X5-559
Last-modified: 2012-02-18 (土) 22:56:07 (4451d)

謁見の間に一人通されたルイズは、膝を突いた状態で敢えて何も言わなかった
言える筈も無い
とにかく今は一臣下として行動するしかないのである
そう、今はルイズは一人王宮に報告に来ており、才人達とは別れている
才人達は一度モンモランシに戻り、補給とお互いの状況を報告後、才人とシエスタのみタルブに向かって、余暇をほんの少し楽しむ事にした
これはタルブの村の総意での歓待で、是非と言われた才人は断れなかった
当然、才人は零戦でシエスタを後ろに乗せて向かっている
貴族が行くと平民達が気を使うという理由で、他の者達は付き合わなかった
こんな状況であり、アンリエッタはルイズの状態に頬をひくつかせている
「女官ヴァリエール、面を上げなさい」
「はい」
立ち上がったルイズ
「さて、どうしてこんな事になってしまったのか、説明して貰えませんか?」
「私がヴァリエールでのゼロ機関所長の歓待を怠り、所長が激怒、所長とヴァリエール公が決裂し、敵対しました」
黙ってるアンリエッタ
何度か深呼吸して、次を促す
「次」
「はい」
ルイズも深呼吸してから、報告を続ける
「ゲルマニアでの鉄鉱石確保の為に、ツェルプストー伯がヒンデンブルグ伯と衝突。我々に助勢を依頼された為に参戦し、勝利。トリステインに必要な鉄鉱石を確保致しました」
「‥貴女も前線に出たのですか?」
努めて平静を保っているのが判る
だが、ルイズは事実のみ提供する事にした
「はい、近衛兵たる装甲擲弾兵と衝突。我が使い魔と共に退けました」
「‥‥報告に、嘘はございませんね?」
「はい、この身命にかえましても、事実のみの報告でございます」
「‥良いでしょう」
思わず杖を握り締め、爪が白くなるアンリエッタ
「先ずは正直な報告、真に素晴らしき哉。その点に付いては、素直に賞賛致します」
「有り難き幸せ」
「では、内容に移りましょう。女王としてと友達としてと、どちらの言い分が宜しい?」
額に大汗を垂らしたルイズは、辛うじてこう答えた
「優しい方で」
「えぇ、そうでしょうとも。勿論最大限優しくしましてよ‥‥こんの桃髪馬鹿ムスメ!あんた、何て事してんのよ!国内滅茶苦茶になったわよ!国王としてはあんた手討ち!うんもう、手討ち以外無し!文句有る?」
「あはは、やっぱりですか?そうですよね?手討ち相当ですよね?ごめんなさいごめんなさいすいません調子に乗ってました!もう暫く幽閉されても我慢します!だから、まだ手討ちは勘弁して下さい!まだ何も出来てません!まさか友達見捨てたりしないよね?私と姫様の間柄だもの。有り得ないわ」
一気に慌てて捲し立てるルイズ
アンリエッタは非常に冷やかだ
「今、友達の縁切っても良いかなぁ?って、本気で思っちゃった」
「そんな、嘘ですよね?」
「嘘じゃないわ、残念ながら」
「そんなぁ」
一気に涙を流すルイズ
アンリエッタは冷やかから、怒りの笑顔に切り替わる
「ですが、失敗は誰でもします。私すら国を潰しかねない失敗を犯してます。友達だけ許さないのは、公平では有りません」
「流石姫様!白の女王の貫禄充分です!やっぱり姫様は、あたしの一番の友達です!」
アンリエッタの怒りはそれ位では解けない
寧ろ、火に油を注いでいる
「ルイズ、何で私が貴女を便利使いしてるか解りますか?」
いきなりの問い掛けに、ルイズはきょとんとしながら答える
「友達だからですか?」
「いえ、違いますよ。味方が居ないからです」
ルイズは呆然とする
「味方が……居ない?」
「えぇ、私の味方はマザリーニ、デムリ、ゼッザール、アニエス、ジェラール、そしてルイズ、貴女だけです」
味方に、自身の使い魔が居ない事に気が付いた
「サイトは?」
「味方では有りません。サイト殿は言わば傭兵です。職人というものは、大別すると二種類に分類出来るそうです」
「はっ?」
いきなりの話題にちょっと驚くルイズ
「職人は定住して仕事をする居着きの職人と、仕事の有る場所に集まる流れの職人に分ける事が出来るそうです。前者が組合とかを組み、流れの職人は腕一本で拠って立ち、定住は基本的にしないそうです」
「まんま、国兵と傭兵ですね」
「その通り。つまり、貴女が国兵だとすると、サイト殿は傭兵です。そして国兵より傭兵の方が練度は上。職人に於いても、同様に近いそうです」
段々と言いたい事が解って来たルイズ
「だから、サイトは傭兵だと」
「そうです。つまり、サイト殿は仕事にしか忠実では有りません。トリステインには忠誠は望めません。人の有り様ですので、私達がどんなに説得しようが無意味です。何故か解りますか?」
「…何処でも生きていけるから?」
「正解です。下手な刺激は全て逆効果です。貴女も知ってるでしょう?」
「はい」
「貴女は最大限の下手を打ちました。その事は肝に命じなさい」
「…はい」
神妙にするルイズ
「次にもう一つ、これを読みなさい」
そう言ってアンリエッタは手紙を渡す
ルイズは中味を読み進め、冷や汗を垂らし始めた
「…あ」
「ゲルマニアからの内容証明です。私の女官ヴァリエールがゲルマニア北方の鉄鉱山でゲルマニアの内政に干渉した疑惑と、竜の羽衣の所属確認です」
「……」
「竜の羽衣は本当にトリステイン国軍所属ではなく個人所有の為に、問題は滞りなく済みました。個人所有の傭兵が何処で参戦しようと、関係有りませんからね」
「その通りですね」
「で、貴女はそうではありません。何故前線に出たのです?ツェルプストー伯に、自重を求められませんでしたか?」
「……はい」
「完全に内政干渉です。何ていう事をしてくれたのです」
盛大な溜め息を付くアンリエッタ
ルイズは身振りで何とか抗弁を試みる
「ですが、私が彼処に居るのなんておかしいでしょう?」
「そんなの言いましたよ。ツェルプストー伯の神速の部隊に同乗すれば可能と、あっさり否定されました。貴女は美し過ぎる。簡単に顔を覚えられてしまいます」
「あ…」
そう、戦場で目立つ容姿は欠点でしかない
「装甲擲弾兵。皇帝直属だそうです。つまり、我が魔法衛士隊に相当します。貴女はしくじったのですよ?何故全滅させなかったのです?死者に口無し。やるなら徹底的にやるべきでした。全ては中途半端な所業が影を落としました」
「……ツェルプストー伯も皆殺しと……そう言っておりました……」
ルイズが項垂れる
そして才人は本人の主義主張には関わらず、殲滅を完全に行なっていた
ルイズが取り零した生き残りの兵を、全て平らげたのだ
つまり、ルイズがエクスプロージョンを無意識に手加減したせいであるのは、想像に難くない
原型を残さない位で、丁度良いのだ
「ゲルマニアに借りを作ってしまいました。この借りは高く付きますよ?覚悟しておきなさい」
「…はい」
アンリエッタは一呼吸置いて、喋り出した
「もう一度言います。私には味方が居りません。貴女は数少ない味方なのです。今回の外交デビューは、肉親相手だから大目に見てくれるだろうと期待しての任命でした。ですが、私も甘かった様です」
「……はい」
「名実共に私の代弁者となるべく、更に研鑽しなさい。私は期待しているのです。ヴァリエール公が動き出した場合、止められるのは貴女だけです。ですが、今の貴女では更なる混乱に叩き込むだけです」
「…はい」
「既にヴァリエール公は動いてしまいました。私にも止める事は叶いません。ルイズ、更なる研鑽を重ね、名実共に私の左腕になりなさい。右腕は既にマザリーニがなっており、アニエスは剣に、ジェラールは鎧に、ゼッザールは杖に、デムリは脚になってます」
「はい、陛下の御意のままに」
深く、ただ深くルイズは礼をし、トリステインに対し更なる忠誠を捧げる事を決意したのである

*  *  *
才人はタルブの村でシエスタと共に歓待を受け、盛大に飲まされ、更に祭りの様に曲芸士達の一団の芸を村人達とやんやと見ていた
「英雄よ、飲んでくれ」
「わり、先に小便」
「おぅ、直ぐに戻って来いよ〜」
村人達は全員へべれけになっており、才人も外は涼しいので、ジャケットとデルフを羽織って、ふらふらと歩き出した
外に出て、草原の所に来ると、デルフが自ら鯉口を切って出てくる
「ひいふいみい……5人か?相棒、いつの間にか人気者になっちまったなぁ」
カタカタとデルフが笑っている
「ったく、人気者はつれぇぜ。お前ら、こんな月光燦々な夜に出向くなんて馬鹿だろ?素直に新月に来いよ」
だが、反応は無い
「素直に出て来てくんない?じゃないと、手加減出来ねぇ。女のコは殺したくねぇし、野郎でも手足の一本で止めっからさ」
それでも反応は得られない
「はぁ〜〜〜。デルフ、位置」
「おぅ、正面、左右斜め前方。斜め後方に左右一人ずつ」
風とは違う草の揺れが発生し、才人は見逃さない
そして、ジャケットの裏側に収めた投げナイフ複数を一気に抜き、デルフの指示した場所に向けて投擲したのである
ガンダールヴでの神速の投擲は弾丸と同等である。対応出来る方がおかしい
「ぐあっ」「ぎっ」「がっ」
命中し、思わず立ち上がった影の内、シルエットで男と判断した相手には更に投げナイフを急所に向けて投げ、見事に眉間に突き立てる
だが、その瞬間を待っていたのだろう、後ろからクリスナイフを手に持った男と、弓をつがえた男が弓を放ち、クリスナイフの男が突貫を開始し、才人がそのままデルフに手をかけ、抜いて振り向き振り下ろす
弓蔓の音と弓の飛行音にデルフを打ち合わせ、そのまま突貫した相手を一刀の元に頭を石榴にし、また投げナイフを抜いて、弓の男を一投で仕留める
ここまで、最初の投擲から十数秒
そして逃げようとした女に向かって才人が駆け出し、峰打ちで打ち据えた
更に十秒、戦闘終了である
才人が生け捕りにした女に向かい、覆面を脱がす
「あ、踊り子さんじゃないか」
「た、助けて!無理矢理命令されて」
「そうだろそうだろ?うんうん、こんな美女が暗殺者の訳無いよなあ」
才人は頷いている
「助けてくれるなら、何でもするよ」
そう言って、女は下着を外し、股を開いた
「ね?どんな体位が好き?」
「バックかな?」
「良いよ」
女の丸い尻が月光で煌めき、実に扇情的だ
才人は地面にデルフを刺し、右手でファスナーを下ろし、イチモツを露出させつつ、左手をパーカーのポケットから抜き、指に付いたモノを、肛門と膣に塗り込んだ
「あぅ……貴様!?」
「あぁ、やっぱりか。女の暗殺者は一番の武器は女って、聞いた事有るんだけど、マジでしたか」
「今のは?」
「解毒薬だよ。じゃないと、君迄死んじゃうじゃん」
「ふ、ふざけるな!?」
「それじゃ、尋問タイム」
そう言って、才人は今度はジャケットのポケットに突っ込み、また別の薬品を取り出し、膣に塗り込んだ
「うあぁ!?な、何を?」
「ん?身体が正直になるお薬」
そう言って、才人は出したモノをしまう
そして、短銃を取り出すと、空に向けて発砲した
ダァン!
一分もしない内に、シルフィードに乗って、キュルケ、タバサ、モンモランシー、そしてエレオノールが降りて来る
「もう引っ掛かったの?」
「俺も驚いた」
そしてエレオノールは怒りを顕にし、女暗殺者を力任せにぶん殴る
バキッ
「ちょっとヴァリエール。何してんのよ?重要な情報源じゃない」
「ううう五月蝿い!、ああああんた達に解るもんか!親と自分が同じ方向を向いてるあんた達なんかに、私の気持ちが…」
そんなエレオノールに才人が寄り、肩を抱いたらやっと大人しくなる
「あ……お願い……抱いて」
女が才人に、力が入らない為に四つん這いで寄って行くのを、更にエレオノールが蹴ろうとした為に、才人が素早くエレオノールを背中に持っていく
「大事な情報源だ」
「何よ?他の四人殺したじゃない!こんな糞女も殺しちゃって構わないわよ!」
そんなエレオノールの激昂に、死体を調べていたタバサとモンモランシーが冷水を浴びせた
「殺さなくても死んだわ」
モンモランシーがそう言い
「奥歯に毒、自決用」
タバサがそう報告する
「ちょっと待って、じゃあこの女もヤバいじゃない」
キュルケがそう言った時には才人が指を突っ込み、その感触に一瞬正気に戻った女が才人の指を噛み締める
「……つっ」
素早くタバサが眠りの呪文を唱えた
「イル・ウォータル・スレイプ・クラウディ」
そのまま女暗殺者は眠りに落ち、遺体と共にキュルケ達が回収していったのである
「おぅ、英雄さんよ、何銃ぶっ放してんだ?小便終わったんならまた飲もうぜ。シエスタがガンガン飲ませて堪んねぇんだよ」
「いや、獣が近付いたかと思って、威嚇にね」
「そういう事かぁ。確かに猪とか出るからねぇ」
千鳥足の村人が出て来て、才人と肩を組む
「いっちょ朝まで行くか!英雄!」
「あんたら底無しだな、おい」
「ばっか、あの活躍見たら誰でも気分良くなるってもんだ!ガッハッハッハッ」
そう言って、また宴会場に入って行った

*  *  *
翌日、才人達は村外れの森の中に居た
互いの情報交換である
「才人さん、村長は偶々近場で講演してた旅の一座に頼んだだけだって」
「…そうか」
シエスタの言に才人は頷く
「才人、全員自決用に奥歯を加工してたわ。更に刺突用のヒュドラ毒、刃に塗れば擦り傷が致命傷」
「…」
モンモランシーの毒分析に、才人は押し黙る
「…クリスナイフ、用途は暗殺用。エストックも持っていた。扉越しでの刺突目的。戦闘目的では使わない武器」
「…」
武器選択が戦闘用じゃない
暗部に属するタバサならではの分析である
「結論は職業アサシン。恐らく対メイジ専門ね。魔法の掛かってる品々が一つも無かった。メイジでは、気付いてしまうからね」
「…そうか」
才人はそう言うのみである
「吐かせたわ。ダーリンが殺した奴が連絡取ってたみたいね。手紙は毎回焼却してたから、依頼者は知らないそうよ」
「ちっ、失敗したか」
キュルケの報告に、自身の下手打ちを舌打ちする
「ちょっと、面白い事聞いたわ」
「面白い?」
「タルブ近郊に居ろと、依頼者に言われてたみたい」
「……どういう事だ?」
「さぁ?」
そう言って、キュルケは肩を竦める
「つまり、最初からタルブに来ると知っていたって事かよ」
シエスタが真っ青になる
一気に家族と自分自身含めて、容疑者に浮上してしまったのだ
「タルブの人達は有り得ないです!私が保証します!」
「メイド、アンタの保証なんか何の役にも立たないわよ。今の話聞いて無いの?現段階では、容疑者は才人含めて此所に居る全員なのよ?」
シエスタがはっとして押し黙ってしまう
そして、才人はニヤニヤし出した
「才人……ねぇ」
才人の言葉にエレオノールがプイッとそっぽを向く
「と、とにかく、現段階では情報が少なすぎる。銃士隊は封建貴族の息が掛かってないから、幸い官憲としては信用が出来る。ミランを頼るわよ。異論は?」
「いや」
才人が代表して言い、全員が首を振った
アンリエッタには極秘に、アニエス=シュヴァリエ=ド=ミランに遺体と犯人を引き渡す為に手紙を送り、ゼロ機関側も対策を練り始めたのである

*  *  *
マリコルヌ=ド=グランドプレは、他の訓練生部隊と同様訓練が切り上げられ、新造艦に座乗する事になった
まだ新造艦はラ=ロシェールの新造船ドックから出たばかりで、木の匂いと鉄の匂い、膠と脂の匂いが混ざり、風に混ざって軍港の独特の雰囲気に一息買っている
その威容に暫くぽかんとしていると、搭乗の為に歩いていた列を乱してしまい、誰かに突き飛ばされた
そのまま岸壁から転げ落ち、何とかフライを詠唱して着地する
「ぶぶぶ無礼者!今突き飛ばしたのは誰だ?」
その言葉に一斉にぎろりと睨まれ、マリコルヌは怯む
「通行の邪魔した手前が悪いんだろうが」
「坊っちゃん本気で頭悪いのか?此所は軍だぜ?規律乱したお前が悪いんだよ」
「規律乱しゃあ戦死すんのは、これ空軍の常識」
「なんせ、空の上じゃ、落とされても誰も見てねえからなぁ」
「生意気な奴は後ろからも弾が飛ぶぜ?気を付けな」
次々に吐き捨てられ、マリコルヌは黙る
彼らは、それでも親切に教えてくれたのだ
そして、パンパンと埃を振り払い、黙って列に参加して、自らの座乗艦に向けて歩いて行った
世界樹に吊り下げられたレドゥタブール号を目指し、マリコルヌはタラップを揺らしながら他の兵と共に歩いて行く
そして、やっと着いて乗艦手続きを行い、当直士官に歓迎を受けたのである
「ようこそ、レドゥタブールへ。本艦は前回撃沈されたガリア方面軍旗艦の代艦となる非常に重要な艦だ。貴官も配属された幸運を女王陛下に感謝しなさい。奮励精務を期待する」
そう言った士官は、貴族のマントを着けて居ないが非常に礼儀正しい
思わず敬礼に力が籠る
「宜しくお願いします!空尉」
「この艦はグラモンで修復作業を行なってる艦に合流する為に、搭乗が終わり次第離陸する。部屋の案内は少年兵にやらせよう、ボーイ。この士官候補生に艦の案内をしてやれ」
「ウィ」
その少年兵は、黒髪の何処かで見た様な顔をしていた
「こちらです」
少年兵に案内され、マリコルヌは付いて行き、他愛ない会話を始めた
「どちらから来たんですか?」
「魔法学院からだ」
「魔法学院?僕の姉がメイドとして奉公してるんですよ。シエスタって言うんですけど。知りませんか?」
「メイド……メイドねぇ。沢山居るからなぁ。顔を見れば判るけど」
「そ、そうですよね。じゃあ、才人兄さんは?」
その瞬間、マリコルヌがギリリと歯軋りする
「あんの野郎の話題はするな!僕の天敵だ!」
「あはははは!知り合いなんですか?」
「知り合いも何も。あいつとは何時も訓練とか遊びで付き合ってるよ。いつかぶっ倒してやる」
「そうなんですか?やっぱり、才人兄さんは凄いんだなぁ」
カッカッカッカ
床を軍靴が蹴る音が響き、部屋に到着する
「ではこちらです。魔法学院からの候補生は他にも居ますよ?では失礼します」
少年兵が去って行き、部屋を開けたら既に先客が居た
「やぁ、君も魔法学院の生徒だろ?見た事有るぞ?」
先客に、マリコルヌはそう言われた

*  *  *
士官候補生達は甲板員にもなれない役立たずの為、せめてと見張りに回されている
しかも、一番揺れておまけに強風が吹き荒び、更に高度上昇が拍車を掛ける、メインマスト(最も大きい帆を張る、非常に高い支柱)の上だ
マスト頂上は船の中で一番揺れが酷い場所で、落下の可能性が高い非常に危険なポジションである
落ちた場合、どんなに揺れても何故か甲板に必ず墜落するため、墜死するのもお決まりである
船は、10m上はアッパーデッキ(平甲板、階層構造船舶の一階と呼べる甲板)とは違い、常に風が吹いている
しかも、照り返しのあるアッパーデッキより気温が低い
下っ端が一番酷い扱いを受けるのは、何処においても同様である
違うのは、恐らく現代日本のサラリーマン位だろう
そんな中、マリコルヌと同部屋になったスティックスは、マリコルヌと共にトップスルの見張り場で、ゆら〜りとした、非常に内蔵に来る気持ち悪くなる揺れを食らって、マリコルヌと一緒に船酔いになっていた
「ぎ、ぎもぢわる〜」
「ぜんばい、言わないでくだざい」
「吐きぞう」
「ちょっとまっで、吐いだら連帯責任」
「む゛、む゛り゛〜〜、えろろろ」
「あ゛〜〜、え゛ろろろ」
スティックスのゲロに釣られて、マリコルヌも貰いゲロをしてしまい、アッパーデッキに黄色い吐瀉物が雨として降って来た
当然、下で作業をしてた甲板員達に吐瀉物がかかる
「何だこりゃ?臭ぇ!」
「見ろ!ワッチ(見張り)がゲロしやがった!」
「あいつら、ゲロ袋持っていかなかったかよ!?ざけんじゃねぇ!!」
下が大騒ぎになっているが、一度吐いたら止まらない
二人共に、後の仕置きに震えながらも、出すものを全部出してしまった
下はマストを弄ってた甲板員が持ち場を離れる事が出来ずに、見事に掛かっている
そして、下から甲板長がフライで飛んで来た
見事に白い士官服が黄色いモザイクになっており、異臭を放っている
「……出すものは出したかね?」
「も、申し訳……有りません」
「出すものは出したかと聞いておる」
「はっ、全部出しました。甲板長」
「良かろう」
甲板長がプルプル震えているが、これはマリコルヌ達が完全に悪い
「新兵が吐くのは空海軍の恒例行事だ。それ自体は誰も怒らん。私も新兵時には吐いた。吐かない人間の方が少ない」
「はい」
マリコルヌ達がピシッと気をつけをする
「今回の落ち度は、其を踏まえて新兵には必ず渡してるゲロ袋を、お前達が携行しなかった事だ。異論は有るか?」
「は!有りません!甲板長」
二人共に直立不動……とはいかずに揺られて顔を青くしている
「気合いを入れる。歯を食いしばれ」
二人共にガチッと歯を食いしばると
バチーン
拳が頬に叩き込まれ、二人共に足場が悪いせいで倒れた
「命令だ、即座にワッチを甲板員と交代。トップスルから降りて、甲板の清掃と汚した船員達の軍服全て洗濯しろ!清潔にしないと疫病の元だ。直ちにカカレ!」
「「ウィ!」」
マリコルヌ達がスルスルと降りると、代わりの甲板員がマリコルヌ達とは比べものにならない速度で登って行き、砲甲板から登って来た砲兵が、汚れた甲板員達と交代し、吐瀉物が付着した船員達が着替える為に船室に向かう
マリコルヌ達はデッキブラシとバケツと水と石鹸をボーイに渡され、一気に磨きだした
「次からゲロ袋忘れんな!」
「地上と違って、水少ねぇんだぞ!いざという時に足らなくなっから、次からすんじゃねぇ!」
「戦い以外で汚されると腹立つ!お前らしゃんとしやがれ!」
「「すいませんすいませんすいません」」
磨きながら、被害に遭った全員に謝る二人
魔法学院の時の物は全て通じない、苦い苦い船員デビューである

*  *  *


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Last-modified: 2012-02-18 (土) 22:56:07 (4451d)

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