ゼロの使い魔保管庫
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新学期が始まった
だが、学院は女生徒ばかりになってしまい、例外はコルベール...
ちなみに才人は使い魔である訳で、最初から員数外だ
男が居なくなると、非常にだらしなくなるのが女である
正確には、男の目が無いと、恥も外聞も無くなるって所だ
「つまらん!非常につまらん!」
オスマンが学院長の机をばんばん叩いている
「どうしたんですか?オールドオスマン」
仕方無く、ミセスシュヴルーズが聞く事にした
只のリップサービスなのだが、それでもオスマンは食い付いた
「良くぞ聞いてくれた!ミセスシュヴルーズ。最近の女生徒は...
「…何がけしからんのでしょう?」
どうせ下らない事だと思いながら、一応は聞いてみる
「うむ。皆恥じらいが無くなってしまったのだよ。あれはイカ...
思わず身体を傾げてしまったシュヴルーズ
「あのですね」
「カァァァァァ!聞けい!」
くわっぱと大口を開けながら、オスマンは更に力説する
「そう、恥じらい、恥じらいだ!羞恥心に軽く頬が染まってる...
分かるのは、変態紳士だけだ。基本的に駄目爺である
本当に、何で学院長をやっているのだろう?
シュヴルーズは思わず杖を振って、粘土を大口開けてるオスマ...
「ちょっと、ヴァルハラ行って下さい」
「も、もが」
そのまま目を回したオスマンを確認して、ミセスシュヴルーズ...
「ま、しかし、学院長の言い分にも確かに一理有ります。やは...
そう言って、シュヴルーズが席を立った
* * *
「相棒…」
「……今日は何人だ?」
「7人だぁね」
才人が森で稽古しに行くと、暗殺者が待っている
「おいおい、毎回違う連中か?下調べ位してるだろ?毎度毎度...
そう言って、才人は肩を竦めつつ、木の上の暗殺者に話し掛けた
「バレてんだから帰った方が良いぞ?おっさん達」
そう言ってデルフも声を掛け、暗殺者側に動揺が広がるが、去...
「どうせ平民だから大した事ないって、依頼者に言いくるめら...
舐められたと判断したか、帰る気配が無い
そのまま才人が稽古場所に寄ると、ばさぁと網が下から才人を...
「うわっ!?」
網のお陰で村雨すら抜けない、一気に釣り上げられた才人に、...
「ちょい身体右」
キキキキン
才人に四方から来た矢が投げナイフを持った才人に切り分けら...
ガンダールヴによる曲芸も、慣れて来たデルフと才人である
ブツッ
網の縄目を一気に切断した才人が、そのまま落下しながら一気...
今の投げナイフは攻撃力を増強する為に、タバサの風魔法が掛...
当たった者達はそのまま落下し、背後からの者だけ残った
更に着地した才人は短銃を取り出して無造作に引金を引く
パン
「アグッ」
七人が墜落するのに、時間はかからなかった
「さてと、生き残りは居るかなっと」
「居るかねぇ?皆自殺すんだもんよ」
「きっちり報告入れて対策しろよ、全く」
「相棒、後ろだ」
言われた瞬間に投げナイフを抜いた才人が振り返り、一気に投...
ガツン
狙いは微妙に逸れ、木の幹に深く突き刺さる
「ヒッ」
腰を抜かして尻餅を付いたのは、ルイズだった
「こんの……馬鹿たれ!だから仕事中は寄るなって言っただろう...
ガチガチ震えてるルイズ
そりゃそうだ
後一歩で自らの使い魔に殺される所だったのだ
完全に腰が抜けてしまった
「なっなっなっなっ」
言葉にならないルイズ
才人は倒した相手を検分し、致命傷でない相手も死んでる事に...
「この調子だと、こいつら全滅すんぞ?」
「一人でアサシン壊滅させたら、伝説にならぁな」
「あぁ、やだやだ。出来ない奴の嫉妬って本当に醜いわ」
「相棒、また引き渡すのか?」
「しゃあねぇしなぁ。アニエスさん逆に喜んでるぜ。ドンドン...
そこまで言って、ナイフを回収してジャケットの内側に収める
今の才人は、全身武器の塊だ
そうしないと、生き残りが出来ない
やっとルイズに歩み寄ったルイズに話し掛ける才人
声音は非常に冷やかだ
「何故来た?」
「……サイトが気になって」
「もう、使い魔だからなんだの話じゃ無くなってる。生きるか...
「こんな事になったの……あたしのせい?」
「いんや、何れなった。早いか遅いかの違いだ」
ルイズは俯く
才人は更に言い放った
「奴らは学院を巻き込む事はしない。何故か解るか?自分達の...
ルイズは頷くしか出来なかった
結局、今の事態には無力だった
事態を悪化させる方向に掻き回すしか能の無い自分が、とにか...
「あたし……」
「ルイズ、良い事教えてやろうか?」
そう言って、ルイズを抱き起こして立たせる才人
「何?」
「俺はさ、ルイズ位の時は成績の悪い平凡な学生だったのさ。...
「嘘だ」
「本当本当。いやぁ、社会人になってから勉強したもんなぁ。...
そう言って、ルイズの頭をぽんぽん叩きながら撫でる
「ルイズは、俺よりずっと凄くなる。だって、俺が経験してな...
自分の使い魔にくしゃくしゃ頭を撫でられて、何とか前を向く...
「ととと当然よ。私はルイズ=ド=ラ=ヴァリエールなんだか...
「流石です、マイロード。ではどちらに参りましょう?」
「夕食に行くわ、付き合いなさい、犬」
「わん」
そして才人の言葉は、後々間違っていたとルイズは痛感し、才...
でも、今のルイズには、才人の言葉は絶対に聞こえた
そう、絶対に…人は盲信に気付かない、嫌、気付けない
* * *
ヴァリエール公は自領に戻らず、トリスタニアに滞在していた
拠点にしてる邸宅は、元々公館として確保してた遊休施設を期...
その中に、ヴァリエール公に顔を憶えて貰おうと、大量にサロ...
ヴァリエール公は誰にも公表した覚えはないのだが、噂が廻る...
その中で、何人かの顔見知りが二人きりで話をしたいとアポを...
「どういう事だヴァリエール!貴様、公然と陛下に楯突く気か...
「落ち着け、モンモランシ」
立って激昂してるモンモランシ伯に着席を促し、ブランデーを...
「…貴様の酒好きは治らずか」
「あぁ、好きで飲んでる訳じゃない」
「ったく」
ドカッと席に付いたモンモランシ伯がブランデーを一気に流し...
喉を焼くアルコールの感覚が心地好い
「理由を聞こうか」
「そんな指示等、下しておらん」
「…何?」
「別に、サロンの連中にこう言っただけだ。あの平民を負かす...
「……阿呆か貴様?」
モンモランシ伯は思わず絶句し、辛うじてそう言うので精一杯...
「序でに我が娘の内、誰でも好きなの持っていけと条件を付け...
「何を考えておる?」
「別に……言葉通りだが?」
そう言って、ヴァリエール公はブランデーを煽る
「その勿体ぶった言い方、何とかしろ!領内が傍迷惑だ。モン...
「あの平民の遊び場か?モンモランシ」
図星を突かれ、思わず詰まるモンモランシ伯
「……奴は我が領の利益を上げておる。少なくとも、奴の遊びは...
ヴァリエール公は、そんなモンモランシ伯にブスリと剣を刺す
「平民に頼るとは、堕ちたもんだな、モンモランシ」
ガタッ
思わず立ち上がって、わなわな震えるモンモランシ伯
「きっさっまっ!」
だが、ヴァリエール公は涼しい顔だ
「さっきから言っておる通り、私は一切手出しをしておらん。...
「……マルガリタに危害が及べば、貴様の首を貰うぞ、ヴァリエ...
「好きにしろ」
二人の交渉は物別れに終わり、モンモランシ伯は勢いを付けて...
バタン
次にノックをして入って来たのは、線の細い貴族だ。目線が病...
「何か用かな?アストン伯」
「……この前言った事、二言は無きかの確認です」
「無い」
ニタァと笑みを浮かべたアストン伯のその表情は、生理的嫌悪...
「ヒァッハッハッハッハ。やっと、僕にも運が向いて来た!あ...
ヴァリエール公は黙って聞いている
「しかも、僕の領地での………こりゃ愉快だ!絶対にこのチャンス...
「好きにしろ。しかし、卿に御する事が出来るかな?」
「そんなの簡単ですよ。女なんざ、ちょろっと痛い目見せれば...
本当に愉快そうに笑い、アストン伯は身体を揺すっている
「なあに、一月後はヴァリエール公になってます。見てて下さ...
* * *
ゼロ機関としての活動は、頻繁に移動を重ねる状態で、才人と...
最近での特筆すべき出来事は、負傷退役した者や、元から障害...
コルベールの紹介で才人はその人達に引き会わされ、その熱意...
「おい、アンタに従えば、女王陛下の仕事が出来るって、本当...
「あぁ、だが、大丈夫か?」
才人の問いに、代表の男が熱心に語り出した
「俺達は見ての通り、最前線じゃ戦えねぇ。戦っちまったら、...
「魔法が使えねぇ奴だって、手先は動く。両足が有る奴なら踏...
才人はその熱意に考えを廻らし、隣のエレオノールを見た
「前代未聞ね」
「やっぱりか。誰から聞いて来た?」
「戦友からだ。メイジを欲しがってる奴が居る。そいつを助け...
才人はその言葉で、軍の連中が善意で寄越したと判断した
多分、才人の仕事振りなら、労ってくれると、勘違いしたのだ...
実際は真逆だ
「空軍、衛士隊、竜騎士隊って、所か?」
「そうだ。皆、一度は同じ船や隊で苦楽を共にしてきた戦友だ」
才人は表情を消す
そんな戦場では必要な戦友の労り合いは、仕事に於いては無駄...
「採用基準は明確だ。使えねぇ奴はクビ、貴族だろうが平民だ...
「貴族がどうの、兵士がどうの言う奴は要らねぇ。逆に功績上...
才人の発言は、自身の扱いを言えと言っている
エレオノールは過不足なく判断し、姓名を正直に明かした
「私はゼロ機関所長秘書、エレオノール=アルベルティーヌ=...
一気に周りがざわつき始める
「おいおい、ヴァリエールをクビ?何考えてんだ?この兄ちゃ...
「それだけ厳しいって事よ。家名なんか関係無い。貴族も平民...
全員静まりかえる
「役に立ちたかったら、歯を食いしばって、何糞と泥水を啜り...
男達は黙って聴き、そして問い掛けた
「つまり、俺達に過去の栄光は全部捨てて、下積みから一から...
「そうよ。これを見なさい」
バッと出したマザリーニとデムリの役職名義の推薦状。つまり...
「タルブの英雄の話は聞いてる?コイツの事よ」
そう言って才人の胸をバンと叩く
「嘘だと思うなら、全員今すぐ命を掛けて杖を抜きなさい。誰...
「判った……やる」
だが、全員ではなかった
半分位は踵を反したのである
「そんな嘘みたいな話が有るか。ヴァリエール公じゃあるまい...
そんな中、デルフが反応した
「相棒、右二列目、五番」
すかさず、才人がデルフを抜いて走って跳躍した
そのまま刃を構えて刺突の態勢で目標に飛び込む
「グァッ」
突然の才人の凶行に、周りがざわついた
「な、何しやがる。てめぇ、気でも狂ったのか?」
「良く見ろ、コイツは五体満足だ。負傷退役者じゃねぇ」
デルフがそう言って、周りに注意を促す
「はぁ?心を病んだ奴かも知れないじゃねぇか?」
その言葉にエレオノールが繋げた
「アサシンよ。この通り、コイツの命が欲しい連中がごまんと...
「アサシン?」
「多分毒を持ってるわ、あんた達の中に水使い居るでしょ?確...
そう言われて、水使いが調べて眉を潜める
「確かにあった。持ってる刃物全てに塗られている」
一気にざわついて来る
こんなに危ない案件だとは、誰も思いはしなかったのである
「ついて来る?楽しいわよ?私達の敵は封建貴族。筆頭は我が...
そう言って発破をかけるエレオノールに、代表者が問い掛けた
「もしかして、いけ好かねぇ封建貴族に、一撃加えられるんで...
「そうよ。私はあの父にビンタが出来る。あんた達はあいつら...
エレオノールの挑発的な笑みに、元軍人達は乗っかった
敵はでかい方が、遣り甲斐がある
「面白ぇ。やる、やってやる。命令は?」
「命令系統はトップが才人、次がミスタコルベール、そして私...
「了解だ、何て呼べば良い?」
その時、コルベールに連れられ、職人達がやって来た
「職人の棟梁は親方って言うんだ。トップのムカつく野郎が親...
「了解だ。あんた達は?」
「好きな様に呼べ。10組に分ける。適当に選抜すっから、付い...
「お、おぅ」
こうして、手足が無い分を魔法や機械で補助しながらの作業者...
* * *
才人達はコルベールの研究室の中で、自作薬莢と団栗型の7.6ミ...
「つまりこのチャンバーに薬莢を弾丸事突っ込んでから閉じて...
「ほうほう、威力は上がるのかね?」
「一応7.7mm機銃と同等は目指します。加工精度が悪いから、ク...
「ふむ。で、火花はフリントロックのと、同様で構わないのか...
「火花が出るなら何でも良いです。逆に衝撃で点火出来るなら...
暫くコルベールが考えると、エレオノールに指示を下した
「愚者の黄金を頼む」
「了解。イル・アース・デル」
エレオノールが錬金で出したのは、黄金と見た目が良く似た物...
「鉄より硬いな……なんだこれ?」
「黄鉄鉱だよ、知らないかね?才人君」
「普段使わない金属だなぁ」
「塩酸から硫酸が、これから作れるんだが」
「硫酸……硫化鉄か?」
「見ててくれ」
そう言ってコルベールは、鉄のハンマーを黄鉄鉱にふるい、接...
キィン
そして、勢い良く跳ねた火花が黒色火薬に飛び火し、ボンと火...
「……火薬有るの、忘れてましたね?」
才人が真っ黒になりながら聞くと、コルベールも煤にまみれて...
「……済まん」
エレオノールも真っ黒になっており、普段のクール美人が台無...
「……火花の具合としては良いでしょ?」
「……あぁ」
そして、これを念頭に、固形式雷官の試作が出来た
雷官は軟鋼性で、それにドーナツ型にした黄鉄鉱を嵌め込み、...
一発目、才人がチャンバーにセットし、機関閉鎖を行い、撃鉄...
カチン……不発
また折り、薬莢を外して確認したら、黒色火薬が落ちていた
「駄目だ、固定しないと、融点低い接着剤……何か」
「羊蝋はどう?燃えるわよ?」
「じゃあ、ソイツで、錬金出来る?」
「えぇ、錬金でも余裕でしょ?あんま不純物関係無いし」
そう言って錬金し、火薬パウダーをドーナツ中央に撒いた上か...
二発目、引き金を引くと
バン
「……良し、弾丸と装薬装填する」
雷官を新しいのに付け替え、適当に作った粒をコロコロと詰め...
ガチンと嵌めるとルーンが輝き、性能を教えてくれる。つまり...
「射程350か…」
「凄いじゃない。外に撃ちに行く?」
「あぁ」
外に出ていき、広場に才人は端に立ち、エレオノールが反対側...
自ら撃鉄を起こし、引き金を引くと撃鉄が雷官をぶっ叩き、火...
余計な動作を省いた、シンプルなシングルアクション
才人が引き金を引き、弾丸が一気に飛び出した
ダァン!
火薬量が増えた為に、銃口から洒落にならない黒煙が吹いている
「…前が見えねぇ」
「しっかりど真ん中よ!威力も桁外れね。鉄板用意したのに、...
「そうか」
才人は黒煙の問題に頭を悩ませる事になり、エレオノール程素...
まだまだ改良の余地は有りそうだった
* * *
才人は研究室で黒煙を指に救い上げて感触を確かめている
「カーボンだな」
エレオノールはその言葉におうむ返しに聞く
「カーボン?」
「炭素だよ、不完全燃焼が多い証拠だ………待てよ?不完全燃焼な...
才人はいきなりメモ用紙に化学式をガリガリ書き、唸っている
C+S+?NO3
「ん〜と、硝石。ニトロバクターの反応で出す硝酸塩に陽イオ...
更に頭をガリガリやって
C+S+KNO3と書く
「……いや、違うな。カーボンが大量に出てるんだから、炭素量...
そう言って才人は更に唸っている
「一体何なのよ?平民」
「酸素が足りないんだよ。酸素が」
そう言って、ギシッと背もたれに身体を預ける才人
そんな才人にエレオノールは上から覗き込む
「酸素?空気の組成だっけ?」
「そっ」
「なら、沢山空気送り込めば良いじゃない。こうやって」
そう言って、エレオノールが才人の唇に唇を合わせ、ふぅと思...
空気を才人に送り込んだエレオノールの顔が真っ赤になって来...
「ん……もっと」
ガチャ
「やっと空き時間……おっと失礼した」
バタン
コルベールが黄鉄鉱を出した後は授業に出ており、今帰って来...
エレオノールは更に紅くなったが、あっさり開き直る
「ミスタも、あぁ言った事だし」
「いや、今すぐトリスタニアに向かう。竜籠用意してくれ」
「思い付いた?」
「あぁ、とびっきりの案がね。流石俺の秘書。行くぞ」
「えぇ」
二人は席を立ち、扉を開くと、コルベールが所在無さげに立っ...
「おや、ミスヴァリエールの魔力と精神力の補給では無いのか...
「コルベール先生……何で知ってるんですか?」
「何、私もメイジだと云う事さ。女性は愛される事に感情の振...
そう言って、コルベールはすっとぼけている
エレオノールは、自分がバレバレな状態なのを恐縮してしまった
「全く、ハルケギニアの親父連中はおっかねぇなぁ」
「何、君のその手腕を是非とも教授願いたいものだ。で、どち...
「トリスタニア。ちょっと行って来ます」
「何処に行くにも気を付けてくれたまえ。生徒達は、我々教師...
「頼みます」
* * *
才人達は竜籠で王宮に到着すると、アニエスに面会を求め、ア...
余りに頭が痛いのだ
既に新学期が始まって二週間が経っており、一向に襲撃が止ま...
正に手当たり次第という、洒落にならない事態になっている
三人が会議室にて互いの近況を話し、廊下では、内勤の衛士が...
「アニエスさん、どう?」
「…駄目だ。全く的が絞れん」
「それって?」
エレオノールが確認すると、アニエスは両手を上げた
「要するに、アサシン同士で的の狙い合いで競争が始まってい...
「依頼者もどうやら封建貴族の大部分と言って良い状態だ。容...
そう言って、アニエスは銃士隊の捜査能力を越えた事をあっさ...
「だから、当たり構わずな無茶苦茶な襲撃なのかよ」
はぁ、と溜め息をつく才人。既に30人以上は、自身の手にかけた
「あぁ、何せ相手は平民だからな。メイジ殺すのと違って楽チ...
そう言って、現状を話すアニエス
「つまり、俺の首は賞金以上の価値が有るって事か。払って貰...
才人の言葉に二人も頷く
封建貴族がアサシンを雇った形跡なぞ、残す筈が無い
「同感だ。闇から闇に葬られて終わりだ。才人、襲撃した奴は...
「ふぅ、了解」
ハルケギニアでは、死体を量産するのも、見せしめに必要なのだ
正に泥沼、更に誰に誇れる訳でもない、暗闘だ
知らない内に、才人は殺しの腕をドンドン上げていってしまっ...
「もう殺したくねぇよ。一体何人殺せば良いんだよ?」
「奴らが諦める迄だ」
才人はその言葉に、一番の解決策を提示する
「…ちっ、誰か封建貴族を、文字通り俺の手で吊し上げなきゃ駄...
「そういう事だ。自身の身に振り掛かると知れない限り、この...
アニエスがそう言って笑っている
「俺が死ぬとは考えてねぇだろ?」
「いんや?現状お前が餌になってくれてるお陰で、国内の犯罪...
そう言ったアニエスは、才人の背中をバンバンと叩き、一つキ...
「絶対死ぬと考えてねぇな。あれ」
才人の物言いに、エレオノールも頷いた
「ガンダールヴの才人は洒落にならないから、メイジ相手じゃ...
「数で襲われちゃ、流石に無理だっての。俺は伝説の勇者じゃ...
「黙んなさい。伝説の使い魔」
そうエレオノールに言われ、才人は黙ってしまった
全く、伝説の使い魔が伝説の剣に、誰にも扱えない妖刀迄扱っ...
どう見ても、傍目には伝説の勇者である
そして勇者とは、一番の殺戮者の事を指すのは、RPGを経験...
* * *
才人達がトリスタニアの雑踏に入ると、またデルフが反応した
「相棒、尾行二人」
はぁぁぁぁと、深い溜め息を付く才人
「エレオノール、フライ、屋根」
「了解」
才人の言葉に詠唱し、一気に飛ぶエレオノール
才人の武器重量と併せて重いのを、才人がエレオノールを抱き...
カカッ
二人の靴が屋根を踏み、音を立てるとそのまま乗馬ブーツを改...
エレオノールのプレゼントが、ペリカン便で届いた
わざわざベルト迄付属されていて、革は贅沢に、頑丈且つ鞣し...
才人に対し、貴族でも中々揃えられない品々を誂えるのは、エ...
自分の男に本物を誂えるのは、正に貴婦人のみが持つ愉しみで...
暫く経っても、ちっとも来ない事に才人は拍子抜けた
「…それそろメイジが来るかと思ったんだが」
その時である
「庇え相棒!」
デルフの声でエレオノールを突飛ばしたのと銃声が重なったの...
タタターン
突飛ばされたエレオノールが屋根の上で転がっており、才人が...
「大丈夫か?」
「痛たた…大丈夫。当たってない」
才人自身はジャケットの回避魔法でダメージは無い
「くっそ、狙撃かよ……こっちにメイジが居るの知ってて、誘い...
「傭兵だな、こいつら。距離有るぜ〜?相棒の頭0時として、...
「まだ試作途中だってのに……弾くれ」
「えぇ」
エレオノールがポケットに手を突っ込み、才人に手渡しすると...
寝っ転がったまま弾を装填、そして才人は気合い一発、身体を...
タタターン!
銃声と共に才人の至近を弾丸が通り過ぎ、ピュンピュン音が鳴る
「見えた!」
そのまま引き金を引く
ダァン!
音が鳴り響いた時には、才人は装填作業に入っていた
左手の指の間に挟んだ弾は3つ、がちりと銃身を折って親指と...
この間僅か2秒未満
ダァン!
また同じ作業を繰り返し、身体を起こしたまま敵の攻撃が無い...
「俺のジャケット着て上空から確認」
エレオノールは黙って頷く
才人がデルフを下ろし、ジャケットを脱ぎ、エレオノールがマ...
「詠唱は?」
「完了よ」
「良し、アン、ドゥ、トロワ!」
才人の合図でエレオノールが一気に飛び上がった
上空から目標を確認し、才人はエレオノールを見る為に、仰向...
エレオノールがキョロキョロと見回し、方向を指差した
「駄目!あっち生きてる!きゃあ!?」
ターン
エレオノールを狙って撃たれ、才人はその隙を見逃さない
先程の5時方向だ
すかさず身体を起こし、狙って引き金を引く
ダァン!
才人からも、飛沫が跳ぶのが見えた
「ストライク!大丈夫、頭吹き飛んだわっ!」
才人はエレオノールの発言に、銃身を下げて溜め息を付いた
「ふぃ〜、今度は狙撃戦かよ」
「いやいやいやいや。こんなに武器を使いこなさきゃならない...
「知るか、糞」
本当に嫌そうに、才人は吐き捨てた
* * *
終了行:
新学期が始まった
だが、学院は女生徒ばかりになってしまい、例外はコルベール...
ちなみに才人は使い魔である訳で、最初から員数外だ
男が居なくなると、非常にだらしなくなるのが女である
正確には、男の目が無いと、恥も外聞も無くなるって所だ
「つまらん!非常につまらん!」
オスマンが学院長の机をばんばん叩いている
「どうしたんですか?オールドオスマン」
仕方無く、ミセスシュヴルーズが聞く事にした
只のリップサービスなのだが、それでもオスマンは食い付いた
「良くぞ聞いてくれた!ミセスシュヴルーズ。最近の女生徒は...
「…何がけしからんのでしょう?」
どうせ下らない事だと思いながら、一応は聞いてみる
「うむ。皆恥じらいが無くなってしまったのだよ。あれはイカ...
思わず身体を傾げてしまったシュヴルーズ
「あのですね」
「カァァァァァ!聞けい!」
くわっぱと大口を開けながら、オスマンは更に力説する
「そう、恥じらい、恥じらいだ!羞恥心に軽く頬が染まってる...
分かるのは、変態紳士だけだ。基本的に駄目爺である
本当に、何で学院長をやっているのだろう?
シュヴルーズは思わず杖を振って、粘土を大口開けてるオスマ...
「ちょっと、ヴァルハラ行って下さい」
「も、もが」
そのまま目を回したオスマンを確認して、ミセスシュヴルーズ...
「ま、しかし、学院長の言い分にも確かに一理有ります。やは...
そう言って、シュヴルーズが席を立った
* * *
「相棒…」
「……今日は何人だ?」
「7人だぁね」
才人が森で稽古しに行くと、暗殺者が待っている
「おいおい、毎回違う連中か?下調べ位してるだろ?毎度毎度...
そう言って、才人は肩を竦めつつ、木の上の暗殺者に話し掛けた
「バレてんだから帰った方が良いぞ?おっさん達」
そう言ってデルフも声を掛け、暗殺者側に動揺が広がるが、去...
「どうせ平民だから大した事ないって、依頼者に言いくるめら...
舐められたと判断したか、帰る気配が無い
そのまま才人が稽古場所に寄ると、ばさぁと網が下から才人を...
「うわっ!?」
網のお陰で村雨すら抜けない、一気に釣り上げられた才人に、...
「ちょい身体右」
キキキキン
才人に四方から来た矢が投げナイフを持った才人に切り分けら...
ガンダールヴによる曲芸も、慣れて来たデルフと才人である
ブツッ
網の縄目を一気に切断した才人が、そのまま落下しながら一気...
今の投げナイフは攻撃力を増強する為に、タバサの風魔法が掛...
当たった者達はそのまま落下し、背後からの者だけ残った
更に着地した才人は短銃を取り出して無造作に引金を引く
パン
「アグッ」
七人が墜落するのに、時間はかからなかった
「さてと、生き残りは居るかなっと」
「居るかねぇ?皆自殺すんだもんよ」
「きっちり報告入れて対策しろよ、全く」
「相棒、後ろだ」
言われた瞬間に投げナイフを抜いた才人が振り返り、一気に投...
ガツン
狙いは微妙に逸れ、木の幹に深く突き刺さる
「ヒッ」
腰を抜かして尻餅を付いたのは、ルイズだった
「こんの……馬鹿たれ!だから仕事中は寄るなって言っただろう...
ガチガチ震えてるルイズ
そりゃそうだ
後一歩で自らの使い魔に殺される所だったのだ
完全に腰が抜けてしまった
「なっなっなっなっ」
言葉にならないルイズ
才人は倒した相手を検分し、致命傷でない相手も死んでる事に...
「この調子だと、こいつら全滅すんぞ?」
「一人でアサシン壊滅させたら、伝説にならぁな」
「あぁ、やだやだ。出来ない奴の嫉妬って本当に醜いわ」
「相棒、また引き渡すのか?」
「しゃあねぇしなぁ。アニエスさん逆に喜んでるぜ。ドンドン...
そこまで言って、ナイフを回収してジャケットの内側に収める
今の才人は、全身武器の塊だ
そうしないと、生き残りが出来ない
やっとルイズに歩み寄ったルイズに話し掛ける才人
声音は非常に冷やかだ
「何故来た?」
「……サイトが気になって」
「もう、使い魔だからなんだの話じゃ無くなってる。生きるか...
「こんな事になったの……あたしのせい?」
「いんや、何れなった。早いか遅いかの違いだ」
ルイズは俯く
才人は更に言い放った
「奴らは学院を巻き込む事はしない。何故か解るか?自分達の...
ルイズは頷くしか出来なかった
結局、今の事態には無力だった
事態を悪化させる方向に掻き回すしか能の無い自分が、とにか...
「あたし……」
「ルイズ、良い事教えてやろうか?」
そう言って、ルイズを抱き起こして立たせる才人
「何?」
「俺はさ、ルイズ位の時は成績の悪い平凡な学生だったのさ。...
「嘘だ」
「本当本当。いやぁ、社会人になってから勉強したもんなぁ。...
そう言って、ルイズの頭をぽんぽん叩きながら撫でる
「ルイズは、俺よりずっと凄くなる。だって、俺が経験してな...
自分の使い魔にくしゃくしゃ頭を撫でられて、何とか前を向く...
「ととと当然よ。私はルイズ=ド=ラ=ヴァリエールなんだか...
「流石です、マイロード。ではどちらに参りましょう?」
「夕食に行くわ、付き合いなさい、犬」
「わん」
そして才人の言葉は、後々間違っていたとルイズは痛感し、才...
でも、今のルイズには、才人の言葉は絶対に聞こえた
そう、絶対に…人は盲信に気付かない、嫌、気付けない
* * *
ヴァリエール公は自領に戻らず、トリスタニアに滞在していた
拠点にしてる邸宅は、元々公館として確保してた遊休施設を期...
その中に、ヴァリエール公に顔を憶えて貰おうと、大量にサロ...
ヴァリエール公は誰にも公表した覚えはないのだが、噂が廻る...
その中で、何人かの顔見知りが二人きりで話をしたいとアポを...
「どういう事だヴァリエール!貴様、公然と陛下に楯突く気か...
「落ち着け、モンモランシ」
立って激昂してるモンモランシ伯に着席を促し、ブランデーを...
「…貴様の酒好きは治らずか」
「あぁ、好きで飲んでる訳じゃない」
「ったく」
ドカッと席に付いたモンモランシ伯がブランデーを一気に流し...
喉を焼くアルコールの感覚が心地好い
「理由を聞こうか」
「そんな指示等、下しておらん」
「…何?」
「別に、サロンの連中にこう言っただけだ。あの平民を負かす...
「……阿呆か貴様?」
モンモランシ伯は思わず絶句し、辛うじてそう言うので精一杯...
「序でに我が娘の内、誰でも好きなの持っていけと条件を付け...
「何を考えておる?」
「別に……言葉通りだが?」
そう言って、ヴァリエール公はブランデーを煽る
「その勿体ぶった言い方、何とかしろ!領内が傍迷惑だ。モン...
「あの平民の遊び場か?モンモランシ」
図星を突かれ、思わず詰まるモンモランシ伯
「……奴は我が領の利益を上げておる。少なくとも、奴の遊びは...
ヴァリエール公は、そんなモンモランシ伯にブスリと剣を刺す
「平民に頼るとは、堕ちたもんだな、モンモランシ」
ガタッ
思わず立ち上がって、わなわな震えるモンモランシ伯
「きっさっまっ!」
だが、ヴァリエール公は涼しい顔だ
「さっきから言っておる通り、私は一切手出しをしておらん。...
「……マルガリタに危害が及べば、貴様の首を貰うぞ、ヴァリエ...
「好きにしろ」
二人の交渉は物別れに終わり、モンモランシ伯は勢いを付けて...
バタン
次にノックをして入って来たのは、線の細い貴族だ。目線が病...
「何か用かな?アストン伯」
「……この前言った事、二言は無きかの確認です」
「無い」
ニタァと笑みを浮かべたアストン伯のその表情は、生理的嫌悪...
「ヒァッハッハッハッハ。やっと、僕にも運が向いて来た!あ...
ヴァリエール公は黙って聞いている
「しかも、僕の領地での………こりゃ愉快だ!絶対にこのチャンス...
「好きにしろ。しかし、卿に御する事が出来るかな?」
「そんなの簡単ですよ。女なんざ、ちょろっと痛い目見せれば...
本当に愉快そうに笑い、アストン伯は身体を揺すっている
「なあに、一月後はヴァリエール公になってます。見てて下さ...
* * *
ゼロ機関としての活動は、頻繁に移動を重ねる状態で、才人と...
最近での特筆すべき出来事は、負傷退役した者や、元から障害...
コルベールの紹介で才人はその人達に引き会わされ、その熱意...
「おい、アンタに従えば、女王陛下の仕事が出来るって、本当...
「あぁ、だが、大丈夫か?」
才人の問いに、代表の男が熱心に語り出した
「俺達は見ての通り、最前線じゃ戦えねぇ。戦っちまったら、...
「魔法が使えねぇ奴だって、手先は動く。両足が有る奴なら踏...
才人はその熱意に考えを廻らし、隣のエレオノールを見た
「前代未聞ね」
「やっぱりか。誰から聞いて来た?」
「戦友からだ。メイジを欲しがってる奴が居る。そいつを助け...
才人はその言葉で、軍の連中が善意で寄越したと判断した
多分、才人の仕事振りなら、労ってくれると、勘違いしたのだ...
実際は真逆だ
「空軍、衛士隊、竜騎士隊って、所か?」
「そうだ。皆、一度は同じ船や隊で苦楽を共にしてきた戦友だ」
才人は表情を消す
そんな戦場では必要な戦友の労り合いは、仕事に於いては無駄...
「採用基準は明確だ。使えねぇ奴はクビ、貴族だろうが平民だ...
「貴族がどうの、兵士がどうの言う奴は要らねぇ。逆に功績上...
才人の発言は、自身の扱いを言えと言っている
エレオノールは過不足なく判断し、姓名を正直に明かした
「私はゼロ機関所長秘書、エレオノール=アルベルティーヌ=...
一気に周りがざわつき始める
「おいおい、ヴァリエールをクビ?何考えてんだ?この兄ちゃ...
「それだけ厳しいって事よ。家名なんか関係無い。貴族も平民...
全員静まりかえる
「役に立ちたかったら、歯を食いしばって、何糞と泥水を啜り...
男達は黙って聴き、そして問い掛けた
「つまり、俺達に過去の栄光は全部捨てて、下積みから一から...
「そうよ。これを見なさい」
バッと出したマザリーニとデムリの役職名義の推薦状。つまり...
「タルブの英雄の話は聞いてる?コイツの事よ」
そう言って才人の胸をバンと叩く
「嘘だと思うなら、全員今すぐ命を掛けて杖を抜きなさい。誰...
「判った……やる」
だが、全員ではなかった
半分位は踵を反したのである
「そんな嘘みたいな話が有るか。ヴァリエール公じゃあるまい...
そんな中、デルフが反応した
「相棒、右二列目、五番」
すかさず、才人がデルフを抜いて走って跳躍した
そのまま刃を構えて刺突の態勢で目標に飛び込む
「グァッ」
突然の才人の凶行に、周りがざわついた
「な、何しやがる。てめぇ、気でも狂ったのか?」
「良く見ろ、コイツは五体満足だ。負傷退役者じゃねぇ」
デルフがそう言って、周りに注意を促す
「はぁ?心を病んだ奴かも知れないじゃねぇか?」
その言葉にエレオノールが繋げた
「アサシンよ。この通り、コイツの命が欲しい連中がごまんと...
「アサシン?」
「多分毒を持ってるわ、あんた達の中に水使い居るでしょ?確...
そう言われて、水使いが調べて眉を潜める
「確かにあった。持ってる刃物全てに塗られている」
一気にざわついて来る
こんなに危ない案件だとは、誰も思いはしなかったのである
「ついて来る?楽しいわよ?私達の敵は封建貴族。筆頭は我が...
そう言って発破をかけるエレオノールに、代表者が問い掛けた
「もしかして、いけ好かねぇ封建貴族に、一撃加えられるんで...
「そうよ。私はあの父にビンタが出来る。あんた達はあいつら...
エレオノールの挑発的な笑みに、元軍人達は乗っかった
敵はでかい方が、遣り甲斐がある
「面白ぇ。やる、やってやる。命令は?」
「命令系統はトップが才人、次がミスタコルベール、そして私...
「了解だ、何て呼べば良い?」
その時、コルベールに連れられ、職人達がやって来た
「職人の棟梁は親方って言うんだ。トップのムカつく野郎が親...
「了解だ。あんた達は?」
「好きな様に呼べ。10組に分ける。適当に選抜すっから、付い...
「お、おぅ」
こうして、手足が無い分を魔法や機械で補助しながらの作業者...
* * *
才人達はコルベールの研究室の中で、自作薬莢と団栗型の7.6ミ...
「つまりこのチャンバーに薬莢を弾丸事突っ込んでから閉じて...
「ほうほう、威力は上がるのかね?」
「一応7.7mm機銃と同等は目指します。加工精度が悪いから、ク...
「ふむ。で、火花はフリントロックのと、同様で構わないのか...
「火花が出るなら何でも良いです。逆に衝撃で点火出来るなら...
暫くコルベールが考えると、エレオノールに指示を下した
「愚者の黄金を頼む」
「了解。イル・アース・デル」
エレオノールが錬金で出したのは、黄金と見た目が良く似た物...
「鉄より硬いな……なんだこれ?」
「黄鉄鉱だよ、知らないかね?才人君」
「普段使わない金属だなぁ」
「塩酸から硫酸が、これから作れるんだが」
「硫酸……硫化鉄か?」
「見ててくれ」
そう言ってコルベールは、鉄のハンマーを黄鉄鉱にふるい、接...
キィン
そして、勢い良く跳ねた火花が黒色火薬に飛び火し、ボンと火...
「……火薬有るの、忘れてましたね?」
才人が真っ黒になりながら聞くと、コルベールも煤にまみれて...
「……済まん」
エレオノールも真っ黒になっており、普段のクール美人が台無...
「……火花の具合としては良いでしょ?」
「……あぁ」
そして、これを念頭に、固形式雷官の試作が出来た
雷官は軟鋼性で、それにドーナツ型にした黄鉄鉱を嵌め込み、...
一発目、才人がチャンバーにセットし、機関閉鎖を行い、撃鉄...
カチン……不発
また折り、薬莢を外して確認したら、黒色火薬が落ちていた
「駄目だ、固定しないと、融点低い接着剤……何か」
「羊蝋はどう?燃えるわよ?」
「じゃあ、ソイツで、錬金出来る?」
「えぇ、錬金でも余裕でしょ?あんま不純物関係無いし」
そう言って錬金し、火薬パウダーをドーナツ中央に撒いた上か...
二発目、引き金を引くと
バン
「……良し、弾丸と装薬装填する」
雷官を新しいのに付け替え、適当に作った粒をコロコロと詰め...
ガチンと嵌めるとルーンが輝き、性能を教えてくれる。つまり...
「射程350か…」
「凄いじゃない。外に撃ちに行く?」
「あぁ」
外に出ていき、広場に才人は端に立ち、エレオノールが反対側...
自ら撃鉄を起こし、引き金を引くと撃鉄が雷官をぶっ叩き、火...
余計な動作を省いた、シンプルなシングルアクション
才人が引き金を引き、弾丸が一気に飛び出した
ダァン!
火薬量が増えた為に、銃口から洒落にならない黒煙が吹いている
「…前が見えねぇ」
「しっかりど真ん中よ!威力も桁外れね。鉄板用意したのに、...
「そうか」
才人は黒煙の問題に頭を悩ませる事になり、エレオノール程素...
まだまだ改良の余地は有りそうだった
* * *
才人は研究室で黒煙を指に救い上げて感触を確かめている
「カーボンだな」
エレオノールはその言葉におうむ返しに聞く
「カーボン?」
「炭素だよ、不完全燃焼が多い証拠だ………待てよ?不完全燃焼な...
才人はいきなりメモ用紙に化学式をガリガリ書き、唸っている
C+S+?NO3
「ん〜と、硝石。ニトロバクターの反応で出す硝酸塩に陽イオ...
更に頭をガリガリやって
C+S+KNO3と書く
「……いや、違うな。カーボンが大量に出てるんだから、炭素量...
そう言って才人は更に唸っている
「一体何なのよ?平民」
「酸素が足りないんだよ。酸素が」
そう言って、ギシッと背もたれに身体を預ける才人
そんな才人にエレオノールは上から覗き込む
「酸素?空気の組成だっけ?」
「そっ」
「なら、沢山空気送り込めば良いじゃない。こうやって」
そう言って、エレオノールが才人の唇に唇を合わせ、ふぅと思...
空気を才人に送り込んだエレオノールの顔が真っ赤になって来...
「ん……もっと」
ガチャ
「やっと空き時間……おっと失礼した」
バタン
コルベールが黄鉄鉱を出した後は授業に出ており、今帰って来...
エレオノールは更に紅くなったが、あっさり開き直る
「ミスタも、あぁ言った事だし」
「いや、今すぐトリスタニアに向かう。竜籠用意してくれ」
「思い付いた?」
「あぁ、とびっきりの案がね。流石俺の秘書。行くぞ」
「えぇ」
二人は席を立ち、扉を開くと、コルベールが所在無さげに立っ...
「おや、ミスヴァリエールの魔力と精神力の補給では無いのか...
「コルベール先生……何で知ってるんですか?」
「何、私もメイジだと云う事さ。女性は愛される事に感情の振...
そう言って、コルベールはすっとぼけている
エレオノールは、自分がバレバレな状態なのを恐縮してしまった
「全く、ハルケギニアの親父連中はおっかねぇなぁ」
「何、君のその手腕を是非とも教授願いたいものだ。で、どち...
「トリスタニア。ちょっと行って来ます」
「何処に行くにも気を付けてくれたまえ。生徒達は、我々教師...
「頼みます」
* * *
才人達は竜籠で王宮に到着すると、アニエスに面会を求め、ア...
余りに頭が痛いのだ
既に新学期が始まって二週間が経っており、一向に襲撃が止ま...
正に手当たり次第という、洒落にならない事態になっている
三人が会議室にて互いの近況を話し、廊下では、内勤の衛士が...
「アニエスさん、どう?」
「…駄目だ。全く的が絞れん」
「それって?」
エレオノールが確認すると、アニエスは両手を上げた
「要するに、アサシン同士で的の狙い合いで競争が始まってい...
「依頼者もどうやら封建貴族の大部分と言って良い状態だ。容...
そう言って、アニエスは銃士隊の捜査能力を越えた事をあっさ...
「だから、当たり構わずな無茶苦茶な襲撃なのかよ」
はぁ、と溜め息をつく才人。既に30人以上は、自身の手にかけた
「あぁ、何せ相手は平民だからな。メイジ殺すのと違って楽チ...
そう言って、現状を話すアニエス
「つまり、俺の首は賞金以上の価値が有るって事か。払って貰...
才人の言葉に二人も頷く
封建貴族がアサシンを雇った形跡なぞ、残す筈が無い
「同感だ。闇から闇に葬られて終わりだ。才人、襲撃した奴は...
「ふぅ、了解」
ハルケギニアでは、死体を量産するのも、見せしめに必要なのだ
正に泥沼、更に誰に誇れる訳でもない、暗闘だ
知らない内に、才人は殺しの腕をドンドン上げていってしまっ...
「もう殺したくねぇよ。一体何人殺せば良いんだよ?」
「奴らが諦める迄だ」
才人はその言葉に、一番の解決策を提示する
「…ちっ、誰か封建貴族を、文字通り俺の手で吊し上げなきゃ駄...
「そういう事だ。自身の身に振り掛かると知れない限り、この...
アニエスがそう言って笑っている
「俺が死ぬとは考えてねぇだろ?」
「いんや?現状お前が餌になってくれてるお陰で、国内の犯罪...
そう言ったアニエスは、才人の背中をバンバンと叩き、一つキ...
「絶対死ぬと考えてねぇな。あれ」
才人の物言いに、エレオノールも頷いた
「ガンダールヴの才人は洒落にならないから、メイジ相手じゃ...
「数で襲われちゃ、流石に無理だっての。俺は伝説の勇者じゃ...
「黙んなさい。伝説の使い魔」
そうエレオノールに言われ、才人は黙ってしまった
全く、伝説の使い魔が伝説の剣に、誰にも扱えない妖刀迄扱っ...
どう見ても、傍目には伝説の勇者である
そして勇者とは、一番の殺戮者の事を指すのは、RPGを経験...
* * *
才人達がトリスタニアの雑踏に入ると、またデルフが反応した
「相棒、尾行二人」
はぁぁぁぁと、深い溜め息を付く才人
「エレオノール、フライ、屋根」
「了解」
才人の言葉に詠唱し、一気に飛ぶエレオノール
才人の武器重量と併せて重いのを、才人がエレオノールを抱き...
カカッ
二人の靴が屋根を踏み、音を立てるとそのまま乗馬ブーツを改...
エレオノールのプレゼントが、ペリカン便で届いた
わざわざベルト迄付属されていて、革は贅沢に、頑丈且つ鞣し...
才人に対し、貴族でも中々揃えられない品々を誂えるのは、エ...
自分の男に本物を誂えるのは、正に貴婦人のみが持つ愉しみで...
暫く経っても、ちっとも来ない事に才人は拍子抜けた
「…それそろメイジが来るかと思ったんだが」
その時である
「庇え相棒!」
デルフの声でエレオノールを突飛ばしたのと銃声が重なったの...
タタターン
突飛ばされたエレオノールが屋根の上で転がっており、才人が...
「大丈夫か?」
「痛たた…大丈夫。当たってない」
才人自身はジャケットの回避魔法でダメージは無い
「くっそ、狙撃かよ……こっちにメイジが居るの知ってて、誘い...
「傭兵だな、こいつら。距離有るぜ〜?相棒の頭0時として、...
「まだ試作途中だってのに……弾くれ」
「えぇ」
エレオノールがポケットに手を突っ込み、才人に手渡しすると...
寝っ転がったまま弾を装填、そして才人は気合い一発、身体を...
タタターン!
銃声と共に才人の至近を弾丸が通り過ぎ、ピュンピュン音が鳴る
「見えた!」
そのまま引き金を引く
ダァン!
音が鳴り響いた時には、才人は装填作業に入っていた
左手の指の間に挟んだ弾は3つ、がちりと銃身を折って親指と...
この間僅か2秒未満
ダァン!
また同じ作業を繰り返し、身体を起こしたまま敵の攻撃が無い...
「俺のジャケット着て上空から確認」
エレオノールは黙って頷く
才人がデルフを下ろし、ジャケットを脱ぎ、エレオノールがマ...
「詠唱は?」
「完了よ」
「良し、アン、ドゥ、トロワ!」
才人の合図でエレオノールが一気に飛び上がった
上空から目標を確認し、才人はエレオノールを見る為に、仰向...
エレオノールがキョロキョロと見回し、方向を指差した
「駄目!あっち生きてる!きゃあ!?」
ターン
エレオノールを狙って撃たれ、才人はその隙を見逃さない
先程の5時方向だ
すかさず身体を起こし、狙って引き金を引く
ダァン!
才人からも、飛沫が跳ぶのが見えた
「ストライク!大丈夫、頭吹き飛んだわっ!」
才人はエレオノールの発言に、銃身を下げて溜め息を付いた
「ふぃ〜、今度は狙撃戦かよ」
「いやいやいやいや。こんなに武器を使いこなさきゃならない...
「知るか、糞」
本当に嫌そうに、才人は吐き捨てた
* * *
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