところに一人で閉じ込められてて判断力が鈍ったっての...
才人は含み笑いを漏らした。
「結局のところ、あいつ自身も確信が持てずにいたのさ。
魔法を使えない家族が、本当に自分のことを愛してくれてい...
だから、よく考えてみればすぐに見破れる嘘に騙されちまっ...
後は簡単だ。独りぼっちになったと思い込んでる寂しい女の...
だが、それだけじゃまだ不十分だ。あの時点じゃ、ルイズ自...
本当に自分が家族に捨てられたのかどうかってな。だから俺...
『奴等の前で虚無の魔法を見せてやれ。もしも連中が喜んだ...
今までゴミだと思ってた娘に、とんでもない利用価値が出来...
家の誇りだとか一人前の貴族だとか言い出したら、こりゃも...
で、結果があれだ」
才人は愉快そうに笑いながら、燃え盛るヴァリエール邸を指...
「そりゃ喜ぶだろ、今まで魔法使えなかった娘が魔法使えるよ...
だがルイズはそう考えずに、結局自分の価値は魔法が使える...
こうして、誰にも愛されなかった孤独な少女は、憎い家族に...
そう締めくくった後、才人は堪えきれずに笑い出した。燃え...
ひとしきり笑ったあと、才人は不意に口を噤み、デルフリン...
「さて、話は一旦中断させてもらうぜ。そろそろルイズが来る...
丘を登る道の向こうに現れた小さな人影を見つめながら、才...
195 名前:魔王[sage] 投稿日:2006/11/25(土) 02:36:12 ID:0...
赤く染まった重い袋を引き摺りながら丘を登りきったルイズ...
二人の人間がいる。一人は地に倒れ伏してぴくりとも動かな...
もう一人はそのそばに膝を突いてうなだれている黒髪の少年...
この、ヴァリエール邸のすぐそばにある小高い丘は、ルイズ...
だから才人がいるのは当然として、何故魔法学院のメイドで...
その上、シエスタは倒れたまま身じろぎもしないし、胸の辺...
どうやらもう既に事切れているらしい。
混乱しながらも、ルイズはこちらに気付いていない才人に恐...
「サイト」
才人がゆっくりとこちらに顔を向ける。ひどくぼんやりした...
「ああ、ルイズ。無事だったか」
才人の顔に疲れたような微笑が浮かぶ。
才人が何よりもまず自分の心配をしてくれていることに喜び...
「これは、なに」
言葉に迷った末にそう問うと、才人は苦悩するように眉根を...
「シエスタも、連中とグルだったんだ」
予想もしない言葉に、ルイズは目を見開いた。才人は今にも...
「ここでルイズを待ってたら、急にシエスタがやってきたんだ」
どうしてこんなところに、と驚く才人に、シエスタは自分が...
殺す機会を窺っていたところ、才人がルイズを隠してしまっ...
そこまで説明した後、シエスタは才人にもルイズ殺しを持ち...
邪魔なルイズを殺して二人でどこか遠いところで暮らそう、...
才人は拒んだがシエスタはなおも才人に詰め寄り、
最後には「これでルイズを殺す」と短剣を見せてきたので、...
そう語り終えたあと、才人は深く重いため息を吐いて黙り込...
突然の事態に頭が混乱して、うまく考えることができない。
(だけど、サイトがわたしに嘘を吐くはずがないわ)
自分に向かって一言そう言い聞かせた途端、ルイズの頭の中...
(そうよ、サイトはわたしに嘘なんか吐かない。シエスタは本...
一つだけ、大きな不安が残っている。ルイズはまだ黙り込ん...
「後悔してるの」
「どうして」
才人は驚いたように顔を上げた。ルイズはちらりとシエスタ...
「才人、シエスタのこと好きだったんでしょう」
「馬鹿言うな」
才人は怒鳴りながら立ち上がった。たじろぐルイズをきつく...
「何度も言わせるなよ。俺が愛してるのはルイズだけだ」
愛してる、という言葉を聞いた瞬間、ルイズの背筋が歓喜に...
体の力が抜けそうになるほどの圧倒的な幸福感にうっとりと...
「ねえサイト、本当にわたしのこと愛してる」
「ああ、もちろんだ。愛してるよ、ルイズ」
「サイトはわたしのこと裏切らないよね。ずっとそばにいてく...
胸の中の不安を完全に消し去りたい一心でそう問いかけると...
「ああ。お前を愛してる。お前だけを愛してるぞ、ルイズ。お...
シエスタはお前を殺そうとしたんだ、そんな女が死んだって...
むしろ今殺せてよかったと思ってる。これでこの女がルイズ...
お前だけを愛してる、という言葉を、ルイズは頭の中で何度...
一度、二度と繰り返すたびに胸を覆っていた不安が少しずつ...
196 名前:魔王[sage] 投稿日:2006/11/25(土) 02:36:58 ID:0...
「そう。そうよね」
笑いながら呟き、ルイズは才人から体を離す。
シエスタの死体のそばにしゃがみ込むと、確かに才人の言う...
(馬鹿な女)
ルイズは含み笑いを浮かべた。
(才人が愛してるのはわたしだけなのよ。そんなことも知らな...
本当に、可哀想になってくるぐらい馬鹿な女)
堪えきれずに嘲笑を漏らしながら、ルイズは無造作にシエス...
虚ろに見開かれた瞳は何も映さず、半開きになった口からは...
もうこの瞳が媚びた視線を才人に送ることはないし、この唇...
そんなことを考えていると、ルイズの胸にふつふつと怒りが...
(そうだったわね。あんた、薄汚い農民の豚娘のくせに散々わ...
ルイズは再びしゃがみこむと、シエスタの手から短剣を取り...
そのまま力一杯振り下ろし、シエスタの顔と言わず手と言わ...
(死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね死ね死ね死ね死...
水の精霊でも蘇らせられないぐらいに完全に完璧に完膚なき...
特に豊かな乳房を念入りに潰した。何度も短剣を振り下ろし...
でしまい、その段階になってようやくルイズは満足感を覚えた。
(いい気味だわ。豚のくせに身の程知らずなこと考えるからこ...
ルイズは立ち上がって自分の仕事を見下ろしたが、そうやっ...
才人に媚びた視線を送った瞳が気に入らない。豚の癖に整っ...
胸と同じように才人を誘惑した足も気に入らないし、べたべ...
「全部潰そう」
呟き、ルイズは再び仕事に没頭し始めた。
目玉を抉り顔を潰し足を切り裂き手を刻む。
そうして原型を留めないぐらいにシエスタの死体を潰し終わ...
先程よりももっと深い満足感に吐息を吐きながら、ルイズは...
「サイト、見て」
はしゃいで才人を呼ぶ。「どうした」と歩み寄ってきた才人...
「また派手にやったなあ」
「どうサイト、これ見てもまだシエスタが綺麗だとか思う」
期待して問いかけると、才人は大げさに肩を竦めてみせた。
「まさか。こんなの野良犬の餌にもならねえよ」
「そうよね、そうよね」
才人の腕に絡み付いて、ルイズは頬を綻ばせる。
これでもう才人はシエスタの色香に惑わされることもないの...
「そうだ」
と、才人が急に思いついたように言って、崩れきったシエス...
「再利用するか、これ」
「再利用って」
「アンドバリの指輪あったろ。あれで操ったらどうだ。身の回...
まるでアンドバリの指輪を持っているかのような才人の口ぶ...
「いらない。汚いもん」
「そうかあ」
才人は少し残念そうに呟く。ルイズは内心焦った。
シエスタを復活させたら、この哀れで汚らしい姿をダシにし...
(そしたら優しい才人はまたシエスタの方を見ちゃう)
そんなことになったら自分はまた一人ぼっちになってしまう...
焦って才人から体を離し、「いらないったら」と叫びながら...
肉が削がれてかなり軽くなったシエスタの死体は、ごろごろ...
197 名前:魔王[sage] 投稿日:2006/11/25(土) 02:37:57 ID:0...
転がり落ちていくシエスタの死体を見ながら満足げに頷いて...
「うまくやったもんだな」
背中から、嫌悪感を隠そうともしない声が聞こえてくる。才...
「そういやずいぶん静かだったなデルフ。てっきりルイズに事...
「馬鹿言うな、ここで事情をばらそうもんなら、あの子は本当...
ここで嬢ちゃんが壊れちまったって、お前さんはこの愚行を...
陰鬱な声で訊くデルフリンガーに、才人は「もちろんだ」と...
「虚無の魔法ってのは確かに魅力的だが、俺の計画にはどうし...
「なら黙っておくさ。どの道、単なる剣に過ぎねえ俺の手じゃ...
「下手な冗談だな。手なんかねえくせに」
「うるせえや。んで、こっからどうするんだね」
デルフリンガーは皮肉げな口調で訊いてきた。
「虚無系統の担い手が一人に、三つの能力を手に入れた使い魔...
「そいつはどうかな」
まるでシエスタが這い登ってこないか恐れるように丘の下を...
「一応、いろいろと手は打ってある。他の虚無の担い手殺して...
「知りたかねえがね」
「そう言うなよ。まず、さっき言ってた再利用って奴だがな、...
言って、才人は懐から指輪を一つ取り出した。
「アンドバリの指輪は俺の手の中にある。ぶっ殺したガリア王...
それにこの指輪には人の心を操る機能もついてる。今ゲルマ...
俺の命令ですぐに矛を収めてトリステインを目指すようにな...
ヴィンダールヴの力で魔獣も一個軍団作れるぐらいにゃ操れ...
で、いざ戦争となったら戦場突っ切ってとっととお姫様とっ...
「随分とまあ周到なこって」
吐き捨てるように言ったあと、デルフリンガーは問いかけて...
「で、その後はどうすんだね」
「ハルケギニアの国を全部潰したら、統一国家を作って俺が王...
その後はまあゾンビども操って適当に国治めさせて、反乱が...
才人は人差し指を立てた。
「メイジはルイズ以外全員殺す」
その宣言に、デルフリンガーは一拍間を置いて返してきた。
「お前さんに勝てる可能性があるからかい」
「ま、そんなことだな。そして俺はハルケギニアの魔王になる...
爽快な気分だねえデルフ。ニ、三年もすりゃ、どいつもこい...
俺の名前が歴史の教科書に載って、千年二千年先の人間にま...
想像しただけでも震えるってもんだ、なあ」
「そのためにはお前さんの友人も殺すって訳かい」
「尊い犠牲って奴さ」
才人がさらりと返すと、デルフリンガーは長い長いため息を...
「力に溺れたな、相棒」
「なに、見てろよ。立派に泳ぎきってみせるさ」
「最後に、一つだけいいか」
「なんだ」
「反吐が出るぜ」
「いい褒め言葉だな」
嫌悪感を隠そうともしないデルフリンガーに笑って答えたあ...
激しい炎に包まれている屋敷の一角から、見覚えのある竜が...
「しくじりやがったな、ルイズの奴。まあいいか」
才人がため息を吐くのと同時に、ルイズが赤く染まった大き...
198 名前:魔王[sage] 投稿日:2006/11/25(土) 02:38:56 ID:0...
「ねえサイト、見て見て」
ルイズは嬉しそうに笑いながら、袋の中身を地面にぶちまけ...
中から転がり落ちてきたのは、手、足、頭など、人間の体の...
才人はそれらをじっと眺め、カトレアのものと思しきパーツ...
「これが父様で、これが母様。エレオノール姉さまったら、こ...
元は家族のものだった肉塊を楽しそうに弄繰り回しているル...
「ルイズ、一つ訊いてもいいか」
「なあに、サイト」
「この中には、お前の大好きなちいねえさまはいないみたいだ...
そう指摘された瞬間、ルイズの体が大きく震えた。
やっぱりな、と内心で呆れながら、才人はしゃがみ込んでル...
ルイズは処刑前の死刑囚のように顔を青ざめさせてガタガタ...
そんなルイズの顔を無言で見つめたあと、才人はにっこりと...
「逃がしたのか」
「違うの」
悲鳴のような声を上げて、ルイズは必死で弁解する。
「ちいねえさまもちゃんと殺そうとしたの。でも止めを刺す前...
つまり、その一瞬で何者かがカトレアを助け出したというこ...
(ジュリオ、か。いなくなったと思ったらこんなところに潜ん...
先程竜が飛び去った方向を見やりながら、才人は立ち上がっ...
(病弱なお嬢様とルーンを失った使い魔なんかに何ができる。...
そのとき、才人はふとルイズが自分を見つめていることに気...
恐怖に見開いた瞳一杯に涙を溜めているその顔は、縋りつこ...
才人が無言で見つめ返すと、ルイズは一瞬小さな悲鳴を上げ...
恐慌を起こしたような勢いで必死にしがみついてきた。
「ごめんなさい、今度はうまくやるから、今度はちゃんと殺す...
才人は内心で高笑いを上げた。
(こいつは、もう俺の言うことならなんだって聞くな)
そのことに対する確信を一層強めながら、才人は笑顔でルイ...
「何言ってんだ、どうして俺がルイズを捨てたりするんだよ」
「本当」
「もちろんさ」
恐る恐るこちらを見上げてくるルイズに、才人は冗談めかし...
「でもお前、本当に殺しちまっていいのか。好きなんだろ、ち...
「そのことなんだけど、あのね」
プレゼントをねだる小娘のようにもじもじしながら、ルイズ...
「ちいねえさまだけは生かしておいて、わたしの奴隷にしたい...
「お前の好きなようにすりゃいいよ」
「本当」
ぱっと顔を輝かせるルイズに何となく興味を惹かれて、才人...
「うんとね、うんとね」
ルイズは興奮したように頬を上気させながら数秒考え、一息...
「まずはね、逃げられないように手足を切り落としてあげてね...
それでちいねえさまが痛いよ痛いよって泣いてるのを慰めて...
餌を食べさせてあげておしっことかうんちとかの世話もして...
何度もそうしてあげたら、ちいねえさまもきっとわたしのこ...
嬉しそうに話すルイズに、才人はいちいち頷き返してやった。
「そうだな、きっとお前なしじゃ生きられなくなると思うぜ」
「本当。楽しみだなあ」
実際にそうしているところを想像したのだろうか。
ルイズはその内夢見るようにうっとりとした表情を浮かべて...
締まりのない笑みを浮かべながら陰部を弄くり出した。
自慰に没頭するルイズを眺めながら、才人は満足げに大きく...
(これで、準備は全部整った)
燃え盛る炎の音と走り回る人々の悲鳴が、耳の中で祝砲のよ...
199 名前:魔王[sage] 投稿日:2006/11/25(土) 02:40:38 ID:0...
目が覚めて痛む体を自覚したとき、カトレアは先程までの記...
「まだ休んでいてください」
傍らに立っているジュリオが、優しく声をかけてくる。
目だけで周囲を見回すと、そこが鬱蒼とした森の中であるこ...
「ああジュリオ、教えてちょうだい、わたしの家族は、ルイズ...
カトレアの問いに、ジュリオは悔しげに唇を噛んで目をそら...
「申し訳ありません、わたしがあの部屋に辿りついたときには...
カトレア様を救い出すのが精一杯で、他の皆様のことはなに...
「ああごめんなさいジュリオ。あなたを責めているのではない...
それにわたしには分かります。父様や母様や姉様は、きっと...
厳しくも優しかった父、厳格だが慈愛に満ちていた母、勝気...
それぞれの笑顔が頭に浮かんでは消えていく。カトレアは一...
「ジュリオ、話してちょうだい」
「何をでしょうか」
「あなたの知ること、全てを」
そう訊かれることがある程度予想できていたのだろう。
ジュリオは何も言わずに数秒目を瞑ったあと、自分が知る限...
自分の主であるロマリア王を殺した男のこと、その男の圧倒...
そして恐らくルイズがその男に心酔しているのであろうこと...
全てを聞き終えたカトレアは、そこでようやく涙を拭い、宣...
「ジュリオ、わたしはルイズを取り戻します」
「無理なことを仰いますね。あなたのようなか弱いお方が、あ...
「それでも、取り戻します。何年、何十年かかろうとも、必ず」
カトレアは力の入らぬ体に無理矢理活を入れて立ち上がった。
そうするだけでも息が苦しくなる。空を見上げると、金色の...
「見ていなさい平賀才人。地獄に落ちるのはお前一人で十分。...
震える足を必死に立たせ、カトレアは全身の力をかき集めて...
怒りに満ちた瞳で空を睨むカトレアの姿に、ジュリオは胸の...
(あなたの言うとおりだ、カトレア様。確かに、こんな状態の...
ジュリオは自分が過ちを犯そうとしていることを自覚しなが...
「あなたの決意、しかと聞き届けました。このジュリオ・チェ...
この日、世界は燃え盛る炎の中から四人の英雄を産み落とし...
「魔王」平賀才人。
「破滅<ゼロ>」のルイズ。
「悲嘆」のカトレア。
「忘我」のジュリオ。
彼らがこの先辿ることになる数奇な運命を知る者は誰一人と...
200 名前:魔王[sage] 投稿日:2006/11/25(土) 02:41:54 ID:0...
「とまあこんな感じかねえ。いやあずいぶん長いこと話してた...
なに、短ぇ上にまだ序章みたいな感じじゃないか、だと。
馬鹿野郎、元々これ以上は話す気なんかねえっつーの。
この先はドロドロのグチャグチャだ。胸糞悪すぎて思い出す...
まあ大まかに説明しとくとだな。あの後はほとんど相棒の思...
一ヶ月後にはトリステイン女王のアンリエッタっつー嬢ちゃ...
晴れて魔王ヒラガサイトが統一帝国の王位についたのさ。
で、相棒は俺に宣言したとおりのことをやったよ。反乱鎮圧...
その方法があんまりにも残酷だったもんで、五年もする頃に...
ところが、この頃になってうまく逃げ延びてたカトレア嬢ち...
同じく逃げ延びてた旧トリステイン銃士隊の隊長さんと一緒...
まあこの辺りは血湧き肉踊る合戦がなくもなかったんで、暇...
どうだい、聞いててあんまり愉快な話じゃあなかっただろう...
なに、それなら話す方もあまり愉快じゃないだろうに、何故...
いいところに気がついた。実はな、他人に意見を聞いてみた...
何かって、まあ馬鹿馬鹿しいと思うかもしれんが、笑わない...
俺は相棒に『メイジはルイズ以外全員殺す』って言われたと...
『ひょっとしたら、この男は本当にルイズ・ド・ラ・ヴァリ...
彼女を蔑ろにしたメイジって存在を心底憎んでるんじゃな...
イカレた行動に踏み切ったんじゃないか』ってな。
いやそんなはずはねえんだ。だから相棒にも直接尋ねたこと...
でもなあ、こんなところで埃を被ってると、ついつい『やっ...
なにせ、あんなことになる前の相棒は本当にいい奴だったし...
そんなこと考えてるところにお前さんたちが来たんだ。これ...
で、どうだね、兄ちゃん、姉ちゃん。あんたたちの思うとお...
ほう。
ふんふん。
そうかそうか。
なるほど、あんたたちの考えはよく分かったよ。
いやいいんだ弁解しなくても。俺も本当はそう思ってたんだ...
今日は本当にありがとうよ。また気が向いたら続きも話して...
本当かって。さあ、分からんね。何しろ俺は見ての通りオン...
無責任? 知らねえよ馬鹿野郎。
まあいいや。そんじゃ、またその内会いに来てくれや。
ああちょっと待て。最後に、もう一つだけ聞いておきたいこ...
どうやら相棒の念願は叶って、メイジのいない、魔法が存在...
その世界は、魔法があった頃の世界よりも楽しいかい?」
男は答えた。
201 名前:205[sage] 投稿日:2006/11/25(土) 02:49:06 ID:0n...
以上、終了です。グダグダだぜチクショウ!
なんか続きがありそうな雰囲気ですが俺の脳内にしかないです。
続きを書くつもりは今のところありませんのでこれはこれで完...
ちなみに全体量80KB.これでもまだ「少女の〜」の半分もい...
個人的にはあっちよりも余程長く書いてた気がするんですが、...
やっぱ苦手なジャンルは書いちゃいかんっつーことですかね。...
具体的にはシエスタ殺すシーンとかシエスタ潰すシーンとかシ...
……いやシエスタは好きですよ? ふたなりのシエスタがルイズ...
とまあグダグダなまま終了。正直な感想を頂けると個人的にと...
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