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Last-modified: 2008-11-10 (月) 22:52:48 (5645d)

それは蒼から始まった物語 (6):ダブルフェイス 2  バレット

もしイザベラが見たら「似合わないねぇ」などと言われそうなへの字口のぶっちょう面。
すぐ隣ではジョゼフが歯に衣着せぬ言葉を吐いてる真っ最中だが、右から左、耳に棒でも差し込んだらそのまま反対側から出てきそうなぐらいに絶賛素通り真っ最中、今のサイトには内容なんてこれっぽっちも入りはしない。

そんな風になるくらい今サイトが何に集中しているかといえば・・・
反対側でジョゼフに熱心になにやら説いているヴィットーリオと、にっこりアルカイックスマイルを貼り付けたままピクリとも表情を変えないジュリオである

・・・昨日のあれって、絶対見間違いじゃねぇよなあ。
あったよな。クッキリハッキリ2人もささやかだけど膨らんでたよな?
イザベラほどじゃねーけど、それでもシャルロットよりはおっきかった気がするし。
あークソ、2人とも着てる服がダブついてるから判りゃしねえ!

えらく力の篭った視線がこの場に居る3人にはバレバレだが、生憎本人はサッパリ気付かない。
ジョゼフの方は内心訝しげに何やってんだコイツ的な気分だったが、当事者2人は熱い視線にちょっといっぱいいっぱいだったり。
顔に出すような事はしなかったが、もし顔に出てたら似合わない冷や汗をタップリ流してた事だろう。
ポーカーフェイスって、偉大だ。

チラリと視線を交わした宗教家組は、内心をおくびにも出さず提案した。

「少々休憩しましょう。ああすみませんが国王陛下、彼と少し『話』をしても構いませんか?」
「構わぬ。だがコイツを引き込もうとしても無駄だと思うぞ。何と言ってもアルビオンのエルフの王女を愛人にしてる男だからな」

そこでようやく現世に帰還したサイト、ジョゼフの言葉に思わず盛大に噴き出す。

「な、何で知ってんだよ!?」
「ふむ、やっぱり手を出してたか。なあに、どうせ娘の同意も得てるんだろうが。
別に気にしなくてもいいぞ、もしろもっとやれ。だがせめて卒業までは孕ませるなよ?いやいやだがこの歳で『お爺ちゃん(はあと)』と呼ばれるのも捨てがたいな。
ああ、でもやはり孕ませるなら俺の娘からにしてくれ。名づけるのは俺だぞ。それだけは譲れん」
「あーっ、カマかけただけかよ!つーか(はあと)ってキモいわ!せめてその髭どうにかしてから言えよ!つーか気ぃ早いわ!」
「何を言う!俺から髭を取ったら何も残らんだろうが!」
「自分で言うか自分で!」

いきなりコンビ漫才勃発。唐突な掛け合いに信仰コンビ、思わず仮面が剥がれて唖然とした顔。
大国の指導者が一見冴えなさそうな青年とボケと突っ込みの欧州、じゃ無くて応酬をしはじめたら―――まあ、しょうがないよなぁ。
本場よろしくドツキ漫才に片足突っ込みそうなるも、何とか再起動して2人を止める。
それだけで、何だかとっても疲れた教皇様、今年で22歳。
2人の傍に居るとあっという間に老けそうな気がしたのは・・・・・・きっと気のせいじゃないだろう。

安心して欲しい。ガリアの王宮に行けばきっとお仲間がいっぱい居るから。主にジョゼフの弟を筆頭に。

まあそんなこんなで、呼び出されたサイトは教皇とそのお供の少年(少女?)に執務室へと招かれた。

「あー、2人が呼び出したのってやっぱ昨日の事ですよね?」

結局昨日は明らかに見ちゃいけない類の同姓?同士の濡れ場に飛び込んでしまったサイトは、回れ右してスタコラサッサと退却して終わった。
ジョゼフには言っていない。2人が周りには『男』で通してる以上、やっぱ言い触らしちゃ不味いだろと判断するだけの頭がサイトにはあった。
・・・今までそれで散々痛い目みたからなぁ。主にイザベラとシャルロット絡みで。

「確かにその通りさ。しっかり見たんだろ、君?」
「まーなぁ。そりゃ、見たか見てないかどっちかって聞かれたら『見た』としか言い様が無いし・・・」
「だろうね、さっきの君の僕達を見つめるあの目!物凄かったよ。人間あれだけ集中できるもんなんだな!」
「からかうのはそこまでにしておきなさいジュリオ。
・・・まずはお礼を言うべきなんでしょう。昨夜のわたくし達の事を、国王陛下に言わずにいてくれて本当にありがとうございます」

深々とヴィットーリオの頭が下がる。そうされてむしろサイトは慌てた。

「べ、別に教皇様が謝る事じゃありませんよ!ただ男のふりしてたんなら、周りにバラしたりしたら不味いよなと思っただけだし」
「ヴィットーリオと呼んで下さい。そこまで畏まらなくても結構です」
「は、はあ・・・」

ちょっと調子が狂い気味である。どうもこういう丁寧な物言いにはサイトは慣れてないらしい。

「きっとあなたはわたくし達が何故正体を隠しているのか気になっている事でしょう」
「はぁ、いや、まあ、正直言ってその通りです」
「ですから、まずその部分について説明をさせて下さい」

 

元々宗教というのは、基本的には女性に対する戒律が厳しい物が多い。
例えばイスラム教。年頃の女性は既婚者で無い限りベールで顔を隠して無ければならないというのは、サイトもうろ覚えだがどっかで聞いたような気がする。
この世界の主な宗教であるブリミル教も似たような物で、結婚しても三ヶ月過ぎるまで初夜は禁止云々も廃れ気味ではあるが主な戒律の1つである。

その関係で、ロマリアの神官達には女性が圧倒的に少ない。
居たとしても、せいぜい下っ端程度。上級神官のほぼ全員は男だ。
どうもロマリアでは男尊女卑という風潮が殊更強いらしい。

「信仰を誤った母を持つ者と後ろ指を指されぬ様神学に打ち込む為には・・・『女』である事を捨てなければならなかったのです」
「は、はあ」
「『男』として朝も昼も夜も打ち込んだ結果、私は今の地位を許されるまでになりました。
ですがある日、わたくしは己の『虚無』の系統について詳しい事を調べようと思い、その一環で『コントラクト・サーヴァント』を行い・・・」
「同じような立場の『僕』が召喚された、という訳さ」
「あー、んじゃやっぱりお前・・・えーっと?」
「ジュリオ・チェザーレ。ジュリオでいいよ」
「ジュリオってやっぱり使い魔だったりするのか?ガンダールヴは俺で、ミョズニトニルンは額だったから―――」
「そう、僕は神の右手ヴィンダールヴさ」

右だけに嵌められていた手袋を外すと、ルーンの刻まれたジュリオの右手が露になる。

「『コントラクト・サーヴァント』は契約を交わすと召喚されたものは召喚者への一種の愛着感を植え付けられるらしいけど、僕達の場合は特別だったらしくてね。
気が付いたら主従を超えた禁断の関係になってたわけさ!僕もいまだに驚いてるよ!」

芝居がかったジュリオの言葉だが、何となく自嘲染みたものも含まれてるのは気のせいだろうか。
ヴィットーリオの方は羞恥の滲んだ表情。心底悔いてるようにも見えなくも無い。
それは聖職者でありながらどんな宗教でも禁忌である同性愛に嵌ってしまった事へか、それともサイトに知られてしまったという事実からか。

「あなたをお呼びしたのは他でもありません。わたくしとジュリオの関係は許されざる事ですが、今後もここだけの話として秘密にして頂きたいのです」
「それは、別に構いませんけど・・・」

少々気まずそうにしながらも、サイトはまあいいかと頷きかけ。

「もちろん対価が欲しいというのでしたら、出来る限りの物をお渡ししても構いません。
ですからせめて、異人達から『聖地』を取り返すまでは秘密にしていただきたい。我々の悲願を達成しハルケギニアを統一出来たのならば、その後はわたくしはどんな罰も受けましょう・・・・・・」

直後の言葉に、ピキリと顔を引き攣らせた。
今の言葉は、気に食わない。

「・・・やっぱり、ダメです」
「何でですか?」
「一々『聖地』を取り返すだのなんの、ハッキリ言ってそういうのは俺は嫌いなんです。
そりゃあっちには俺達を見下す奴だって居ますけどエルフにだって良い奴は居る、話し合って仲良くする事も出来る――――人間とエルフだって愛し合ったりできる。
なのにわざわざ殺しあう必要が何処にあるんです?取り返そうとしなくたって別に『聖地』に行けるかもしれないんだし・・・
戦わずに済むんだったら、そっちの方を俺は選びます。
それでもそっちが力ずくで『聖地』を取り返すって言い続けるんだったら・・・やりたくは無いけど、バラしますよ。皆に」
「何故です?貴方や我々、伝説の力によって『聖地』を取り返せれば、我々は栄光の時代を築く事が出来るのですよ?
そうしてハルケギニアを統一できれば、争いの無い世界を作り出せます。
始祖ブリミルを祖と抱く我々は、みな、神と始祖の兄弟なのです」
「俺は伝説じゃない。統一や栄光の時代も望んじゃいません。
俺は・・・イザベラやシャルロットやジョゼフみたいな、俺の傍に居てくれてる大切な人を守れるんならそれだけで良いと思ってるただの男です。
その邪魔をするんだったら・・・神や始祖なんて知ったこっちゃ無いですよ。
俺の大切な皆に手を出すんなら――例え神だろうが始祖だろうが俺が殺してやる」

それはまさしく、始祖ブリミル、そしてそれを信仰する者達への宣戦布告。

ヴィットーリオは普段の全てを受け入れるような柔和な顔から遠くかけ離れた、愕然とした表情を浮かべつつも何となく納得を覚えた。

なるほど、確かに彼はジョゼフ王の使い魔に相応しい。
始祖だろうが聖地だろうが統一だろうが、彼らにとってはどうでも良い。
ただ自分とその周りの事だけ考えていて、理想よりも現実を優先しているのだ。

だが、自分達もあっさりと引いて終わるような『理想』で終わるつもりは無い。

 

サイトが出て行こうとしたその寸前、突然既に修復されていた扉の鍵が、勝手に掛けられた。

 

「んなっ!?」
「すまないね。決裂しちゃった以上、このままハイサヨナラって訳にはいかないだろ?」
「こういった手荒な真似はわたくし達も望んでませんが・・・統一のため、仕方ありません。ですが、貴方に苦痛を与えるつもりもありませんので、安心して下さい」
「信用できるか、こんな状況で!」
「あ、あと『サイレント』と同じ効果を発するマジックアイテムを作動させてあるし、人払いもしてあるから誰も来ないよ。
昨日の事を考えると皮肉な話だけどね」
「チクショウ!」

隠し持っていた武器を抜いて、サイトがガンダールヴを発動させるよりも早く。

 
 

―――――ヴィットーリオの向けた杖が振るわれるのを最後に、サイトの意識は闇へと堕ちた。

 

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