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Last-modified: 2008-11-10 (月) 22:49:29 (5646d)
251 :そこに『山』があるから ◆mQKcT9WQPM :2007/09/29(土) 23:12:02 ID:N08vdf6f 「ん?なんだありゃ」 昼ごはんを食べに食堂へやってきた才人が目にしたものは、黒山の人だかり。 「よ。ギーシュ。なにこの騒ぎ?」 ギーシュはくるん!と振り向くと、才人に向かって言った。 「はぁ?」 才人にはギーシュの言っている事が理解できない。 「厨房の平民たちが反乱を起こしたんだ!これは大事だぞサイト!」 相変わらずオーバーで要領を得ない騎士団長のお言葉に、才人はもっと頼りになりそうな人物を探す。 「反乱だなんて大げさだなあ」 そうそう、やはり頼りになるのはコイツ。 「なんかね、『チャレンジメニュー』とかいうのを今やってるんだって」 レイナールの説明によれば、その『チャレンジメニュー』とかいうメニューを制限時間内に食べきれば、今年の間中、食堂のメニューが食べ放題、らしい。 「で、何よその『チャレンジメニュー』って」 才人はココイチの1Kgカレーを想像したが、レイナールはそんな才人に応える。 「ううん、まだ誰も頼んでなくてさ。メニューの内容もどんな量なのかもわからないんだよ」 才人は呆れたようにそう言うが、内容のわからないようなメニューを頼むような冒険者は、ここにはいないらしい。 「なんだよみんな、だらしないなあ」 252 :そこに『山』があるから ◆mQKcT9WQPM :2007/09/29(土) 23:12:48 ID:N08vdf6f 王だ。王が来た。 「『チャレンジメニュー』…ひとつ」 おおオオおおおおおおおおおおおおおおおおお! 歓声が上がる。 マッリコッルヌ!マッリコッルヌ! 「…ナニコレ」 流石の才人もちょっと引きが入る。 「何、簡単な事だよ」 そんな才人に、ギーシュが説明する。 「彼は、入学式の新入生歓迎会で…。 …なんか前『風上のマリコルヌ』とかってバカにしてなかったか? 「へい、チャレンジメニュー一丁っ!」 マルトー親父がごっつい手で、カウンターにとん、とトレイを一枚置いた。 「親父…」 激昂した。 「僕を、舐めないでもらおうか! トレイの上に乗っていたのは、普通のシチュー皿。 「そういうセリフは…ソイツを完食してから言ってもらいましょうか」 まずい料理を供して、それを完食できなければ罰金、という飲食店もままある。 「それは、フードファイトの理念に反しますぜ、マリコルヌ坊ちゃん」 マルトー親父の言う通り、その皿の上の料理からは、食欲を誘う芳しい香りと湯気が立ち昇っている。 253 :そこに『山』があるから ◆mQKcT9WQPM :2007/09/29(土) 23:14:01 ID:N08vdf6f マリコルヌのその笑顔からは、完食を確信した余裕の心情が見て取れた。 「では、この砂時計が落ちきるまでが、制限時間です。 周囲の生徒たちにも確認できるように、マルトー親父は砂時計をぐるりと回す。 「それでは、どうぞっ!」 カン! 勢いよく反転した砂時計が小気味よい音をたててテーブルとぶつかり。 結論から言って。 「か…からい…うまい…」 マリコルヌはそう言うなり、丸い顔を真っ赤に染め、そして、ばたん、とテーブルに倒れこんだのだ。 「…勝った」 マルトー親父は砂の落ちきった砂時計を取り上げ、勝利を宣言する。 「…なあ、マルトーさん」 マルトー親父はにっこり笑い、才人に聞き返す。 「アレ、やっぱ辛いの?」 言ってマルトー親父はマリコルヌの残した皿から一つまみ、米を取る。 「食ってみろ」 騙されたと思って、とマルトー親父は続ける。 254 :そこに『山』があるから ◆mQKcT9WQPM :2007/09/29(土) 23:15:01 ID:N08vdf6f しかし次の瞬間。 「か、か、か、かれええええええええ!なんじゃこりゃあああああ!」 そして得意げに、マルトー親父はその料理の材料を語った。 「まず、その米を炊くのに使ったのは、ジョッキ一杯分のムシゴロシの実を、同じ量の水に二晩漬け込んだものだ」 その言葉に、生徒たちがざわ…とざわめく。 「ムシゴロシの実っていうのは、その名の通り殺虫剤に使われる赤い実でね。ものすごく辛いんだ。 鷹の爪みたいなもんか、と才人は納得する。 「かかっているソースは、トマトをベースに、潮漬けにしたムシゴロシの実の粉末を混ぜ込んである。 解説を聞いたギーシュが、自分の口を開けて舌を出し、まるで自分がそれを口にしたような顔になる。 「…それは…辛いわけだ…」 にっこり笑うマルトー親父。 「ま、でも一度に食べ過ぎるとああなるが」 言ってマルトー親父の指差す先には、倒れ伏すマリコルヌ。 「今回は、俺達厨房の勝ち、ってこったな」 そう言ってがはは、と笑うマルトー親父に、ギーシュが悔しそうな顔をする。 「くそう…。誰か、アレを食べきれる剛の者はいないのか…!」 しかし、マリコルヌの敗れた今、これを時間内に完食出来る猛者など、いないだろう。 「…あのー」 そんな空気を吹き飛ばすように、柔らかい、鈴を転がすような声が、食堂に響く。 「なんでしょうかね?ミス」 マルトー親父は、彼女の視線が自分に向いている事から、その声が自分に向けられたものだと判断した。 255 :そこに『山』があるから ◆mQKcT9WQPM :2007/09/29(土) 23:15:44 ID:N08vdf6f まさかこんな少女がこのメニューに挑戦はすまい。 「あ、あの、私…挑戦しちゃだめ…ですか?」 そして次の瞬間。 「いけませんティファニアお姉さまッ!命を粗末にしてはッ!」 あっという間に複数の生徒に囲まれるティファニア。 「大丈夫、ムチャはしないから。 言って、にっこり笑ってマルトー親父に言う。 「…ようがす。じゃ、ちゃちゃっと作ってきますんで、お待ちください」 すぐに、厨房に引っ込んだ。 「…わかりました。お姉さまの意思は固いのですね」 にっこり笑い合うと。 『親父!『チャレンジメニュー』だ!』 全員が揃って、そう言った。 「え?え?あの?」 今度はティファニアが呆気に取られる番だった。 「…では、この砂時計が落ちきるまでが、制限時間です。 ティファニア以外の全員が、こくん、と頷く。 256 :そこに『山』があるから ◆mQKcT9WQPM :2007/09/29(土) 23:17:11 ID:N08vdf6f ティファニアの一言で。 「それでは、どうぞっ!」 全員が、一気に目の前の山に、食らい着いた。 死屍累々。 「…ごちそうさまでしたー!」 最後の一口を容易く片付け、砂時計はなおも時間を余らせている。 「あ、あの辛さを、平然な顔でっ?」 驚愕するマルトー親父とギャラリーの視線に、応える者がいた。 「聞いたことがある…。あれは…」 レイナールの呟きに、控えていた生徒の一人が合いの手を入れる。 「味覚鈍化…!エルフの間に伝わる、どんな味のものも食することが出来るようになる、究極の法…! …民明書房かよ! 257 :そこに『山』があるから ◆mQKcT9WQPM :2007/09/29(土) 23:19:03 ID:N08vdf6f たしかにティファニアの顔は赤くなっていたし、汗もかいていた。辛くないわけではないようだ。 「…負けた…!俺の、俺のレシピが負けたっ…!」 がっくりとうなだれるマルトー親父。 「いいじゃないですか、親父さん。 にっこり笑うシエスタに。 「………。 マルトー親父は拳を握り締めて立ち上がり、天を振り仰ぐ。 「よーし、次のレシピを考えるかぁ!」 盛り上がる二人に、いつのまにか復活していた机の上の面々が拍手を送る。 「次は僕が勝つ!」 妙な感じに盛り上がる食堂の面々を、食堂のすみっこで本を読みながらいつものサンドイッチをつついていた青い髪の少女が、冷ややかに見つめて言った。 「…バカばっか」 〜fin *後日、『チャレンジメニュー』を食べたティファニア以外の面々は、トイレで酷い目に逢ったそうな* |
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