ゼロの使い魔保管庫
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運命の翌日
父たる公爵が竜籠に乗って帰宅し、朝食に家族のみでバルコニ...
そして、才人は朝食も提供されず、ルイズの背後で使い魔とし...
今日は早朝にカトレアの部屋に行って、二人が寝てる間にデル...
既に才人の異変を察知した三人姉妹は、気が気でない
この男は、一触即発の爆弾である
最も、そんな状態なのに、公爵夫妻は涼しい顔をしている
「懐かしいな。戦場の気配だな。なぁカリーヌ」
「そうですわね、あなた」
やはりこの二人には、この程度は想定内なのだろう
ジェロームですら、気配に息を飲んでいる
才人には努めて近付かず、丁寧に給仕を心掛ける
戦場の気配を叩き出してるのは、ルイズの使い魔なのである
「あの、お父さま。お願いがございます」
「お父様、私も話が」
「おや、何だ今日は二人して。先ずは、ただいまの挨拶をして...
そう言ったモノクルを掛けた白髪の初老の男に、二人して頬に...
「で、どちらから聞こうかの?」
「では、あたしからお願いします」
ルイズが力説し、公爵が頷く
「言ってみなさい」
「は、はい。私、陛下に必要と言われました。出兵の許可を下...
肉を切り分けて口に運んでたヴァリエール公爵が、ぴたりと止...
「馬鹿を言っちゃいけない。戦場は女が出て良い場所じゃない...
カリーヌが頷く
「なら、何でお母さまは軍人だったのですか?お母さまは良く...
「それは、魔法の実力が天地の差が有るからで……ルイズ、とう...
ヴァリエール公爵が眼を光らせて聞く
その瞳は鋭く、全ての嘘を見抜くと伝えている
ルイズは力強く頷いた
「そうか、おめでとうルイズ。では大事な質問だ。良いかい?...
「はい」
「……そうか、名誉な事だ。非常に名誉な事だ。だが、もう一つ...
ルイズは唇を噛み締め、決意して言い放った
「火です」
ヴァリエール公爵の顔は優れない
「そうか……火か。お祖父様と同じ系統か。罪深い、非常に罪深...
一度言葉を区切り、ヴァリエール公爵は首を振る
「だが駄目だ。私の小さいルイズを戦に出す訳には行かぬ。ル...
「!?」
目が大きく見開かれ、ルイズは声が出ない
「戦に行こうなどと言うのも、結婚すれば変わるだろう。それ...
「かしこまりました」
そう言って、ジェロームがルイズを連れて行こうと手を触れよ...
「何の真似だ?」
ジェロームが辛うじてそう言うと
「何の真似?使い魔の仕事してるだけだぜ、俺は。俺の仕事は...
「ジェローム、良いから連れて行け」
「は、しかし」
ジェロームは冷や汗を垂らし、動けない
ヒュン、チン
辺りに霧を撒き散らしながら才人は村雨を収め、ジェロームは...
「ふん、やはり貴族には逆らえぬか。無駄な事をしおって」
「そんな、サイトやっぱり…」
ジェロームが吐き捨て、ルイズが落胆した途端
ブツ
ジェロームのネクタイが跳び
ブツ
上着のボタン事、生地が落ち
ブツ
ベルトが切れ、ズボンがずり落ちる
「お、おわぁ!?」
「次は、首を知らない内に落としてやる。嫌ならメイド事失せ...
才人の威嚇に堪らず、とうとう使用人達が大挙して逃げ出した
バルコニーに残ったのは、ヴァリエール一族と才人のみで有り...
カトレアは放心し、ルイズはおろおろ、エレオノールは自身の...
「何をしたか解っておるのか?使い魔」
「あ?早く次の連中呼んだらどうだ?全員遺書書かせて来い」
「つまり、次からは威嚇無しか?」
「そうだ」
「全滅すると解ってて呼べるか、戯け」
才人は完全に敵対する路を選んだらしい
『平民、ルイズにかこつけて意趣返ししている。マズイマズイ...
余りに無力。才人が本気なら、瞬きの一瞬で父の首が跳ね飛ぶ
動きを見せたら、其がスイッチになりかねない
絶大な精神の過負荷に大量の汗をかき、呼吸も瞬きもきちんと...
「とりあえず飯食ったらどうだ?話が進まないだろ?」
才人がそう言った先には、シエスタがヴァリエール一家に新し...
才人の一言で夫人が促し、食事を再開する
「良く味わいなさい」「は、はい」
ルイズには味が全く解らない状態で、何を食べたかも解らない
それ位、背後の才人が怖かった
今の才人は、ヴァリエールに対する怒りで満ちている
その対象に自分も含まれている
何故、才人を敵に回したキュルケやタバサが腰を抜かしたか、...
カトレアは味わった事の無い、自身も対象のプレッシャーで、...
此処まであからさまな敵意は、両親以外は初めて味わった
それ位、今迄ヴァリエールの名に甘えていたのである
皆の食事が終わり、食後のお茶がシエスタにより提供され、ヴ...
やはり、胆力は娘達の比ではない
「そろそろ良かろう。要求は何だ?」
「ルイズの行動の自由。使い魔としては譲れんね」
「ふん、貴様に責任取れるのか?」
「何で使い魔が主人の責任取らなきゃならないんだよ?逆だろ...
確かにそうである
使い魔の主人が使い魔に対して責任を持つのであって、逆では...
「ふん、確かにそうだな。だが、貴様の行動をルイズが責任を...
「別に責任なんざ取らなくたって構わねぇよ。俺は俺の責任で...
「甘い事だな、使い魔」
「女には甘いのよ、俺」
「他には無いのか?」才人は少し考え、聞く事にした
「何処まで情報を集めた?」
「グラモン、モンモランシ、トリスタニア、ラ=ロシェールは...
「…お願いしようかと思ってたが気が変わった。ゼロ機関の活動...
「ほぅ、硝子職人が欲しいと聞いて来たが良いのか?」
「要らねぇよ。トリスタニアの職人に頼むわ」
才人からの不干渉決別宣言
流石にエレオノールが立ち上がり、才人に抗議をする
「ちょっと平民待ちなさい!あんた、ヴァリエールを除け者に...
「違うね。除け者にするんじゃない。自ら距離を取りたいと言...
その言葉に娘達が父に注目し、父は紅茶を優雅に飲んでいる
「第一俺はまだ親父相手には自己紹介してない。なのにきちん...
「えっと、どういう事なの?サイト」
ルイズの問いに
「一言で言ってしまえば、平民風情が気に食わない。じゃねぇ...
「その通りだ。貴族の伝統に、平民は出しゃばる必要は無い」
ヴァリエール公爵の言葉に、才人も吐き捨てた
「此方も願い下げだ、馬鹿野郎。秘書、不干渉契約を作る。今...
「な、こんな事に契約なんて」
「良いからやれ。一応此方は姫様直属だ。王命に協力しない場...
「……解ったわよ」
エレオノールが立ち上がり、紙を取りに部屋に去っていく
才人はヴァリエール公を睨み付けるが、ヴァリエール公は涼し...
「サイト、お願い、ヴァリエールに」
「本人が拒否した。歩み寄りの余地は無い。諦めろ、ルイズ」
仕事上の交渉とは非情なものだ
そもそも女王直属とはいえ、何処かで必ず、貴族の平民への反...
それが今なだけである
「ヴァリエールが反発すりゃ、女王批判派を糾合出来るな。そ...
「平民が余計な事を考えるな」
「ふん。宮廷政治にゃ興味ねぇ。勝手にやってくれ、ヴァリエ...
「余計な詮索だ。貴様は貴様の仕事をするんだな」
ガチャ
バルコニーの窓を開けてエレオノールが入って来る
「用意したわ、紙とペン」
「じゃ、口頭で伝えるから書いてくれ」
エレオノールは既に準備している
「一、ヴァリエール公爵は、王直属のゼロ機関に協力しない」
「一、ヴァリエール公爵はゼロ機関が生産する、如何なる物品...
「一、ヴァリエール公爵は、ゼロ機関の製作に必要な人員を、...
「一、ゼロ機関に協力してる、他の貴族平民との取引は自由」
「一、双方合意の元、ゼロ機関とヴァリエール公爵は、この契...
エレオノールが書いていき、真っ青になる
「平民、止めて!」
「駄目だ。ヴァリエール公、追加文面が有れば言ってくれ」
「ふむ……いきなりで中々の契約書を作るな……特に無い。ルイズ...
「今は学生だし無関係だ。実際に仕事は一つもやらせてない。...
「その時は、ヴァリエールに列なる者になって構わぬな?」
「好きにしろ」
「ではルイズは此方側だ。一つもやらせるな。エレオノールは...
「お互い妥協点が見えたな。サインを」
才人に関係する娘達の立ち位置が二人に定まり、才人がサイン...
「お願い……」
「駄目だ。解ってるだろう?だから駄目だ」
「だからよ!!こんな事で……こんな事で……!!お願い、もっと真面...
エレオノールの耳元に口を近付けて囁き、するとエレオノール...
「信じるわよ」
「父親の方をな」
エレオノールが、キッと父に振り向き宣言する
「父様、敵対に近い状態になります。どうかお覚悟を」
「要らぬ世話だ。精々揉まれて来い」
「はい」
エレオノールは毅然と立ち、自身の立ち位置を確認する
「馴れ合いと謗られたら、ヴァリエールの名折れ。今回が最後...
そうしてぺこりと頭を下げる
「…解った。必要な物が有れば、今の内に準備するんだな」
「はい」
余りに慈悲と友好、家族の絆とは無縁な決別の交渉を見て、ル...
「ねぇ、お父さま、考え直して下さい。姉さま、出ていくって...
「ねぇ、だから考え直して……こんなの、こんなのって無いよ。...
カトレアは、困った様に首を振る
「私にも、今の交渉が解らないの」
ならば
「お母さま!」
後は、最後の砦たる母である
「貴女のお父様は鬼謀の人です。お父様を信じなさい」
何十年と連れ添った者への信頼に揺るがない
だが、それでは、ルイズは解らない
「解らない解らない解らない!こんなの嫌よ!!絶対に間違って...
既にシエスタが食器を片付けたテーブルに突っ伏し、泣き出す...
才人はそんなルイズを見て
「ルイズ、俺さ、朝飯も食えてないんだけど。きちんとやって...
ピシッ
ルイズが固まる
「…私の名誉の為に言っておくが、使い魔の飯を抜けなどと、こ...
ピシシッ
ルイズは顔を上げられない
「じゃあ、俺が空きっ腹で頭にきてんのは」
「…我が末娘のせいだな」
ピシシシッ
ルイズは突っ伏したまま、流すものを涙から汗に切り替える
つまり、全員ヴァリエール公爵が決裂に仕向ける為に、仕込み...
「いきなり驚いたぞ。初対面で殺気出されまくっててな」
「……申し訳ない。もしかして、協力も視野に入ってた?」
「無論だ。商売のネタは、多い方が良いからな」
「つまり、今回の決裂は……」
「……我が末娘のせいだな」
ピシシシシッ
ダッシュで逃げようとしたルイズは、母のレビテーションで取...
そんな様をシエスタを含めて、皆で生暖かい眼差しで眺め
「……やっぱり譲るわ。塔でもなんでも幽閉して良いや」
「…今更迷惑だ。きちんと引き取れ」
「…再交渉すっか?」
「…吐いた唾は飲めるか?使い魔」
「…無理」
二人は暫く顔を合わせた後
「「はぁ〜〜〜」」
深い深い溜め息を付き、決裂の成果を叩き出した元凶を見据え
「ごめんなさいルイズ。私も、ちょおっとフォロー出来ないわ」
カトレアがそう言ってニコニコ笑い、エレオノールが怒気で魔...
「ル〜イ〜ズ〜!このちびルイズ!!こんのおちび!!あんたのせ...
「ほ、ほへんなひゃい、ほへんなひゃい、ほへんなひゃい〜〜」
ゼロ機関とヴァリエール公爵との交渉
ルイズのおかげで 決 裂
* * *
「あ〜糞、どうすんだよ?この契約」
才人は契約書を見て唸っている
「やっちゃったもんは仕方ないじゃない。お父様も大丈夫って...
「ったく、親馬鹿で助かるわ。エレオノールさんの為に、汚れ...
「きちんと成果出したら、さっさと再交渉するわよ」
「…全くだ」
今、二人はエレオノールの部屋である
ルイズは母親に取っ捕まって、長い長い説教の最中だ
「反対派の旗振りやってくれるから、大部助かるわ」
「最初耳打ちされた時は驚いたわよ。お父様が反対派をコント...
「実際そいつも親父さんの想定に入ってたろ?」
「…ふぅ、平民とお父様だけだと、とんとん拍子で話が進むんだ...
「いや、マジ勝てねぇ。あれが年の功って奴だな」
「かえすがえすもちびルイズのせいで……あ〜腹立つ。私、暫く...
「俺も悪かったかなぁと、思わなくもない」そう言って、腹を...
「しょうがないじゃない。私でも、何食か抜かれた上に高圧的...
そう言ったエレオノールは、才人の唇を啄んだ
既に下半身は繋がっている
なんせ、ツェルプストーに行ったら、エレオノールの行動は制...
今の内に、情をたっぷり補給である
「ね、そろそろ本気で」
「あぁ」
才人が上に乗ってたエレオノールを抱えて、わざと手荒にくる...
「乱暴者」
口ではそう言って抗議するが、エレオノールは自身が一番嫌い...
ぬぷぷぷ
「うぉ」
「ひぃ……んん〜〜」
パン
「あひっ」
パン
「ひっ」
パン
「ひっいっ」
語尾が跳ね上がり、そのまま痙攣し、才人の息子を強烈に吸引...
「出る……」
「あ……来てる……堪らない……もっとぉ」
「いや、ちょっと勘弁。カトレアさんがまだ講習したいって」
「……もぅ」
にゅぽん
音を立てて逸物が引き抜かれ、エレオノールが不満気に呟く
すっかり貪欲なエレオノールに、才人は引き気味だ
「あんまり此処でやると、親父さんがおっかなそうだ」
「ふん、決闘位しなさい」
私の為にという言葉は飲み込み、エレオノールは才人を見据える
才人が不満足なエレオノールの服を取って、下着から何から着...
貴族だからではなく、才人だからやらせている
「さてと、じゃあ、行こうか」
「…ん」
エレオノールは腕を才人に絡め、二人して部屋を出ると、カト...
「あれ?カトレアさん」
「あら、どうしたの?カトレア。今から行く所だったのよ」
ごく自然に才人に腕を絡めてるエレオノールを見て、カトレア...
「入ろうとしたのですけど、入れなかったんです。凄い強力な...
「…そう」
エレオノールが少々気まずそうだ
「私、姉様に聞きたい事がありまして、それで参ったのですが」
「何?」
エレオノールが返事をすると、カトレアが微笑みながら
パーン!!
盛大な音を立てて、エレオノールの頬に手形が残る
いきなり叩かれたエレオノールは、呆然としている
「良く解らないのですが、もの凄く叩きたくなりましたの。何...
「い……いきなり何すんのよ?」
パン
更に逆方向に叩かれ、エレオノールはいきなりのカトレアの叩...
「何かこう、ドロドロしたものが渦巻いて、姉様の立場が、何...
コップに張力一杯迄張った水にコインが投じられた
コインの名称は、多分黒髪の使い魔だ
「…八つ当たり?だったら、たまには受けて上げるわ。カトレア...
そう言って、エレオノールはカトレアを睨む
「そうですわね…まだ有るのですが」
「…何よ?」
「何時まで腕を組んでるんですの?才人殿は、これから私の所...
「……へぇ」
カトレアの感情剥き出しの様に、エレオノールがつい笑みを浮...
「良かった。カトレアは笑ってばっかで、てっきり感情無くし...
「私が笑顔じゃないのは、意外ですか?」
「もう意外も意外。面白いモノ見れちゃった」
「それもこれも、私に仕事と欲をお裾分けして下さった、姉様...
姉妹の睨み合いに才人は身震いする
「流石ヴァリエール。睨み合いも怖ぇ」
ついついおどけてみせるが
「何言ってるのよ、平民。さっきの朝食の席は、処刑台に載せ...
「……心臓が止まるかと思いましたわ」
二人に言い返され、才人はどもる
「あぁまぁ、あれは……ね。何時もは、あそこ迄キレないからな...
そう言って、廊下を歩いて行くと
ガシリと後ろから、誰かに才人の肩を掴まれた
才人は振り向くと、さぁっと青醒める
今一番会いたくない人、ヴァリエール公爵その人だ
「…随分と我が娘と仲良さそうだな、平民」
「…お陰様で」
「うむ。突然気が変わる事は、結構有るとは思わないかね?ん...
「…えぇ、そうですね」
「陛下の臣下だから、平民とて一応は気を使おうかと思ってた...
汚物を見る目で才人を見るヴァリエール公
「…辞退申し上げる」
「ならば、実力で押し通せ」
くいって顎をしゃくり、付いて来いと踵を返したヴァリエール公
「逃げっかな……」
そう言った才人の脇をエレオノールががしりと抱え込み、眼を...
「行きなさい平民!あんたの実力を、今こそ示すのよ!」
「私も、お父様の本気や、才人殿の実力を見たいですわね」
母の圧倒的な折檻には覚えがある娘達だが、娘の為には修羅と...
あの母が自身以上の使い手と評する父の実力は、謎なのだ
こうして、才人は引きずられて行き、決闘の現場たる室内演習...
* * *
「…どうしてこうなった?」
「そりゃ、おめぇ、手当たり次第に食ったらそうならぁな」
演習場に立っている才人が落ち込みながら顔を上げて嘆くと、...
正面のヴァリエール公爵は無表情に立っている
怒りを魔力に転化してるのだろう
「デルフから見てどうだ?」
「解らん」
「はっ?」
「魔力が漏れてねぇ。ここ迄完璧に制御出来るメイジなんざ、...
「おいおい、って事は?」
「精神力が異常なタイプだ。今迄の魔力ごり押しとは、訳が違...
才人は顔を引き締める
「こいつがメイジエリートのヴァリエール公爵か……」
「気を付けろ。今迄のメイジ相手とは違うぜ」
そう、あの虚無のルイズや桁違いの魔力を誇るエレオノールの...
普通であるのはおかしいと見るべきだろう
そんな二人を見て、妻たるカリーヌが笑っている
「あらあら、あの人ったら本気だわ。あの平民も気の毒に」
そんなカリーヌは、杖を二振り手に持っている
ルイズとエレオノールの杖だ
二人の様子を見た瞬間に母の勘で気付き、有無を言わさず取り...
「貴女達の杖は取り上げます。水を差しかねないわ」
母に逆らえない二人は、大人しく取られた
キュルケとタバサは面白そうに見ている
タバサは無表情だが、キュルケにはきちんと気付いていて、興...
「へぇ、まさか父様に聞いたヴァリエール公爵のブレイド捌き...
勿論、才人の勝ちにベットしての発言である
「そろそろ様子見は良いか?平民」
「…どうぞ。やりたくないけど」
そう言った瞬間、空中に一気に水分が凝結し、氷の矢が出来、...
ヒュヒュヒュヒュ
才人はノーモーションで繰り出されたウィンディアイシクルに...
「詠唱すら解らん、準備から行使迄のラグがねぇ!?」
「なんつう使い手だ。水か?風か?」
才人もデルフも驚きつつ、其でも間合いを詰める為にかわしつ...
「外の堀から引っ張って来やがった。相棒、水だ!」
「やり易い……とは思えねぇ!!」
ヴァリエール公がそのままウォーターウィップを打ち据えると...
ダァン!!
「ゴフッ!?」
「相棒、なんでかわさねぇ?」
「…馬鹿野郎、鞭の先端は音速越えんだ!…そう簡単にかわせる...
ジャケットのお陰で、酷いダメージではない
口の中の血をペッと吐き捨て、才人は睨み据える
「戦場なら刃にするんだが、一応手加減はしておいた」
「そりゃ、どうも」
事実だろう
水の高圧化の破壊力を知ってる現代人の才人には、ヴァリエー...
「ちょっと、何よこれ?ダーリンが苦戦?」
キュルケが呆気に取られている
元素の兄弟との決闘紛いの苦戦時でも、常に勝つ予感はあった
今は、感じない
それ程に、魔法一つ一つの練り上げが半端ではない
ダン
才人の脚が地面を蹴り、一気に加速して迫る所を、また水の鞭...
だが、今度は才人はきちんと対応し、デルフを絡み付かせて跳...
だが、ヴァリエール公は跳んだ才人を見た時には、 もう一振...
「杖が……二振り!?」
「嘘だろ?冗談じゃねぇ!?」
受け流された才人がよろけ、その隙をヴァリエールが斬りかか...
ガキィ!!
余りに硬い衝突音は、水にそれだけ圧力がかかり、非常に硬い...
才人には、それだけで冷や汗ものだ
「ほぅ、俺のブレイドを受け止める剣とはな。中々の業物だ」
「…あんたのブレイド、固体全部切り裂くだろ?」
「良く解るな、その通りだ。だから不思議だ」
ババッ
二人して距離を取り、才人もヴァリエール公も汗を垂らしている
「その霧、水に見えるが、水ではないな。そちらのインテリジ...
才人はその言葉に愕然とし、立ち尽くす
「何惚けてんだ、相棒!早く俺を拾いやがれ!!」
デルフがカタカタ震えて主張し、才人が気付いた時には遅かった
ヴァリエール公は片方の杖でフライを唱えながら、もう片方の...
「……嘘でしょ?」
キュルケやタバサはおろか、エレオノール達すら驚愕に声が出...
二つの杖と契約自体異例も異例、到底出来る芸当ではない
なのに、目の前のヴァリエール公はそれが出来ている
しかも、並の使い手では絶対に叶わない、フライ中の詠唱すら...
正に器用さと精神力による制御の極致
魔力ばかりが注目されるメイジ達にとって、到達出来うるもう...
才人を越える機動力に空中と地面を縦横に使い、才人目掛けて...
ドスドスドスドス
地面に鞭の尖端が次々に突き刺さり、才人はかわしながらデル...
「悲惨だ畜生!機動性で完全に上回れた!!殺られる!!」
「対空手段ねぇのか?相棒」
「跳んだ瞬間狙い撃ちだ、馬鹿」
ガンダールヴの武器が完全に殺され、天井すれすれを馬と同等...
ドドドドドッ
「だぁ!?洒落になんねぇ!?」
一方的な展開になる中、才人は村雨を地面に刺すと左手を後ろ...
「全開防御」
「おうさ!!」
デルフが全力で魔法を吸い込み、才人が位置を替えるヴァリエ...
「平賀選手、第一球を、投げたぁ!!」
ぶん
唸りを上げて、擲弾がガンダールヴの力でヴァリエール公正面...
本来の擲弾の使い方だ
ヴァリエール公は咄嗟にウォーターウィップを纏めて擲弾を水...
バン!!
水の鞭を巻き添えに擲弾が炸裂し、ヴァリエール公の胆が冷える
「水のお陰で助かっ……何!?」
すかさずデルフが投げられ、首を傾げたヴァリエール公の頬を...
ギィン!!
ヴァリエール公は両手の杖で受け止め、才人の体重と衝撃を受...
ダダァン
墜落したとは言ってもフライを切ってた訳ではないので、二人...
「…本当に年寄りかよ?」
「まだまだ若いもんには負けん」
才人の実力を知る者は、ヴァリエール公の実力に驚愕し、ヴァ...
「お父さま……強い」
「嘘……何で杖が二振り使えるの?フライと同時詠唱って、どれ...
ルイズとエレオノールが驚愕し、自身の父が実力でもトリステ...
「あらあら、まぁまぁ。お父様も才人殿も、非常に強いんです...
「…タバサ、フライ中に詠唱出来る?」
キュルケの問いにタバサは首を振り
「杖二本と契約は?」
「…無理」
「…何でツェルプストーがヴァリエールを倒せないか、良く解っ...
キュルケは、目の前のヴァリエール公爵がどんな者なのかを確...
ダン!
才人の踏み込む音に斬撃が重なり、ヴァリエール公は目視して...
「ガハッ」
「馬鹿め!」
脳が揺さぶられたが、痛みは無視出来る
才人はそのまま突いた左手を掴んで一本背負いをヴァリエール...
ダァン
「グッハッ」
だが、投げた途端に才人もたたらを踏んで、よろけて転ぶ
「ゼッゼッ」
肩で息をした二人が立ち上がり、お互いを睨む
「まさか、メイジが二刀流すっとはな。しかもその動き、舞姫...
「ふん、少し噛じっただけだ」
才人は呼吸を整えながら歩き、地面に落ちてたデルフを拾い、...
「オーラスね」
カリーヌがそう言って、他の者達はごくりと固唾を飲んで見守る
どちらが勝つか
どちらが負けるか
果たして、才人は奥の手を使うか?
そして、終わった時に、双方に命は有るのだろうか?
「ラグース・ウォータル・イス・イーサ・ウィンデ」
此処で何故かヴァリエール公が朗々と詠唱を聴かせ、才人がき...
「何故?」
だが、考える間もなく、氷の矢が襲い掛かり、才人は斬り結び...
「詰みだ、平民」
「不味い、後ろだ!!」
ドスドスドスドス
デルフは才人の身体のせいで死角になって気付かず、先程のウ...
そのまま前のめりに、才人は眼の光を失って倒れ込んだ
ドスン
才人が倒れた時には、氷の矢は全て形を失い、水に戻っている
そのまま、ヴァリエール公がブレイドを展開した杖を持ち上げ
「ではさらばだ、無礼者」
決闘である
しかも、ヴァリエール公は古い貴族
決闘には生死が付き纏う
タバサとキュルケは悲痛な面持ちで最後を見据えるべく凝視し
ルイズは思わず杖を抜いて唱え様として
「エオルー……あ」
自身の杖が取り上げられてた事に気付き
その視界に、金髪の背中が走って行くのが見えた
そして振り降ろされるブレイドに身を呈して才人に重なる一人...
「…退け、エレオノール」
エレオノールは涙を溜めて首を振って、そのまま覆い被さって...
「嫌です。平民を殺すなら、私共々お願いします、お父様」
「退け、お前が居れば、陛下の仕事に遅滞は無いのであろう?...
其でも、エレオノールは覆い被さって動かない
ルイズは、動き出すタイミングを見失ってしまった
「嫌です。私はもう、ゼロ機関の秘書です。この男に……私の人...
キッと父を睨み付けて、敵として実の父を見据えるエレオノール
「退け」
「嫌です!」
「退けと言うのに」
「嫌です!嫌々いやイヤ!平民殺すなら私も殺して!!お願い!!」
「だから退けと言っておる!!」
ヴァリエール公の苛立ちを含んだ声に、カリーヌが笑っている
「フッフフ」
母の笑顔に娘達が驚きの眼を向け
「エレオノール、お退きなさい。早くしないと、平民が失血死...
そう言って、レビテーションで無理矢理エレオノールを退かせ...
「あなた」
「…非常に不愉快だ」
そう言いながら治癒の詠唱をして、才人の傷を塞いでいくヴァ...
「お父様?」
浮いた状態から降ろされ、ヴァリエール公の行為にポカンとし...
「お前の所長だろう。後はお前がやれ」
「は、はいっ!!」
エレオノールが直立不動で返事をし、ヴァリエール公はカリー...
「何だったの?あれ?」
キュルケ達が急展開に付いていけず、ぽつりと呟くと
「やっぱり、何か黒い感情が沸きますわ。お父様ったら、本当...
そう言って、笑顔のままカトレアが怒っている
「あぁ!!つまりそういう事かぁ!うんうん」
キュルケが今の発言でやっと納得し、しきりに頷いている
「えっと、どういう事?」
ルイズがやっぱりキョトンと周りを見回すが、ルイズの問いに...
全員が全員、思い思いの感情を持ちつつ、決闘は才人の敗北で...
* * *
終了行:
運命の翌日
父たる公爵が竜籠に乗って帰宅し、朝食に家族のみでバルコニ...
そして、才人は朝食も提供されず、ルイズの背後で使い魔とし...
今日は早朝にカトレアの部屋に行って、二人が寝てる間にデル...
既に才人の異変を察知した三人姉妹は、気が気でない
この男は、一触即発の爆弾である
最も、そんな状態なのに、公爵夫妻は涼しい顔をしている
「懐かしいな。戦場の気配だな。なぁカリーヌ」
「そうですわね、あなた」
やはりこの二人には、この程度は想定内なのだろう
ジェロームですら、気配に息を飲んでいる
才人には努めて近付かず、丁寧に給仕を心掛ける
戦場の気配を叩き出してるのは、ルイズの使い魔なのである
「あの、お父さま。お願いがございます」
「お父様、私も話が」
「おや、何だ今日は二人して。先ずは、ただいまの挨拶をして...
そう言ったモノクルを掛けた白髪の初老の男に、二人して頬に...
「で、どちらから聞こうかの?」
「では、あたしからお願いします」
ルイズが力説し、公爵が頷く
「言ってみなさい」
「は、はい。私、陛下に必要と言われました。出兵の許可を下...
肉を切り分けて口に運んでたヴァリエール公爵が、ぴたりと止...
「馬鹿を言っちゃいけない。戦場は女が出て良い場所じゃない...
カリーヌが頷く
「なら、何でお母さまは軍人だったのですか?お母さまは良く...
「それは、魔法の実力が天地の差が有るからで……ルイズ、とう...
ヴァリエール公爵が眼を光らせて聞く
その瞳は鋭く、全ての嘘を見抜くと伝えている
ルイズは力強く頷いた
「そうか、おめでとうルイズ。では大事な質問だ。良いかい?...
「はい」
「……そうか、名誉な事だ。非常に名誉な事だ。だが、もう一つ...
ルイズは唇を噛み締め、決意して言い放った
「火です」
ヴァリエール公爵の顔は優れない
「そうか……火か。お祖父様と同じ系統か。罪深い、非常に罪深...
一度言葉を区切り、ヴァリエール公爵は首を振る
「だが駄目だ。私の小さいルイズを戦に出す訳には行かぬ。ル...
「!?」
目が大きく見開かれ、ルイズは声が出ない
「戦に行こうなどと言うのも、結婚すれば変わるだろう。それ...
「かしこまりました」
そう言って、ジェロームがルイズを連れて行こうと手を触れよ...
「何の真似だ?」
ジェロームが辛うじてそう言うと
「何の真似?使い魔の仕事してるだけだぜ、俺は。俺の仕事は...
「ジェローム、良いから連れて行け」
「は、しかし」
ジェロームは冷や汗を垂らし、動けない
ヒュン、チン
辺りに霧を撒き散らしながら才人は村雨を収め、ジェロームは...
「ふん、やはり貴族には逆らえぬか。無駄な事をしおって」
「そんな、サイトやっぱり…」
ジェロームが吐き捨て、ルイズが落胆した途端
ブツ
ジェロームのネクタイが跳び
ブツ
上着のボタン事、生地が落ち
ブツ
ベルトが切れ、ズボンがずり落ちる
「お、おわぁ!?」
「次は、首を知らない内に落としてやる。嫌ならメイド事失せ...
才人の威嚇に堪らず、とうとう使用人達が大挙して逃げ出した
バルコニーに残ったのは、ヴァリエール一族と才人のみで有り...
カトレアは放心し、ルイズはおろおろ、エレオノールは自身の...
「何をしたか解っておるのか?使い魔」
「あ?早く次の連中呼んだらどうだ?全員遺書書かせて来い」
「つまり、次からは威嚇無しか?」
「そうだ」
「全滅すると解ってて呼べるか、戯け」
才人は完全に敵対する路を選んだらしい
『平民、ルイズにかこつけて意趣返ししている。マズイマズイ...
余りに無力。才人が本気なら、瞬きの一瞬で父の首が跳ね飛ぶ
動きを見せたら、其がスイッチになりかねない
絶大な精神の過負荷に大量の汗をかき、呼吸も瞬きもきちんと...
「とりあえず飯食ったらどうだ?話が進まないだろ?」
才人がそう言った先には、シエスタがヴァリエール一家に新し...
才人の一言で夫人が促し、食事を再開する
「良く味わいなさい」「は、はい」
ルイズには味が全く解らない状態で、何を食べたかも解らない
それ位、背後の才人が怖かった
今の才人は、ヴァリエールに対する怒りで満ちている
その対象に自分も含まれている
何故、才人を敵に回したキュルケやタバサが腰を抜かしたか、...
カトレアは味わった事の無い、自身も対象のプレッシャーで、...
此処まであからさまな敵意は、両親以外は初めて味わった
それ位、今迄ヴァリエールの名に甘えていたのである
皆の食事が終わり、食後のお茶がシエスタにより提供され、ヴ...
やはり、胆力は娘達の比ではない
「そろそろ良かろう。要求は何だ?」
「ルイズの行動の自由。使い魔としては譲れんね」
「ふん、貴様に責任取れるのか?」
「何で使い魔が主人の責任取らなきゃならないんだよ?逆だろ...
確かにそうである
使い魔の主人が使い魔に対して責任を持つのであって、逆では...
「ふん、確かにそうだな。だが、貴様の行動をルイズが責任を...
「別に責任なんざ取らなくたって構わねぇよ。俺は俺の責任で...
「甘い事だな、使い魔」
「女には甘いのよ、俺」
「他には無いのか?」才人は少し考え、聞く事にした
「何処まで情報を集めた?」
「グラモン、モンモランシ、トリスタニア、ラ=ロシェールは...
「…お願いしようかと思ってたが気が変わった。ゼロ機関の活動...
「ほぅ、硝子職人が欲しいと聞いて来たが良いのか?」
「要らねぇよ。トリスタニアの職人に頼むわ」
才人からの不干渉決別宣言
流石にエレオノールが立ち上がり、才人に抗議をする
「ちょっと平民待ちなさい!あんた、ヴァリエールを除け者に...
「違うね。除け者にするんじゃない。自ら距離を取りたいと言...
その言葉に娘達が父に注目し、父は紅茶を優雅に飲んでいる
「第一俺はまだ親父相手には自己紹介してない。なのにきちん...
「えっと、どういう事なの?サイト」
ルイズの問いに
「一言で言ってしまえば、平民風情が気に食わない。じゃねぇ...
「その通りだ。貴族の伝統に、平民は出しゃばる必要は無い」
ヴァリエール公爵の言葉に、才人も吐き捨てた
「此方も願い下げだ、馬鹿野郎。秘書、不干渉契約を作る。今...
「な、こんな事に契約なんて」
「良いからやれ。一応此方は姫様直属だ。王命に協力しない場...
「……解ったわよ」
エレオノールが立ち上がり、紙を取りに部屋に去っていく
才人はヴァリエール公を睨み付けるが、ヴァリエール公は涼し...
「サイト、お願い、ヴァリエールに」
「本人が拒否した。歩み寄りの余地は無い。諦めろ、ルイズ」
仕事上の交渉とは非情なものだ
そもそも女王直属とはいえ、何処かで必ず、貴族の平民への反...
それが今なだけである
「ヴァリエールが反発すりゃ、女王批判派を糾合出来るな。そ...
「平民が余計な事を考えるな」
「ふん。宮廷政治にゃ興味ねぇ。勝手にやってくれ、ヴァリエ...
「余計な詮索だ。貴様は貴様の仕事をするんだな」
ガチャ
バルコニーの窓を開けてエレオノールが入って来る
「用意したわ、紙とペン」
「じゃ、口頭で伝えるから書いてくれ」
エレオノールは既に準備している
「一、ヴァリエール公爵は、王直属のゼロ機関に協力しない」
「一、ヴァリエール公爵はゼロ機関が生産する、如何なる物品...
「一、ヴァリエール公爵は、ゼロ機関の製作に必要な人員を、...
「一、ゼロ機関に協力してる、他の貴族平民との取引は自由」
「一、双方合意の元、ゼロ機関とヴァリエール公爵は、この契...
エレオノールが書いていき、真っ青になる
「平民、止めて!」
「駄目だ。ヴァリエール公、追加文面が有れば言ってくれ」
「ふむ……いきなりで中々の契約書を作るな……特に無い。ルイズ...
「今は学生だし無関係だ。実際に仕事は一つもやらせてない。...
「その時は、ヴァリエールに列なる者になって構わぬな?」
「好きにしろ」
「ではルイズは此方側だ。一つもやらせるな。エレオノールは...
「お互い妥協点が見えたな。サインを」
才人に関係する娘達の立ち位置が二人に定まり、才人がサイン...
「お願い……」
「駄目だ。解ってるだろう?だから駄目だ」
「だからよ!!こんな事で……こんな事で……!!お願い、もっと真面...
エレオノールの耳元に口を近付けて囁き、するとエレオノール...
「信じるわよ」
「父親の方をな」
エレオノールが、キッと父に振り向き宣言する
「父様、敵対に近い状態になります。どうかお覚悟を」
「要らぬ世話だ。精々揉まれて来い」
「はい」
エレオノールは毅然と立ち、自身の立ち位置を確認する
「馴れ合いと謗られたら、ヴァリエールの名折れ。今回が最後...
そうしてぺこりと頭を下げる
「…解った。必要な物が有れば、今の内に準備するんだな」
「はい」
余りに慈悲と友好、家族の絆とは無縁な決別の交渉を見て、ル...
「ねぇ、お父さま、考え直して下さい。姉さま、出ていくって...
「ねぇ、だから考え直して……こんなの、こんなのって無いよ。...
カトレアは、困った様に首を振る
「私にも、今の交渉が解らないの」
ならば
「お母さま!」
後は、最後の砦たる母である
「貴女のお父様は鬼謀の人です。お父様を信じなさい」
何十年と連れ添った者への信頼に揺るがない
だが、それでは、ルイズは解らない
「解らない解らない解らない!こんなの嫌よ!!絶対に間違って...
既にシエスタが食器を片付けたテーブルに突っ伏し、泣き出す...
才人はそんなルイズを見て
「ルイズ、俺さ、朝飯も食えてないんだけど。きちんとやって...
ピシッ
ルイズが固まる
「…私の名誉の為に言っておくが、使い魔の飯を抜けなどと、こ...
ピシシッ
ルイズは顔を上げられない
「じゃあ、俺が空きっ腹で頭にきてんのは」
「…我が末娘のせいだな」
ピシシシッ
ルイズは突っ伏したまま、流すものを涙から汗に切り替える
つまり、全員ヴァリエール公爵が決裂に仕向ける為に、仕込み...
「いきなり驚いたぞ。初対面で殺気出されまくっててな」
「……申し訳ない。もしかして、協力も視野に入ってた?」
「無論だ。商売のネタは、多い方が良いからな」
「つまり、今回の決裂は……」
「……我が末娘のせいだな」
ピシシシシッ
ダッシュで逃げようとしたルイズは、母のレビテーションで取...
そんな様をシエスタを含めて、皆で生暖かい眼差しで眺め
「……やっぱり譲るわ。塔でもなんでも幽閉して良いや」
「…今更迷惑だ。きちんと引き取れ」
「…再交渉すっか?」
「…吐いた唾は飲めるか?使い魔」
「…無理」
二人は暫く顔を合わせた後
「「はぁ〜〜〜」」
深い深い溜め息を付き、決裂の成果を叩き出した元凶を見据え
「ごめんなさいルイズ。私も、ちょおっとフォロー出来ないわ」
カトレアがそう言ってニコニコ笑い、エレオノールが怒気で魔...
「ル〜イ〜ズ〜!このちびルイズ!!こんのおちび!!あんたのせ...
「ほ、ほへんなひゃい、ほへんなひゃい、ほへんなひゃい〜〜」
ゼロ機関とヴァリエール公爵との交渉
ルイズのおかげで 決 裂
* * *
「あ〜糞、どうすんだよ?この契約」
才人は契約書を見て唸っている
「やっちゃったもんは仕方ないじゃない。お父様も大丈夫って...
「ったく、親馬鹿で助かるわ。エレオノールさんの為に、汚れ...
「きちんと成果出したら、さっさと再交渉するわよ」
「…全くだ」
今、二人はエレオノールの部屋である
ルイズは母親に取っ捕まって、長い長い説教の最中だ
「反対派の旗振りやってくれるから、大部助かるわ」
「最初耳打ちされた時は驚いたわよ。お父様が反対派をコント...
「実際そいつも親父さんの想定に入ってたろ?」
「…ふぅ、平民とお父様だけだと、とんとん拍子で話が進むんだ...
「いや、マジ勝てねぇ。あれが年の功って奴だな」
「かえすがえすもちびルイズのせいで……あ〜腹立つ。私、暫く...
「俺も悪かったかなぁと、思わなくもない」そう言って、腹を...
「しょうがないじゃない。私でも、何食か抜かれた上に高圧的...
そう言ったエレオノールは、才人の唇を啄んだ
既に下半身は繋がっている
なんせ、ツェルプストーに行ったら、エレオノールの行動は制...
今の内に、情をたっぷり補給である
「ね、そろそろ本気で」
「あぁ」
才人が上に乗ってたエレオノールを抱えて、わざと手荒にくる...
「乱暴者」
口ではそう言って抗議するが、エレオノールは自身が一番嫌い...
ぬぷぷぷ
「うぉ」
「ひぃ……んん〜〜」
パン
「あひっ」
パン
「ひっ」
パン
「ひっいっ」
語尾が跳ね上がり、そのまま痙攣し、才人の息子を強烈に吸引...
「出る……」
「あ……来てる……堪らない……もっとぉ」
「いや、ちょっと勘弁。カトレアさんがまだ講習したいって」
「……もぅ」
にゅぽん
音を立てて逸物が引き抜かれ、エレオノールが不満気に呟く
すっかり貪欲なエレオノールに、才人は引き気味だ
「あんまり此処でやると、親父さんがおっかなそうだ」
「ふん、決闘位しなさい」
私の為にという言葉は飲み込み、エレオノールは才人を見据える
才人が不満足なエレオノールの服を取って、下着から何から着...
貴族だからではなく、才人だからやらせている
「さてと、じゃあ、行こうか」
「…ん」
エレオノールは腕を才人に絡め、二人して部屋を出ると、カト...
「あれ?カトレアさん」
「あら、どうしたの?カトレア。今から行く所だったのよ」
ごく自然に才人に腕を絡めてるエレオノールを見て、カトレア...
「入ろうとしたのですけど、入れなかったんです。凄い強力な...
「…そう」
エレオノールが少々気まずそうだ
「私、姉様に聞きたい事がありまして、それで参ったのですが」
「何?」
エレオノールが返事をすると、カトレアが微笑みながら
パーン!!
盛大な音を立てて、エレオノールの頬に手形が残る
いきなり叩かれたエレオノールは、呆然としている
「良く解らないのですが、もの凄く叩きたくなりましたの。何...
「い……いきなり何すんのよ?」
パン
更に逆方向に叩かれ、エレオノールはいきなりのカトレアの叩...
「何かこう、ドロドロしたものが渦巻いて、姉様の立場が、何...
コップに張力一杯迄張った水にコインが投じられた
コインの名称は、多分黒髪の使い魔だ
「…八つ当たり?だったら、たまには受けて上げるわ。カトレア...
そう言って、エレオノールはカトレアを睨む
「そうですわね…まだ有るのですが」
「…何よ?」
「何時まで腕を組んでるんですの?才人殿は、これから私の所...
「……へぇ」
カトレアの感情剥き出しの様に、エレオノールがつい笑みを浮...
「良かった。カトレアは笑ってばっかで、てっきり感情無くし...
「私が笑顔じゃないのは、意外ですか?」
「もう意外も意外。面白いモノ見れちゃった」
「それもこれも、私に仕事と欲をお裾分けして下さった、姉様...
姉妹の睨み合いに才人は身震いする
「流石ヴァリエール。睨み合いも怖ぇ」
ついついおどけてみせるが
「何言ってるのよ、平民。さっきの朝食の席は、処刑台に載せ...
「……心臓が止まるかと思いましたわ」
二人に言い返され、才人はどもる
「あぁまぁ、あれは……ね。何時もは、あそこ迄キレないからな...
そう言って、廊下を歩いて行くと
ガシリと後ろから、誰かに才人の肩を掴まれた
才人は振り向くと、さぁっと青醒める
今一番会いたくない人、ヴァリエール公爵その人だ
「…随分と我が娘と仲良さそうだな、平民」
「…お陰様で」
「うむ。突然気が変わる事は、結構有るとは思わないかね?ん...
「…えぇ、そうですね」
「陛下の臣下だから、平民とて一応は気を使おうかと思ってた...
汚物を見る目で才人を見るヴァリエール公
「…辞退申し上げる」
「ならば、実力で押し通せ」
くいって顎をしゃくり、付いて来いと踵を返したヴァリエール公
「逃げっかな……」
そう言った才人の脇をエレオノールががしりと抱え込み、眼を...
「行きなさい平民!あんたの実力を、今こそ示すのよ!」
「私も、お父様の本気や、才人殿の実力を見たいですわね」
母の圧倒的な折檻には覚えがある娘達だが、娘の為には修羅と...
あの母が自身以上の使い手と評する父の実力は、謎なのだ
こうして、才人は引きずられて行き、決闘の現場たる室内演習...
* * *
「…どうしてこうなった?」
「そりゃ、おめぇ、手当たり次第に食ったらそうならぁな」
演習場に立っている才人が落ち込みながら顔を上げて嘆くと、...
正面のヴァリエール公爵は無表情に立っている
怒りを魔力に転化してるのだろう
「デルフから見てどうだ?」
「解らん」
「はっ?」
「魔力が漏れてねぇ。ここ迄完璧に制御出来るメイジなんざ、...
「おいおい、って事は?」
「精神力が異常なタイプだ。今迄の魔力ごり押しとは、訳が違...
才人は顔を引き締める
「こいつがメイジエリートのヴァリエール公爵か……」
「気を付けろ。今迄のメイジ相手とは違うぜ」
そう、あの虚無のルイズや桁違いの魔力を誇るエレオノールの...
普通であるのはおかしいと見るべきだろう
そんな二人を見て、妻たるカリーヌが笑っている
「あらあら、あの人ったら本気だわ。あの平民も気の毒に」
そんなカリーヌは、杖を二振り手に持っている
ルイズとエレオノールの杖だ
二人の様子を見た瞬間に母の勘で気付き、有無を言わさず取り...
「貴女達の杖は取り上げます。水を差しかねないわ」
母に逆らえない二人は、大人しく取られた
キュルケとタバサは面白そうに見ている
タバサは無表情だが、キュルケにはきちんと気付いていて、興...
「へぇ、まさか父様に聞いたヴァリエール公爵のブレイド捌き...
勿論、才人の勝ちにベットしての発言である
「そろそろ様子見は良いか?平民」
「…どうぞ。やりたくないけど」
そう言った瞬間、空中に一気に水分が凝結し、氷の矢が出来、...
ヒュヒュヒュヒュ
才人はノーモーションで繰り出されたウィンディアイシクルに...
「詠唱すら解らん、準備から行使迄のラグがねぇ!?」
「なんつう使い手だ。水か?風か?」
才人もデルフも驚きつつ、其でも間合いを詰める為にかわしつ...
「外の堀から引っ張って来やがった。相棒、水だ!」
「やり易い……とは思えねぇ!!」
ヴァリエール公がそのままウォーターウィップを打ち据えると...
ダァン!!
「ゴフッ!?」
「相棒、なんでかわさねぇ?」
「…馬鹿野郎、鞭の先端は音速越えんだ!…そう簡単にかわせる...
ジャケットのお陰で、酷いダメージではない
口の中の血をペッと吐き捨て、才人は睨み据える
「戦場なら刃にするんだが、一応手加減はしておいた」
「そりゃ、どうも」
事実だろう
水の高圧化の破壊力を知ってる現代人の才人には、ヴァリエー...
「ちょっと、何よこれ?ダーリンが苦戦?」
キュルケが呆気に取られている
元素の兄弟との決闘紛いの苦戦時でも、常に勝つ予感はあった
今は、感じない
それ程に、魔法一つ一つの練り上げが半端ではない
ダン
才人の脚が地面を蹴り、一気に加速して迫る所を、また水の鞭...
だが、今度は才人はきちんと対応し、デルフを絡み付かせて跳...
だが、ヴァリエール公は跳んだ才人を見た時には、 もう一振...
「杖が……二振り!?」
「嘘だろ?冗談じゃねぇ!?」
受け流された才人がよろけ、その隙をヴァリエールが斬りかか...
ガキィ!!
余りに硬い衝突音は、水にそれだけ圧力がかかり、非常に硬い...
才人には、それだけで冷や汗ものだ
「ほぅ、俺のブレイドを受け止める剣とはな。中々の業物だ」
「…あんたのブレイド、固体全部切り裂くだろ?」
「良く解るな、その通りだ。だから不思議だ」
ババッ
二人して距離を取り、才人もヴァリエール公も汗を垂らしている
「その霧、水に見えるが、水ではないな。そちらのインテリジ...
才人はその言葉に愕然とし、立ち尽くす
「何惚けてんだ、相棒!早く俺を拾いやがれ!!」
デルフがカタカタ震えて主張し、才人が気付いた時には遅かった
ヴァリエール公は片方の杖でフライを唱えながら、もう片方の...
「……嘘でしょ?」
キュルケやタバサはおろか、エレオノール達すら驚愕に声が出...
二つの杖と契約自体異例も異例、到底出来る芸当ではない
なのに、目の前のヴァリエール公はそれが出来ている
しかも、並の使い手では絶対に叶わない、フライ中の詠唱すら...
正に器用さと精神力による制御の極致
魔力ばかりが注目されるメイジ達にとって、到達出来うるもう...
才人を越える機動力に空中と地面を縦横に使い、才人目掛けて...
ドスドスドスドス
地面に鞭の尖端が次々に突き刺さり、才人はかわしながらデル...
「悲惨だ畜生!機動性で完全に上回れた!!殺られる!!」
「対空手段ねぇのか?相棒」
「跳んだ瞬間狙い撃ちだ、馬鹿」
ガンダールヴの武器が完全に殺され、天井すれすれを馬と同等...
ドドドドドッ
「だぁ!?洒落になんねぇ!?」
一方的な展開になる中、才人は村雨を地面に刺すと左手を後ろ...
「全開防御」
「おうさ!!」
デルフが全力で魔法を吸い込み、才人が位置を替えるヴァリエ...
「平賀選手、第一球を、投げたぁ!!」
ぶん
唸りを上げて、擲弾がガンダールヴの力でヴァリエール公正面...
本来の擲弾の使い方だ
ヴァリエール公は咄嗟にウォーターウィップを纏めて擲弾を水...
バン!!
水の鞭を巻き添えに擲弾が炸裂し、ヴァリエール公の胆が冷える
「水のお陰で助かっ……何!?」
すかさずデルフが投げられ、首を傾げたヴァリエール公の頬を...
ギィン!!
ヴァリエール公は両手の杖で受け止め、才人の体重と衝撃を受...
ダダァン
墜落したとは言ってもフライを切ってた訳ではないので、二人...
「…本当に年寄りかよ?」
「まだまだ若いもんには負けん」
才人の実力を知る者は、ヴァリエール公の実力に驚愕し、ヴァ...
「お父さま……強い」
「嘘……何で杖が二振り使えるの?フライと同時詠唱って、どれ...
ルイズとエレオノールが驚愕し、自身の父が実力でもトリステ...
「あらあら、まぁまぁ。お父様も才人殿も、非常に強いんです...
「…タバサ、フライ中に詠唱出来る?」
キュルケの問いにタバサは首を振り
「杖二本と契約は?」
「…無理」
「…何でツェルプストーがヴァリエールを倒せないか、良く解っ...
キュルケは、目の前のヴァリエール公爵がどんな者なのかを確...
ダン!
才人の踏み込む音に斬撃が重なり、ヴァリエール公は目視して...
「ガハッ」
「馬鹿め!」
脳が揺さぶられたが、痛みは無視出来る
才人はそのまま突いた左手を掴んで一本背負いをヴァリエール...
ダァン
「グッハッ」
だが、投げた途端に才人もたたらを踏んで、よろけて転ぶ
「ゼッゼッ」
肩で息をした二人が立ち上がり、お互いを睨む
「まさか、メイジが二刀流すっとはな。しかもその動き、舞姫...
「ふん、少し噛じっただけだ」
才人は呼吸を整えながら歩き、地面に落ちてたデルフを拾い、...
「オーラスね」
カリーヌがそう言って、他の者達はごくりと固唾を飲んで見守る
どちらが勝つか
どちらが負けるか
果たして、才人は奥の手を使うか?
そして、終わった時に、双方に命は有るのだろうか?
「ラグース・ウォータル・イス・イーサ・ウィンデ」
此処で何故かヴァリエール公が朗々と詠唱を聴かせ、才人がき...
「何故?」
だが、考える間もなく、氷の矢が襲い掛かり、才人は斬り結び...
「詰みだ、平民」
「不味い、後ろだ!!」
ドスドスドスドス
デルフは才人の身体のせいで死角になって気付かず、先程のウ...
そのまま前のめりに、才人は眼の光を失って倒れ込んだ
ドスン
才人が倒れた時には、氷の矢は全て形を失い、水に戻っている
そのまま、ヴァリエール公がブレイドを展開した杖を持ち上げ
「ではさらばだ、無礼者」
決闘である
しかも、ヴァリエール公は古い貴族
決闘には生死が付き纏う
タバサとキュルケは悲痛な面持ちで最後を見据えるべく凝視し
ルイズは思わず杖を抜いて唱え様として
「エオルー……あ」
自身の杖が取り上げられてた事に気付き
その視界に、金髪の背中が走って行くのが見えた
そして振り降ろされるブレイドに身を呈して才人に重なる一人...
「…退け、エレオノール」
エレオノールは涙を溜めて首を振って、そのまま覆い被さって...
「嫌です。平民を殺すなら、私共々お願いします、お父様」
「退け、お前が居れば、陛下の仕事に遅滞は無いのであろう?...
其でも、エレオノールは覆い被さって動かない
ルイズは、動き出すタイミングを見失ってしまった
「嫌です。私はもう、ゼロ機関の秘書です。この男に……私の人...
キッと父を睨み付けて、敵として実の父を見据えるエレオノール
「退け」
「嫌です!」
「退けと言うのに」
「嫌です!嫌々いやイヤ!平民殺すなら私も殺して!!お願い!!」
「だから退けと言っておる!!」
ヴァリエール公の苛立ちを含んだ声に、カリーヌが笑っている
「フッフフ」
母の笑顔に娘達が驚きの眼を向け
「エレオノール、お退きなさい。早くしないと、平民が失血死...
そう言って、レビテーションで無理矢理エレオノールを退かせ...
「あなた」
「…非常に不愉快だ」
そう言いながら治癒の詠唱をして、才人の傷を塞いでいくヴァ...
「お父様?」
浮いた状態から降ろされ、ヴァリエール公の行為にポカンとし...
「お前の所長だろう。後はお前がやれ」
「は、はいっ!!」
エレオノールが直立不動で返事をし、ヴァリエール公はカリー...
「何だったの?あれ?」
キュルケ達が急展開に付いていけず、ぽつりと呟くと
「やっぱり、何か黒い感情が沸きますわ。お父様ったら、本当...
そう言って、笑顔のままカトレアが怒っている
「あぁ!!つまりそういう事かぁ!うんうん」
キュルケが今の発言でやっと納得し、しきりに頷いている
「えっと、どういう事?」
ルイズがやっぱりキョトンと周りを見回すが、ルイズの問いに...
全員が全員、思い思いの感情を持ちつつ、決闘は才人の敗北で...
* * *
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