ゼロの使い魔保管庫
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今日はあなたがご主人さまワンッ! ぎふと氏
#br
−1−
「ホントに始まっちゃったなあ。聖戦」
ギーシュの声に、一同の目が空へと向かう。
晴れ渡った空。次々と描かれる白い聖具の紋。
なんだか祭りか運動会でもはじまるみたいだな……。
才人はしみじみとつぶやいた。
「ちょっと、ゼロのルイズ。もっと詳しく聞かせなさいよ」
コルベールの調査を手伝っていたはずのキュルケが、いつの...
その瞳は好奇心できらきらと輝いている。
「なんの話よ」
「だ、か、ら、“あんな格好”よ」
含みをこめてキュルケは囁いた。
「なな、なんのコトかしら?」
「とぼけないで。聞こえたわよ? あなた犬扱いされて嬉しが...
瞬間、ルイズの足がヨルムンガント級の破壊力で才人の腹に...
「そそ、そんなんじゃないわよ!」
「ならどんなわけ? 白状なさいな」
「もう忘れたわよッ!」
ルイズの目が吊り上がった。
「しし知りたければ、こここいつに聞けばいいでしょこいつに...
使い魔をがしがし踏みつけながら、ルイズは暴れ叫んだ。
(言えるわけ……ないよなあ……)
降りかかる火の粉を避けるように、才人はそっと目を閉じた。
いまのルイズの中にある“才人に関する記憶”は、もとは才人...
それはべつにいいんだよ。
照れくさいけど、今までどんなふうにあいつを見てたとか、...
ルイズも嬉しがってるみたいだしさ。
けどなぁ、ブリミルさんよ。
なにも……なにも俺の“妄想領域”までバラすこたないだろぉお...
ルイズ。俺のルイズ。可愛い俺のご主人様。
可愛くて清楚で、キスぐらいしかさせてもらってない大好き...
やっとこ恋人になれそうって時に、そりゃないんじゃないの...
だいたい今日はいろんなことがありすぎた。
勘弁してくれよ。へとへとだよ。現実逃避させてくれよ。
妄想か……俺の妄想……どんなだっけなぁ。犬とかベッドとか言...
なんだか身も心も疲れ果た心地がして、
才人は意識を手放し妄想の海に沈んでいった―――
#br
−2−
朝。教室に現れた才人を見て、クラスメイトたちは目を丸く...
信じがたいものを、鎖につないで引きずって入ってきたから...
「サイト! きみ、何を引きずっているんだい!」
青銅のギーシュが、駆け寄ってきた。
「使い魔」
「よく見ると……いや見なくても、そうだな」
ギーシュは頷いた。
「しかしなんでまた、こんなけしからん、まったくもってけし...
興奮に震える指で、足元にうずくまる桃色の物体を差した。
それは一人の少女だった。
しかもかなりの美少女だった。
桃色がかった流れるブロンド。宝石のような鳶色の瞳。抜け...
いや、小動物そのものだった。
頭のてっぺんからは、桃色の柔毛に包まれた逆三角形の耳が...
そして、才人は手に長い鎖を持っていた。
その先はと見ると、奇妙なものへとつながっていた。犬を散...
何の変哲もない赤茶の革製のベルト。なのになぜだろう? ...
首輪。つまりは拘束具である。
拘束具とはすなわち、行動の自由を奪い言うことをきかせる...
才人は肩をすくめてみせた。
「こいつさぁ、すっごくワガママなの。誰かれかまわず噛みつ...
一斉にあがるどよめきに、男子生徒たちの羨望のため息が混...
いつのまにか、彼らの周りには人垣ができていた。
「……これは、純粋に学術的な興味なんだが」
こほん、とギーシュは咳払いした。
「君のようなケースでも、使い魔にとって主人の命令はやはり...
「なに、お前んとこは違うの?」
「もちろん、僕のヴェルダンデほど従順で有能な使い魔はいな...
恍惚と宙に手を広げると、ギーシュは続けた。
「しかしね、君、ルイズは人間だよ。しかも貴族だ。人一倍プ...
「ちっともおとなしくねーよ。だからオシオキなんだろ?」
才人は悪びれもせずに言った。どうやら人間の首に首輪がは...
息を荒げたマリコルヌが、体を震わせる。
「あのルイズがね。はぁはぁ……『契約』ってすごいよネ」
「あら、すごいのはダーリンよ。平民なのに貴族を召喚しちゃ...
キュルケが、髪をかきあげて言った。そして才人の肩にしな...
「いっそ私もダーリンの使い魔になっちゃおうかしら。こんな...
「ハハ気持ちだけで嬉しいヨ」
「もう、そんな奥ゆかしいところも大好きよダーリン!」
感極まった声で立ち上がると、キュルケはぎゅうっと才人の...
ぐるるる……。
机の下から獣っぽいうなり声がした。ずっと床にしゃがみこ...
「いやだ。妬いてるの? ≪犬≫のルイズ」
キュルケは見せつけるように、さらにぐいぐい胸を押しつけ...
ぐるるる……。
「うなってばかりいないで何か言いなさいよ」
すまなそうに才人は首をふった。
「できないんだよ、キュルケ」
「え?」
「今のルイズは、人の言葉を話せないんだ」
「どうして、なにかの魔法?」
首輪を指差す。
「これ、マジックアイテムなんだ。つけると性格が穏やかにな...
「まあ」
「かわいそうだけど、こうでもしないと落ち着いて生活できな...
「ダーリンったら……、そんなにまでして、私とゆっくり愛を語...
キュルケは熱っぽい眼差しで、才人の膝の上に乗りあがると...
「微熱のキュルケはいま、情熱のキュルケに変わってしまった...
瞳を閉じて唇を重ねようとしたが、別の手に引っぱり戻され...
「まったくはしたないわね。ここは教室。あなたの寝室じゃな...
「なによ、邪魔する気?」
憮然とするキュルケを押しのけて、モンモランシーは、自分...
「サイトはね、あなたみたいな淫乱女は好みじゃないの」
「まあ、言ってくれるじゃない。あなたこそギーシュはどうし...
目をつりあげ、負けじと才人を取り返そうとしたキュルケだ...
「サイトさん、放課後はわたくしとお茶をご一緒してください...
「だめです。サイトさんにはこの後、私の手料理を食べていた...
「……先約」
返事の代わりに、才人はニコニコと明るい笑顔を浮かべてい...
≪なんだよ……俺ってこんなかぁ?≫
目の前に繰り広げられる光景に『心』の声はあきれかえった。
そのときふっと当時が思い返されて、仕方ないかな、とも思...
だって俺、犬、犬ってボロクソな仕打ちされてたし……。
でも、でもね、と『心』の声は優越感たっぷりに胸を張った。
今の俺、ご主人様に想われちゃってますからー。
そんなご主人様をほったらかしって無理ですよねー?
犬ルイズかわいいじゃん? 犬上等。犬最高〜♪
で、そのルイズはいったいどこかなー、と探してみれば大変...
#br
−3−
女子生徒たちに押し出される格好で、ルイズは才人からずい...
ぶすっと押し黙って床に座りこんでいる。
その周りを男子生徒たちが取り巻き、好き勝手に感想を言い...
「こうしてみると、ルイズもなかなか可愛いよなー」
「うん、スタイルはともかく、見た目はいい線いってるし」
「あーあ、俺もこういう使い魔が欲しいよ」
犬化したルイズは、クラスメイトのおよそ半数からかつてな...
むすっとした口元も。不機嫌そうな目つきも。むくれた頬も...
小動物のそれだと思うと魅了の魔法をかけたように愛らしく...
「なあ、あの耳。……触ったらダメかな」
一人が言いだした。ふさふさの柔らかそうな耳。見た目は犬...
「やめとけよ、噛まれるぞ」
「首輪してるから大丈夫って、サイト言ってなかったか?」
「そうだな。じゃあ“お手”なんてするかな?」
「あのしっぽ、気持ちよさそうだよなぁ」
皆の目つきに奇妙な光が混じり始めた。
だらんと両手を伸ばし、ふらふらとルイズに近づいていく。
そのアンデッドのような姿に気おされて、ルイズはあとじさ...
いつものルイズであれば、調子にのるんじゃないわよ! と...
しかし今日は勝手が違った。どうにもその気力が沸いてこな...
これは……いける。少年たちは、ごくりとツバを飲み込んだ。
一歩近づいた。一歩退がる。一歩近づく、また退がる。
ルイズを囲む輪が小さくなって、とうとう逃げ場所がなくな...
追いつめられて動けなくなったルイズは、身をすくませ、才...
誰かの指が、ルイズに触れようと伸びてきた。
ルイズの瞳にくやし涙が浮かんだ。
≪おおお前ら、なに調子こいてんだ〜!?≫
ご主人様の危機的状況に『心』はたまらず声をあげた。
ちょっと、俺のご主人様、泣かしてんじゃねーよ。
誰の許し得てそんなマネしてんのよ!
あーのねぇ、
「ルイズに触っていいのは、この俺だけだっつの!」
『心』の中で吼えた―――つもりだったが、なぜだか教室中に響...
気づけば、腰を抜かした男子生徒の輪ができあがっていた。
「わわわ、サイト。待て、待ってくれ!」
「ごめん、悪かった! だから剣はおさめてくれよ」
「ルイズはお前の使い魔だもんな。うん、そうだよな、うん」
輪の中央にはルイズ。そして傍らには、抜き身のデルフリン...
「はれ?」
才人は不思議そうにクラスメイトを見つめ、デルフを見つめ...
そこへ、つんつんと服を引っ張られた気がして我に返った。
見ればルイズが伸び上がるようにして、パーカーの裾を口で...
「……なんだよ?」
見下ろしたルイズの瞳に小さく光るものを認めた才人は剣を...
「お前さぁ、暴れなくなったと思えば泣くしぃ? いいかげん...
するとルイズはむぅっとふくれて、顔を才人の胸にごしごし...
「はは、わりい。こいつほんっと気難しくてさ」
クラスメイトたちは、毒気を抜かれたような顔をしていた。
普段からはとても想像できないルイズの姿である。どうやっ...
その時、教室の扉がガラッと開いた。
現れたのはミスタ・ギトー。二つ名は『疾風』。
プライド高く厳しいと評判の先生である。
生徒たちは慌てて自分の席へと戻った。
#br
−4−
妄想の中でも、やっぱり授業はつまらなかった。
コルベール先生のように興味のわくものもあったが、魔法を...
始まってほどなく、うつらうつらとしていると、膝の上に何...
「重いって。降りろよ」
小さめサイズとはいえ犬猫とはちがう。押しのけようとして...
せめて頭ぐらいにしとけよーと思ったが、ルイズはおかまい...
「ったく……勝手にしろ」
腹立ちまぎれに、耳を指で弾いた。
ぴくん!
ルイズの体が、かすかに跳ねた。
ん? 気づいた才人は、今度は期待をこめて、ふたたび同じ...
ぴくん!
期待どおりの反応。これはいい退屈しのぎになりそうだ、と...
次に才人は、手のひらで優しくさすってみた。
太ももの指にぎゅうっと力がこもったが、それ以外に反応は...
じゃあ、と手のひらにすっぽりおさめて、にぎにぎする。
うなり声がして太ももの痛みが増した。でもそれだけだ。つ...
なんとなしに才人は、ルイズの頬に手をかけてこちらに向か...
するとルイズときたら。まままま真っ赤な顔をして唇をかみ...
おやおや、なんでしょうこの反応は。才人のイタズラ心に火...
心なしかひくひく震えているような耳に顔を近づけると、そ...
「ひゃうん!」
奇妙な声に、教室中の目が集まる。おっと、まずい。
才人は真面目な顔をとりつくろって、真剣に授業を聞いてる...
でも左手は机の下。ルイズの柔らかな耳をいじくっている。
気づけば、キュルケとミスタ・ギトーが激しくやりあってい...
「火傷じゃすみませんわよ?」
「かまわん。本気できたまえ。その有名なツェルプストー家の...
授業中の一生徒と先生のものとは思えない会話だった。が、...
長い金髪をかきわけるようにして、細い首すじに触れてみた。
触れた肌からは熱い火照りがつたわってくる。風邪で熱を出...
そうだ、犬ってお腹をくすぐられると喜ぶよなぁ。ルイズは...
わき腹に手を伸ばした。ブラウス越しに手のひら全体で優し...
ぶるぶるとルイズの体が震えた。口からはこらえきれなくな...
才人はうっとりとした。今までペットを飼ったことがないの...
#br
−5−
そうこうするうちに、キュルケとギトーの白熱した口論も終...
キュルケが自分の魔法で吹っ飛んでしまったからだ。
ミスタ・ギトーが偉そうな口ぶりで授業を再開した。
つまんね……、とあくびを押し殺したところで、ルイズがむく...
てんで落ち着きのないやつだ。
いっそ床に戻すべきかと才人が悩んでいると、なにやら小声...
見れば、ルイズが恥ずかしそうに顔をゆがめながら、訴える...
そういや何か合図を決めていたような気がするが、冗談半分...
うーん……。
記憶を探った。
『おさらいするぞ。【はい】のときはどうすんだっけ?』
『わん』
『うむ。わんが一回。じゃあ【かしこまりましたご主人さま】...
『わんわん』
『そうだ。わんが二回。【トイレに行きたいです】は?』
『わんわんわん』
『よしよし、それだけ言えれば上等だ。余計なこと言ったらオ...
あ……。
「すみません、先生、緊急事態!」
才人はルイズを抱えると、勢いよく教室を飛び出した。
飛び出てきたものの、どっちに行けばいいかすぐには思いつ...
えっと女子トイレ……、だよな。どこだっけ。
1階おきに、女子トイレと男子トイレがあるのを思い出す。
「すぐだからな。我慢してろよ」
走り出してすぐ、パーカーの襟を強くつかまれ、窒息しそう...
え、そんなやばいの? マジ?
そうだ。ガンダールヴのスピードなら……。
けどこんな状態のルイズを抱えたままデルフを抜いて走るの...
こんな時、犬なら……犬なら……ペット用の“トイレの砂”とかあ...
砂? 地面? それだ!
ここは1階。手近な窓を乗り越え外に出る。見回すと建物の...
≪待て、ストップ! サイトちょっと待て!≫
『心』の声は悲鳴をあげた。
ダメだ。妄想でもそれはダメだ。それだけはダメだ!
気持ちはわかる。いやわからないけど。じゃなくてダメなの...
その一線を越えたらヒトじゃなくなる。ケモノだからイヌだ...
っつかただの変態だってば。頼むからっっっ!
才人。ルイズを茂みの向こうに押しやって自分は外に出た。...
あーこれかと握っていた鎖を茂みの向こうに投げ入れ、今度...
さすがの才人も頭にきた。
どうしろってのよ。なんでもかんでも主人に頼るんじゃねー...
「おしっこぐらい一人でしろよ!」
怒鳴りつけると、ルイズは黙って首輪を指差した。はずせと...
抗えない迫力のオーラを発しているあたり、やはりルイズだ...
仕方なしに才人はそのとおりにしてやった。固く締まってい...
ったく首輪してたってできるだろーがよぉ。聞こえないよう...
ようやく首輪が外れて、才人は心底ほっとした。
「ほら、さっさと済ませちまえ」
言うやいなや、股間に強烈な一撃をくらった。火花が飛ぶ。
「なっ、なにすんだよッ!」
「………」
ルイズは無言で、全身をぷるぷるとわななかせていた。その...
何でかわからないけど猛烈に怒ってる。怖い。
「ま、待て。落ち着け。な? とりあえずすること済ませてか...
主人の威厳などきれいさっぱりどこへやらだ。
「………ち、ち……」
ルイズは言葉がうまく発せず、口をぱくぱくさせている。
「……ちち?」
「ち、ち、ち、違うわよっ! バカーーーーーーっ!」
大噴火と大竜巻と大地震が、同時に起きた。
#br
−6−
「……バカ……バカバカっ! ……バカぁッ!」
ルイズがようやく『バカ』以外の言葉をまともに出せるよう...
「ばかばか! さいってい!」
ルイズはわめいた。
「あんたってば、ほんとデリカシーのかけらもないんだから!」
「だ、だってお前、わんわん言ってただろが。あれってトイレ...
頬にハイキックがめりこむ。
「だぁーかーらぁー違うっていってんでしょ! あんたがこの...
「首輪?」
「そうよ、こんなものつけるから言えなかったんじゃない!」
「ごめん」
「だいたい貴族のこの私がなんで、い、いいい犬扱いされきゃ...
じゃあそのシッポと耳はなに?
出そうになったのを危うく押さえ、本題に戻すことにした。
「だったらなんだよ」
「なにってなによ」
「いいから落ち着けって。あのな、お前の『わんわん』は何だ...
「…………」
ルイズはばつの悪そうな顔をした。
「まあ、勘違いしたのは悪かったと思ってるよ。ごめんなさい...
「わ、わかってるわよ!」
「なら、理由言えって」
うー、としばらくうなっていたが、ようやく口を開いた。
「……きがえ……たかったの」
聞き取りにくい声で、ルイズは言った。
「着替え? なんでまた」
「なんでもいいでしょっ! とにかく部屋に戻りたかったの。...
「って授業終わるぐらい待てなかったのかよ。あれじゃどーし...
ルイズは下を向いて、つま先で地面をほじくり始めた。
「……緊急……だったんだもん」
「はぁ?」
「ああああんたのせいなんだからね! 最後まで責任とりなさ...
「責任ってなんだよ。とりあえず、俺、教室に戻るからな。首...
じゃ、と行きかけたが、全力で引っ張り戻された。
「部屋までつれてって」
はいはい、と手を引いてやると、今度は動こうとしない。
「あのなあ、言いたいことあるならはっきり言えって。俺もど...
才人は困り果てた。
ワケありっぽいし無理に問いつめるのもなぁ、と思ったけれ...
両手を腰にあてて少々ふんぞり返りぎみに、ルイズに言い渡...
「よく聞きなさい、ルイズ。お前は俺の使い魔です。そして俺...
効果は抜群だった。ルイズはしぶしぶ口を開いた。
「……歩けないの」
「うん」
「……気持ち悪いの」
「うん」
「……下着が……その……」
「う……?」言葉につまった。
「あ、あ、あんたはその……男だからわかんないかもしれないけ...
ルイズは紅潮した顔を泣きそうに歪ませた。
そうか、才人はようやく納得した。
いわゆる女の子の日ってやつか。なるほどな、それなら無理...
「だ、だから。耳とか勝手に触っちゃ……だだだダメなんだから...
一瞬、思考が固まった。
ひとつ前の台詞といまの台詞。どうつながるんだ?
「あの……」
「なによ」
「それで俺の責任? 俺が耳触ったから?」
ルイズは必死に否定した。
「やっぱりいいわ! サイトは詳しく知らなくていいの、忘れ...
そりゃ詳しくはないけどさ。でも。
(さすがにそこまで言われたら察するしかないだろ〜〜)
才人は頭を抱えたくなった。
どうしていいかわからなくて、とりあえず頭を下げた。
「ごめん! なんかよくわかんないけど、ごめんなさい!」
「謝るヒマあったら、さっさと部屋につれていきなさいよね!」
「あ、うん」
「早くなさい」
「えーと……、抱っこするのはかまわない……かな?」
ぷいっとそっぽを向きながら、ルイズは両手を差し出した。
あいかわらずわかりづらいルイズの行動だった。
勝手にイエスとみなして、才人はルイズの足と背に手を回し...
できるだけ体に触らないように苦心しながら、自分の部屋へ...
ルイズのぺったんこの胸が体に押しつけられて、心臓が飛び...
髪からふわりといい匂いがただよってきて、頭がくらくらし...
……これいったいなんの罰ゲームですか!?
「あのぅ……」ルイズさん、もう少し離れていただけると嬉しい...
「あによ」
「いやなんでも……ないです」
そうですよね。抱っこしてるんだから、離れるの無理ですよ...
桃色の毛に包まれた柔らかそうな耳が、目の前でピクピク揺...
息が吹きかからないよう、才人はひたすら息を止めた。
ようやく部屋にたどりついた時、才人は窒息寸前の魚のよう...
#br
−7−
ルイズが下着を替えている間、才人はおとなしく部屋の外で...
みっともないから中に入れと言われたが、それぐらいの礼儀...
それに、少なからず男の事情もあった。
ほどなく扉が開いて、ルイズが出てきた。
「いいわよ、いきましょ」
「へ? ……どこに?」
「教室に決まってるでしょ。授業サボる気なの?」
「いや、行くけどさ」
ちらりとルイズの方を見る。
“それ”がイヤでも目に入ってきて、とっさに目をそらす。
「お前はいいって。使い魔なんだし」
「ダメよ。使い魔はいついかなる時も主人のそばにいるものな...
「けどお前、ぜったいおとなしくしてないだろ?」
「……なによぉ。自分の使い魔くらい信用しなさいよね」
言いながら、ルイズは自分の首すじを見せるようにあごを上...
「ほらっ、さっさとつけなさいよ」
「って、お前……」
ルイズの手には、例の革製の首輪が握られていた。
さっきまであんなに怒っていたのを、きれいさっぱり忘れた...
「それ嫌がってたじゃねーか」
「仕方ないじゃない。ご主人様の命令なんだもの。見るのも触...
「はぁ」
好意はすごくありがたい。ルイズにしては上出来すぎるぐら...
しかし問題はそこじゃないんだよ……。才人は首をふった。
「やっぱりお前は残っとけ。昼寝でもしてろ」
「なんでよ」
「思い出してもごらん。静かになったってお前は騒ぎを起こす...
「でも……」唇をとがらせる。
「だいだい、授業に使い魔は邪魔なだけだし」
使い魔が常に主人のそばにいるというのは建前だ。実はけっ...
「よって、お前の仕事は昼寝に決定。他にできることないから...
ルイズの手がふるえはじめた。首輪を引き裂かんばかりに強...
「……ど、どうせ……」
才人は、しまったという顔をした。
「……わ、私は、つ、使えない、つ、つ、使い魔よね……」
「い、いや、そういう意味じゃ」
「……掃除も洗濯も、何一つまともにできないし……」
「し、仕方ねーだろ。貴族のお嬢様なんだから」
というか、フレイムやシルフィードもそんなことはしないし...
「……まま魔法……魔法だって……使えないし……」
「全然問題ないって。ノープロブレム」
ルイズはきっと顔を上げた。
「ダメよ! 使い魔は主人を守る存在なんだから!」
「いや、いいって。むしろ俺がお前を守ってやるし」
かっこいい台詞に才人は軽く酔いしれた。
女の子に守ってもらうなんてあまり嬉しくない。できれば頼...
だからさ、となだめるようにルイズの肩をたたく。
「お前はいてくれるだけでいいから。可愛い可愛いお前がいて...
というわけで、行ってきます。反転して歩き出そうとしたが...
才人の背中にぎゅっと抱きつくと、泣き出さんばかりの声で...
「ばかばかバカばかぁ、サイトのバカっ! だったらなんで一...
才人のサボりが決定した。
#br
−8−
まだ太陽が明るい光を投げかける時間だというのに、才人は...
ずるり……ぺたっ……。
床を擦るような音が近づいてきた。つむっているまぶたがひ...
ずるずる……ぺたっ……。
音はすぐ近くまできて止まった。
次にベッドが沈む気配がして、背中にぺたりと何かが張りつ...
ぞくりと背筋に冷たいモノが走る。ガタガタ震えそうになる...
ひぃっ!
声が出そうになるのを気力でツバごと飲み込んだ。
すーすー。ただいま平賀才人は留守にしております。ご用の...
耳をかぷっと甘噛みされて、才人はたまらず跳ねおきた。
ベッドの上には、薄手の毛布をかぶったルイズ。
臥せたまま上半身を傾け、鳶色の瞳でこちらを睨んでいる。...
これは犬だ! 人に見えるけど犬だ!
必死に自分に言い聞かせた。でないと体が勝手に動いて、こ...
「お、お、お前、自分のベッドがあるだろっ!」
肩で息をしながら、才人は叫んだ。
「貴族の私があんな貧相なベッドで眠れるわけないじゃない」
「ご主人様が買い与えてやったベッドだぞ! ケチつけるなよ...
「頼んでないもん」
「あーーーーもういいから! あっち行けって!」
いや、とルイズはそっぽを向いた。毎晩一緒に“寝て”るのに...
「じゃあ、せめてちょっかい出すのはやめろよ。俺は眠いんだ...
才人は、ベッドの真ん中に縦に直線をひく仕草をした。こっ...
そんな才人の顔を探るように見上げていたルイズだったが、...
「……おいっ、なんのマネだよ」
「使い魔のお仕事」
ぶっきらぼうに言う。
ふさふさのしっぽが、せかすように才人の膝を叩いた。
「な、なんだよ」
「もうっ、主人なんだからわかりなさいよね」
「言われても」
「な、なでていいって言ってるの」
真っ赤っ赤な顔で、ルイズは言った。
な、撫でていいって……、
……どどどどこを!?
言葉の代わりに“それ”がひくひくと動いて答えた。
“それ”とは三角形の柔らかそうな毛で包まれた“それ”であり...
才人は恐る恐る尋ねた。
「あのぅ、それがなぜ使い魔のお仕事なんでしょうか?」
「わからない?」
ごめん、才人は目を伏せた。
『真の主人と使い魔なら、言葉なんてなくても自然と気持ちが...
……なんてルイズは言うけれど、俺にはルイズの考えているこ...
ルイズは小さくため息をついた。
「あのね。主人の幸せに協力するのも、使い魔の大事な務めよ...
よくわからないままに頷くと、今度は照れくさそうにベッド...
「今日のサイトの顔、あんな幸せそうな顔、初めてみたわ。な...
ルイズは言葉をきった。
何が始まるのかと待っている才人の前で、ルイズはベッドの...
そろえた両手を前につき、腰をわずかに浮かしてしっぽと耳...
そして、顔をあからめながら、こう言った。
フリッグの舞踏会でダンスに誘ってくれたときみたいに。
「……今日のルイズはご主人様の犬です。どうぞ可愛がっていた...
心臓が臨界点を一気に突き破った。
霞みそうになる意識を必死につなぎとめながら、才人は思っ...
もしかしたら自分は、記念すべきハルケギニア初の『使い魔...
#br
−9−
例えば目の前に、果実のなる樹があるとする。
そこになる実は青く固い。
しかし見よ、いまやその果実は濃厚な香りを放ちたっぷりの...
それを黙って指をくわえて見ていられるのか? ―――否。
才人の中で原始的な“何か”が目覚め、才人を支配した。
進軍だ! 進軍だ! 進軍だ!
才人は正座をして背筋をぴんと張ると、礼儀正しく宣言した。
「主人想いの真摯な気持ち、この主人しっかり受け止めました...
深々とお辞儀をした。
「それでは、ありがたく頂かせていただきます」
目の前の果実にむしゃぶりついた。
秒殺の勢いだった。
ハイエナのごとく飛びかかり、押し倒し、両手で手の自由を...
あまりのことに、ルイズは悲鳴をあげることさえ忘れていた。
才人の口から、意味不明の言葉が漏れた。
「ここここのめめめ雌犬がこのはしたないメス犬めががが」
呟きながら、左手で両手首をまとめあげ、右手をスカートの...
「どどどどうだ嬉しいかなななんていいいやらしいメス犬なん...
ルイズはじたばたともがき始めた。
そりゃもう必死の形相で暴れた。
その暴れ狂う足を才人は膝でおさえつけながら、襟元のタイ...
「ききき嫌いじゃないんだろじじじつはすす好きなんだろこう...
「……な……な……な……」
ショックを受けたルイズはうまく言葉を発せなかった。
どこかで聞いたような台詞が、才人の口から滑りでた。
「おい犬こら犬ちがうだろワンだろワンと言えこらわんッわん...
ルイズの瞳が信じられないとばかりに見開かれた。こんな侮...
才人は勢いに任せてブラウスに噛みつくと力いっぱい引きは...
才人は嘆息をもらした。
キュルケの張りのあるメロンのごとき胸や、シェスタのふく...
胸はかくも深遠な存在だったのか!
この感動を才人は素直に口にした。
「こ、こ、これが……胸……?」
瞬間、ルイズの抵抗がぴたりととまった。
代わりに冷気のようなオーラがゆらゆらと立ちのぼり、体が...
才人は見事に地雷を踏んでしまったことを知った。
「………………こ……こ………」
ひいっ、才人は反射的に飛びすさった。
「……こ、ここ、こ……これ……む、むむ……」
ルイズの瞳に燃えたぎる炎が浮かんだ。火竜のごとき形相で...
「ち、ちが、待て、落ち着け、な?」
「……ここ、こ、ここれがむむむむねがなななんですってぇぇえ...
「ルイズルイズルイズっ! 頼む! お願い! ルイズ様!」
いつのまにか、ルイズの右手には鞭がにぎられていた。
胸もとをかき合わせる左手には『始祖の祈祷書』があった。
「わわ、わるかかかかったわねっっッ! ここここれがむむむ...
ピシピシと鞭が鳴る音を聞きながら、己が受けるだろうめく...
「かか、覚悟なさいぃっっッ! ええええええエロいぬぅぅぅ...
無理! 俺にはとても……とても耐えられそうにないっ!
目をつむり、耳をふさぎ、才人は心を閉じた。
≪なんつー馬鹿者……。あきれて物も言えんわ≫
飽きず繰り返される馴染みの情景をながめながら、『心』の...
どうして俺ってやつはこうなんだろう。
過去の自分が思い返される。
幾度となく空振りに終わった、ルイズとの甘いひととき。
一度も言ってもらったことのない、たった二文字の言葉。
ルイズが自分に好意をもってくれているのは確かだと思うの...
なぜか二人の心はすれ違い続けているのだ。
まるで何か強大な力が、二人を近づけまいとしているかのよ...
だけど……。
だけど、俺だって今までの俺じゃない。日本にいた頃のモテ...
ハルケギニアに来てから、ずいぶんと経験を積んだし。
女王陛下と熱いキスまで交わしたじゃないか!
今の俺のテクニックをもってすれば、妄想ルイズをオトすな...
おい、サイト! そこでじっくり見物しておけよ。
『心』の声は、サイトに配役交代を命じた。
#br
−10−
猛獣使いか闘牛士にでもなった気分で、才人は荒れ狂うルイ...
魔法少女がなんぼのもんじゃ! と息巻いた。
だてにガンダールヴはやっちゃいない。ずいぶんと修羅場を...
「な、なによ、犬。この私に歯向かう気!? いーい度胸じゃな...
とつぜんの才人の変わりように、桃髪魔法少女はたじろいだ...
<エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ……>
ちょっと待て。まだそれ使えないはずだろ!?
『虚無』。エクスプロージョン。デルフでも吸い込みきれな...
しかし才人は焦らなかった。『虚無』の詠唱は時間がかかる...
<オス・スーヌ・ウリュ・ル・ラド……>
才人は素早く無駄のない動きで、詠唱中のルイズの横をすり...
それこそ想いの限りをこめて抱きしめ、囁いた。
「聞いてくれ、ルイズ。……俺はお前が好きだ」
ルイズは顔を赤らめた。
「なな、なによ、いきなり……。そんなのでごまかされないんだ...
心なしか声に迫力がなくなった。それでも詠唱の声を止めよ...
<オス・スーヌ・ウリュ・ル・ラド……>
才人はなおも囁きかけた。
「好き。こんな気持ちルイズだけだよ。嘘じゃないって。ほん...
連射銃のごとく『好き』をつぶやいた。自分でも何言ってる...
ちらっと横目で盗み見ると、ルイズは湯気が立ちのぼりそう...
さらにたたみかけるべく、殊勝な顔で言った。
「さっきはごめんな、ルイズ」
「え?」
「俺、調子に乗りすぎたよ。ルイズがあんまり可愛かったから...
「あ、あ、謝ったってあんなこと……ぜぜ、ぜったい許さないん...
「もうしないよ。ルイズが嫌ならしない」
「あ……あたりまえでしょ。い、犬のくせに……何言ってんのよ……」
「うん。ごめん。でも」
才人はルイズの顎をつかまえると、その瞳をまっすぐにのぞ...
「俺、知ってるんだ……」
「な、なによぅ」
ルイズはなにやらかわいらしい声を出すと、頬を染めてはじ...
こんな感じのルイズ、前にも何度か見たことがある、
そうだ、ワルドやジュリオに口説かれている時だ。思い出し...
あの二人に比べれば、たしかに自分ははるかに及ばないかも...
だけど、と才人は首をふった。ルイズが想ってくれているの...
その自信が才人に勇気と力を与えた。
才人は完璧な仕事をやってのけた。最後の一言で、魔法少女...
「お前だって……、俺に惚れてるんだよな?」
才人は優しく微笑んだ。ルイズの胸がきゅんと鳴った。
「……ち、ちが……」
言おうとするルイズの唇を、才人はゆっくりとふさいだ。
しばらくそうやって触れ合うだけのキスをしたあと。ルイズ...
そして聞いてきた。
「わたしのこと……すき?」甘えるような声。
「うん」
「ほんとに……ほんとうに……すき?」
「うん、好き」
すると、とろんとした顔で目をつむったので、才人はふたた...
すぐにでも押し倒したかったけれど、そこは我慢した。今ま...
それに。
……ソレだけじゃないんだよな。才人はしみじみと思った。好...
そんなことを考えていたら、なんだかたまらなく愛しくなっ...
「ルイズ……大好き……ルイズ……」
もう一度ぎゅっと抱きしめた。
と、ある物が指に触れた。ルイズの頭の上だ。
ふわふわした柔らかい毛玉のようなもの。にぎるとふにふに...
……なんだこれ?
“それ”が何かを才人は思い出した。なるほど。だとすると……。
ルイズの背中に回していた手を、少しずつ下へとずらしてい...
ルイズの頭ごしに首をのばすと、スカートの後ろが大きくめ...
ごくりと唾を飲みこみ、才人は考えた。
さてどうしたものだろう。『少女(耳としっぽ付)とxxx...
困ったなぁ、と思いながら耳やしっぽとたわむれていると、
「……あ、あのね」
ルイズが恥ずかしげに口をひらいた。
「ご、ごめん。触られるの……嫌だった?」
「ううん」首をふる。「じゃなくて……あのね。貴族はね、一度...
また貴族か……。少しうんざりしていると、
「だから仕方なく……なんだからね? 本当はしたくないんだけ...
「はいはい、お前は立派な貴族だよ。だからなに?」
「だ、だから、だからね…………わん」
「……わん?」
「うん。わんっ!」
不意打ちのように、ルイズは才人にじゃれつくように飛びつ...
「わんわん」
……今日のルイズはご主人様の犬です。どうぞ可愛がっていた...
そんなふうに聞こえた。
参った。もうどうにでもしてくれ、と才人はつぶやいた。
#br
−11−
「待て、ルイズ、待てって!」
才人は悲鳴をあげた。ぐいぐいと引っ張られるズボンを懸命...
パーカーとシャツは胸のあたりまで引き上げられ、むき出し...
犬として振舞うルイズは、驚くほどに奔放だった。
(……今日のルイズはご主人様の犬です。どうぞ可愛がっていた...
うそつけ、どっちが犬だよ……。才人はつぶやいた。
哀れな瞳で、自分の手を見る。
その手首には鎖が……ルイズのものだった“首輪”の鎖がきつく...
「わん」
小悪魔のような笑みを浮かべると、ルイズは杖を一振りした...
その顔はこう言っていた。
(……この私にあんなコトやこんなコトして、ぜったい許さない...
はじまりは、ただのじゃれあいに過ぎなかった。
座りこんだ才人に、ルイズはまとわりつき、嬉しげに体をす...
そんな仕草に、なんだか本物の犬みたいだなぁなんて思いな...
ところが顔中をぺろぺろやりはじめたあたりで、雲行きが変...
甘いキャンディでも舐めるように、夢中で舌を這わせてくる...
「ル、ルイズ、くすぐったいよ、おい」
やんわり押しのけた。すると顔を上げて、ダメなの? とい...
なんだかもう『待て』を命じられてる飼い犬の気分だ。
鞭や『虚無』のような激痛はないけれど、辛いレベルはこっ...
体をむずむずさせていると、ルイズが心配そうにじっと顔を...
また顔を舐めてくるのかな? ルイズのぽってりした唇をみ...
それよりもあの唇にキスしたい。すっごくしたい。でも犬に...
ふと思いついて、ちろっと舌をつきだしてみた。誘うように...
すると使い魔、興味をしめしたみたいで、舌の先をなめてき...
つん。触れた瞬間、才人の背筋にぞくっと電流が走った。
腹の底からつきあげるような熱い衝動。
気づくとルイズの舌を強く吸い上げていた。
「ん……んっ……」
息苦しそうな声にようやく我にかえった。
力をゆるめて放してやると、ルイズの口からはぁっと吐息が...
目の前のルイズは、ワインに酔ったようなとろけきった表情...
ぼんやり思い出していると、ルイズは「くぅん」と切なげに...
不慣れでたどたどしくはあったけれど、いつも才人がしてい...
気がついて顔が赤らんだ。
これってOKってことだよな?
「……ルイズ」
唇をはなして、ルイズをみつめる。
はなれた唇をつなぐように、朝露の透明な糸がつうっと弧を...
頭がオーバーヒートした。
もう無理。死ぬ。たまらず襲いかかるようにのしかかった。...
「ルイズルイズルイズ!」
白いブラウスがはだけて、目の前いっぱいに平原……エデンの...
荒げた息のまま、才人は禁断の果実にむしゃぶりつこうとし...
ところがルイズはおそろしく敏捷な身軽さで身をかわすと、...
勢いのままシーツに叩きつけられる。さらにルイズに背中か...
「……うぎゅぅっ」
獲物を仕留めた雌ライオンのように、ルイズは才人の頭を押...
「へ……へめぇ……なにふる……」
「わん」
遊んでやがる、こいつ。
ふくれあがったこの“欲情”をどうしてくれるんだよ、おい!
「わんわん、わわん」
ご機嫌なルイズは、才人のパーカーごとシャツをめくりあげ...
そんな蚊に刺された程度の刺激でどーにかなるかよ、バカ犬...
「なっ、なめんなよ〜〜」
にらみつけ、体を反転し仰向けになった。鎖でしばられた手...
ここまでコケにされて黙ってられっかっての。なあ、ねーち...
股間のモノはすっかり準備万端なのだからして。
このコナマイキな雌犬に、男の恐ろしさってものを味あわせ...
「わん」
右手が動いた。
一振り。すると鎖は生き物のように形を変え、ヘビのように...
#br
−12−
ああ、こういうのってなんていうんだっけ。……SM?
……ちょっと違うか。そうでないと信じたい。
なんにしても、はたからみればすごい光景であることは間違...
両手首を鎖でひとつかみに拘束された男があお向けに寝転が...
獣の耳と尾をもつその少女は、波うつ桃色がかったブロンド...
じりじりと焦燥感に焼かれながら、才人は待った。
もう少し……もう少し……。
そしてその瞬間がきた。少女の頭にある“それ”すなわち“耳”...
才人は手首に鎖がくいこむのも気にせず、思いっきり首をの...
ひゃうん!
少女の体が大きくはねた。同時に胸のあたりに軽く焼けるよ...
上目づかいで、ルイズがじっとこっちを見ている。
頬はすっかり上気して、口を半開きに、はぁはぁと息を弾ま...
それはもはや“犬”でも“少女”でもない。匂いたつような、感...
「おいで……ルイズ」
優しい声で言う。舌をゆらして誘う。
迷う瞳。
「かわいがってあげるってゆってんの、ご主人様が」
ねだるような色が混じりはじめる。
そろそろとルイズは近づいてきた。感じやすい場所をさらけ...
生暖かいその場所にふぅっと息を吹きこんで、今度は舌先で...
弱く……強く……奥を探り、時には甘噛みをして、思考のすべて...
「んっ……んんっ……はぁっ……」
せきを切ったように、甘い声がルイズの唇からあふれだした。
その調べにあわせるように、身をよじり、細い腰をゆらす。
『だ、だから。耳とか勝手に触っちゃ……だだだダメなんだから...
恥らうように言ったルイズの顔。
クラスメイトに囲まれ怯えるルイズの顔。
フラッシュバックのように、次々と脳裏に浮かんでくる。
そして今ルイズがしているだろう顔。……俺だけのものだ。そ...
「……っ!?」
いきなり太ももの内を撫でられたような感触に、才人は体を...
ルイズが腰をゆらすたびに、その感触が戻ってくる。
やべ……。
しっぽ……ルイズのお尻から生えているふさふさの毛束が、才...
衝動をおさえるように、懸命に舌を動かした。そのたびに揺...
たまらなくなって、腰を浮かせてつよくルイズに押しつけた...
「あ……や……ぁッ」
驚いたルイズが逃げようとするのを、足を絡みつかせてがっ...
すりつけるように腰を動かすと少しずつルイズの太股が開い...
ルイズはといえば、ショックのせいか呆けたような表情をし...
それもそうだ。ずっと隣で寝ていた男の体がこんなふうだな...
もどかしさに狂いそうになりながら、才人は呼びかけた。
「ルイズ!」
遠くをみるような焦点の合わない瞳。
才人は手をがちゃがちゃいわせた。
「これ取ってくれよ。頼む」
ぼんやりと首を傾げてから、スローモーションのように首を...
そして無邪気な笑みを浮かべて「わん」と鳴いた。
この状況でまだ犬ごっこかよ。なりふりなんて構ってられな...
「ルイズぅ、ルイズちゃん。取ってくれないと、ご主人様、も...
「わん」
どこまでも“犬”で通すつもりらしい。なんて意地っ張りなん...
それとも……自己催眠にでもかかってしまったんだろうか? ...
そういえばどこか様子がおかしい気もする。
そんなふうに“心”がルイズを気づかう一方で、才人の“体”は...
ようやくショックから抜けだして、行為に馴染んできたらし...
拘束されて思い通りにならない体のまま、そんなあられもな...
「ほぅぁああああああああっ」
体中の血が沸騰しそうだ。ズボンははちきれんばかりに盛り...
まるで拷問だ。
「ルイズ、ルイズっ! ルイズ!」
つい声を荒げて叫ぶと、びくっとルイズは動きを止めた。
そして叱られた子犬のような瞳でじいっと才人の様子をうか...
な、なんだ? もしかして俺が怒っているとでも思ってんの...
「こらルイズ」
試しとばかりに厳しい顔を作って叱咤すると、ルイズはくぅ...
ルイズらしくもないもそんな弱気な仕草に、才人は突破口を...
思いつくまま言葉を並べたてる。
「お前、俺がなんで怒ってるかわかってんのか?」
ルイズは首をふる。
「お前な、また粗相しただろ。さっき着替えたばかりなのに、...
きょとんとした顔で、ルイズは膝立ちして下をのぞきこんだ。
すると大事なご主人様のお召し物が、自分のせいでぐっしょ...
うつむいたルイズの口もとがふにゃっとくずれて、瞳に涙が...
「よし、反省してるなら許してやるから。この鎖をだな……だぁ...
激痛が才人を襲った。
ルイズが渾身の力でズボンを脱がそうとしたからだ。
「待て、ルイズ、待てって!」
才人は悲鳴をあげた。ぐいぐいと引っ張られるズボンを体重...
これ以上、俺のせつない部分をいじめないでやってくれ!
「ボタン、ボタン! はずせって!」
必死にいいつのると、やっとわかってくれたのか、ルイズは...
アンロックの呪文。まさかこんな使い道があろうとは。
犬語ではない詠唱が終わると、ぷちんと勝手にボタンがはず...
その瞬間才人は限りない解放感を感じた。才人の男としての...
#br
−13−
才人の下半身を素っ裸にしたあと、ルイズはふらりと立ち上...
よろよろと足元を危なっかしくしているのは、足場がひどく...
あやつり人形のように手を泳がせて、ルイズは腰に手をやっ...
ふぁさりと音をたてて、スカートがすべりおちた。
次にシルクの下着に指をかけると、ためらうことなく足から...
すっかり湿って汚れてしまったそれを見つめて、ルイズは涙...
その姿はおねしょを見つかって叱られた子供のように頼りな...
「泣くなって……怒ってねーから」
溢れた蜜がひとすじ、ルイズの内ももを伝ってぬらした。そ...
『おいで、ルイズ。綺麗にしてやるから』
そんな台詞がよぎって、あわてて胸のうちに飲み込んだ。
いくら今のルイズ相手とはいえ、恥ずかしすぎる台詞だ。頭...
ああ、こんなときルイズが言ってたみたいなテレパシーが使...
「ルイズ……」
ルイズは、じっと何かを見つめていた。
下を向いて、不思議そうに目をみひらいて見つめている。
と、いきなり才人の体に馬のりになり、さらにじぃっと眺め...
目の前でふるふると揺れる物体に心を奪われたのだ。
それは才人の股間から天に向かって屹立していた。
才人は心の拳をふるわせた。
……こ、こンのバカ犬。
さっきの涙はなんだよ。てか空気読めよ。てか俺の独白を返...
「わん」
変なところで心を読んだかのように、ルイズは鳴いた。
そして目の前のグロテスクな腸詰のような物の先端に透明な...
「はうぁっ」
思わず声をあげてしまい、その不覚さに才人は奥歯をかみし...
とはいえここで止められたらそれこそ地獄なので、才人はで...
案の定、ルイズは嬉しそうにそれに飛びついた。口いっぱい...
まるで最高のオモチャを見つけたかのように、長いシッポが...
すると今までひっそりと隠されていた森の泉がしっぽの下か...
才人の顔からほんの数サントのところで、蜜はきらめきを放...
そして気まぐれな使い魔はといえば、そんな才人の苦しみな...
生き地獄だ……。才人は思った。
これなら鞭や『虚無』の方がどれだけマシかしれない。
夢なら覚めてくれ……。切実に祈った。
#br
−14−
サイト……サイト……。
自分を呼ぶ声に、才人は意識を取り戻した。
「もうサイトったら、いつまで寝てる気? そろそろ移動なん...
「……ああ?」
呆けたように辺りを見回す。
瓦礫となった家々。すぐ向こうにロマリア軍の兵士や、水精...
まだ日は高く、さして時間は過ぎていないようだった。
戦車を背もたれにして、才人はねむりこけていたのだった。
「うーん、たしか俺、地面に……」
ぼんやりとした頭をさする。すぐ横にルイズがいた。
「バカね。あんなとこにいられたら邪魔じゃない」
「そっか」
どうやらルイズが動かしてくれたらしい。
「ったく、あんたがちっとも起きないもんだから、ヒドい目に...
「なんだよ、ヒドい目って」
「あの話、みんなの前で説明させられたの。失礼だわ。あんな...
「あの話……って、お前が犬の格好してどうのってやつ?」
「決まってるでしょ。他に何があるっていうのよ」
「お、お前っ。話したのかよ。あれ。全部?」
夢うつつで見た妄想の場面の数々が思い出される。
とても人さまに明かせるようなシロモノではない。
「仕方ないじゃない。でないと、もっととんでもないことを想...
あれよりとんでもないって、どんなだよ!?
一人ツッコミ入れてから、才人はなんだか温度差があること...
話しているルイズは、格別照れているようでも怒っているよ...
「あーあのさ。それってどんな話だっけ」
「どんなって?」
「なんでだろ。思い出せないんだよな」
「これあんたの記憶よ? 思い出せないなんてヘンじゃない」
「仕方ないだろ、実際そうなんだから」
んー、としばらく考えてから、ルイズは口を開いた。
「ほら、前に私の部屋で話したの覚えてない? 黒猫の……その…...
「アルビオンのか?」
黒猫の衣装。アルビオンの宿でルイズが着ていたやつ。
妖精亭のみんながいたりで一瞬しか拝めなかったけど、よか...
ルイズ、また着てくんないかな、と才人は内心やにさがった。
「そうよ。そのことであんた聞いたじゃない。なんで猫なんだ...
「あー!」
才人はぽんと膝を打った。
記憶がよみがえった。まったく予想していない方向の“記憶”...
「そうだ。で、俺が絵を描いたんだよな。でっかい犬の着ぐる...
急におかしくなって腹を抱えて笑い転げていたら、ルイズに...
「あんたのお陰でいい笑い者よ、ふんとにっ!」
ぷりぷり怒っている。
「いいじゃねーか、それぐらい。あいつらだってしんどい目に...
「なんで私がそんなことまで」
「命張って守ったってのにこれだもんな。浮かばれないよなー...
ちょっぴり逞しくなったように見える我が友らの姿を、才人...
「ねえ、サイト」
「あん?」
「あんた、ちょっと部下の指導がなってないわよ」
「そーか? たしかに弱っちいけど、だいぶマシになったと思...
「戦いはいいのよ、戦いは。問題は精神的な部分よ。まだ戦地...
「いっ!?」
「しかもね、みんなが言うには、副隊長はお酒が入ると、さら...
「はは、まさか、そんなわけないって、そうだ、ルイズ、みん...
じりじりと才人は後じさった。いい加減この展開は卒業でき...
大勢の前で『好き』って告白までさせられて、この扱いはな...
けれど、いくら待っても拳も蹴りも飛んではこなかった。
代わりに、ルイズは才人の首に手を回した。
「男の子だもの。少しは許すわ。でも」
頭を引き寄せると、そっと唇を重ねた。
「私以外を相手にそゆこと考えたら、ぜったいに許さないんだ...
〜 FIN 〜
終了行:
今日はあなたがご主人さまワンッ! ぎふと氏
#br
−1−
「ホントに始まっちゃったなあ。聖戦」
ギーシュの声に、一同の目が空へと向かう。
晴れ渡った空。次々と描かれる白い聖具の紋。
なんだか祭りか運動会でもはじまるみたいだな……。
才人はしみじみとつぶやいた。
「ちょっと、ゼロのルイズ。もっと詳しく聞かせなさいよ」
コルベールの調査を手伝っていたはずのキュルケが、いつの...
その瞳は好奇心できらきらと輝いている。
「なんの話よ」
「だ、か、ら、“あんな格好”よ」
含みをこめてキュルケは囁いた。
「なな、なんのコトかしら?」
「とぼけないで。聞こえたわよ? あなた犬扱いされて嬉しが...
瞬間、ルイズの足がヨルムンガント級の破壊力で才人の腹に...
「そそ、そんなんじゃないわよ!」
「ならどんなわけ? 白状なさいな」
「もう忘れたわよッ!」
ルイズの目が吊り上がった。
「しし知りたければ、こここいつに聞けばいいでしょこいつに...
使い魔をがしがし踏みつけながら、ルイズは暴れ叫んだ。
(言えるわけ……ないよなあ……)
降りかかる火の粉を避けるように、才人はそっと目を閉じた。
いまのルイズの中にある“才人に関する記憶”は、もとは才人...
それはべつにいいんだよ。
照れくさいけど、今までどんなふうにあいつを見てたとか、...
ルイズも嬉しがってるみたいだしさ。
けどなぁ、ブリミルさんよ。
なにも……なにも俺の“妄想領域”までバラすこたないだろぉお...
ルイズ。俺のルイズ。可愛い俺のご主人様。
可愛くて清楚で、キスぐらいしかさせてもらってない大好き...
やっとこ恋人になれそうって時に、そりゃないんじゃないの...
だいたい今日はいろんなことがありすぎた。
勘弁してくれよ。へとへとだよ。現実逃避させてくれよ。
妄想か……俺の妄想……どんなだっけなぁ。犬とかベッドとか言...
なんだか身も心も疲れ果た心地がして、
才人は意識を手放し妄想の海に沈んでいった―――
#br
−2−
朝。教室に現れた才人を見て、クラスメイトたちは目を丸く...
信じがたいものを、鎖につないで引きずって入ってきたから...
「サイト! きみ、何を引きずっているんだい!」
青銅のギーシュが、駆け寄ってきた。
「使い魔」
「よく見ると……いや見なくても、そうだな」
ギーシュは頷いた。
「しかしなんでまた、こんなけしからん、まったくもってけし...
興奮に震える指で、足元にうずくまる桃色の物体を差した。
それは一人の少女だった。
しかもかなりの美少女だった。
桃色がかった流れるブロンド。宝石のような鳶色の瞳。抜け...
いや、小動物そのものだった。
頭のてっぺんからは、桃色の柔毛に包まれた逆三角形の耳が...
そして、才人は手に長い鎖を持っていた。
その先はと見ると、奇妙なものへとつながっていた。犬を散...
何の変哲もない赤茶の革製のベルト。なのになぜだろう? ...
首輪。つまりは拘束具である。
拘束具とはすなわち、行動の自由を奪い言うことをきかせる...
才人は肩をすくめてみせた。
「こいつさぁ、すっごくワガママなの。誰かれかまわず噛みつ...
一斉にあがるどよめきに、男子生徒たちの羨望のため息が混...
いつのまにか、彼らの周りには人垣ができていた。
「……これは、純粋に学術的な興味なんだが」
こほん、とギーシュは咳払いした。
「君のようなケースでも、使い魔にとって主人の命令はやはり...
「なに、お前んとこは違うの?」
「もちろん、僕のヴェルダンデほど従順で有能な使い魔はいな...
恍惚と宙に手を広げると、ギーシュは続けた。
「しかしね、君、ルイズは人間だよ。しかも貴族だ。人一倍プ...
「ちっともおとなしくねーよ。だからオシオキなんだろ?」
才人は悪びれもせずに言った。どうやら人間の首に首輪がは...
息を荒げたマリコルヌが、体を震わせる。
「あのルイズがね。はぁはぁ……『契約』ってすごいよネ」
「あら、すごいのはダーリンよ。平民なのに貴族を召喚しちゃ...
キュルケが、髪をかきあげて言った。そして才人の肩にしな...
「いっそ私もダーリンの使い魔になっちゃおうかしら。こんな...
「ハハ気持ちだけで嬉しいヨ」
「もう、そんな奥ゆかしいところも大好きよダーリン!」
感極まった声で立ち上がると、キュルケはぎゅうっと才人の...
ぐるるる……。
机の下から獣っぽいうなり声がした。ずっと床にしゃがみこ...
「いやだ。妬いてるの? ≪犬≫のルイズ」
キュルケは見せつけるように、さらにぐいぐい胸を押しつけ...
ぐるるる……。
「うなってばかりいないで何か言いなさいよ」
すまなそうに才人は首をふった。
「できないんだよ、キュルケ」
「え?」
「今のルイズは、人の言葉を話せないんだ」
「どうして、なにかの魔法?」
首輪を指差す。
「これ、マジックアイテムなんだ。つけると性格が穏やかにな...
「まあ」
「かわいそうだけど、こうでもしないと落ち着いて生活できな...
「ダーリンったら……、そんなにまでして、私とゆっくり愛を語...
キュルケは熱っぽい眼差しで、才人の膝の上に乗りあがると...
「微熱のキュルケはいま、情熱のキュルケに変わってしまった...
瞳を閉じて唇を重ねようとしたが、別の手に引っぱり戻され...
「まったくはしたないわね。ここは教室。あなたの寝室じゃな...
「なによ、邪魔する気?」
憮然とするキュルケを押しのけて、モンモランシーは、自分...
「サイトはね、あなたみたいな淫乱女は好みじゃないの」
「まあ、言ってくれるじゃない。あなたこそギーシュはどうし...
目をつりあげ、負けじと才人を取り返そうとしたキュルケだ...
「サイトさん、放課後はわたくしとお茶をご一緒してください...
「だめです。サイトさんにはこの後、私の手料理を食べていた...
「……先約」
返事の代わりに、才人はニコニコと明るい笑顔を浮かべてい...
≪なんだよ……俺ってこんなかぁ?≫
目の前に繰り広げられる光景に『心』の声はあきれかえった。
そのときふっと当時が思い返されて、仕方ないかな、とも思...
だって俺、犬、犬ってボロクソな仕打ちされてたし……。
でも、でもね、と『心』の声は優越感たっぷりに胸を張った。
今の俺、ご主人様に想われちゃってますからー。
そんなご主人様をほったらかしって無理ですよねー?
犬ルイズかわいいじゃん? 犬上等。犬最高〜♪
で、そのルイズはいったいどこかなー、と探してみれば大変...
#br
−3−
女子生徒たちに押し出される格好で、ルイズは才人からずい...
ぶすっと押し黙って床に座りこんでいる。
その周りを男子生徒たちが取り巻き、好き勝手に感想を言い...
「こうしてみると、ルイズもなかなか可愛いよなー」
「うん、スタイルはともかく、見た目はいい線いってるし」
「あーあ、俺もこういう使い魔が欲しいよ」
犬化したルイズは、クラスメイトのおよそ半数からかつてな...
むすっとした口元も。不機嫌そうな目つきも。むくれた頬も...
小動物のそれだと思うと魅了の魔法をかけたように愛らしく...
「なあ、あの耳。……触ったらダメかな」
一人が言いだした。ふさふさの柔らかそうな耳。見た目は犬...
「やめとけよ、噛まれるぞ」
「首輪してるから大丈夫って、サイト言ってなかったか?」
「そうだな。じゃあ“お手”なんてするかな?」
「あのしっぽ、気持ちよさそうだよなぁ」
皆の目つきに奇妙な光が混じり始めた。
だらんと両手を伸ばし、ふらふらとルイズに近づいていく。
そのアンデッドのような姿に気おされて、ルイズはあとじさ...
いつものルイズであれば、調子にのるんじゃないわよ! と...
しかし今日は勝手が違った。どうにもその気力が沸いてこな...
これは……いける。少年たちは、ごくりとツバを飲み込んだ。
一歩近づいた。一歩退がる。一歩近づく、また退がる。
ルイズを囲む輪が小さくなって、とうとう逃げ場所がなくな...
追いつめられて動けなくなったルイズは、身をすくませ、才...
誰かの指が、ルイズに触れようと伸びてきた。
ルイズの瞳にくやし涙が浮かんだ。
≪おおお前ら、なに調子こいてんだ〜!?≫
ご主人様の危機的状況に『心』はたまらず声をあげた。
ちょっと、俺のご主人様、泣かしてんじゃねーよ。
誰の許し得てそんなマネしてんのよ!
あーのねぇ、
「ルイズに触っていいのは、この俺だけだっつの!」
『心』の中で吼えた―――つもりだったが、なぜだか教室中に響...
気づけば、腰を抜かした男子生徒の輪ができあがっていた。
「わわわ、サイト。待て、待ってくれ!」
「ごめん、悪かった! だから剣はおさめてくれよ」
「ルイズはお前の使い魔だもんな。うん、そうだよな、うん」
輪の中央にはルイズ。そして傍らには、抜き身のデルフリン...
「はれ?」
才人は不思議そうにクラスメイトを見つめ、デルフを見つめ...
そこへ、つんつんと服を引っ張られた気がして我に返った。
見ればルイズが伸び上がるようにして、パーカーの裾を口で...
「……なんだよ?」
見下ろしたルイズの瞳に小さく光るものを認めた才人は剣を...
「お前さぁ、暴れなくなったと思えば泣くしぃ? いいかげん...
するとルイズはむぅっとふくれて、顔を才人の胸にごしごし...
「はは、わりい。こいつほんっと気難しくてさ」
クラスメイトたちは、毒気を抜かれたような顔をしていた。
普段からはとても想像できないルイズの姿である。どうやっ...
その時、教室の扉がガラッと開いた。
現れたのはミスタ・ギトー。二つ名は『疾風』。
プライド高く厳しいと評判の先生である。
生徒たちは慌てて自分の席へと戻った。
#br
−4−
妄想の中でも、やっぱり授業はつまらなかった。
コルベール先生のように興味のわくものもあったが、魔法を...
始まってほどなく、うつらうつらとしていると、膝の上に何...
「重いって。降りろよ」
小さめサイズとはいえ犬猫とはちがう。押しのけようとして...
せめて頭ぐらいにしとけよーと思ったが、ルイズはおかまい...
「ったく……勝手にしろ」
腹立ちまぎれに、耳を指で弾いた。
ぴくん!
ルイズの体が、かすかに跳ねた。
ん? 気づいた才人は、今度は期待をこめて、ふたたび同じ...
ぴくん!
期待どおりの反応。これはいい退屈しのぎになりそうだ、と...
次に才人は、手のひらで優しくさすってみた。
太ももの指にぎゅうっと力がこもったが、それ以外に反応は...
じゃあ、と手のひらにすっぽりおさめて、にぎにぎする。
うなり声がして太ももの痛みが増した。でもそれだけだ。つ...
なんとなしに才人は、ルイズの頬に手をかけてこちらに向か...
するとルイズときたら。まままま真っ赤な顔をして唇をかみ...
おやおや、なんでしょうこの反応は。才人のイタズラ心に火...
心なしかひくひく震えているような耳に顔を近づけると、そ...
「ひゃうん!」
奇妙な声に、教室中の目が集まる。おっと、まずい。
才人は真面目な顔をとりつくろって、真剣に授業を聞いてる...
でも左手は机の下。ルイズの柔らかな耳をいじくっている。
気づけば、キュルケとミスタ・ギトーが激しくやりあってい...
「火傷じゃすみませんわよ?」
「かまわん。本気できたまえ。その有名なツェルプストー家の...
授業中の一生徒と先生のものとは思えない会話だった。が、...
長い金髪をかきわけるようにして、細い首すじに触れてみた。
触れた肌からは熱い火照りがつたわってくる。風邪で熱を出...
そうだ、犬ってお腹をくすぐられると喜ぶよなぁ。ルイズは...
わき腹に手を伸ばした。ブラウス越しに手のひら全体で優し...
ぶるぶるとルイズの体が震えた。口からはこらえきれなくな...
才人はうっとりとした。今までペットを飼ったことがないの...
#br
−5−
そうこうするうちに、キュルケとギトーの白熱した口論も終...
キュルケが自分の魔法で吹っ飛んでしまったからだ。
ミスタ・ギトーが偉そうな口ぶりで授業を再開した。
つまんね……、とあくびを押し殺したところで、ルイズがむく...
てんで落ち着きのないやつだ。
いっそ床に戻すべきかと才人が悩んでいると、なにやら小声...
見れば、ルイズが恥ずかしそうに顔をゆがめながら、訴える...
そういや何か合図を決めていたような気がするが、冗談半分...
うーん……。
記憶を探った。
『おさらいするぞ。【はい】のときはどうすんだっけ?』
『わん』
『うむ。わんが一回。じゃあ【かしこまりましたご主人さま】...
『わんわん』
『そうだ。わんが二回。【トイレに行きたいです】は?』
『わんわんわん』
『よしよし、それだけ言えれば上等だ。余計なこと言ったらオ...
あ……。
「すみません、先生、緊急事態!」
才人はルイズを抱えると、勢いよく教室を飛び出した。
飛び出てきたものの、どっちに行けばいいかすぐには思いつ...
えっと女子トイレ……、だよな。どこだっけ。
1階おきに、女子トイレと男子トイレがあるのを思い出す。
「すぐだからな。我慢してろよ」
走り出してすぐ、パーカーの襟を強くつかまれ、窒息しそう...
え、そんなやばいの? マジ?
そうだ。ガンダールヴのスピードなら……。
けどこんな状態のルイズを抱えたままデルフを抜いて走るの...
こんな時、犬なら……犬なら……ペット用の“トイレの砂”とかあ...
砂? 地面? それだ!
ここは1階。手近な窓を乗り越え外に出る。見回すと建物の...
≪待て、ストップ! サイトちょっと待て!≫
『心』の声は悲鳴をあげた。
ダメだ。妄想でもそれはダメだ。それだけはダメだ!
気持ちはわかる。いやわからないけど。じゃなくてダメなの...
その一線を越えたらヒトじゃなくなる。ケモノだからイヌだ...
っつかただの変態だってば。頼むからっっっ!
才人。ルイズを茂みの向こうに押しやって自分は外に出た。...
あーこれかと握っていた鎖を茂みの向こうに投げ入れ、今度...
さすがの才人も頭にきた。
どうしろってのよ。なんでもかんでも主人に頼るんじゃねー...
「おしっこぐらい一人でしろよ!」
怒鳴りつけると、ルイズは黙って首輪を指差した。はずせと...
抗えない迫力のオーラを発しているあたり、やはりルイズだ...
仕方なしに才人はそのとおりにしてやった。固く締まってい...
ったく首輪してたってできるだろーがよぉ。聞こえないよう...
ようやく首輪が外れて、才人は心底ほっとした。
「ほら、さっさと済ませちまえ」
言うやいなや、股間に強烈な一撃をくらった。火花が飛ぶ。
「なっ、なにすんだよッ!」
「………」
ルイズは無言で、全身をぷるぷるとわななかせていた。その...
何でかわからないけど猛烈に怒ってる。怖い。
「ま、待て。落ち着け。な? とりあえずすること済ませてか...
主人の威厳などきれいさっぱりどこへやらだ。
「………ち、ち……」
ルイズは言葉がうまく発せず、口をぱくぱくさせている。
「……ちち?」
「ち、ち、ち、違うわよっ! バカーーーーーーっ!」
大噴火と大竜巻と大地震が、同時に起きた。
#br
−6−
「……バカ……バカバカっ! ……バカぁッ!」
ルイズがようやく『バカ』以外の言葉をまともに出せるよう...
「ばかばか! さいってい!」
ルイズはわめいた。
「あんたってば、ほんとデリカシーのかけらもないんだから!」
「だ、だってお前、わんわん言ってただろが。あれってトイレ...
頬にハイキックがめりこむ。
「だぁーかーらぁー違うっていってんでしょ! あんたがこの...
「首輪?」
「そうよ、こんなものつけるから言えなかったんじゃない!」
「ごめん」
「だいたい貴族のこの私がなんで、い、いいい犬扱いされきゃ...
じゃあそのシッポと耳はなに?
出そうになったのを危うく押さえ、本題に戻すことにした。
「だったらなんだよ」
「なにってなによ」
「いいから落ち着けって。あのな、お前の『わんわん』は何だ...
「…………」
ルイズはばつの悪そうな顔をした。
「まあ、勘違いしたのは悪かったと思ってるよ。ごめんなさい...
「わ、わかってるわよ!」
「なら、理由言えって」
うー、としばらくうなっていたが、ようやく口を開いた。
「……きがえ……たかったの」
聞き取りにくい声で、ルイズは言った。
「着替え? なんでまた」
「なんでもいいでしょっ! とにかく部屋に戻りたかったの。...
「って授業終わるぐらい待てなかったのかよ。あれじゃどーし...
ルイズは下を向いて、つま先で地面をほじくり始めた。
「……緊急……だったんだもん」
「はぁ?」
「ああああんたのせいなんだからね! 最後まで責任とりなさ...
「責任ってなんだよ。とりあえず、俺、教室に戻るからな。首...
じゃ、と行きかけたが、全力で引っ張り戻された。
「部屋までつれてって」
はいはい、と手を引いてやると、今度は動こうとしない。
「あのなあ、言いたいことあるならはっきり言えって。俺もど...
才人は困り果てた。
ワケありっぽいし無理に問いつめるのもなぁ、と思ったけれ...
両手を腰にあてて少々ふんぞり返りぎみに、ルイズに言い渡...
「よく聞きなさい、ルイズ。お前は俺の使い魔です。そして俺...
効果は抜群だった。ルイズはしぶしぶ口を開いた。
「……歩けないの」
「うん」
「……気持ち悪いの」
「うん」
「……下着が……その……」
「う……?」言葉につまった。
「あ、あ、あんたはその……男だからわかんないかもしれないけ...
ルイズは紅潮した顔を泣きそうに歪ませた。
そうか、才人はようやく納得した。
いわゆる女の子の日ってやつか。なるほどな、それなら無理...
「だ、だから。耳とか勝手に触っちゃ……だだだダメなんだから...
一瞬、思考が固まった。
ひとつ前の台詞といまの台詞。どうつながるんだ?
「あの……」
「なによ」
「それで俺の責任? 俺が耳触ったから?」
ルイズは必死に否定した。
「やっぱりいいわ! サイトは詳しく知らなくていいの、忘れ...
そりゃ詳しくはないけどさ。でも。
(さすがにそこまで言われたら察するしかないだろ〜〜)
才人は頭を抱えたくなった。
どうしていいかわからなくて、とりあえず頭を下げた。
「ごめん! なんかよくわかんないけど、ごめんなさい!」
「謝るヒマあったら、さっさと部屋につれていきなさいよね!」
「あ、うん」
「早くなさい」
「えーと……、抱っこするのはかまわない……かな?」
ぷいっとそっぽを向きながら、ルイズは両手を差し出した。
あいかわらずわかりづらいルイズの行動だった。
勝手にイエスとみなして、才人はルイズの足と背に手を回し...
できるだけ体に触らないように苦心しながら、自分の部屋へ...
ルイズのぺったんこの胸が体に押しつけられて、心臓が飛び...
髪からふわりといい匂いがただよってきて、頭がくらくらし...
……これいったいなんの罰ゲームですか!?
「あのぅ……」ルイズさん、もう少し離れていただけると嬉しい...
「あによ」
「いやなんでも……ないです」
そうですよね。抱っこしてるんだから、離れるの無理ですよ...
桃色の毛に包まれた柔らかそうな耳が、目の前でピクピク揺...
息が吹きかからないよう、才人はひたすら息を止めた。
ようやく部屋にたどりついた時、才人は窒息寸前の魚のよう...
#br
−7−
ルイズが下着を替えている間、才人はおとなしく部屋の外で...
みっともないから中に入れと言われたが、それぐらいの礼儀...
それに、少なからず男の事情もあった。
ほどなく扉が開いて、ルイズが出てきた。
「いいわよ、いきましょ」
「へ? ……どこに?」
「教室に決まってるでしょ。授業サボる気なの?」
「いや、行くけどさ」
ちらりとルイズの方を見る。
“それ”がイヤでも目に入ってきて、とっさに目をそらす。
「お前はいいって。使い魔なんだし」
「ダメよ。使い魔はいついかなる時も主人のそばにいるものな...
「けどお前、ぜったいおとなしくしてないだろ?」
「……なによぉ。自分の使い魔くらい信用しなさいよね」
言いながら、ルイズは自分の首すじを見せるようにあごを上...
「ほらっ、さっさとつけなさいよ」
「って、お前……」
ルイズの手には、例の革製の首輪が握られていた。
さっきまであんなに怒っていたのを、きれいさっぱり忘れた...
「それ嫌がってたじゃねーか」
「仕方ないじゃない。ご主人様の命令なんだもの。見るのも触...
「はぁ」
好意はすごくありがたい。ルイズにしては上出来すぎるぐら...
しかし問題はそこじゃないんだよ……。才人は首をふった。
「やっぱりお前は残っとけ。昼寝でもしてろ」
「なんでよ」
「思い出してもごらん。静かになったってお前は騒ぎを起こす...
「でも……」唇をとがらせる。
「だいだい、授業に使い魔は邪魔なだけだし」
使い魔が常に主人のそばにいるというのは建前だ。実はけっ...
「よって、お前の仕事は昼寝に決定。他にできることないから...
ルイズの手がふるえはじめた。首輪を引き裂かんばかりに強...
「……ど、どうせ……」
才人は、しまったという顔をした。
「……わ、私は、つ、使えない、つ、つ、使い魔よね……」
「い、いや、そういう意味じゃ」
「……掃除も洗濯も、何一つまともにできないし……」
「し、仕方ねーだろ。貴族のお嬢様なんだから」
というか、フレイムやシルフィードもそんなことはしないし...
「……まま魔法……魔法だって……使えないし……」
「全然問題ないって。ノープロブレム」
ルイズはきっと顔を上げた。
「ダメよ! 使い魔は主人を守る存在なんだから!」
「いや、いいって。むしろ俺がお前を守ってやるし」
かっこいい台詞に才人は軽く酔いしれた。
女の子に守ってもらうなんてあまり嬉しくない。できれば頼...
だからさ、となだめるようにルイズの肩をたたく。
「お前はいてくれるだけでいいから。可愛い可愛いお前がいて...
というわけで、行ってきます。反転して歩き出そうとしたが...
才人の背中にぎゅっと抱きつくと、泣き出さんばかりの声で...
「ばかばかバカばかぁ、サイトのバカっ! だったらなんで一...
才人のサボりが決定した。
#br
−8−
まだ太陽が明るい光を投げかける時間だというのに、才人は...
ずるり……ぺたっ……。
床を擦るような音が近づいてきた。つむっているまぶたがひ...
ずるずる……ぺたっ……。
音はすぐ近くまできて止まった。
次にベッドが沈む気配がして、背中にぺたりと何かが張りつ...
ぞくりと背筋に冷たいモノが走る。ガタガタ震えそうになる...
ひぃっ!
声が出そうになるのを気力でツバごと飲み込んだ。
すーすー。ただいま平賀才人は留守にしております。ご用の...
耳をかぷっと甘噛みされて、才人はたまらず跳ねおきた。
ベッドの上には、薄手の毛布をかぶったルイズ。
臥せたまま上半身を傾け、鳶色の瞳でこちらを睨んでいる。...
これは犬だ! 人に見えるけど犬だ!
必死に自分に言い聞かせた。でないと体が勝手に動いて、こ...
「お、お、お前、自分のベッドがあるだろっ!」
肩で息をしながら、才人は叫んだ。
「貴族の私があんな貧相なベッドで眠れるわけないじゃない」
「ご主人様が買い与えてやったベッドだぞ! ケチつけるなよ...
「頼んでないもん」
「あーーーーもういいから! あっち行けって!」
いや、とルイズはそっぽを向いた。毎晩一緒に“寝て”るのに...
「じゃあ、せめてちょっかい出すのはやめろよ。俺は眠いんだ...
才人は、ベッドの真ん中に縦に直線をひく仕草をした。こっ...
そんな才人の顔を探るように見上げていたルイズだったが、...
「……おいっ、なんのマネだよ」
「使い魔のお仕事」
ぶっきらぼうに言う。
ふさふさのしっぽが、せかすように才人の膝を叩いた。
「な、なんだよ」
「もうっ、主人なんだからわかりなさいよね」
「言われても」
「な、なでていいって言ってるの」
真っ赤っ赤な顔で、ルイズは言った。
な、撫でていいって……、
……どどどどこを!?
言葉の代わりに“それ”がひくひくと動いて答えた。
“それ”とは三角形の柔らかそうな毛で包まれた“それ”であり...
才人は恐る恐る尋ねた。
「あのぅ、それがなぜ使い魔のお仕事なんでしょうか?」
「わからない?」
ごめん、才人は目を伏せた。
『真の主人と使い魔なら、言葉なんてなくても自然と気持ちが...
……なんてルイズは言うけれど、俺にはルイズの考えているこ...
ルイズは小さくため息をついた。
「あのね。主人の幸せに協力するのも、使い魔の大事な務めよ...
よくわからないままに頷くと、今度は照れくさそうにベッド...
「今日のサイトの顔、あんな幸せそうな顔、初めてみたわ。な...
ルイズは言葉をきった。
何が始まるのかと待っている才人の前で、ルイズはベッドの...
そろえた両手を前につき、腰をわずかに浮かしてしっぽと耳...
そして、顔をあからめながら、こう言った。
フリッグの舞踏会でダンスに誘ってくれたときみたいに。
「……今日のルイズはご主人様の犬です。どうぞ可愛がっていた...
心臓が臨界点を一気に突き破った。
霞みそうになる意識を必死につなぎとめながら、才人は思っ...
もしかしたら自分は、記念すべきハルケギニア初の『使い魔...
#br
−9−
例えば目の前に、果実のなる樹があるとする。
そこになる実は青く固い。
しかし見よ、いまやその果実は濃厚な香りを放ちたっぷりの...
それを黙って指をくわえて見ていられるのか? ―――否。
才人の中で原始的な“何か”が目覚め、才人を支配した。
進軍だ! 進軍だ! 進軍だ!
才人は正座をして背筋をぴんと張ると、礼儀正しく宣言した。
「主人想いの真摯な気持ち、この主人しっかり受け止めました...
深々とお辞儀をした。
「それでは、ありがたく頂かせていただきます」
目の前の果実にむしゃぶりついた。
秒殺の勢いだった。
ハイエナのごとく飛びかかり、押し倒し、両手で手の自由を...
あまりのことに、ルイズは悲鳴をあげることさえ忘れていた。
才人の口から、意味不明の言葉が漏れた。
「ここここのめめめ雌犬がこのはしたないメス犬めががが」
呟きながら、左手で両手首をまとめあげ、右手をスカートの...
「どどどどうだ嬉しいかなななんていいいやらしいメス犬なん...
ルイズはじたばたともがき始めた。
そりゃもう必死の形相で暴れた。
その暴れ狂う足を才人は膝でおさえつけながら、襟元のタイ...
「ききき嫌いじゃないんだろじじじつはすす好きなんだろこう...
「……な……な……な……」
ショックを受けたルイズはうまく言葉を発せなかった。
どこかで聞いたような台詞が、才人の口から滑りでた。
「おい犬こら犬ちがうだろワンだろワンと言えこらわんッわん...
ルイズの瞳が信じられないとばかりに見開かれた。こんな侮...
才人は勢いに任せてブラウスに噛みつくと力いっぱい引きは...
才人は嘆息をもらした。
キュルケの張りのあるメロンのごとき胸や、シェスタのふく...
胸はかくも深遠な存在だったのか!
この感動を才人は素直に口にした。
「こ、こ、これが……胸……?」
瞬間、ルイズの抵抗がぴたりととまった。
代わりに冷気のようなオーラがゆらゆらと立ちのぼり、体が...
才人は見事に地雷を踏んでしまったことを知った。
「………………こ……こ………」
ひいっ、才人は反射的に飛びすさった。
「……こ、ここ、こ……これ……む、むむ……」
ルイズの瞳に燃えたぎる炎が浮かんだ。火竜のごとき形相で...
「ち、ちが、待て、落ち着け、な?」
「……ここ、こ、ここれがむむむむねがなななんですってぇぇえ...
「ルイズルイズルイズっ! 頼む! お願い! ルイズ様!」
いつのまにか、ルイズの右手には鞭がにぎられていた。
胸もとをかき合わせる左手には『始祖の祈祷書』があった。
「わわ、わるかかかかったわねっっッ! ここここれがむむむ...
ピシピシと鞭が鳴る音を聞きながら、己が受けるだろうめく...
「かか、覚悟なさいぃっっッ! ええええええエロいぬぅぅぅ...
無理! 俺にはとても……とても耐えられそうにないっ!
目をつむり、耳をふさぎ、才人は心を閉じた。
≪なんつー馬鹿者……。あきれて物も言えんわ≫
飽きず繰り返される馴染みの情景をながめながら、『心』の...
どうして俺ってやつはこうなんだろう。
過去の自分が思い返される。
幾度となく空振りに終わった、ルイズとの甘いひととき。
一度も言ってもらったことのない、たった二文字の言葉。
ルイズが自分に好意をもってくれているのは確かだと思うの...
なぜか二人の心はすれ違い続けているのだ。
まるで何か強大な力が、二人を近づけまいとしているかのよ...
だけど……。
だけど、俺だって今までの俺じゃない。日本にいた頃のモテ...
ハルケギニアに来てから、ずいぶんと経験を積んだし。
女王陛下と熱いキスまで交わしたじゃないか!
今の俺のテクニックをもってすれば、妄想ルイズをオトすな...
おい、サイト! そこでじっくり見物しておけよ。
『心』の声は、サイトに配役交代を命じた。
#br
−10−
猛獣使いか闘牛士にでもなった気分で、才人は荒れ狂うルイ...
魔法少女がなんぼのもんじゃ! と息巻いた。
だてにガンダールヴはやっちゃいない。ずいぶんと修羅場を...
「な、なによ、犬。この私に歯向かう気!? いーい度胸じゃな...
とつぜんの才人の変わりように、桃髪魔法少女はたじろいだ...
<エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ……>
ちょっと待て。まだそれ使えないはずだろ!?
『虚無』。エクスプロージョン。デルフでも吸い込みきれな...
しかし才人は焦らなかった。『虚無』の詠唱は時間がかかる...
<オス・スーヌ・ウリュ・ル・ラド……>
才人は素早く無駄のない動きで、詠唱中のルイズの横をすり...
それこそ想いの限りをこめて抱きしめ、囁いた。
「聞いてくれ、ルイズ。……俺はお前が好きだ」
ルイズは顔を赤らめた。
「なな、なによ、いきなり……。そんなのでごまかされないんだ...
心なしか声に迫力がなくなった。それでも詠唱の声を止めよ...
<オス・スーヌ・ウリュ・ル・ラド……>
才人はなおも囁きかけた。
「好き。こんな気持ちルイズだけだよ。嘘じゃないって。ほん...
連射銃のごとく『好き』をつぶやいた。自分でも何言ってる...
ちらっと横目で盗み見ると、ルイズは湯気が立ちのぼりそう...
さらにたたみかけるべく、殊勝な顔で言った。
「さっきはごめんな、ルイズ」
「え?」
「俺、調子に乗りすぎたよ。ルイズがあんまり可愛かったから...
「あ、あ、謝ったってあんなこと……ぜぜ、ぜったい許さないん...
「もうしないよ。ルイズが嫌ならしない」
「あ……あたりまえでしょ。い、犬のくせに……何言ってんのよ……」
「うん。ごめん。でも」
才人はルイズの顎をつかまえると、その瞳をまっすぐにのぞ...
「俺、知ってるんだ……」
「な、なによぅ」
ルイズはなにやらかわいらしい声を出すと、頬を染めてはじ...
こんな感じのルイズ、前にも何度か見たことがある、
そうだ、ワルドやジュリオに口説かれている時だ。思い出し...
あの二人に比べれば、たしかに自分ははるかに及ばないかも...
だけど、と才人は首をふった。ルイズが想ってくれているの...
その自信が才人に勇気と力を与えた。
才人は完璧な仕事をやってのけた。最後の一言で、魔法少女...
「お前だって……、俺に惚れてるんだよな?」
才人は優しく微笑んだ。ルイズの胸がきゅんと鳴った。
「……ち、ちが……」
言おうとするルイズの唇を、才人はゆっくりとふさいだ。
しばらくそうやって触れ合うだけのキスをしたあと。ルイズ...
そして聞いてきた。
「わたしのこと……すき?」甘えるような声。
「うん」
「ほんとに……ほんとうに……すき?」
「うん、好き」
すると、とろんとした顔で目をつむったので、才人はふたた...
すぐにでも押し倒したかったけれど、そこは我慢した。今ま...
それに。
……ソレだけじゃないんだよな。才人はしみじみと思った。好...
そんなことを考えていたら、なんだかたまらなく愛しくなっ...
「ルイズ……大好き……ルイズ……」
もう一度ぎゅっと抱きしめた。
と、ある物が指に触れた。ルイズの頭の上だ。
ふわふわした柔らかい毛玉のようなもの。にぎるとふにふに...
……なんだこれ?
“それ”が何かを才人は思い出した。なるほど。だとすると……。
ルイズの背中に回していた手を、少しずつ下へとずらしてい...
ルイズの頭ごしに首をのばすと、スカートの後ろが大きくめ...
ごくりと唾を飲みこみ、才人は考えた。
さてどうしたものだろう。『少女(耳としっぽ付)とxxx...
困ったなぁ、と思いながら耳やしっぽとたわむれていると、
「……あ、あのね」
ルイズが恥ずかしげに口をひらいた。
「ご、ごめん。触られるの……嫌だった?」
「ううん」首をふる。「じゃなくて……あのね。貴族はね、一度...
また貴族か……。少しうんざりしていると、
「だから仕方なく……なんだからね? 本当はしたくないんだけ...
「はいはい、お前は立派な貴族だよ。だからなに?」
「だ、だから、だからね…………わん」
「……わん?」
「うん。わんっ!」
不意打ちのように、ルイズは才人にじゃれつくように飛びつ...
「わんわん」
……今日のルイズはご主人様の犬です。どうぞ可愛がっていた...
そんなふうに聞こえた。
参った。もうどうにでもしてくれ、と才人はつぶやいた。
#br
−11−
「待て、ルイズ、待てって!」
才人は悲鳴をあげた。ぐいぐいと引っ張られるズボンを懸命...
パーカーとシャツは胸のあたりまで引き上げられ、むき出し...
犬として振舞うルイズは、驚くほどに奔放だった。
(……今日のルイズはご主人様の犬です。どうぞ可愛がっていた...
うそつけ、どっちが犬だよ……。才人はつぶやいた。
哀れな瞳で、自分の手を見る。
その手首には鎖が……ルイズのものだった“首輪”の鎖がきつく...
「わん」
小悪魔のような笑みを浮かべると、ルイズは杖を一振りした...
その顔はこう言っていた。
(……この私にあんなコトやこんなコトして、ぜったい許さない...
はじまりは、ただのじゃれあいに過ぎなかった。
座りこんだ才人に、ルイズはまとわりつき、嬉しげに体をす...
そんな仕草に、なんだか本物の犬みたいだなぁなんて思いな...
ところが顔中をぺろぺろやりはじめたあたりで、雲行きが変...
甘いキャンディでも舐めるように、夢中で舌を這わせてくる...
「ル、ルイズ、くすぐったいよ、おい」
やんわり押しのけた。すると顔を上げて、ダメなの? とい...
なんだかもう『待て』を命じられてる飼い犬の気分だ。
鞭や『虚無』のような激痛はないけれど、辛いレベルはこっ...
体をむずむずさせていると、ルイズが心配そうにじっと顔を...
また顔を舐めてくるのかな? ルイズのぽってりした唇をみ...
それよりもあの唇にキスしたい。すっごくしたい。でも犬に...
ふと思いついて、ちろっと舌をつきだしてみた。誘うように...
すると使い魔、興味をしめしたみたいで、舌の先をなめてき...
つん。触れた瞬間、才人の背筋にぞくっと電流が走った。
腹の底からつきあげるような熱い衝動。
気づくとルイズの舌を強く吸い上げていた。
「ん……んっ……」
息苦しそうな声にようやく我にかえった。
力をゆるめて放してやると、ルイズの口からはぁっと吐息が...
目の前のルイズは、ワインに酔ったようなとろけきった表情...
ぼんやり思い出していると、ルイズは「くぅん」と切なげに...
不慣れでたどたどしくはあったけれど、いつも才人がしてい...
気がついて顔が赤らんだ。
これってOKってことだよな?
「……ルイズ」
唇をはなして、ルイズをみつめる。
はなれた唇をつなぐように、朝露の透明な糸がつうっと弧を...
頭がオーバーヒートした。
もう無理。死ぬ。たまらず襲いかかるようにのしかかった。...
「ルイズルイズルイズ!」
白いブラウスがはだけて、目の前いっぱいに平原……エデンの...
荒げた息のまま、才人は禁断の果実にむしゃぶりつこうとし...
ところがルイズはおそろしく敏捷な身軽さで身をかわすと、...
勢いのままシーツに叩きつけられる。さらにルイズに背中か...
「……うぎゅぅっ」
獲物を仕留めた雌ライオンのように、ルイズは才人の頭を押...
「へ……へめぇ……なにふる……」
「わん」
遊んでやがる、こいつ。
ふくれあがったこの“欲情”をどうしてくれるんだよ、おい!
「わんわん、わわん」
ご機嫌なルイズは、才人のパーカーごとシャツをめくりあげ...
そんな蚊に刺された程度の刺激でどーにかなるかよ、バカ犬...
「なっ、なめんなよ〜〜」
にらみつけ、体を反転し仰向けになった。鎖でしばられた手...
ここまでコケにされて黙ってられっかっての。なあ、ねーち...
股間のモノはすっかり準備万端なのだからして。
このコナマイキな雌犬に、男の恐ろしさってものを味あわせ...
「わん」
右手が動いた。
一振り。すると鎖は生き物のように形を変え、ヘビのように...
#br
−12−
ああ、こういうのってなんていうんだっけ。……SM?
……ちょっと違うか。そうでないと信じたい。
なんにしても、はたからみればすごい光景であることは間違...
両手首を鎖でひとつかみに拘束された男があお向けに寝転が...
獣の耳と尾をもつその少女は、波うつ桃色がかったブロンド...
じりじりと焦燥感に焼かれながら、才人は待った。
もう少し……もう少し……。
そしてその瞬間がきた。少女の頭にある“それ”すなわち“耳”...
才人は手首に鎖がくいこむのも気にせず、思いっきり首をの...
ひゃうん!
少女の体が大きくはねた。同時に胸のあたりに軽く焼けるよ...
上目づかいで、ルイズがじっとこっちを見ている。
頬はすっかり上気して、口を半開きに、はぁはぁと息を弾ま...
それはもはや“犬”でも“少女”でもない。匂いたつような、感...
「おいで……ルイズ」
優しい声で言う。舌をゆらして誘う。
迷う瞳。
「かわいがってあげるってゆってんの、ご主人様が」
ねだるような色が混じりはじめる。
そろそろとルイズは近づいてきた。感じやすい場所をさらけ...
生暖かいその場所にふぅっと息を吹きこんで、今度は舌先で...
弱く……強く……奥を探り、時には甘噛みをして、思考のすべて...
「んっ……んんっ……はぁっ……」
せきを切ったように、甘い声がルイズの唇からあふれだした。
その調べにあわせるように、身をよじり、細い腰をゆらす。
『だ、だから。耳とか勝手に触っちゃ……だだだダメなんだから...
恥らうように言ったルイズの顔。
クラスメイトに囲まれ怯えるルイズの顔。
フラッシュバックのように、次々と脳裏に浮かんでくる。
そして今ルイズがしているだろう顔。……俺だけのものだ。そ...
「……っ!?」
いきなり太ももの内を撫でられたような感触に、才人は体を...
ルイズが腰をゆらすたびに、その感触が戻ってくる。
やべ……。
しっぽ……ルイズのお尻から生えているふさふさの毛束が、才...
衝動をおさえるように、懸命に舌を動かした。そのたびに揺...
たまらなくなって、腰を浮かせてつよくルイズに押しつけた...
「あ……や……ぁッ」
驚いたルイズが逃げようとするのを、足を絡みつかせてがっ...
すりつけるように腰を動かすと少しずつルイズの太股が開い...
ルイズはといえば、ショックのせいか呆けたような表情をし...
それもそうだ。ずっと隣で寝ていた男の体がこんなふうだな...
もどかしさに狂いそうになりながら、才人は呼びかけた。
「ルイズ!」
遠くをみるような焦点の合わない瞳。
才人は手をがちゃがちゃいわせた。
「これ取ってくれよ。頼む」
ぼんやりと首を傾げてから、スローモーションのように首を...
そして無邪気な笑みを浮かべて「わん」と鳴いた。
この状況でまだ犬ごっこかよ。なりふりなんて構ってられな...
「ルイズぅ、ルイズちゃん。取ってくれないと、ご主人様、も...
「わん」
どこまでも“犬”で通すつもりらしい。なんて意地っ張りなん...
それとも……自己催眠にでもかかってしまったんだろうか? ...
そういえばどこか様子がおかしい気もする。
そんなふうに“心”がルイズを気づかう一方で、才人の“体”は...
ようやくショックから抜けだして、行為に馴染んできたらし...
拘束されて思い通りにならない体のまま、そんなあられもな...
「ほぅぁああああああああっ」
体中の血が沸騰しそうだ。ズボンははちきれんばかりに盛り...
まるで拷問だ。
「ルイズ、ルイズっ! ルイズ!」
つい声を荒げて叫ぶと、びくっとルイズは動きを止めた。
そして叱られた子犬のような瞳でじいっと才人の様子をうか...
な、なんだ? もしかして俺が怒っているとでも思ってんの...
「こらルイズ」
試しとばかりに厳しい顔を作って叱咤すると、ルイズはくぅ...
ルイズらしくもないもそんな弱気な仕草に、才人は突破口を...
思いつくまま言葉を並べたてる。
「お前、俺がなんで怒ってるかわかってんのか?」
ルイズは首をふる。
「お前な、また粗相しただろ。さっき着替えたばかりなのに、...
きょとんとした顔で、ルイズは膝立ちして下をのぞきこんだ。
すると大事なご主人様のお召し物が、自分のせいでぐっしょ...
うつむいたルイズの口もとがふにゃっとくずれて、瞳に涙が...
「よし、反省してるなら許してやるから。この鎖をだな……だぁ...
激痛が才人を襲った。
ルイズが渾身の力でズボンを脱がそうとしたからだ。
「待て、ルイズ、待てって!」
才人は悲鳴をあげた。ぐいぐいと引っ張られるズボンを体重...
これ以上、俺のせつない部分をいじめないでやってくれ!
「ボタン、ボタン! はずせって!」
必死にいいつのると、やっとわかってくれたのか、ルイズは...
アンロックの呪文。まさかこんな使い道があろうとは。
犬語ではない詠唱が終わると、ぷちんと勝手にボタンがはず...
その瞬間才人は限りない解放感を感じた。才人の男としての...
#br
−13−
才人の下半身を素っ裸にしたあと、ルイズはふらりと立ち上...
よろよろと足元を危なっかしくしているのは、足場がひどく...
あやつり人形のように手を泳がせて、ルイズは腰に手をやっ...
ふぁさりと音をたてて、スカートがすべりおちた。
次にシルクの下着に指をかけると、ためらうことなく足から...
すっかり湿って汚れてしまったそれを見つめて、ルイズは涙...
その姿はおねしょを見つかって叱られた子供のように頼りな...
「泣くなって……怒ってねーから」
溢れた蜜がひとすじ、ルイズの内ももを伝ってぬらした。そ...
『おいで、ルイズ。綺麗にしてやるから』
そんな台詞がよぎって、あわてて胸のうちに飲み込んだ。
いくら今のルイズ相手とはいえ、恥ずかしすぎる台詞だ。頭...
ああ、こんなときルイズが言ってたみたいなテレパシーが使...
「ルイズ……」
ルイズは、じっと何かを見つめていた。
下を向いて、不思議そうに目をみひらいて見つめている。
と、いきなり才人の体に馬のりになり、さらにじぃっと眺め...
目の前でふるふると揺れる物体に心を奪われたのだ。
それは才人の股間から天に向かって屹立していた。
才人は心の拳をふるわせた。
……こ、こンのバカ犬。
さっきの涙はなんだよ。てか空気読めよ。てか俺の独白を返...
「わん」
変なところで心を読んだかのように、ルイズは鳴いた。
そして目の前のグロテスクな腸詰のような物の先端に透明な...
「はうぁっ」
思わず声をあげてしまい、その不覚さに才人は奥歯をかみし...
とはいえここで止められたらそれこそ地獄なので、才人はで...
案の定、ルイズは嬉しそうにそれに飛びついた。口いっぱい...
まるで最高のオモチャを見つけたかのように、長いシッポが...
すると今までひっそりと隠されていた森の泉がしっぽの下か...
才人の顔からほんの数サントのところで、蜜はきらめきを放...
そして気まぐれな使い魔はといえば、そんな才人の苦しみな...
生き地獄だ……。才人は思った。
これなら鞭や『虚無』の方がどれだけマシかしれない。
夢なら覚めてくれ……。切実に祈った。
#br
−14−
サイト……サイト……。
自分を呼ぶ声に、才人は意識を取り戻した。
「もうサイトったら、いつまで寝てる気? そろそろ移動なん...
「……ああ?」
呆けたように辺りを見回す。
瓦礫となった家々。すぐ向こうにロマリア軍の兵士や、水精...
まだ日は高く、さして時間は過ぎていないようだった。
戦車を背もたれにして、才人はねむりこけていたのだった。
「うーん、たしか俺、地面に……」
ぼんやりとした頭をさする。すぐ横にルイズがいた。
「バカね。あんなとこにいられたら邪魔じゃない」
「そっか」
どうやらルイズが動かしてくれたらしい。
「ったく、あんたがちっとも起きないもんだから、ヒドい目に...
「なんだよ、ヒドい目って」
「あの話、みんなの前で説明させられたの。失礼だわ。あんな...
「あの話……って、お前が犬の格好してどうのってやつ?」
「決まってるでしょ。他に何があるっていうのよ」
「お、お前っ。話したのかよ。あれ。全部?」
夢うつつで見た妄想の場面の数々が思い出される。
とても人さまに明かせるようなシロモノではない。
「仕方ないじゃない。でないと、もっととんでもないことを想...
あれよりとんでもないって、どんなだよ!?
一人ツッコミ入れてから、才人はなんだか温度差があること...
話しているルイズは、格別照れているようでも怒っているよ...
「あーあのさ。それってどんな話だっけ」
「どんなって?」
「なんでだろ。思い出せないんだよな」
「これあんたの記憶よ? 思い出せないなんてヘンじゃない」
「仕方ないだろ、実際そうなんだから」
んー、としばらく考えてから、ルイズは口を開いた。
「ほら、前に私の部屋で話したの覚えてない? 黒猫の……その…...
「アルビオンのか?」
黒猫の衣装。アルビオンの宿でルイズが着ていたやつ。
妖精亭のみんながいたりで一瞬しか拝めなかったけど、よか...
ルイズ、また着てくんないかな、と才人は内心やにさがった。
「そうよ。そのことであんた聞いたじゃない。なんで猫なんだ...
「あー!」
才人はぽんと膝を打った。
記憶がよみがえった。まったく予想していない方向の“記憶”...
「そうだ。で、俺が絵を描いたんだよな。でっかい犬の着ぐる...
急におかしくなって腹を抱えて笑い転げていたら、ルイズに...
「あんたのお陰でいい笑い者よ、ふんとにっ!」
ぷりぷり怒っている。
「いいじゃねーか、それぐらい。あいつらだってしんどい目に...
「なんで私がそんなことまで」
「命張って守ったってのにこれだもんな。浮かばれないよなー...
ちょっぴり逞しくなったように見える我が友らの姿を、才人...
「ねえ、サイト」
「あん?」
「あんた、ちょっと部下の指導がなってないわよ」
「そーか? たしかに弱っちいけど、だいぶマシになったと思...
「戦いはいいのよ、戦いは。問題は精神的な部分よ。まだ戦地...
「いっ!?」
「しかもね、みんなが言うには、副隊長はお酒が入ると、さら...
「はは、まさか、そんなわけないって、そうだ、ルイズ、みん...
じりじりと才人は後じさった。いい加減この展開は卒業でき...
大勢の前で『好き』って告白までさせられて、この扱いはな...
けれど、いくら待っても拳も蹴りも飛んではこなかった。
代わりに、ルイズは才人の首に手を回した。
「男の子だもの。少しは許すわ。でも」
頭を引き寄せると、そっと唇を重ねた。
「私以外を相手にそゆこと考えたら、ぜったいに許さないんだ...
〜 FIN 〜
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