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Last-modified: 2011-05-16 (月) 00:17:45 (4729d)

ヴァリエール公は領地に引っ込んで居る所を、王政府より呼び出され、今は王宮の宰相の部屋に案内され、主を待っている
その前に、ゼッザールが挨拶に入室した
手には書類を持っている
「公爵、お久しぶりです」
「久しいな、ゼッザール。息災か?」
「は、先代隊長に鍛えられたお陰ですな」
「くっく、あれは今でもおっかないぞ?」
ヴァリエールは愉快そうに笑う
「それはそれは……ちょっと此をご覧下さい。貴方ならどう見ます?」
羊皮紙に書かれた報告書のコピーだ
紙と羊皮紙が両方流通しており、トリステインでは正規書類や手紙以外は、羊皮紙でやるのが一般的である
主に財政上の理由であり、魔法学院は贅沢に全て紙の書類である
紙の生産地はロマリアが一括で担っており、パピルスの生産を独占していて、一大収入源となっている
「私は軍を退いておるぞ?」
「貴方の意見が欲しいのですよ。我が参謀」
「ふん……」
ヴァリエールが読み進め、ぴたりと止まる
「何だ此は?竜騎士搭載の新兵器?設計はゼロ機関?」
「既にテストは終了しており、量産の目処も付きました。グラモン伯の一括受注です」
「ふん、奴から石灰寄越せと来たのと関係が有るのか?あんなもの使い途が無いから、フォンティーヌのと併せて、二束三文でくれてやったが?」
「恐らく。ゼロ機関が動いた結果かと」
「何だ?そのゼロ機関ってのは?」
「新設の陛下直属機関ですので、私も詳しくは」
「……そうか」
ぱらりと更に捲り、攻撃計画を見て、暫く黙考する
「ふん、勝利条件は?」
「戦略的にはクロムウェルの捕縛ないし殺害。戦術的には侵攻」
「……駄目だな、こんな猪突では上手くいかん。途中で補給が伸びきった所を叩かれてしまいだ。だが、この通貨攻撃か?此は良い案だが、単体では余り効果は出ないだろう」
「貴方ならどうします?」
「ふむ………先ずは封鎖する。アルビオンの公転周期に合わせた封鎖だから、兵の消耗は少ない」
「続きを」
「うむ……其で、そうだな、此方の息をかがせた商船をわざと届けて、向こうの金貨を吐き出させる。序でに、弾薬を消耗させる為に、嫌がらせの攻撃を仕掛けるな。アルビオンの連中は生真面目だから、必ず乗るぞ」
すると、ゼッザールは笑い、答える
「ククク、確かに、面白い様に釣れるでしょうな」
「後は延々と嫌がらせをやって、物資を消耗させて、向こうが手遅れになった時点で乗り込む。まぁ、此で5分だ。3000メイルの高度差の、地の利の差は如何ともし難い」
「そうですな。我々衛士隊の幻獣も、かの地では、ちょっと跳ねる馬程度です。貴方の錐は使えない」
「全くだ。衛士隊に一次的に回せる竜など無いしな」
「其に今回の作戦の為に、アルビオンの降伏した者達から、王党派の騎士達の亡命騎士隊を編制し、この前の損耗分の補充と合わせ、50騎の竜騎士を用意しました」
「ほぅ、どうやって運ぶ?」
「新型艦竜母を建造します」
「竜母?」
「はい、ゼロ機関が現在、ド=モンモランシにて、必要な工場を作って、加工中との事」
「何を作っている?」
「コードネームはゼロ級。一番艦は実験練習艦として、先にロールアウトするそうです。実戦投入するのは2番艦と3番艦」
「製作期間は?」
「年末に近くなると」
「つまり、大規模侵攻迄間があると」
「そういう事になります」
「……このゼロ級とは何だ?」
「タルブ戦はご存知ですか?」
「又聞き程度だ」
「その時にカガクと云う魔法武器を用いた騎士が、勝利に導きました。彼が用いたカガクをゼロ級に搭載します。竜騎士の新兵器も、そのカガクの賜です」
「ほう、上手く行くのか?」
「流石にそこまでは。我々は竜騎士に新兵器の攻撃方法の訓練と、来るべき戦いに備えるので精一杯です」
暫く黙ってたヴァリエール公は、思考の森から再び言葉を発する
「陛下は出兵を翻す事は?」
「ありませぬ。陛下は、御身の前で魔法で操られたウェールズ王子の亡骸と、対面してます故」
ヴァリエール公は、あの時の自分自身を思い返し、忠言など無駄な事と悟る
「……そうか、ならば被害が減る方向に動くのが、我らの務めだな」
「兵をお出しになって下さるので?」
「……無理だ。俺は老いた。其に婿も居らぬ。俺は、娘達の育て方を、間違ってしまったらしい」
ヴァリエール公は、昔の語り口でゼッザールに苦笑混じりに語る
ゼッザールも承知してるのだろう
特に反応は返さない
「では、せめて頭脳はお貸し下され。貴方の切れ味を、領内のみに留めおくのは勿体無さすぎる」
「あの鶏の骨が居るだろう。奴は好かんが切れ者だ。奴が居れば問題あるまいよ」
そう言って、ヴァリエール公は紅茶を口につける
「にしても、あの鳥の骨め。何時まで待たせる気だ?」
ガチャ
やっと、マザリーニが入室してくる
「済まない、ヴァリエール。会議が長引いた」
「ふん、まぁ仕方あるまい。用はなんだ?」
マザリーニが座り、ゼッザールは立ち上がる
「ヴァリエール公。貴卿に一個軍団を編成されたし」
「……本気で言っておるのか?」
「無論だ」
「ふざけるな、マザリーニ。跡取りが居らぬ。バーガンディ伯からは正式に婚約解消を受け取った。娘達を前線を出す訳には行かぬ!!」
少々激昂しながらヴァリエール公は話す
「まぁ、言うだろうと思ってはいた。此を見ろ」
パサ
更に書類の束がテーブルに示され、ヴァリエール公は目を通す
「………ほぅ。こう来たか。貴様の知恵か?鳥の骨?」
「驚かんのか?」
「検討はした。だが不可能だ。どうしても、通貨価値の統一が出来ないのでな。成程、政府保証か、この手は紙一重だな。負ければあっという間に信用無くして、元の木阿弥だ」
「ならば、どうすれば良いか、解らぬ貴様ではあるまい」
「……クルデンホルフに行けと?」
モノクルを輝かせ、尋ねるヴァリエール公
「そうだ、クルデンホルフ大公に飲ませる。奴は飲まざるをえん」
「全く、経済を利用した脅しか。他国に対する事実上の増税だな」
「その通りだ。だが額面は保証される。少なくとも、額面上はまだましだ。国内とクルデンホルフに付いてはな」
「…問題は輸入か」
「そうだ。だが、増税では民の活力を削ぐ。他に手は無い」
ヴァリエール公は暫し黙した後、答えた
「判った、行こう。ガリアとゲルマニアには誰が行く?」
「ゲルマニアには陛下が直接、ガリアには私が赴く」
「ほぅ、大外交だな」
「今回の戦、負ける訳にはいかん。此処で負けたら、トリステインの浮上は100年は無くなる」
「……解ってるなら、何故止めない?」
「一応、勝機はある」
「……ふん、新しい試みは、大抵失敗するものだ」
「……だろうな。だから6000年も、我々貴族階級がハルケギニアを支配してきた。其が事実だ」
「話は終わりか?出るぞ?」
ヴァリエール公が立ち上がり、退出しようとする所に、マザリーニは声をかけた
「あぁ、そうだ。さっき、誰の入れ知恵かと聞いたな?ヴァリエール」
ヴァリエール公が立ち止まり、応じる
「あぁ」
「ゼロ機関の所長だよ」
「……先程ゼッザールからも聞いたが、一体何なのだ?」
「異邦人だよ」
「……ほぅ、異国の知恵と言う事か?」
「そういう事だ」
「…成程な。信用出来るのか?」
「する振り位は、構わぬだろう。既に信用代は充分に撒いた。後は自身の目的の為に、此方を利用するだろうよ。奴とはお互い様だ。所詮は使い捨て、奴自身がそう望んでおる。じゃなければ、シュヴァリエを蹴る理由が無い」
「……貴様が怖いよ、マザリーニ。貴卿からすれば、ヴァリエールも使い捨てであろう?」
パタン
「……ゼッザール、予定通り奴から修正は貰ったか?」
「勿論です、宰相」
「では、修正案を基に、作戦を立案しろ」
「ウィ!!」
ゼッザールが敬礼し、退出する
パタン
「……ふん、トリステインに使い捨てされるのは他でもない………この私だ」

*  *  *
「次の手はどうなっている?」
クロムウェルが執務机の上で、部下に聞いている
「はっ、現在向こうの内通者にスケジュールを洗わせている次第です」
「余り時間をかけるなよと伝えておけ。ラ=ロシェールで戦列艦の建造が、失った数以上行なわれてるとの情報がある。奴らの侵攻が近い」
「サー、イエスサー」
敬礼して去る部下
クロムウェルの取り巻きは、この前の作戦で全て失ってしまい、有用な死者が出てない為補充も出来ず、現在シェフィールドが従っているのみである
その手に填めたアンドリバリの指輪は、まだ輝きを失ってはいない
ガチャ
「失礼致します、閣下」
敬称は一応陛下である
許可も取らず、あっさり入室する
「ふん、今の所、書類仕事以外無いぞ?」
「えぇ、報告です。ロイヤルソブリン級が一隻進空、最終艤装に入りました。残り2隻も、一ヶ月以内に進空する模様です」
クロムウェルはニヤリとする
「乗員は?」
「艦種転換訓練を行なった後、ロイヤルソブリン級に搭乗させます。不足分は国内から志願した兵を訓練後編成し、投入予定です」
「搭載竜騎兵は?」
「ワルド子爵に竜騎士隊隊長を命令済みです。アルビオン竜騎士総数150の内、搭載数は30。ロイヤルソブリン級搭載数20に対し、1.5個騎士隊になります。トリステインから、侵攻の意図を示唆する情報が続々と入っている為、国土防衛がございますので、現在これ以上の搭載は無理です。見習いも、前回の戦で戦力に足りうる者は既に部隊配備してしまった為、補充出来ません」
「……仕方あるまい。だが30騎でも強力だな。ワルド子爵には配下竜騎士を思う様にイジれと伝えろ。タルブ戦や誘拐戦で、ロングランスが脅威だったと聞いている。有効なら、トリステイン式に転換しても構わぬとな。それと、機動竜騎士隊には、例の魔法兵器が出たら撤退を許可する。無駄に竜騎士を消耗させるな」
「了解です。また、地上戦力として用意してる傭兵部隊の内、海兵隊として、メンヌヴィル隊を移籍します」
海兵隊とは、水兵の内、前線突撃を敢行する部隊である
当然死傷率が非常に高く、危険な部隊で有るが、突破口を開く重要部隊である
メンヌヴィル隊は王党派との内戦に於て、一番戦果が高い部隊であり、彼らと傭兵契約し、参戦して突破口を開いたから、あっさり決着が着いたと言われている
正に遊撃の要である
「ほぅ、充実し過ぎでは無いか?砲艦に必要か?」
「竜騎士が足りない分を、次期艦隊指令が要求しましたので組み込みました。考えがあるのだと思われます」
「……前線指揮官の要求ならば支持する。好きにしろ。まだ地上部隊の出番は無いしな。但し、必要な場合は引き抜くと伝えろ」
「了解」
暫く、シェフィールドは黙って立つ
黒髪がゆらりと揺れて美しい
「何だ?まだ用か?」
「アレを渡しなさい。補給するわ」
「……了解した」
クロムウェルがアンドリバリの指輪を渡すと、シェフィールドが受け取り、更にポケットから子瓶を取り出す
「全く、精霊の涙の入手にえらい時間掛ったわよ。良く持たせたわね」
「無くすと補充が出来ぬと聞いてたからな、気をつけてはいた」
「褒めて上げるわ。私のルーンは、全てのマジックアイテムを使いこなす事が出来る。当然、魔力が籠ったアイテムなら、多少の操作は出来る」
そう言って、額のルーンを光らせ、アンドリバリの指輪を発動させ、そのまま子瓶の蓋を開ける
すると、中に入った精霊の涙が、アンドリバリの指輪に吸い込まれていき、宝石が大きくなる
「終了よ。アンドリバリの指輪と水の精霊は同質だから出来るとは言え、精霊の涙自体が、今殆ど出てない。無理はしないでよ」
そう言って、アンドリバリの指輪をクロムウェルに放り、クロムウェルは受け取る
クロムウェルはにたりと下卑た笑みを浮かべ、そのまま填める
「ふん、この指輪でシェフィールド嬢を操りたい位だ」
「私に効く訳無いでしょう?私は、全てのマジックアイテムを操れるのよ?」
「全く残念だ。本当に残念だ。出会った時、即刻試して効かなかった事に、何度落胆した事か」
クロムウェルは思い出してるのだろう、笑っている
「あんたは私のルーンと私の身体。どっちが欲しかったのかしら?」
「そんなの決まっている………両方だ」
「私の趣味は偉丈夫よ。あんたみたいな貧相な小男、趣味じゃないわ」
そう言って、シェフィールドが退出する
パタン
クロムウェルは執務机の下に潜らせてた女を相手に腰を振り始めた
パンパンパン
「あっひっひっ!?」
ドクン
射精をし、暫し震えるクロムウェル
「クックックッ。あの女も、こうして組敷いてやってやる。その時、どういう顔をするかな?クックックッ、アッハッハッハッハッ!!」

*  *  *
ド=モンモランシ領
此処はラグドリアン湖西岸に位置し、古来より水の精霊の恩恵と災厄を受けて来た、歴史ある伯爵領である
水の恩恵が強いせいか、代々水の使い手が輩出される、水の名門でもある
ド=グラモンは土の名手であり、お互い当主の系統が産業に影響しているとも言える。グラモンとは隣同士の間柄であり、河口からモンモランシ迄、水上船を用いてトリスタニアやラ=ロシェール迄の貿易流通拠点としての役割も持つ
尚、ラグドリアン湖には船は寄せない
一度寄せた時に水の精霊が怒り、沈めてしまった事が有るからだ
その為、ラグドリアン湖はガリア側、トリステイン側、どちらも小舟すら置かない決まりで、人の手は一切手付かずで残っている
船は陸上より遥かに大量の荷を運べる為、河川の水上船の役割は非常に大きいのだ
陸上の荷馬車では所詮大した量は運べない為、急ぎで大量の荷が必要な場合は空船を使うが、空船は風石の関係で高くつく
登りはゴーレムが船を引き、下りはそのまま流れに添って下る
そして、モンモランシの永年の問題は、ラグドリアン湖があるせいで、領地の1/3が湿地になっており、干拓が代々の至上命題になっている事である
その為、領地内の産業としては、流通産業、農業としては小麦と小麦粉の製造、漁業は湿地を利用した養殖、水車小屋の委託建造並びに林業といった所であり、グラモンと同じくガリア国境沿いの為、グラモンと同様、自前の騎士隊を持っている
つまり、トリステイン防衛と国内流通に於て、海岸とトリスタニアを結ぶラインを担っており、グラモンと同じく非常に重要且つ、格式高い伯爵家である
だが、その経営手腕には疑問が残り、またグラモンと同じく、雇った法依貴族の食いぶちを維持する必要が有る為、金を持ってはいても、何時もカツカツである
やっぱり、貴族の誇りを維持するのは大変らしい
そんな最中、女王の使者がモンモランシ家の扉を叩いたのは、新たな収入源が欲しいモンモランシ伯にとっては、渡りに船である
………と、言っても、所長が平民な為、相当に臍を曲げてしまい、才人はろくに話も聞いて貰えず、全てはエレオノールが取り仕切り、其をコルベールが横からフォローし、更に娘の説得の甲斐があって、やっと頷いたのは3日を費やした後である
今度こそ、ヴァリエールの面目躍助である
その間、才人は納屋に放り込まれ、エレオノール達にはきちんと一室が提供されている
才人は風呂すら提供されず、見かねた平民の召し使い達が、召し使い用の蒸し風呂を提供し、何とかぼろ状態にはならずに済んだ
当然、女王陛下の使者に対する扱いではなく、流石にモンモランシーが抗議するが、あっさりと一蹴された
「お父様、あの扱いはあんまりです!!お父様は、陛下の使者になんて処遇をするんですか!!」
「其がどうした?平民を遇する?何を馬鹿な事を言っている。あんなもの所詮形だけだ。きちんとヴァリエールが居るのに、あんな平民必要無し」
貴族社会では当然である
モンモランシーは、自分が才人に関わる前の思考なら、そう思ってた事を顧み、口を開くのを止めてしまった
所詮、実績を目の前においても、認めない者は認めない
モンモランシーは、自分がこの男のモノだと言う事を言うのは、まだ時期尚早だと痛感してしまった
当然、納屋に行くのも止める。今は我慢の時と判断したのだ
自分勝手な行動は、才人と周りの人達全てを巻き込む
才人の傍で死ぬのは構わないが、出来れば親に祝福して欲しいのは、モンモランシーとて願うのだ
そんな中、就寝前にエレオノールは納屋に居て、才人の前で胸を張っている
「おっほっほっほっ!!やっぱり平民じゃ駄目ねぇ。交渉にすら参加出来なかったじゃない。この私、エレオノール=ド=ラ=ヴァリエールを敬いなさい、平民!!(だから、私を必要と言いなさい)」
手の甲を反らせて顎の下で決め、気分良さそうにエレオノールはふんぞり反っている
「……全く、こんな納屋に来て迄自慢かよ。はいはい、エレオノールさんは凄いです。流石ヴァリエール。もう、俺尊敬しちゃうなぁ」
全てを棒読みで語られ、エレオノールは首を絞め始めた
「ちょっ、止め、苦し!!」
「い・い・加・減・に・し・ろ・!!」
そのまま才人をベッドにぶん投げるエレオノール
ダァン!!
「ぜぇ、ぜぇ。ったく、姉妹で揃いも揃って、ヴァリエールはコミュニケーションに生死の境を見せる習慣があんのかよ?」
「有るわよ。母様は其は其は恐ろしい人よ?折檻なんか、毎回生死の境目見てたわよ」
「どういう家だよ?ったく」
才人は首を擦りながら、呼吸を整える
「で、言いたい事はそれだけか?」
すると、エレオノールは何処からかグラス二つとワインを取り出し才人に見せ付け、堅い笑顔で微笑んだ
「何とか交渉がまとまったからね、祝いよ。ミスタ達とは先にやったから、後はあんただけ」
「…なら、最初から出してくれよ」
「何よ?別に良いでしょ?」
そう言って、エレオノールが杖を振って封を切り、中身を『先に』才人に注ぐ
才人はびっくりしてしまった
平民に先に注ぐなぞ、普通の貴族ではあり得ないからだ
「どうしたんだよ?急に」
「あんたは、誰がなんと言おうとも、この私の所長よ」
エレオノールの心境の変化に、逆に才人は戸惑ってしまう
才人が瓶を受け取ると、エレオノールがグラスを持って注がれるのを待ち、才人が注ぐ
「交渉の成功に」
「乾杯」
チン
エレオノールが声をかけ、才人が唱和し、グラスを合わせ、二人して一気に飲む
「プハッ。はぁ、糞。あんの豚伯爵。ちょっと平民聞きなさい!!私がどんだけ交渉に苦労したと思ってんのよ?まだグラモンのスケベ爺のが、ましだったわ」
どうやら愚痴モードの突入の模様だ
周りが貴族だけだと、模範を示す為に出来ないのであろう
才人は苦笑しながら聞き出した
「うんうん、で?」
才人が適当に頷きを交し、エレオノールが機関銃の如く悪口を連打し、続けて煽る
相当鬱屈してたのを、これでもかと才人に身振り手振りで見せ、才人が笑いながら頷く
本当に苦労していたらしい
ならば、才人は仕事が出来なかった分を、聞く義務がある
たった一本のワインだったが、エレオノールが酔うには充分だったらしい
「よぉく聞いてくりぇたわね、へいみん。あんたがまぁまぁな男らって、このわらしが認めてあげらくもらいわ」
「そりゃどうも。そろそろ部屋に戻りな」
「…酔ったからぁむぃ」
「…はい?」
「酔ったからぁ、帰れなぁいのぉ」
そう言って、才人の簡易ベッドに寝転がる
「あのな……」
「へいみん、ねゆ。ふくぬがせりょ」
酔っ払い大王は、才人を召し使いに御指名の様だ
才人は溜め息を付きつつ、再度言う
「部屋に戻れ」
「やら、ねゆ。ありゅくのめんどい」
どうやら、本当に酔って面倒らしい
「しょうがねぇな」
才人がそう言って、服を脱がすと赤い顔を更に赤くして、エレオノールは宣った
「す〜け〜べ〜」
「脱がせろって言ったのは、そっちだろ?」
「てちゅきがえろいの〜。なんでぇ?」
「知るか!?」
そのまま酔っ払いの戯言に付き合わず、才人は脱がせていくと、下着を見て固まってしまった
「ふんだぁ、す〜け〜べ〜」
そう言って、流し目を流すエレオノール
透けて無い部分は無く、その無毛の三角地帯迄全てが才人に晒され、酔ってるせいか隠さない
細身で有りながら胸から腰、尻から太ももに至り、足先迄の曲線は正に美の化身
キュルケの躍動を感じさせる肉体とは、違うタイプの美しさ
『……ハルケギニアは、美女が多すぎる』
酔ってても、思わず生唾を飲んでしまう程の美貌
「何で、毎回婚約失敗したんだろうな?」
つい地雷を踏んでしまった才人
エレオノールはあからさまに顔を歪めて、ベッドに突っ伏してしまう
才人はそのまま藁に入って寝てしまうと、エレオノールが小さく呟いた
「……臆病者」
その声は、才人に聞こえていたが、才人は聞かなかった事にする
『俺、何かしたのかよ?』
デルフが出てたら、こう言うだろう
『何もしねぇから悪いんだよ、相棒』

*  *  *


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Last-modified: 2011-05-16 (月) 00:17:45 (4729d)

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