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Last-modified: 2008-12-11 (木) 22:17:47 (5615d)

魔法学院厨房裏口 夕方

 今ここに金髪のツインテールの少女が立っている。
 言わずと知れたベアトリクスである。
 彼女は、平民の友人の仕事が終わるのを待っているのである。

「遅いですわね。タニアさん、一体何をしてらっしゃるのかしら」
 無論後片付けをしているのである。
 イライラしながら待っていると、仕事を終えて待ち人が来たようである。

「ガチャ」と音がして、扉が開く。
「ヤッホー、ベアちゃん。こんなとこで何してんの?」
 タニアは、扉の前に突っ立ていた友人に声を掛けた。

「貴女に用があるのですよ、タニアさん。明日の虚無の曜日お暇?」
「唐突だなーベアちゃん。まあ暇だけど何?」
「それならば、近くの野原にピクニックに行きませんこと。とても綺麗な花が咲き誇って
 いましてよ」
 どうやらベアトリクスは、タニアをピクニックに誘いたいがため、一時間以上も裏口で
 待ち続けていたのである。

「えー、ベアちゃんと二人きりで?テファお姉ちゃんは?」
「テファお姉様は、ヘッポコ騎士とデートするそうですわ。何でもミス・ヴァリエールが
 ご実家に単独で呼ばれたとかで、それを利用してデートするそうですわ」
 ベアトリクスは、ティファニアにも誘いに行ったが、才人とのデートを嬉しそうに話す
 ティファニアを見て、誘わなかったのである。

「そっかー。それじゃ仕方ないね。で、何時出発?」
「9時、正門前で如何かしら?」
「オッケー、じゃあ明日ね」
 そう言ってタニアは、メイド長屋に帰って行った。
 ベアトリクスは、「うしっ」と両拳を握り締め、喜び勇んで自室に帰って行く。
 その2人の様子を物陰から4人の男が、覗き見ていた。

 当日は、抜けるような青空だった。時折そよ風が吹き正に絶好のピクニック
 日和と言えた。
 ベアトリクスは、今朝6時に目を覚まし、速攻で食事を済ませ、おめかしに2時間以上
 費やした。物凄い熱の入れようであった。
 その服装は、とてもピクニックとは思えなかった。王宮晩餐会か舞踏会に着る豪奢な
 シルクのドレスに身を包んでいた。
 普通の神経の持ち主なら100%ひく服装であった。が、

「オッハヨー、ベアちゃん。随分派手な服だね」
「何を仰いますの。こんなの普段着ですわ」
「そっかー。ま、ベアちゃんらしいね。じゃあ、出発―」
 正に大物、図抜けた神経の持ち主であった。
 一方タニアの方は、メイド服に似た正に普段着。
 右手には、お昼の入った籠を持っていた。

 二人は小一時間ほど歩き、目的地の野原までやって来た。
 その野原は、ベアトリクスの言う通り、赤や黄色、白、橙など色とりどりの花が
咲き誇り、幻想的な巨大絨毯の様であった。

「うわっー、すっごーい。とっても綺麗。ベアちゃん良くこんなとこ知ってたね」
無論これは、ベアトリクスが、事前に空中装甲騎士団に命じてピクニックに最適な場を
 探させていたからである。
「まっ、まあこれ位知ってて当然ですわ。気に入って頂けたかしら」
「もちろん!ベアちゃんなかなかいい趣味してるねー」
「気に入って貰えて何よりですわ」
(此処を教えてくれた団員の給金上げないといけませんわね―)

 二人は、野原を歩き回り、楽しいひと時を過ごして行った。
 暫く散策していると、奇妙な女性の声が聞こえて来たので、二人は声のする方に
 歩いて行った。
 100メイル程の距離に近付くと、タニアはベアトリクスを止めた。

「どうしたのです?」
「しっ」
 タニアは、気付いた。こんな遠目からでもはっきり分かる人物。
 そう元保護者のティファニアである。
 その元保護者が巨大な胸を揺らし、木陰で才人と励んでいたのである。
 つまり聞こえていた声は、ティファニアの喘ぎ声だったのである。
 タニアは囁き声で、
「ベアちゃん、テファお姉ちゃん達の邪魔しちゃ悪いからあっちにいこ」
「こんなに離れてて分かるのですか?随分お目が宜しいのね」
「テファお姉ちゃん分かりやすいからね」
「まあ、確かに。では野暮にならぬよう離れましょう」

二人はその場を離れ、近くの林の方に歩いて行った。
少し歩くと手頃な切り株があったので、2人は昼食をとる事にした。
「美味しいですわ。これタニアさんがお作りになったの?」
「そっだよー」
「家のシェフ顔まけですわね。何方に教わったんですの?」
 ベアトリクスは、興味津々だった。実のところ、誰に教わったかなど如何でも良かった。
 タニア達の昔話が聞きたかったのである。
「マチルダお姉ちゃんだよ」
「マチルダお姉ちゃん?」
「そ、私達の命の恩人なの。孤児になった私達の為にウエストウッド村を作ってくれて、
 料理や裁縫、狩りの仕方に森の食べ物の見分け方、生きる上で必要な事全般をね」
 タニアは、誇らしげに語った。

「随分凄い方ですのね。それでその方は今どちらに?」
「わかんない。私達の為に何処かに出稼ぎに出て、たまに遊びに来ても何も教えて
くれなかったし、こっちに来てからは音信不通だしね」
タニアにはしては珍しく、寂しげであった。
(いけませんわね。話題を変えなくては)
 ベアトリクスは、話題を変えようとした。

すると突然、3匹のオーク鬼が現れた。
身長2メイル程のマリコルヌ、じゃなくて2本足で立った豚の化け物という形容が
ぴったりの魔獣である。
オーク鬼の大好物は、人間の子供なのである。
オーク鬼達は、目の前の特上のごちそうに涎を垂れ流していた。
すかさずベアトリクスは、タニアの前に立った。
(私だけなら、フライで逃げられる。でもタニアさんを抱えては無理。何としてでも
 倒さなければ…迂闊でしたわ、空中装甲騎士団に遠巻きに護衛する様命じておけば)
 ベアトリクスは、護衛を拒否していた。無論邪魔だったからだが、今回は裏目に出た。

「逃げなよ、ベアちゃん。一人だけなら逃げ切れるでしょ」
「何を仰るの!友を見捨てるのは貴族の恥。安心なさって、オーク鬼の3匹や4匹私が、
 倒して差し上げますわ」
 無論強がりである。ベアトリクスは、ドットメイジに過ぎない。1匹だって倒せるか
 怪しかった。それに今までは公女という立場上、実戦経験など皆無であった。
 生まれて初めての実戦、しかも1対3、いやオーク鬼1匹手錬の戦士5人に匹敵と
言われているから実質1対15といったところか。
死の恐怖がベアトリクスを襲う。しかし彼女は、勇気を振り絞った。

「エア・ハンマー」ベアトリクスは、一番近いオーク鬼を地面に叩き伏せた。
しかし残る2匹は、怯まず2人に襲いかかった。
殺される!そう思った瞬間、1匹のオーク鬼が燃え上がった。
(何故燃えていますの?)
すると後方から大きな火球が、もう一匹のオーク鬼に命中し燃え上がらせた。
(火のラインスペル、フレイム・ボールじゃありませんこと。それをほぼ連発出来る
なんてトライアングル以上でなければ出来ませんわ。ま、まさか)

 後ろを振り向くとタニアが杖を隠していた。
「や、やあベアちゃん。大丈夫?」
「タニアさん、誤魔化さないで下さい。今、杖をお隠しになったわね。貴女メイジ
 なのですね。どうして隠すのです?隠す必要など無いではないですか!」
友達だと思っていたのに隠し事をされる。ベアトリクスは、とても悲しかった。

「黙ってて悪かったけどさ、理由が有るんだよ、ベアちゃん」
「お聞かせ願いますわ、タニアさん」
「それはね…ベアちゃん、後ろ!」
「えっ」
ベアトリクスが振り向くと先程のオーク鬼が1匹立ち上がった。
ベアトリクスの魔法では倒しきれなかったのである。
オーク鬼が棍棒を振り上げる。2人共呪文の詠唱は、間に合わない。
(殺される)と思った瞬間、オーク鬼は、斬り倒された。

「最後まで油断すんじゃねぇ。てっ、タニアにベアトリクスじゃねぇか」
 才人であった。
デルフリンガーが危険を知らせてくれた為、行為を中止して、駆けつけて来たのである。
「まあ、二人共無事で何よりだけどさ。ちゃんと止め刺さねぇと今頃天国行きだったぞ」
「有難う、お兄ちゃん。助かったよ」
「な、なかなかやりますのね。ご救命有難うございます」
 二人は、才人に礼を言った。

「タニア、ヴィヴィ。大丈夫?」
 ティファニアが息を切らせてやって来た。
「大丈夫だよ、テファお姉ちゃん。其れよりも走らない方がいいよ。ショーツずぶ濡れに
 なっちゃうでしょ」
「な、何言ってるのタニア!ま、まさか覗いていたの?!」
 ティファニアは、赤面してどもった。

「安心して、二人が励んでる所を見たらすぐ移動したから。ね、ベアちゃん」
「確かに、ですが私には、分かりませんでしたけどね」

 ティファニアは、一つため息をつき、
「人に見られるとは思わなかったわ。それよりタニア、貴女メイジだったのね」
(まずい。テファお姉ちゃんにも見られちゃたんだ)

 ティファニアは、泣き出した。
「ごめんね、タニア。私のせいで孤児にさせちゃって、ホントにごめんね」
(あちゃー、やっぱりこうなったか。世話の焼ける元保護者だなー)

「違うでしょ、王様のせいでしょ。テファお姉ちゃん。王様がテファお姉ちゃん達を暗殺
 しようとしたからでしょ。私の両親は、暗殺に来た軍隊と戦って」

 其れを聞いたベアトリクスは驚いた。
「お待ちになって。詳しく教えて下さい。どうしてテファお姉様が殺されなければ
 なりませんの?」
 タニアは、ティファニアの目を見た。
 ティファニアは、頷き
「ヴィヴィ、これから話す事、誰にも話さないでくれる?」
「勿論ですわ。テファお姉様の秘密は、口が裂けても話しませんわ」

「有難う、ヴィヴィ。私はね、アルビオンの前国王の弟の娘なの。尤も母は、エルフで妾
 なんだけどね。そしてそれが王様に知られて、両親は殺され私は、逃げ延びたの。
 その時、父の部下が大勢死んでしまったわ。その中にタニアの両親もいる。そうよね?」
「そうだよ。で助けてくれたのが、マチルダお姉ちゃんって訳」

「それでは、テファお姉様は、アルビオン王族の唯一の生き残りではないですか!
となるとご卒業後は、女王に即位なされるのですね」

 ティファニアは、首を横に振った。
「ううん。そんなつもりはないわ。私は、ハーフエルフよ。私を受け入れてくれる人は、
 極少数だわ」

 ベアトリクスは、己が過去に犯した事を思い出した。
「では、どうされるおつもりです?」
「私は、王位なんかどうでもいいわ。ただ皆とサイトと一緒にいられればそれでいい」
「そうですか、ではこの事はもう申しませんわ」
「有難う。ヴィヴィ」
 ティファニアは、かるく微笑んだ。しかし、タニアの方を向き又泣き出した。

「タニア、今まで気付かずにごめんね。私自分の事しか頭に無かったわ。貴女が如何して
孤児になったのか。そして9才にも関わらず読み書きができた事、ちゃんと考えれば、
もっと早く分かっても可笑しくなかったね。そうすればもっと早く貴女に謝れたのに
そうだ、貴女のご両親のお墓にお詫びに行かなくては、それに償いもしなければ」

其れを聞いたタニアは、目に強い光を宿らせ、ティファニアの目を見つめてこう言った。
「その必要はないよ、テファお姉ちゃん。お姉ちゃんが詫びたからって両親が生き返る訳
 でもないし、謝れたら天国の両親悲しむよ。何のために父さん、母さん命を懸けたと
 思っているの?お姉ちゃんに泣いて欲しかったから?お詫びして欲しかったから?
 違うでしょ。お姉ちゃんにずっと笑って欲しかったから、幸せになって欲しかったから
 だよ。お姉ちゃんに出来る償いは、幸せになる事、ただそれだけだよ!」

「でも父の命令で」
「違うよ!テファお姉ちゃん。モード大公様は、全員に逃げろって言ったそうよ。私達の
 為に死ぬ事は無い。そうマチルダお姉ちゃんから聞いたよ。でも誰も逃げなかった。
 それで、大公様は、マチルダお姉ちゃんに私達の救出を命じたそうよ。多分マチルダ
お姉ちゃんに死んで欲しくなかったんだろうね。その後大公様は、捕らえられて
マチルダお姉ちゃん家に軍隊が押し寄せて来て…」

「そうだったの。父は、皆に慕われていたのね。でもそれが仇となってしまった」
 ティファニアは、ややうつむき加減になった。
「だからさ!お姉ちゃんが気に病む事は無いよ。皆自分の意志で戦ったんだから。もし
 どうしてもお詫びしに行きたいっていうならさ、さっさとお兄ちゃんと子供作って幸せ
 な所を見せに行ってあげてよ。そうすれば死んでいった人たち皆喜ぶと思うよ」

 ティファニアは、真っ赤な顔になって、
「なっ、なにを言うのタニア。わ、私まだ学生よ!こ、子供なんてまだ早過ぎるわ」
「避妊薬飲まなければ、何時妊娠しても可笑しくない癖に」
タニアは、ウリウリとティファニアを小突いた。

「タニアさん」
 ベアトリクスにしては、珍しく真摯な顔をしていた。
「どったの?ベアちゃん」
「私、魔法学院に来るまで、感動した事が御座いませんでした。しかし僅か数カ月の内に、
 2度も感動してしまいましたわ。1度目は、テファお姉様。2度目は、タニアさん、
貴女ですわ。ああ何と言う事でしょ。お二人の心、私の心を震わせてやみませんわ。
貴女は、私の親友と呼ぶに相応しい方ですわ」
 表情がどんどんヤバゲな方向に向かっているように見えた。

「そ、そう」
 ベアトリクスは、両手でタニアの肩をガシッと掴んだ。
「タニアさん、魔法学院に編入しましょう。そうすれば、私達3人楽しい学院生活が
送れますわ!お金の心配なら必要有りません。私の命の恩人なのですから、生活に
掛るお金は、全て我がクルデンホルフ家がお支払い致しますわ。それでは早速手続きに
参りましょう」
素晴らしく強引なベアトリクスであった。

「ベアちゃん、もうすぐ夏季休暇だよ。今更編入したってねぇ」
「勉強ならば、私が教えて差し上げますわ。こう見えましても、政治の授業では、クラス
 で5本の指に入りますわ」

「我々もお手伝いします」
草むらの中から4人の男子が現れた。
「あー、貴方達は」
「タニア様とクルデンホルフ姫殿下に蹴って貰いたい団です」
 そう彼等は、夕べベアトリクスが、タニアをピクニックに誘ったのを覗き見していた
 4人組なのだ。
「私ならば、経済学を」
「私なら、数学を」
「私なら、歴史を」
「私なら、音楽、ダンスを」

 タニアは、困惑した。
「いや、誰も編入するなんて、言ってないよ。私メイド好きだし」
 其れを聞いたベアトリクスが、激昂した。
「何を仰いますの!タニアさん。あれ程の魔法の才を持ち、あまつさえ私を感動させる程
 の心の持ち主がメイドなんて宝の持ち腐れどころでは有りません。貴方達も協力なさい」

「タニア様、クルデンホルフ姫殿下、我らの女王様達」
「へっ?」
「どうか我々を貴女様達の下僕に」
「いっ?」
「そして我々を」
「踏みつけてくださーーーい」
4人は、転がりながら2人に近付いていく。

「いやーーーーーーー、キモイ、キモすぎるーーーー」
 ゲシッ、ゲシッ…と秒間2発程度で蹴りこんでいった。
 ルイズ程蹴り慣れていない為、威力が余り無かった。先陣を切った2人は、回転
しながら、全身に蹴りを浴びて喜悦の声を上げる。

「こ、これだーーーこの痛み、此れを味わいたかったんだーーーー」
 なかなか沈まない2人に業を煮やしたタニア達は、急所攻撃を行い撃沈した。

「次は、僕達をーーー」
今度はドロップキックを股間に見事に命中させ一撃で仕留めた。

「何なんですの?この変態集団は、一体何を考えているのかしら?」
「いくら振られたからってねぇー。此れは無いよね」
 再びベアトリクスは、タニアの肩を掴んだ。

「あんな連中なんか如何でもいいですわ。タニアさん、学院長室へ参りましょう」
「あれっ、ベアちゃん、忘れなかったの?」
「当たり前です。あの程度の事で忘れる筈無いじゃ有りませんか!」
(やれやれ、困ったなあ)

「あっ、テファお姉ちゃん達、キスしてる」
「えっ?」
 タニアは、一瞬の隙を付き逃げ出した。

「こら、お待ちなさい。くうーこんな古臭い手に引っ掛かるなんて。絶対逃しませんわよ
 タニアさん!」
 2人は、学院の方へ走って行った。

「なあ、テファ。もしタニアが同級生になったらどうする?」
「きっと楽しくなると思うわ」
「じゃあ賛成なんだ」
「決めるのは、タニア自身だけどね。ヴィヴィからは、絶対逃げられないと思うわ
 あの娘は、こうと決めた事は押し通すから」
「言えてるな」
 そよ風の吹く中才人とティファニアは、2人を見送っていた。


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