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Last-modified: 2008-11-10 (月) 22:50:45 (5646d)

667 :人生の終焉 ◆mQKcT9WQPM :2007/12/18(火) 11:58:48 ID:uu0yBZlL
さて、どこから話したもんかな。
しかしなんでまた、先生の話なんか聞きたがるかね。
…へえ?『ハルケギニアを変えた男』の過去に興味があるって?
まあねえ。当代随一の使い手だしな、一応。
夫婦揃ってクソ強いし。
ウチが喧嘩売りたくない貴族の一つだな間違いなく。
…悪ぃ、何度もした話かこれ。
さてと。じゃあ、どこから聞きたい?
…マテ。夫婦のなれ初めってお前。
よーするに、あのおっさんの色恋の話が聞きたいだけか!
なになに?本音は課題がめんどいから?弱点握ってなんとかしようって?
…まあなあ。あの人のその辺の話は確かに弱点になるし、もの凄く笑える話なんだが。
しかしお前もズル賢いな、そんな手で課題なんとかしようって。誰に似たんだか全く。
…ってーか、母さんに聞こうって思わんかったのか。色恋の話だろーに。
…いやまあたしかに、母さんそのへんの話に関しちゃ口堅いけどな。奥さんと仲いいし。
わかった。じゃあ、出会いの所から生還した所までの話はこないだ話したよな。
今日は、あのおっさんが、人生の墓場に到着した時の話をしてやろう。
いやもうこれが、笑える話でねえ…。

668 :人生の終焉 ◆mQKcT9WQPM :2007/12/18(火) 12:00:03 ID:uu0yBZlL
その日。
トリステイン魔法学院のある研究室で、その事件は起こった。
まず、その日の朝、王都からその研究室の主に、書簡が届いた。
王家の封蝋の施されたそれは、なんと近衛騎士団である銃士隊の隊長の手によって届けられた。
金髪の隊長は『なんで私が、あの男の所に書簡を届けなければいかんのだ』などとブツクサ文句を言っていたが、王命では致し方ない。
『ちゃんと本人に手渡してきてね。人に預けてはいけません。これは王からの勅命です』などと脅されては反論の余地はなかった。
実はそれはその勅命を下した女王の陰謀で、普段からまるで姉のように何かと小うるさい上に、自分の想い人をオモチャにしているその隊長を厄介払いするためのものであった。
隊長は不機嫌な顔で真っ直ぐ研究室に向かった。ぶっきらぼうに扉を開き、中の住人を大声で呼ぶ。ノックなど不要だ。
すると、そこにいたのはその部屋の住人ではなかった。
ゲルマニアからの留学生。真紅の髪に褐色の肌の、扇情的な体つきの女生徒。
その女生徒は『ああら、女王の腰巾着様。ウチのジャンに何か御用?』と挑発してきた。
その女生徒と隊長は以前、ここの部屋の主を殺すの殺さないのでもめた経緯もあり、ちょっとした敵対関係にあった。
しかし隊長はそんな挑発に乗るほど子供ではなかった。冷静に状況を判断する。
王からの勅命で王家からの書簡を直接ここの主に届けに来た、と女生徒に伝えると、ここで待たせてもらう、と手近な丸椅子に腰を下ろす。
自分の挑発に一切乗らない隊長に、女生徒は軽く苛立ちを覚える。
女生徒は隊長ほど齢を重ねていない。それゆえの若さが、隊長の態度を、自分への無礼として捉えさせた。
女生徒は隊長をねめつけ、『書簡なら私がジャンに渡しておきます。妻として当然の義務ですもの』などと言った。
当然部屋の主と女生徒は婚姻関係などにはない。女生徒の一方的な言いがかりだった。
しかし、何故かその発言に、隊長はカチンときた。きてしまった。
そして思わず応えてしまう。無視しておけばいいのに。
『あの男が結婚したなどとは初耳だな。お前まさかゲルマニアの間諜にでも成り下がったか?』と薄ら笑いで返してしまった。
微熱の二つ名を戴く女生徒の心に、その言葉はあっさりと火をつけた。
女生徒はひきつりながら『間諜とは失敬な。いずれは妻になる身、という意味で申し上げただけですわ』と返す。
隊長はその台詞がまた耳に障った。何故かは分からないが、無性に腹が立った。
思わず立ち上がり、『本人の意思がなければ婚姻には至らぬと、始祖は定めておられる。なるほど、ゲルマニアは未開の地らしく始祖の教えが根付いていないらしい』と挑発する。
書簡をひらひらさせながら。それが失敗だった。
女生徒はその隙を見逃さず、その書簡を奪い取ろうと手を伸ばす。一瞬で隊長の持つ反対側に手が届き、しっかりと握り締める。
戦闘訓練を積んだ隊長は一瞬でその事に気付き、書簡を手元へ引く。
それを察した女生徒も、慌てて書簡を引く。
そして悲劇は起こった。
書簡の大して頑丈でない封はあっさりと破れ、中身が床にぶちまけられる。
その中身は革でできた表紙の中に、二つ折りの紙を挟んだもの。
片方に女性の全身の肖像、片方にその女性の詳細なプロフィールが書かれたもの。
俗に言う、『お見合い』の紹介状であった。
そしてその上に、女王直筆の、少し大きめの字で書かれた便箋がひらりと舞い降りる。

669 :人生の終焉 ◆mQKcT9WQPM :2007/12/18(火) 12:00:30 ID:uu0yBZlL
そこにはこう書かれていた。『ミスタ・コルベールへ。そろそろ身を固めてはいかがでしょうか。あなたの好みの女性を、知り合いの貴族から紹介していただきました。よければ一度、会ってみてはいかがでしょうか』
二人はその場で固まる。
女王のセッティングしたお見合い。王家の紹介した結婚相手。つまり、その見合いに参加するということは、例え興味本位でも、互いに合意したものとみなされるだろう。
もし断れば王家のメンツを潰す事になる。貴族ならば痛いほどその意味が理解できていた。
女生徒と隊長は固まったまま、その女性のデータを無意識に脳裏に焼き付ける。
まずは肖像。
座っている椅子のサイズから考えて、身長はさほどでもない。顔立ちは美しいというより愛らしく、年齢の割りに幼い印象を受ける。
真っ直ぐに伸びたアッシュブロンドは手入れが行き届いており、同じ女性の目から見ても美しいと思える。
体つきは華奢だったが、女性としての丸みはしっかり有しており、扇情的とまではいかないものの、しっかり女性を感じさせた。
そしてプロフィール。
けっこうな大貴族の次女で、見た目の割りにけっこうとうが立っている。
今はアカデミーで研究顧問をしているらしい。属性は『土』。特に錬金の術が得意で、今は効率的に石炭を作り出す研究をしている。
趣味は他の研究のレポートを聞くことと、料理にガーデニング。
性格はおっとりとしたのんびりやで、少々抜けたところがあるらしい。
二人は焦った。
部屋の主の好みはわからないが、世の男性に問うたら、二人とこの肖像の女性なら、ほぼ間違いなくこの肖像の女性を選ぶだろう。
その時。悲劇が更に加速する事態が起こった。
部屋の主が帰ってきたのだ。
主は二人を確認すると教師らしく二人にきちんと挨拶し、そしてその足元に散らばった何かを確認する。
二人は慌てて、女生徒は便箋と書簡の残骸を、隊長は肖像を後ろ手に隠す。
なんですそれは、と尋ねる部屋の主に、二人は『な、なんでもないわジャン!なんでも!』『そ、そうだぞ、貴様の気にする事ではない!』と部屋の主に背中を見せないようにぎこちない動きで部屋から出て行く。
二人は揃ってそれじゃあ!また後で!と部屋の主に挨拶すると、女生徒は右側の扉を、隊長は左側の扉を乱暴に閉じて、部屋の前から逃げ出す。
部屋の主はなんだったんだろう、としばらく首を捻っていたが、すぐに研究のための書籍を部屋に探しに来た事を思い出し、検索作業に戻ったのだった。

670 :人生の終焉 ◆mQKcT9WQPM :2007/12/18(火) 12:00:51 ID:uu0yBZlL
二人はしばらく走った後、塔の陰に隠れて顔を見合わせた。そして。
な、なんでアンタが慌ててんのよ!き、貴公こそさきほどの余裕はどうした!などとなじりあい。
そして、大変な事に気づく。
二人がした行為は立派な叛逆罪である。王家の書簡を隠匿し、持ち去ったのだから。
しかし、この行為をなかったことにする方法が、一つだけあった。
そう。この見合いを、ハナから破談にしてしまえばよい。
つまり、ジャン・コルベールに、結婚を同意した意中の相手がいればいいのだ。
それに相応しいのは、この私、キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーに他ならない。
…ヤツに償いをさせるのは、この私、アニエス・シュヴァリエ・ド・ミランだ。誰にも邪魔はさせん…!
二人はもう一度お互いに視線を交わすと、書簡の残骸と見合いの紹介状をその間に放り投げ、火を放つ。
小さな焚き火を挟んで、二人はコルベールの縁談を破談にするため、人生を賭けた博打に打って出る事にした。

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24-85孔明の罠〜アニエスのばあい


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