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Last-modified: 2008-11-10 (月) 22:54:35 (5646d)
猫と七夕〜猫のタバサ せんたいさん
猫の身体も、意外と悪くない。
ひょいひょいと民家の屋根を渡りながら、人の化けた白い猫はそう思った。
いつもより体が軽い。まるで、『フライ』で飛んでいる時のよう。
これなら。
きっと、一番最初に彼のところへ辿り着ける。
猫となったタバサは、まるで白いつむじ風のように、屋根の谷間を走る。
どこだろう?『彼』はこの王都のどこいるのだろう?
魔法学院から来たのなら、西の城壁から入ってくるのが近道だ。
できるなら王宮に着くまでに、彼と合流したい。出遅れた間抜けな三人に追いつかれないためにも。
タバサは西へ西へと向かいながら、通りを見下ろしつつ才人の姿を捜す。
そして。
馬を引きながら王宮へと向かう、才人を見つけた。
…勝った。
タバサは勝利を確信し、才人の元へ向かった。
「…しっかし、姫さまもいきなりだよなあ。ルイズと一緒に呼び出してくれりゃいいのにさ」
馬を引きつつ独り言を呟きながら、才人は王都の舗装された石畳を王宮へと歩く。
西門から王宮までは直線ではなく、いくつかの通りが横切り、何件かの建物によって曲がりくねっていた。しかし道幅は狭くなく、大きな馬車が何台も行き交っている。
そんな道を、才人は急ぐわけでもなく歩いていく。刻限の夕方までしばらくあるし、今のペースなら間違いなく遅めのお茶の時間くらいには王宮へ着くだろう。
そしてその予想通り。
昼を少し回ったところで、才人は王宮の西門へと辿り着く。
門衛に王家の封蝋の入った書状を見せ、シュヴァリエの証を見せる。
門衛は詰め所に戻り、来訪予定者のリストを確認する。
『シュヴァリエ・サイト…来訪時、シュヴァリエ・アニエスに連絡』
そう書かれていた通りに、門衛は連絡係にアニエスを呼んでくるように告げ、そして才人にここで待て、と告げる。
才人は特に急ぐ用事もないので、門の前で待つことにした。
ふぁぁ、と退屈そうに欠伸をし、そして何の気なしに馬を見る。
「あれ?」
いつの間にか、馬の鞍の上に白い毛玉が乗っていた。
そこに居たのは毛足の短い、真っ白な仔猫。
才人が普段腰を下ろす、革の鞍の上で丸くなり、長い尻尾をゆらゆらと揺らめかせている。
「…いつの間に。気付かなかったぞ」
言った才人の視線に気付いたのか、それまで前足に頭を載せて目を瞑っていた仔猫が目を開け、才人を見る。
あ、逃げる。
今までの体験から、こういう時野良猫はどうするか、と考えた才人の出した結論がそれ。
しかし現実では、仔猫は才人と視線を絡ませると、なん、と鳴いて、尻尾を揺らめかせたまま才人と視線を合わせ続ける。
「何だお前、ずいぶん人なれしてんだな」
言いながら才人は、恐る恐る仔猫に向かって手を伸ばす。
仔猫は、な、と短く鳴いて、伸びてきた大きな手を、ざらりとした舌でぺろん、と舐めた。
「はは。すげえ人懐っこいなあ。ひょっとして飼われてるのかお前」
そして、才人が両手を伸ばし、仔猫を抱こうとした瞬間。
「待たせたな」
背後から声を掛けられた。
才人が振り向くと、開いた門の前に、アニエスがいた。
才人は慌てて手を引っ込め、書状をアニエスに差し出す。
「これ。姫さまからの呼び出しなんだけど…」
アニエスは書状を受け取ってふむ、と唸る。
そして呆れたように言った。
「サイト。呼び出しの日付が明日になってるぞ」
「へ?」
それはおかしい。学院で見たときは、確かに『本日の夕刻までに』となっていた。
才人はアニエスから書状を受け取ると、その中身を確認する。
確かにそこには、『明日の昼までに王宮に来られたし』と書かれていた。
「アルェ?俺が見た時は確かに『夕刻までに』って…」
「だから見間違いだろう。…全く、世話の焼ける」
言いながらアニエスは自分の懐を探る。そして財布を探り当てると、その中から金貨を一枚、取り出した。
その金貨を、才人に手渡して。
「お前の事だから、宿代も持ってきてないだろう?コレを貸してやるから、適当な所で明日まで泊まれ。
予報士の話だと、今日は夕方から大雨らしいからな。学院に戻る途中で風邪でもひかれては事だ」
「すいません、アニエスさん」
「礼はいい。それにコレは貸しだからな。来月の貴族年金からきっちり返してもらうぞ」
言ってアニエスは才人に背を向ける。
そしてぱたぱたと別離の手を振りながら、付け加えた。
「その馬の上の姫君にも、風邪をひかすんじゃないぞ」
「へ?」
言われて才人は思い出す。
馬の鞍の上を見ると、また馬上の仔猫と目が合った。
仔猫は丸まったまま顔だけ上げて、なん、と一声鳴いた。
才人が取った宿は、王宮そばの、そこそこいい宿。
店の従業員に案内された、掃除の行き届いたキレイな厩舎に馬を預け、才人は宿へ向かう。
そして、才人が馬から離れようとすると。
鞍の上の白猫がなー、と不満そうに鳴いて、背を向けた才人の肩にひらり、と飛び乗った。
「うわ?」
思わず慌てる才人。
猫がいきなり肩に乗ってくるなど、今までの彼の人生でも未体験の出来事だった。
仔猫は器用に前足をマントにひっかけ、まるで猫の装飾のように才人の肩にへばりつく。
「…なんだお前。お前も一緒に行きたいのか?」
言葉が通じているとは思っていなかったが、才人は仔猫に向かってそう言う。
だが仔猫はその言葉に応えるように、なーん、と鳴き、才人の上でぐるぐるぐると喉を鳴らす。
「…しゃあねえなあ」
才人は嬉しそうなその猫の顔を見て、何も言えなくなってしまう。
そしてそのまま宿に向かう。
もうすでにその頃には大粒の雨が降り始めており、厩舎からの渡り廊下を使わなくてはならなかった。
ざあざあと降り注ぐ雨の音を聞きながら、才人は宿帳を書くべく宿屋のカウンターへ向かう。
宿屋のカウンターは渡り廊下を渡ってすぐ、食堂を兼ねるホールの脇にあった。
そこには初老の中年男が受付として居座っており、才人の姿を認めると、宿帳と羽ペンを用意し始めた。
才人はカウンターへ向かい、そして、そのロマンスグレイの受付に尋ねた。
「あのさ、ここってペット大丈夫?」
才人は言って肩にへばりついた仔猫を指差す。
受付は最初、才人が何を言っているのかわからない、という顔をしていたが。
「何をおっしゃいます。お客様の持ち物でしょう?お客様がどうなさろうとご自由ですよ」
少し質問の意図とはずれていたが、どうやらペットを連れていても大丈夫なようだ。
まるでその言葉が分かったかのように、仔猫はなん、と鳴いた。
「はは。懐かれちゃってさ。離れてくれないもんで」
照れくさそうに頬を掻きながら才人は宿帳に名前を書き入れる。
受付はそれを確認すると、才人に部屋の鍵を手渡して、言った。
「可愛らしい姫君じゃないですか。では、よい夜を」
受付の言葉に、才人ではなく猫が、なーん、と嬉しそうに鳴いた。
部屋は二階の隅、二面に窓のある結構立派な部屋だった。
大きなクローゼットと天蓋のついたベッドもある。さすがそこそこの金額を払っただけあり、いい部屋だった。
「…腹減ったな」
そういえば、昼はまだだった事を思い出し、部屋にデルフリンガーを置いてマントを脱いだ才人は、少しはやめの夕食を採ることにする。
下の食堂でなんか食ってこよう、そう思った才人だったが。
なーん。
ベッドに敷かれたふかふかのシーツの上で、白い仔猫が鳴いた。
「そういやお前も居たんだっけか」
とはいえ、人の食事をするところに動物を連れて行く、というのは、現代日本人の才人にとって、してはいけないことのように思えた。
トリステイン魔法学院では使い魔と一緒に食事を採るものもいる。それも、この仔猫など比べ物にならないほど毛むくじゃらの生き物と。
しかし、才人はそれでも猫を連れて行こうとは思わなかった。
これだけ人懐っこい仔猫だ。もし他の客に食べ物なんてもらった日には、その客に着いて行ってしまうに違いない。そう考えていた。
正直な話、才人はこの愛らしい仔猫を独り占めしたかったのである。
「…よし。んじゃ食堂でお前の分も食いもんもらってきてやるからな。
大人しく待ってろよ」
才人がベッドの上の姫君にそう言うと。
なぁん。
わかった、といわんばかりに仔猫は愛らしく首を縦に振ってそう鳴くと、ぷわ、と大きな欠伸をして、くるりと丸まってしまった。
才人の言っている事を理解しているようなその行動に、才人の中でさらにこの猫に対する愛着が沸いて来る。
「くぁー、かわええなあ。素直で従順で賢くて。まるで猫じゃないみたいだな。
じゃあ待ってろよ、とびっきりのごちそう、持って来てやるからな!」
そして、才人は意気揚々と食堂へと降りていく。
才人が選んだのは、豆のスープと鶏肉のソテーのセット。
それに、猫用にもらってきた山羊のミルクの瓶。
食事を盆に載せ、ミルクの瓶と水の入った籠を手に提げ、才人は部屋に戻る。
「お待たせー」
ニコニコ笑顔で才人が戻ってくると。
仔猫はベッドから降りて、扉の前でちょこん、と座って待っていた。
まるで、主人の帰りを待っているかのように。
そして、目を細めてまるで笑っているような顔で鳴いた。
なぁぁん。
そのあまりの愛らしさに才人は思わず料理の載った盆を取り落としそうになる。
「くは、お、おま、それ反則だって…!ど、どこでそんなけしからん技を覚えてくるんだ。
最近の仔猫はけしからんな。ああ全くけしからん」
そんな事を言いながら、総崩れしたふにゃふにゃの笑顔で備え付けの円卓に盆と籠を置く。
置きながら、才人の頭の中に不意にイメージが沸く。
扉の前で、じっと待っている青い髪の少女。才人にだけは従順な、雪風の騎士の事。
どうしてだろう、と思ったが、あまり深く考えない事にする。
料理の並んだ円卓の上に、ガンダールヴを骨抜きにした真っ白な魔獣が飛び上がる。
才人は怒る事もせず、パンの乗っていた木製の大きな皿を空けると、そこへ山羊のミルクを注ぐ。
「はい、お前の分。搾りたてだってさ」
猫の前に皿を差し出し、笑顔でそう言う。
仔猫はそれに応えるようになぁん、と鳴いて、ぴちゃぴちゃとミルクを舐めだした。
「くっっっっあぁぁぁぁぁぁー!かっわえええなああもうっっ!」
思わず食事を採る事を忘れ、身もだえしてしまう。
しかし、ぐうと鳴った腹の虫が、才人に空腹を思い出させる。
「…俺もメシにすっかぁ」
才人は席について、食事を採り始めた。
そして、それから間もなく。
仔猫はミルクを舐め終わり、てちてちと才人の食事の前まで寄ってくる。
そして、才人が上手そうに頬張る鶏肉のソテーに目をつけたのか、切り取られて口に運ばれていく様を、ぢーっ、と眺める。
「…な、なんだよ」
ぢーっ。
「…お、お前食べたろ?お腹いっぱいじゃないの?」
ぢーっ。
「だ、だめだって。こんな味付けの濃いの。だめだってば」
ぢぃぃぃぃぃーっ。
「く、くう。助けてママン。管理局の白い悪魔が僕を食べに来るよ」
ぢぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ…。
「あーもう、分かったよコンチクショー!」
才人はついに音をあげた。
ソテーを肉の繊維に沿って細かく裂くと、一度口に含んでソースを拭い取る。
そして、仔猫の前に置いた。
「ほれ、それなら食べられるだろ」
調理から時間もたっているので、温度は人肌ほど。猫でも食べられる温度だ。
しかし。
何を思っているのか、仔猫はその肉の切れ端を前に、それを見つめるだけだ。
「どした?お前が欲しそうに見てたから分けてやったんだぞ」
才人がせっつくと、仔猫はなん、と鳴いて、右の前足でその肉の切れ端をつい、と才人に向かって押し出した。
「?いらないのか?」
才人の言葉に、仔猫はんなん、と鳴いて再びぢーっ、と切れ端を見る。
そして、その後。
フォークを持つ才人の手を、ぢぃぃっ、と眺めた。
まさか。
「ひょっとして。食べさせて欲しいのか?」
なぁん♪
才人の言葉に、仔猫はまた嬉しそうに目を細め、甘くそう鳴いた。
才人のハートに目に見えない何か凄い太い楔のようなものが音を立てて突き刺さる。
「か、かは、くはっ、お前、ほんとにどこでそんなの覚えてくるんだよ…」
言って才人は仔猫に誘われるまま、指でその肉の切れ端をつまんで持ち上げる。
「ほらよ」
鼻先に突きつけられたそれに、仔猫はなぁん、と嬉しそうに鳴いて、そして。
そこで、才人の心臓が止まりそうになる。
仔猫はなんと、その小さな両の前足で才人の指を掴むと。
まるで人間のように背筋を伸ばし、頭を上げて才人が垂らす肉の切れ端をかしかしと食べ始めた。
「───────────っ!」
言葉すら出ない。
あまりの愛らしさに、才人はどうにかなってしまいそうだった。
な、なんだこの猫、いったいどこの回しもんだ!
コロサレル!俺萌えコロサレル!
『ぬっこぬこにされる』とはまさにこの事かァーーーーーーーーっ!
両手を才人の指に沿え、くちくちと音を立てて肉の切れ端を食べる仔猫の愛らしさは異常だった。
仔猫がその一切れを食べ終わると。
即座に才人はナイフで鶏肉を、今度は少し大きめに切り、ソースをぬぐうと。
「ほ、ほれ、もう一個やるよ」
なぁん♪
嬉しそうにそう鳴いて、仔猫はもう一度、今度は少し長めの時間をかけて、才人の指先から鶏肉を食べたのだった。
食事が終わると、才人は仔猫を床に置き、自分はベッドに腰掛け、仔猫の様子をじーっと見守る。
仔猫は気ままに床の上で転がり毛づくろいをし、時折自分の尻尾にじゃれつく。
その動作動作にいちいち溜息をつき、才人はかなりキモい崩れた笑顔で仔猫を見守っていた。
もう完全に骨抜きにされていた。
「かわぇぇなぁ…」
もう何度言ったかもわからない、同じ台詞を宙に向かって吐き出す。
仔猫はそんな才人を一切関知していないかのように、気ままに床の上で転げまわる。
しばらくそんな時が続いただろうか。
急に、仔猫がそわそわし始めた。
絨毯の敷かれた床を見て、そして窓の方を見て、土砂降りの雨を確認する。
そしてそわそわと、その場を回り始める。
才人はすぐに異変を感じ、そして気付いた。
「ひょっとしておしっこか!」
この仔猫はこの部屋でオシッコをしていい場所が分からずに、右往左往しているようだ。
よほどしっかりしつけられているらしい。才人はこの仔猫には飼い主がきっといるに違いない、と確信した。
だから余計に、もっと長い間、この仔猫と一緒に居たかった。
そう思いながら、才人はあわててオシッコの受け皿になりそうなものを捜す。
そして、目を付けたのは。
先ほど猫にミルクをやった、木の皿。
これなら、出したものをあとで洗って、返せばいい。部屋を汚されるよりはずっといい。
才人はその木の皿を部屋の隅に持っていくと、仔猫を抱えてその上に座らせた。
「ここなら、しても大丈夫だぞ」
仔猫はしかし、その上でもじもじするだけだ。
「大丈夫だって。ここなら誰も怒らないから。な?」
仔猫はなん…と恥ずかしがる様に鳴く。
なんだかその放尿を恥ずかしがる姿に、責めて漏らさせた時の青い髪の少女がダブる。
「見てるの恥ずかしいなら、俺あっち向いてるから。この皿の上でしな。な?」
言って才人は背を向ける。
背を向けた才人の後ろで、仔猫は焦燥感でいっぱいの下腹部に耐え切れず、お座りの姿勢で、皿の上に放尿する。
てててててーっ、と外の大粒の雨だれが立てる音とは違う、可愛らしい水音が響く。
「しっかし、おしっこ恥ずかしがるなんて、まるでシャルロットみたいだなあ」
言いながら才人が振り向くと。
木の皿の上をまたいで膝を立て、その膝に両手を乗せ、飛沫の飛び散る真っ白な股間だけをむき出しにして。
いつもの魔法学院の制服に、真っ白な猫耳と、真っ白な尻尾の生えたタバサが、恍惚とした表情で、放尿をしていた。
「え…?しゃ、シャルロットさん…?
な、なにしてはるんですか…?」
思わず突っ込んだ才人の言葉に。
放尿の終わった愉悦にほぇ、と呆けていたタバサは。
自分の姿を確認して。
「──────────────────────────っっっっ!!!」
真っ赤になって、才人を突き飛ばした。
「あ、あのー?」
「………ばか」
「しゃ、シャルロットさん?」
「………しらない」
才人が何度呼びかけても、部屋の隅っこを向いたまま、タバサは小声でぼそぼそと文句を言うだけだ。
隅っこの、ランプの明かりの届かないところで、タバサはまるで猫のように丸くなっていた。
白い三角の耳が、青い髪にへにゃんとへばりついてる。白い尻尾は床に垂らされている。
下着を履いていないスカートを捲くってしまわないためだ。小さな白い下着は、右の足首に丸まって絡んでいる。魔法が解けた際、ご丁寧にも人間の姿でも放尿を継続できるように、こうなったのだろう。
中途半端な魔法の解け方といい、この指輪の設計者にはよほどのこだわりがあるようだった。
恥ずかしくて消えてしまいたかった。
よりにもよって、才人の目の前で、放尿しているところを見られた。
今まで何度か、才人の目の前で放尿『させられた』ことはあった。
しかし今回は違う。猫になっていたとはいえ、自らの意思で、才人の見ている前で、放尿してしまった。
さらにそれだけではない。
「なぁ、ごめんってばシャルロット」
名前を呼ばれ、謝られる。
その瞬間、腰が勝手にもぞり、と動き、むき出しの充血した秘唇がぞり、と絨毯に擦れる。
「っ!………ばかぁ…」
意味のある声をなんとか絞り出し、才人に対する非難の形に落ち着ける。
タバサの身体は名を呼ばれるだけで蠢き、ぴっちりと閉じられた秘唇は内側から紅くめくれ上がり、情欲を溢れさせていた。
外には漏れていないが、タバサのスカートの中ではちゅぷちゅぷと愛液を絨毯と秘唇で攪拌する音が響いていた。
そう、タバサは欲情していた。
猫の姿で、才人の前で放尿を始めた瞬間から。
最初は、猫の姿でなら、別段どうということはない、と思っていた。
しかし。
放尿を始めた瞬間、タバサの中を妖しい快楽が蹂躙しはじめたのだ。
サイトが、目の前にいる。おしっこの音を、聞かれてる。
そう考えるだけで、ぞくりぞくりとタバサの背筋を黒い痺れが蛇のように這い回り、思考を溶かした。
そのどす黒い淫楽は、放尿の終わる頃、そう、才人がタバサの本名を呼んだ頃には、最高潮に達していた。
最後の数滴には、人間の彼女が吐き出した愛液も混じっていた。
そして、才人が振り向いた時。
タバサが呆けていたのは、放尿の愉悦にだけではない。
サイトに恥ずかしい格好、見られちゃうんだ…。たまった私のおしっこを、サイトにジロジロ見られちゃうんだ…。
その想像が、タバサのうなじの辺りからどくりどくりと熱い奔流となって、下半身に流れ込んでいっていた。
想像の中の彼女は、恥辱をすら快楽と感じる、淫ら極まりない牝猫だった。
しかしそれは想像の中だけでの話。
実際に、放尿の姿を、しかも人間の姿で見られたとなると。
その恥辱は、王女である、貴族である、騎士であるタバサの精神を激しく苛んだ。
ところが、である。
猫の時に感じていた負の快楽が、牝の器官にこびりつき、彼女を変えていた。
精神を激しく苛む恥辱が、まるで触手のようにタバサの理性を絡めとり、陵辱していた。
完全に発情した肉体を持て余し、タバサは必死に部屋の隅の闇へ逃げ込む。
発情の対象から、少しでも離れるために。
「なあ、シャルロット…」
ぴと。
しかし、絶望は最愛の人の温もりとなって、タバサを襲った。
部屋の隅で啼きながら震えるタバサの肩を、才人が優しく掴んだ。
「…ひ…!」
だめ、触っちゃだめ…!
「ごめん、ホントごめん。そんなに嫌がるなんて思わなくてさ」
言って才人はタバサの脇から手を通して抱き上げ、くるん、と自分の方を向かせる。
ぞくぞくぞく!
神経の集中する場所を優しく擦り上げられ、タバサは声も出せずに軽く猫背になる。
すとん、と正面を向かされて床に立たされた時、肺から押し出された声が甘く漏れた。
「…っあ、ぅん…」
頬が上気し、ほわんと瞳が蕩ける。何かにすがっていないと自分が消えてしまいそうだったので、右の人差し指の関節をきゅっと噛む。
しかし猫背で俯いているため、才人からはそんなタバサの甘い表情は伺えない。
タバサが泣き止んだと思ったのか、少し才人は調子に乗る。
「でも、シャルロットも悪いっちゃ悪いんだぜ。なんで猫なんかになってたんだよ」
ごるごるごるごるごる…。
タバサは才人の言葉に応えない。いや、応えられない。
白い喉が低く音をたてる。発情期の牝猫独特の、甘えるような声が、唇の隙間から漏れる。
「にぅぅぅぅぅぅぅ…」
「…今更、猫の鳴き真似か?」
言って、才人は俯くタバサの顔を見ようと、その細い顎をつまんで上を向かせた。
「なぁぁんっ…♪」
雄の求愛行動と勘違いしたタバサの中の牝が、口許を甘く綻ばせ、視線を合わせた愛しい牡を捉える。
三角の耳が欲情にぷるぷると震え、長く細い尻尾がスカートのまくれるのも構わず、蛇のようにうねうねと揺れていた。
才人がタバサの異変に気付いた時には遅かった。
タバサは一瞬で才人の首に腕を絡めると、牡の唇を奪った。
あまりに勢い良く抱きついたため、才人は思わずよろけ、床に尻餅をついてしまう。
タバサは才人の上に乗っかって、腕を才人の首に絡ませたまま、ちゅ、ちゅ、ちゅ、と何度も何度も、牡の唇を啄ばむ。
「ちょ、な、なんだよいきなり!」
慌てて才人はタバサの肩を掴んで引き剥がす。
別に嫌と言うわけではなかったのだが、タバサの行動に何か本能的な恐怖を感じた才人は、牝の求愛を拒んでしまう。
タバサは一瞬、不満げな顔をしたが。
かろうじて残っていたタバサの理性が、才人の恐怖を感じ取り、彼女に冷静さを一瞬だけ取り戻させる。
タバサは朱に染まった頬で、才人と視線を合わさないように、俯きながら謝った。
「…ごめんなさい」
「…い、いや別に謝んなくても。急だからびっくりしただけで」
ぽりぽりと頬を掻き、言い訳のようにそう言う才人。
その言葉を聞いて、タバサは顔を上げる。
潤んで泣きそうになっている瞳と、朱に染まった頬が目に入る。
ごくり、と才人の喉がなる。それは牡の本能。発情した牝を目の前にしてしまった、牡の悲しい性だった。
「…えっと、あのさ」
才人は何か言おうと思うのだが、言葉にならない。何を言っていいのか分からない。
「ガマン、できなくって…ごめんなさい」
言いながら、じりじりと距離を詰めるタバサ。もうすでにその甘い吐息が、才人の鼻先にかかっている。
キスしそうな距離まで唇を寄せ、そして、泣きそうな顔で続けた。
「でも…サイトが、いいなら…」
「お、俺が、いいなら何?」
「あまえて、いい…?」
言って、小首を傾げる。白い三角の耳がへなん、と潰れる。
才人はタバサの甘い声に、思わず。
「あ、ああ」
肯定の台詞を返してしまった。
その瞬間。
再び、タバサは才人に抱きつく。
きゅっと腕を首に回し、身体を密着させる。甘い吐息を耳に吐き掛け、
「サイト、サイトぉ…」
甘い甘い声で愛しい人の名を呼ぶ。
その声に、才人はタバサの頬に手を当てて、唇を奪う。
今度は啄ばむだけでは済まされなかった。お互いに舌を出し合い、ちゅぷちゅぷと溢れた唾液を舐めあう。
「ん、ふ、ふぁ…」
タバサの鼻から甘い吐息が漏れる。体がくねり、服の上から薄い胸板を才人の体に擦り付ける。布に擦られる小さな乳首がぴりぴりと、タバサの神経を痺れさせる。
腰が勝手に蠢き、硬い牡の身体にむき出しの秘唇を擦り付ける。あふれ出した潤滑油がにゅるにゅると滑り、充血した陰唇への接触を和らげる。
タバサは全身で、才人から快感を貪っていた。
しかし、これでは足りない。
タバサの奥で熱を持った牝の器官が、どろりと濃厚な涎を垂らし、牡を咥えこめと吼えていた。
だが、感極まった才人は、抱きついてキスをしてくる小さなタバサを抱きしめ返している。これでは、肝心の部分に肝心なモノが届かない。
タバサは口付けてくる才人を嫌がるように、顔を振る。
「どした?」
才人は腕の中で抵抗を始めたタバサに疑問を投げかける。せっかく興の乗って来た男女の睦みを、何故中断するのかと。
温かい腕の中でタバサは視線を逸らし、一瞬考え、言葉を纏めると、応えた。
「この状態じゃ、んっ…」
腰を動かし、ズボンを押し上げている才人に、スカートを捲り上げて牝の唇を押し当てる。
そして、潤みきった瞳で才人を見上げて、続けた。
「サイトのおちんちん…入れられないから……放して…?」
頭に載った白い猫耳と、幼い容姿からは想像もできない甘く淫らな台詞に、才人は抗えない。
「しょ、しょうがねえなあ」
才人は柔らかいタバサの身体を渋々手放す。
タバサは才人の上から一旦退くと、四つん這いでベッドに寄って行く。
天蓋の着いたベッドに登ると、ころん、と仰向けに寝転ぶ。
そして、両手を膝の裏に入れて、股を開く。
とろとろと涎を零す女陰を、白く長い尻尾で隠す。そこからゆらゆらと尻尾を揺らし、ちらりちらりと充血した牝を晒す。
牡を容赦なく誘う発情した牝に、才人の喉がごくり、と鳴る。
もう完全にケダモノの目になった才人に、ベッドの上からタバサが止めを刺す。
「…はい、どうぞ…」
白い猫耳をぺたん、と青い髪につけ、潤んだ瞳でそう言った。
才人はズボンを下ろしながらベッドに上がり、そのままタバサの膝の裏に腕を通して、覆いかぶさる。
タバサは尻尾を横に退け、迫ってくる肉棒に秘唇を遠慮なく晒す。
お互いの火照った性器の温度が、脈動が、僅かな隙間を経て伝わってくる。
早く入れろと。早く咥えこめと。互いの主人を急かす。
「じゃ、いれるよ、シャルロット」
「うん…」
宣言とほぼ同時に、待ちきれなくなった獣がタバサを貫く。
ずぷぷ…。
愛液に滑ったそこは、ぴっちりと閉じられているにも拘らず、牡をあっさりと飲み込んでいく。
膣内の襞を才人が削るたび、タバサの体がぴくん、ぴくんと揺れる。
そして。
タバサの一番奥を、才人がこつん、と叩いた瞬間。
「…っんふ!…っっつ!…」
きゅうううううううっ!
タバサのぴっちり締まった膣道が才人を締め上げた。
タバサは自分の膝の裏を握り締め、飛んでいきそうな意識を繋ぎとめた。
「あ、奥に当たっただけで逝っちゃった?」
一合だけで果てたくはなかったのだが、そうもいかなかった。
獣性で昂ぶったタバサの身体は、与えられる快感に酷く素直になっていた。
「あ、ふ、うん…」
素直に肯定を返すと。
才人はいやらしくにやり、と笑った。
「じゃあ、激しくしたらどうなっちゃうのかなあ?」
そう言って、一気に腰を激しく突き動かし始めた。
ぱちゅぱちゅと音を立て、腰肉がぶつかり、愛液と先走りが攪拌される。
「あっ、んっ、にゃぁんっ」
突き上げられるたびにタバサの視界に虹が走り、腰が震える。喉が踊る。
牝猫の鳴き声が、防音の行き届いた部屋に響く。
愛液の滑りと目の前の牝の痴態に、才人の腰がさらに加速していく。
水音が激しさを増し、タバサの喉も激しく踊る。
「やっ、はげしっ、にゃぁっ、もっ、やぁっ…!、」
いつの間にか膝裏から手が外れ、シーツをぎゅっと握り締めていた。
膝裏に腕を入れられているせいでV字に開いた足の指が、きゅっ、と丸まった。
体が勝手にびくん!とよじられ、そして。
才人を締め付ける膣道も、っぎゅりっ、と凶悪な螺旋を描く。
「…っつ、い………っくぅっ!…」
「シャルロットっ…!」
才人はタバサの名を呼んで腰を突き出す。
そして、タバサの一番奥で。
びゅるびゅると音を立て、子種を待ち受ける牝猫の子宮に、熱い白濁が流し込まれていった。
その温度に、タバサの意識が暗転していく。
「ふ、あ…さいと、だいすき…」
一番言いたい言葉を、吐き出しながら。
そしてしばらくすると。
才人の腕枕の上で、タバサは目を醒ます。
「お、起きたか」
牡の仕事を果たした後ですっきりした顔の才人が、夢の世界から帰ってきたタバサを出迎えた。
さっきの行為で服が汚れたので、二人とも全裸だった。
タバサは先ほどの才人の言葉を思い出す。
そして、ふにゃん、と呆けた笑顔を才人に向けた。
「なぁん♪」
猫のように鳴いて、才人の胸板に遠慮なく頬を摺り寄せる。
「お、おい?」
いつもと違う、甘えたタバサの態度に、才人は驚いた声を上げる。
そんな才人に、タバサは言った。
「甘えていいって、言った」
「へ?」
「サイト、さっき甘えていいって言ったから」
そして、不安そうな顔で、猫耳の乗った幼い顔で、才人をぢいぃっ、と見つめた。
その表情に、先ほど鳥をねだった白い仔猫がだぶった。
才人の胸がきゅうん、と何かイケナイもので締め付けられる。
「だから今日はいっぱい甘える」
「しょ、しょうがねえなあ」
言って才人は、じゃれつくタバサを抱きしめようとした。
しかし。
タバサはするり、と才人の腕を避けると、ベッドの反対側へ移動する。
そして、才人に桜色に染まった形のいいお尻を向け。
白い尻尾をゆらゆら揺らしながら、股間から愛液をたらたらと零しながら。
目に見えない何か凄い太い楔のようなものを、言の葉にのせて放った。
「まだ足りないから、して欲しい…」
くは、と息を吐く才人に、さらに追い討ちをかける。
にしゃあ、とイヤらしい笑顔を才人に向けて、タバサは猫なで声で牡を誘った。
「だから、早く入れてにゃん♪」
「ああもうわかったよコンチクショー!」
完全に捉えられた牡は、ケダモノを完全に開放して、牝に覆いかぶさっていったのだった。
結局、雨が止むまでタバサの甘えん坊は納まらず。
才人は、猫の抜けたタバサの看病の元、トリスタニアで二泊ほどすることになったのである。〜fin