ゼロの使い魔保管庫
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開始行:
……そんな事があった為に、今アンリエッタの心の中にはサイ...
だった。あれから数日が経っていたのだが、その間彼には王宮...
毎に心の中の彼の占める割合は大きくなるいっぽうであった。
(サイトさま…お会いしとうございます…)
会いたい、会いに行きたい。
しかし、女王としての立場では無理な相談だった。
ココのところ執務が忙しく、とてもじゃないが魔法学院まで...
い。彼はガンダールヴ――虚無の担い手でもある幼馴染、ルイズ...
精霊騎士隊の副隊長でもある。彼女の部屋に行ったからといっ...
てはならない。すぐに見つかれば良いがそうでない場合、手間...
空けなければ、学院へ行って彼に会う事は出来ない。ましてや...
では、呼び出す。
それも無理な話であった。
たしかに彼は水精霊騎士隊、つまりは女王の近衛兵(まだ訓...
普段の執務においては近衛は銃士隊のみで十分なのだ。そこに...
になるばかりではなく、彼の主人であるルイズに訝しがられて...
(明日は虚無の曜日。あなたは何をなさっておいでですか…)
愛しき人に思いを馳せ、アンリエッタは眠りに就いたのだっ...
#br
その日、朝早くからサイトは馬を駆っていた。王宮へ赴くた...
それは昨日の事。以前自分に剣を教えてくれたアニエスが、...
シュヴァリエになってからというもの、独自に鍛錬はしてき...
しかし、彼はメイジでは無い――水精霊騎士隊のメンバーは彼を...
そんな所に来た今回の申し出、嬉しくないはずは無かった。
虚無の曜日である今日、彼のご主人様である桃髪の少女は『...
(補習って一体なんの補習だろ)
ルイズは虚無の魔法に目覚てからも、他の4系統―火・水・土...
真面目で、どの様な授業も進んで学んでいたはずだった。そん...
(ま、聞いたからって教えてくれる訳無いよな)
頭を軽く振り浮かんだ疑問を消し去った。
#br
「来たな、サイト」
王宮に着くと、警備の魔法衛士隊がサイトの姿を確認し、ア...
「こっちだ、付いて来い」
後を付いて行く。着いた先は王宮の裏庭の一角だった。
ここで普段、銃士隊の訓練を行っているのだろう。既にメン...
「皆に紹介しよう。といっても知ってる者は多いと思うが」
そういって振り返る。
「サイト・シュヴァリエ・ド・ヒラガ。先のアルビオン戦で功...
「あ、どうも。サイトです、よろしく」
瞬間、きゃーと黄色い歓声がわき起こった。
(え?え、え、え、え?)
まるで地球に居た頃のアイドルのコンサートの様な歓声に、...
彼女達の中から『サイトさまよ』『ほ、本物だわ』などと声...
達だ。自分達と同じ平民でありながらシュヴァリエになったサ...
えよう。
「サイト、お前がどれだけ精進してきたか、見てやろう」
木剣を放って寄こすと、それを構える。
「本気で来い!行くぞ!」
しかし、勝敗はあっけなく付いた。アニエスが膝を付き、そ...
彼は幾多もの命のやり取りを経験し、体がその感覚を覚えて...
魔、ガンダールヴなのだ。例え真剣ではないとはいえ、久々に...
無かったのだ。
「くっ…、さすがだな」
土埃を払いながら立ち上がるアニエス。『よし』と呟き、全...
「では、次は全員で一斉に掛かれ!本気で行かないと後悔する...
その言葉を合図に、銃士隊全員 対 サイト での打ち合いが...
#br
「良いお天気」
わたくしは王宮の庭園に来ておりました。執務も滞りなく進...
ちょっとお散歩を楽しんでいたのです。
(まったく、毎日毎日王室で過ごしていたら体がなまってしま...
今はお昼ちょっと前の時間ですので、裏庭の方からは訓練中...
その中にはアニエスたち銃士隊の声もございました。
(サイトさまも今頃、騎士隊の皆さんと訓練に励んでおられる...
雲ひとつ無い青空を見上げながらそんな事を考えておりまし...
すると、そこに不意にあの方の声が聞こえたのです。
ドキッとしました。丁度彼のことを考えていた矢先だったの...
(いやだわ、わたくしったら。あの方のことを思う余り、幻聴...
頬に手をやると、そこは少しばかり熱を持っており、赤くな...
もし、ありえない事ですけど、あの方がここに居られたら……
....『よっ!こんなとこに居たんだ、アンリエッタ』
....『…サイトさま』
....『どうしたんだ?顔が赤いけど、熱でもあるのか?』
....そっと近づいてくる彼の顔。その左手がわたくしの...
....『…熱は無いようだな』
....『サイトさま、お慕いしております』
....『アンリエッタ……』
....サイトさまはわたくしを抱きしめて下さいました。
....『俺もだ、アンリエッタ。』
....彼はそういうと、そっとわたくしの顎を持ち上げ、...
(キャーキャーキャー、わたくしったらなんて事を考えている...
頭を軽く振り、そんな妄想を振り払おうとしておりますと、...
(幻聴じゃ…無い…?)
そう感じた瞬間、わたくしは駆け出しておりました。
裏庭に着いた瞬間、わたくしは目を見張りました。あの方が...
木剣のぶつかり合う音が聞こえたかと思うと、彼の手からそ...
器用に避けながら落ちた剣を拾うと、今度はまた別の相手と組...
押しやると向かってきた相手の剣をご自身のそれで叩き落しま...
(…すごい!)
暫くわたくしは見惚れておりましたが、やはり一人対複数と...
わたくしにはサイトさまが銃士隊と争っている様に見えたの...
「おやめなさい!」
全員が振り返りました。丁度サイトさまに斬りかかっていた...
「っ!サイト殿、お怪我はありませんか?」
わたくしは彼の許に駆け寄ると、腕をまくりあげました。今...
「何をしていたのです、貴方たち!寄ってたかって」
「……」
「答えなさい!」
「陛下、これはシュヴァリエ・サイト用の訓練なのです」
隊長のアニエスが答えました。
(訓練?これはどう見ても……)
「陛下。陛下は彼がガンダールヴであるのをご存知ですよね?」
「え、ええ…」
「以前彼に剣を教えた時に比べ、ミス・ヴァリエールの使い魔...
(以前?剣をおしえた?)
「ですので、こうやって複数を相手にすることによって彼との...
アニエスは振り返ると皆に告げました。
「ちょうど切りもいいので、休憩にしよう。2時間後、またこ...
サイト、お前も来るなら2時間後にまたここに来い」
そう言ってアニエスは彼女たちと近衛用の宿舎に戻って行き...
触っちゃった』などとその中から声が聞こえます。そんな声が...
「サイト殿、よろしければ昼食をご一緒しては頂けませんか?」
「え?で、でも…」
「……わたくしとでは…お嫌ですか?」
「いや、そういう訳では…」
「じゃ、いいじゃないですか。さ、参りましょう」
そういってわたくしは王室へ案内するため、彼の手を取りま...
頬が熱くなるのを感じながら…。
#br
-----
#br
その頃、“補習”と偽りサイトを送り出したルイズは部屋の隅...
そこに 昼の給仕を終えたシエスタが戻ってきた。
「あら?ミス・ヴァリエール、何をなさってるのですか?」
「え?あ…いや、その…べ、別に何でも無いのよ…」
とっさにソレを後ろ手に隠そうとしたが、何か思い付いたの...
「そそ、そうだシエスタ、あんた前にサイトにマフラー編んで...
そう、確かにシエスタはあの時、『竜の羽衣』を使ってアル...
手編みのマフラーを。
「ええ、そういえばそんな事もありましたね。随分昔の事のよ...
当時の事を思い出しているのか、遠い目をして『あの時のサ...
「ふん、サイトは今でも格好いいわよ」
ルイズは反論するが、声が小さくて聞き取れなかったのか『...
『な、なな、何でも無いわよ』と顔を赤らめる。
「で、でね、あの…シエスタにお願いがあるんだけど…」
「何ですか?」
「編み物、教えて…くれないかな」
上目遣いで哀願するルイズ。
(ミス・ヴァリエール…かわいい)
「いいですよ、私でよければ。ところで、ミス・ヴァリエール...
「ん、何?」
「ミス・ヴァリエールは編み物の経験は…無いんですか?」
ルイズは『う…』と言葉に詰まってしまう。自分自身では編み...
編んだ事もある。だが、自分が考えていたよりも出来が悪く、...
は“ヒトデのぬいぐるみ”とまで言われたのだ。さすがに多少自...
これから教えを請うのだ。以前に見たときは遠目ではっきりと...
出来だったはず。
「あるにはあるんだけど…」
ルイズは消え入りそうな声で呟くと、傍らから何かを取り出...
「…何ですか、これ?」
「……セーター」
「……え?」
「だから!セーターよ、セーター」
「……」
それを見て黙ってしまったシエスタを見て、泣き出しそうに...
ややあって『セーターは諦めましょう』と申し訳なさそうに...
「寒くなるまでには未だ時間が有りますけど、でも…」
「……」
「セーターじゃ間に合いませんよ。マフラーにしましょう」
優しく諭され『うー』と不満気な声を発する。
「それに、マフラーと言っても結構難しいんですよ?それが上...
断言され、しぶしぶと頷くルイズ。そんな彼女を『ところで...
「どうしてセーターなんて編もうと思ったんですか?サイトさ...
「な、なな、何言ってんのよ。だ、だだだれがあんなヤツに…」
「真っ赤になっちゃって、ミス・ヴァリエール可愛い」
「あ、ああ、あんたねー」
「隠さなくてもいいじゃないですか。…そういえばサイトさんっ...
シエスタの声に反応したルイズは『そうなのよ』と声を張り...
「サイトってばこっちに来てからずっと、あの…パーカーだっけ...
「なるほど」
暫く2人で悩んでいたが、何かを思いついた様にシエスタは...
「じゃ、こうしません?」
「……?」
「これから編むのはマフラーにして、服は次の虚無の曜日に買...
少しくらい出しますから。で、2人で服を、それと一緒にミ...
「なんでシエスタと一緒に買わなくちゃなんないのよ」
「私だってサイトさんにはお世話になってますもの。それに…」
「な、なによ」
「二人でって事にした方が、マフラーに対する感動が大きいと...
その言葉に、ルイズの耳がピクンと震える。
「そ、そうかな…」
「そうですよ。きっとサイトさん、『あの不器用なルイズが俺...
不器用は余計よと思いながら、しかしルイズはそうなったと...
(良いかも…)
「けど、シエスタ。あなたお金持ってんの?」
「ええ、サイトさん付きになってからもちょくちょく給仕を手...
るように申し出てくれたんです。ですから多少の蓄えならあ...
嬉しそうに言うシエスタ。
いくら上がったと言っても平民の給料、貴族の小遣いと比べ...
りをしているのである。手元に残る金額は微々たるものであろ...
為ではなくサイトの為に使おうというのだ。
(…サイトが気をかけるのも当然よね)
しかし、負けるわけにはいかないのだ。ルイズはかぶりを振...
「じゃ、次の虚無の曜日にね」
「ええ、ミス・ヴァリエール」
「あ、そうだ。サイトはどうするの?連れて行く?」
「今回はサイトさんには内緒で用意するんですから、一緒じゃ...
「…そうね」
ルイズはシエスタと言葉を交わして頷きあうと、彼女に教え...
#br
-----
#br
その日、私はミス・ヴァリエールと町までお買い物に行く予...
きました。いつもの様にお二人が起きる前に起き、サイトさん...
準備し、自分の身支度を整えるために水場に行きます。
――本当なら先に身支度から整えるべきなんでしょうけど…。
最近はミス・ヴァリエールも私のことを“平民”って扱いをさ...
支度整えてない手で貴族の方のお召し物に触れるなんて…頭では...
気合い入れたいじゃないですか。だ、だって好きな方を起こす...
(『おはよう、シエスタ。今日も朝から綺麗だね』なーんて……...
……ごめんなさい。話が逸れてしまいました。
そんなわけで私が気合いを入れて部屋に戻ってくると、サイ...
いました。
「おはよう、シエスタ」
「おはよう御座います、サイトさん。…どうしたんですか?」
サイトさんの起きる時間にはまだ1時間ほど早いはずです。...
充電しているんですから。
「今日はいつもより早いんですね」
「ああ、今日はこれから出かけるからね」
「…どちらへ?」
嫌な予感がします。
先週も『剣の稽古』と言って朝早くから王宮へ出かけていま...
たんです。サイトさんが仰るには、訓練の後にアニエスさんか...
近衛兵の宿舎にあるお風呂を使わせてもらったんだそうですけ...
それに最近、他の貴族の女性からも声を掛けられてるみたい...
特に注意が必要なのが、あの2人。
まず1人目、ミス・タバサ。
サイトさんってば小さい子でも全然大丈夫らしいんです。ま...
当に胸が…おかわいそうな位に無いですから、そんなミス・ヴァ...
小さな子に迫られたら、コロッといっちゃうかもしれません。...
てたんですけど…強敵です。しかも、いつも本を読んでらっしゃ...
こんな事、とてもミス・ヴァリエールが思いつかない様な迫り...
どっちかと言ったら大きい方が好きなんですもの。
でもでもでもでも、大きいといえばもう一人の方がいるんで...
連れてきたハーフエルフの方――。なんでもアルビオンのウエス...
でいうと世間知らず。サイトさんを初めてのおともだちと思っ...
相談しているみたいなんです。しかし…あの胸の大きさは…異常...
よ?ミス・ツェルプストー程ではありませんけど…でもアレはミ...
たら…あっそういえばこの前、あの大きな胸触ってました。デレ...
いんですけど…べ、別に私は疑ってはいないんですよ?言われた...
が…も、もう!言って下さったら、いくらでも触らせて差し上げ...
そんな事を考えてますと、サイトさんは部屋の隅に立てかけ...
立の準備を済ましてしまいました。
「今日も王宮にね」
「また剣の稽古ですか?」
「いや、今日は姫さまの護衛らしい」
「……らしい?」
らしいってどういう事でしょう。それに、ミス・ヴァリエー...
私が疑問に思ってると、ソレが伝わったのかサイトさんは答...
「うん、なんだか極秘らしくてね。内容は教えてもらってない...
「…ミス・ヴァリエールには?」
「んーそうだな、姫さまの護衛とだけ言っといてよ」
そう言って『行ってくる』と部屋を出ようとされたで、お見...
「んじゃ、行ってくるわ」
「あ、あの…サイトさん」
「ん?」
「今日はお帰りは…」
「どうだろ、たぶん早く戻れると思うんだけど…」
どうしてこんな事を聞いているのかしら?
これじゃあまるで、新婚さんみたいじゃない…きゃっ。
そうだ!折角だから…
「分かりました。なるべく早く帰ってきてくださいね」
言って私は、サイトさんの頬に軽くキスをしました。
(…愛しい旦那さまを見送るお嫁さんってこんな感じかしら?)
私はおそらく頬が赤くなっているでしょう。
そんな私を見ながらサイトさんは頬に手をやり、困ったよう...
「…じゃあ、行ってくるよ」
「はい、行ってらっしゃい」
馬に乗って駆けて行く彼を見送り、その後姿が見えなくなっ...
もしサイトさんと一緒になれたら、毎日こうやって見送って...
#br
「…ふにゃ…おはよう、シエスタ…」
部屋に戻ると、ミス・ヴァリエールが起き出してきました。
「おはようございます、ミス・ヴァリエール」
「……ぁれ、サイト…?」
「サイトさんなら今しがた、出かけられましたよ」
「…出かけた?ど、どこに?」
「何でも女王陛下の護衛だそうです」
「……そう…まあいいわ。 じゃあ、朝食を済ませたら行きましょ...
#br
-----
#br
「ふぅ…」
馬車の前に立ち、アニエスは溜息を漏らした。
今日の格好はいつもの甲冑とは違い、まるで乗合馬車の御者...
そこに、一人の少女がやって来た。こちらは白いワンピース...
「お待たせしました」
「陛下、その格好は…」
「ふふ、今日の為に用意したのよ。どう、似合うかしら?」
言って陛下と呼ばれた少女――アンリエッタ――は、右手で帽子...
「とても良くお似合いです、陛下」
「ところで、サイト殿はまだですか?」
「はっ…間もなくかと…」
丁度その時、馬を駆って来るサイトがアンリエッタの視界に...
#br
「待っていたぞ、サイト」
到着した俺を迎えたのは、そんな台詞だった。
(どこかで聞いたような…)
しかし、目の前に居るのは見たことの無い若い女性2人。
訝しげに思う俺に、何故か嬉しそうな声で『分からぬか』と...
ん?待てよ?この声、この喋り方……
「あのー…もしかして、アニエスさん?」
恐る恐る尋ねると、黒いズボンを履いた女性が頷いた。
って事は、もしかして…
「もしかして…姫さま?」
白いワンピースに身を包み、眼鏡と帽子で顔を隠している女...
(ほぇ〜、女の子って服装が変わるだけでえらく変わるもんだ...
じーっと見つめていると、姫さまは頬に手をやり
「あ、あの…あまり見ないで下さい…恥ずかしいですわ」
と、後ろを向いてしまった。
(か、可愛えぇ!何コレ、ズキューンって来たよ!)
「では、参りましょか、陛下」
言ってアニエスさんが馬車の扉を開くと、それに乗り込む姫...
促す。どこへ行くのだろうか?そんな事を考えながら俺は姫さ...
#br
「ところで、これからどこへ行くんですか?」
隣に座るサイトさまには、まだ今日の予定を話していません...
「そういえばまだ申し上げておりませんでしたね。街へ向かっ...
「街へ?何でまた…公務ですか?」
「いえ、どうしても必要な物が御座いましたので、ソレを求め...
サイトさまはまだ、訝しげな表情をしておられます。
確かに、必要な物なら王宮の通いの商人か、もしくは誰か使...
わたくしが今日の街行きを決めたのは、先週の彼の訓練姿を...
サイトさまは、以前わたくしを止めてくださった時も、先日...
服装をしておられます。彼の元の世界のお洋服らしいので、こ...
着のままというのはおかわいそうです。シュヴァリエの年金で...
なされてるのですから、そうそうお買い物に出かける機会も無...
らせては貰えないでしょう。あの子は独占欲の強い子ですから...
そんな事を考えてましたら、サイトさまはわたくしの思考を...
「でも、姫さま。それなら誰か使いを出すとか出来るんじゃ?...
「ええ、ですが今日は公務もございませんし、せっかくですか...
やっと納得して頂けたのか、サイトさまは『なるほど』と呟...
手を頭の後ろで組んでますので、なんだか肩を抱かれてるの...
「ところで、サイト殿。ひとつお願いが御座います」
「なんすか?」
「今日はわたくしの事を“アン”とお呼びください。街中で“姫さ...
「分かりました」
「もっと乱暴に話して下さい。…そうですね、ルイズと話す様に」
「分かったよ、アン」
――アン
そう呼ばれた瞬間、胸の奥に灯がともった様な温かい感覚で...
愛する方から肩書きでは無く名前(愛称ですが)で呼ばれる...
「今日はわたくしを平民として扱ってくださいまし。その方が...
「じゃぁ、俺からもアンにひとつお願いというか忠告を」
「……?」
なんでしょう?サイトさまはわたくしの目を見つめ、仰いま...
「アンのその喋り方、もっと砕けたものにしないとばれちゃう...
…そうなのでしょうか?
でも、サイトさまが仰るのですから、そうなのかもしれませ...
そういった細かいところまでお気づきになられるなんて、さ...
「じゃぁ、わたしは貴方のことを『サイトさま』と呼ぶ事にし...
「へ?…なんで『さま』?」
「だって、わたしは“平民”ですが、貴方はマントを着けてます...
は平民からすれば当然でしょ?」
「それは関係ないんじゃ…と、とにかく『さま』だけは止めてく...
泣き出しそうな目で訴えるサイトさま。
(もう、そんな目で見られたら…)
仕方ありません。
「じゃぁ、サイトさん…でいいですか?」
(そうだわ、『さん』の方が仲睦まじく見えていいかも)
わたくしの言葉に、サイトさまは満足そうに頷いてください...
#br
馬車内でそんな会話がなされてる頃トリステイン魔法学院で...
「…意外ね」
馬を駆りながらルイズがシエスタに話しかけた。
「何がですか?」
「いや、あんたが馬に乗れるとは思って無かったわ」
今2人は学院の馬を拝借し、それぞれ手綱を取っている。
もちろん学院長であるオールド・オスマンにはルイズが許可...
「私だって、馬くらい乗れますよ。タルブの村では取れた作物...
ルイズは『そうなんだ』とぼそりと呟くと、ところでと切り...
「あんた最近、よく私に強力してくれてるけどさ、サイトの事...
「…諦めました」
顔を俯き加減にし、すこし重い声で言うシエスタ。
「え?な、なんで…」
しかし、ルイズの声を途中で遮るように『なんて、言うとで...
「な、ななな…」
「諦める訳無いじゃないですか。サイトさんは何が何でも振り...
打って変わって明るい表情でルイズに微笑むシエスタ。
その輝かんばかりに自信に溢れる笑顔に不覚にもドキドキし...
「ふん、いい度胸じゃない!何度も言うけど、あれは私の使い...
あんたには渡さないんだから!」
最近のルイズは、シエスタと2人だけのときは素直に自分の...
争ってきた仲だからなのだろう。かたや貴族、かたや平民であ...
るが、2人の時はお互いに1人の男に想いを寄せる女として、...
「あら、ミス・ヴァリエールも仰いますね。でも、サイトさん...
例えミス・ヴァリエールの使い魔だとはいえ、その気持ちま...
「べ、別に管理なんかしなくても、あいつってば私にメロメロ...
「じゃあ、ミス・ヴァリエールはサイトさんに“好き”って伝え...
その言葉で思い出す。ティファニアを連れてトリステインに...
サイトに『お前が俺のこと好きなんじゃねえか?』と尋ねら...
図星を差されてしまい慌ててしまったからだ。もちろんその後...
「い、いい言ったわよ」
「本当ですかー?ちゃんと、ご自分の口から、“好き”って言い...
「……」
「ほーら、やっぱり言ってないんだ。じゃあ、まだ私にもチャ...
「ななな無いわよそんなの!」
「分かりませんよ?私はサイトさんの事好きですから。もし私...
きっとサイトさんだって…」
「だ、だめよ、それはダメ!」
「早いもの勝ちですよー」
言ってシエスタは拍車を掛ける。
「ちょっシエスタ、待ちなさいよ」
一瞬遅れてルイズも拍車を掛け、シエスタの後を駆けて行っ...
#br
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RIGHT:ツンデレ王子
終了行:
……そんな事があった為に、今アンリエッタの心の中にはサイ...
だった。あれから数日が経っていたのだが、その間彼には王宮...
毎に心の中の彼の占める割合は大きくなるいっぽうであった。
(サイトさま…お会いしとうございます…)
会いたい、会いに行きたい。
しかし、女王としての立場では無理な相談だった。
ココのところ執務が忙しく、とてもじゃないが魔法学院まで...
い。彼はガンダールヴ――虚無の担い手でもある幼馴染、ルイズ...
精霊騎士隊の副隊長でもある。彼女の部屋に行ったからといっ...
てはならない。すぐに見つかれば良いがそうでない場合、手間...
空けなければ、学院へ行って彼に会う事は出来ない。ましてや...
では、呼び出す。
それも無理な話であった。
たしかに彼は水精霊騎士隊、つまりは女王の近衛兵(まだ訓...
普段の執務においては近衛は銃士隊のみで十分なのだ。そこに...
になるばかりではなく、彼の主人であるルイズに訝しがられて...
(明日は虚無の曜日。あなたは何をなさっておいでですか…)
愛しき人に思いを馳せ、アンリエッタは眠りに就いたのだっ...
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その日、朝早くからサイトは馬を駆っていた。王宮へ赴くた...
それは昨日の事。以前自分に剣を教えてくれたアニエスが、...
シュヴァリエになってからというもの、独自に鍛錬はしてき...
しかし、彼はメイジでは無い――水精霊騎士隊のメンバーは彼を...
そんな所に来た今回の申し出、嬉しくないはずは無かった。
虚無の曜日である今日、彼のご主人様である桃髪の少女は『...
(補習って一体なんの補習だろ)
ルイズは虚無の魔法に目覚てからも、他の4系統―火・水・土...
真面目で、どの様な授業も進んで学んでいたはずだった。そん...
(ま、聞いたからって教えてくれる訳無いよな)
頭を軽く振り浮かんだ疑問を消し去った。
#br
「来たな、サイト」
王宮に着くと、警備の魔法衛士隊がサイトの姿を確認し、ア...
「こっちだ、付いて来い」
後を付いて行く。着いた先は王宮の裏庭の一角だった。
ここで普段、銃士隊の訓練を行っているのだろう。既にメン...
「皆に紹介しよう。といっても知ってる者は多いと思うが」
そういって振り返る。
「サイト・シュヴァリエ・ド・ヒラガ。先のアルビオン戦で功...
「あ、どうも。サイトです、よろしく」
瞬間、きゃーと黄色い歓声がわき起こった。
(え?え、え、え、え?)
まるで地球に居た頃のアイドルのコンサートの様な歓声に、...
彼女達の中から『サイトさまよ』『ほ、本物だわ』などと声...
達だ。自分達と同じ平民でありながらシュヴァリエになったサ...
えよう。
「サイト、お前がどれだけ精進してきたか、見てやろう」
木剣を放って寄こすと、それを構える。
「本気で来い!行くぞ!」
しかし、勝敗はあっけなく付いた。アニエスが膝を付き、そ...
彼は幾多もの命のやり取りを経験し、体がその感覚を覚えて...
魔、ガンダールヴなのだ。例え真剣ではないとはいえ、久々に...
無かったのだ。
「くっ…、さすがだな」
土埃を払いながら立ち上がるアニエス。『よし』と呟き、全...
「では、次は全員で一斉に掛かれ!本気で行かないと後悔する...
その言葉を合図に、銃士隊全員 対 サイト での打ち合いが...
#br
「良いお天気」
わたくしは王宮の庭園に来ておりました。執務も滞りなく進...
ちょっとお散歩を楽しんでいたのです。
(まったく、毎日毎日王室で過ごしていたら体がなまってしま...
今はお昼ちょっと前の時間ですので、裏庭の方からは訓練中...
その中にはアニエスたち銃士隊の声もございました。
(サイトさまも今頃、騎士隊の皆さんと訓練に励んでおられる...
雲ひとつ無い青空を見上げながらそんな事を考えておりまし...
すると、そこに不意にあの方の声が聞こえたのです。
ドキッとしました。丁度彼のことを考えていた矢先だったの...
(いやだわ、わたくしったら。あの方のことを思う余り、幻聴...
頬に手をやると、そこは少しばかり熱を持っており、赤くな...
もし、ありえない事ですけど、あの方がここに居られたら……
....『よっ!こんなとこに居たんだ、アンリエッタ』
....『…サイトさま』
....『どうしたんだ?顔が赤いけど、熱でもあるのか?』
....そっと近づいてくる彼の顔。その左手がわたくしの...
....『…熱は無いようだな』
....『サイトさま、お慕いしております』
....『アンリエッタ……』
....サイトさまはわたくしを抱きしめて下さいました。
....『俺もだ、アンリエッタ。』
....彼はそういうと、そっとわたくしの顎を持ち上げ、...
(キャーキャーキャー、わたくしったらなんて事を考えている...
頭を軽く振り、そんな妄想を振り払おうとしておりますと、...
(幻聴じゃ…無い…?)
そう感じた瞬間、わたくしは駆け出しておりました。
裏庭に着いた瞬間、わたくしは目を見張りました。あの方が...
木剣のぶつかり合う音が聞こえたかと思うと、彼の手からそ...
器用に避けながら落ちた剣を拾うと、今度はまた別の相手と組...
押しやると向かってきた相手の剣をご自身のそれで叩き落しま...
(…すごい!)
暫くわたくしは見惚れておりましたが、やはり一人対複数と...
わたくしにはサイトさまが銃士隊と争っている様に見えたの...
「おやめなさい!」
全員が振り返りました。丁度サイトさまに斬りかかっていた...
「っ!サイト殿、お怪我はありませんか?」
わたくしは彼の許に駆け寄ると、腕をまくりあげました。今...
「何をしていたのです、貴方たち!寄ってたかって」
「……」
「答えなさい!」
「陛下、これはシュヴァリエ・サイト用の訓練なのです」
隊長のアニエスが答えました。
(訓練?これはどう見ても……)
「陛下。陛下は彼がガンダールヴであるのをご存知ですよね?」
「え、ええ…」
「以前彼に剣を教えた時に比べ、ミス・ヴァリエールの使い魔...
(以前?剣をおしえた?)
「ですので、こうやって複数を相手にすることによって彼との...
アニエスは振り返ると皆に告げました。
「ちょうど切りもいいので、休憩にしよう。2時間後、またこ...
サイト、お前も来るなら2時間後にまたここに来い」
そう言ってアニエスは彼女たちと近衛用の宿舎に戻って行き...
触っちゃった』などとその中から声が聞こえます。そんな声が...
「サイト殿、よろしければ昼食をご一緒しては頂けませんか?」
「え?で、でも…」
「……わたくしとでは…お嫌ですか?」
「いや、そういう訳では…」
「じゃ、いいじゃないですか。さ、参りましょう」
そういってわたくしは王室へ案内するため、彼の手を取りま...
頬が熱くなるのを感じながら…。
#br
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その頃、“補習”と偽りサイトを送り出したルイズは部屋の隅...
そこに 昼の給仕を終えたシエスタが戻ってきた。
「あら?ミス・ヴァリエール、何をなさってるのですか?」
「え?あ…いや、その…べ、別に何でも無いのよ…」
とっさにソレを後ろ手に隠そうとしたが、何か思い付いたの...
「そそ、そうだシエスタ、あんた前にサイトにマフラー編んで...
そう、確かにシエスタはあの時、『竜の羽衣』を使ってアル...
手編みのマフラーを。
「ええ、そういえばそんな事もありましたね。随分昔の事のよ...
当時の事を思い出しているのか、遠い目をして『あの時のサ...
「ふん、サイトは今でも格好いいわよ」
ルイズは反論するが、声が小さくて聞き取れなかったのか『...
『な、なな、何でも無いわよ』と顔を赤らめる。
「で、でね、あの…シエスタにお願いがあるんだけど…」
「何ですか?」
「編み物、教えて…くれないかな」
上目遣いで哀願するルイズ。
(ミス・ヴァリエール…かわいい)
「いいですよ、私でよければ。ところで、ミス・ヴァリエール...
「ん、何?」
「ミス・ヴァリエールは編み物の経験は…無いんですか?」
ルイズは『う…』と言葉に詰まってしまう。自分自身では編み...
編んだ事もある。だが、自分が考えていたよりも出来が悪く、...
は“ヒトデのぬいぐるみ”とまで言われたのだ。さすがに多少自...
これから教えを請うのだ。以前に見たときは遠目ではっきりと...
出来だったはず。
「あるにはあるんだけど…」
ルイズは消え入りそうな声で呟くと、傍らから何かを取り出...
「…何ですか、これ?」
「……セーター」
「……え?」
「だから!セーターよ、セーター」
「……」
それを見て黙ってしまったシエスタを見て、泣き出しそうに...
ややあって『セーターは諦めましょう』と申し訳なさそうに...
「寒くなるまでには未だ時間が有りますけど、でも…」
「……」
「セーターじゃ間に合いませんよ。マフラーにしましょう」
優しく諭され『うー』と不満気な声を発する。
「それに、マフラーと言っても結構難しいんですよ?それが上...
断言され、しぶしぶと頷くルイズ。そんな彼女を『ところで...
「どうしてセーターなんて編もうと思ったんですか?サイトさ...
「な、なな、何言ってんのよ。だ、だだだれがあんなヤツに…」
「真っ赤になっちゃって、ミス・ヴァリエール可愛い」
「あ、ああ、あんたねー」
「隠さなくてもいいじゃないですか。…そういえばサイトさんっ...
シエスタの声に反応したルイズは『そうなのよ』と声を張り...
「サイトってばこっちに来てからずっと、あの…パーカーだっけ...
「なるほど」
暫く2人で悩んでいたが、何かを思いついた様にシエスタは...
「じゃ、こうしません?」
「……?」
「これから編むのはマフラーにして、服は次の虚無の曜日に買...
少しくらい出しますから。で、2人で服を、それと一緒にミ...
「なんでシエスタと一緒に買わなくちゃなんないのよ」
「私だってサイトさんにはお世話になってますもの。それに…」
「な、なによ」
「二人でって事にした方が、マフラーに対する感動が大きいと...
その言葉に、ルイズの耳がピクンと震える。
「そ、そうかな…」
「そうですよ。きっとサイトさん、『あの不器用なルイズが俺...
不器用は余計よと思いながら、しかしルイズはそうなったと...
(良いかも…)
「けど、シエスタ。あなたお金持ってんの?」
「ええ、サイトさん付きになってからもちょくちょく給仕を手...
るように申し出てくれたんです。ですから多少の蓄えならあ...
嬉しそうに言うシエスタ。
いくら上がったと言っても平民の給料、貴族の小遣いと比べ...
りをしているのである。手元に残る金額は微々たるものであろ...
為ではなくサイトの為に使おうというのだ。
(…サイトが気をかけるのも当然よね)
しかし、負けるわけにはいかないのだ。ルイズはかぶりを振...
「じゃ、次の虚無の曜日にね」
「ええ、ミス・ヴァリエール」
「あ、そうだ。サイトはどうするの?連れて行く?」
「今回はサイトさんには内緒で用意するんですから、一緒じゃ...
「…そうね」
ルイズはシエスタと言葉を交わして頷きあうと、彼女に教え...
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その日、私はミス・ヴァリエールと町までお買い物に行く予...
きました。いつもの様にお二人が起きる前に起き、サイトさん...
準備し、自分の身支度を整えるために水場に行きます。
――本当なら先に身支度から整えるべきなんでしょうけど…。
最近はミス・ヴァリエールも私のことを“平民”って扱いをさ...
支度整えてない手で貴族の方のお召し物に触れるなんて…頭では...
気合い入れたいじゃないですか。だ、だって好きな方を起こす...
(『おはよう、シエスタ。今日も朝から綺麗だね』なーんて……...
……ごめんなさい。話が逸れてしまいました。
そんなわけで私が気合いを入れて部屋に戻ってくると、サイ...
いました。
「おはよう、シエスタ」
「おはよう御座います、サイトさん。…どうしたんですか?」
サイトさんの起きる時間にはまだ1時間ほど早いはずです。...
充電しているんですから。
「今日はいつもより早いんですね」
「ああ、今日はこれから出かけるからね」
「…どちらへ?」
嫌な予感がします。
先週も『剣の稽古』と言って朝早くから王宮へ出かけていま...
たんです。サイトさんが仰るには、訓練の後にアニエスさんか...
近衛兵の宿舎にあるお風呂を使わせてもらったんだそうですけ...
それに最近、他の貴族の女性からも声を掛けられてるみたい...
特に注意が必要なのが、あの2人。
まず1人目、ミス・タバサ。
サイトさんってば小さい子でも全然大丈夫らしいんです。ま...
当に胸が…おかわいそうな位に無いですから、そんなミス・ヴァ...
小さな子に迫られたら、コロッといっちゃうかもしれません。...
てたんですけど…強敵です。しかも、いつも本を読んでらっしゃ...
こんな事、とてもミス・ヴァリエールが思いつかない様な迫り...
どっちかと言ったら大きい方が好きなんですもの。
でもでもでもでも、大きいといえばもう一人の方がいるんで...
連れてきたハーフエルフの方――。なんでもアルビオンのウエス...
でいうと世間知らず。サイトさんを初めてのおともだちと思っ...
相談しているみたいなんです。しかし…あの胸の大きさは…異常...
よ?ミス・ツェルプストー程ではありませんけど…でもアレはミ...
たら…あっそういえばこの前、あの大きな胸触ってました。デレ...
いんですけど…べ、別に私は疑ってはいないんですよ?言われた...
が…も、もう!言って下さったら、いくらでも触らせて差し上げ...
そんな事を考えてますと、サイトさんは部屋の隅に立てかけ...
立の準備を済ましてしまいました。
「今日も王宮にね」
「また剣の稽古ですか?」
「いや、今日は姫さまの護衛らしい」
「……らしい?」
らしいってどういう事でしょう。それに、ミス・ヴァリエー...
私が疑問に思ってると、ソレが伝わったのかサイトさんは答...
「うん、なんだか極秘らしくてね。内容は教えてもらってない...
「…ミス・ヴァリエールには?」
「んーそうだな、姫さまの護衛とだけ言っといてよ」
そう言って『行ってくる』と部屋を出ようとされたで、お見...
「んじゃ、行ってくるわ」
「あ、あの…サイトさん」
「ん?」
「今日はお帰りは…」
「どうだろ、たぶん早く戻れると思うんだけど…」
どうしてこんな事を聞いているのかしら?
これじゃあまるで、新婚さんみたいじゃない…きゃっ。
そうだ!折角だから…
「分かりました。なるべく早く帰ってきてくださいね」
言って私は、サイトさんの頬に軽くキスをしました。
(…愛しい旦那さまを見送るお嫁さんってこんな感じかしら?)
私はおそらく頬が赤くなっているでしょう。
そんな私を見ながらサイトさんは頬に手をやり、困ったよう...
「…じゃあ、行ってくるよ」
「はい、行ってらっしゃい」
馬に乗って駆けて行く彼を見送り、その後姿が見えなくなっ...
もしサイトさんと一緒になれたら、毎日こうやって見送って...
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「…ふにゃ…おはよう、シエスタ…」
部屋に戻ると、ミス・ヴァリエールが起き出してきました。
「おはようございます、ミス・ヴァリエール」
「……ぁれ、サイト…?」
「サイトさんなら今しがた、出かけられましたよ」
「…出かけた?ど、どこに?」
「何でも女王陛下の護衛だそうです」
「……そう…まあいいわ。 じゃあ、朝食を済ませたら行きましょ...
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「ふぅ…」
馬車の前に立ち、アニエスは溜息を漏らした。
今日の格好はいつもの甲冑とは違い、まるで乗合馬車の御者...
そこに、一人の少女がやって来た。こちらは白いワンピース...
「お待たせしました」
「陛下、その格好は…」
「ふふ、今日の為に用意したのよ。どう、似合うかしら?」
言って陛下と呼ばれた少女――アンリエッタ――は、右手で帽子...
「とても良くお似合いです、陛下」
「ところで、サイト殿はまだですか?」
「はっ…間もなくかと…」
丁度その時、馬を駆って来るサイトがアンリエッタの視界に...
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「待っていたぞ、サイト」
到着した俺を迎えたのは、そんな台詞だった。
(どこかで聞いたような…)
しかし、目の前に居るのは見たことの無い若い女性2人。
訝しげに思う俺に、何故か嬉しそうな声で『分からぬか』と...
ん?待てよ?この声、この喋り方……
「あのー…もしかして、アニエスさん?」
恐る恐る尋ねると、黒いズボンを履いた女性が頷いた。
って事は、もしかして…
「もしかして…姫さま?」
白いワンピースに身を包み、眼鏡と帽子で顔を隠している女...
(ほぇ〜、女の子って服装が変わるだけでえらく変わるもんだ...
じーっと見つめていると、姫さまは頬に手をやり
「あ、あの…あまり見ないで下さい…恥ずかしいですわ」
と、後ろを向いてしまった。
(か、可愛えぇ!何コレ、ズキューンって来たよ!)
「では、参りましょか、陛下」
言ってアニエスさんが馬車の扉を開くと、それに乗り込む姫...
促す。どこへ行くのだろうか?そんな事を考えながら俺は姫さ...
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「ところで、これからどこへ行くんですか?」
隣に座るサイトさまには、まだ今日の予定を話していません...
「そういえばまだ申し上げておりませんでしたね。街へ向かっ...
「街へ?何でまた…公務ですか?」
「いえ、どうしても必要な物が御座いましたので、ソレを求め...
サイトさまはまだ、訝しげな表情をしておられます。
確かに、必要な物なら王宮の通いの商人か、もしくは誰か使...
わたくしが今日の街行きを決めたのは、先週の彼の訓練姿を...
サイトさまは、以前わたくしを止めてくださった時も、先日...
服装をしておられます。彼の元の世界のお洋服らしいので、こ...
着のままというのはおかわいそうです。シュヴァリエの年金で...
なされてるのですから、そうそうお買い物に出かける機会も無...
らせては貰えないでしょう。あの子は独占欲の強い子ですから...
そんな事を考えてましたら、サイトさまはわたくしの思考を...
「でも、姫さま。それなら誰か使いを出すとか出来るんじゃ?...
「ええ、ですが今日は公務もございませんし、せっかくですか...
やっと納得して頂けたのか、サイトさまは『なるほど』と呟...
手を頭の後ろで組んでますので、なんだか肩を抱かれてるの...
「ところで、サイト殿。ひとつお願いが御座います」
「なんすか?」
「今日はわたくしの事を“アン”とお呼びください。街中で“姫さ...
「分かりました」
「もっと乱暴に話して下さい。…そうですね、ルイズと話す様に」
「分かったよ、アン」
――アン
そう呼ばれた瞬間、胸の奥に灯がともった様な温かい感覚で...
愛する方から肩書きでは無く名前(愛称ですが)で呼ばれる...
「今日はわたくしを平民として扱ってくださいまし。その方が...
「じゃぁ、俺からもアンにひとつお願いというか忠告を」
「……?」
なんでしょう?サイトさまはわたくしの目を見つめ、仰いま...
「アンのその喋り方、もっと砕けたものにしないとばれちゃう...
…そうなのでしょうか?
でも、サイトさまが仰るのですから、そうなのかもしれませ...
そういった細かいところまでお気づきになられるなんて、さ...
「じゃぁ、わたしは貴方のことを『サイトさま』と呼ぶ事にし...
「へ?…なんで『さま』?」
「だって、わたしは“平民”ですが、貴方はマントを着けてます...
は平民からすれば当然でしょ?」
「それは関係ないんじゃ…と、とにかく『さま』だけは止めてく...
泣き出しそうな目で訴えるサイトさま。
(もう、そんな目で見られたら…)
仕方ありません。
「じゃぁ、サイトさん…でいいですか?」
(そうだわ、『さん』の方が仲睦まじく見えていいかも)
わたくしの言葉に、サイトさまは満足そうに頷いてください...
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馬車内でそんな会話がなされてる頃トリステイン魔法学院で...
「…意外ね」
馬を駆りながらルイズがシエスタに話しかけた。
「何がですか?」
「いや、あんたが馬に乗れるとは思って無かったわ」
今2人は学院の馬を拝借し、それぞれ手綱を取っている。
もちろん学院長であるオールド・オスマンにはルイズが許可...
「私だって、馬くらい乗れますよ。タルブの村では取れた作物...
ルイズは『そうなんだ』とぼそりと呟くと、ところでと切り...
「あんた最近、よく私に強力してくれてるけどさ、サイトの事...
「…諦めました」
顔を俯き加減にし、すこし重い声で言うシエスタ。
「え?な、なんで…」
しかし、ルイズの声を途中で遮るように『なんて、言うとで...
「な、ななな…」
「諦める訳無いじゃないですか。サイトさんは何が何でも振り...
打って変わって明るい表情でルイズに微笑むシエスタ。
その輝かんばかりに自信に溢れる笑顔に不覚にもドキドキし...
「ふん、いい度胸じゃない!何度も言うけど、あれは私の使い...
あんたには渡さないんだから!」
最近のルイズは、シエスタと2人だけのときは素直に自分の...
争ってきた仲だからなのだろう。かたや貴族、かたや平民であ...
るが、2人の時はお互いに1人の男に想いを寄せる女として、...
「あら、ミス・ヴァリエールも仰いますね。でも、サイトさん...
例えミス・ヴァリエールの使い魔だとはいえ、その気持ちま...
「べ、別に管理なんかしなくても、あいつってば私にメロメロ...
「じゃあ、ミス・ヴァリエールはサイトさんに“好き”って伝え...
その言葉で思い出す。ティファニアを連れてトリステインに...
サイトに『お前が俺のこと好きなんじゃねえか?』と尋ねら...
図星を差されてしまい慌ててしまったからだ。もちろんその後...
「い、いい言ったわよ」
「本当ですかー?ちゃんと、ご自分の口から、“好き”って言い...
「……」
「ほーら、やっぱり言ってないんだ。じゃあ、まだ私にもチャ...
「ななな無いわよそんなの!」
「分かりませんよ?私はサイトさんの事好きですから。もし私...
きっとサイトさんだって…」
「だ、だめよ、それはダメ!」
「早いもの勝ちですよー」
言ってシエスタは拍車を掛ける。
「ちょっシエスタ、待ちなさいよ」
一瞬遅れてルイズも拍車を掛け、シエスタの後を駆けて行っ...
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RIGHT:ツンデレ王子
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