ゼロの使い魔保管庫
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王国の辺境にだって村はある。
トリスタニアから南に伸びる街道を、山を越え森を潜り、ずっ...
その村は一組の夫婦の率いる開拓団が開墾した土地に作られた...
海岸沿いの岩壁から取れる石灰岩と、海沿いにある森林から取...
そのダイバの村の入り口近くには、村長夫婦の経営する、宿屋...
その宿屋の入り口から、少年が出てきた。
少年は朝日に目を細めると、んー、と伸びをする。
少年の顔かたちは辺境の平民にしては整っており、健康的に灼...
少年は一息つくとすぐに海岸に向かって駆け出す。
日課の、朝の荷運びだ。
彼の仕事は朝一番に海岸に向かい、父の採ってきた魚介類を受...
五分ほど駆けていくと、すぐに海岸線が見える。
まだ登ったばかりの朝日を背に、何艘かの船が海岸に着いてい...
「父さん!」
少年の澄み切った声が船を牽く男達に届く。
そのうちの一人、ぼさぼさの黒髪に伸び放題の髭を生やしたむ...
少年はすぐにそちらに駆け寄る。
「どう?今日は沢山採れた?」
言いながら少年は船の上に設えられた大きな木箱を覗き込む。
その中は、活きのいい魚で溢れかえっていた。
「まあまあかな。大物はないけど、今日は青魚のいいのが取れ...
言って男は木箱に手を突っ込んで、暴れまわる短い丸太のよう...
それは、少年の大好物だった。
母の作る、この魚を使ったスープが、少年は大好きだった。
思わず顔をほころばせる少年に、父以外の漁師の一人、剥げた...
「ほれ、今日の取り分もってきな!
あと、ママさんによろしくな。今日も呑みにいくからってよ...
「こらお前ら、人の嫁に手ぇ出すんじゃねえよ」
不器用にウインクする剥げの漁師に、少年の父は釘を刺す。
漁師達はその言葉にがははは、と下品に笑い、バーカ眺めるだ...
少年の父は漁師達と一緒に笑い、そして少年に言った。
「じゃ、俺は網直して帰るからさ、シモン先に帰ってな」
「うん、父さん!」
少年、シモンはにっこり笑うと、家路についた。
少年の名はシモン。
家名はない。両親が家名を持たないからだ。
彼が生まれたのは、このダイバの村ではない。トリスタニアの...
少年の両親は、少年が物心ついたときには開拓団を率いていた。
十数人の旅団を組み、定住する先を探していたのである。その...
そして数年前、開拓団はこのダイバの地に辿り着いた。
ここはもとは、トリステイン王国の貴族、コルベール伯爵領の...
そこをシモンの両親の開拓団が開拓し、村を作ったのだ。
風光明媚で魚介類も沢山取れ、年間を通して農作物の取れるこ...
シモンはこのにぎやかな南の村が大好きだったし、その村長を...
その両親の名は、サイトと、アン。
素性は不明だが、開拓団古参の村人の話によれば、二人は昔貴...
貴族の生活にあこがれないわけではなかったが、今の生活も十...
しかしその日、その平穏はあっさりと崩れ去った。
シモンがこの村唯一の宿屋である我が家の異変に気付いたのは...
「あれ?」
家の前に、町の家々の負けないくらい真っ白な、立派な六頭立...
一目で、大貴族の乗る馬車だと、幼いシモンにも理解できた。
その馬車の扉が開き、小さな女の子が飛び降りてきた。
栗色の長いウェーブのかかった髪を揺らして、元気に飛び出す。
その勢いで羽織った黒いマントがふわりと浮き、その下の白い...
「ママ!ここ、とってもいいところね!」
馬車の中に向けて、甲高い声で少女はそう言って、辺りを見渡...
すると、その様子を見つめていたシモンと目が合った。
まずい、貴族と会ったらどうするんだっけ。
突然の事態に、シモンの頭の中は混乱してしまう。
「ねえ」
気がつくと、目の前にさっきの少女がいた。
「うわぁっ!?」
シモンは驚いて数歩、後ずさってしまう。
い、いつの間に?
「あなた、この町の子?」
「う、うん、そうだけど」
いきなりの接近に、貴族に対する礼儀とか、母から教わったそ...
「じゃ、この町案内して!私ここ初めてだから!」
言って少女は遠慮なくシモンの手を握って歩き出す。
「え、まってよいきなりそんな!」
「ゴチャゴチャいわない!貴族の言う事は聞きなさい!」
いきなりそんな無法を言って、少女はシモンを引きずって歩き...
「うわぁ!なんてきれいな青!」
少女は海に着くなり、感動して声を上げた。
シモンは毎日見ているこの海だったが、たしかに初めて見たと...
「すごいわ!これだけでもここに来た甲斐があるってものよ!」
少女はそう言ってはしゃぎ、くるくると回る。
シモンは早く魚を家に届けたくて気が気ではなかった。
少女に、もう帰っていいかな、と言おうとしたシモンだったが...
「ありがとう!あなたのお陰でいいものが見れたわ!
そういえば聞くの忘れてたけどあなた名前は?」
矢継ぎ早にそう聞いてくる。
シモンは少女の勢いに思わず応えてしまう。
「シモン」
「そう。じゃあ私も名乗らなきゃね。
私の名前はマナ・フランシスカ・ド・ヒラガ・ル・ブラン・...
フルネームは長いから、マナでいいわよ」
言ってにっこりと笑う。
やっぱり貴族だったんだ、と思うと同時に、シモンは違和感を...
このマナという貴族の娘、貴族にしてはあまり平民を見下して...
平民のシモンに対して、あまり偉ぶった態度を見せない。
「君、本当に貴族なの?」
だからシモンがそう思ってしまった事も無理のないことで。
「…それ言われたの今年に入って五度目。
ママからもよく言われるのよ。もうちょっと貴族らしくなさ...
でも私、『貴族らしく』って性に合わないのよね。なんかそ...
言ってシモンの顔を覗き込む。
「そういうあなたこそ、平民のくせにえらく整った顔してるじ...
ひょっとして、どっかの貴族の隠し子とか!」
冗談のつもりでそう言ったマナだったが、
「ひょっとすると、そうかもしれないんだ」
「え」
シモンの回答に面食らってしまう。
「あ、でも隠し子ってんじゃないよ。うちの父さんと母さんが...
村の人もそう言ってるし」
「ふうん。没落貴族の落とし子ってわけ。なかなかステキな生...
言ってマナはシモンの顔を覗き込むように見つめる。
整った顔を近づけられ、思わずシモンは赤面する。
すると、その整った顔が歪んだ。
整った顔は思い切り歪んで、その後鼻をつまんでシモンから一...
「何この匂い!くっさぁ!」
「あ、魚もってるから…って、早く家に届けなきゃ!」
シモンは慌ててびくを抱えなおし、もう一度家路を走る。
その後から、ちょっと離れて、マナがついてきた。
そして、シモンが家に着くと。
食堂を兼ねる一階で、母と見慣れない桃色の髪の女性が、もめ...
「いい加減意地を張るのは止めて下さい、女王陛下!」
「…今の私は、女王ではありません。あなたこそ、こんな所にい...
第二王位継承者でしょう。ルイズ・フランソワーズ」
…その、桃色の髪の貴族の女性は、母の事を、今確かに『女王陛...
一体、どういう事なんだ?
その後ろから、マナが顔を出す。
「…あれ?ママなんでこんなとこに」
マナはシモンを置いてとことこと肩を震わせる桃色の髪の女性...
「ルイズママどうしたの?そんな怒って」
語りかけられると、その桃色の髪の女性は勢いよく振り向く。
その顔はマナにそっくりで、二人の血の繋がりを感じさせた。
…あれ?この人、どこかで見たような…。
シモンが記憶の糸を手繰ろうとすると。
その女性と目が合った。
「…じゃあ、あの子だけでもつれて帰ります」
その女性は、獲物を見つけた目で、シモンを睨む。
シモンの背筋に悪寒が走る。それは、遺伝子レベルで刷り込ま...
「ダメです!あの子は、シモンだけは!」
言って母、アンはその桃色の髪の女性とシモンの間に割っては...
「なら、お戻りください。トリステインには、あなたが必要な...
「…いえ!いいえ!国に必要なのは王ではありません!国を支え...
「それは理屈です。王を戴かない国など、舵のない船も同じ。...
二人はその場で言い合いを始める。
そして、その言葉に、シモンは衝撃を受ける。
自分の母は。女王なのか…?
その疑問に、無視されて膨れていたマナが応えた。
「そっかー。あなたのお母さん、アンリエッタ女王だったのね」
大して驚いていないマナの様子に、シモンはさらに驚き、言葉...
「なんか驚いてるみたいね。私も驚いてるけどね。
でもママに聞かされてたから。この村に、かつて出奔した女...
そしてマナは、シモンの知らなかったトイステインの最近の歴...
十数年前、トリステインにはアンリエッタ女王という、気高く...
ところが、その女王は一人の騎士と恋に落ち、全ての地位をか...
ラ・ヴァリエールはその血筋と功績で新たな王家となり、今の...
そこでラ・ヴァリエールは、あくまで一時的な代理として王家...
「そしてついに、女王陛下を見つけたってわけ」
シモンはまだ信じられない。
目の前で桃色の髪の女性と喧々囂々やりあっている母が。
毎朝、昼の仕込みに汗だくになって調理をする母が。
夜は、村の皆にせがまれて優しく歌う母が。
まさか、かつて王国を出奔した女王であるとは。
そんな中。
「ただいまー。なんか軽く食えるもん作ってよ、アン〜」
呑気な声をあげて、父が帰ってきた。
「あ」
「あ」
二人の女性がそっちを向き。
その場の空気が一瞬にして変化する。
「みつけたわよぉぉぉぉぉぉこの破廉恥犬ぅぅぅぅぅぅぅ」
「…ま、まさかその懐かしい呼称は…!ルイズか!」
「に、逃げてくださいサイトさん、シモンを連れて逃げて!」
「逃がすかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
今までの厳かな空気はどこへやら。
ルイズと呼ばれたその女性はまるで肉食獣のように父に飛び掛...
何が起きているのか理解できないシモンに、マナが説明する。
「…そう、んであの人が女王陛下なら、あの人の夫は、私のお父...
え、とシモンの目が点になる。
「ママの話によると、私のお父さんってば、ものすごい種馬だ...
あっちこっちに何人か、私の腹違いの兄弟がいるみたい。
確認してるだけでも、あなた含めて7人」
シモンの開いた口がふさがらなくなる。
「この分だと、あなたと女王様連れてトリスタニアに帰るのは...
うちのママ、こうと決めたことはゼッタイ譲らないからねー」
シモンは完全に混乱していた。
だから、目の前のとんでもない状況よりも、今晩母がちゃんと...
そして、この後、シモンたち一家はトリスタニアに半ば強制的...
王侯貴族を巻き込んで、トリステインの王位争いに巻き込まれ...
それはまた、別の話。〜fin
終了行:
王国の辺境にだって村はある。
トリスタニアから南に伸びる街道を、山を越え森を潜り、ずっ...
その村は一組の夫婦の率いる開拓団が開墾した土地に作られた...
海岸沿いの岩壁から取れる石灰岩と、海沿いにある森林から取...
そのダイバの村の入り口近くには、村長夫婦の経営する、宿屋...
その宿屋の入り口から、少年が出てきた。
少年は朝日に目を細めると、んー、と伸びをする。
少年の顔かたちは辺境の平民にしては整っており、健康的に灼...
少年は一息つくとすぐに海岸に向かって駆け出す。
日課の、朝の荷運びだ。
彼の仕事は朝一番に海岸に向かい、父の採ってきた魚介類を受...
五分ほど駆けていくと、すぐに海岸線が見える。
まだ登ったばかりの朝日を背に、何艘かの船が海岸に着いてい...
「父さん!」
少年の澄み切った声が船を牽く男達に届く。
そのうちの一人、ぼさぼさの黒髪に伸び放題の髭を生やしたむ...
少年はすぐにそちらに駆け寄る。
「どう?今日は沢山採れた?」
言いながら少年は船の上に設えられた大きな木箱を覗き込む。
その中は、活きのいい魚で溢れかえっていた。
「まあまあかな。大物はないけど、今日は青魚のいいのが取れ...
言って男は木箱に手を突っ込んで、暴れまわる短い丸太のよう...
それは、少年の大好物だった。
母の作る、この魚を使ったスープが、少年は大好きだった。
思わず顔をほころばせる少年に、父以外の漁師の一人、剥げた...
「ほれ、今日の取り分もってきな!
あと、ママさんによろしくな。今日も呑みにいくからってよ...
「こらお前ら、人の嫁に手ぇ出すんじゃねえよ」
不器用にウインクする剥げの漁師に、少年の父は釘を刺す。
漁師達はその言葉にがははは、と下品に笑い、バーカ眺めるだ...
少年の父は漁師達と一緒に笑い、そして少年に言った。
「じゃ、俺は網直して帰るからさ、シモン先に帰ってな」
「うん、父さん!」
少年、シモンはにっこり笑うと、家路についた。
少年の名はシモン。
家名はない。両親が家名を持たないからだ。
彼が生まれたのは、このダイバの村ではない。トリスタニアの...
少年の両親は、少年が物心ついたときには開拓団を率いていた。
十数人の旅団を組み、定住する先を探していたのである。その...
そして数年前、開拓団はこのダイバの地に辿り着いた。
ここはもとは、トリステイン王国の貴族、コルベール伯爵領の...
そこをシモンの両親の開拓団が開拓し、村を作ったのだ。
風光明媚で魚介類も沢山取れ、年間を通して農作物の取れるこ...
シモンはこのにぎやかな南の村が大好きだったし、その村長を...
その両親の名は、サイトと、アン。
素性は不明だが、開拓団古参の村人の話によれば、二人は昔貴...
貴族の生活にあこがれないわけではなかったが、今の生活も十...
しかしその日、その平穏はあっさりと崩れ去った。
シモンがこの村唯一の宿屋である我が家の異変に気付いたのは...
「あれ?」
家の前に、町の家々の負けないくらい真っ白な、立派な六頭立...
一目で、大貴族の乗る馬車だと、幼いシモンにも理解できた。
その馬車の扉が開き、小さな女の子が飛び降りてきた。
栗色の長いウェーブのかかった髪を揺らして、元気に飛び出す。
その勢いで羽織った黒いマントがふわりと浮き、その下の白い...
「ママ!ここ、とってもいいところね!」
馬車の中に向けて、甲高い声で少女はそう言って、辺りを見渡...
すると、その様子を見つめていたシモンと目が合った。
まずい、貴族と会ったらどうするんだっけ。
突然の事態に、シモンの頭の中は混乱してしまう。
「ねえ」
気がつくと、目の前にさっきの少女がいた。
「うわぁっ!?」
シモンは驚いて数歩、後ずさってしまう。
い、いつの間に?
「あなた、この町の子?」
「う、うん、そうだけど」
いきなりの接近に、貴族に対する礼儀とか、母から教わったそ...
「じゃ、この町案内して!私ここ初めてだから!」
言って少女は遠慮なくシモンの手を握って歩き出す。
「え、まってよいきなりそんな!」
「ゴチャゴチャいわない!貴族の言う事は聞きなさい!」
いきなりそんな無法を言って、少女はシモンを引きずって歩き...
「うわぁ!なんてきれいな青!」
少女は海に着くなり、感動して声を上げた。
シモンは毎日見ているこの海だったが、たしかに初めて見たと...
「すごいわ!これだけでもここに来た甲斐があるってものよ!」
少女はそう言ってはしゃぎ、くるくると回る。
シモンは早く魚を家に届けたくて気が気ではなかった。
少女に、もう帰っていいかな、と言おうとしたシモンだったが...
「ありがとう!あなたのお陰でいいものが見れたわ!
そういえば聞くの忘れてたけどあなた名前は?」
矢継ぎ早にそう聞いてくる。
シモンは少女の勢いに思わず応えてしまう。
「シモン」
「そう。じゃあ私も名乗らなきゃね。
私の名前はマナ・フランシスカ・ド・ヒラガ・ル・ブラン・...
フルネームは長いから、マナでいいわよ」
言ってにっこりと笑う。
やっぱり貴族だったんだ、と思うと同時に、シモンは違和感を...
このマナという貴族の娘、貴族にしてはあまり平民を見下して...
平民のシモンに対して、あまり偉ぶった態度を見せない。
「君、本当に貴族なの?」
だからシモンがそう思ってしまった事も無理のないことで。
「…それ言われたの今年に入って五度目。
ママからもよく言われるのよ。もうちょっと貴族らしくなさ...
でも私、『貴族らしく』って性に合わないのよね。なんかそ...
言ってシモンの顔を覗き込む。
「そういうあなたこそ、平民のくせにえらく整った顔してるじ...
ひょっとして、どっかの貴族の隠し子とか!」
冗談のつもりでそう言ったマナだったが、
「ひょっとすると、そうかもしれないんだ」
「え」
シモンの回答に面食らってしまう。
「あ、でも隠し子ってんじゃないよ。うちの父さんと母さんが...
村の人もそう言ってるし」
「ふうん。没落貴族の落とし子ってわけ。なかなかステキな生...
言ってマナはシモンの顔を覗き込むように見つめる。
整った顔を近づけられ、思わずシモンは赤面する。
すると、その整った顔が歪んだ。
整った顔は思い切り歪んで、その後鼻をつまんでシモンから一...
「何この匂い!くっさぁ!」
「あ、魚もってるから…って、早く家に届けなきゃ!」
シモンは慌ててびくを抱えなおし、もう一度家路を走る。
その後から、ちょっと離れて、マナがついてきた。
そして、シモンが家に着くと。
食堂を兼ねる一階で、母と見慣れない桃色の髪の女性が、もめ...
「いい加減意地を張るのは止めて下さい、女王陛下!」
「…今の私は、女王ではありません。あなたこそ、こんな所にい...
第二王位継承者でしょう。ルイズ・フランソワーズ」
…その、桃色の髪の貴族の女性は、母の事を、今確かに『女王陛...
一体、どういう事なんだ?
その後ろから、マナが顔を出す。
「…あれ?ママなんでこんなとこに」
マナはシモンを置いてとことこと肩を震わせる桃色の髪の女性...
「ルイズママどうしたの?そんな怒って」
語りかけられると、その桃色の髪の女性は勢いよく振り向く。
その顔はマナにそっくりで、二人の血の繋がりを感じさせた。
…あれ?この人、どこかで見たような…。
シモンが記憶の糸を手繰ろうとすると。
その女性と目が合った。
「…じゃあ、あの子だけでもつれて帰ります」
その女性は、獲物を見つけた目で、シモンを睨む。
シモンの背筋に悪寒が走る。それは、遺伝子レベルで刷り込ま...
「ダメです!あの子は、シモンだけは!」
言って母、アンはその桃色の髪の女性とシモンの間に割っては...
「なら、お戻りください。トリステインには、あなたが必要な...
「…いえ!いいえ!国に必要なのは王ではありません!国を支え...
「それは理屈です。王を戴かない国など、舵のない船も同じ。...
二人はその場で言い合いを始める。
そして、その言葉に、シモンは衝撃を受ける。
自分の母は。女王なのか…?
その疑問に、無視されて膨れていたマナが応えた。
「そっかー。あなたのお母さん、アンリエッタ女王だったのね」
大して驚いていないマナの様子に、シモンはさらに驚き、言葉...
「なんか驚いてるみたいね。私も驚いてるけどね。
でもママに聞かされてたから。この村に、かつて出奔した女...
そしてマナは、シモンの知らなかったトイステインの最近の歴...
十数年前、トリステインにはアンリエッタ女王という、気高く...
ところが、その女王は一人の騎士と恋に落ち、全ての地位をか...
ラ・ヴァリエールはその血筋と功績で新たな王家となり、今の...
そこでラ・ヴァリエールは、あくまで一時的な代理として王家...
「そしてついに、女王陛下を見つけたってわけ」
シモンはまだ信じられない。
目の前で桃色の髪の女性と喧々囂々やりあっている母が。
毎朝、昼の仕込みに汗だくになって調理をする母が。
夜は、村の皆にせがまれて優しく歌う母が。
まさか、かつて王国を出奔した女王であるとは。
そんな中。
「ただいまー。なんか軽く食えるもん作ってよ、アン〜」
呑気な声をあげて、父が帰ってきた。
「あ」
「あ」
二人の女性がそっちを向き。
その場の空気が一瞬にして変化する。
「みつけたわよぉぉぉぉぉぉこの破廉恥犬ぅぅぅぅぅぅぅ」
「…ま、まさかその懐かしい呼称は…!ルイズか!」
「に、逃げてくださいサイトさん、シモンを連れて逃げて!」
「逃がすかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
今までの厳かな空気はどこへやら。
ルイズと呼ばれたその女性はまるで肉食獣のように父に飛び掛...
何が起きているのか理解できないシモンに、マナが説明する。
「…そう、んであの人が女王陛下なら、あの人の夫は、私のお父...
え、とシモンの目が点になる。
「ママの話によると、私のお父さんってば、ものすごい種馬だ...
あっちこっちに何人か、私の腹違いの兄弟がいるみたい。
確認してるだけでも、あなた含めて7人」
シモンの開いた口がふさがらなくなる。
「この分だと、あなたと女王様連れてトリスタニアに帰るのは...
うちのママ、こうと決めたことはゼッタイ譲らないからねー」
シモンは完全に混乱していた。
だから、目の前のとんでもない状況よりも、今晩母がちゃんと...
そして、この後、シモンたち一家はトリスタニアに半ば強制的...
王侯貴族を巻き込んで、トリステインの王位争いに巻き込まれ...
それはまた、別の話。〜fin
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