X5-421
Last-modified: 2012-01-13 (金) 22:50:46 (4486d)
「ん…」
男に跨がったまま寝てるキュルケが身動ぎを一つし、また夢の中に戻った
両隣には、タバサとシエスタがやはり同じ男に愛され安らかな寝息をたてている
キュルケは夢を見ていた
『ねぇカール兄様。わたし、大きくなったらカール兄様のお嫁さんになる!』
『あはは、有り難うフレデリカ。じゃあ、その時迄には一人前のレディにならないとね』
『絶対に振り向かせてみせるんだからね!』
5歳位のキュルケが、9歳位の赤髪が良く似た白い肌の少年に笑いかけている
夢は暗転し、少し成長したキュルケが映っていた
大体10歳位だろうか?
『お父様!今度はジークムンド兄様迄戦死ですか!!何で兄様達を皆軍に行かせるですか?兄様達、殆ど死んでしまったでは無いですか!!わたし、皆大好きだったのに……』
『キュルケ、貴族の務めとはそういうモノだ。傍系とてツェルプストー伯になれる可能性はある。お前の兄達は目標に向かって進み、打ち砕かれただけだ。残念ながら、器で無かったと諦めろ』
『お父様なんて大嫌い!』
父の言葉に、父の部屋から走り去ったキュルケ
邸宅の自分だけの秘密の場所で一人すんすん泣いてたら、誰かが声をかけた
『ここに居たのね、フレデリカ』
『マチルデ姉様』
振り返ったキュルケの視界に、褐色の肌と綺麗な金髪を靡かせた、正に淑女と言える女性が佇んでいる
『良いもの見せて上げるわ。付いて来なさい』
そう言って歩き出したマチルデの後を、キュルケがとたとた付いて行き、ある場所に着くと、マチルデがレビテーションをかけて、二人一緒に浮き上がり、窓に取り付いた
二人してそっと覗き込むと、父の背中が見え、執事が書類の束を持って控えている
『…また死んだか』
『…左様で』
『ブラウンシュヴァイク、リューネブルク、ヒンデンブルグの三皇家め。我らツェルプストーを、消耗品として扱っておるわ』
『今回は、アルブレヒト=フォン=ブラウンシュヴァイクが伏兵に遭い、殿を務めた名誉の戦死と…』
『……いつぞやはリューネブルクとヒンデンブルグの代理決闘で、兄弟同士殺し合わせたな。あの時は相討ちだった』
『…はっ』
『息子達の無念を晴らす。オットー、出兵の用意だ。擲弾兵200、竜騎士10、幻獣騎兵20、竜籠補給部隊を用意しろ。下らない皇位継承戦争など、三ヶ月で終わらせる。アルブレヒトを皇位に就けるぞ』
『国境警備は?』
『ヴァリエールは現在静かだ。何もせずに放っておけ。刺激しないのが一番だ』
『ヤー』
二人が覗いてた顔を見合わせ
『ね?良い?フレデリカ。お父様が一番悲しんでるの。でもね、お父様は泣いてはいけない立場なの』
『…はい』
『強くなりなさい、誰も失わずに済む様に。知恵をつけなさい、衝突しなくても良い様に。貴女には出来る筈よ。だって、私達の中で赤き血を受け継ぐ事が出来た、唯一の娘なんだから』
『はい、姉様』
『兄達も含めて私達は妾の子だけど、等しく扱って下さったお父様を皆敬愛してるわ。だから、お父様に恥ずかしく無い様に、貴女の未来を切り開く為に、堂々と戦って死んだのよ。じゃあ、フレデリカは教師が待ってるんでしょ?貴女は貴女の出来る事をしなさい』
『はい、姉様』
そして姉は、バンと窓を開けて入って行く
『マチルデ!?』
『私も出ます。ツェルプストーに恥じぬ戦いは、私にも出来る筈です。どうかお供に加えて下さい』
『ならぬ』
『あら、なら勝手に付いて行きますわ』
また、暗転し、次の場面に移った
ツェルプストーの城塞に葬儀の参列者が列を列ねている
まだ10歳位のキュルケも喪服に身を包み、涙を堪えて参列していた
その時大扉がギギーと開いて行く
『帰ったぞ。アルブレヒトの皇位継承が決まった。奴に貸しを作って来た』
その言葉にカチンと来たキュルケが
『お父様の………馬鹿ぁ〜〜〜〜!!』
『……誰の葬儀だ?』
ツカツカ歩み寄ったツェルプストー伯が、棺の中を覗いて絶句する
『旦那様、産褥で奥様が……御子も産後間もなく……せっかくの赤き血の男児でしたのですが、力及ばず』
オットーが肩を震わせて戦慄いている
本当に口惜しいのだろう。何せ主人の留守中に、妻と御子を死なせてしまったのだ
報告の義務が無ければ、自害してたかも知れない
『お前のせいではない。良くやってくれた。おい、今すぐ楽士を大量に呼べ。辛気臭くて敵わん』
キュルケがその物言いにキッと睨む
その命令にオットーは黙って頷き、去り際にキュルケに囁いた
『奥様は音楽が大好きでした。旦那様なりの手向けでございます』
何時もこうだ
情が深いのに、言葉足らずで決して表に出さない
楽団が到着し、盛大な演奏会が葬儀に華を添え、ツェルプストー伯は酒を片手に上機嫌だ
『なぁ、聞けオットー。リューネブルクやヒンデンブルグの奴ら、連隊単位で我等の兵の機動に全く付いて来れずに各個撃破されまくったわ。あの驚愕に見開く様を見せたかったぞ』
『それは素晴らしい活躍でした』
『クックックッ。我らの機動補給部隊のお陰で機動に付いて来れずに、背後を取られる取られる。そこを儂とマチルデが突撃して破口を開けるとあっという間に崩れてな、余りに呆気ない連中でつまらない位だったぞ。ヴァリエール相手のが余程恐ろしいわ』
そこで、何かを思い出したか
『おぅ、忘れる所だった。キュルケ、近くに寄れ。土産だ』
『はい』
キュルケがツェルプストー伯の前に立つと、懐からばさりと髪の毛が渡された
『あの……これは?』『マチルデの遺髪だ。確かに渡したぞ』
その瞬間、少女のキュルケが硬直し、ぺたんと尻餅を付いた
『…嘘』
『嘘ではない。遺体は私が焼いた』
キュルケは呆然としている
『そろそろ良かろう。楽団、一際派手な演奏を頼む』
その言葉に指揮者が頷き、盛大な演奏が始まった
『キュルケ、立て。ツェルプストー直系は泣いてはならぬ!立てぃ!』
キュルケは父の叱咤に、泣きながら立ち上がる
『ツェルプストーの葬儀で最高のヴァルハラへの送り方はな、我らの炎で送る事だ。お前の母と弟と姉。仲良くヴァルハラに送る為に、お前が焼け』
キュルケはいやいやと首を振っている
『やれ。お前は母達を行き所の無い亡者にする積もりか?兄達の顔に泥を塗る積もりか?亡くなる時に、お前を案じて亡くなったマチルデに、その様で安心させる事が出来ると思うのか?』
まだ少女のキュルケは、その言葉ふらふらと歩み、柩の前に立ち、遺髪を母の上に置いた
隣に父が寄り添っている
『足らぬ分は私が手を貸す。だから全力で全てを燃やせ。お前の成長した姿を母達に見せて、安心させてやれ』
こくんと頷いてキュルケは詠唱を始め、全てを燃やし尽くす爆炎を発動させたのである
煌々と燃える炎をバックに楽団の演奏は最高潮に達した
『ほぅ、トライアングルに昇格したか。母達も安心だな』
二人で遺体を焼く輝く炎を眺め、父は言ったのだ
『キュルケ、強くなれ。誰も失わずに済む様に。誰とも争わずに済む様に。私では届かなかった頂きに、お前が目指せ。何時か出会う伴侶も、そういう男を選べ。全てを守る為に足掻く、大馬鹿者をな』
『…はい』
キュルケの少女時代との決別の瞬間だった
また暗転し、キュルケは美しく成長し、父の前に立っている
大体15歳位か?
『何が起きて教師含めて4人も死んで、ウィンドボナ魔法学院を退学になったのだ?』
『私、何も悪い事してないわよ』
『…話してみろ』
『私にしつこく言い寄って来る男達が居たから、こう言ったのよ。私、強い男が好き。例えば、決闘でも最後迄きちんとやっちゃう殿方なら、私、色々許しちゃうのも考えても良いなぁって』
ツェルプストー伯が思わずニヤニヤし出し
『で、どうなった?』
『それで、4人が二組で決闘始めて、二人死んで、更に双方の勝者が決闘やって、また一人死んだの。残ったのは教師だったかな?』
『残りの一人は?』
『考えて見たけど、タイプじゃないわ、ごめんなさいって誠心誠意謝ったわよ。その時に平民の男と約束してたから、その場で待ち合わせてその男とデートに行ったら、歩いて行く途中で自殺しちゃったわ』
ツェルプストー伯が肩を震わせている
『相手の姓は?』
『ヒンデンブルグ、ブラウンシュヴァイク、リューネブルク、リヒテンシュタイン』
聞いた瞬間、ツェルプストー伯が爆笑し出した
『ぶわっはははははは!!さてはキュルケ、わざとだろう?全部お前の兄妹を殺した奴らではないか』
『やぁね、偶然よ、偶然。困ってしまったわ』
肩を竦めるキュルケに、ツェルプストー伯が笑って耐えている
自分の娘なら、普通に相手に勘違いさせる行動をするのを知っているからだ
『クックックッ、良くやった。しかし、このままではちょっとあれだな。他国に留学した方が良いだろう。ガリア辺りでどうだ?』
父の提案に、キュルケはちょっと思案してから答えた
『他国に留学するのは構わないけど、我が侭言って良い?』
『内戦が起き始めたアルビオンは駄目だ』
『なら大丈夫ね。トリステインに行きたい。私、イーヴァルディに会ってみたい』
昔話を聞かせてたのを憶えていたらしい
思わず苦笑に切り替えたツェルプストー伯
『…もう、数十年も昔の話だぞ?死んでてもおかしくない』
キュルケは確と答えた
『それでも良い。墓参り出来るだけでも構わない。英雄達が居た時代の名残を感じてみたい』
暗転し、タバサとの決闘が展開されていた
『……違う』
二人共に気付き、真犯人を茂みの中で見付けて、綺麗に焼いてあげてから塔に吊るした
この時にタバサと友達になり、以後共にする様になった
また暗転し、目の前に輝く黒髪の平民が居て、岩に的を書いている
『じゃあ、ちょっと試してみようか。ファイアランスとジャベリン用意して。ファイアランスの方は火力上げないと駄目な。同時攻撃、同一ヶ所着弾が条件な』
『難しい要求だな、才人君』
『慣れれば平気ですよ』
『全く、無茶ばっかり要求しちゃって』
また暗転し、目の前の30メイルの大ゴーレム相手に通用せず、撤退してたら平民が殿を務めてキュルケ達が送り出され、自分は役に立たなかった
正に自分が嫌悪した状況を生み出してしまった
『…まだ足りない。それに、ポッと出た使い魔が、私なんかより強い』
更に暗転し、アルビオン帰りの宿での会話を楽しんでいる自分を見ている
『くすっ。あの時はタバサが先にイカれたのよねぇ』
更に場面が切り替わり狭いテントで皆で雑魚寝していて
『この時だっけ?バリバリに意識し始めたの。その前は、何時もの遊び感覚だったもんね』
また場面が切り替わり、才人が自分の部屋で涙を流している
『あぁ、この人もなんだ。あはっ、だから惹かれてしまったのね。初体験、無茶苦茶気持ち良かったなぁ』
そこで夢から覚め、自分に温もりを与える男の胸の上で瞼を開けた
「…何か色々見てた気がする」
まだ朝早い
だが目覚めてしまったのは、才人の朝勃ちがキュルケの中を掻き回すからだろう
無意識に腰が動いていたのを確認し、更に陰核も才人に押し付けている
才人と繋がりながら寝るのを三人で取り合い、タバサは軽量を、シエスタは肌触りを、そしてキュルケが自宅を主張し、キュルケが勝ったのだ
昨日は凄かった
何で父が妾を侍らしてるのか痛い程に判った
最も、年若い妾の方が父にイカれてるのが実情で、なんせ仕事の合間を狙うべく、自宅に居る間は常にまとわりついている
執務の邪魔はしない様に言い渡してるので、乱入はやらないらしい
帰って来たらまた新顔が増えてたが、何処の家の娘だろうか?
ツェルプストー伯と懇意になる為に娘を差し出す貴族が居て、しかも帰れない状態と娘から訴えられると、父は侍らしてしまうのだ
情の深さが仇になっている
父に子作り好きかと問いかけたら
「…流石に飽きた」
と、心の奥底からの言葉を聞いている
兄妹は未確認含めて10人以上は居て、生き残りは既に二人
ツェルプストーの炎は戦に於いて非常に有用な為に、常に最前線で戦わされ、死んでいく
多産でないと、あっという間に命脈が尽きる
妾が絶対に必要なのが、ツェルプストー伯家なのである
キュルケは自分より年下の妾を見て、流石に呆れてしまったのだが
「子を授からずに帰ると殺されると主張してるのだ、仕方なかろう」
父のこの言葉に頷くしか無かった
以前、突っ返して本当に死者が出てるのだ
死が身近なツェルプストー伯家だからこそ、なるべく死者は出したく無い
妾は子を授かって自家の後継として子と一緒に帰る者も居るし、ツェルプストー伯家に完全に馴染む者も居て、実に様々だ
年配の妾達はでしゃばらずに、優雅に御茶会等をやっている
ツェルプストーの文化を担っているのが妾達だ
正妻の条件は単純で、直系を産む事である
そして次代のツェルプストー伯候補は今、キュルケを寝ながら貫いている
「ダーリン、起きて。私だけ気持ち良いは無し……ね?」
そう言いながら腰を動かし、クチュクチュと音が鳴る
「ダーリン起きてくれないと、私だけイッちゃうよ?ハッハッハ、んくっ!?」
ビクッビクッ
才人の上で痙攣し、完全に才人に身体を預ける
「ん、起きて」
キュルケの要求は更に続き、起きたのは暫く後になる
* * *
朝食の席にも、ツェルプストー伯は顔を出さなかった
謁見の時を非常に楽しみにしてるらしく、敢えて会わないと決めた様だ
そして朝食に出されたモノを見て、才人が震えたのである
メインディッシュに載せられたモノは、長い体を20cm位にした開きのモノだ
「…執事さん」
「オットーと言います。是非とも呼び捨てになさる様」
「オットーさん、当ててみせるから、ヤーかナインで答えてなくれない?」
「ヤー」
才人は深呼吸をしてから問い質した
「…穴子?」
「ナイン」
「…蛇?」
「ナイン」
「…ウツボ?」
「ナイン」
ゴクリと唾を飲み込む才人
そんな才人を、皆がポカンと眺めている
「……う、鰻?」
「ヤー」
才人が固まり、暫く震えている
「ど、どうしたの、ダーリン?」
ガタッと立ち上がった才人が拳を突き上げて、思い切り叫んだ
「よっしゃあ!!鰻だぁ!!食えると思わなかった!もう食えないと思ってた!オットーさん、有り難う!」
オットーの両手を握り締めた才人が、涙を流している
オットーは困惑しきりだ
「ダーリン、鰻好きなの?」
「そうとも!日本人に鰻は中々味わえない、そこそこ値段のかかる食材の一つ!滋養強壮、栄養補給に優れ味も良い!中国製は鰻に非ず!頂きます!」
パン
思い切り両手の平を合わせた才人が、猛然と鰻に食い付いた
30秒で鰻が消え
「うん、この味付けも良いね、お代わり!」
「はっ、直ちに」
才人が何時も以上の食い意地を見せて猛然と食っていく
皆がぽかんとしながらも食べ出した
「美味しいけど、涙迄流すものかしら?」
エレオノールがそう言って首を傾げる
「ダーリンにしか解らないわ。私達は祖国の味を、二度と味わえない立場になった事無いもの」
「…そうね」
その言葉を聞いた執事がキュルケの席に寄り、問い掛けた
客人の好みを把握出来る事は、執事の重要な仕事である
「お嬢様、ミスタの祖国は遠いのですかな?」
「えぇ、二度と帰れないんじゃないかって位。使い魔召喚で喚ばれたのよ」
「左様でございますか」
才人はお代わりもぺろりと平らげ、更に食べている
執事はまた才人に寄り、問い掛けた
「味付けはどうですかな?ミスタ」
「うん、白焼きも有るからこれは此で良い。鰻タレは流石に無い物ねだりだ。畜生、醤油と味噌の作り方知ってればなぁ」
才人が頬張りながらくっちゃべっている
「どの様な食材ですかな?ミスタ」
「材料は米と大豆を蒸した奴を発酵させるんだけど、製法知らないんだよ。酒造りに似てるらしいんだけど」
「コメ?」
「やっぱり無いか。元々亜熱帯産の植物で、稲の種子なんだよ」
「ふむ、難しいですな。ロマリア南部に出向けば、有るかも知れませんなぁ」
「いやいや、充分だよ。鰻は精力付くと評判なんだ」
「此は良い事をお聞きしました。旦那様も好んで食べてますが、やはり身体が求めるのでしょうな」
満腹になった才人はすっかり上機嫌で食堂を後にし、一時間後の謁見に武装して出る様に要求され、やっぱりかと項垂れた才人である
* * *
「平民、デモ用に01式と02式持って来てるけどどうする?」
ゼロ機関の新型7.6ミリ(7.7mm)マスケットライフルの型式番号である
口径比で以前型(9ミリマスケット)より長口径、弾の直径を下げてもライフリングのお陰で長射程高威力を誇っている
一番の理由は材料費の節約と軽量化であるが、更に先のモデルチェンジを見越して設計されてる為に、7.6mmになった
銃身強度的には、以前型より冶金技術の向上により、遥かに上である
「俺用にしてたっけ?。今でも目一杯だが?」
「はい、こいつ」
エレオノールが差し出したのはデルフリンガーの鞘に取り付け式の長銃ラックと、ベルトに吊り下げる革のホルスターである
此なら更に吊り下げずに済む
「お、こんなの作ってたんだ。試しに付けてみっか」
才人が更に武装し、確認するが
「駄目だな……ちと重い、重心の取り方何とかしないと」
そう言って、長銃の方は取り外した
「もう、せっかく作ったのに」
「今回はって事。相手はツェルプストー伯。ヴァリエール公と同じ位強いんだろ?」
「えぇ」
「なら、慣れてる武装で」
才人とエレオノールが武装方法で論議しているが、ルイズは手持ちぶさただ
実際武器には詳しくないので仕方ない
「駄目よ。飛び道具有るのと無いのとじゃ、違う筈よ。それで苦労したじゃない。単発でも違う筈よ。弾込めしてから出れば、間違い無い筈よ」
「…暴発したらどうすんだよ?相手は火の使い手だぜ?背中で暴発したら致命的だわ。デルフはどうだ?」
カチ
才人が呼び出して問い掛けると
「確かに火に火薬はやべぇ」
「…それもそうね」
「02式だけ持って行く。サンキューな。手裏剣有れば違うかもだが」
「シュリケン?」
「投げナイフだよ」
エレオノールがかっとなり「そういう事は先に言いなさい!今すぐ錬金するわ。ルイズ、窓を開けて!」
「あ、はい」
ガラッとルイズが窓を開けると、エレオノールがバッと飛び降りた
暫く戻って来なかったが、少し泥だらけになって浮いて来た
「何度か試した。アンタの鉄鋼と焼き入れを8割がた再現した筈。重心も投げて確認したわ。試して」
「あぁ」
受け取った才人がルーンを光らせ、壁に向かって投げ付けて
カツン
硬化と固定化が丹念に掛かった壁に、見事に突き刺さったのである
「ふん、私にかかればこんなもんよ」
「…ガンダールヴって、本当に便利だなぁ」
改めて才人が自身のルーンに感心したのである
はっきり言って、ガンダールヴの超速に手裏剣の名手の技量が加わり、銃弾より遥かに破壊力が出る
実はマスケット銃弾より弓矢の方が、遥かに破壊力が有るのである
ローテクとて価値は有るのだ
要は使い方に尽きる
「風魔法付けて加速させれば、更に強くなるわ」
「ちょっと止めとこう。別に戦場に行くわけじゃないし」
「それもそうね」
「交渉相手殺しちゃ、不味いもんなぁ」
最後にデルフがカタカタ笑って、話を締めたのである
そして、半日後、メンバーはこの時の会議を思い出し、すこぶる後悔する事になった
* * *
才人達が謁見の間に入ると何も装飾品が無かった
燭台とシャンデリアだけであり、玉座の後ろにツェルプストー旗が有るだけである
流石に緊張した面持ちでルイズが先頭に立ち、一礼をした
「ツェルプストー伯爵、御初にお目にかかります。我らはトリステイン王政府女王アンリエッタの命により参りました。私は全権大使ルイズ=フランソワーズ=ル=ブラン=ド=ラ=ヴァリエール。実務を担当するのは、同じく女王陛下のゼロ機関所長にして、我が使い魔サイト=ヒラガ、トリステインでの先日のアルビオン戦でのタルブの英雄にして、通称無冠の騎士。そして同秘書のエレオノール=ド=ラ=ヴァリエールにございます」
聞いたツェルプストー伯が面白そうな顔をし
「ほぅ、ヴァリエールが二人もか。面白い巡り合わせだな……」
「はい、珍しい巡り合わせ、これも神と始祖ブリミルの思し召しでしょう」
そうルイズは言葉を締めた
後は、ツェルプストー伯が口を開くのを待つばかりである
「世辞はお互い肩が凝るばかりだな。実直に行こうか。さて、武装してきたか?実務担当」
「あぁ」
才人が返事をする
「娘に聞いたぞ?イーヴァルディを名乗った様だな」
その言葉に、ルイズとエレオノールが才人に振り向いた
「あん時は事情があってね」
才人がそう言って返事したが、ツェルプストー伯には感慨も与えられなかった
「イーヴァルディを名乗る連中は事情持ちだ。そなたが特別な訳ではない。ではイーヴァルディ以外は下がれ。小手調べだ、先代を知る者として、当代を試してくれる」
才人は溜め息を付いて、背中のデルフに手を掛けた
「…どうすりゃ、この螺旋から抜け出せるんだよ?」
「そりゃ、問題を解決すんのに、一番力が手っ取り早いからだな」
「……やんなるぜ」
ぶん
才人がデルフを振り抜くと、ツェルプストー伯が立ち上がった
ルイズ達は言われて下がる
小手調べと言ってるので、酷い事にはならないだろう
キュルケは何時もの余裕は何処へやら、両手を拳をぎゅっと握り締め、汗を垂らして見ている
隣のタバサがそんなキュルケを心配げに見つめるが、キュルケは全く気付かない
「お父様、ダーリン、お願い……」
そして、大量に炎の矢が形成されて、一気に襲いかかった
「先代は余裕で避けたぞ?」
ヒュヒュヒュヒュ
炎の矢の雨を才人が横っ飛びに避けながら、デルフで斬り払う
「だぁ、マジかよ?」
「相棒もまだまだって事かよ?堪らんねぇ」
間合いを詰めたら小さい炎の珠が周囲にばら蒔かれた
「不味い、炸裂すんぞ?」
才人は間合いを詰めるのを止めて壁に向かって走り、珠が炸裂した
ババババン
轟音に耳を塞いだルイズ達は才人の姿を見失う
「あれ?」
だが、タバサとツェルプストー伯は見逃していなかった
才人は燭台に跳躍し、燭台を足場に更にシャンデリアに跳躍したのである
「ざけんな、食らえ!」
ギィン
鎖がデルフで切られ、シャンデリアがツェルプストー伯に落下するが、ツェルプストー伯は軍杖を一つ振るって、炎の壁を一気に出現させたのである
炎の勢いに、純金製のシャンデリアが溶けながら跳ね、才人は反動を使って跳び、空中で一回転して着地するとすかさずホルスターから短銃を抜き、カップを取り付け擲弾をセットし、狙いを付けて炎の切れ間を待つ
炎が切れた瞬間、才人が引金を引いた
バン!
擲弾が弾丸で射出され、ツェルプストー伯に迫る
「02式擲弾、魔力感知式だ」
バァン!
台詞と同時にツェルプストー伯が爆発に巻き込まれ、周りを黒煙が漂う
「ダーリンやり過ぎよ!お父様!」
キュルケが悲鳴を上げるが、煙が晴れると、ツェルプストー伯がそのまま立っていた
ダメージが有るようにには見えない
「…相棒、爆発を爆発で相殺したぞ」
「……マジかよ」
「クックックッ。アッハッハッハッ!やるなイーヴァルディ!ヴァリエールはブレイドは見せたか?」
笑いながら、ジャリッジャリッと破片を踏み締めながら、歩み始めるツェルプストー伯
「…あぁ」
「小細工無しで来い!もっと遊ばせろ!」
ツェルプストー伯が本気で楽しんでいる
キュルケはホッとしつつ、父の実力を見直した
「やっぱり、お父様強いわ」
タバサは相次いで古強者の実力を見て、自分の実力がまだまだと痛感し
「……まだまだ」
そう一人ごちる
そして才人が突撃を始めると、ツェルプストー伯はブレイドを展開した
ブレイドは才人が接近する間に赤、橙、白、青、青紫、そして今度は輝いていく
「不味い、デルフ絶対に斬り結ぶな!」
「おうよ」
才人はそのまま一太刀を浴びせると輝くブレイドで受け止め様とした為、軌道をずらして自ら避け、地面を叩いた
ガキン
石造りの床に亀裂が入り、デルフがめり込む
「相棒、あれ位吸い込み出来るわ!」
「止めろ!数秒掛からずに刀身が溶け落ちる!」
「よくぞ、気付いた!」
振りかぶったツェルプストー伯が輝くブレイドを振り下ろすと、才人は横っ飛びにデルフを置いて跳び、そのまま村雨を抜いた
そして村雨の刃と追随したツェルプストー伯の輝く炎の刃が互いの首筋に触れる寸前に止まり、お互いが動きが止まる
「…熱いんだけど?」
「…合格だ」
そう言ってツェルプストー伯が炎を収め、熱せられた杖を放り投げた
「いや、実はあれやると儂も熱くてな。アッハッハッハッ」
革手袋をしてたのは、耐熱の為らしい
「しかし、良く初見であの輝く炎を見切ったな?全てを溶かす炎を一発で見切るとは思わなかったぞ?」
すると、才人は村雨を収めながら説明した
「あの炎は恒常的に使ってたんで。見慣れてるんですよ、俺」
「何と!?アレを普通に出せるのか?」
「えぇ。俺の国はそういう技術の国です」
「クックックッ。キュルケは良い男を見付けて来たモノだ。では行くぞ!」
ツェルプストー伯がそう言って、才人を促して歩いて行く
「えっと、どちらへ?製鉄所?」
「違う、戦場だ。鉄鉱山を襲撃する」
ツェルプストー伯がそう言って、暫く全員無言だった
「……はっ?どういう事でしょう?」
ルイズが聞くとツェルプストー伯が逆に問い質した
「何を言っている?お前達トリステインの国益に叶う行為だ。戦力として手を貸せ」
* * *
言葉足らずなツェルプストー伯に代わって、執事のオットーが出て来てツェルプストー伯と共に会議室に入り、事情を説明し始めた
「先ずはゼロ機関の皆様並びにトリステイン王政府の皆様。我がツェルプストー伯との交渉条件は、憶えておられますでしょうか?」
「勿論、鉄鉱石販売を以前価格で売買とバーターにゼロ機関の技術提供ね」
そう言ってエレオノールが言うと、執事のオットーが頷く
「正にそれでございます。ツェルプストー伯所有の鉱山のみでは、契約を推し進める採掘量を保持出来ませぬ」
「だから襲撃するって訳?随分乱暴じゃない。買い取るなりレンタルなりすれば良いじゃない」
エレオノールが場を代表して言うと、オットーは頷いた
「その通りでございます。我らもきちんと鉱山買取り交渉から入ったのです」
とりあえず黙って聞く才人達
「続きを」
エレオノールが促して、オットーが頷いて更に喋る
「はい。それで最大鉄鉱山を有するヒンデンブルグ中央伯家と交渉したのですが、吹っ掛けられましたがしぶとく交渉してたのですが、そんなに欲しければ杖を使えとヒンデンブルグ家が言って来たのです」
「私共はゲルマニア帝政府に提訴しましたが、全面戦争前の小事に構ってられず、手早く決着出来る杖を政府は支持したのです」
「……」
「鉄鉱山権益ならば金鉱山と違い、帝政府の裁定が得られると思ってたのですが、ヒンデンブルグ伯家の影響力は余りに強く、我らも杖を用意せざるを得ない状況に陥ってしまったのです。つまり、権益を獲得する為の限定戦争になります」
「基本的な質問良いか?」
才人がそう言って手を上げる
「どうぞ」
「同じ伯爵家だから、同格だから杖を使えと云う事かい?」
「いえ、違います。ヒンデンブルグ中央伯家はリューネブルク公家、ブラウンシュヴァイク公家と並び、皇帝三家と呼ばれており、ゲルマニア皇帝はこの三家の競争により選出され、前回は戦役に迄発展したのですが、運が悪い事に我々ツェルプストー伯家がブラウンシュヴァイク公家に味方し、現皇帝アルブレヒト三世を選出に決定的な働きをしたのです」
「……ってぇと、何か?」
「はい、ヒンデンブルグ伯家とは前回の戦役での敵同士。お互いに恨みが募っております。恐らくは、我らを撃滅する好機と捉えたのだと思います」
才人は頭を抱えてしまった
「ツェルプストー伯、武装しろってのは」
「勿論、そのまま戦場に向かう為だ」
才人とエレオノールが顔を見合わせ、お互いに天を扇いだ
味方しないと鉄鉱石が輸入出来ない
ゼロ機関に否やは無かったのである
「解った、助勢する。勝利条件と戦闘方式は?」
「鉄鉱山の守備隊の撃滅。鉱夫と司令官のみ殺してはならん。逆に戦闘員は皆殺しだ」
「ちょっと待ってくれ、何故皆殺しにしないとならない?」
才人が抗議すると、オットーが答えた
「ヒンデンブルグ伯家の力を削ぐ為です。我らツェルプストー伯家がゲルマニアでの影響力を高める為には、仕方有りません。兵力を直ぐに回復されては困るのです」
「なら、再起不能にすれば」
カチ
デルフが出てきた
「相棒、反対だ。再起不能?ハルケギニアでそれがどういう意味か解ってんのか?」
「どういう事だよ?デルフ」
「再起不能になった兵が、どういう扱いになんのか知ってんのか?ゴミ扱いだ。苦しんで苦しんで、飯すら満足に食えず、糞尿にまみれて死ぬんだ。敗残兵に優しくする連中なんざ居ないね」
才人は黙ってしまった
ハルケギニアでは勝者は英雄扱いだが、敗者の事に迄気が回らなかった
やはり日本人の自分は甘い
才人は痛感せざるを得ない
「戦死が一番の慈悲だ。覚悟を決めろ、イーヴァルディ」
才人は表情を消して頷いた
「…場所は?」
すると地図を指してオットーが説明し出した
「こちら、ウィンドボナより更に北方の鉱山になります。竜籠で10時間程」
凡そ1500リーグ以上有る
零戦でも遠征と呼べる距離だ
「…補給と移動どうすんだよ?」
「問題有りません」
そう言って、地図に印を次々に付けていく
ゲルマニアの国土を全てカバーした印を見て、才人が問い掛けた
「コイツは?」
「我がツェルプストー伯家が整備した竜籠補給部隊の中継地だ。既に補給部隊は先発して準備している」
ツェルプストー伯の意見に才人がキュルケに聞いてみる
「キュルケ、知ってるか?」
「ちょろっとしか知らなかったわ……まさかゲルマニア全土とはねぇ。道理でツェルプストー伯家軍が、神速の行軍速度な訳だ」
キュルケがうんうんと頷いて、オットーが繋いだ
「では説明させて頂きます。これら中継地は各家に無許可で貿易とは無縁の航路に奥深い地を選んで用意しており、普段はマジックアイテム不可視の布で覆っており、上空監視では先ず発見出来ません」
「そんなマジックアイテム有るのかよ……究極のステルスじゃねぇか」
才人が汗を足らす
「はい、で、普段から物資を積み増しすると、魔獣や動物達に荒らされますので、今回みたいに有事になると補給部隊が先発して物資を積み、火竜を待機させてリレー中継を持って、本隊を一気に空輸するのです」
「こいつぁスゲー…待てよ?って事は外の馬車は?」
「はい、補給物資の納品です」
才人が気付いた事をオットーが肯定し
「って事は、零戦は戦力と見られてた訳だ……頭痛ぇ」
つまり、キュルケが大した戦力を引っ張って来たから、皆が思い切り沸いたのである
本当に頭が痛い
「で、本日の移動で、鉱山前の100リーグ地点迄の中継地に移動。明日の夜明けを持って攻勢を仕掛ける。敵守備隊に装甲擲弾兵の一隊が入っており、苦戦が予想される。また、竜騎士も増派したらしい。だからタルブの英雄が来てくれて助かった」
ツェルプストー伯の言い分に、才人が抗議する
「って事はあれか?あの演習はこういう目的か?」
「その通りだ」
「ちょっと待ってくれ!あの演習で増槽棄てちまった。流石に遠征戦闘帰還するには、燃料が不安だ」
「あぁ、竜騎士が回収している。我々は珍しいモノが好きでな。凹んでたが、中身は半分程入ってたと報告が来ている」
ぺしっと才人が額を叩いた
そう、ツェルプストー伯家は技術に対し並々ならぬ関心を寄せている事を、すっかり忘れていた
捨てた増槽なぞ、好奇心の対象にしかならない
「解った、取り付ける。メイジ貸してくれ。出撃準備だ。向こうに滑走路有るか?平坦な道、約200メイルあれば最高」
「無い。空中で停止しろ。補給部隊が網と魔法で回収する。向こうでの出発も同じ様にしろ」
「…了解」
無茶苦茶な運用だが、魔法のあるハルケギニアでは当然かも知れない
才人はそう判断して頷いた
* * *