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Last-modified: 2008-12-24 (水) 01:15:59 (5602d)

ならず者の軍団を討伐するため才人達は、交戦予定地点の沼を目指して、朝8時に出発
 した。先行部隊として、竜騎士10騎に其々水と土メイジを1人ずつ乗せて進軍している。
 加えてシルフィードに騎乗しているシャルロットとキュルケも同行している。
 先行部隊の指揮は、隊長であるギーシュが務めていた。(テファは同国王族のため留守番)

 才人達は、ホーキンス達が用意した馬に乗り進軍していたが、守備軍は歩兵のため進軍
 速度が遅く到着予想では、昼頃になる予定であった。
 しかし昨日の報告から計算すると敵の方が約1時間程早く到達してしまうが、先行部隊
 で足止めするんだろうと才人達は、思っていた。

 先行部隊の実力からすれば1時間程度の足止めなら、さして難しくない。
 しかし竜騎士だと20分程で着いてしまう。そんなに早く行って何をさせるんだろう?
 レイナールは、具体的な事を何も教えてくれない。まっ、奴の事だから驚くような作戦
 が有るんだろう。

 城から10リーグ程の所で道が2又に分かれていた。左が沼、右が小高い丘へ向かう道で
あった。
 レイナールは立ち止まってホーキンスに指示を与えて右に曲がった。
 ホーキンス達は、歩兵部隊を引き連れて左に曲がって行った。

「レイナール、沼は左じゃないのか?」
 疑問に思った才人はレイナールに尋ねた。
「そうだけど我々は、丘に向かうのさ」
「丘に?何でまた?」
「丘の上から作戦を見る為さ。歩兵部隊がいては間に合わないから彼等には直接向かって
もらって、我々は急ぎ沼から1リーグ以上離れた丘に向かう。後30分程で作戦地点に敵
が来る筈だ。あと4リーグ程だから馬なら15分かからないと思う。遠いけど1リーグは
離れないと危険だしね」

それを聞いた才人は、驚いた。

「1リーグ以上も離れなきゃ危険って一体何をするつもりなんだよ?」
「もうすぐ分かるよ。兎に角急ごう。もしかしたら敵が早く進軍してる可能性があるしね」
 そう言ってレイナールは馬を走らせた。その後を才人達が続いて行く。

 約15分後才人達は、丘の上に着いた。眼下を眺めると沼があるとおぼしき地点には濃霧
 が立ちこめていた。
「随分濃い霧がかかっているな。これじゃ何も見えないぞ!レイナール」
「見えなくて当然だよ。あの霧は、水メイジ達が発生させたんだから」
 才人の疑問にレイナールが答えた。

「スリープ・クラウド?」
「いや、正真正銘ただの霧さ。スリープ・クラウドを事前に発生させたら敵が警戒し散開
して厄介になる」
「じゃあ何のために霧なんか発生させたんだ?」
「これから行う作戦にどうしても必要だからさ」

「奇襲…じゃないよな。誰も配置について無いし、第一あんなに濃い霧じゃ正確に
当たらないだろうし、最悪同士打ちの可能性あるよな。俺達がここにいるから足止め
でもないし、1リーグ離れないと危険…俺の頭では全くわかんねぇな」
才人は、そうボヤいた。

「そうボヤくなよ。もうすぐ分かるからさ。マリコルヌ、遠見の魔法で敵の現在位置を
 調べてくれ」
「分かった」
 マリコルヌは、ルーンを唱え遠見の魔法で索敵した。
「先頭のトロル鬼が霧の所まで後100メイル程だな。その隊列が約200メイル程、少し
 離れて人間の隊列が約300メイル程だね」

「そうすると全員が霧の中に入り切るのに凡そ9分〜10分程。此処までは、ほぼ予定
通りだね。後は全員霧の中に入ってくれれば、もうこちらの勝利だね」
レイナールは、既に勝利を確信しているようであった。

 そして10分程で敵側は、全員霧の中に入った。
 それを確認したギーシュ達は、霧の上空に方々から集まり、錬金で霧をランプ油(不純
物の多いオリーブ油)に変え其の場を全力離脱した。
 其れを確認したキュルケは、霧の中央上空で着火を唱え、火薬玉を投下しシルフィード
 はその場から全力離脱した。

 そして30秒後、大爆発が起こりキノコ雲が立ち上った。強烈な衝撃波が全てを薙ぎ倒し
 或いは吹き飛ばした。霧が立ち込めていた場所には、立っているものは何一つなかった。
 残されたのは、直径600メイル近いクレーターと夥しい死体の山であった。
 文字通り敵は1人残らず全滅した。
 安全圏まで離脱したとはいえ、遮蔽物の無い上空では、威力が落ちたとはいえ、爆風が
 襲って来た。

「うわあっっっと。さっきの場所から1リーグ以上離れたと言うのにこれ程の爆風が来る
なんて一体何が如何なっているのかね?それにしても全力離脱しろなんて言う訳だ。
離れなければ確実に死んでいたな。此れでは敵はひとたまりもなかったろうね。しかし
この分じゃサイト達が黙って無いな。」
ギーシュは、爆発の威力に驚いた。しかしそれよりも才人達が激昂するのが心配だった。
才人が何よりも人の死を毛嫌いするのをギーシュは、良く知っていた。
「けんかしてなきゃいいんだけどなあ」とギーシュは、ため息混じりに呟いた。

同じ頃のシルフィードは、
「何なの?ねぇお姉様一体何が起こったのね、きゅい」
「大爆発」
「そんなの見れば分かるのね、きゅい。シルフィーが知りたいのは如何してあんな大爆発
 が起こったかなのね。きゅい」
「恐らく『爆炎』の応用。錬金した油の量が桁違いだからあんな大爆発になった」
 タバサは、豊富な知識を基に推測した。

「でも本来『爆炎』は火のトライアングルスペルよ。でも私が今使ったのは『着火』よ。
火メイジが最初に覚えるスペルでこんなに凄い大爆発が起こせるなんてね」
キュルケは、半ば呆れるように呟いた。

「この作戦の恐ろしい所はそこ。使ったスペルは全てドットスペル。さっきの火薬玉さえ
 有れば、メイジの力量の合計に比例して規模が大きくなる。本来スペルの重ね合わせは、
 非常に難しい。王族同士のヘクサゴンスペルや聖堂騎士隊の讃美歌詠唱など特別な血、
訓練によってはじめて可能。しかし此れは個別に唱えているにも拘らず、それらを遥か
に凌駕する威力になっている。このスペルの組み合わせは危険過ぎる」
タバサは冷静に分析し、大きな危機感を抱いた。

「確かにね。今の作戦私達を含め32人でトロル鬼200とならず者1,000人全滅よね。
凄いけど此れを戦場で使ったら万単位の死傷者が出るわね。逃げる手段さえ有れば
ドットメイジ100人位でトリスタニアが壊滅ね。逆に3人でも1個中隊位壊滅させる
事が可能だわね。全く何て事思い付くのかしらね」
彼女達は、今後この作戦が他に知られない様にすべきと考えていた。一瞬で王国を
ひっくり返す危険がある。それほど凄まじい威力の爆発であった。
 才人は、きのこ雲を見て一瞬思考が停止した。
 才人の近くにいた風メイジ達はギーシュ達が動き出した後「エア・シールド」を張って
 置いたので才人達には、全く被害が無い。しかし1リーグ以上離れていたとはいえ、
爆風で周りの木々は大きく揺さぶられ、弱っている木は倒れていった。

 暫くして才人は思い出したかのようにレイナールに食ってかかった。
「なんちゅう事すんだよ!レイナール。あれじゃ全滅してるだろ!ならず者だからって
殺す事無いだろ!更生させれば良いじゃねぇか」

激昂する才人にレイナールは、
「君の言っている事は、人間としては正しい。でも僕達は守備軍も合わせても約160人程
 対して敵は、トロル鬼200とならず者約1,000人だ。一人も殺さずに全員捕縛するには
 戦力差が有り過ぎる。その戦い方だと下手をすれば此方が全滅だ。君は僕達に死んで
 欲しいのかい?」

「そんな訳ねぇだろ。でもあれはやり過ぎだ!あんな大爆発じゃ誰も助からんだろ。あの
 霧を『スリープ・クラウド』に変化させられなかったのか?」
 才人は、疑問に思った事を口にした。

「『スリープ・クラウド』は、『錬金』のように元から有る霧を変化させるスペルじゃない。
それにあの霧は、沼の水を利用して大量に生成したものだ。あの密度の濃霧では、上空
から『スリープ・クラウド』を使っても 敵兵に届くまでに効果が薄れてしまう」
 魔法に疎い才人のためレイナールは解説した。

「ちょっといいかね?」
 付き添いで来たコルベールが話しかけて来た。
「はい、構いません」

「ここで議論しても亡くなった方達は、生き返らない。レイナール君、この作戦内容は、
公表しないで貰いたい。見た所『爆炎』の応用だね。しかも使ったスペルは全てドット
これが軍に知れ渡れば、戦争での戦死者の数が桁違いになる。そしてこういう物は、
研究され更に強力になる危険がある。だから報告は通常戦で勝った事にして欲しいのだ」
 コツベールは、自分の過去を振り返りながらレイナールに頼みこんだ。

「先生、申し訳有りません。既にこの作戦内容は、軍上層部とアカデミーは知っています。オークションの後、騎士人形を倒した事でアカデミー主席研究員のルイズの姉上に
根掘り葉掘りされまして、その時この作戦内容を話したのです。付け加えるならば、霧
を『錬金』する時、ランプ油ではなく『ガソリン』に出来れば威力が向上すると伝えて
有ります。更に教皇聖下がこのような敵が又襲ってくる可能性が有るので研究して、
実用化・強力化を要請しておられました」
レイナールは、コルベールの願いを打ち砕く事を話した。

「既に聖下までご存知で、その上研究にもお墨付きをお与えになったとあっては、例え
 女王陛下といえど研究の中止は、命じられないな。不味い事になってしまったな」
 コルベールは、俯いて黙り込んでしまった。

 それは当然の事と言えた。ランプ油ですら此れだけの威力が有るのだ。これがガソリン
になったらどれ程威力が上がるか予想がつかない。2倍?3倍?もしかしたらそれ以上?
 いくら強大な敵の為とはいえ、これが通常の戦争に用いられないという保証はどこにも
 ない。いや先手必勝とばかりにどんどん使われる可能性の方が高い。
 そうなれば、死者の数は此れまでとは比較にならない。
 最悪双方が使えば両軍全滅だって有り得る。
 正に悪魔のコンボスペルとなるに違いない。

「レイナール!なんでガソリンの事知っているんだ?」
「おいおい僕は、仮にも枢機卿の補佐官兼副大元帥なんだよ?ここ最近の機密文書関係は、
 全て目を通しているんだよ。先生が石炭からガソリンを錬金した事も、アルビオン戦役
では、その方法で宮廷の土メイジが大量に作り出した事もね。今回は間に合わなかった
けど、恐らくガソリンの効率的な生成法を研究していると思うよ。石炭やガソリンを
大量に持って移動するなんて非現実的だからね」

 レイナールの言う通りであった。地球と違い輸送には大きな労力がいる。増してや
ガソリンは引火しやすい。何も知らない人間が扱えば大惨事確実だ。
だからこそ、魔法で現地調達するのにこしたことはない。

「兎に角、現場検証しなければいけないな。先生、サイトとルイズを連れて城に戻って
いただけませんか?彼等には刺激が強過ぎるでしょうから」
 レイナールは、才人達を気遣ってコルベールに懇願した。

「私は構わないが、サイト君達はどうするかね?」
「レイナール。俺は立場上見に行かなきゃならないんじゃねぇのか?」
「そんな事はないよ。軍の上層部が最前線の現場検証なんてした事ないと思うよ」
「其れを言ったらお前もそうだろ」
「まあ、そうだけどね。僕自身見てみたいのさ。自分の考えた事の結果をね」
 才人は、やっぱりこいつは、アカデミー向きの性格しているよな。と思った。

「分かった。現場を見たら又お前とけんかしそうだしな。お言葉に甘えさせて貰うよ
 帰るぞルイズ」
「ええ、仕方ないわね。レイナール後は宜しくね」
「ああ、任せてくれ」

こうしてレイナール達は、事後処理に向かい、才人達は城に引き返した。
 帰る道すがら才人はコルベールと話を交わした。
「先生俺、爆発後のキノコ雲を見た時、核爆弾が爆発したのかと思いましたよ。まあ
こっちには存在しないから有り得ないんですけどね。かなり違いますが燃料気化爆弾に
似ている所が有りますね」

「どんな所がだね?その前に核爆弾と燃料気化爆弾とはどんな物なのかね?」
「俺の知ってる範囲で言うと、核爆弾は、一発で何十万人も殺すような爆弾です。
 そして助かった人達にも色々な後遺症を残す。そんなとんでもない爆弾です。60年以上
前に俺の住んでいた国に二発落とされて、直撃で計20万人以上が亡くなっています。
その後、後遺症で何十万人の方が亡くなり、今も後遺症に苦しんでいる方が大勢います。
加えてその方達の子孫にまで影響を及ぼす。正に悪魔の爆弾ですね。
仕組みは、こっちに似たような物が無いんで説明出来ませんね。俺自身難し過ぎて理解
出来ない事が多いですし。
燃料気化爆弾は、ガソリンのような高揮発性液体を強固な密閉容器に大量に入れて、他
の爆薬を爆発させて容器を急激に熱し高温高圧の状態を作り出した後、弁の様な物が
開いて中の液体を一瞬に気化噴出させて大爆発させる爆弾です。結果はさっきの作戦の
様になります。軍事機密に関わる事が多くあるので、正確な情報じゃ無いかもしれませ
んけど」
才人は、以前インターネットで見た内容を簡潔に話した。

「技術が国益と言いながら人の不幸のために発展してしまった悲しい一例だね。核爆弾は
 ここでは、製作不可能だから置いといて、燃料気化爆弾の液体は、どの位の量なのかね?」
「大きい物は、俺の100人分位の重量だったと思います」

それを聞いたコルベールは才人を持ち上げた。
「大体150リーブル位だね。そうすると1万5千リーブル程か、確かに物凄い重量だね。
 その上爆発力もこちらとは桁違いなのだろう。サイト君のいた世界は、そんな恐ろしい
爆弾を戦争に使いまくっていたのかね?」

「いえ、そんな事はないと思いますが…こんな恐ろしい爆弾を実用化している国は、ごく
 一部ですから。それに正確な情報は、俺達民間人には伝えられませんから」

 才人は、思い返した。
 いつの時代、世界中どこでも正確な戦争の内容は、民間人に伝わる事は無かった。
 戦果は誇張され、被害情報は皆無か誤魔化しきれない物のみであった。
 多かれ少なかれハルケギニアでも同じ事が行われている事を、ギーシュ達の会話から
聞いたことが有った。
そう言えばコルベールは、俺の体重を大体150リーブルと言ったっけ?俺の体重は今
約68sだから1リーブルは0.453s位か。そうすると俺らの世界のポンドと同じ位だな。

「それもそうだね。どの国にも機密事項は存在するからね。私としては今日の作戦は、
無かった事に出来れば良かったんだがね。聖下のお墨付きとあっては、詳細を報告しな
ければならないな。これを戦争に使って欲しくないのだがね。困った事だ」

「先生。そう言えばどうしてあんな大爆発になったんです?結果的には燃料気化爆弾
みたいになってますよ?爆発力自体は遠く及ばないと思うんですよね」
才人は、先程の爆発の疑問をコルベールに尋ねた。

「うむ、恐らく同じ質量なら爆発力は十分の一にも及ぶまい。しかしこの作戦で錬金した
油の量は、1立方メイル当り0・1リーブル位と仮定すると300×300×3.14×10×0.1で
計算すると約282,600リーブル位で燃料気化爆弾の約19倍の重量となり質の差を量で
補ったということだな。まあ土スクウェアメイジ10人でも100%錬金出来た訳では無い
だろうからこれよりも多少少ないと思うがね」

錬金は、どうしても不純物が混ざる。そしてこれだけ大量に錬金するとなると錬金しきれ
ない量も少なからず有るのだろう。錬金した水分の量をs単位に直すと約128t!なるほど
これじゃあ「スリープ・クラウド」かけても効果は期待出来ない訳だ。
心配なのは、この作戦の報告によって、アカデミーで研究、改良、強化されたコンボ・
スペルの誕生と実戦に投入され、多くの死者を生み出さないかだ。無駄だと思うがエレオ
ノールさんに研究中止を頼んでみるしかないなと考える才人であった。


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