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Last-modified: 2011-04-15 (金) 09:41:43 (4760d)

才人は一人でも稽古は欠かさない
魔法回避訓練と舞姫を踊った後は、森で瞬動稽古である
昨日帰って来た後も、しっかりと稽古もしている
アニエスが去ってしまった学院は、ちょっと静かだ
そんな学院に更なる嵐が来たのは、夏休みに入る6日前である
「ちょっと其処のデブ」
「い、いきなり初対面でデブ呼ばわりなんて……もっと言って下さい!!」
ハァハァするマリコルヌ
やっぱり、このぽっちゃりさんはアレである
「ルイズ知らない?」
「今から教室に向かいますよ。同じクラスなんです」
「そう、さっさと歩きなさい。この豚」
ピシィ!!
いきなり乗馬鞭、エレオノールもアレである
「行きます!!行きますからぁ、もっと罵って下さい!!女帝様ぁ!!」
そのまま乗馬鞭に叩かれながら悦に入るマリコルヌに、業を煮やしたエレオノールは蹴りを入れて、ぽっちゃりさんを転がして案内をさせる
何故か他の人間に尋ねる事をしない
ってか、出来ない。誰も傍に寄らないのだ
やはり、このお方は少しずれている
ガタン!?
教室にマリコルヌが転がされ、エレオノールがたっぷり時間を掛けて到着すると、目当ての桃髪が居た
「ル〜イ〜ズ〜!」
「姉さま!?」
ガタリと思わず立ち上がり、剣幕に気付き逃げ出すルイズ
そんなルイズにレビテーションを掛け、捕獲するエレオノール
「なあに逃げてんのよ?このちびルイズ!!」
「だって姉さま。怒る時の仕草なんだもん」
「怒ってないわ。仕事よ仕事。ゼロ機関の所長は何処?」
「姉さま、アカデミーは?」
「出向よ、出向」
「左遷?」
やっぱりルイズもアレである。あっさり逆鱗に触れる
「左遷なんて言う口は此かしら?このっこのっ!?」
「いふぁい、いふぁい、いふぁいれす」
ほっぺをつねられるルイズ。姉妹のやり取りに、授業を始めようとした教師すら無視する
「あの、ミスタギトー。止めて下さい」
「……無理だ。彼女が学院在籍時の二つ名は『金の女帝』彼女に勝てる者は、学院には居らぬ。もう、二度と見ないで済むと思ってたのに……」
完全に尻込みするギトー
「あら、ミスタギトー。お久し振りでございます」
「…久し振りだな、ミスヴァリエール。此方には妹御に用かね?」
「いえ、女王陛下より直々に賜った命令でして、ゼロ機関の所長を探しておりますの」
「ゼロ機関?」
「知りませんの?」
「初耳だ」
「では仕方有りませんわね。ちびルイズ、さっさと吐きなさい!!」
今度は耳を引っ張るエレオノール
「痛い痛い痛い!?こんなんじゃ、知ってても答えられません!!」
「あ、そうか」
やっと気付き、耳から指を離す
「あたし、何も悪い事してないのに」
すっかり涙目で、ルイズはエレオノールに訴える
「……さっき、左遷とか言って無かった?」
「ご、ご免なさい、姉さま」
「解れば宜しい。で、ゼロ機関の所長は?」
「何ですか?ゼロ機関って?」
今度はエレオノールが目が点になる
「だって、陛下が懐かしい顔に通せば話は通じると」
「姫様が?」
「えぇ」
「…多分お探しの人は、今洗濯してると思うわよ?」
掛けられた声に振り向くと、エレオノールは戦闘体制を取る
「赤髪に褐色の肌。ツェルプストー!?」
「あら、やるの?ヴァリエール?」
「貴方の父親に殺されたお爺様の仇。取らせて貰うわよ!!」
すかさずゴーレムを呼び出すエレオノールに、キュルケはフレイムボールで焼き尽す
そんな二人に疾風が飛び、二人共逆方向に飛ばされる
「止めたまえ、二人共。ツェルプストーとヴァリエールの遺恨は、私でも知っている。だが二人共私の生徒だ。どうしてもと言うなら、私を殺してからにしなさい」
エレオノールが身体に付いた煤を払うと、ギトーに対し、礼をする
「失礼しましたわ、ミスタ。貴方に謝罪を」
するとキュルケは、挑発的に答えた
「ミスタギトー。貴方に礼を。貴方の生徒を殺さずに済みましたわ」
「何ですって?」
「あら、本当の事よ。あんたがスクウェアだろうとも、私はあんたを瞬殺出来る自信がある。ダーリンに付いて学んだ二ヶ月は、軍歴に匹敵するもの」
「ふざけないでよ」
すると、炎の矢がエレオノールスレスレに複数飛来し、通過した後消滅する
「詠唱読めたかしら?」
キュルケが軽々しく言い、エレオノールがぞっとする
全く反応出来ず、髪の毛が焼け焦げた跡が出来ている
「……フレイムアロー」
「大人しく仕事相手を探すのね。私はヴァリエール相手でも軽々しく杖を振るう程、無分別じゃないわ。ダーリンに、怒られちゃうじゃない」
そう言って、廊下側に飛ばされたので、扉を譲るキュルケ
ツカツカ歩いたエレオノールは、キュルケを一睨みし、扉を開ける
ガラ
「後でケリつけましょ」
「ダーリンに怒られない様に出来ないから、お断り」
「……あんたのダーリンって、誰?」
「私のイーヴァルディって、所かしら?今度は、ヴァリエールに譲らないわよ?」
「今度?」
「あぁ、良いの良いの、戯言だから忘れて頂戴」
「ふん」
ツカツカ歩み去るエレオノール
ギトーは溜め息を付いて声を掛ける
「全く、本来のツェルプストーとヴァリエールはこうなのか?」
「その通りですわ、ミスタ」
「君達が此でも大人しい事が解って、私も一つ勉強になった様だ。席に付いてくれ。授業を始める」

*  *  *
エレオノールがメイドをひっつかみ、洗濯場を案内させると、居るのは平民のみである
「何よ?ゼロ機関の所長なんか居ないじゃない。ツェルプストーめ、わざと間違い教えたわね?」
後でやっぱり殺すと呟き、周りのメイドが一斉に引く
非常に危険な空気を感じたのだ
「あんれ?初めましての人かい?」
才人が洗濯籠を持って、エレオノールに話し掛ける
だが、エレオノールは才人を無視する
平民に声を掛ける必要を感じないのだ
典型的な貴族の振る舞いである
才人は久し振りにカチンとする
「返事位したらどうだ?屑貴族」
ぴくん
「……上手く聞こえなかったわ。空耳ね」
「屑に用はねぇぞ。さっさと帰れ」
流石にエレオノールも、無視出来なくなって反応する
「……平民、もう一度言ってみなさい」
「屑の上に、無駄にプライド高い役立たずがこんな所で突っ立ってんな。邪魔なんだよ」
「…あんた、貴族にそんな事言って、無事で済むと思ってんの?」
「さあね。女だからと言っても、屑に優しくする積もりは無い。さっさと帰って、召し使いに怒りでも巻き散らして遊んでろ。俺はあんたの相手してる暇なんざ無い」
才人が挑発し、エレオノールが応じる
「…生意気な平民には教育が必要ね」
「死にたくなきゃ帰れ」
二人のやり取りを見てたメイド達が、おろおろする
才人の強さは知っては居ても、この貴族の反応も尋常じゃない
強くなければ、この様な反応は、貴族でもしないのだ
「ちょっと、教育してあげるわ」
「場所を替えろ、馬鹿女。洗濯物を巻き込む気か?」
「ふん、良いわ。付いて来なさい」
エレオノールがツカツカ歩むと、才人が付いて行き、デルフが柄から出て話し掛ける
「あの姉ちゃん。確かに強ぇぞ?」
「隊長殿程か?」
「いんや。あれは別格」
「じゃあ、余裕だな」
「全く、相棒は女に甘いんじゃなかったのかよ?」
「ルイズはまだ可愛げが合った。あの女には全く無い。一度叩きのめさないと、自分の過信に気付かないタイプだ。つまり俺は、相変わらず甘ちゃんなのさ」
「ほう、甘ちゃんねぇ」
歩いた先は、授業中の生徒達から見える正門前の広場
「良くもまあ、衆人環視の場所を選んだもんだ」
「貴族に生意気な口聞く平民がどうなるか、教えてあげないと駄目でしょ?」
「あっそ」
才人は悪びれない
途端に騒ぎが起きる
「おい、平民の使い魔が決闘だ!?」
「相手は誰だ?」
「エレオノールさん、止めなさい!!」
慌ててシュヴルーズが飛び出て来る
「あら、ミセスお変わりなく」
「良いから止めなさい!!貴女は、とんでもない相手に決闘仕掛けてるんですよ?」
「平民の何処がです?」
エレオノールは聞く耳を持たないので、才人に向き話し掛ける
「才人さんお願いします。どうか手加減を」
「大丈夫ですよ、先生。きっちり、お尻ぺんぺんで済ませますから」
「なら大丈夫ですわね」
そう言うと、シュヴルーズが離れる
「何で平民にお願いを?」
エレオノールには理解出来ない
その時、窓から馴染みの大声が上がった
「馬鹿犬〜〜〜〜!!大怪我させたら、お仕置きなんだからぁ〜〜〜〜!!」
「解ってるよ、ルイズ」
ルイズは、ほっとしながら見守る
「……あんた、何貴族の子女を呼び捨てにしてるの?」
「悪いか?」
「半殺しから全殺しに訂正」
圧倒的な魔力が立ち上がり、デルフが感想を漏らす
「お〜すげ。魔力だけなら、あのおっちゃんしのぐぜ」
「ヒュ〜、凄いねぇ」
「死ね!!」
ブレッドを詠唱し、圧倒的な散弾が飛ぶが、散弾が視界を遮り、視界が張れた時に才人はその場に居なかった
「え、嘘?何処?」
キョロキョロ探すが、視界から消えてしまった
そんなエレオノールの後ろから、むんずと杖を掴まれて取り上げられ、あっさりと決着が付くが、才人はそのままエレオノールを抱え上げる
「きゃっ、何触ってんのよ?」
「いい加減にしろ!!俺が本気なら、もう死んでる事位気付け!!」
エレオノールがその事実に真っ青になる
「い、いや。助けて」
「はぁ?散々偉そうな事言っておいて何言ってんだ?」
「な、淑女にはそれ相応の態度があるでしょ?」
「高圧的に接するのは、淑女の行為じゃねぇ。お仕置きだ!!」
ぱぁん!!
「痛い!?」
ぱぁん!!ぱぁん!!ぱぁん!!
「痛、痛、痛ぁ!?」
ぱぁん!!ぱぁん!!ぱぁん!!
「嫌、嫌、嫌ぁ!!」
エレオノールの心が折れる迄、たっぷり10分以上叩かれるハメになり、公衆の面前で大恥をかかされる事になったエレオノール
正に、自分の行為を呪うしか無かった
「ぐすっ、ひっく、も、許してぇ」
「なら、言う言葉が有るだろう?」
ぱぁん!!
「痛ぁい!?平民に言う言葉なんて……無い」
ぱぁん!!
「痛ぁ!?だって、無いもん」
ダダダダ
「馬鹿犬!!もう、止めて!?これ以上恥をかかさないで!!」
流石にルイズが駆け寄り懇願するが、才人は無視する
「駄目だ。この女はお仕置きが必要だ。誰にも、きちんと躾されて無いんだろう?魔法使えるだけで偉ぶるな、屑!!」
ぱぁん!!
「痛ぁ!?」
「お願い、身内に恥をかかせないでぇ。私の姉さまなのぉ」
「知るか!?だったら、きちんと躾出来ない親の代わりにやってんだ。親を恨め!!」
「お願い!!あんまり恥をかかされると、姉さま結婚出来なくなっちゃう!?だから、お願いい〜〜。使い魔なんだから、ご主人様の命令聞いてよ〜〜〜」
「…使い魔?」
「姉さま、聞いて無いの?サイトはマンティコア隊長ド=ゼッザールに勝利して、ヒュドラも狩れる剣士で、この前の戦争の勝利に貢献した。王宮での通称『無冠の騎士』だよ?」
エレオノールはハッとする
流石に無冠の騎士の噂は、アカデミーにも伝わっている
自分が、どういう人間に喧嘩を売ったか、やっと理解する
だが、平民に謝る事など出来ない
「だ、だからと言って。へ、平民に」
「サイトに謝って、お願い!!今のあたし、杖が無いから止められ無いの!!」
ぱぁん!!
「痛ぁ!?」
「サイトも止めて!!お願い!!」
「因果応報。自業自得って知ってるか、ルイズ?」
ルイズはこくりと頷く
「なら、意地っ張りが何処まで続くか、黙って見てろ。俺が悲鳴上げる迄耐えたら大したもんだ。有る意味名誉だぞ?」
ルイズはぐっと詰まる
才人はそのまま無言で叩き続ける
エレオノールが謝る迄更に一時間の時間がかかり、才人も叩き続けた手が真っ赤に腫れ上がった

*  *  *
授業をサボり、ルイズは泣きじゃくったエレオノールにハンカチを当てて、落ち着く迄居ようと決めた様だ
才人は隣で無言で座っている
エレオノールが才人を時折伺う顔は、びくついている
強気が完全に剥がされ、臆病な部分が露出してしまっている
「で、ルイズの姉さんが、学院に何の用だ?」
ビクビク
エレオノールが過剰に反応する
「ちょっと、サイト」
「普通に話してるだろ?」
「そうだけど……姉さまにもう少し優しく」
「してるだろ?本来なら、首と胴が生き別れだ。俺が手加減する理由なんざ、無かったんだぞ?」
流石にルイズも黙る
才人の言う通りだからだ
才人に向けた魔法だって、才人で無ければ死んでいる
「姉さま、サイトには貴族の誇りなんか通用しないわよ?貴族の振る舞いも通用しないわよ?解ってくれた?」
こくりと頷くエレオノール。才人を見る目は怪物を見る目だ
自分達の常識の外に生きてるモノを、生命の危機と共に初めて見たのである
恐怖以外の何者でもない
「サイトを怖がらないで。サイトはね、とっても優しいの。怒ると怖いだけ。サイトの笑顔はね、とっても安心出来るの。だからね、姉さま、そんなに怖がらないで」
「……あれに当てられて、同じ事言えるの?」
ガチガチ震えるエレオノール
最悪の顔合わせだ
ルイズは溜め息をつく
「言えるわよ。サイトの恐怖に当てられても、サイトの傍から離れたがらない人だって居るもの」
「誰よ?」
「ツェルプストーよ」
「あの女が、恐怖を味わってるの?」
「そうよ。今の姉さまみたいに、腰を抜かして震えっぱなしだった。姉さまは、ツェルプストーに負けるんだ?」
ツェルプストーに負ける
ヴァリエールにとって、屈辱にまみれる禁句である
「そそそそんな訳無いでしょ?今はちょっと怖いけど、きちんと克服してみせるわ。私はヴァリエール家長女エレオノールなのよ?」
「流石は姉さまですわ。私の苦手な姉さまだけあります」
「余計な台詞言わない」
ピシっと、デコピンを放つ
「痛っ!?」
ルイズがおでこを押さえて涙目になる
「……で、用事は?」
黙って聞いてた才人がエレオノールに問いかけると、エレオノールがびくつく
「……あのな、用件すら言えないなら、マジで帰れ。俺はやる事有るんだよ」
ルイズは反論しようとするが、才人が正論しか言って無いのに気付き、黙って経過を見守る
エレオノールは暫く震えた後、非常に小さい声で言い始めた
「…出向」
「何処からだい?」
「王立アカデミー」
「何処へ?」
「……ゼロ機関」
「あぁ、成程ね。俺が所長の平賀才人だよ。じゃ、早速仕事すっか。ほら、行くぞ?」
そう言うと、才人はエレオノールの手を引っ張り立たせ、そのままコルベールの研究室迄引っ張って行く
エレオノールはそのまま引かれて行ってしまい、ルイズがベンチに残された
「…昨日王宮に呼ばれて謁見したって聞いたけど、サイトは何を承けたの?姉さまがサイトの仕事の手伝い?」
ルイズは放課後に研究室に行く事を決意し、一旦教室に戻る事にした

*  *  *
研究室に来た才人とエレオノール
コルベールは授業の為、留守である
「さてと、機関とは言っても、建屋も何にも無い、有名無実な出来立て組織で、君が入って、やっと三人の小組織だ。一応自己紹介お願い出来ないかな?俺は平賀才人」
「君の妹の使い魔召喚の儀で、ハルケギニアに召喚された日本人だ。呼び名は、使い魔でも才人でも、呼び易い様に呼んでくれ」
「じゃあ、平民で」
「クックックック。もう復活したか」
才人は笑い、エレオノールがブスっと応じる
「決闘じゃ遅れを取ったけど、仕事となれば話は別よ。私はエレオノール=アルベルティーヌ=ル=ブラン=ド=ラ=ブロワ=ド=ラ=ヴァリエール」
「由緒正しいヴァリエール公爵家が長女にして、貴方の主人の姉よ。席は王立アカデミー土の主任研究員。専門は、始祖ブリミルの彫像研究」
才人は自己紹介を聞き、答える
「ふうん、じゃあ姉さんで」
「平民に呼ばれる筋合いは無いわね」
「じゃあ、エレオノールさんで」
「名前で呼ぶな、平民」
「あっそ、ミスヴァリエール」
エレオノールは背筋にぞくりとしたモノを感じる
才人の雰囲気が変わったのだ
そう、凍てついた感情の無い瞳になっている
『私、何かしたのかしら?』
「では、ミスヴァリエールの仕事を指示する。秘書として、王政府提出書類作成を一任する。また、土のメイジとして、出来る事全ての魔法の提供だ。質問は?」
「ちょっと待ってよ?何で、私なんかが書類作成?」
「俺は自分自身の仕事だけで手一杯だ。嫌なら、俺の代わりに図面を書いて貰う。書類作成は俺がやろう。どちらか一方を選べ。拒否は認めない」
エレオノールは、一応第三の路も提案してみる
「両方嫌だと言ったら?」
「解雇。姫様には過不足無く伝えるわ。ミスヴァリエールは、使い物になりませんでしたと…ね」
エレオノールは思案する
『この平民は、感情抜きで完全に仕事のみで話している。陛下の御推薦である私が解雇されたら、私とヴァリエール、双方に多大な傷を負う。其だけは避けたい。に、しても、平民の上司だなんて…』
「楽な方はどちらかしら?」
「図面は知らないと書けない。だから、書類作成をお願いしたんだが?」
エレオノールは、才人が合理的判断の元で、指示を下している事を理解する
「了解、書類作成を致します。作成しなければならない書類を指示願います」
「じゃあ口頭で指示すっから、先生の机使って作ってくれ。俺はドラフター使って製図だ」
「はい」
エレオノールが机に座ると、才人がドラフターを動かしながら、ペンを走らせる音を背景に、昨日の財政問題解決法をエレオノールに伝える
エレオノールはペンを走らせながら、冷や汗を足らし始めた
「平民、何これ?訳解んない」
「何だ?未来の公爵が解らんのか?次期公爵領は、衰退決定だな」
「な、そんな事決めつけ無いでよ?」
流石にエレオノールが噛みつく
「財務卿と宰相は理解して小踊りしたぞ?まだまだ、勉強が足らんな」
うぐっと、詰まるエレオノール
宰相達が小踊りするって事は、画期的な提案な筈なのだが、アカデミーと云う隔絶された場所に居た為、経済に疎い事に気付かされた
全く、この平民は規格外である
簡潔に書類を作成すると、才人にサインを求める
才人は書類に目を通し、頷いた
「へぇ、綺麗な文字だな。俺や学生、教師より綺麗だわ。内容もOKっと」
才人が漢字でサインを書くと、エレオノールが目を点にする
「平民、何その文字?」
「日本語。俺の国の文字。此なら、俺の証明に一発でなるだろ?」
「…確かに、一発で解るわね」
外国人で有る事を、才人は全く隠さない
周りには、非常に遠い所で、空船や風竜ですら、行き来は不可能と話している
才人と深い付き合いしてる人間のみ、才人が異世界(他惑星)出身で有る事を知っている
エレオノールは書類作成が終了すると、手持ち無沙汰になった為、才人の作図を覗き込む
「平民、何の図面?」
「ボイラー」
シャッシャッ
先程から才人がドラフターをかちりと動かし、基線を当て、一気に引く
エレオノールは優雅に動く様を、ついつい見惚れてしまう
仕事で稼動する躍動美を感じたのだ
「こんな作図道具、見たこと無い」
「俺の国の作図道具だ。ドラフターと言ってな、今じゃ時代遅れの代物さ。今はCAD使うから、使える人間は少なくなったよ。何れ図面も書いて貰う。やり方見てろ」
この平民は、エレオノールを使い倒す気満々らしい
エレオノールは冷や汗を垂らす
「魔法の方はどうするのよ?さっきから、魔法の指示無いじゃない」
魔法が必要だから呼ばれた筈なのに、魔法を使わない
エレオノールの不満は、当然である
「あぁ、じゃあ胴パイプを錬金で出してくれ。直径1サント、板厚0.3サント、長さ1メイル」
「ふん、銅なんて基本じゃない。私に掛ればちょろいわよ。イル・アース・デル」
積まれていた石炭を材料に錬金し、才人に突き出すと、才人は受け取り、コルベールの引き出しからノギスを取り出し、検査しだした
「φ10.8、t3.5、L1010……随分適当だな」
エレオノールはカチンと来る
「問題無いでしょ?」
「長さは良い。だが経と板厚は不合格」
才人の宣告は無情だ
更に曲げるとぽきりと折れる
「……あのな、色からして感付いてたが、誰がブロンズ(青銅)を出せと言った?俺が出せと言ったのは、カッパー(赤銅)だ。土メイジなのに、そんな事も出来ないのか?こんな粗悪な錬金で偉ぶるな」
エレオノールは彫像研究と魔法による合成がメインであり、材料の精錬と言った基礎研究に挑んだ事は無い
才人が要求したのは、精錬技術であり、エレオノールには畑が違う
いきなり駄目出しの連続、流石にエレオノールが抗議をする
「平民の癖に、魔法も使えない癖に、偉そうな事言わないでよ」
「俺の国じゃ、魔法無しでそれ位やってるわ。抗議したきゃ、要求基準満たしてから言え」
「ふざけないでよ!!魔法のなんたるかを知らない平民風情が、貴族に説教?10年早いわよ!!」
いつの間にかシエスタとミミが入室しており、二人に紅茶と菓子を提供する
「今、何と言った?ミスヴァリエール」
才人の言い方に気付いた二人は、顔を青くする
いつもの才人が纏っている空気ではない。完全に張り詰めており、二人共そそくさと逃げ出す
今の才人に近寄るべきではないのを、二人共知っているからだ
才人がドラフターから立ち上がり、がしりとエレオノールの腕を掴み、睨む
エレオノールは先程の事を思い出し、眼を瞑り、思わず身体をすくめる
「ひっ」
「なら、魔法を知ってる事を証明すりゃ、言う事聞くんだな?」
エレオノールは折檻されるかとびくついたのだが、才人が何もしない為、眼を開け応じる
「え、えぇそうよ。何だって、言う事聞いてあげるわ。ま、平民風情には無理でしょうけど」
「言質取ったからな。証明後に逆らったらクビだ。良いな?」
「…良いわよ。其より離してよ?私にはバーガンディ伯爵が居るのよ!!嫁入り前に、他の男が触らないで!!」
才人はあっさり言い返す
「知るか。逃げ出されると困るからな、行くぞ」
そう言って、才人はエレオノールの手を引っ張り、研究室を出ると、土を掘り起こし、ルイズ達の教室に向かう

*  *  *
ガラ
「で、あるから、この様に炎は燃やす材質によっても色が変わる事があり、此が花火の原理になってる訳です」
才人がエレオノールと共に入室すると、コルベールが教鞭を取っている
「コルベール先生済まない。ちょっと、ギーシュ借りるよ」
「教室から出さないでくれたまえ」
「解った。ギーシュ、銅パイプを錬金。φ10,t3.0,L1000を2本」
ドンと材料の土を机の上に置き、才人考案のミリメイル単位でギーシュに伝える
ギーシュは教えて貰ってる為、心良く応じる
「解ったよ。イル・アース・デル」
土から銅パイプが2本錬金され、才人がノギスを用いてチェックを始める
「φ10.2,t3.25,L1002、合格。もうちょいでJIS規格入れるよ」
パイプはエレオノールとは違い、赤銅だ
一本の銅パイプをくにゃりと曲げ、何の問題も無い事を確認する
「青銅系の合金でも、ドットで此くらい出来るんだ。言い訳すんな」
エレオノールにぽいっと放り、エレオノールが受け取り、材質をチェックすると、自分自身がした事無いレベルの純度であり、冷や汗を垂らす
「ふ、ふん。偶々精錬が得意なメイジって事じゃない。平民の手柄じゃないわね」
才人が馬鹿にされ、ギーシュがカチンとする
「才人を馬鹿にしないで欲しいな。僕は才人に教えられてから、青銅の銅純度を上げて来た。以前はこんな感じだよ」
そう言って、以前の青銅品を錬金して渡す
「ほら、土メイジなら解るだろ?」
「……私のと大して変わらない」
「才人の言う事は合理的だよ。出来ないなら、自分が悪いのさ」
ギーシュが不満気に言い、正面を向く
エレオノールは、まだ不満気だ
「た、偶々よ、偶々。平民と相性良いだけじゃない」
「まだ認めないと。じゃあ、どうする?」
「そうね。新しい魔法でも開発してみなさい。其が出来るなら無条件降服するわ」
聞いた瞬間に、モンモランシーが額に手を乗せる
「あちゃー。終わったわ、あの人」
才人は少し考え込むと、授業を行ってたコルベールに話しかける
「コルベール先生。悪いけど、授業ジャックするわ」
「きちんと、魔法の授業かね?」
「えぇ」
「ふむ、面白そうだ。諸君、無冠の騎士の番外授業だ。たまには面白い余興だろう。学期末だし、構わないね?」
「やた、潰れた!!」
「コルベール先生太っ腹!!」
あちこちでピーピー口笛が吹き歓声が上がる
「ミスタ、お久しぶりです。更に輝きが美しくなってますわね」
「君が才人君の助手かね。まぁ、才人君の指示に従うのは、貴族の中の貴族たるヴァリエールでは、難しいのは理解出来なくも無い。だが、今は黙って見てて貰おうか」
才人が教壇に立ち、皆を見回して声を掛ける
「さて、悪いな皆。なるべく面白くやろうと思う。内容は、物理現象を利用した、新魔法の開発実験だ。高位スペルの代表を誰か教えてくれ」
一人、手を上げる
「僕が答えて構わないか?」
「良いぞ。マリコルヌ、答えてくれ」
「ライトニング系のスペル。最低でトライアングルクラスが必要な、高位スペルの代表格」
「お、有り難う。じゃあ、ドットのライトニングを開発しようか」
才人があっさり言うので、皆がぽかんとする
「んな、馬鹿な」
「平民。あんまり無茶言わないでくれよ」
「まぁまぁ。実験だから、試すのは構わないだろう?って訳で、窓側の連中は全員窓を閉めてくれ。扉側も同様」
言われた生徒がロックを唱え、閉める
「それじゃ次、土メイジの皆、手を上げて」
クラスの1/4が手を上げる
「適当に材料見繕って。水を入れる桶を錬金してくれ」
そう言うと、先程の土を利用して桶が複数出来る
「有り難う。では水メイジの皆。全員で凝集のスペルを唱えて、空気中の水を桶に入れて固定してくれ」
一斉に凝集を掛けた為、一気に空気が乾燥する
「有り難う。此で条件が整ったな。タバサ、此方来てくれ」
タバサが席を立ち、ちょこちょこと才人に寄ると
「はい、万歳」
タバサが両手を上げると、才人ががばりとパーカーを脱ぎ、タバサにすぽりと被せる
その瞬間、周りから黄色い悲鳴が上がる
「キャー!?授業にかこつけて、何て事してますの?」
「まぁまぁ、ほらタバサ、身体を軽く動かす」
才人のパーカーを被るとタバサは言われた通り、身体を動かす
パーカーが静電気を帯び、タバサに纏わり付くと、タバサに才人が耳打ちする
「イメージは、雷を増幅して、触れた相手に一気に流す」
タバサはコクリと頷く
「じゃあタバサ、スペルはスリサーズ・デル・ウィンデ」
「スリサーズ・デル・ウィンデ」
杖を持ったタバサがスペルを唱えると、一瞬紫電が疾るのが見えたが、何も起きない
「…何も起きないじゃないか」
「何だ、失敗かよ」
口々に不満の声が上がると、才人はニヤリとする
「う〜ん、そうだな。マリコルヌ、ちょっとタバサの杖に触ってくれ」
「何だよ?一体」
マリコルヌが立ち上がり、タバサに近寄ると、タバサが杖を差し出し、マリコルヌが触れる
バチン!!
触れた所で閃光が発生し、マリコルヌがひっくり返ってしまう
「はい、成功。スペル名はスタンだね。タバサ、動いちゃ駄目」
皆が唖然とし、タバサは頷く
「次、ギムリ触ってみて」
「い、嫌だ」
「大丈夫、もう電力使ったから。ほら」
才人がそう言って、杖にぺたぺた触る
「あれ、本当だ」
ギムリが立ち上がり、歩いて来ると、才人がタバサに指示する
「身体を軽く震わせる」
タバサが身体を震わせ、ギムリが触れると
バチン!!
ギムリもひっくり返ってしまう
「悪いけど水メイジの皆。二人を気付けしてくれ」
そう言うと、水メイジ達が気付けし、二人は才人に抗議する
「何なんだよ?酷いじゃないか?」
「騙したな?才人は、もうちょい良い奴だと思ってたのに」
「悪い悪い、協力感謝。実験で俺が被験者でひっくり返っちまうと、説明出来ないんだよ」
「あ、そうか」
二人共頷いてしまうが、納得し難い表情だ
「じゃ、実験終了。原理を説明するね」
才人が黒板に書き出す
「此は静電気を起電力に魔力で増幅して、見た通り、触れた相手に一気に通電して、ショックを与えるスペルだ。タバサに俺の服を着せたのは、静電気が発生しやすい素材だから。他には毛糸なんかもそうだな」
そう言って、黒板に人の身体を書いて静電気発生の図を書いていく
「この静電気は乾燥した状態で発生しやすい。つまり、水を凝集させたのは、静電気を発生させ易くする為だ」
皆がふんふん頷く
「この静電気を、魔力で増幅して、触れた相手に一気に流すイメージをスペルで補完する。電力自体は非常に小さい電力で、人を昏倒させる事が出来るので、今みたいにドットで充分なんだ」
質問
「何だ?レイナール?」
「タバサはトライアングルだ。実際には、三乗してないだなんて誰が言えるんだ?」
「そう言われれば、そうだな」
「ドットで試せよ、ドットで」
口々に抗議が上がる
「いやぁ、やっても良いんだけどさぁ。俺の服、タバサはともかくマリコルヌに着せるのはなぁ」
瞬間、教室に爆笑の渦に巻き込まれる
「「「「ギャハハハハハ」」」」
「き、気持ちは解るな、うん」
「じゃあ、私がやる。私、風のドットだし、毛糸のベスト着てるから大丈夫でしょ?」
一人の女生徒が立ち上がり、教壇に歩く
「お、有難うな」
「こんなに面白いの、参加しなきゃ損だって」
そう言って、才人に笑いかける
「じゃあ、身体を動かして」
「こう?」
生徒が身体をふるふる動かす
「イメージはさっき言った通りだ。良いね?」
「うん、イメージ……大丈夫」
「良し、スペルはスリサーズ・デル・ウィンデ」
「解った。スリサーズ・デル・ウィンデ」
一瞬紫電が疾り、収まる
才人が杖に触れると
バチン!!
才人が倒れる
慌ててモンモランシーが近寄り、才人を気付けする
「モンモンサンキュ。あ〜効いた。此で証明終了だ。ドットで出来るライトニングの開発実験。終了です」
才人が礼をすると、一気に周りから拍手が巻き起こる
コルベールはエレオノールの隣で見ており、愕然として才人を見るのに声をかける
「才人君はこう言う人間だ。解ったかね?」
「……何なの?あの平民……魔法を即興で開発?……信じられない」
「物理現象に通じてるから、応用しただけなんだろう。我々より、遥かに知識を持っている。平民だからではない。才人君の国は、貴族が要らない国なのだよ」
「貴族の要らない……国」
「才人君と何を話したのかね?」
「魔法に通じてる事を証明したら、絶対服従」
「君の負けだな、ミスヴァリエール」
「平民………平民の上司に絶対服従………ヴァリエール始まって以来の悪夢だわ……ご先祖様に、なんて申し開きしたら……」
うわ言の様にぶつぶつ言い、エレオノールの目が泳いだ

*  *  *


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Last-modified: 2011-04-15 (金) 09:41:43 (4760d)

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