ゼロの使い魔保管庫
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**ゼロの飼い犬10 雨降りの後 ...
■1
気がついたら、そこにサイトが後ろ姿で立っていた。
久しぶりの姿。もう何日も会っていないわたしの使い魔。
その背中に向かって走り出したくなる。大声で呼びたくなる。
なのに、できない。開きかけた口からは何も言葉が出てこな...
踏み出しかけた足は金縛りにかかったみたいにその場に留まる。
どうして? なんで? 混乱した直後に気付く。
わたしは、サイトに何を言いたいのか自分でもわかってない。
どうしたいのか、どうして欲しいのかもわかってない。
胸の奥に泥のような重みが膨らんで、苦しくなる。涙が出そ...
滲んだ視界の中でただサイトの黒髪だけを見つめていたら……
不意に、サイトは振り向いた。どきんと心臓が跳ねる。
サイトはこちらを向くと、嬉しそうに笑った。その顔をみた...
胸の奥の苦しさがすっと抜け落ちる。どうしてよ。何でアイツ...
よくわからない憤りが湧き上がってきて、わたしは今度こそ...
息を大きく吸い込む。
そこで、わたしのすぐ横を後ろから誰かが走って通り過ぎた。
驚いてその姿を確認すると、それはサイトと同じ黒髪のメイ...
メイドはサイトの側まで行くと、その胸に飛び込んだ。サイ...
サイトはさっきの笑顔を腕の中のメイドに向けて、目を細め...
……違う。さっきのわたしへ向けてくれたものだと思えたサイ...
最初からこのメイドへのものだったんだ。
サイトはメイドに何か囁いた。それを聞いたメイドは頬を染...
なに? なにを言ったの? なにをしてるの? わたしがこ...
抜け落ちたと思っていた苦しさが、何倍にもなって襲いかかっ...
わたしは何か叫んで止めようとする。けれど声が出ない。サ...
涙が溢れた。こんなの見たくない。なのに目が逸らせない。
サイトはメイドの顎を指で少し持ち上げた。そして身を屈め...
メイドは目を閉じて、サイトはその顔に顔を寄せて――。
やだ、嘘。嘘でしょ。そんなの、そんなの……!!
「やめてよっ!!!」
自分の出した怒鳴り声に驚いて、わたしはベッドから跳ね起...
ばくんばくん鳴っている胸に手を当てて、辺りを見回す。
見慣れたわたしの部屋だった。あのメイドなんていない。も...
汗をびっしょりかいていて、髪が顔や首筋に張り付いている。
それを直す気にもなれず、わたしはベッドの上で膝を抱えた。
今の光景は夢だとわかったのに、胸の奥の気持ち悪さと目尻...
汗が浮かんで不快な頬に、さらに涙がつたって落ちた。
今のは夢だった。けど、わたしの前で行われていないだけで...
サイトとあのメイドは、あの夢の、その先もしているのかも...
わたしの知らないところで。わたしをほっぽって、出て行って...
「やだ……やだよぉ……」
胸を締め付けられる……ううん、刃物でグサグサ突き刺される...
涙がぽろぽろ零れた。子供のころにどんな悪夢を見ても、多分...
わたしは膝の間に顔を埋めて震えていた。
■2
どれだけの間ベッドの上で丸くなっていたのかわからないけ...
また授業をさぼってしまった。けど、動く気にもなれなかっ...
夢の余韻がいくらか消えて、ようやくまともに頭が動くよう...
ひどくお腹がすいていることに気付いた。前にご飯を食べたの...
お腹に何か詰め込んだら、ずきずき痛む胸もいくらかマシに...
わたしはよろよろと体を起こすと、最低限の身支度をして部...
「ひっどい顔ねぇ」
食堂まで重い体を引きずっていき、全然美味しく感じられな...
もそもそ口に運んでいると、呆れた声がわたしの耳に飛び込ん...
「ちょっと、聞いてる? あなたに言ってるのよ、ルイズ」
顔を上げると、わたしの席の横にはそばかすの浮いた顔にブ...
香水のモンモランシーが立っていた。
わたしの食が進んでいないだけで、ほとんどの生徒は食べ終...
「……ほっといてよ」
食器を置いて立ち上がる。まだ残ってるけどもういらない。
「わたしもそうしたい所だけどね、ちょっと流石に目に余るわ...
このままずっと授業にも出ないでいる気? 使い魔と喧嘩した...
「関係ないでしょ、そんなこと」
モンモランシーにまでいくらか事情が伝わってるみたい。で...
相手なんかしたくない。わたしはさっさと部屋に戻ろうとした。
「あのねぇルイズ。わかってる? あなたのしてることって最...
使い魔が逃げ出したのを探しに行くでもなく、戻ってくるのを...
一体どうしたいわけ? 引き籠もってるだけで何か解決すると...
モンモランシーの言ってることがいちいち事実なのが癪に障...
そのまま食堂の出口に向かうと、後ろから深い溜息が聞こえ...
「あなた……、戻ったわね。サモン・サーヴァントをする前のあ...
ううん、もっと酷いかも。この前まではあなたをゼロだゼロだ...
今のあなたってそれ以下よ。マイナスのルイズだわ」
わたしは奥歯を噛みしめると、その言葉を無視して廊下に出...
そこで、何やら中庭の方が騒がしいことに気付く。窓から覗...
竜が何匹も降り立ち、その真ん中によくわからない緑色の大き...
そして、その隣には――見間違えるわけがない、珍しい服装と...
わたしの使い魔。ヒラガサイトが立っていた。
わたしは考える間もなく、広場まで走った。けれど、声を上...
近付いたところで足が止まる。何を言ったらいいのかわからな...
サイトには興奮した様子でコルベール先生が詰め寄っていて...
そのうち話はまとまったようで、先生はサイトの元を離れてど...
今、サイトは一人。もし、ふとわたしの方を見たら気付く。
そうしたらどんな顔をするんだろう? わたしはどんな顔をし...
不安に胸が苦しくなって。でもサイトの所へ行って話したい...
膨らんで、思い切って駆け寄ろうとしたとき。
まるで本当に今朝の夢と同じように、黒髪のメイドが進み出...
「えっと、サイトさん。ミスタ・コルベールに、その……、がそ...
今お話していたものを作っていただけたら、このひこうきは飛...
「ああ、飛ぶ。シエスタのひいおじいさんが飛べなかったのは、
そのガソリン……まぁ、ランプでいうと油にあたるみたいな、燃...
■3
何だかよくわからないことを話している。でも、サイトがメ...
この上なく嬉しそうで、宝物を見つけた子供みたいにきらきら...
あんな顔、わたしに向けてくれたことあったかしら。あった...
そして、その笑顔は今、わたしではなくあのメイドに向けら...
「凄いですね、本当に飛ぶんだぁ……」
「飛べるようになったら、必ずシエスタも乗せるよ。
シエスタのひいおじいさんが残した、『竜の羽衣』に」
サイトはそう言ってメイドの肩に手を置いた。メイドは頬を...
ぞくりと寒気が走る。そのまま、今朝見た夢みたいに抱き合...
けど、当たり前だけどそんなことはなかった。コルベール先...
また何か話し始める。運び賃がどうこう言ってるけど、たぶん...
わたしはくるりと踵を返すと、広場から立ち去った。
他の人がいるところでは、サイトと話せる気がしない。
校舎の上の階に上って窓からこっそりサイトを見ていたら、...
先生の研究室である掘っ立て小屋に引っ込んだ。
しばらくして出てくると、今度は例の緑色の大きい物の中に...
何やら真剣な顔でいじり回している。竜を使ってまであれを運...
今ならサイトは一人。誰の邪魔も入らない。わたしはとくん...
深呼吸をひとつして階段を降りた。
――とにかく、サイトと話をするために。
その前に、わたしは部屋に戻って顔と髪を確認した。
モンモランシーに言われた通り、酷い顔。顔を洗って、髪を梳...
なんでこんなことしてるんだろう。でも、酷い顔のままでサ...
どうにか見られるような顔になると、わけもなく笑顔を作る...
広場に出ると、わたしはなるべく不安が表に出ないように。...
サイトが乗っているカヌーに平たい翼が貼り付けられたみたい...
サイトはわたしに気付いてちらりとこちらを見たけど、ぷい...
怒りがこみ上げるのと同時に、不安が襲いかかる。もう、わ...
思ってるの? クビにされたんだから関係ないと思ってるの?...
体を押し潰しそうに湧き上がってくる嫌な想像を振り払って、
「なにこれ?」
と聞く。聞きたいのはそんなことじゃないのに。
「ひこうき」
サイトはわたしの方をもう一度見た後、そっけなくそう言っ...
メイドと話していた時もそう言ってた。名前がわかってもど...
「じゃあそのひこうきとやらから、あんたは降りてきなさい」
努めて、”ご主人様”みたいに、ちょっと前までサイトに命令...
強気を装ってそう言う。そうしたら、サイトがまたわたしの使...
けど、サイトはわたしの言葉が聞こえてないみたいにひこう...
悲しくなった。サイトがわたしを見てくれない。他の物に夢中...
わたしはひこうきに八つ当たりするみたいに、翼にぶら下が...
「降りてきなさいって言ってるでしょー!」
「あー、もう。わかったよ」
サイトはうんざりした声でそう言って、やっとわたしの前ま...
■4
「どこ行ってたのよ」
違う。そんなのどうでもいい。なのに、サイトを前にしたら...
「宝探し」
「ご主人様に無断で行くなんて、どういうつもり?」
「クビじゃなかったのかよ」
目頭が熱くなる。わかってる。サイトが出て行ったのは、わ...
そんなことを言ったのは……サイトが、あのメイドの所に泊ま...
キュルケは、サイトはわたしのことが好きだからわたしを助...
それを聞いて、わたしは信じられなかった。
わたしにサイトから好かれる所なんて無いと思っていたから。
でも、もし本当だったら……嬉しい、と思った。
そんな理由だけでわたしに尽くしてくれているのなら、少し...
恩返しのつもりで、あいつが喜びそうなことしてあげようかな...
けど、そんなのやっぱり有り得なかった。サイトが部屋に帰...
サイトが急にわたしを組み敷いてきたのは、たぶん寝ぼけてメ...
どうしてそんな間違いをしたかっていったら……メイドとそん...
その証拠に、サイトは帰ってこなくなった次の晩、メイドの...
サイトは、あのメイドが好きなんだ。あのメイドがサイトに...
あのメイドはサイトに憧れてるみたいで、たまにサイトと楽...
当たり前。好きになるなら、自分を好いてくれて、自分に優...
ずっと前から、サイトはあのメイドが好きだったんだ。きっ...
逢い引きなんかしてて、それで……。
夢の中でサイトとメイドがしようとしてたことを思い出す。
キス。わたしにだけしたんだと思ったのに、違った。サイト...
何か特別な意味なんてなかったんだ。
きっとあのメイドともキスして、それで、それよりもっと進ん...
痛い。胸が潰れそうなくらい。体の中に膨らんだ嫌な気持ち...
あの時も、サイトを追い出した日にもこんなことを考えて何も...
サイトにクビだって言った。だから、サイトはいなくなった。...
でも、サイトを追い出してもぜんぜん気分は晴れなかった。...
サイトがわたしから離れたところであのメイドと何をしてる...
悪夢を見るほど気持ちが悪くなった。
ずっと思ってた。サイトが「あれはルイズの誤解だから」な...
――ううん、違う。誤解じゃなくてもいい。そんなの本当は関...
サイトが他の女の子を好きでも、わたしのことを好きじゃな...
サイトがわたしの使い魔であることには関係無い。サイトがわ...
好きでもないし、我が侭だし、酷いことばっかりするわたし...
助けてくれるサイトに、わたしは本当は……感謝しなくちゃいけ...
そんなことも理解できずに、いつもサイトに酷いことをした...
一方的にクビだなんて言ったわたしは、帰ってきてくれたサイ...
サイトがあのメイドの事を、好きなんだとしても。
頬を熱いものが伝って落ちた。泣いてる。わたし。なんで?
自分が間違ってたことに気付いて、サイトが帰ってきて、嬉...
どうしてこんなに胸が痛いの?
「え……お、おい。何だよ、泣くなよ」
サイトがわたしの側によってきた。涙で視界がぐじゅぐじゅ...
肩に手を置かれた。おっきくて温かい手。その手は、さっき...
その時のサイトの笑顔を思い出して……さらに涙が溢れた。
■5
「泣くなってば。あぁもう、こんなとこで……ちょっと、こっち...
サイトは呆れつつもわたしを気遣ってくれる声で言いながら...
何も言えず何も見えないわたしの手を引いて、部屋まで運んで...
サイトがまたわたしの部屋に戻ってきた。それだけで、胸が...
サイトはわたしをベッドに座らせたので、その袖を引っ張る...
服を掴んで、その胸に額をくっつける。
そうしてないと、サイトがまたとこかへ行ってしまいそうな気...
わたしがいつまでも泣きやまないでいたら、サイトはわたし...
赤ん坊じゃないわよと思ったけど、驚くくらい安らいだ気分...
しばらくそのままでいたら、ようやく涙が止まってくれた。
「く、ひっく…クビだって、言ったけど……嘘だから。使い魔をク...
まだ喉が震えてまともにしゃべれないけど、わたしは必死に...
「ああ…わかってるよ」
サイトはわたしの頭をまだ撫でている。それ、もっと続けて...
「だから、だから……使い魔は、ご主人様の近くにいなきゃいけ...
そう決まってるんだから。勝手にいなくなっちゃだめなの」
「うん、うん」
ちゃんとわかってるのかどうか怪しいけど、サイトは繰り返...
それで気持ちが少し楽になる。
「……脱いで」
「え?」
「その上着、脱いで。貸してよ」
「いやでも、遠出して帰ってきたばっかで汚れてるぞ?」
「いいから脱いで!」
今度は、顔を押しつけていたサイトの上着が恋しくなった。...
「あ、あっち向いてなさい」
何度か寝間着の代わりに使った時みたいに、服を脱いでサイ...
懐かしい温もりに安心できて……それから、これをわたしが着...
サイトはいなくなったりしないはずよね、なんていう都合の良...
着替え終わってサイトにこっちを向かせると、シャツ姿にな...
また頭を乗せる。さっきより近くなった体温とわたしが着てる...
サイトに包み込まれてるみたいな気分になる。
そうして、ようやくまともに物が考えられるようになった。
わたしは確認しないといけない。サイトの気持ち。サイトと...
怖い。知りたくない。でも、はっきりわからないままでいる...
わたしはサイトの匂いに包まれながら勇気を振り絞ると、口...
「……サイトは、あのメイドが好きなの?」
ぎゅ、とサイトのシャツを掴んだ手に力を込める。
「え……?」
「答えて。それでどうこうするってわけじゃないから」
戸惑うサイトに、さらに質問する。
もの凄く長く感じられる時間が流れた。たぶん、何秒も経っ...
「……好きだよ、たぶん」
その答えにびくっと体が震えた後、語尾に付け加えられた言...
「な、なによそれ、たぶんって! あんたの気持ちの事でしょ...
「し、仕方ないだろ。俺はいつかは帰らなきゃいけない人間だ...
顔を上げて怒鳴ると、サイトは気まずそうに視線を逸らした。
■6
「じゃあ、もし帰る方法が絶対に無いんだとしたら、好きって...
「わかんねえよ、そんな仮定の話なんて。それに……」
サイトは言葉に詰まってわたしの方をちらりと見る。
「な、何よ?」
「なんでもねーよ」
「言いなさいよ! 何でもないってことないでしょ!」
詰め寄ると、サイトはわたしの肩を掴んで制止した。
わかんない。こいつの気持ちが余計にわかんなくなった。
でも……あのメイドのことが好きだって断言されなくて、ホッと...
「そ、それじゃあ、好きかどうかもはっきりしない子の部屋に...
最っ低! 酷い! 不潔!! 色魔犬!!!」
「それは……! その、シエスタには寝る場所が無かったから泊...
「じゃあ、その……い、いいいかがわしいことは、してないって...
じっと見つめる。サイトは誤魔化すように視線を逸らした。
「えーっと……し、してなきにしもあらずというか」
「わけわかんないわよ!」
「さっ、最後まではしてません!」
「最後って何よ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!???」
ついに溜まっていたものが爆発して、わたしはサイトをベッ...
変な体勢で床に落下して仰向けになったサイトを、仁王立ち...
「まさか、まさかあんた、ただスケベなだけで女の子なら何で...
ないでしょうね!? もしそうなら絶対許さないわよ!?
始祖ブリミルの名の下にご主人様が制裁を加えてやるんだから...
荒くなった息を整えながら、びしっと眼下の使い魔を指して...
サイトは目を回していたが、正気に戻るとわたしの言葉にこ...
「も、もういいわ。とにかく! 一方的にクビだなんて言った...
否があったって認めてあげる。それは謝るわ。
今でも、これからもあんたはわたしの使い魔だってこと、忘れ...
「ああ……わかった。……で、あの、それはいいんだけどさ……」
「あによ?」
床に寝っ転がってるサイトが、口元を引きつらせながらわた...
おずおずと言ってきた。
「その……このアングルだと、見えそう」
何が? 眉をひそめて状況を再確認する。
ベッドの下には、こちら側に頭があって仰向けのサイト。わた...
で、わたしはサイトの上着だけを、寝間着代わりにするとき...
……………。
わたしはベッドの上から跳躍すると、サイトの顔を踏みつぶ...
「もう、なんでこうなっちゃうのかしら」
のびてしまったサイトをどうにかベッドの上に引き上げると...
ちゃんと謝ろうと思ったのに。今までの感謝の気持ちを示そ...
サイトが目の前に帰ってきたら、いつもと同じような物言いし...
素直になれないどころか、自分がどうしたいのかもわからな...
「きっと、わたしだけのせいじゃないんだから。あんたのせい...
ただの八つ当たりだとわかってて、寝てるサイトにそう言う...
色んな物が胸の内にモヤモヤしてるのに、ただここにサイト...
安心できてしまってるわたしがいて……それがなんだか悔しかっ...
■7
∞ ∞ ∞
仕事が一段落ついて休憩をもらったわたしは、中庭から見え...
どうしようかなとちょっと考えた後、宝探しから帰ってきて...
アウストリの広場で『竜の羽衣』……じゃなくて、ひこうきを点...
今もそうしているのなら、お茶を持って行ったら喜んで頂け...
ご一緒できるかも。良い思いつきに鼻歌なんて歌いながら、広...
ちょうど校舎から出てきた桃髪の生徒の方が、わたしの姿を...
「あっ」
「……ミス・ヴァリエール。ご機嫌麗しゅう」
一瞬ぎくっと身をすくませてしまってから、取り繕うように...
ミス・ヴァリエールの方も、わたしを前にして何かためらっ...
わたしやサイトさんがこの学院に戻ってきて、今日で三日目。
サイトさんとミス・ヴァリエールはどうやらまた主人と使い魔...
それまでよりもちょっとぎこちない感じはするものの、仲直り...
けれど、サイトさんがミス・ヴァリエールの元から一時的に...
わたしと無関係ではありません。ミスがわたしのことをどう思...
少し不安だし、気になるところです。
ミスが何も仰らないので、もう一度礼をして立ち去ろうとす...
「ちょっと待って」
遠慮がちにお声をかけられました。
「わたしに何かご用でしょうか?」
「聞きたいことがあるの」
決意の色を含んだミス・ヴァリエールの鳶色の瞳が、わたし...
「あんた、サイトのことが好きなの?」
一呼吸置いてミス・ヴァリエールの口から出てきたのは、あ...
一瞬気圧されてしまった後、わたしも唇を引き結んでミスの...
「はい。わたしはサイトさんが好きです」
相手が貴族の方でも、公爵家でも関係ない。わたしは正直に...
「……サイトは、あなたのことを好きと言ったの?」
次いでの質問。喉の奥から絞り出すような、震えた声。
「はい」
そう答えると、ミス・ヴァリエールはびくりと肩を震わせま...
「……と言ったら、どうするんですか?」
明らかに無礼な、メイドがしていい口の利き方ではない台詞。
それでもミスは文句も言わずに、わたしから目を逸らせます。
ミス・ヴァリエールに聞かれるまでもなく、わたしは気付い...
サイトさんは、わたしに一度も『好き』とは言ってくれていま...
そして、それが言えない理由のうち、大きい部分をこのミス...
そのことも薄々わかっていました。
わたしは、ミス・ヴァリエールが羨ましい。ただ羨ましいだ...
もっと汚い感情で……、この方がサイトさんの主人であることを...
公爵家の家柄だから将来が約束されていて。この学院にいら...
そして、サイトさんを使い魔として常に側に置けて、言うがま...
ミスは平民と同様に魔法が使えないのに。
もしヴァリエール家に生まれていなければ、そしてサイトさ...
サイトさんはあなたに見向きもしなかったんじゃないですか。...
■8
ミス・ヴァリエールの姿を見るたびに、自分の心の汚い部分...
今もそう。ここでわたしが上手く嘘をつけば、もしかしたら...
再び仲違いさせて、サイトさんの気持ちをわたしに向けること...
そんなことまで考えてしまっている自分がいることに気付い...
それが、わたしの本性。正直な気持ち。汚い、醜い心の底。
「……サイトさんは、わたしを好きだと言ってくれたことはあり...
でもわたしの口からは、正直な気持ちに逆らった、正直な言...
ミス・ヴァリエールの顔色が、あからさまに安堵の色に染ま...
それを見て、わたしの中の汚い部分が悲鳴を上げる。
どうしてわざわざ馬鹿正直な事を言って目の前の相手を喜ば...
「そう」
「ミス・ヴァリエールはどうなんですか? サイトさんが好き...
それどころか、聞かなくても良いことを。聞くべきじゃない...
ミス・ヴァリエールは質問の内容にも、わたしがそんなこと...
驚いたみたいに、はっと目を見開いて後じさりました。
「な、なんであんたにそんなこと答えなきゃいけないのよ!」
「好きなんですか?」
必死で動揺を隠そうと声を張り上げるミスに、もう一度聞く。
ミス・ヴァリエールは真っ赤になって、眉をつり上げて、で...
「……じゃあ、質問を変えます。ミス・ヴァリエールは、サイト...
「……それは……、あいつは、使い魔だし……」
今度の質問には、ミスは歯切れ悪くそう答えました。
「大事なら、サイトさんにそう言ってあげていますか?」
「何よ、なんであんたからそんな」
じっとわたしを睨むミスには、いつもの迫力は微塵も感じら...
「わたしは言ってもらえました」
「え……」
目を瞑ってそう続ける。ミスがその言葉にどんな反応をした...
ひょっとしたら見るのが怖かったのかも。
「サイトさんは、わたしのことが大事だって言ってくれました。
そう言って見つめてくれて、笑ってくれて……抱きしめてくれま...
それだけで、もう他に何もいらないほど満たされました。自分...
何を言っているんだろう、わたし。
「わたしもサイトさんが大事だって、何度も言いました。サイ...
けど、サイトさんには心残りがあるみたいでした。どこか寂し...
きっと、自分をクビにしたご主人様のことを考えていたんです...
わからなくて不安だったんですね。だから、わたしが慰めてあ...
言い切った後、ゆっくり目を開きます。
「……気持ちを伝える一言。簡単なことなのに、どうして言って...
他人事のように言うと、つかつかとミス・ヴァリエールが迫...
内心ではビクビクしていたわたしは反射的に身をすくませると...
――そのまま、わたしの横を通り過ぎていきました。
わたしが呆気にとられて振り向くと、ミス・ヴァリエールは...
「シエスタ」
そう、呟きました。わたしが呼ばれたんだということにとっ...
■9
「……あ、ありがと」
ほとんど独り言みたいな、小さな声でそう続けて、ミス・ヴ...
ミスが消えていった学生寮を見つめながら、思います。
わたしはサイトさんとのことをミスに自慢して、ミスに嫌味...
打ち首にされても仕方ないくらいの失礼なことを言ったのに。
サイトさんと、このままぎくしゃくしたままならいいのに、...
どうしてお礼なんて言われたんでしょう。
もう少ししたら休暇が貰えるから、タルブに戻ることになる...
サイトさんとミス・ヴァリエールがわたしの知らないところ...
学院に戻ってきたはずなのに。どうしてミスに感謝されるよう...
「どうしてでしょうね」
小さく声に出てしまって、そこで気付きました。
わたしは、たった今ミス・ヴァリエールに初めて名前で呼ば...
∞ ∞ ∞
「サ、サイト」
「んん?」
溜まっていた洗濯物が山のように入っているカゴを抱えた状...
後ろから呼びかけられた。ルイズの声だ。振り向くのは危ない...
「悪いけど話なら後にしてくれないか? これ部屋まで運んじ...
「あ……うん」
ルイズは小走りで俺の横まで来て、半歩後ろを黙ってついて...
やけに聞き分けがいいことに戸惑いつつ、寮のルイズの部屋...
机の上にカゴを下ろして、室内を見回す。俺がいない間に散...
ルイズの部屋は、数日かけてどうにか追い出される前と同じく...
「で、なんか用か?」
その部屋の持ち主であるルイズの顔を見て聞く。
「え? あ、別に用があるってわけじゃないんだけど……」
ルイズは俺と目を合わせると、気まずそうにその視線を逸ら...
「そう? なら俺、ゼロ戦を見て来たいんだけど」
そう声をかけると、
「ぜろせん……あのひこうき? 行っちゃうの?」
ルイズは飼い主とはぐれた子犬みたいな目を俺に向けてきた。
どきっとして無闇に罪悪感が湧き上がってくる。
宝探しから帰ってきて以来、ルイズはこんな調子だった。い...
怒鳴ったり叩いたりしてくることはあるものの、ふとした調子...
やっぱり派手な仲違いをした後で、俺にどんな態度をとった...
俺だってそうだ。タバサやシエスタに色々言われたものの、...
よくわからない。そんな中でどう対応したらいいのかなんて、...
けど。今にも俺に駆け寄って飛びついてきそうな様子のルイ...
俺が譲歩するべきなんじゃないかと思えてしまう。
学院に帰ってきた当日もそうだった。俺を一方的にクビにし...
色々あったはずなのに、急に目の前でボロボロ泣かれたら、何...
止めてやらなきゃって気分になった。俺はルイズの保護者じゃ...
「あー、やっぱやめた。部屋にいる」
「ほんと?」
ルイズはぱあっと顔を輝かせた。それを見て頬が熱くなる。...
咳払いをひとつして洗濯物を畳み始めると、ルイズが隣まで...
■10
「わ、わたしも手伝うわ」
どういう風の吹き回しだろ。ルイズは俺に習ってカゴから洗...
例によって不器用で雑な畳み方だが、本人が着るものだし別に...
洗濯物が片づくと、ルイズは俺の袖を引っ張った。
「……ちょっと、話したいことがあるから来なさい」
引っ張られるがままにベッドの所まで歩かされて、そこに座...
隣にルイズも座ったので、三日前にここに帰ってきた時のこ...
今度は何を言われるんだろ。怒られるのも暴力振るわれるもの...
ヒヤヒヤしていると、ルイズはぎろりと俺を睨みつけてきた。
俺がたじろいで体を引くと、今度はルイズ、慌てたようにふに...
「あの……聞いて。責めようとか、そういうんじゃないから」
ルイズはまた俺の服を掴むと、おずおずとそう言ってきた。...
いつになく真面目な雰囲気に、俺も気を引き締めた。その目...
「そ、そんなにじっと見ないでよ。話しにくいじゃない、ばか」
と思ったら、顔を赤くしてぷいっと目を逸らされた。ホント...
「えっと、それでね……その」
「うん」
俺の服を握りしめる手の力がより強くなった。
「その、あの……、わ、わわわ、わたしは……あんたを……」
必死で言葉を紡ぎ出そうとするルイズ。俺は真剣な気持ちで...
ルイズはちらりと俺の顔色を伺うと、今度は俯いてしまった。
「あ、あんたは……」
あんた”は”? 今言おうとしてたことと違うんじゃないか?
「あんたは、わたしのこと……、どう思ってる、の……?」
途切れ途切れにルイズはそう言ってきた。声も、手も肩も震...
ルイズが言いたかったのってこの質問? ちょっと違う気が...
今までわからなかったルイズの気持ちが、今ので少しわかっ...
俺が『ルイズは俺のことを使い魔として人間以下、動物同然...
って考えて不安だったのと同じように、ルイズの方も、不安だ...
例えば、『サイトは自分のことを勝手に召還して契約した迷...
使い魔だから仕方なしに嫌々仕えてるんじゃないか』などと考...
タバサは、ルイズは本気で俺を犬同然だとは考えていないと...
シエスタは、ルイズは俺のことを必要としているはずだと言...
鵜呑みにするつもりはない。けど……今のルイズを見てて、気...
ルイズは、子供なんだ。他人の気持ちも、きっと自分の気持...
貴族としての誇りはある。信念も持っている。けど、それら...
自分本来の気持ちというか、本音の部分を制御できないんじゃ...
自分がそう教えられた通りに、深く考えずに俺を犬だ平民だ...
子供だから、すぐ癇癪を起こす。困ったら暴れたり泣いたり...
理屈も何も無しに後先考えないでクビだとか言ってくる。
冷静になって自分の行動を後悔した後でも、俺がルイズのこ...
ないかって不安で、素直に謝れない。子供みたいに意地っ張り...
大きな溜息が出た。そんなルイズをわかってやれなかった俺...
「な、なによそれぇ……」
ルイズが今にも泣き出しそうな声を出す。
今の溜息が『わたしのことどう思ってるの?』の答えだと思わ...
「あのな、ルイズ。俺がルイズをどう思ってるかだけど」
■11
言っている途中に、ルイズは親の叱りを待ち受ける娘みたい...
「よくわかんねぇ」
ルイズは目が点になった。そのまま数秒が経過した後、一気...
「わっ、わかんねぇって……こっちの台詞よ! なにそれ!?」
「仕方ないだろ、実際俺でもわかんないんだから。あー、マジ...
なんでこんなご主人さまのとこに帰ってきちまったのか全っ然...
人使い荒いしすぐ癇癪起こすしガキだし口だけ偉そうなくせに...
ほんとどーしようもないご主人さまだよ、お前」
「わ、わかってるじゃないの! よくもそんなっ!!」
俺が開き直って罵詈雑言を浴びせると、ルイズは怒りを通り...
「いーや、ぜんぜんわかんないね」
「何がよっ!?」
「それだけ救えないご主人さまのところに、なんで戻る気にな...
なんでお前の顔見てお前のキンキン声を聞いてると、悪くない...
見つめると、ルイズはぽかんとした顔つきになって大人しく...
前言撤回。俺はたぶんルイズより子供だ。本当は薄々わかっ...
なんでルイズの側にいると。ルイズの顔を見て声を聞いてる...
わかってるくせに自分でも認めないんだから。こんな気持ち...
「わ、わけわかんないわよ……」
「奇遇だな、俺もわけわからん」
そのまま俺は誘われるようにルイズの肩に手を乗せると、引...
「な……にすんのよ……。はなしなさいよぉ……」
ルイズはそう言うが、俺の手から逃れようとする力など全く...
むしろ、俺の胸に体を預けてきた。
もし本気で抵抗したとしても、俺がちょっと強く捕まえれば...
それくらい小さくて細くて軽い体。俺がいなかったら本当に何...
俺は、たぶん嬉しかったんだ。こんなルイズを守ってやれる...
ルイズが俺に我が侭言ったりしてくるのも、本当は俺に甘えて...
なんとなく気付いてたから。
「ルイズ、お前俺がいないと駄目なんだろ? たかだか十日く...
帰ってきたら泣きついてくるような奴、ほっとけるわけないだ...
「な、なによ。同情のつもり!?」
「ちげーよ。お前のためじゃなくて、俺のためだよ。
俺がいないとこでめそめそしてんじゃないかって考えたら、寝...
ぎゅっと抱きしめる。ルイズは小さく吐息を零した。
「めっ、めそめそなんかしてないもん……」
「してるだろ。今だってしてるし」
顔をのぞき込もうとしたら、そっぽを向かれてしまった。
この意地っ張りで素直じゃないところをどうにかしたら、友...
けど、そんな厄介な性格も含めてルイズだ。だからほっとけな...
「……俺は、ルイズの所に戻ってこれて嬉しいよ」
はっきり言ってやった。そんなルイズにこっちまで意地張る...
「え……」
「ルイズにクビだって言われて、ショックだった。悲しかった」
言いながらルイズの髪を撫でると、ルイズの体から緊張が抜...
■12
「だ、だったら、も、もっと早くかえってきなさいよね……」
「ごめん」
「ごご、ご主人さまを寂しがらせちゃいけないんだから……」
「ごめん」
悪いのは俺だけじゃないと思うんだが、素直に謝る。そして...
ぱたりとベッドに横になった。
俺に抱かれたまま一緒に倒れたルイズは、文句を言う前に頭...
もう、どっちが良いとか悪いとかなんて、どうでもよくなっ...
ルイズはここにいて、この女の子は俺のご主人さま。
使い魔の俺はそれを守らなきゃいけない立場にあって、俺は...
いや、むしろ嬉しいとも思ってる。ルイズに頼られて、甘えら...
それでいいや、と思えた。
「……わたしも……」
そのまましばらく胸の上でルイズの重みを感じていたら、ル...
「え?」
「わ、わたしも……サイトが戻ってきてくれて、う、嬉しい……」
儚い鈴の音みたいな、今にも消え入りそうな声。その言葉に...
俺が帰ってきてもう三日も経って、ようやくルイズが言ってく...
こんなことも素直に言えない困ったご主人さまが、ようやく...
それが聞けただけでどきどきしてしまって、この腕の中の女...
膨れあがってしまってる俺自身が恨めしい。
「ルイズ」
たまらなくなって囁くと、背中に回していた手をそろそろと...
ふわふわの髪を掻き分けて首筋に触れた。
∞ ∞ ∞
「ふぁっ……」
サイトに抱きしめられて、首筋を撫でられて。喉の奥からヘ...
散々馬鹿にされて、勝手に抱いてきたりして、腹を立てなき...
体に力が入らない。文句を言う気にもなれない。
だって、今さっきになってやっとサイトに言えた言葉の通り...
サイトがわたしを嫌ってなくて、わたしの側にいることも嫌...
大事。あのメイド……シエスタはそう言った。
きっと、その言葉は合ってる。わたしはサイトのことが大事...
側にいて欲しい。わたしを見ていて欲しい。守って欲しい。...
それで、そうしてくれているから感謝する。それって、大事っ...
そもそも主人は使い魔を大事にするものなの。それを態度に...
可愛がって、絆を強くするものなの。そう決まってるんだから...
サイトの体温と匂いをすぐ近くで感じていると、頭がとろん...
こんなに安心できるのは、サイトと仲直りできたから。胸につ...
今度は、わたしの方からサイトに感謝を示さないとダメよね。
サイトを追い出す前はそうするつもりだったんだし。
えっと、セーターは……、あれから全然進んでない。今さらな...
だったら、マッサージ? 結局、わたしからサイトにマッサ...
剣を買いに行く前日の一回だけ。しかも、よくわかんない風に...
■13
「あ……、あのね、サイト」
ごくりと唾を飲み込んでから、切り出した。今度はちゃんと...
そう思ったら、サイトの指がわたしの首筋から背中の方までく...
「ひゃっ! ぁ……、な、なにすんのよ」
ぞくぞくって全身が震えた。ただ撫でられただけなのに。
「えっと……その、マッサージ。ご主人さまを寂しがらせちゃっ...
サイトはそんなことを言ってきて、今度はもう片方の手で腰...
体の中に電気がびりびり走る。そういえば、わたしだってサ...
久しぶりなんだ。アルビオンに行く前以来だわ。そのせいか、...
「まって、まっ……あ、ちょっと、ひぁ……」
サイトは構わずわたしの体を弄ってきて、サイトの上でわた...
わたしがサイトにしてあげようと思ったのに、先回りされちゃ...
「嫌か?」
「いや、じゃないけど……」
サイトは不安そうな声をかけてきて、ぴたりとその手を止め...
だって、サイトのマッサージ気持ちいいし。以前はこっちから...
どうしよう。して欲しい。恥ずかしいけど……なんだか、前に...
気持ちいいような気がする。先にわたしがしてもらってから、...
「じゃ、続けるぞ」
サイトはそう言うと、今まで撫でるような手つきだった指に...
刺激してきた。ぎゅっぎゅって押されるたびに、自分でもよく...
すぐに胸の奥に火がついたみたいになって、久しぶりの気持...
膨らんでくる。けど……。
「ちょ、あん、や……、なによ、この格好……!」
サイトってば、わたしを体の上に乗せたまま、背中に回した...
今までは俯せに寝かせてしてくれたのに。
サイトの指に力が入るたびに、わたしの体がサイトの体に押...
サイトの体温とか匂いとか、心臓の鼓動とかがもっと近くなる。
頭がぼーっとしてきた。ヘンなことされてるはずなのに、何...
「あ、ひゃ、ふ……、あっ、あ、あぁ……」
ばかみたいな声が止められない。サイトの手が背中じゅうを...
触ったんじゃないかってくらい動き回ってから、腰の方に降り...
どきんと心臓が跳ねる。お尻を触られるんじゃないかって思...
けど、やっぱりそんなことはなくて……サイトの指はわたしの...
「ん……ルイズ、ちょっと痩せた?」
「な、何言うのよっ!」
「まさか、ちゃんとメシ食ってなかったのか? ただでさえ細...
サイトは心配そうに言ってから、わたしの体を脇に下ろした。
「あ……」
また、寂しくなる。サイトの体が離れただけなのに。サイト...
わかってるのか、小さく笑った後、上体を上げてわたしの足に...
やっぱり、今までと違う格好。サイトはわたしを仰向けにし...
わたしのことをいたわってくれて、大事にしてくれてるのが...
サイトの指が足の先から段々上の方に登ってくる。
わたしの中の”気持ちいい”って感覚を、体の真ん中まで押し...
モヤモヤがどんどん膨らんできて、マッサージどころかサイト...
声が出そうになるほど気持ちよく感じられるようになってくる。
お腹のあたりがむずむずしてきた。ベッドに腰を押しつける...
サイトにマッサージされた時、指が太股のあたりに触れてくる...
きゅうっと体の奥が縮み上がる。この感じ、切なくて苦しいの...
■14
でも、この感じになるたびに、最後には物足りなさが残って...
サイトのマッサージは、そのうち気持ちいいのが弾けて溢れ...
それでお終いになるんだけど、ほんの少しだけ満たされない感...
なんていうか、して欲しいって思ってることを全部はしてく...
……ううん、その物足りなさが何なのか、本当はわかってる?
サイトの指が太股を上がって、ソックスの部分を通り過ぎて…...
わたしの中に、確かな失望が湧き上がってくる。わたし今、残...
離さないで続けて欲しいって思った。
今日はうつぶせじゃなくて、手が自由に動かせるからかしら。
反射的に、わたしはサイトの手首を掴んでしまった。
「ルイズ?」
「…………」
今までにマッサージされた時は、わたしはうつぶせの格好だ...
わからなかった。でも今は、頬を赤く染めたサイトが、わたし...
「……マ、マッサージだから……」
サイトの顔を見てたら頭が熱くなって、自分でも考える前に...
「え?」
「こ、これはマッサージだから……、触りたいとこ、触ってもい...
わたしは掴んだサイトの手を、太股に下ろした。サイトは目...
たった今、サイトがわたしの太股から手を離す直前、わたし...
サイトはわたしの太股に当てた手を、自然にもっと上まで持っ...
まるで、誰かにそれをした経験があるみたいに。
「ルイズ、それは……」
「……いいから」
じわっと嫌な感情が滲み出してくる。誰に? 誰にそんなこ...
夢で見た、サイトとシエスタが抱き合ってる姿が蘇る。キュ...
キスしてた記憶も蘇る。
サイトは知らない所で、わたし以外の女の子には、わたしに...
してるかもしれない。
やだ。そんなのやだ。許せない。耐えられない。
――他の人にしたことなら、わたしにもして欲しい。
わたしはサイトの手首から手を離した。サイトの指はそのま...
どうされるのか想像してぎゅっと体を強ばらせていると、サ...
開かれた。次に何をされるのかと思って身構えると、そっちに...
不意打ちするみたいに、もう片方の手がわたしの胸に触れてき...
「あっ……! え……!?」
びくんと体が跳ねる。制服越しとはいえ、胸を触られた。頭...
「さ、触っていいんじゃないのか?」
「いいって言ったけど、なんでっ……」
何で胸なんて触るのよ。わたしが触っていいって言ったのは...
あれ? どこのつもりだったの? もう自分でもよくわかん...
「いいなら、じっとしてろ」
「ちょっと、まって、でも、そんなの……あっ」
サイトの手のひらがわたしの胸全体を包み込む。かぁーっと...
そんな風に触られたら、わたしの胸、ほとんど膨らんでない...
いや、そのことは何度も馬鹿にされてるし、サイトには裸に...
服の上からだってわたしの胸が無いことくらいわかるだろうけ...
■15
「んっ……!」
サイトの手がわたしの胸を恐る恐るといった風に撫でてきた...
襲いかかってくる。わたしの反応が”良さそう”なので安心した...
同じように、指に少しずつ力を入れてきた。
「ふっ…、ぁ、んぅ……!!」
その刺激に、危うく息が詰まりそうになった。わたしの、て...
足とか背中とか、今までマッサージされてた所と大した違いな...
体の芯までとろけさせる感覚がサイトの指から染み出してくる。
気持ちの良いモヤモヤが溜まっていくのは胸のあたりだから...
頭の隅でそんな考えが浮かぶけど、それどころじゃない刺激に...
サイトはもう片方の手も太股から離して、胸に持ってきた。...
わたしを組み敷く格好になったサイトがわたしを見下ろしてる...
その頬はやっぱり赤くて、とろんとしていて、何だか……嬉し...
なんで? サイトがわたしの体で触りたいとこって、胸なの...
いつも、キュルケとかシエスタとかの胸を見てデレデレしてた...
そんなあんたの態度を見せられて、わたしがどれだけ腹を立て...
今までさんざん惨めな思いをさせられた分、文句が湧いてく...
でも、サイトがそんなわたしの胸をこんなに大事そうに触って...
全部ひっくり返してしまうくらい嬉しい。
その嬉しさと一緒に、体の中に溜まった気持ちよさがどんど...
今にも弾けてしまいそうなくらい。体がぶるぶる自分の意志と...
サイトはそれを察したのか、少し体勢を変えた。わたしを見...
近付いてくる。
あ……、キス? キス、してくるの? して欲しいとかそんな...
わたしの顎が勝手に持ち上がった。でも、サイトの顔はわたし...
「ひゃっ……、 あ、あぁ、ふぁっ!?」
サイトの唇がわたしの首筋に触れる。不意打ちで与えられた...
素っ頓狂な悲鳴が上がった。何よう、わたしが顎を上げたのを...
意味だと思ったの? それともわかっててわざとやったの?
サイトの熱い唇が首筋を這い上がってこめかみの方に移動し...
サイトの吐息が耳元に吹きかかる。頭の中が沸騰したみたいに...
その上、サイトは大きく息を吸い込んで、わたしの髪の匂い...
してきた。恥ずかしさで何も考えられなくなる。ほんとに、こ...
「ルイズ」
何よ。話しかけるなら、おっぱい弄るのやめなさいよ。返事...
「……ルイズ」
だめ。それだめ。耳元で囁かれるのもぞくぞくする。あたま...
サイトが小さく溜息をついたのが感じられた。わたしがまと...
でも仕方ないじゃない、あんたのせいでこんなになっちゃって...
サイトはわたしの耳元から顔を離した。言い様もない喪失感...
サイトは片足の膝をわたしがだらしなくベッドに投げ出した両...
え、何? 反射的に足を閉じそうになったとき、サイトは胸...
わたしの胸の、先っぽのところを摘んだ。かはっ、と声になら...
今までもちょっとずつはいじられてたけど、こんなに強く触...
体を突き刺すような鋭い刺激に意識が飛びそうになる。
けど、サイトはそれだけじゃ許してくれなかった。さっきわ...
持ち上げて、わたしのスカートと下着の上から”そこ”を太股で...
その次に何されたのか、よく覚えてない。とにかく、あっと...
気持ちいいのが溢れて、それは今までのマッサージの時と決定...
そのまま濁流の中に飲み込まれたみたいに、わたしは気を失っ...
■16
ベッドの隣では、サイトが気まずそうにわたしを見ている。
わたしも気まずい。何言ったらいいのかわからない。だけど...
行かれちゃうのは嫌だったから、口元まで布団を被ってサイト...
サイトの顔を睨みつけてる。
あの後わたしは気を失ってしまって、しばらくしてサイトに...
それから何も言えてない。わたしが寝てる横に座ってもらって...
まだ胸がどきどき高鳴ってる。体も火照ってる。たぶん、顔...
思い出すだけで、頭がくらくらしてくる。それくらい凄かっ...
あんなの……、あんな凄いことになっちゃうのに。サイトって...
そう考えて、胸の奥がきゅっと締め付けられる。
ううん、本当はわたしもわかってる。さっきサイトがわたし...
マッサージとかそういうんじゃない。もっと深いこと。簡単に...
それを、わたしはサイトに望んで、サイトはそれをしてくれ...
胸の奥に、気持ちいいのか気持ち悪いのか自分でもわからな...
わたし、嫌じゃなかった。サイトに胸を触られるのも、首筋...
はしたない。いけない。そんなの、許されるはずないことな...
サイトの顔をじっと見つめる。サイトは頬を赤くして、ちら...
サイトは、わたし以外の子にもあんなことしたの? シエス...
聞きたい。けど、怖くて聞けない。どうしたいのか自分でも...
サイトに感謝の気持ちを伝えようとか思ってたのに、もっと...
なってきちゃったじゃない。どうしてくれるのよ。あんたのせ...
八つ当たり気味に心の中で悪態をついて、ぎゅっとサイトの...
サイトはそんなわたしの様子を見て、やれやれ、とでも言い...
「……あのな、ルイズ」
サイトはわたしの方に少し体を傾けた。わたしは目だけで『...
「さっきのルイズ、すげえ可愛かったぞ」
ボンッ、と頭が火を噴いたみたいに熱くなる。わたしは布団...
「ばっ、馬鹿じゃないの! バカ、ばかばかっ!!」
目を覚ましてからの第一声がこんなのになるなんて。最低。
「かもなぁ」
サイトの顔は見えないけど、照れ隠しみたいな笑い声が聞こ...
何よそれ。さっきのわたし、あんな馬鹿みたいな声出して、た...
ふにゃふにゃになってて、そんなの可愛いと思ったの? 頭お...
そのまましばらくしていると、サイトもベッドに横になった...
一瞬どきっとしたけど、すぐに安心感に包まれて、また眠たく...
泣いたり怒ったりあんな凄いことされたりで疲れちゃったし...
寝ちゃうのもいいかも。そう思って目を閉じる。
すぐに眠りの世界に落ちていきそうになって、頭の中に霧が...
今なら簡単には言えないことも口に出せるかも、という気分に...
わたしは、半ば眠ってしまっている状態で、隣のサイトの温...
「――今度は、あんたにもしてやるんだから」
そう、呟いた。
つづく
[[前の回>18-46]] [[一覧に戻る>Soft-M]] [[次の回>19-20]]
終了行:
[[前の回>18-46]] [[一覧に戻る>Soft-M]] [[次の回>19-20]]
**ゼロの飼い犬10 雨降りの後 ...
■1
気がついたら、そこにサイトが後ろ姿で立っていた。
久しぶりの姿。もう何日も会っていないわたしの使い魔。
その背中に向かって走り出したくなる。大声で呼びたくなる。
なのに、できない。開きかけた口からは何も言葉が出てこな...
踏み出しかけた足は金縛りにかかったみたいにその場に留まる。
どうして? なんで? 混乱した直後に気付く。
わたしは、サイトに何を言いたいのか自分でもわかってない。
どうしたいのか、どうして欲しいのかもわかってない。
胸の奥に泥のような重みが膨らんで、苦しくなる。涙が出そ...
滲んだ視界の中でただサイトの黒髪だけを見つめていたら……
不意に、サイトは振り向いた。どきんと心臓が跳ねる。
サイトはこちらを向くと、嬉しそうに笑った。その顔をみた...
胸の奥の苦しさがすっと抜け落ちる。どうしてよ。何でアイツ...
よくわからない憤りが湧き上がってきて、わたしは今度こそ...
息を大きく吸い込む。
そこで、わたしのすぐ横を後ろから誰かが走って通り過ぎた。
驚いてその姿を確認すると、それはサイトと同じ黒髪のメイ...
メイドはサイトの側まで行くと、その胸に飛び込んだ。サイ...
サイトはさっきの笑顔を腕の中のメイドに向けて、目を細め...
……違う。さっきのわたしへ向けてくれたものだと思えたサイ...
最初からこのメイドへのものだったんだ。
サイトはメイドに何か囁いた。それを聞いたメイドは頬を染...
なに? なにを言ったの? なにをしてるの? わたしがこ...
抜け落ちたと思っていた苦しさが、何倍にもなって襲いかかっ...
わたしは何か叫んで止めようとする。けれど声が出ない。サ...
涙が溢れた。こんなの見たくない。なのに目が逸らせない。
サイトはメイドの顎を指で少し持ち上げた。そして身を屈め...
メイドは目を閉じて、サイトはその顔に顔を寄せて――。
やだ、嘘。嘘でしょ。そんなの、そんなの……!!
「やめてよっ!!!」
自分の出した怒鳴り声に驚いて、わたしはベッドから跳ね起...
ばくんばくん鳴っている胸に手を当てて、辺りを見回す。
見慣れたわたしの部屋だった。あのメイドなんていない。も...
汗をびっしょりかいていて、髪が顔や首筋に張り付いている。
それを直す気にもなれず、わたしはベッドの上で膝を抱えた。
今の光景は夢だとわかったのに、胸の奥の気持ち悪さと目尻...
汗が浮かんで不快な頬に、さらに涙がつたって落ちた。
今のは夢だった。けど、わたしの前で行われていないだけで...
サイトとあのメイドは、あの夢の、その先もしているのかも...
わたしの知らないところで。わたしをほっぽって、出て行って...
「やだ……やだよぉ……」
胸を締め付けられる……ううん、刃物でグサグサ突き刺される...
涙がぽろぽろ零れた。子供のころにどんな悪夢を見ても、多分...
わたしは膝の間に顔を埋めて震えていた。
■2
どれだけの間ベッドの上で丸くなっていたのかわからないけ...
また授業をさぼってしまった。けど、動く気にもなれなかっ...
夢の余韻がいくらか消えて、ようやくまともに頭が動くよう...
ひどくお腹がすいていることに気付いた。前にご飯を食べたの...
お腹に何か詰め込んだら、ずきずき痛む胸もいくらかマシに...
わたしはよろよろと体を起こすと、最低限の身支度をして部...
「ひっどい顔ねぇ」
食堂まで重い体を引きずっていき、全然美味しく感じられな...
もそもそ口に運んでいると、呆れた声がわたしの耳に飛び込ん...
「ちょっと、聞いてる? あなたに言ってるのよ、ルイズ」
顔を上げると、わたしの席の横にはそばかすの浮いた顔にブ...
香水のモンモランシーが立っていた。
わたしの食が進んでいないだけで、ほとんどの生徒は食べ終...
「……ほっといてよ」
食器を置いて立ち上がる。まだ残ってるけどもういらない。
「わたしもそうしたい所だけどね、ちょっと流石に目に余るわ...
このままずっと授業にも出ないでいる気? 使い魔と喧嘩した...
「関係ないでしょ、そんなこと」
モンモランシーにまでいくらか事情が伝わってるみたい。で...
相手なんかしたくない。わたしはさっさと部屋に戻ろうとした。
「あのねぇルイズ。わかってる? あなたのしてることって最...
使い魔が逃げ出したのを探しに行くでもなく、戻ってくるのを...
一体どうしたいわけ? 引き籠もってるだけで何か解決すると...
モンモランシーの言ってることがいちいち事実なのが癪に障...
そのまま食堂の出口に向かうと、後ろから深い溜息が聞こえ...
「あなた……、戻ったわね。サモン・サーヴァントをする前のあ...
ううん、もっと酷いかも。この前まではあなたをゼロだゼロだ...
今のあなたってそれ以下よ。マイナスのルイズだわ」
わたしは奥歯を噛みしめると、その言葉を無視して廊下に出...
そこで、何やら中庭の方が騒がしいことに気付く。窓から覗...
竜が何匹も降り立ち、その真ん中によくわからない緑色の大き...
そして、その隣には――見間違えるわけがない、珍しい服装と...
わたしの使い魔。ヒラガサイトが立っていた。
わたしは考える間もなく、広場まで走った。けれど、声を上...
近付いたところで足が止まる。何を言ったらいいのかわからな...
サイトには興奮した様子でコルベール先生が詰め寄っていて...
そのうち話はまとまったようで、先生はサイトの元を離れてど...
今、サイトは一人。もし、ふとわたしの方を見たら気付く。
そうしたらどんな顔をするんだろう? わたしはどんな顔をし...
不安に胸が苦しくなって。でもサイトの所へ行って話したい...
膨らんで、思い切って駆け寄ろうとしたとき。
まるで本当に今朝の夢と同じように、黒髪のメイドが進み出...
「えっと、サイトさん。ミスタ・コルベールに、その……、がそ...
今お話していたものを作っていただけたら、このひこうきは飛...
「ああ、飛ぶ。シエスタのひいおじいさんが飛べなかったのは、
そのガソリン……まぁ、ランプでいうと油にあたるみたいな、燃...
■3
何だかよくわからないことを話している。でも、サイトがメ...
この上なく嬉しそうで、宝物を見つけた子供みたいにきらきら...
あんな顔、わたしに向けてくれたことあったかしら。あった...
そして、その笑顔は今、わたしではなくあのメイドに向けら...
「凄いですね、本当に飛ぶんだぁ……」
「飛べるようになったら、必ずシエスタも乗せるよ。
シエスタのひいおじいさんが残した、『竜の羽衣』に」
サイトはそう言ってメイドの肩に手を置いた。メイドは頬を...
ぞくりと寒気が走る。そのまま、今朝見た夢みたいに抱き合...
けど、当たり前だけどそんなことはなかった。コルベール先...
また何か話し始める。運び賃がどうこう言ってるけど、たぶん...
わたしはくるりと踵を返すと、広場から立ち去った。
他の人がいるところでは、サイトと話せる気がしない。
校舎の上の階に上って窓からこっそりサイトを見ていたら、...
先生の研究室である掘っ立て小屋に引っ込んだ。
しばらくして出てくると、今度は例の緑色の大きい物の中に...
何やら真剣な顔でいじり回している。竜を使ってまであれを運...
今ならサイトは一人。誰の邪魔も入らない。わたしはとくん...
深呼吸をひとつして階段を降りた。
――とにかく、サイトと話をするために。
その前に、わたしは部屋に戻って顔と髪を確認した。
モンモランシーに言われた通り、酷い顔。顔を洗って、髪を梳...
なんでこんなことしてるんだろう。でも、酷い顔のままでサ...
どうにか見られるような顔になると、わけもなく笑顔を作る...
広場に出ると、わたしはなるべく不安が表に出ないように。...
サイトが乗っているカヌーに平たい翼が貼り付けられたみたい...
サイトはわたしに気付いてちらりとこちらを見たけど、ぷい...
怒りがこみ上げるのと同時に、不安が襲いかかる。もう、わ...
思ってるの? クビにされたんだから関係ないと思ってるの?...
体を押し潰しそうに湧き上がってくる嫌な想像を振り払って、
「なにこれ?」
と聞く。聞きたいのはそんなことじゃないのに。
「ひこうき」
サイトはわたしの方をもう一度見た後、そっけなくそう言っ...
メイドと話していた時もそう言ってた。名前がわかってもど...
「じゃあそのひこうきとやらから、あんたは降りてきなさい」
努めて、”ご主人様”みたいに、ちょっと前までサイトに命令...
強気を装ってそう言う。そうしたら、サイトがまたわたしの使...
けど、サイトはわたしの言葉が聞こえてないみたいにひこう...
悲しくなった。サイトがわたしを見てくれない。他の物に夢中...
わたしはひこうきに八つ当たりするみたいに、翼にぶら下が...
「降りてきなさいって言ってるでしょー!」
「あー、もう。わかったよ」
サイトはうんざりした声でそう言って、やっとわたしの前ま...
■4
「どこ行ってたのよ」
違う。そんなのどうでもいい。なのに、サイトを前にしたら...
「宝探し」
「ご主人様に無断で行くなんて、どういうつもり?」
「クビじゃなかったのかよ」
目頭が熱くなる。わかってる。サイトが出て行ったのは、わ...
そんなことを言ったのは……サイトが、あのメイドの所に泊ま...
キュルケは、サイトはわたしのことが好きだからわたしを助...
それを聞いて、わたしは信じられなかった。
わたしにサイトから好かれる所なんて無いと思っていたから。
でも、もし本当だったら……嬉しい、と思った。
そんな理由だけでわたしに尽くしてくれているのなら、少し...
恩返しのつもりで、あいつが喜びそうなことしてあげようかな...
けど、そんなのやっぱり有り得なかった。サイトが部屋に帰...
サイトが急にわたしを組み敷いてきたのは、たぶん寝ぼけてメ...
どうしてそんな間違いをしたかっていったら……メイドとそん...
その証拠に、サイトは帰ってこなくなった次の晩、メイドの...
サイトは、あのメイドが好きなんだ。あのメイドがサイトに...
あのメイドはサイトに憧れてるみたいで、たまにサイトと楽...
当たり前。好きになるなら、自分を好いてくれて、自分に優...
ずっと前から、サイトはあのメイドが好きだったんだ。きっ...
逢い引きなんかしてて、それで……。
夢の中でサイトとメイドがしようとしてたことを思い出す。
キス。わたしにだけしたんだと思ったのに、違った。サイト...
何か特別な意味なんてなかったんだ。
きっとあのメイドともキスして、それで、それよりもっと進ん...
痛い。胸が潰れそうなくらい。体の中に膨らんだ嫌な気持ち...
あの時も、サイトを追い出した日にもこんなことを考えて何も...
サイトにクビだって言った。だから、サイトはいなくなった。...
でも、サイトを追い出してもぜんぜん気分は晴れなかった。...
サイトがわたしから離れたところであのメイドと何をしてる...
悪夢を見るほど気持ちが悪くなった。
ずっと思ってた。サイトが「あれはルイズの誤解だから」な...
――ううん、違う。誤解じゃなくてもいい。そんなの本当は関...
サイトが他の女の子を好きでも、わたしのことを好きじゃな...
サイトがわたしの使い魔であることには関係無い。サイトがわ...
好きでもないし、我が侭だし、酷いことばっかりするわたし...
助けてくれるサイトに、わたしは本当は……感謝しなくちゃいけ...
そんなことも理解できずに、いつもサイトに酷いことをした...
一方的にクビだなんて言ったわたしは、帰ってきてくれたサイ...
サイトがあのメイドの事を、好きなんだとしても。
頬を熱いものが伝って落ちた。泣いてる。わたし。なんで?
自分が間違ってたことに気付いて、サイトが帰ってきて、嬉...
どうしてこんなに胸が痛いの?
「え……お、おい。何だよ、泣くなよ」
サイトがわたしの側によってきた。涙で視界がぐじゅぐじゅ...
肩に手を置かれた。おっきくて温かい手。その手は、さっき...
その時のサイトの笑顔を思い出して……さらに涙が溢れた。
■5
「泣くなってば。あぁもう、こんなとこで……ちょっと、こっち...
サイトは呆れつつもわたしを気遣ってくれる声で言いながら...
何も言えず何も見えないわたしの手を引いて、部屋まで運んで...
サイトがまたわたしの部屋に戻ってきた。それだけで、胸が...
サイトはわたしをベッドに座らせたので、その袖を引っ張る...
服を掴んで、その胸に額をくっつける。
そうしてないと、サイトがまたとこかへ行ってしまいそうな気...
わたしがいつまでも泣きやまないでいたら、サイトはわたし...
赤ん坊じゃないわよと思ったけど、驚くくらい安らいだ気分...
しばらくそのままでいたら、ようやく涙が止まってくれた。
「く、ひっく…クビだって、言ったけど……嘘だから。使い魔をク...
まだ喉が震えてまともにしゃべれないけど、わたしは必死に...
「ああ…わかってるよ」
サイトはわたしの頭をまだ撫でている。それ、もっと続けて...
「だから、だから……使い魔は、ご主人様の近くにいなきゃいけ...
そう決まってるんだから。勝手にいなくなっちゃだめなの」
「うん、うん」
ちゃんとわかってるのかどうか怪しいけど、サイトは繰り返...
それで気持ちが少し楽になる。
「……脱いで」
「え?」
「その上着、脱いで。貸してよ」
「いやでも、遠出して帰ってきたばっかで汚れてるぞ?」
「いいから脱いで!」
今度は、顔を押しつけていたサイトの上着が恋しくなった。...
「あ、あっち向いてなさい」
何度か寝間着の代わりに使った時みたいに、服を脱いでサイ...
懐かしい温もりに安心できて……それから、これをわたしが着...
サイトはいなくなったりしないはずよね、なんていう都合の良...
着替え終わってサイトにこっちを向かせると、シャツ姿にな...
また頭を乗せる。さっきより近くなった体温とわたしが着てる...
サイトに包み込まれてるみたいな気分になる。
そうして、ようやくまともに物が考えられるようになった。
わたしは確認しないといけない。サイトの気持ち。サイトと...
怖い。知りたくない。でも、はっきりわからないままでいる...
わたしはサイトの匂いに包まれながら勇気を振り絞ると、口...
「……サイトは、あのメイドが好きなの?」
ぎゅ、とサイトのシャツを掴んだ手に力を込める。
「え……?」
「答えて。それでどうこうするってわけじゃないから」
戸惑うサイトに、さらに質問する。
もの凄く長く感じられる時間が流れた。たぶん、何秒も経っ...
「……好きだよ、たぶん」
その答えにびくっと体が震えた後、語尾に付け加えられた言...
「な、なによそれ、たぶんって! あんたの気持ちの事でしょ...
「し、仕方ないだろ。俺はいつかは帰らなきゃいけない人間だ...
顔を上げて怒鳴ると、サイトは気まずそうに視線を逸らした。
■6
「じゃあ、もし帰る方法が絶対に無いんだとしたら、好きって...
「わかんねえよ、そんな仮定の話なんて。それに……」
サイトは言葉に詰まってわたしの方をちらりと見る。
「な、何よ?」
「なんでもねーよ」
「言いなさいよ! 何でもないってことないでしょ!」
詰め寄ると、サイトはわたしの肩を掴んで制止した。
わかんない。こいつの気持ちが余計にわかんなくなった。
でも……あのメイドのことが好きだって断言されなくて、ホッと...
「そ、それじゃあ、好きかどうかもはっきりしない子の部屋に...
最っ低! 酷い! 不潔!! 色魔犬!!!」
「それは……! その、シエスタには寝る場所が無かったから泊...
「じゃあ、その……い、いいいかがわしいことは、してないって...
じっと見つめる。サイトは誤魔化すように視線を逸らした。
「えーっと……し、してなきにしもあらずというか」
「わけわかんないわよ!」
「さっ、最後まではしてません!」
「最後って何よ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!???」
ついに溜まっていたものが爆発して、わたしはサイトをベッ...
変な体勢で床に落下して仰向けになったサイトを、仁王立ち...
「まさか、まさかあんた、ただスケベなだけで女の子なら何で...
ないでしょうね!? もしそうなら絶対許さないわよ!?
始祖ブリミルの名の下にご主人様が制裁を加えてやるんだから...
荒くなった息を整えながら、びしっと眼下の使い魔を指して...
サイトは目を回していたが、正気に戻るとわたしの言葉にこ...
「も、もういいわ。とにかく! 一方的にクビだなんて言った...
否があったって認めてあげる。それは謝るわ。
今でも、これからもあんたはわたしの使い魔だってこと、忘れ...
「ああ……わかった。……で、あの、それはいいんだけどさ……」
「あによ?」
床に寝っ転がってるサイトが、口元を引きつらせながらわた...
おずおずと言ってきた。
「その……このアングルだと、見えそう」
何が? 眉をひそめて状況を再確認する。
ベッドの下には、こちら側に頭があって仰向けのサイト。わた...
で、わたしはサイトの上着だけを、寝間着代わりにするとき...
……………。
わたしはベッドの上から跳躍すると、サイトの顔を踏みつぶ...
「もう、なんでこうなっちゃうのかしら」
のびてしまったサイトをどうにかベッドの上に引き上げると...
ちゃんと謝ろうと思ったのに。今までの感謝の気持ちを示そ...
サイトが目の前に帰ってきたら、いつもと同じような物言いし...
素直になれないどころか、自分がどうしたいのかもわからな...
「きっと、わたしだけのせいじゃないんだから。あんたのせい...
ただの八つ当たりだとわかってて、寝てるサイトにそう言う...
色んな物が胸の内にモヤモヤしてるのに、ただここにサイト...
安心できてしまってるわたしがいて……それがなんだか悔しかっ...
■7
∞ ∞ ∞
仕事が一段落ついて休憩をもらったわたしは、中庭から見え...
どうしようかなとちょっと考えた後、宝探しから帰ってきて...
アウストリの広場で『竜の羽衣』……じゃなくて、ひこうきを点...
今もそうしているのなら、お茶を持って行ったら喜んで頂け...
ご一緒できるかも。良い思いつきに鼻歌なんて歌いながら、広...
ちょうど校舎から出てきた桃髪の生徒の方が、わたしの姿を...
「あっ」
「……ミス・ヴァリエール。ご機嫌麗しゅう」
一瞬ぎくっと身をすくませてしまってから、取り繕うように...
ミス・ヴァリエールの方も、わたしを前にして何かためらっ...
わたしやサイトさんがこの学院に戻ってきて、今日で三日目。
サイトさんとミス・ヴァリエールはどうやらまた主人と使い魔...
それまでよりもちょっとぎこちない感じはするものの、仲直り...
けれど、サイトさんがミス・ヴァリエールの元から一時的に...
わたしと無関係ではありません。ミスがわたしのことをどう思...
少し不安だし、気になるところです。
ミスが何も仰らないので、もう一度礼をして立ち去ろうとす...
「ちょっと待って」
遠慮がちにお声をかけられました。
「わたしに何かご用でしょうか?」
「聞きたいことがあるの」
決意の色を含んだミス・ヴァリエールの鳶色の瞳が、わたし...
「あんた、サイトのことが好きなの?」
一呼吸置いてミス・ヴァリエールの口から出てきたのは、あ...
一瞬気圧されてしまった後、わたしも唇を引き結んでミスの...
「はい。わたしはサイトさんが好きです」
相手が貴族の方でも、公爵家でも関係ない。わたしは正直に...
「……サイトは、あなたのことを好きと言ったの?」
次いでの質問。喉の奥から絞り出すような、震えた声。
「はい」
そう答えると、ミス・ヴァリエールはびくりと肩を震わせま...
「……と言ったら、どうするんですか?」
明らかに無礼な、メイドがしていい口の利き方ではない台詞。
それでもミスは文句も言わずに、わたしから目を逸らせます。
ミス・ヴァリエールに聞かれるまでもなく、わたしは気付い...
サイトさんは、わたしに一度も『好き』とは言ってくれていま...
そして、それが言えない理由のうち、大きい部分をこのミス...
そのことも薄々わかっていました。
わたしは、ミス・ヴァリエールが羨ましい。ただ羨ましいだ...
もっと汚い感情で……、この方がサイトさんの主人であることを...
公爵家の家柄だから将来が約束されていて。この学院にいら...
そして、サイトさんを使い魔として常に側に置けて、言うがま...
ミスは平民と同様に魔法が使えないのに。
もしヴァリエール家に生まれていなければ、そしてサイトさ...
サイトさんはあなたに見向きもしなかったんじゃないですか。...
■8
ミス・ヴァリエールの姿を見るたびに、自分の心の汚い部分...
今もそう。ここでわたしが上手く嘘をつけば、もしかしたら...
再び仲違いさせて、サイトさんの気持ちをわたしに向けること...
そんなことまで考えてしまっている自分がいることに気付い...
それが、わたしの本性。正直な気持ち。汚い、醜い心の底。
「……サイトさんは、わたしを好きだと言ってくれたことはあり...
でもわたしの口からは、正直な気持ちに逆らった、正直な言...
ミス・ヴァリエールの顔色が、あからさまに安堵の色に染ま...
それを見て、わたしの中の汚い部分が悲鳴を上げる。
どうしてわざわざ馬鹿正直な事を言って目の前の相手を喜ば...
「そう」
「ミス・ヴァリエールはどうなんですか? サイトさんが好き...
それどころか、聞かなくても良いことを。聞くべきじゃない...
ミス・ヴァリエールは質問の内容にも、わたしがそんなこと...
驚いたみたいに、はっと目を見開いて後じさりました。
「な、なんであんたにそんなこと答えなきゃいけないのよ!」
「好きなんですか?」
必死で動揺を隠そうと声を張り上げるミスに、もう一度聞く。
ミス・ヴァリエールは真っ赤になって、眉をつり上げて、で...
「……じゃあ、質問を変えます。ミス・ヴァリエールは、サイト...
「……それは……、あいつは、使い魔だし……」
今度の質問には、ミスは歯切れ悪くそう答えました。
「大事なら、サイトさんにそう言ってあげていますか?」
「何よ、なんであんたからそんな」
じっとわたしを睨むミスには、いつもの迫力は微塵も感じら...
「わたしは言ってもらえました」
「え……」
目を瞑ってそう続ける。ミスがその言葉にどんな反応をした...
ひょっとしたら見るのが怖かったのかも。
「サイトさんは、わたしのことが大事だって言ってくれました。
そう言って見つめてくれて、笑ってくれて……抱きしめてくれま...
それだけで、もう他に何もいらないほど満たされました。自分...
何を言っているんだろう、わたし。
「わたしもサイトさんが大事だって、何度も言いました。サイ...
けど、サイトさんには心残りがあるみたいでした。どこか寂し...
きっと、自分をクビにしたご主人様のことを考えていたんです...
わからなくて不安だったんですね。だから、わたしが慰めてあ...
言い切った後、ゆっくり目を開きます。
「……気持ちを伝える一言。簡単なことなのに、どうして言って...
他人事のように言うと、つかつかとミス・ヴァリエールが迫...
内心ではビクビクしていたわたしは反射的に身をすくませると...
――そのまま、わたしの横を通り過ぎていきました。
わたしが呆気にとられて振り向くと、ミス・ヴァリエールは...
「シエスタ」
そう、呟きました。わたしが呼ばれたんだということにとっ...
■9
「……あ、ありがと」
ほとんど独り言みたいな、小さな声でそう続けて、ミス・ヴ...
ミスが消えていった学生寮を見つめながら、思います。
わたしはサイトさんとのことをミスに自慢して、ミスに嫌味...
打ち首にされても仕方ないくらいの失礼なことを言ったのに。
サイトさんと、このままぎくしゃくしたままならいいのに、...
どうしてお礼なんて言われたんでしょう。
もう少ししたら休暇が貰えるから、タルブに戻ることになる...
サイトさんとミス・ヴァリエールがわたしの知らないところ...
学院に戻ってきたはずなのに。どうしてミスに感謝されるよう...
「どうしてでしょうね」
小さく声に出てしまって、そこで気付きました。
わたしは、たった今ミス・ヴァリエールに初めて名前で呼ば...
∞ ∞ ∞
「サ、サイト」
「んん?」
溜まっていた洗濯物が山のように入っているカゴを抱えた状...
後ろから呼びかけられた。ルイズの声だ。振り向くのは危ない...
「悪いけど話なら後にしてくれないか? これ部屋まで運んじ...
「あ……うん」
ルイズは小走りで俺の横まで来て、半歩後ろを黙ってついて...
やけに聞き分けがいいことに戸惑いつつ、寮のルイズの部屋...
机の上にカゴを下ろして、室内を見回す。俺がいない間に散...
ルイズの部屋は、数日かけてどうにか追い出される前と同じく...
「で、なんか用か?」
その部屋の持ち主であるルイズの顔を見て聞く。
「え? あ、別に用があるってわけじゃないんだけど……」
ルイズは俺と目を合わせると、気まずそうにその視線を逸ら...
「そう? なら俺、ゼロ戦を見て来たいんだけど」
そう声をかけると、
「ぜろせん……あのひこうき? 行っちゃうの?」
ルイズは飼い主とはぐれた子犬みたいな目を俺に向けてきた。
どきっとして無闇に罪悪感が湧き上がってくる。
宝探しから帰ってきて以来、ルイズはこんな調子だった。い...
怒鳴ったり叩いたりしてくることはあるものの、ふとした調子...
やっぱり派手な仲違いをした後で、俺にどんな態度をとった...
俺だってそうだ。タバサやシエスタに色々言われたものの、...
よくわからない。そんな中でどう対応したらいいのかなんて、...
けど。今にも俺に駆け寄って飛びついてきそうな様子のルイ...
俺が譲歩するべきなんじゃないかと思えてしまう。
学院に帰ってきた当日もそうだった。俺を一方的にクビにし...
色々あったはずなのに、急に目の前でボロボロ泣かれたら、何...
止めてやらなきゃって気分になった。俺はルイズの保護者じゃ...
「あー、やっぱやめた。部屋にいる」
「ほんと?」
ルイズはぱあっと顔を輝かせた。それを見て頬が熱くなる。...
咳払いをひとつして洗濯物を畳み始めると、ルイズが隣まで...
■10
「わ、わたしも手伝うわ」
どういう風の吹き回しだろ。ルイズは俺に習ってカゴから洗...
例によって不器用で雑な畳み方だが、本人が着るものだし別に...
洗濯物が片づくと、ルイズは俺の袖を引っ張った。
「……ちょっと、話したいことがあるから来なさい」
引っ張られるがままにベッドの所まで歩かされて、そこに座...
隣にルイズも座ったので、三日前にここに帰ってきた時のこ...
今度は何を言われるんだろ。怒られるのも暴力振るわれるもの...
ヒヤヒヤしていると、ルイズはぎろりと俺を睨みつけてきた。
俺がたじろいで体を引くと、今度はルイズ、慌てたようにふに...
「あの……聞いて。責めようとか、そういうんじゃないから」
ルイズはまた俺の服を掴むと、おずおずとそう言ってきた。...
いつになく真面目な雰囲気に、俺も気を引き締めた。その目...
「そ、そんなにじっと見ないでよ。話しにくいじゃない、ばか」
と思ったら、顔を赤くしてぷいっと目を逸らされた。ホント...
「えっと、それでね……その」
「うん」
俺の服を握りしめる手の力がより強くなった。
「その、あの……、わ、わわわ、わたしは……あんたを……」
必死で言葉を紡ぎ出そうとするルイズ。俺は真剣な気持ちで...
ルイズはちらりと俺の顔色を伺うと、今度は俯いてしまった。
「あ、あんたは……」
あんた”は”? 今言おうとしてたことと違うんじゃないか?
「あんたは、わたしのこと……、どう思ってる、の……?」
途切れ途切れにルイズはそう言ってきた。声も、手も肩も震...
ルイズが言いたかったのってこの質問? ちょっと違う気が...
今までわからなかったルイズの気持ちが、今ので少しわかっ...
俺が『ルイズは俺のことを使い魔として人間以下、動物同然...
って考えて不安だったのと同じように、ルイズの方も、不安だ...
例えば、『サイトは自分のことを勝手に召還して契約した迷...
使い魔だから仕方なしに嫌々仕えてるんじゃないか』などと考...
タバサは、ルイズは本気で俺を犬同然だとは考えていないと...
シエスタは、ルイズは俺のことを必要としているはずだと言...
鵜呑みにするつもりはない。けど……今のルイズを見てて、気...
ルイズは、子供なんだ。他人の気持ちも、きっと自分の気持...
貴族としての誇りはある。信念も持っている。けど、それら...
自分本来の気持ちというか、本音の部分を制御できないんじゃ...
自分がそう教えられた通りに、深く考えずに俺を犬だ平民だ...
子供だから、すぐ癇癪を起こす。困ったら暴れたり泣いたり...
理屈も何も無しに後先考えないでクビだとか言ってくる。
冷静になって自分の行動を後悔した後でも、俺がルイズのこ...
ないかって不安で、素直に謝れない。子供みたいに意地っ張り...
大きな溜息が出た。そんなルイズをわかってやれなかった俺...
「な、なによそれぇ……」
ルイズが今にも泣き出しそうな声を出す。
今の溜息が『わたしのことどう思ってるの?』の答えだと思わ...
「あのな、ルイズ。俺がルイズをどう思ってるかだけど」
■11
言っている途中に、ルイズは親の叱りを待ち受ける娘みたい...
「よくわかんねぇ」
ルイズは目が点になった。そのまま数秒が経過した後、一気...
「わっ、わかんねぇって……こっちの台詞よ! なにそれ!?」
「仕方ないだろ、実際俺でもわかんないんだから。あー、マジ...
なんでこんなご主人さまのとこに帰ってきちまったのか全っ然...
人使い荒いしすぐ癇癪起こすしガキだし口だけ偉そうなくせに...
ほんとどーしようもないご主人さまだよ、お前」
「わ、わかってるじゃないの! よくもそんなっ!!」
俺が開き直って罵詈雑言を浴びせると、ルイズは怒りを通り...
「いーや、ぜんぜんわかんないね」
「何がよっ!?」
「それだけ救えないご主人さまのところに、なんで戻る気にな...
なんでお前の顔見てお前のキンキン声を聞いてると、悪くない...
見つめると、ルイズはぽかんとした顔つきになって大人しく...
前言撤回。俺はたぶんルイズより子供だ。本当は薄々わかっ...
なんでルイズの側にいると。ルイズの顔を見て声を聞いてる...
わかってるくせに自分でも認めないんだから。こんな気持ち...
「わ、わけわかんないわよ……」
「奇遇だな、俺もわけわからん」
そのまま俺は誘われるようにルイズの肩に手を乗せると、引...
「な……にすんのよ……。はなしなさいよぉ……」
ルイズはそう言うが、俺の手から逃れようとする力など全く...
むしろ、俺の胸に体を預けてきた。
もし本気で抵抗したとしても、俺がちょっと強く捕まえれば...
それくらい小さくて細くて軽い体。俺がいなかったら本当に何...
俺は、たぶん嬉しかったんだ。こんなルイズを守ってやれる...
ルイズが俺に我が侭言ったりしてくるのも、本当は俺に甘えて...
なんとなく気付いてたから。
「ルイズ、お前俺がいないと駄目なんだろ? たかだか十日く...
帰ってきたら泣きついてくるような奴、ほっとけるわけないだ...
「な、なによ。同情のつもり!?」
「ちげーよ。お前のためじゃなくて、俺のためだよ。
俺がいないとこでめそめそしてんじゃないかって考えたら、寝...
ぎゅっと抱きしめる。ルイズは小さく吐息を零した。
「めっ、めそめそなんかしてないもん……」
「してるだろ。今だってしてるし」
顔をのぞき込もうとしたら、そっぽを向かれてしまった。
この意地っ張りで素直じゃないところをどうにかしたら、友...
けど、そんな厄介な性格も含めてルイズだ。だからほっとけな...
「……俺は、ルイズの所に戻ってこれて嬉しいよ」
はっきり言ってやった。そんなルイズにこっちまで意地張る...
「え……」
「ルイズにクビだって言われて、ショックだった。悲しかった」
言いながらルイズの髪を撫でると、ルイズの体から緊張が抜...
■12
「だ、だったら、も、もっと早くかえってきなさいよね……」
「ごめん」
「ごご、ご主人さまを寂しがらせちゃいけないんだから……」
「ごめん」
悪いのは俺だけじゃないと思うんだが、素直に謝る。そして...
ぱたりとベッドに横になった。
俺に抱かれたまま一緒に倒れたルイズは、文句を言う前に頭...
もう、どっちが良いとか悪いとかなんて、どうでもよくなっ...
ルイズはここにいて、この女の子は俺のご主人さま。
使い魔の俺はそれを守らなきゃいけない立場にあって、俺は...
いや、むしろ嬉しいとも思ってる。ルイズに頼られて、甘えら...
それでいいや、と思えた。
「……わたしも……」
そのまましばらく胸の上でルイズの重みを感じていたら、ル...
「え?」
「わ、わたしも……サイトが戻ってきてくれて、う、嬉しい……」
儚い鈴の音みたいな、今にも消え入りそうな声。その言葉に...
俺が帰ってきてもう三日も経って、ようやくルイズが言ってく...
こんなことも素直に言えない困ったご主人さまが、ようやく...
それが聞けただけでどきどきしてしまって、この腕の中の女...
膨れあがってしまってる俺自身が恨めしい。
「ルイズ」
たまらなくなって囁くと、背中に回していた手をそろそろと...
ふわふわの髪を掻き分けて首筋に触れた。
∞ ∞ ∞
「ふぁっ……」
サイトに抱きしめられて、首筋を撫でられて。喉の奥からヘ...
散々馬鹿にされて、勝手に抱いてきたりして、腹を立てなき...
体に力が入らない。文句を言う気にもなれない。
だって、今さっきになってやっとサイトに言えた言葉の通り...
サイトがわたしを嫌ってなくて、わたしの側にいることも嫌...
大事。あのメイド……シエスタはそう言った。
きっと、その言葉は合ってる。わたしはサイトのことが大事...
側にいて欲しい。わたしを見ていて欲しい。守って欲しい。...
それで、そうしてくれているから感謝する。それって、大事っ...
そもそも主人は使い魔を大事にするものなの。それを態度に...
可愛がって、絆を強くするものなの。そう決まってるんだから...
サイトの体温と匂いをすぐ近くで感じていると、頭がとろん...
こんなに安心できるのは、サイトと仲直りできたから。胸につ...
今度は、わたしの方からサイトに感謝を示さないとダメよね。
サイトを追い出す前はそうするつもりだったんだし。
えっと、セーターは……、あれから全然進んでない。今さらな...
だったら、マッサージ? 結局、わたしからサイトにマッサ...
剣を買いに行く前日の一回だけ。しかも、よくわかんない風に...
■13
「あ……、あのね、サイト」
ごくりと唾を飲み込んでから、切り出した。今度はちゃんと...
そう思ったら、サイトの指がわたしの首筋から背中の方までく...
「ひゃっ! ぁ……、な、なにすんのよ」
ぞくぞくって全身が震えた。ただ撫でられただけなのに。
「えっと……その、マッサージ。ご主人さまを寂しがらせちゃっ...
サイトはそんなことを言ってきて、今度はもう片方の手で腰...
体の中に電気がびりびり走る。そういえば、わたしだってサ...
久しぶりなんだ。アルビオンに行く前以来だわ。そのせいか、...
「まって、まっ……あ、ちょっと、ひぁ……」
サイトは構わずわたしの体を弄ってきて、サイトの上でわた...
わたしがサイトにしてあげようと思ったのに、先回りされちゃ...
「嫌か?」
「いや、じゃないけど……」
サイトは不安そうな声をかけてきて、ぴたりとその手を止め...
だって、サイトのマッサージ気持ちいいし。以前はこっちから...
どうしよう。して欲しい。恥ずかしいけど……なんだか、前に...
気持ちいいような気がする。先にわたしがしてもらってから、...
「じゃ、続けるぞ」
サイトはそう言うと、今まで撫でるような手つきだった指に...
刺激してきた。ぎゅっぎゅって押されるたびに、自分でもよく...
すぐに胸の奥に火がついたみたいになって、久しぶりの気持...
膨らんでくる。けど……。
「ちょ、あん、や……、なによ、この格好……!」
サイトってば、わたしを体の上に乗せたまま、背中に回した...
今までは俯せに寝かせてしてくれたのに。
サイトの指に力が入るたびに、わたしの体がサイトの体に押...
サイトの体温とか匂いとか、心臓の鼓動とかがもっと近くなる。
頭がぼーっとしてきた。ヘンなことされてるはずなのに、何...
「あ、ひゃ、ふ……、あっ、あ、あぁ……」
ばかみたいな声が止められない。サイトの手が背中じゅうを...
触ったんじゃないかってくらい動き回ってから、腰の方に降り...
どきんと心臓が跳ねる。お尻を触られるんじゃないかって思...
けど、やっぱりそんなことはなくて……サイトの指はわたしの...
「ん……ルイズ、ちょっと痩せた?」
「な、何言うのよっ!」
「まさか、ちゃんとメシ食ってなかったのか? ただでさえ細...
サイトは心配そうに言ってから、わたしの体を脇に下ろした。
「あ……」
また、寂しくなる。サイトの体が離れただけなのに。サイト...
わかってるのか、小さく笑った後、上体を上げてわたしの足に...
やっぱり、今までと違う格好。サイトはわたしを仰向けにし...
わたしのことをいたわってくれて、大事にしてくれてるのが...
サイトの指が足の先から段々上の方に登ってくる。
わたしの中の”気持ちいい”って感覚を、体の真ん中まで押し...
モヤモヤがどんどん膨らんできて、マッサージどころかサイト...
声が出そうになるほど気持ちよく感じられるようになってくる。
お腹のあたりがむずむずしてきた。ベッドに腰を押しつける...
サイトにマッサージされた時、指が太股のあたりに触れてくる...
きゅうっと体の奥が縮み上がる。この感じ、切なくて苦しいの...
■14
でも、この感じになるたびに、最後には物足りなさが残って...
サイトのマッサージは、そのうち気持ちいいのが弾けて溢れ...
それでお終いになるんだけど、ほんの少しだけ満たされない感...
なんていうか、して欲しいって思ってることを全部はしてく...
……ううん、その物足りなさが何なのか、本当はわかってる?
サイトの指が太股を上がって、ソックスの部分を通り過ぎて…...
わたしの中に、確かな失望が湧き上がってくる。わたし今、残...
離さないで続けて欲しいって思った。
今日はうつぶせじゃなくて、手が自由に動かせるからかしら。
反射的に、わたしはサイトの手首を掴んでしまった。
「ルイズ?」
「…………」
今までにマッサージされた時は、わたしはうつぶせの格好だ...
わからなかった。でも今は、頬を赤く染めたサイトが、わたし...
「……マ、マッサージだから……」
サイトの顔を見てたら頭が熱くなって、自分でも考える前に...
「え?」
「こ、これはマッサージだから……、触りたいとこ、触ってもい...
わたしは掴んだサイトの手を、太股に下ろした。サイトは目...
たった今、サイトがわたしの太股から手を離す直前、わたし...
サイトはわたしの太股に当てた手を、自然にもっと上まで持っ...
まるで、誰かにそれをした経験があるみたいに。
「ルイズ、それは……」
「……いいから」
じわっと嫌な感情が滲み出してくる。誰に? 誰にそんなこ...
夢で見た、サイトとシエスタが抱き合ってる姿が蘇る。キュ...
キスしてた記憶も蘇る。
サイトは知らない所で、わたし以外の女の子には、わたしに...
してるかもしれない。
やだ。そんなのやだ。許せない。耐えられない。
――他の人にしたことなら、わたしにもして欲しい。
わたしはサイトの手首から手を離した。サイトの指はそのま...
どうされるのか想像してぎゅっと体を強ばらせていると、サ...
開かれた。次に何をされるのかと思って身構えると、そっちに...
不意打ちするみたいに、もう片方の手がわたしの胸に触れてき...
「あっ……! え……!?」
びくんと体が跳ねる。制服越しとはいえ、胸を触られた。頭...
「さ、触っていいんじゃないのか?」
「いいって言ったけど、なんでっ……」
何で胸なんて触るのよ。わたしが触っていいって言ったのは...
あれ? どこのつもりだったの? もう自分でもよくわかん...
「いいなら、じっとしてろ」
「ちょっと、まって、でも、そんなの……あっ」
サイトの手のひらがわたしの胸全体を包み込む。かぁーっと...
そんな風に触られたら、わたしの胸、ほとんど膨らんでない...
いや、そのことは何度も馬鹿にされてるし、サイトには裸に...
服の上からだってわたしの胸が無いことくらいわかるだろうけ...
■15
「んっ……!」
サイトの手がわたしの胸を恐る恐るといった風に撫でてきた...
襲いかかってくる。わたしの反応が”良さそう”なので安心した...
同じように、指に少しずつ力を入れてきた。
「ふっ…、ぁ、んぅ……!!」
その刺激に、危うく息が詰まりそうになった。わたしの、て...
足とか背中とか、今までマッサージされてた所と大した違いな...
体の芯までとろけさせる感覚がサイトの指から染み出してくる。
気持ちの良いモヤモヤが溜まっていくのは胸のあたりだから...
頭の隅でそんな考えが浮かぶけど、それどころじゃない刺激に...
サイトはもう片方の手も太股から離して、胸に持ってきた。...
わたしを組み敷く格好になったサイトがわたしを見下ろしてる...
その頬はやっぱり赤くて、とろんとしていて、何だか……嬉し...
なんで? サイトがわたしの体で触りたいとこって、胸なの...
いつも、キュルケとかシエスタとかの胸を見てデレデレしてた...
そんなあんたの態度を見せられて、わたしがどれだけ腹を立て...
今までさんざん惨めな思いをさせられた分、文句が湧いてく...
でも、サイトがそんなわたしの胸をこんなに大事そうに触って...
全部ひっくり返してしまうくらい嬉しい。
その嬉しさと一緒に、体の中に溜まった気持ちよさがどんど...
今にも弾けてしまいそうなくらい。体がぶるぶる自分の意志と...
サイトはそれを察したのか、少し体勢を変えた。わたしを見...
近付いてくる。
あ……、キス? キス、してくるの? して欲しいとかそんな...
わたしの顎が勝手に持ち上がった。でも、サイトの顔はわたし...
「ひゃっ……、 あ、あぁ、ふぁっ!?」
サイトの唇がわたしの首筋に触れる。不意打ちで与えられた...
素っ頓狂な悲鳴が上がった。何よう、わたしが顎を上げたのを...
意味だと思ったの? それともわかっててわざとやったの?
サイトの熱い唇が首筋を這い上がってこめかみの方に移動し...
サイトの吐息が耳元に吹きかかる。頭の中が沸騰したみたいに...
その上、サイトは大きく息を吸い込んで、わたしの髪の匂い...
してきた。恥ずかしさで何も考えられなくなる。ほんとに、こ...
「ルイズ」
何よ。話しかけるなら、おっぱい弄るのやめなさいよ。返事...
「……ルイズ」
だめ。それだめ。耳元で囁かれるのもぞくぞくする。あたま...
サイトが小さく溜息をついたのが感じられた。わたしがまと...
でも仕方ないじゃない、あんたのせいでこんなになっちゃって...
サイトはわたしの耳元から顔を離した。言い様もない喪失感...
サイトは片足の膝をわたしがだらしなくベッドに投げ出した両...
え、何? 反射的に足を閉じそうになったとき、サイトは胸...
わたしの胸の、先っぽのところを摘んだ。かはっ、と声になら...
今までもちょっとずつはいじられてたけど、こんなに強く触...
体を突き刺すような鋭い刺激に意識が飛びそうになる。
けど、サイトはそれだけじゃ許してくれなかった。さっきわ...
持ち上げて、わたしのスカートと下着の上から”そこ”を太股で...
その次に何されたのか、よく覚えてない。とにかく、あっと...
気持ちいいのが溢れて、それは今までのマッサージの時と決定...
そのまま濁流の中に飲み込まれたみたいに、わたしは気を失っ...
■16
ベッドの隣では、サイトが気まずそうにわたしを見ている。
わたしも気まずい。何言ったらいいのかわからない。だけど...
行かれちゃうのは嫌だったから、口元まで布団を被ってサイト...
サイトの顔を睨みつけてる。
あの後わたしは気を失ってしまって、しばらくしてサイトに...
それから何も言えてない。わたしが寝てる横に座ってもらって...
まだ胸がどきどき高鳴ってる。体も火照ってる。たぶん、顔...
思い出すだけで、頭がくらくらしてくる。それくらい凄かっ...
あんなの……、あんな凄いことになっちゃうのに。サイトって...
そう考えて、胸の奥がきゅっと締め付けられる。
ううん、本当はわたしもわかってる。さっきサイトがわたし...
マッサージとかそういうんじゃない。もっと深いこと。簡単に...
それを、わたしはサイトに望んで、サイトはそれをしてくれ...
胸の奥に、気持ちいいのか気持ち悪いのか自分でもわからな...
わたし、嫌じゃなかった。サイトに胸を触られるのも、首筋...
はしたない。いけない。そんなの、許されるはずないことな...
サイトの顔をじっと見つめる。サイトは頬を赤くして、ちら...
サイトは、わたし以外の子にもあんなことしたの? シエス...
聞きたい。けど、怖くて聞けない。どうしたいのか自分でも...
サイトに感謝の気持ちを伝えようとか思ってたのに、もっと...
なってきちゃったじゃない。どうしてくれるのよ。あんたのせ...
八つ当たり気味に心の中で悪態をついて、ぎゅっとサイトの...
サイトはそんなわたしの様子を見て、やれやれ、とでも言い...
「……あのな、ルイズ」
サイトはわたしの方に少し体を傾けた。わたしは目だけで『...
「さっきのルイズ、すげえ可愛かったぞ」
ボンッ、と頭が火を噴いたみたいに熱くなる。わたしは布団...
「ばっ、馬鹿じゃないの! バカ、ばかばかっ!!」
目を覚ましてからの第一声がこんなのになるなんて。最低。
「かもなぁ」
サイトの顔は見えないけど、照れ隠しみたいな笑い声が聞こ...
何よそれ。さっきのわたし、あんな馬鹿みたいな声出して、た...
ふにゃふにゃになってて、そんなの可愛いと思ったの? 頭お...
そのまましばらくしていると、サイトもベッドに横になった...
一瞬どきっとしたけど、すぐに安心感に包まれて、また眠たく...
泣いたり怒ったりあんな凄いことされたりで疲れちゃったし...
寝ちゃうのもいいかも。そう思って目を閉じる。
すぐに眠りの世界に落ちていきそうになって、頭の中に霧が...
今なら簡単には言えないことも口に出せるかも、という気分に...
わたしは、半ば眠ってしまっている状態で、隣のサイトの温...
「――今度は、あんたにもしてやるんだから」
そう、呟いた。
つづく
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