X5-527
Last-modified: 2012-02-07 (火) 23:21:33 (4461d)
才人達がツェルプストー伯爵家に向かっていた頃、トリスタニアのタニアージュロワイヤル座では歌劇が催されており、VIP席では仮面をした男女が集まっていた
その中で唯一素顔を見せる、モノクルを掛けた白髪の混じる威厳のある初老の男が一人、異彩を放っている
何時もは色々な歓談が行われるのだが一人でぶち壊しており、本人もそれを一切気に止めて居ない
元々、こういう場所は嫌いなのだ
「珍しいですなぁ、ヴァリエール公。今回は仮面着用の集まりですが?ご存知無かったので?」
プックスクスクス
何とか周りがそういう風に持って行こうとして、ヴァリエール公は見事に無視し、正面から声をかけられた男に視線を向けただけで粉砕する
軍人としての経験と最前線領地での統治、更に国家経済に指を動かしただけで影響が出てしまう程の影響力
その視線一つで、凡百の貴族は圧力に耐えられなくなる
別にヴァリエール公は彼らを威圧する積もりは全く無く、彼の言う通り、仮面着用のドレスコードだったのを本当に知らなかっただけである
「失礼。急な参加でドレスコードを失念していた様だ」
「それはそれは。忙しい最中でわざわざ参加して下さったのですから、寧ろ主宰の私めとしては、重畳と呼ぶべきですな。おい」
パチンと指を鳴らした主宰が執事を呼んで命じると、執事が下がり、暫くすると仮面を持ってヴァリエール公に差し出す
ヴァリエール公は素直に受け取り、仮面を嵌めた
わざわざ、モノクル側は露出している半仮面である
はっきり言って、非常に似合う
「実に素晴らしい。アルビオンの伝説の怪盗紳士も、こうであるに違いない」
事実、感嘆の溜め息が女性陣から漏れている
「まさか、私向けに?」
「勿論。ヴァリエール公の参加を求めて止まない我々サロンの者達は、どうやってヴァリエール公を驚かせる仕掛けを作るかが楽しみの一つになってましてな。ここは心おきなく、クラウンになって頂きたい」
ヴァリエール公は素直に一礼する
「この様な配慮、痛みいる」
「皆さん、今日はヴァリエール公が参加して下さった記念すべき日です。大いに盛り上がりましょう」
そう言って、シャンパンが配られ、華やかなパーティーが始まった
そしてヴァリエール公の周りには、人が集まって来た
普段参加が絶望レベルのヴァリエール公の参加である
パイプを持ちたい者、傘下になりたい者、資金援助を求めたい者、味方に率いれたい者
そして、財産目当てに自身の身体をそれとなく誇示する女達
全てがヴァリエール公にとって唾棄したくなる連中だが、そんな事はおくびにも出さず、少しずつ話していく
「所で最近、女王陛下の気紛れをご存知ですかな?」
「ほほう、陛下の気紛れですか?良く平民を側使いしておりますが、あれは頂けませんなぁ。やはり陛下の臣は、我々貴族の物で有りますれば」
「左様で有りましょうな。私の所に陛下直属だという平民が来た時には、トリステインの終わりかと嘆きに嘆いたものです」
そう言って、ヴァリエール公は全く嘆かずに言い切る
基本的に演技が苦手なので、敢えて平坦に話すのがヴァリエール公の特徴だ
そして周りも、ヴァリエール公だから許されるこの行為を黙認する
普通は、もっと大袈裟に動くのだ
「陛下直属の平民ですか?世も末ですなぁ」周りの者達がそれぞれの表現で嘆いてみせ、ヴァリエール公から見ると、実に滑稽である
サロンとは、それ自体が演劇の場と呼ぶべき代物である
酒が入ればまた一変するが、まだそこまで取り乱して居る者は居ない
「全面戦争で矢面に立つのは、平民ではなく我々貴族です。陛下には、その事を思い出して頂きたいのです。貴卿らもそうは思いませんかな?」
「ヴァリエール公、良くぞ言ってくれました!全くですなぁ」
「その通りですな。我ら貴族こそが、トリステインの伝統と力を担うのです」
なら、何故コイツラは此所に居るのだ?
ヴァリエール公は老境に差し掛かった自分自身はともかくとして、まだまだ若い男が軍にも入らず、サロンに出入りしてる現実に、疑問を持たざるを得ない
何故なら、グラモンでは後継の伯爵が自身を以てグラモン伯爵軍を組織して、日夜演習を行なってたのを見てきたからだ
自分自身も若ければ出ていたのは間違いない
例え、その出兵自体に意味が無いとしてもだ
今回の出兵そのものに、条約破りの矯正以外価値は無いとヴァリエール公は見ている
ならば、経済封鎖で締め上げれば何れ根を上げるのだ
上陸は危険が有りすぎる
『だが、俺が老いたのかも知れん。嫌、俺は元々こうだな。結局何時もぐじぐじと…』
そう考えながらも表面的には何も変わらず、しかも仮面が表情を押し隠す
「ヴァリエール公、陛下直属の平民とはどの様な者で?」
「異国人ですな。最早、我らトリステイン人すら信用出来ぬと見え、実に嘆かわしい」
「……それはそれは」言葉が続かない貴族達
失敗したか?と思いながらも更に言葉を紡ぐ
「そやつの仕事に協力しろと大使迄仕向けて要求したのですが、海のものとも山のものとも知らぬ卑しい出自の者に、ヴァリエールが協力する訳には参りますまい」
「流石ヴァリエール公!良くぞきっぱりと。貴族の中の貴族ですな」
周りに集まってる連中は太鼓持ちの才能も無いのか?と、ヴァリエール公は内心舌打ちしたが、やっぱり表情には出さない
「で、ここからが重要で。奴ら、契約を求めて来たのですよ。流石に契約書は反故に出来ぬ。痛い所を突いて来る」
「ほぅ、流石は直属と言った所ですなぁ」
「何、奴らの仕事で出来た代物に対する権利なぞ、我々封建貴族には要らぬ物ですからな。ならば、二度とそんな卑しい商売する気を起こさずに済む様、きっちりと書面を交わして来ましたぞ。我らの面目が立ちつつ、王家の忠誠に篤く、しかも陛下の乱心に対する一抹の抗議を我ら非才の身でも出来る様な、一石三鳥の策です」
「何と!?」
「その方策とは?」
一気に周りが食い付いた
「良いですか……」
ヴァリエール公が話し終えた後、一気に賞賛の嵐が相次いだ
「流石ヴァリエール公!貴族の中の貴族」
「素晴らしい!良くぞ、我らに教えて下さった」
「我らの懐は全く痛まず、尚且つその怪しい詐欺師のみダメージになる。いや、実に素晴らしい」
そして、その方策をどうやって一気に伝えるかが話題の焦点になり、ヴァリエール公はいつの間にか抜けており、バルコニーに佇んでいた
「珍しい事をするな、ヴァリエール」
声を掛けて来たのは見知った体格の大男である、老境に差し掛かっても、ちっとも衰えが見えていない
「グランドプレか……お前は出るのか?」
「あぁ。俺はお前程頭は良くないからな。身体を使うしか忠誠を示す事が出来ん。と言ってももう歳だし、後方部隊しか出来ぬのが口惜しいがな。子供が中々出来ぬせいで、息子も甘やかしてしまったが、何と自分自身で志願してしまったよ」
「そうか……」
「お前の長女。息子の嫁にしても構わんぞ?」
その申し出に、ヴァリエールは首を振る
「いや、もうエレオノールは自分の人生を決めてしまった。あんまり刺激すると、ヴァリエールの名を捨てるだろうよ」
「先程の異国人か?」
「……何故判る?」
ギラリとした視線に、グランドプレが笑い出した
「くっはっはっはっ!ヴァリエール。お前とは何年の付き合いだと思っておる?お前の気性等、熟知しているわ」
「…ふん」
「相当その男が気に入ったみたいだな。悪い癖だ。素材を見付けたら、ギリギリ迄試練を与えて伸ばそうとする。誰もがお前みたいに立ち回れる訳が有るまいに、何人それで潰して来た?」
「…さぁな」
「少なくとも、お前の出す案件に根を上げたのが元婚約者達であろ?知っておるぞ?この親バカめ」
「ふん」
ヴァリエールがそう言ってそっぽを向く
「さっきの話も、そう言ったものでは無いのか?」
「…さぁな。ヴァリエールは困らん」
その言葉に、グランドプレが頷く
「ヴァリエールは……か。連中が気の毒だ。お前の思う様に踊らせる駒になってしまっている」
そう言って、ワインを煽ったグランドプレ、さりげなく杖を振って確認をする
サイレンスをかけると、逆に注目を浴びるのだ
だから、ディテクトマジックを軽く流しただけである
「好きで踊りたいのだから、踊らせてやれ」
「くっはっはっはっ。全く、本当にサロンの連中が嫌いなのは相変わらずだな。で、グランドプレは乗った方が良いか?」
頭は良くないが気の置けない数少ない友人の為に、ヴァリエール公は情報を提供し始めた
「グラモンは異国人に付いておる。モンモランシもだ。今の所、後はミランとか新興の木っ端貴族しか奴のバックアップには付いて……訂正だ。エレオノールが付いて俺に敵対している。外国貴族でツェルプストーだな」
「ほぅ……全く、お前は罠をばら蒔くのが本当に好きだな。確かに、どちらに転んでもヴァリエールには痛くない」
笑いの発作に任せて、グランドプレがバルコニーに後ろ手に肘を掛けて笑っている
ヴァリエールは憮然だ
「で、グランドプレは異国人と貴族筋、どちらが良いと思う?」
「静観しろ。誰かに誘われても適当に流しておけ。あれは……あの連中にも俺にも理解出来ん、未知の代物だ。ハルケギニアの歴史が変わるぞ?」
「つまり、旗色が判ってからでも遅くないと?」
「あぁ。先行者利益が欲しいなら付けば良いが、奴の気性は基本的に貴族の丁々発止には無関心だ。依頼したら簡単に請けるだろう。奴らより、余程シンプルで使い易い。仕事に関しては、正にからくり仕掛けの男だ」
そう言って、ヴァリエール公は口を閉じた
「からくりね、どういう男だ?」
「負けかけた」
「何!?お前がか?」
「あぁ。ゼッザールに勝ったと」
「そうか……娘をやるには安心だなぁ、ヴァリエール」
そう言って、ニヤニヤしてるとヴァリエール公が憮然とする
「ふん」
「まぁ、俺はお前の言う通り、静観するわ。見事に俺達三馬鹿が分かれたな?ヴァリエール」
「……あぁ。歳月は残酷だ」
「いつか、また轡を並べたいモノだ」
「だな……」
在りし日を思いながら、二人はバルコニーから離れた
* * *
才人達はツェルプストー伯の居城に於いても分室を提供され、何時でもゼロ機関としてのフリーパスの権利を与えられた
ツェルプストー伯から見た場合、城11個分の経済効果としては、非常に安上がりである
メイドも才人専用に粒揃いを付けようとしたが、シエスタに阻まれた
才人自身は大して必要としない為に、確かに余剰人員になる
最も、才人が兵達の訓練に参加すると、メイド達がわらわら寄って、自分に注目してもらおうとアピールをしまくっている
製鉄所にて製鉄法を伝授した才人達は、さらにフレームの図面を渡してブロック単位で半組状態で出荷する様に依頼し、ツェルプストー伯が二つ返事で請けた
「最初の出荷は二週間後だな」
「ラ=ロシェール到着は?」
「更に一日。物がでかいが、何。ゴーレムとメイジ達で期日迄には突貫で作らせよう。新魔法のお陰で、壊すだけの火メイジが製作に参加出来るのが大きいな。間に合わせて見せよう」
「治具は?」
「治具類の製作はツェルプストーで出来る。心配ならチェックだけ入れてくれ。我らの職人とてプロだ」
「了解。各々やり方あるだろうし、口を出すの止めるわ」
「解っておるな」
ニヤリとツェルプストー伯が笑うと、才人もニヤリとする
「嫌われんのは慣れてるんでね」
すると、ツェルプストー伯が盛大に笑い始めた
「うわっはっはっはっはっ!だろうなぁ。クックックックッ。職人の中では浮くタイプだものなぁ」
発作そのままに、ひたすら笑っている
「解りますか」
「何年貴族をやってると思っておる?人を見るには、二三言葉を交わせば充分だ」
「…年の功ってのは、本当におっかねぇ」
そう言って才人は首を竦めた
* * *
ガチャ
才人がツェルプストーでの分室に入ると、エレオノールが乱れていた
「だぁぁぁぁぁ!!平民、とんでもない事になっちゃったわよ!」
「何だ?どうした?」
つかつか寄ると、開封した手紙の山の前で頭を抱えているエレオノール
「だから何?」
エレオノールは一度深呼吸してから、才人に畳み掛けた
「封建貴族の8割が敵に回っちゃったわよ!何なのよ?この状態?私達の活動そんなに有名?」
「…味方は?」
「グラモンとモンモランシだけ!残りは様子見!」
暫く黙ってた才人は、エレオノールの予想に反して笑い出した
「クックックックッ、思い切り四面楚歌かよ。やべ、面白ぇ」
そして、とうとう思い切り笑い始めた
「あっはっはっは!最高だ!これ位嫌われた方が遣り甲斐が有るってもんだ!あははははは!」
才人の笑いの発作が止まらない
そんな才人に、エレオノールは呆れた様に問い掛けた
「平民あんた解ってんの?トリステインでは翼をもがれたも同然よ?もう支援は仰げないのよ?」
「内容は?」
「全部一緒。人足はおろか取引すらお断りって書いてるわ。どうすんのよ?これ?完全な兵糧攻めじゃない?」
「鉄鉱石は確保した。石炭は有る。炭は問題ない。木材は有る。硝子はトリスタニアの硝子ギルドに頼む。銅も問題ない。断熱材は使用済みの石灰を材料に錬金すればリサイクルが効く。帆布やロープは元より船舶共通だ。グラモンとツェルプストー、二大製造産地は確保した。他に何が要る?硝石と硫黄か?元々ガリアかゲルマニアでの採掘だろう?トリステイン貴族には殆ど関係無い」
「精霊石よ!この馬鹿たれ!」
「……あ」
才人は地球に無い鉱物である素材を、すっかり忘れていた
無理も無いと言うべきか、馬鹿だなこいつと言うべきかは、判断の分かれる所であろう
「なら市場仕入れか?」
「ゼロ級は国家予算だから良いのよ。問題は、研究用が確保出来ないの!」
「そんなもん、ちょこっと使うだけだから横流し」スパーン!
盛大に才人が叩かれる
「あんたの事だから、絶対に研究だけじゃ済まなくなるに決まってる!私が心配してるのはそっちだ!やるんなら、とことんやれ!」
叩かれた頬を抑えてた才人に寄り、両手の拳を握ってぽかぽか才人の胸を叩く、非常に弱々しい
「お願いよ……お父様の事……見返してよ……」
本気で敵に回った父の強大さに怯むエレオノール
その腕を掴んだ才人がそのまま引き寄せ、エレオノールに唇を重ねエレオノールは抵抗せずに胸に収まった
暫く二人共堪能してから離れ、エレオノールが呟く
「やっぱりあんた嫌い……こんな事で、私が落ち着くと思ってる」
そして、顔を才人の胸に埋めるエレオノール
「そして、その通りな自分が一番嫌い……」
* * *
コツンコツン
窓が叩かれ、才人達が外を見ると梟便が滞空していた
更に手紙を複数抱えており、エレオノールは邪魔された気分をあからさまに出し、それでも窓に寄り、開けて梟を招き入れた
バサバサバサ
才人が腕を掲げるとそこに止まり、才人が手紙を抜くと、ほぅと鳴いて飛び立っていった
才人が裏面を見ると、百合紋の封とゼロの意匠をあしらったエレオノールが作ったゼロ機関の花押が押されている
つまり、王政府と製作指揮担当のコルベールからだ
更にグラモンとモンモランシ、石臼を花押にしてるのはアニエスだろう
才人に言われて楷謔に目覚め、気に入ったと見える
「こいつぁ、トリステイン国内で陰謀が始まったって事か?」
才人は一つずつ開けて読み始めた
政府からは報酬の振り込み通知と、マザリーニとデムリの宰相と財務卿名義の推薦文
そして有効に使って欲しいと記されていた
コルベールからは作業体制の拡大と基礎棟でエンジン工作機とゴーレム式工作機の実装
グラモンからは鉄鉱石の輸入確保の礼と、資源が必要で他領を征服する必要があるなら出兵の意思、寧ろ王政府の理は此方に有りとけしかけている
モンモランシからは説得工作の開始と自重を求める内容
そう、ヴァリエール公が動いたせいで、一気にトリステイン国内が胎動を始めたのである
そして、アニエスの内容が一番危険な内容だった
暗殺者が雇われた模様
身辺に気を付けろ
警護に銃士隊を潜入させた
陛下には報せてない、常に用心を怠るな
その全てをエレオノールに渡すと、エレオノールが一気に顔を曇らせる
ちなみにアニエスの便箋の裏面には
私に一日中身辺警護をさせろ、馬鹿才人と書かれていたが、才人は気付いていない
「……お父様が動くって言うのは、こういう事よ?」
「…暗殺者は想定外だな、おい」
「…水使いが要るわ。毒を検知出来ないと」
そう、一番簡単なのは毒殺だ
わざわざ正面に立つ必要など無い
才人とゼロ機関は、平民で有りながら、若く美しい女王直属の栄誉を一身に受け、他の貴族達の嫉妬心を全て集めてしまったのである
そして、平民なぞ貴族からすれば、唯の駒である
目障りなら排除するのが至極当然な思考だ
ハルケギニアでは、人の命が非常に軽いのだ
駒が意思を持つなど、許されるものでは無い
だが、意思を持つ駒たる平賀才人はへこたれない
寧ろ、一段と笑みを深くしたのである
「とりあえずは、エレオノールさんでも何とかなるか?」
「事前検知は水使いじゃないと無理だから、予防で浄化するしかないわ」
「充分だ。第二ラウンド開始だ。精度の上がったエンジン式工作機械で、後装式シングルアクションを開発する。異端の業、悪魔の所業を見せてやる。さぁ、悪魔に魅入られしエレオノール、共に地獄の底に来い」
才人が手を差し出した
そしてエレオノールは、ついに呼び捨てにされた事に紅くなりながら、魅入られた悪魔の手を取ったのである
此処からは、見知った者以外、国内ですら敵
更なる泥沼が待っている
* * *
才人周辺がキナ臭くなった為に、タバサは可能な限り張り付き、シエスタは引き締めてメイドの仕事をやる事に決意を改め、キュルケは不敵に色っぽく笑い、エレオノールは何時も通り、そしてルイズは使い魔で有りながら、使い魔と敵対の位置に座らされ、情報の殆どを教えて貰えなくなった
皆、ゼロ機関の仕事に於いては、ルイズを突き放したのである
二人の寝室で疎外感に堪らなくなったルイズが、とうとうエレオノールに問い掛けた
「姉さま、何で皆ピリピリしてるんです?」
「アンタの使い魔の命が狙われてるから」
その瞬間、絶句するルイズ
「ちなみにアンタはその敵方。つまり私達ゼロ機関の敵」
「あたし……何もしてません」
「お父様が動いた。意味が解る?」
ルイズは首を振る
「ヴァリエール公が動くとトリステインが良くも悪くも動く。今、平民を頭にするゼロ機関に、非難と謀略が集中している。アンタはヴァリエール公側、つまり私達は敵同士。アンタも気を付けなさい、知らずに毒を差し入れさせられるのに、利用されるかも知れないわよ?」
「お父さまが、そんな命令出す筈有りません!」
「知らないわよ。周辺の連中が勝手に動いてるだけだろうと、ヴァリエールの名前は絶大なのよ。アンタの所業が無ければ、こんな事になって無い」
ルイズは、呆然とするしか出来なかった
ヴァリエールの名前の本当の巨大さを、やっと認識したのである
「あ……あたし」
「泣くなっ!立てっ!抗えっ!泣きわめくだけなら、修道院に引っ込めっ!今迄やって来た様に、自分の思い通りにならないなら、全てを自分の思う通りにするべく抵抗しろ!私の妹なら出来る!泣き言言うな!」
厳しい、本当に厳しい叱咤
だが、肉親たるエレオノールの情は確かに籠っている
泣きそうに涙を溜めたルイズは涙を拭い、キッとエレオノールを睨んだ
「抗います!誰よりも抗って抗って、あたしの未来を掴んでみせます!私はエレオノール=ド=ラ=ヴァリエールの妹、ルイズ=ド=ラ=ヴァリエールです!」
すると、やっとエレオノールが柔らかい笑みを浮かべ、優しく言ったのだ
「良くぞ言った。今は、出来る事をやりなさい。ねぇ、平民を貴族にしたいよね?」
こくりと頷くルイズ
「貴族にしよ?ヴァリエールにしよ?ねぇ、私、夢を見てるって、思わない?」
「…解らないです」
「そうよね。私にもふざけた話だと思うもの。でもね、お父様を屈服させれば、この状況で勝てれば、目が有るの。アイツは、貴族に為らざるを得なくなる」
「そうなの……ですか?」
「えぇ、次の功績は、敵対した封建貴族には自ら関与出来なくなった。つまり、功績を出したら、誰も難癖つける事が出来なくなる。王家の信が問われる。彼を、拝み倒してでも貴族にしないと、王家に求心力が無くなってしまう。そうなったら、トリステインに王家の威信は消え去り、激動の時代が始まる。そう、レコンキスタの二の舞ね」
「…」
「平民は……いえ、才人はそんな事は絶対に嫌がる。だって、アイツは誰よりも人殺しが上手いから、誰よりも人殺しが嫌いなんだ。内戦なんか、起こす気なんか、無い」
ルイズはこくんと頷く
「だから、アイツは嫌々だろうと貴族になる。だからアンタは、堂々としてなさい。大丈夫、ちょっとばかり、面白い仕掛けが増えただけよ」
やっと、納得した様にルイズは頷いた
「姉さま。二人だけで、どっか行っちゃうのは駄目ですよ?」
「駆け落ちなんかしないわよ。安心しなさい。私は全部ひっくり返すって、才人の決意に乗っかった。そしたらね、本当に楽しくなって来たのよ」
そう言って、エレオノールは笑みを浮かべ
「だから、敵に回った連中の地団駄を見る迄止めないわ。こんなに楽しくなって来たのは、産まれて初めてよ?」
「姉さま、ずるい」
ルイズがぶっすぅとむくれる
エレオノールは本当に楽しそうなのだ
「大丈夫、アンタの立場も多分面白い。だからお互い抗うぞ。全てが終わった時には、私達皆で笑うんだ」
「はい……姉さま」
「何?」
「一緒に寝て良い?サイトが居ないの……辛い」
「勿論よ、私の小さいルイズ」
幼少の本当に幼い時みたいに、ルイズはエレオノールと一緒にベッドに入り、夢を見た
夢の中味は泡沫の彼方であり、ルイズにも定かでは無かった
だが、きっと良い夢だった筈だ
だって目が覚めた時には、気分が爽快だったのだから
* * *