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Last-modified: 2008-11-10 (月) 22:55:26 (5646d)

青春時代【10】   ツンデレ王子

 

「三日も留守にして、ルイズ心配してるだろうなぁ」

 サイトは馬を繋ぐと、寮へと向かって足を踏み出した。
 既にこの日の授業も終わったのか、学生達の多くが広場に設置されたベン
チに座り、優雅な一時を過ごしている。
 そんな中、こちらを目指して歩いてくる一人の少女の姿が目に入った。どす
黒いオーラを纏い、オーク鬼でさえ射抜いてしまいそうな程の威力で睨みつ
けている。桃色の髪が重力に逆らい宙を舞っているのは目の錯覚だろうか。

「サーイ−トー」

 ルイズが1歩また一歩と近付いてくるにつれ彼の背中に冷たい汗が流れ落
ちる。辺りに漂う空気は段々と重たくなり、彼女との間の周辺にいた生徒達は
皆揃って逃げ出してしまった。

「や、やぁルイズ、ただいま」
「……」
「そ、そんな怒るなって。せ、折角の可愛い顔が台無しだぞ」

 何とか主人の怒りを軽減しようと口を開くも、彼女の迫力に圧されて声が震
えてしまっている。

「犬、いったい今まで何処に行ってたのかしら?」

 ルイズが口を開いたのは、サイトの目の前に立ってからだった。二人の距
離はお互いに手を伸ばせば届く範囲となっており、彼女は今までに見せた事
も無いような笑みを浮かべているのが見て取れる。

「ご、ご主人さま。今日はまた一段とお綺麗ですね。特にその笑顔が最高!
 妖精たちも真っ青になる位ですよ、ホント」

 サイトはここで、いつもの様に『可愛い』では無く『綺麗』という単語を使った。
確かに彼の言う通り、この時の彼女の笑顔は綺麗とでしか表現出来ないだろ
う。ただしそれは、嬉しさや喜びからではなく怒りからくるものであったのだが。

「もう一度聞くわね。何、処、に、行ってたのかしら?」
「えっと、いや、その」

言えない。言える訳が無かった。
 一昨日、マザリーニから口止めされていた事もある。今日の昼食後、城を発
つ前にアンリエッタから口止めされたのも原因の一つでもある。だが最大の
理由は彼女との間で起こった事件だ。
 彼等の精神が入れ替わってしまった事を話したとしても、ルイズは信じはし
ないだろう。しかしながら、よしんば信じたとしよう。そうすると元に戻った過程
までもを説明しないと辻褄が合わなくなる(とサイトは思っている)。彼女との
キスだけでもあれだけ憤怒したルイズの事だ。もしアンリエッタと致した事が
バレてしまえば、どれほどの怒りを買うか分かったものでは無い。

(ま、その前に黙って出掛けた事で怒ってるんだろうけどな)

「まぁいいわ」

 サイトは自分の耳を疑った。あれだけ怒りのオーラを湛えたご主人さまが、
あっさりと引いたのである。助かったのか?と胸を撫で下ろしかけ――

質問を変えるわ。あんた三日前、街で女の子と歩いていたそうね」

 一気に地獄へと突き落とされた。

「な、なな、なんでお前がそれを…」
「別にいいじゃない、そんな事。それより犬、あんたご主人さまに断りも無く居
 なくなって、その上街で女の子を引っ掛けていたのね」

 やばいと思った。
 ルイズのいつものどもりが無い。過去に彼女を怒らせた経験は幾度もあれ
ど、その全ては怒りから言葉に詰まる箇所があったのだ。それが今回に限っ
て見当たらない。しかも、今までなら彼女は身体全体で怒りを表していたのに
対し、今回はオーラこそあるもののそれ以外は全くの普通なのである。

(これはマジで死ぬかも)

 シエスタにセーラー服を着せた時みたいに逃げ出そうか、でもあいつに心配
させた俺にも原因は有るしな、でも姫さまとやっちゃったんだよなー責任取ら
ないと、等と悩んでいると彼を呼ぶ声が聞こえてきた。

「サイトー」
「テ、テファ!?」

 大きく腕を振りながら、そしてその大きな胸をボヨンボヨンと揺らしながらティ
ファニアがこちらに向かって駆けてくるではないか。

「来ちゃだめだ、テファ!」

 しかしサイトの叫びが聞こえなかったのか、彼女は止まる気配を見せない。
その間もルイズの詠唱は続いており、このままでは巻き込んでしまう。彼は慌
てて踵を返すとティファニアの下まで駆け寄り、彼女を抱えてそのまま走り出
した。これが更にルイズを刺激し、益々彼女の纏うオーラが色濃くなっていく。

「こんの、バカ犬〜〜〜〜!!」

 吐き捨てる様に呟きながら杖を振り下ろす。
 辺りを巻き込んだ大規模な爆発が起こる――かと思いきや、爆発どころか
草の一本も焦げず、彼女の虚無は不発に終わった。

(え?な、なんで?)

 これまたいつぞやの様に虚無が打てなくなったのか、ルイズの頭にそんな
考えが過ぎったが、それにしてはおかしい。ここしばらく魔法を打つ様な事件
は起きてはいなかったので、精神力は溜まっているはずなのだ。
 そこで漸く、小さくなっていく自分の使い魔が抱きかかえている少女の事を
思い出した。彼女はエルフの血を引いているとは言え、自分と同じ伝説の担
い手であるのだと言う事を。
 果たして彼女の読みは当たっていた。
 ハーフエルフの少女の詠唱が早かったのか、それとも彼女の唱えた呪文
のスペルがルイズのエクスプロージョンよりも短かったのかは定かでは無い
が、ティファニアのディスペル・マジックが奇跡とも呼べるくらい同時に発動し
たのである。

(あんのっオバケ胸〜〜〜!!)

 サイトの消えていった先を恨みがましく睨みつけながら、地団太を踏む。
 暫くして彼等の行先に思い至ったルイズは、今ので精神力を大幅に消費し
てしまったのだろう、手にした杖を鞭に持ち替えると来た道を戻り始めるの
だった。寮塔内のティファニアの部屋を目指して。

 

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