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Last-modified: 2010-11-08 (月) 12:35:33 (4918d)

才人とコルベールの製作は、魔力切れの関係でゆっくりとしか進まず、一日の内大半が空いてしまう為、アニエスが剣と乗馬の稽古に当てる時間が増えた
ルイズは放課後になると乗馬と魔法回避訓練に付き合い、気分転換をしている
「ルイズ、乗馬に付き合うのは構わないが、祝詞はどうした?」
「気分転換よ。部屋は、没ネタで小山になってるもん」
「なら、しょうがないな」
「では、ミスヴァリエールも居る事だし、ちょっと競走するか。あの丘迄ギャロップ。トップはビリに、何か一つ言う事訊かせる事が出来るってのは、どうだ?」
「…ふうん。アニエスは、あたしに勝つと?」
「近衛たるもの、乗馬なんざ必須技能なんだが?」
「ヴァリエールの領内は非常に広いのよ?乗馬出来ないと、回れないんだから。其に、軽いあたしのが有利じゃない」
「…俺が勝つってのは、考えないのか」
「貴様は落馬しない様に気を使え」
「その通りよ。犬」
「……はい」
「で、乗るか?」
「かか勝てば問題無いわね」
「その通りだ。才人、デルフに合図して貰え」
「だとよ、デルフ」
「おいよ〜。では位置に付いたな、用意…スタート」
ダダダッ
三騎が一気に走り出す
不整地路面での走行と、馬との呼吸が全く合わない才人は、一気に置いて行かれる
「くっそ、オフロードは走り慣れて無い上に、何でバイクと馬はこう違うんだ?」
「あっという間に置いて行かれたな。相棒」
「無茶な注文、されなきゃ良いけど」
ダカラッダカラッダカラッ
ルイズが軽量を活かし、アニエスに一馬身程リードを広げる
「ふん。馬鹿犬に言う事訊かせるですって?絶対阻止よ。ハイッ!!」
ルイズは鞭を取り出し、馬をぴしりと叩き、ペースを更に上げる
「ほぅ、本当に速いな。だが、まだまだだ」
アニエスも鞭を取り、残り3ハロンで鞭を叩き、一気に加速させる
「ハァッ!!ハァッ!!」
掛け声を掛け、鞭をしならせ、呼吸を馬と合わせて末脚を爆発させる
丘の上迄残り1ハロンで横に並び、鼻差でアニエスが勝ちを拾う
「さ、刺された」
ルイズは、アニエスと共に並足にしてから落ち込む
「中々速かったぞ。正直きつかった」
アニエスは額に汗を浮かべ、述べる
才人は二人に20馬身以上も差を付けられ、ゴールした
「二人共、スゲー速えぇ。全然追い付けねぇ」
「サイトは、馬との呼吸が全く合って無いのよ。馬も走り難いわ」
「んな事言われてもなぁ」
「じゃ、勝利者の権利だな」
「お手柔らかに」
「そうだな、今直ぐはちと思いつかんから、保留で頼む」
「はいよ」
「其れじゃ、戻るか」
アニエスが手綱をぴしりと叩き走り出すと、ルイズと才人も合わせて走り出した

*  *  *
コルベールの研究室
「ふぅ、やっと火薬が届いたか」
「コルベール先生。これ、重心ヤバいんじゃ?」
「飛ばす際に、風魔法で整流させるから、気にしないで構わないよ」
「強引っすね。ま、安定翼付けますか」
「頼むよ」
「才人さん。ガソリンの錬金は終了しましたよ」
「シュヴルーズ先生。有難うございます。此でやっと中身が積めますね」
「入口に入れた後は、入口はどうなさるのですか?」
「此が蓋なんですが、此を錬金で融合します」
「成程、此で密封出来ますね。ですが、何故増槽に迄、推進部を取り付けたのでしょう?」
「此も燃料をぶつける、弾扱いなんですよ」
「はぁ?」
「其より、今からちょっと、板を切り出ししますから、其を錬金で融合お願いします」
「解りました」

2週間もかけ、才人達の製作も大詰めを迎えた。そして皮肉にも、洒落と粋狂で作った代物が、実戦使用されてしまうのは、この時点では、誰も気付いていない

*  *  *
結婚式に向かう為、アルビオン艦隊はトリステイン艦隊との合流ポイントに向かう、場所はラ=ロシェール近郊
「艦長、ランデブーポイントに着きました」
「宜しい、艦隊はそのまま待機。信号送れ」
「は、艦隊はそのまま待機。信号送ります」
レキシントンの艦上で、ボーウッドは指示を下す
「奴らは随分遅いですな」
艦隊参謀にして作戦の総指令たる、ジョンストンがボーウッドに語りかける。最も、本人は会議の政治家であり、軍人ではないので、現場の指揮は全てボーウッドに任されている
「予定時刻に到達出来ないのであれば、錬度を推し量る良い機会ですな。ジョンストン卿」
「成程。そういう考えも有りますな。全艦、帆は畳んでおりませぬな?」
「勿論。直ぐに行動出来る様に旋回中です」
艦隊をゆっくり旋回させ、足を落とさぬ様にトリステイン艦隊を待つ
予定時刻より30分遅れで、トリステイン艦隊が到着する

報告。艦影発見、トリステイン艦隊と思われます」
「射程は?」
「レキシントン射程ギリギリ。他艦の射程外です」
「左砲戦準備。並びに作戦準備。行き足を付けるぞ。艦隊前進」
「復唱、左砲戦準備。並びに作戦準備。艦隊前進。信号送ります」
「良し」
ボーウッドは部下の答礼に、満足の笑みを浮かべる
作戦自体は不服だが、軍人に命令違反は許されない。ならば、作戦を忠実に実行するのみ
「ボーウッド殿、射程ギリギリならば、無理に近付かなくても宜しいのでは?」
「そんな事は有りませんよ、ジョンストン卿。命中率を上げるには、近付くのが一番ですし、他艦の攻撃が命中するのにも、前進が必要です。作戦開始、礼砲撃て」
「イエス・サー。作戦開始、礼砲撃て!!」
レキシントンの艦砲が火を放って空砲を撃つ。トリステイン艦隊の射程範囲外でも、トリステイン艦隊の肝を冷やすには充分な轟音で有る
「始まりましたな、ボーウッド提督」
「ワルド卿。竜騎士隊の出撃準備はどうかね?」
「フーケが行っており、準備完了と連絡が来ております」
「では、配置に付いて頂きたい」
「始まりを見る時間位は、有るでしょう?」
トリステイン艦隊から、答砲が応える。数は7発。此方への、敬意を表していない。最上級なら11発が慣例である
最も、ボーウッドはその答砲が真なりと確信し、苦笑する。今から行うのは、条約破りだからだ
「開始」
「復唱、開始。送ります」
最後尾に付いていた老朽艦から火を吹き、炎上しつつ、ボートから乗組員が脱出するのを確かめる
「トリステイン艦隊に信号送れ。貴艦ノ攻撃ニヨリ、当艦隊ガ撃沈サレリ。当艦隊ハ此ニ応戦セントス」
「復唱、貴艦ノ攻撃ニヨリ、当艦隊ガ撃沈サレリ。当艦隊ハ、此ニ応戦セントス。送ります」
手旗信号で信号手がトリステイン艦隊に信号を送る
「返信来ました。当艦隊ニ攻撃ノ意図アラズ。当艦ノ砲撃ハ空砲ナリ」
「砲撃開始」
「砲撃開始!!」
命令が次々と伝達され、レキシントンの左舷砲列甲板の砲が、一斉に火を噴く
行き足も付き、しかも射程外からの一方的な攻撃。旗艦を潰せば、指揮系統が乱れ、単艦で対処しなければならなくなる。もう、決したも同然だろう
錬度が落ちたとは言うものの、自身の砲兵達は、より長射程の砲をきちんと使いこなしている
射程が長くなる程、風や角度調整を修正する必要が有るからだ
トリステイン艦隊旗艦撃沈迄、間もないだろう。中破してから、慌てて砲戦を行っているが、既に遅いし、遠い
満足に頷くボーウッド
「新しい時代の幕開けですな。提督」
ワルドがまだ準備せずに、ボーウッドに話しかける
「何、戦争が始まっただけさ。ワルド卿、出撃命令だ。配下の30騎で、砲撃終了後に全てを焼き尽せ。降伏は無視しろ」
「承知した。竜騎士隊、出撃する」
ワルドが竜騎士隊に向かう為に去る
「さてと、トリスタニア迄、上手く迫れるか?」
ボーウッドは他艦の射程内に入ると、全艦での全力射撃を命じ、混乱の途上に有るトリステイン艦隊を無傷で蹂躙し、タルブに進路を命じる
ジョンストンは初めての戦場で高揚し、意味不明な羅列を繰り返しているが、全員で無視する
「第一段階は成功、次は降下作戦。本当に大変なのは、此からだ」

*  *  *
タルブの村人達は、空から船が落ちて来るのを見、不安に駆られる
「何だい、戦争かい?」
「そんな事有る訳ねぇ。領主様から、アルビオンとは不可侵条約を結んだって、話が来てたじゃないか」
村人達が空の異変に気付き、シエスタとジュリアンも其に目を向ける
「ねぇ、シエスタ姉さん。あれ、アルビオンの軍艦じゃないかな?」
「本当だ、錨を下ろして降下してる。父さん!?」
シエスタ達は家に駆け寄り家族の安否を確認し、誰も欠けて居ない事を確認し、ほっとする
「シエスタ、ジュリアン。お前達は母さんと兄妹を森に逃がせ」
「父さんは?」
「他の連中に声を掛けて来る。良いか、絶対に言う事聞けよ?保存食と水も忘れるな。行け」
「父さんも一緒に」
シエスタが言うも、父親に怒鳴り付けられる
「うるせぇ!!こういう時は、親父に格好付けさせろ!!ジュリアン、俺が倒れたら、お前が家族での一番年長の男だ。頼むぞ」
「解った。母さん、姉さん、皆、行くよ、準備して」
「父さん、無事で居てね」
「おうよ。ひょっとしたら、来るかも知れんしな」
「来る?」
「竜の羽衣がな」
父親はニヤリと笑みを浮かべ、他家の安否の確認と脱出指示の為に飛び出した
「父さん。無事で居て。才人さん。幾ら何でも、期待はいけないですよね?でも私、私……」
シエスタは無駄な願いと解りつつ、才人に祈りつつ、準備をし、脱出する
シエスタ達の他にも村人達が三々五々に脱出した後、タルブ領主アストン伯が手勢数十騎で駆け付け、魔法で迎撃するが、竜騎士のブレスで、あっさり焼き付くされる
その後、進路の邪魔になると判断し、竜騎士達がタルブの村に火を掛け、次々に村の建物が炎上する
「あっあっ、私の村が、私達の村がぁ」
シエスタは焼かれる村を見、号泣する。そして、まだ父親が森に来てない事に気付き、取り乱す
「父さんが、まだ来てない。迎えに行かないと」
「駄目だよ、姉さん。落ち着いて。今行っちゃ駄目だ。父さんを信じるんだ」
今にも飛び出しそうなシエスタを、ジュリアンが羽交い締め、抑え付ける
「離して、ジュリアン!!」
「駄目だ。父さんを信じるんだ」
「ジュリアンの言う通りよ。シエスタ」
「母さんは、平気なの!?」
「平気な訳無いでしょ?でも、此処でバラバラになったら、誰が一番悲しむのか解る?父さんよ!!」
シエスタははっとし、大人しくなる
「其にね。父さんはきちんと仕事して来るわ、ほら、見なさい」
村人全員が脱出する迄、避難の指揮を執り行い、火傷を負った村長を肩車しつつ、此方に向かって駆ける父親の姿があった
「私の惚れた男が、仕事しない訳無いじゃない」

*  *  *
「艦長、定刻より30分程遅れています」
「ふん、王の居ないアルビオンに、其処までする必要は無い」
「了解」
副官は艦長ラ=ラメーに言いたい事を黙り、そのまま対応する
確かに、向かい風で切り返しばかりしてる為、遅れてるのは理解出来るからだ。帆船としての欠点である
其に錬度の問題も有る。無理に対応させて、兵に消耗を強いる必要も無いだろう
何せ今回は結婚式である。戦闘ではない
「間もなく予定ポイントです。アルビオン艦隊発見」
「あれが、旗艦のロイヤルソブリン級か。周りの戦列艦が玩具に見えるな」
「そうですな、艦長。ロイヤルソブリン級一隻、通常戦列艦6隻、あれは?揚陸艦7隻。こちらの戦列艦6隻の倍ですな」
「何故、揚陸艦が?」
「さぁ?儀杖兵でも乗せてるのでしょうか?」
「あの規模だと、3000は入るぞ。殿下の結婚式に、其処までの礼をするとはな。余程自身の王を滅ぼした、負い目を感じてるらしいな」
ラ=ラメーは満足気に頷く。あの忌々しい三色旗を、ラ=ラメーはとにかく気に入らない
「信号出せ、答砲用意」
「了解。信号出せ、答砲用意」
定形通りに応対し、アルビオンのレキシントンから礼砲が火を噴く
数は11発
射程外でありながら、その轟音に思わず肩をすくめる
「もの凄い音だな」
「戦場で無くて良かったですな、艦長」
「うむ。答砲撃て」
「何発にしますか?最上級は11発ですが」
「レコンキスタ如き、7発で良い」
「ウィ。答砲用意、7発。撃て」
次々命令が伝達され、礼砲が空を響かせる
すると、最後尾の揚陸艦から火を吹き、乗員が次々に脱出し、爆発しながら墜落していく
「何があった?」
「さぁ、事故でしょうか?運悪く、火薬庫に引火したみたいですな」
「レキシントンから信号有り」
「読め」
ラ=ラメーが答える
「はっ。貴艦ノ攻撃ニヨリ、当艦隊ガ撃沈サレリ。当艦隊ハ此ニ応戦セントス」
「何?返答送れ。当艦隊ニ攻撃ノ意図アラズ。当艦ノ砲撃ハ空砲ナリ」
「復唱します。当艦隊ニ攻撃ノ意図アラズ。当艦ノ砲撃ハ空砲ナリ。送ります」
信号手が送るが、返事はレキシントンの砲撃で、アルビオン艦隊が答える
ドドドーン!!
旗艦エルトゥールル号に着弾し、乗員が仰天する
「な、届くのか?信号手、とにかく送れ、当艦は攻撃してないと。攻撃中止の要請をしろ」
「はっ、送ります」
「艦長、何を言っているのですか?既にアルビオンは行き足を付けております。此は完全に攻撃です。早く応戦を!!」
「此は不幸な事故だ。信号手、送っているな?」
「はっ、返答有りました。我、トリステインに宣戦ヲ布告ス」
「何だと?不可侵条約はどうした?」
言い合ってる内に、またレキシントンが火を噴き、エルトゥールルに着弾、甲板員に被害が出る
「艦長ぉ!!応戦を!!」
「黙れ!!攻撃中止を要請し続けろ。此は事故だ!!」
副官は舌打ちをする
『艦長の判断自体は、確かに間違ってない。だが、しくじった。アルビオンは最初から、その気だったんだ。アイツなら、ジェラールなら、艦隊編制を見た時点で気付いただろうに。奴なら、艦長を殴り倒して指揮を取るかもしれん』
以前の艦隊副官のジェラール=ド=グラモンを思い出す
ジェラールが居る時、艦隊を取り仕切って居たのは、ジェラールだった
艦長なぞ、お飾りだったのである
だが、人手不足の魔法衛士隊に引き抜かれてしまった
ジェラール自身も、父が所属していた衛士隊に、格別の思いが有ったらしく、二つ返事で承諾してしまった
近衛隊隊長は元帥位と同格。友の栄達に祝福こそすれ、嫉妬の感情なぞ無い
だが、今必要なのは、その友の技量である
こうなれば、艦長には名誉の負傷をして頂こう。そう決め、密かエアハンマーをラ=ラメーの後頭部に一発喰らわせるべく、小さく詠唱する
その時、砲弾が傍を通り過ぎ、艦長の居た場所に着弾
艦長だったモノが其処に転がっていた
「ラ=ラメー艦長戦死!!此より私が指揮を取る!!各艦左砲戦準備!!回避ジグザグ行動!!行け!!」
「ウィ!!」
命令を伝達する為に、伝令が走る。だが、遅すぎた
現場は混乱を重ね、命令が上手く伝わらず、勝手に砲をぶっ放し、其が各艦に伝播し、艦隊全艦で、射程外なのに砲を撃つ
「くそっ、醜態だ」
ジグザグ回避をしようとすると、そのまま他艦の回避軌道と重なり、衝突する艦が出る
艦隊の統率が完全に乱れた所に、アルビオンが整然と戦列艦の射程内に進入し、全力射撃をすると同時に、竜騎士がレキシントンと揚陸艦から飛び立つ
一斉射撃はトリステイン艦隊を完全に捕らえ、少なく無い被害をもたらす
完全に決まってしまった
だが、無傷で行かせる訳には行かない
そう副官は覚悟を決める
「全艦、隊列を立て直せ。こちらの射程に入ってるぞ!!一斉射撃準備!!被害は覚悟しろ!!竜騎士は……今回連れて来て無かったな」
竜騎士のエアカバーが望め無いのは、非常に痛いが仕方ない
先にアルビオン艦隊からの一斉射撃が撃たれ、トリステイン艦隊から火を噴き、誘爆し始めた艦が出る
「艦長代理!!もう駄目です!!退艦命令を!!」
「無傷で行かせる積もりか!?殿下とトリスタニアが落ちて良いのか、貴様!?親兄妹に恋人が死んでも、構わないんだな!?」
怒鳴り付けると、直立不動になり敬礼する
「失礼致しましたぁ!!」
「解ったら、配置に付け!!」
「ウィ!!」
恐慌を来たし始めた兵を叱咤し、配置に付かせ、やっと射撃命令を下す
「撃て!!」
ドーン!!
既に使える砲自体が、3割以下に減少し、測距もまともにして居なかった為、当たらない
何より向かい風
全てがトリステイン艦隊の不利に作用し、更に上空から火竜の編隊が近距離で焼く為に、ブレスを一斉に浴びせる
副官は、エルトゥールル号と共に爆散した

*  *  *
王宮にて、トリステイン,アルビオン連合艦隊を花嫁衣裳で待つ、アンリエッタ
報告致します」
「申しなさい」
「はっ、先程アルビオン艦隊を迎えに行った当艦隊とアルビオン艦隊が交戦。トリステイン艦隊が全滅しました」
「‥‥どう言う事ですか?」
「はっ、当艦隊が礼砲を撃った所、アルビオン艦隊の一艦から火を噴き沈没。其をトリステイン艦隊の攻撃と判断したアルビオン艦隊は条約を無視し、宣戦を布告」
「当艦隊が応戦するも、ラ=ラメー艦長が戦死、副官が指揮を受け継ぎましたが、敢えなく全滅しました」
「緊急閣議を開きます、召集しなさい。遅れた者に、用は有りません。30分以内に集結させなさい」
「ハハッ。緊急閣議を発動、30分以内に集結出来ぬ者に、発言権無し。伝えます」
伝令が一気に駆け出し、閣僚に命令を伝える為に走る
遅刻した者は、一人も居なかった

会議室に重苦しい雰囲気が漂う
入って来る報告は芳しく無い報告ばかりである
「そもそもの事の起こりは、不幸な事故だと聞いているが」
「ならば特使を派遣して、事情を説明すべきでは」
「ですが、既に艦隊は全滅させられておりますし、宣戦布告をされております」
「ゲルマニアの援軍は?」
「同盟に基づき、要請しましたが、まだ返事は有りません」
「不可侵条約はどうした?」
「とにかく、事故と言う事で片付ければ、体裁は整うかと」
「では、その様に」
報告致します」
「申せ」
「は、アルビオン艦隊タルブの村に降下中。タルブ領主、アストン伯戦死」
「竜騎士隊から報告。近衛隊副長より、時間稼ぎを要請されり。此を実行する」
「は?近衛隊副長?どういう事だ?衛士隊や銃士隊が、勝手に動いて居るのか?」
マザリーニが首を傾げる
「殿下?」
デムリ財務卿やリッシュモンが、アンリエッタを見る
「いえ、私も命令しておりません」
「魔法学院より、シュヴァリエアニエスが到着。殿下に面会を求めています」
「粉引き風情が何の用だ?」
あからさまに、閣僚から吐き捨てられる
「通しなさい」
「はっ」
アンリエッタが応じ
アニエスが姿を表し、膝を付く
「アンリエッタ殿下に閣僚の皆様。お目汚し失礼致します」
「形式は不要です。今は、一刻を争います。報告が有るなら申しなさい」
「はっ。現在近衛副長サイト=ヒラガから、一日の防御戦を要請されています。一日有れば、科学の成果をお見せ出来ると」
「‥本当ですか?」
「サイトーン?知らぬ名だ」
閣僚がざわつく中、マザリーニだけが眼を光らせる
「銃士隊隊長殿。説明を」
マザリーニが促し、アニエスが続ける
「はっ。サイト=ヒラガはヒュドラ狩りの勇者にして、元グリフォン隊隊長ワルドを退けた実績を持つ剣士です。今回、殿下の最身辺警護をする為、臨時で編入しております」
「何だと!?」
衛士隊隊長は洒落で出来る職では無く、ヒュドラも軍を出さねば討伐するのは非常に難しい
その二つを実行出来た人物が、非常に腕が立つ事だけは、全員理解する
「成程、確かにやる様だな。だが、たかが剣士一人に何が出来る」
全員が頷き、閣議は特使を派遣する方向でまとまりつつある
報告します」
「申しなさい」
「はっ。タルブの村、炎上中。村人に死傷者が居る模様。竜騎士防戦中、アルビオンの足留めに奮戦してます」
アンリエッタが硬直し、気を落ち着かせる為、深呼吸する
「貴殿方に問います。民が傷付きました。今、何をしていますか?特使なんて、何の意味が有るのです」
「ですが、不可侵条約を結んでいるのですぞ?」
マザリーニが宰相として、皆を代表し答える
「不可侵条約。確かに結びましたね。どうもアルビオンには、只の紙切れだった様ですね」
全員押し黙る
「もう一度聞きます。今、貴殿方は何をしていますか?民を守るのが、貴族なのでは無いのですか?こういう時に、先頭に立って民を守るから、君臨を許されるのでは無いのですか?」
「もう既に、宣戦布告はされたのですよ?アルビオンは大国、確かにトリステインでは、勝つのは難しいでしょう」
「ですが、民を守れない貴族に、存在価値等有りません。貴殿方が、義務を放棄するなら構いません。そのまま会議を続行してなさい」
「民を守る為に戦死した者に、報えない貴族なぞ、私に用は有りません。私が前に出ましょう。アニエス!!」
「はっ、お供します」
アンリエッタがすっくと立ち上がり、衣裳のまま歩き出そうとするが、裾がまとわりつく
「ええい、歩き難い」
ビリっと破き、歩き出す
「殿下、興し入れ前の大事な身体ですぞ?」
マザリーニが止めようとするが、破れた布をアンリエッタに投げつけられる
「貴方が結婚しなさい!!伝令!!戦時命令です!!」
「はっ。此処に」
「王宮内のメイジ全てに武装命令。各々に守備を命じます。近衛各隊、中庭に集めなさい。私の杖を持て!!ユニコーンを出しなさい。私が直接指揮します」
「ハハッ」
伝令が各所に命令を伝える為、駆け出す
アンリエッタとアニエスは、そのまま会議室を出ていった
「宰相、特使の準備が整いましたが」
「要らぬ」
「はっ?」
「各々方、殿下を一人で行かせるな。末代迄の恥ですぞ!!」
マザリーニに言われて、慌てて席を立つ。今はメイジと言うだけで戦力だ。一人でも多い方が良い
閣僚は全員アンリエッタに付いて行く為、駆け出した

中庭に着いたアンリエッタは近衛を見渡す
「欠員は?」
「おりませぬ」
ゼッザールが代表して答える
「銃士隊副長ミシェル、謹んでアニエス隊長に指揮権を返上致します」
「留守中済まなかった。皆、頼む」
ガシャ
一番多い銃士隊の隊員が長銃を捧げ、アニエスに礼をする
「銃士隊隊長ド=ミラン。302名欠員有りません」
「ヒポグリフ隊隊長ド=グラモン。51名欠員有りません」
「マンティコア隊隊長並びに、グリフォン隊隊長代理ド=ゼッザール。マンティコア隊51名、グリフォン隊50名欠員有りません」
此処で最年長のゼッザールが、代表して答える
「我ら近衛隊総員454名。全て殿下の御意のままに。総員第一種装備完了です」
銃士隊はチェインメイルを着込み、短銃2丁に長銃一丁。レイピアを腰に差した状態
衛士隊は軍杖を腰に差し、幻獣の鞍にランスを携え、全員隊の名称たる幻獣に騎乗し、マントと隊制服に身を包み、伊達っぷりを周囲に示す
小姓がユニコーンを引いて来たので、アンリエッタは其に騎乗し、王家の証たる水の精霊の力を込めた、王錫状の水晶の杖を掲げ、路を差す
「タルブの村へ、全軍我に続け!!」
「ハハッ」
「銃士隊。輸送馬車の準備は出来てるな?それぞれ第一分隊から第六分隊迄、分隊事に馬車に乗れ。かかれ!!」
アニエスが号令を掛け、銃士が一斉に4頭立ての馬車に走る
「ミシェルは私と共に馬だ」
「はっ」
「各連隊に声を掛けろ!!急げ、殿下に遅れるな!!」
アニエスが怒鳴り上げ、一足先に走り出したアンリエッタと衛士隊を追い掛け、銃士隊の都合12台の馬車は、全速力で走り出した

*  *  *


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