ゼロの使い魔保管庫
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134 名前:ラ・ヴァリエールの娘[sage] 投稿日:2006/12/11(...
「やった、ついに、ついにできたわ。これであの男を超えられ...
トリスタニアにある王立魔法研究所の一室で、一人の女性研究...
手には外注していた量産品の試験結果を示す書類が握られてい...
彼女の名はエレオノール。トリステインでも有数の名士、ヴァ...
今年で2X歳(やんごとなき理由ににより伏せられています)に...
家柄、容姿、そして才能と、そのすべてにおいて人より優れる...
たった一つだけ、手にすることができないでいた。言うまでも...
いや、むしろ語ることすら憚られる、というものだ。
「よし、今日は自分へのご褒美よ。かわいいお洋服も、アクセ...
「それから、夜のお店でご馳走食べておいしいお酒も飲んで、...
「うん、ちょっと羽目をはずし過ぎちゃうのもいいかしら。
お酒で足元がおぼつかないところに若くて格好いい紳士様が通...
『お嬢さん、いかが致しました? こんなになるまで飲まれる...
何かつらいことでもおありですか?』って。それで私は『そん...
そうすると事情を察したその方は何も聞かずにご一緒してくだ...
そんないい男が王都にいるかどうかは分からないが、もちろん...
「けどいいムードになった二人にも別れの時間が近づいて、紳...
そして私は優雅にしなだれかかって『いえ、どうか今宵だけで...
『わかった、何も聞かず一緒に』って答えが帰ってきたりして…...
独りでぶつぶつ言いながら両手をほんのり染まった頬に当てて...
あのルイズの独り芝居癖が誰の影響であるか、よく分かるとい...
「……はぁ。バカバカしい。そんなことあるわけないじゃない、...
エレオノールは冷静に呟くと手早く帰り支度を始める。
知り合いに見つかって涙目で身投げをする誰かさんとは違い、...
「お先に失礼致します」
他の部屋の研究員に声をかけつつ、彼女は普段より少し早い時...
136 名前:ラ・ヴァリエールの娘[sage] 投稿日:2006/12/11(...
「いらっしゃいませ〜」
こんばんは、と答えてエレオノールは店内に入る。
両手には先ほど買った大量の「自分へのご褒美」が入った袋を...
職業柄、いつもいつも従者を伴うわけではないし、一人のほう...
末の妹を引っ張りに魔法学院へ赴いた時とは言っていることが...
時と場合に応じた振る舞いというものである、たぶん。
「あら、エレオノールさん、こんばんは。どうしたの? なん...
なにかいいことでもあったのかしら?」
ぴったりとした皮の胴着に身を包む屈強な男が女言葉で尋ねる。
「ええ、まあ。カウンター、空いてる?」
「空いてるわ。予約も入ってないし、よければ貸し切るわよ?」
「ありがとう、スカロンおじさま。嬉しいわ」
ここは『魅惑の妖精』亭。トリスタニアの中でも由緒正しい名...
要人から街の衆まで、誰もが楽しめることを目指して今宵も明...
ただ、立地と、店長の姿だけが問題といえば問題だろうか。
しかしながら歴史を遡ればそもそもチクトンネ街は本来……いや...
「なんのなんの。エレオノールさんは上得意様ですもの。
……あ、気に障ったらごめんなさいね。あたしったら、失礼なこ...
「いいのよ、事実ですもの。それに、いつもたっぷりサービス...
「あぁん、あ・り・が・と。それじゃ、ごあんな〜い」
野太い嬌声に導かれ、二人は店の奥へと入っていった。
豪華な料理に舌鼓を打ちながら、エレオノールは満足そうに時...
「そーなのよ。二十年位前に実験小隊の隊長が考案したってい...
あれの小型化に成功したのよ。量産化の目途もたってるし、こ...
そう自慢げに話す。相手の魔力を追尾して飛ぶ魔法弾の最小、...
もともとの理論では艦載砲の弾にするのが精一杯だったが、彼...
使うことができるほどになった。王女時代からのアンリエッタ...
これはこれで少々複雑でもあった。メイジには魔法弾などいら...
平民に余計な力を持たせるだけになってしまわないだろうか、...
「ねえねえ、けど、それって重要な機密なんじゃないの? こ...
エレオノールは我に返る。けど、少しくらいこの成功に酔って...
「なにをおっしゃるの、ここはおじさまのお店でしょう? そ...
「あらら、じゃあたしの責任重大ってことね」
「そうですわよ、おじさま」
エレオノールは満面の笑みを浮かべる。まるで少女のようなそ...
引き合いに出すなら、ルイズの笑顔に大人の色香が加味されて...
137 名前:ラ・ヴァリエールの娘[sage] 投稿日:2006/12/11(...
「ちょっと失礼、下がるわ」
スカロンが所用でカウンターの奥にさがった。その瞬間を見計...
「お嬢さん、お一人ですか?」
「そんなところでオカマと話してないで、どうです? 俺たち...
「なにか御用でしょうか?」
エレオノールは極上の笑顔を作って振り返る。氷の微笑と形容...
誰もが振り返るクールビューティと言ってもいいほどである。...
「え、ええ。美しいご婦人よ、いかがでございましょう?
私どもの宴席にそのきらびやかなお姿を、添えてはいただけな...
三人組のリーダー格らしき男は、ほんの少しの動揺を見せつつ...
食い下がるつもりか、適当に誤魔化すつもりなのか、いずれに...
「……ちっ……」
しかしリーダーの苦心もむなしく、一人が小さく舌打ちをして...
さらには困ったことに、その顔には「ババァじゃねえか」とは...
「なにかご不満?」
エレオノールは耳ざとくその音を捉えていた。露骨に不機嫌そ...
「いえいえ、めっっそうもございません。この男、自分に自信...
貴女様のようなご婦人をお見かけしても私たちには高嶺の花と...
そのような振る舞いは失礼極まりないと、このような場でなく...
なかなか直してくれなくて。ああ、本当に申し訳ないことです」
「そう…………そう?」
エレオノールの不機嫌は収まらない。
「まことに失礼を致しました。お詫びといっては恐縮ですが、...
こちらは私どもが持たせていただきます。どうかご機嫌を……」
「そんなこと頼んでない」
答えはそっけない。
「ああ、精一杯誠意を尽くさせていただきたく存じます。なに...
エレオノールの反応を察して、男は戦略を変える。とりあえず...
別の女に声をかけることにしようという考えであった。
「ああ、ほんとうに、ご無礼をお許しください。しかし、更な...
夜も更けますれば、いっそう無礼な手合いに遭わんとも限りま...
お美しい貴婦人よ、遅くまで家をお空けになっては旦那様もご...
「ぁん? 旦那様、ですって?」
エレオノールの反応に、男はしまったという顔をする。
年増とはいえ極上の美人、しかし店長と親しいという時点で警...
まことに男の欲望とは文字通り、罪深いものである。
「なんだ、往かず後家かよ、けっ」
先ほど舌打ちをした男がよりによって最悪の言葉を吐く。
「ちょ、おまっ」
リーダーの顔は真っ青になっていた。さすがに誤魔化しようが...
138 名前:ラ・ヴァリエールの娘[sage] 投稿日:2006/12/11(...
地雷は見事に炸裂した。
「あんたら何様よ。礼儀を知ってたらできないようなことばっ...
こっちは一人でいたいのに声かけといて、歳が分かったら手の...
女漁りだったらね、もっとそういうことに適した店でやんなさ...
あんたらみたいな連中がでかい顔できるようなところじゃない...
それくらい知っておきなさい。知らなかったのならいまここで...
本来なら敷居をまたぐことだって許されないくらいなのよ。分...
しかもそんなくたびれた格好で。恥を知りなさい。大方どこぞ...
流れてきたってところなんでしょうけど。さっさと帰るか、ち...
どうせ金持ってないんでしょ。それともろくでもない稼ぎ方を...
ここ最近やっと治安が戻ってきたところですからね。金づる探...
だいたい一人の女に三人がかりって根性が気に食わないわ。私...
それからどうするつもりだったの? ま、そんなことありえま...
で、あと二人探すの? それとも三人で仲良く分けるの? 冗...
あんたたちみたいな汚らわしい野郎どもとこうしてるだけでも...
「あんだとこのアマぁっ」
「うるさいな。それで脅したつもりなの? 怒鳴り声だけで女...
見下げ果てた野郎よね。そうやって威嚇して見せるのもいいけ...
暴力をちらつかせるなんて、まともな貴族のすることではない...
はぁ、で、三下の分際でこの私に声をかけといて、覚悟はでき...
始祖ブリミルの名の下に地獄へ落ちるか、さっさと御代を払っ...
まああんたたちに選ぶ権利はありませんけど?」そこで一息つ...
「いいから消えなさい、ってんのよこの下衆野郎」
店内にどよめきがこだまする。一気にまくし立てたエレオノー...
どうやら三人組はエレオノールに声をかける前からすでに店内...
「がたがた言ってんじゃねえよちくしょっ」
男がこぶしを振り上げた、そのとき――
139 名前:ラ・ヴァリエールの娘[sage] 投稿日:2006/12/11(...
「おやめください」
割って入ったのは年のころ15、6の少年だった。
自分より頭ひとつ以上大きな男の腕を掴み、身動き一つとらせ...
「……ん……なんだコイツぁ」
少年が手を離す。
「失礼致しました、旦那様がた。されどここは皆で歓談を楽し...
腕試しでしたら、どうか私どもの店より相応しいところでお願...
お代は結構でございます。どうかお引取り頂きますよう」
「なにぃ」
男がすごもうとするが、少年は深々と頭を下げたまま少しも動...
「あらあら、どうなすったの?」
店の奥から、スカロンが現れた。
オーク鬼だろうが翼竜の眷属だろうが軽く倒してしまいそうな...
「ちっ、失礼しますよ」
スカロンの姿を見て、リーダー格が捨て台詞を残して踵を返す。
後の二人もそれに続いた。
「はぁ……なんかやんなっちゃうなぁ。せっかくのいい日だった...
三人組を追い払ったあと、店内には楽しげな空気が戻っていた。
「ごめんなさいね。どうも最近はああいう手合いがたまに来る...
けどお客さんだからお断りするわけにも行かなくて……」
「おじさまは気にしないで。悪いのはあいつらなんだし。あれ...
「ええ。いいわよ。シングル?」
「ダブルで、いえ、やっぱりグラスでいただくわ。ロックでお...
そんなに飲んでいいの? と尋ねるスカロンに、
エレオノールは、大丈夫よ。いまはたっぷりと飲みたいの、と...
「かしこまりました」
スカロンは恭しく頭を下げると、店でも最上級の蒸留酒を棚か...
エレオノールのボトルキープである。他には、アンという名札...
手早く準備してそっとエレオノールの前に差し出す。
「サービスよ」
「うそ。おじさまったら、またそんなこと言って」
エレオノールはクスリと笑って一口。ボトルキープは前払いで...
「ええ、また、なのよ。ごめんなさいね。でもドキッとしなか...
「んもう、しないわよ」
とっておきの酒の魔力なのか、まるで魔法の妙薬を飲んだよう...
「それじゃ、お話しの続きを聞きましょうか」
140 名前:ラ・ヴァリエールの娘[sage] 投稿日:2006/12/11(...
それからまた小一時間が過ぎる。
エレオノールは見事に出来上がっていた。無論、最上級の貴族...
「そろそろ失礼するわ。お代は……そうね、これをとっておいて」
そう言って戸口で一枚の金貨を差し出す。
「まあまあ、今日はサービスにしようと思っていたのに。こん...
とはいうものの、スカロンに断ることはできない。貴族の支払...
「ええ。もちろん、お釣りはいりませんわ」
微笑みを残して帰ろうとするエレオノールをスカロンが呼び止...
「ちょっと待ってて。ジュリア〜ン、そこにいるかしら? お...
「はい、ただいま」
スカロンに呼ばれて先ほどの少年が出てきた。
「エレオノールさんを送って差し上げなさい。もうこんな時間...
「はい。ではしばし、お時間を」
ジュリアンは再び奥へ下がる。
「一人でも大丈夫ですのに」
「いいえ。馬車を呼ぶか、ジュリアンを連れるか、どちらかに...
「心配するほどじゃないわ。ほら」
しかし、スカロンの見たとおり、言葉と裏腹にエレオノールは...
それを自覚してもいるのか、彼女はスカロンの厚意を受けるつ...
「お待たせしました」
ジュリアンが戻る。服装はそう変わらないが、履物が違ってい...
平時から不意の戦いに備える兵士のそれである。
「しっかりお勤めは果たしなさいね。ついでに、大人の女を教...
「まぁ、店長ったら。なんてことを言うのかしら」
そうは言うものの、エレオノールの表情は柔らかい。
「それじゃ、失礼するわ」
エレオノールの言葉を合図に、ジュリアンは荷物を手に取った。
「ジュリアン、これを」
どこから出してきたのか、スカロンは使い込んだ感じの木刀を...
「念のため、よ」
141 名前:ラ・ヴァリエールの娘[sage] 投稿日:2006/12/11(...
二人は並んで、エレオノールの住まいに向かっていた。
ジュリアンはエレオノールの荷物を持ち、彼女に合わせるよう...
「あなた、勇気があるのね。お店の子? 店長の息子さん?」
「いえ、甥です。店には非番の日や訓練の早く終わった時に手...
「軍人さんなのね。どうりで。そういえば、あなたみたいな子...
……ところで、お国はどちら?」
「タルブの村です」
「あら、それじゃあ……あの、ごめんね?」
エレオノールの顔が少々曇る。先の戦争ではタルブの村が最初...
彼女も知っていた。多くの犠牲を伴ったとも聞いている。
「あ、その、村の者は全員無事でした。ヴァリエールさまと使...
竜の羽衣をで村を守ってくれたと、そのように聞いています」
「ヴァリエール? ルイズのことかしら? あのおちび……」
「あの、もしかして……エレオノールさまは」
エレオノールの呟きに質問が割って入る。場が場なら差し出が...
ジュリアンはしまったという顔をしたが、エレオノールはそれ...
「ええ、そうよ。ラ・ヴァリエール家の長女、エレオノールと...
「はい。店の女の子の間でも隊でも、エレオノールさまは皆の...
お美しくて、気高く優雅で、それでいながらとても活動的で魔...
一度お会いできたら、などとひそかに思っておりました」
実際に、彼女を知るものの間でのエレオノールの評判は高い。...
「あらあら、お世辞なんて止して。幻滅したでしょう? この...
「お世辞なんかじゃありません。はじめてお会いして、その、...
ジュリアンは赤面して口ごもる。女慣れしない少年の反応だっ...
142 名前:ラ・ヴァリエールの娘[sage] 投稿日:2006/12/11(...
「ふふっ、ありがとう、嬉しいわ。けどね、あなたくらいの子...
年上の女はみんな綺麗に見えるものなのよ。ほんとうの姿の何...
それに他にもよく聞くんじゃないかしら? ヴァリエールの長...
婚約を潰した自分を笑うように、エレオノールは悲しそうな表...
ジュリアンは意見を言おうかと思い、戸惑った。貴族に対して...
しかし、憧れの人に出会ったという喜びと、その人の見せる憂...
「そ、その、私には貴族様のことはよく分かりませんけど、仕...
そうでない方とはやはりご事情も異なるのではないかと思いま...
なければよいのですが、大きく見れば仕事にでるか、社交場に...
純朴で誠実な少年らしい言葉である。貴族の現実を知らぬゆえ...
「そうよね、私もそう思ってた。けど、私の夫になろうとした...
それにね、上手くいかないのは仕事を持ってるから、ってだけ...
けど、あなたのような人がもっといたら、もしかしたら……なん...
エレオノールは寂しそうな表情を漂わせてジュリアンに笑いか...
「あなたも直にもっと大きくなって、強くなって。きっと格好...
そのころには綺麗な若い子もいっぱい集まるんでしょうよ。私...
あ、けど大きくなったらスカロンさんみたいになっちゃうのか...
143 名前:ラ・ヴァリエールの娘[sage] 投稿日:2006/12/11(...
そのとき、二人の後ろにただならぬ気配が現れた。
先ほどの三人組だ。それぞれに杖を構え、二人を睨んでいる。...
振り返って男たちを見たエレオノールは、毅然とした態度をと...
「益のない私闘は禁止されています、杖をお下げなさい」
「かぁんけえねえってんだよ!! はじかかせやがって」
中央に立つ男が罵るように吼えた。
「お前は黙ってろ。まあ、あのようにあしらわれては私として...
この際、理性的な判断は関係ありません。小競り合い程度なら...
男の言葉が終わるや否や、二つの影が二人の前に現れていた。
無口な三人目の男が作ったのだろう、特徴のない、大人の男よ...
「少々憂さを晴らさせていただけないかと存じます」
聞く耳など持たぬかのような男たちの態度に、ジュリアンは荷...
スカロンから渡された長い木刀を握り、呼吸を整える。
「すみません、破片が飛び散ったらごめんなさい」
エレオノールが返事をする間もなく、ジュリアンは駆け出して...
素早く一体の左前から懐に飛び込み、脇を切りあげるように打...
さらに右後ろに軽く下がり、姿勢を整えると上段から振りかぶ...
瞬く間にゴーレム二体を叩き壊し、三人を真正面に見据えて正...
ジュリアンの無駄のない鮮やかな動きにエレオノールは見惚れ...
ハッとして我にかえると、荷物の中から杖を出して構え、素早...
相手も同じように杖を構えていた。その瞬間、ジュリアンの姿...
瞬く間に、木刀を左下に構えて三人に向かって風のように駆け...
一呼吸おくまもなく間合いを詰める。素早い動きに中央の一人...
これで詠唱は中断、ジュリアンは標的を変えた。
男の横を通り過ぎると左側の男の杖を狙って横薙ぎに一閃。
そのまま飛び込んで後退り気味の下腹部を狙って飛び蹴り、男...
着地してワンステップ後ろにさがり、下段の後ろ回し蹴りを膝...
足技を食らった男の体は宙に浮き、やがて背中から落下する。...
二人の男はあっけなく気を失っていた。
ジュリアンは倒れた男を見下ろしながら、相手が鍛錬の足りな...
最後に残ったリーダー格の男はすでに詠唱を完成させていた。
しかし、どちらに向けて放つべきかと躊躇った瞬間に、エレオ...
勢いのあるエア・ハンマーに男はあっけなく倒れた。
「……あたしだって、実験室にこもるばかりが能じゃないのよ」
エレオノールは自分だけに聞こえるように呟いた。
144 名前:ラ・ヴァリエールの娘[sage] 投稿日:2006/12/11(...
その後、二人は男たちの杖を拾い、最寄の衛士所に届けてしか...
「今日は二度も助けていただいたわね。ありがとう、小さな騎...
「そんな、もったいないお言葉です」
「何を仰るの、こちらは安売りしても余るくらいなのよ?
ふふっ。さ、ほら。どうぞ受けてくださいまし」
そう言ってエレオノールは手の甲を差し出した。戸惑うジュリ...
「ね、そんなに遠慮したら、かえって失礼なのですよ?」
「では、失礼致します」
「けれど、本当に強いのね。剣術は誰に習ったの?」
「祖父です。祖父は曾御祖父様から受け継いだといっていまし...
父も叔父も私より優れた打ち手ですし、実は姉にも一度も勝っ...
ジュリアンは少しだけかしこまって答えた。武人の血がそうさ...
「そうなの。スカロンさんってそんなに強かったのね」
そういえば、確かにそんな雰囲気はあったかもと彼女は思う。
「お姉さんも強いの?」
「ええ。姉には一生敵わないのではないかというくらいです」
そう言ってジュリアンはばつの悪そうな、しかし朗らかな表情...
この姉弟の関係はどんなものだろうと考え、そして自分たち三...
体が弱く自由のないカトレア、魔法がろくに使えない末のルイ...
それから、ルイズの使い魔だというあの少年。
彼が単独で七万の大軍を足止めし、生還して騎士になったこと...
話にある程度の尾ひれが付いてはいるのだろうが、彼女自身、...
もしかしたらと思うふしはある。でなければ騎士隊の副長には...
あの少年、サイトとどこかしら似た雰囲気のあるジュリアンを...
この子も間違いなく優秀な騎士になれるだろう。
「しかし、私などが前に出てしまって、お邪魔ではなかったで...
エレオノールさまほどの使い手でしたら、彼らなど難なく……」
彼女はその言葉を優しく制止する。
「いい? 女の子はね、どんな時でも守ってもらえたら嬉しい...
145 名前:ラ・ヴァリエールの娘[sage] 投稿日:2006/12/11(...
「お前たちは揃いもそろって、あれか、黒髪の平民か。エレオ...
その後、エレオノールはいろいろと根回しをしたうえでジュリ...
「ですから、ジュリアンを婿に入れるとか、彼のところへ輿入...
そんな無茶なことを申しているのではありません」
「口先だけで何を言うか。お前は昔からそうだったぞ。熱を上...
あの少年を自分の部下にするよう取り計らえだと? 新しい実...
それなら事実上可能だが、しかし武勇に優れた平民に魔法剣を...
「さすがはお父様ですわね」
「そんなに都合よく有能な平民が集まるわけなどない。平民で...
領主が手元に置きたがるものだ。喜んで差し出すはずなどなか...
読み書きを教え、貴族と同等の教養を身につけさせ、さらに訓...
どれだけ予算がかかると思っておる?」
「それをお父様が出せばよろしいではありませんか」
「まことになんという!! ああもう、まったく!!」
ヴァリエール公は年甲斐もなく苦悩に悶えていた。確かにヴァ...
よく働いてくれる領民たちのおかげで相変わらず景気がいい。
神聖アルビオンとの戦争も無事に乗り切っていた。予算面での...
ふと思いついたように言う。
「だいたいあの鳥の骨が許すはずなかろうて」
「これを」
エレオノールは一通の書状を差し出す。公の顔色が変わった。
「かーっ!! 鳥の骨め、何を考えておるというのだ? 認めん...
146 名前:ラ・ヴァリエールの娘[sage] 投稿日:2006/12/11(...
これにて終了です。長々と失礼しました。
自分が投稿するのは二作目なんですけど、やはり上手い人と比...
では失礼ノシ
終了行:
134 名前:ラ・ヴァリエールの娘[sage] 投稿日:2006/12/11(...
「やった、ついに、ついにできたわ。これであの男を超えられ...
トリスタニアにある王立魔法研究所の一室で、一人の女性研究...
手には外注していた量産品の試験結果を示す書類が握られてい...
彼女の名はエレオノール。トリステインでも有数の名士、ヴァ...
今年で2X歳(やんごとなき理由ににより伏せられています)に...
家柄、容姿、そして才能と、そのすべてにおいて人より優れる...
たった一つだけ、手にすることができないでいた。言うまでも...
いや、むしろ語ることすら憚られる、というものだ。
「よし、今日は自分へのご褒美よ。かわいいお洋服も、アクセ...
「それから、夜のお店でご馳走食べておいしいお酒も飲んで、...
「うん、ちょっと羽目をはずし過ぎちゃうのもいいかしら。
お酒で足元がおぼつかないところに若くて格好いい紳士様が通...
『お嬢さん、いかが致しました? こんなになるまで飲まれる...
何かつらいことでもおありですか?』って。それで私は『そん...
そうすると事情を察したその方は何も聞かずにご一緒してくだ...
そんないい男が王都にいるかどうかは分からないが、もちろん...
「けどいいムードになった二人にも別れの時間が近づいて、紳...
そして私は優雅にしなだれかかって『いえ、どうか今宵だけで...
『わかった、何も聞かず一緒に』って答えが帰ってきたりして…...
独りでぶつぶつ言いながら両手をほんのり染まった頬に当てて...
あのルイズの独り芝居癖が誰の影響であるか、よく分かるとい...
「……はぁ。バカバカしい。そんなことあるわけないじゃない、...
エレオノールは冷静に呟くと手早く帰り支度を始める。
知り合いに見つかって涙目で身投げをする誰かさんとは違い、...
「お先に失礼致します」
他の部屋の研究員に声をかけつつ、彼女は普段より少し早い時...
136 名前:ラ・ヴァリエールの娘[sage] 投稿日:2006/12/11(...
「いらっしゃいませ〜」
こんばんは、と答えてエレオノールは店内に入る。
両手には先ほど買った大量の「自分へのご褒美」が入った袋を...
職業柄、いつもいつも従者を伴うわけではないし、一人のほう...
末の妹を引っ張りに魔法学院へ赴いた時とは言っていることが...
時と場合に応じた振る舞いというものである、たぶん。
「あら、エレオノールさん、こんばんは。どうしたの? なん...
なにかいいことでもあったのかしら?」
ぴったりとした皮の胴着に身を包む屈強な男が女言葉で尋ねる。
「ええ、まあ。カウンター、空いてる?」
「空いてるわ。予約も入ってないし、よければ貸し切るわよ?」
「ありがとう、スカロンおじさま。嬉しいわ」
ここは『魅惑の妖精』亭。トリスタニアの中でも由緒正しい名...
要人から街の衆まで、誰もが楽しめることを目指して今宵も明...
ただ、立地と、店長の姿だけが問題といえば問題だろうか。
しかしながら歴史を遡ればそもそもチクトンネ街は本来……いや...
「なんのなんの。エレオノールさんは上得意様ですもの。
……あ、気に障ったらごめんなさいね。あたしったら、失礼なこ...
「いいのよ、事実ですもの。それに、いつもたっぷりサービス...
「あぁん、あ・り・が・と。それじゃ、ごあんな〜い」
野太い嬌声に導かれ、二人は店の奥へと入っていった。
豪華な料理に舌鼓を打ちながら、エレオノールは満足そうに時...
「そーなのよ。二十年位前に実験小隊の隊長が考案したってい...
あれの小型化に成功したのよ。量産化の目途もたってるし、こ...
そう自慢げに話す。相手の魔力を追尾して飛ぶ魔法弾の最小、...
もともとの理論では艦載砲の弾にするのが精一杯だったが、彼...
使うことができるほどになった。王女時代からのアンリエッタ...
これはこれで少々複雑でもあった。メイジには魔法弾などいら...
平民に余計な力を持たせるだけになってしまわないだろうか、...
「ねえねえ、けど、それって重要な機密なんじゃないの? こ...
エレオノールは我に返る。けど、少しくらいこの成功に酔って...
「なにをおっしゃるの、ここはおじさまのお店でしょう? そ...
「あらら、じゃあたしの責任重大ってことね」
「そうですわよ、おじさま」
エレオノールは満面の笑みを浮かべる。まるで少女のようなそ...
引き合いに出すなら、ルイズの笑顔に大人の色香が加味されて...
137 名前:ラ・ヴァリエールの娘[sage] 投稿日:2006/12/11(...
「ちょっと失礼、下がるわ」
スカロンが所用でカウンターの奥にさがった。その瞬間を見計...
「お嬢さん、お一人ですか?」
「そんなところでオカマと話してないで、どうです? 俺たち...
「なにか御用でしょうか?」
エレオノールは極上の笑顔を作って振り返る。氷の微笑と形容...
誰もが振り返るクールビューティと言ってもいいほどである。...
「え、ええ。美しいご婦人よ、いかがでございましょう?
私どもの宴席にそのきらびやかなお姿を、添えてはいただけな...
三人組のリーダー格らしき男は、ほんの少しの動揺を見せつつ...
食い下がるつもりか、適当に誤魔化すつもりなのか、いずれに...
「……ちっ……」
しかしリーダーの苦心もむなしく、一人が小さく舌打ちをして...
さらには困ったことに、その顔には「ババァじゃねえか」とは...
「なにかご不満?」
エレオノールは耳ざとくその音を捉えていた。露骨に不機嫌そ...
「いえいえ、めっっそうもございません。この男、自分に自信...
貴女様のようなご婦人をお見かけしても私たちには高嶺の花と...
そのような振る舞いは失礼極まりないと、このような場でなく...
なかなか直してくれなくて。ああ、本当に申し訳ないことです」
「そう…………そう?」
エレオノールの不機嫌は収まらない。
「まことに失礼を致しました。お詫びといっては恐縮ですが、...
こちらは私どもが持たせていただきます。どうかご機嫌を……」
「そんなこと頼んでない」
答えはそっけない。
「ああ、精一杯誠意を尽くさせていただきたく存じます。なに...
エレオノールの反応を察して、男は戦略を変える。とりあえず...
別の女に声をかけることにしようという考えであった。
「ああ、ほんとうに、ご無礼をお許しください。しかし、更な...
夜も更けますれば、いっそう無礼な手合いに遭わんとも限りま...
お美しい貴婦人よ、遅くまで家をお空けになっては旦那様もご...
「ぁん? 旦那様、ですって?」
エレオノールの反応に、男はしまったという顔をする。
年増とはいえ極上の美人、しかし店長と親しいという時点で警...
まことに男の欲望とは文字通り、罪深いものである。
「なんだ、往かず後家かよ、けっ」
先ほど舌打ちをした男がよりによって最悪の言葉を吐く。
「ちょ、おまっ」
リーダーの顔は真っ青になっていた。さすがに誤魔化しようが...
138 名前:ラ・ヴァリエールの娘[sage] 投稿日:2006/12/11(...
地雷は見事に炸裂した。
「あんたら何様よ。礼儀を知ってたらできないようなことばっ...
こっちは一人でいたいのに声かけといて、歳が分かったら手の...
女漁りだったらね、もっとそういうことに適した店でやんなさ...
あんたらみたいな連中がでかい顔できるようなところじゃない...
それくらい知っておきなさい。知らなかったのならいまここで...
本来なら敷居をまたぐことだって許されないくらいなのよ。分...
しかもそんなくたびれた格好で。恥を知りなさい。大方どこぞ...
流れてきたってところなんでしょうけど。さっさと帰るか、ち...
どうせ金持ってないんでしょ。それともろくでもない稼ぎ方を...
ここ最近やっと治安が戻ってきたところですからね。金づる探...
だいたい一人の女に三人がかりって根性が気に食わないわ。私...
それからどうするつもりだったの? ま、そんなことありえま...
で、あと二人探すの? それとも三人で仲良く分けるの? 冗...
あんたたちみたいな汚らわしい野郎どもとこうしてるだけでも...
「あんだとこのアマぁっ」
「うるさいな。それで脅したつもりなの? 怒鳴り声だけで女...
見下げ果てた野郎よね。そうやって威嚇して見せるのもいいけ...
暴力をちらつかせるなんて、まともな貴族のすることではない...
はぁ、で、三下の分際でこの私に声をかけといて、覚悟はでき...
始祖ブリミルの名の下に地獄へ落ちるか、さっさと御代を払っ...
まああんたたちに選ぶ権利はありませんけど?」そこで一息つ...
「いいから消えなさい、ってんのよこの下衆野郎」
店内にどよめきがこだまする。一気にまくし立てたエレオノー...
どうやら三人組はエレオノールに声をかける前からすでに店内...
「がたがた言ってんじゃねえよちくしょっ」
男がこぶしを振り上げた、そのとき――
139 名前:ラ・ヴァリエールの娘[sage] 投稿日:2006/12/11(...
「おやめください」
割って入ったのは年のころ15、6の少年だった。
自分より頭ひとつ以上大きな男の腕を掴み、身動き一つとらせ...
「……ん……なんだコイツぁ」
少年が手を離す。
「失礼致しました、旦那様がた。されどここは皆で歓談を楽し...
腕試しでしたら、どうか私どもの店より相応しいところでお願...
お代は結構でございます。どうかお引取り頂きますよう」
「なにぃ」
男がすごもうとするが、少年は深々と頭を下げたまま少しも動...
「あらあら、どうなすったの?」
店の奥から、スカロンが現れた。
オーク鬼だろうが翼竜の眷属だろうが軽く倒してしまいそうな...
「ちっ、失礼しますよ」
スカロンの姿を見て、リーダー格が捨て台詞を残して踵を返す。
後の二人もそれに続いた。
「はぁ……なんかやんなっちゃうなぁ。せっかくのいい日だった...
三人組を追い払ったあと、店内には楽しげな空気が戻っていた。
「ごめんなさいね。どうも最近はああいう手合いがたまに来る...
けどお客さんだからお断りするわけにも行かなくて……」
「おじさまは気にしないで。悪いのはあいつらなんだし。あれ...
「ええ。いいわよ。シングル?」
「ダブルで、いえ、やっぱりグラスでいただくわ。ロックでお...
そんなに飲んでいいの? と尋ねるスカロンに、
エレオノールは、大丈夫よ。いまはたっぷりと飲みたいの、と...
「かしこまりました」
スカロンは恭しく頭を下げると、店でも最上級の蒸留酒を棚か...
エレオノールのボトルキープである。他には、アンという名札...
手早く準備してそっとエレオノールの前に差し出す。
「サービスよ」
「うそ。おじさまったら、またそんなこと言って」
エレオノールはクスリと笑って一口。ボトルキープは前払いで...
「ええ、また、なのよ。ごめんなさいね。でもドキッとしなか...
「んもう、しないわよ」
とっておきの酒の魔力なのか、まるで魔法の妙薬を飲んだよう...
「それじゃ、お話しの続きを聞きましょうか」
140 名前:ラ・ヴァリエールの娘[sage] 投稿日:2006/12/11(...
それからまた小一時間が過ぎる。
エレオノールは見事に出来上がっていた。無論、最上級の貴族...
「そろそろ失礼するわ。お代は……そうね、これをとっておいて」
そう言って戸口で一枚の金貨を差し出す。
「まあまあ、今日はサービスにしようと思っていたのに。こん...
とはいうものの、スカロンに断ることはできない。貴族の支払...
「ええ。もちろん、お釣りはいりませんわ」
微笑みを残して帰ろうとするエレオノールをスカロンが呼び止...
「ちょっと待ってて。ジュリア〜ン、そこにいるかしら? お...
「はい、ただいま」
スカロンに呼ばれて先ほどの少年が出てきた。
「エレオノールさんを送って差し上げなさい。もうこんな時間...
「はい。ではしばし、お時間を」
ジュリアンは再び奥へ下がる。
「一人でも大丈夫ですのに」
「いいえ。馬車を呼ぶか、ジュリアンを連れるか、どちらかに...
「心配するほどじゃないわ。ほら」
しかし、スカロンの見たとおり、言葉と裏腹にエレオノールは...
それを自覚してもいるのか、彼女はスカロンの厚意を受けるつ...
「お待たせしました」
ジュリアンが戻る。服装はそう変わらないが、履物が違ってい...
平時から不意の戦いに備える兵士のそれである。
「しっかりお勤めは果たしなさいね。ついでに、大人の女を教...
「まぁ、店長ったら。なんてことを言うのかしら」
そうは言うものの、エレオノールの表情は柔らかい。
「それじゃ、失礼するわ」
エレオノールの言葉を合図に、ジュリアンは荷物を手に取った。
「ジュリアン、これを」
どこから出してきたのか、スカロンは使い込んだ感じの木刀を...
「念のため、よ」
141 名前:ラ・ヴァリエールの娘[sage] 投稿日:2006/12/11(...
二人は並んで、エレオノールの住まいに向かっていた。
ジュリアンはエレオノールの荷物を持ち、彼女に合わせるよう...
「あなた、勇気があるのね。お店の子? 店長の息子さん?」
「いえ、甥です。店には非番の日や訓練の早く終わった時に手...
「軍人さんなのね。どうりで。そういえば、あなたみたいな子...
……ところで、お国はどちら?」
「タルブの村です」
「あら、それじゃあ……あの、ごめんね?」
エレオノールの顔が少々曇る。先の戦争ではタルブの村が最初...
彼女も知っていた。多くの犠牲を伴ったとも聞いている。
「あ、その、村の者は全員無事でした。ヴァリエールさまと使...
竜の羽衣をで村を守ってくれたと、そのように聞いています」
「ヴァリエール? ルイズのことかしら? あのおちび……」
「あの、もしかして……エレオノールさまは」
エレオノールの呟きに質問が割って入る。場が場なら差し出が...
ジュリアンはしまったという顔をしたが、エレオノールはそれ...
「ええ、そうよ。ラ・ヴァリエール家の長女、エレオノールと...
「はい。店の女の子の間でも隊でも、エレオノールさまは皆の...
お美しくて、気高く優雅で、それでいながらとても活動的で魔...
一度お会いできたら、などとひそかに思っておりました」
実際に、彼女を知るものの間でのエレオノールの評判は高い。...
「あらあら、お世辞なんて止して。幻滅したでしょう? この...
「お世辞なんかじゃありません。はじめてお会いして、その、...
ジュリアンは赤面して口ごもる。女慣れしない少年の反応だっ...
142 名前:ラ・ヴァリエールの娘[sage] 投稿日:2006/12/11(...
「ふふっ、ありがとう、嬉しいわ。けどね、あなたくらいの子...
年上の女はみんな綺麗に見えるものなのよ。ほんとうの姿の何...
それに他にもよく聞くんじゃないかしら? ヴァリエールの長...
婚約を潰した自分を笑うように、エレオノールは悲しそうな表...
ジュリアンは意見を言おうかと思い、戸惑った。貴族に対して...
しかし、憧れの人に出会ったという喜びと、その人の見せる憂...
「そ、その、私には貴族様のことはよく分かりませんけど、仕...
そうでない方とはやはりご事情も異なるのではないかと思いま...
なければよいのですが、大きく見れば仕事にでるか、社交場に...
純朴で誠実な少年らしい言葉である。貴族の現実を知らぬゆえ...
「そうよね、私もそう思ってた。けど、私の夫になろうとした...
それにね、上手くいかないのは仕事を持ってるから、ってだけ...
けど、あなたのような人がもっといたら、もしかしたら……なん...
エレオノールは寂しそうな表情を漂わせてジュリアンに笑いか...
「あなたも直にもっと大きくなって、強くなって。きっと格好...
そのころには綺麗な若い子もいっぱい集まるんでしょうよ。私...
あ、けど大きくなったらスカロンさんみたいになっちゃうのか...
143 名前:ラ・ヴァリエールの娘[sage] 投稿日:2006/12/11(...
そのとき、二人の後ろにただならぬ気配が現れた。
先ほどの三人組だ。それぞれに杖を構え、二人を睨んでいる。...
振り返って男たちを見たエレオノールは、毅然とした態度をと...
「益のない私闘は禁止されています、杖をお下げなさい」
「かぁんけえねえってんだよ!! はじかかせやがって」
中央に立つ男が罵るように吼えた。
「お前は黙ってろ。まあ、あのようにあしらわれては私として...
この際、理性的な判断は関係ありません。小競り合い程度なら...
男の言葉が終わるや否や、二つの影が二人の前に現れていた。
無口な三人目の男が作ったのだろう、特徴のない、大人の男よ...
「少々憂さを晴らさせていただけないかと存じます」
聞く耳など持たぬかのような男たちの態度に、ジュリアンは荷...
スカロンから渡された長い木刀を握り、呼吸を整える。
「すみません、破片が飛び散ったらごめんなさい」
エレオノールが返事をする間もなく、ジュリアンは駆け出して...
素早く一体の左前から懐に飛び込み、脇を切りあげるように打...
さらに右後ろに軽く下がり、姿勢を整えると上段から振りかぶ...
瞬く間にゴーレム二体を叩き壊し、三人を真正面に見据えて正...
ジュリアンの無駄のない鮮やかな動きにエレオノールは見惚れ...
ハッとして我にかえると、荷物の中から杖を出して構え、素早...
相手も同じように杖を構えていた。その瞬間、ジュリアンの姿...
瞬く間に、木刀を左下に構えて三人に向かって風のように駆け...
一呼吸おくまもなく間合いを詰める。素早い動きに中央の一人...
これで詠唱は中断、ジュリアンは標的を変えた。
男の横を通り過ぎると左側の男の杖を狙って横薙ぎに一閃。
そのまま飛び込んで後退り気味の下腹部を狙って飛び蹴り、男...
着地してワンステップ後ろにさがり、下段の後ろ回し蹴りを膝...
足技を食らった男の体は宙に浮き、やがて背中から落下する。...
二人の男はあっけなく気を失っていた。
ジュリアンは倒れた男を見下ろしながら、相手が鍛錬の足りな...
最後に残ったリーダー格の男はすでに詠唱を完成させていた。
しかし、どちらに向けて放つべきかと躊躇った瞬間に、エレオ...
勢いのあるエア・ハンマーに男はあっけなく倒れた。
「……あたしだって、実験室にこもるばかりが能じゃないのよ」
エレオノールは自分だけに聞こえるように呟いた。
144 名前:ラ・ヴァリエールの娘[sage] 投稿日:2006/12/11(...
その後、二人は男たちの杖を拾い、最寄の衛士所に届けてしか...
「今日は二度も助けていただいたわね。ありがとう、小さな騎...
「そんな、もったいないお言葉です」
「何を仰るの、こちらは安売りしても余るくらいなのよ?
ふふっ。さ、ほら。どうぞ受けてくださいまし」
そう言ってエレオノールは手の甲を差し出した。戸惑うジュリ...
「ね、そんなに遠慮したら、かえって失礼なのですよ?」
「では、失礼致します」
「けれど、本当に強いのね。剣術は誰に習ったの?」
「祖父です。祖父は曾御祖父様から受け継いだといっていまし...
父も叔父も私より優れた打ち手ですし、実は姉にも一度も勝っ...
ジュリアンは少しだけかしこまって答えた。武人の血がそうさ...
「そうなの。スカロンさんってそんなに強かったのね」
そういえば、確かにそんな雰囲気はあったかもと彼女は思う。
「お姉さんも強いの?」
「ええ。姉には一生敵わないのではないかというくらいです」
そう言ってジュリアンはばつの悪そうな、しかし朗らかな表情...
この姉弟の関係はどんなものだろうと考え、そして自分たち三...
体が弱く自由のないカトレア、魔法がろくに使えない末のルイ...
それから、ルイズの使い魔だというあの少年。
彼が単独で七万の大軍を足止めし、生還して騎士になったこと...
話にある程度の尾ひれが付いてはいるのだろうが、彼女自身、...
もしかしたらと思うふしはある。でなければ騎士隊の副長には...
あの少年、サイトとどこかしら似た雰囲気のあるジュリアンを...
この子も間違いなく優秀な騎士になれるだろう。
「しかし、私などが前に出てしまって、お邪魔ではなかったで...
エレオノールさまほどの使い手でしたら、彼らなど難なく……」
彼女はその言葉を優しく制止する。
「いい? 女の子はね、どんな時でも守ってもらえたら嬉しい...
145 名前:ラ・ヴァリエールの娘[sage] 投稿日:2006/12/11(...
「お前たちは揃いもそろって、あれか、黒髪の平民か。エレオ...
その後、エレオノールはいろいろと根回しをしたうえでジュリ...
「ですから、ジュリアンを婿に入れるとか、彼のところへ輿入...
そんな無茶なことを申しているのではありません」
「口先だけで何を言うか。お前は昔からそうだったぞ。熱を上...
あの少年を自分の部下にするよう取り計らえだと? 新しい実...
それなら事実上可能だが、しかし武勇に優れた平民に魔法剣を...
「さすがはお父様ですわね」
「そんなに都合よく有能な平民が集まるわけなどない。平民で...
領主が手元に置きたがるものだ。喜んで差し出すはずなどなか...
読み書きを教え、貴族と同等の教養を身につけさせ、さらに訓...
どれだけ予算がかかると思っておる?」
「それをお父様が出せばよろしいではありませんか」
「まことになんという!! ああもう、まったく!!」
ヴァリエール公は年甲斐もなく苦悩に悶えていた。確かにヴァ...
よく働いてくれる領民たちのおかげで相変わらず景気がいい。
神聖アルビオンとの戦争も無事に乗り切っていた。予算面での...
ふと思いついたように言う。
「だいたいあの鳥の骨が許すはずなかろうて」
「これを」
エレオノールは一通の書状を差し出す。公の顔色が変わった。
「かーっ!! 鳥の骨め、何を考えておるというのだ? 認めん...
146 名前:ラ・ヴァリエールの娘[sage] 投稿日:2006/12/11(...
これにて終了です。長々と失礼しました。
自分が投稿するのは二作目なんですけど、やはり上手い人と比...
では失礼ノシ
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