X5-938
Last-modified: 2012-06-03 (日) 00:59:38 (4358d)
食堂で、ルイズは非常にプンプンしている
「いい加減に機嫌直してくれよぅ」
「知らない」
対面に座った才人に、つーんと視線を合わさず、食べ物だけ食べて、またぷいっと明後日の方を向いている
散々に縄に絡まる美少女を鑑賞されてしまい、コルベールすらやって来て頷いた時には、情けなさ過ぎて哀しくなった
ちなみに助けようとする連中は、才人のブリーフィングでの一幕を全員知らされた為に居なかった
下手に触ると、艦長によって血の雨が降るからだ
散々鑑賞して満足した才人に解かれた時に、才人を思い切りひっぱたいたのはむべなるかな
しかも文字通りの自縄自縛をやったので、助けないのを怒るのは実は間違っていなくもないが、やっぱりそこは女のコ、好きな男の子に助けて欲しいのだ
「使い魔は、ご主人様のご機嫌を直して頂きとう存じます」
「ふんだ」
ぷりぷりしてるルイズは、ちょっと楽しかったりする
こんな何気ない、他愛ないやり取りをやるのは、実に何ヶ月ぶりだろう?
だから、怒ってても、と言うか、怒ってるふりしながらも、才人と一緒に居るのだ
そう、オストラントの艦内なら、実は邪魔者が全く居ないのだ
『これってチャンスじゃない?』
えぇ、チャンスです
訓練予定は3日。その間は正に才人の周りに居る女は自分だけ
しかも、艦長室は艦内最高の調度品に囲まれている
才人の趣味ではなく、船舶とはそういうものだ
実は、地上では高級品に分類されるモノが、軽く使われていたりする
ミスゼロは艦長の主人にして、艦長室を才人以外に使える特別な存在なのだ
地上では学生の身分ではあり得ない、超絶厚待遇
正にヴァリエールに相応しく、持つべきものは有能な使い魔である
きちんと貴賓室もあって、実はそっちを用意された(運用自体は軍で、才人達は基本ノータッチ)のだが、あっさり蹴ったのは才人には内緒である
才人には「サイトは艦長でも、あたしはサイトの主人。だからあたしも艦長室よ。文句ある?」で押し通した
天井にはゼロ機関本部と同様にファンが付いて室内の空気を対流させ、どんな高度でも常に蒸気暖房を調節すれば素っ裸で過ごせる温度も可能
換気は冷気魔法付き蒸気還水ラジエーターの冷却ファンに繋がっていて、知らない内に綺麗に循環される
実は一般家屋なんかより、遥かに居住性は高い
窓は小さいが、見れば外は雲海と遥か下に下界であり、眺めも最高
ゼロ級のムカつく充実ぶりは、そのまま電気関係を魔法に置き換えて、現在の船舶を空に飛ばした様なものだからで、ハルケギニアにおける最高傑作船である
最下等船室でも、空調のお陰で中々に居心地良いのだ
厨房や作業場でも蒸気でお湯が使える為に、洗いものが小量の水で済むという利点もあり、ちょっと処か他の船からみたらざけんな畜生といった感じだ
廃水は浄化魔法タンクにより、再生水として作業用水に使う為に、本当に水を無駄無く使える
浄化物は錬金作用で塩化物か有機系石になり、タンク下に沈殿する
全てはカートリッジ式魔法効果制御システムの恩恵である
魔法負荷の強い、切れやすい(故障しやすい)部分は全てゼロ機関のカートリッジ式が導入されている
カートリッジを差し替えるだけなので全員楽チンだし、カートリッジの魔力補給は、寝る前に搭乗メイジが魔力使いきって寝れば、事実上永久に使えるのだ
そんな訳で、ルイズは最高の環境下で三日間使い魔といちゃつけるという訳だ
で、話はぷりぷりしてる所に戻る
「……分かった。何かして欲しい事有るか?」
よし、良い感じに才人から譲歩を引き出せた
ルイズは思わず唇の端が上がってしまう
「ハルケギニア一の天下の美少女は誰?」「マイロードにございます」
才人が即答する
本気でそう思ってくれてるのかも知れない
しかも、ルイズの心を擽るマイロード連発
もうこれは、イケイケ?イケイケ?絶対にイケイケだよね?
「そうね……縄のお陰で身体が汚れたし痛いわ。使い魔が洗ってマッサージしなさい」
そう言った瞬間、ルイズは心の中で
『きゃあぁぁぁ!言っちゃったぁぁぁ!ルイズってば、ダ・イ・タ・ン』
言っておくが、日輪の力の話ではない
「…」
才人はルイズの倍量の食事を止めて身体が止まった
現在の才人の食事量は軍人のそれである。それを越えるのは周りではタバサだけだ
マリコルヌより食ってるのにちっとも太って無い為、マリコルヌに睨まれる原因の一つになっている
「…返事は?」
「…イエス、マイロード」
『勝ったぁぁぁ!ルイズは今日こそ星になります!そして、にっくき姉二人から、あたしの使い魔を取り戻すのよ!』
…まぁ、頑張れ……うん
そんな二人に司令が声を掛けて来た
「艦長。今回の演習で聞きたい事が」
「んあ?戦術は軍の専権事項だろ?」
一応部外者だから、口出ししねぇよという宣言だ
「確かにそうですが、オストラント搭乗中は、オブザーバーである立場をお忘れか?」
「技術面だけだろ?」「戦闘技術も技術ですな」
才人はやられたって顔しながら、頷いた
「解った。食事後指令部に行けば良いんだな?」
「お願いします。ミスゼロ、貴女の使い魔をお借りしますぞ」
そう言って、司令のウィンプフェンは去って行った
才人は一気に食い終わって、両手を合わせて立ち上がった
「悪い、ルイズ。先に風呂入って寛いでてくれ」
椅子に掛けてたジャケットに袖を通し、デルフを持って一人歩いて行く才人
ルイズはぽつねんと残された
「……仕事だもの、仕方無いのよ、ルイズ」
女のコの妄想通り、事態が進めばなんと楽か
ルイズは散々に自身の使い魔に思い知らされてるので、すっくと立ち上がって艦長室に一人歩いて行った
大丈夫、ちょっと寛ぎの時間が減っただけよ
そう自身に言い聞かせながら
* * *
才人が指令部の部屋を開けると参謀達が待っていて、才人に敬礼するのを才人が軽く会釈で返した
武装許可証で軍属扱いされてても、一応軍人ではないのでけじめである
「つくづく貴方が銃士隊に所属してないのが惜しい」
そう言ってウィンプフェンが敬礼し、才人が苦笑で答えた
「あん時副長のまんまだったら、オストラントは出来て無いね」
「おっと、その通りですな。痛し痒しと言った所ですか」
参謀達がその言に笑って応える
「じゃあ、技術の話だって言うから来たけど、手早くやっちまおう。ご主人様の機嫌取らなきゃならないのよ。使い魔の悲哀だね」
「「「ワッハハハハ!!」」」
思わず全員が爆笑する
確かに使い魔の悲哀は、彼にしか解らない
「ハッハッハ。彼のご主人様の機嫌が悪くなる前に終らせるぞ」
「ウィ」
ウィンプフェンがそう言って一人の士官が説明を始めた
「では今回の演習結果から…」
竜騎士隊の急降下爆撃演習は通常は水弾を使って火薬推進で行なっており、油を使ったのは今回が初だ
理由は勿論、火薬の節約である
「まぁ、オストラントに於ては、ボイラーに火を付けると硝石と硫黄が取れますが、所詮は銃に使える程度です。火薬推進に使ったり炸薬に使ったりする量は確保出来ません。演習で毎回実弾使ってしまえば、あっという間に枯渇します」
それで、今回の油の使用と言う事だ
「今回はランプ油を大量に錬金で用意しました。ランプ油なら錬金効率は格段に良い。助言はゼロ機関からとグラモンから来てますが、事実ですか?」
「あぁ」
「理由は?」
「水弾ばっかじゃ、つまらないだろうと思ってさ」
その発言に士官が頷いた
「確かに、竜騎士達が今回の演習結果には、全員興奮してました。ですが、他の理由も有るでしょう?」
そう言って、士官が言葉を一度切り、また呟いた
「木造船舶である戦列艦を、文字通り火達磨にして燃やす……とか」
全員目が鋭く、才人に視線を注ぐ
才人は無表情に頷いた
「その通り。艦底から火をつけりゃ皆殺しが出来る。火は上に昇る上に、艦外からの放火じゃ、消火も出来ずに逃げ場なんざ無くなるからな。しかも散弾射程外から油撒けるんだから、竜騎士の損耗無しで確実だ。最期にブレスでも魔法でも火薬でも良いから、燃やせばあの有り様。別に炎でなくても、窒息で死ぬ」
その言葉に、全員が息を飲んだ
「…貴方は恐ろしい事を考えますな」
才人は無表情に答えた
「焼夷戦術と言う。本来は焼夷弾として上から落とすんだが、対空弾に油詰めて艦底から、対艦弾で上空から。上空からなら油樽でもいい。同量の火薬に比べりゃ安上がりだ」
「……確かに、我々トリステインでは如何に火薬を少なく仕上げるかが課題の一つ。貴方はその方針を示して下さいました」
そして、改めて士官は言った
「貴方は正に悪魔だ。だが、我々は勝つ為に、悪魔の勧誘に乗りましょう」
そう言って全員が立ち上がろうとすると、才人が呼び止めた
「他にもあっけど」
「何ですと?」
全員が浮かしかけた腰を止めて、また座る
才人が弾丸を抜いてころりと転がす
「コイツは?」
「現在開発が一段落して終わった03式シングルアクション銃。その制式魔法空気加圧弾頭弾。通称ドレッドノート弾」
「怖いもの知らず弾?」
「そ、元々は零戦の7.7mm弾の補給用弾頭として開発した物を、銃に応用したものだ」
そう言って、デルフから03式銃を外してがたりとテーブルに置く
「結論から言う。コイツは竜を殺せる。連射速度は5秒に一発。銃兵一斉射撃の面制圧力はマスケット銃の比じゃない。フルスペックなら、後方の人間迄ぶち抜くぞ?」
一気に全員が息を飲む
「更に大型化すれば砲にも使える。だが、現在主流の12インチ前装砲には合わないな。威力が有りすぎて、砲径を小径化して砲身肉厚を確保しないと重いだけだ。積むメリットは12インチだと鈍重化と引き替えになるからお勧めは出来ない。砲なら、簡易的な徹甲榴弾にする。勿論、榴弾炸薬もドレッドノート化すれば威力は桁外れ」
ウィンプフェンは肝心な所を聞いて来た
「今から造れますかな?」
「無理。理由は大型工作機械をまだ準備出来てない。設備の拡張に職人の教育。一気に全部は無理だ」
そう言って、才人はギシっと椅子を揺らした
「ちなみに射程は?」「制式弾で800。フルスペックで1500。フルスペックは銃身に硬化処理しなきゃ追い付かないから、お勧めしない。反動も強すぎるから、普通の人間では骨折っちまう」
才人の発言に士官が聞き出した
「そいつを持てば、戦列艦の水兵でも強化されますね」
「まぁね。買う?買うなら拡張するよ。銃の方はこの前配った01式改装するだけなんだ。元々こっちが目的だったし」
余りの強化銃だが、他に売る先有るにも関わらず、トリステインに持って来た
ウィンプフェンはその事実に暫く思考する
「予算権限は無いので、答えかねますな。それに、実際にその通りか実戦で使用しないと」
「確かに。ま、頭の隅にでも置いといてくれ。俺が勝手に使う分しか、今の所用意してないし」
「短銃でも使用出来ますか?」
「ちゃんと両手で支える事が条件。出来ないなら、通常弾頭の黒煙もくもくに耐えないとならん」
「ほう、通常弾頭も有るのですか」
「あれは止めた方が良いよ。目の前真っ黒になる。コイツはそんな事無いからね」
才人はそう言って肩を竦めた
「確かに、射界確保は銃砲の絶対的テーマですな。有意義な話を聞けました。今後もトリステインに協力を願います」
ガタタ
全員が立ち上がって才人に敬礼し、才人は会釈して退室した
* * *
オストラントの外観全長は150メイル、幅20メイル、高さ20メイル艦橋高さ10メイル
主翼が前方90メイル辺りに付いており、そこから根本は15メイル、先端は7メイルで翼センターで5°後退している
これ以上の傾斜は、チェーン駆動の都合上無理だ
全幅250メイルで幅の方が広い
フレームは前方から見ると五角形の辺が上になっているダイヤモンドトラス構造で、軽量化に重点がおかれている
フレームとしてはパイプが一番強い為に、メインフレームはブロック単位の丸パイプだ
居住区画内にはパイプフレームは通されておらず、全てエンジンと倉庫と翼の支持に使用されている
外装が木造の為にかなり軽量で、ざっと計算したが飛行装備のみで、大体150トン位か?
その内フレームとエンジンと蒸気管やプロペラ等で100トン位、残りが内外装に燃料,風石,蒸気用水等になる
フレーム類は才人の鉄鋼改善技術で強化されてる上に、最初から硬化と固定化処理して強度と耐候性(錆耐性)を上げている
4枚プロペラ6基と翼面積比を零戦に比べて上げてる為、推力が零戦に比べて高いせいもあり、空荷ならオーバーロードを駆使すれば何とか飛ぶが、荷物を積むと風石無しでは飛行不能だ
まだ出来てないローラーベアリングの換装と、コークス使えば性能は更に上がる
コークスの発熱量は、石炭の1.6倍以上だ
船体構造は居住区8層、倉庫が2層
階層はアッパーデッキから下が一番二番と呼んでいく
ボイラーが7番デッキ中央やや後方二層ぶち抜きで鎮座し、主機並びに補機は5番デッキに納められ、風石室は8番デッキ
つまり艦体中央やや後方にマスバランスを集中させ、更に空荷時での居住区の重量化配分を行なっている、航空機としては、正に震電などの先尾翼機における特徴そのままである
これは水上船におけるマスバランスに一致する為にこうせざるを得なかったわけで、かなり才人が苦労したと見える
倉庫は2階層で4番デッキと8番デッキにあり、零戦や竜が収容されているのは4番デッキ倉庫で、8番デッキが装備品や竜達の食料や人間の食料などが積み込まれている
格納エレベーターは通常アッパーデッキにロックされているが、8番デッキ迄降りる事が可能だ
その気になれば、竜騎士60騎迄は運用出来る
幻獣騎兵なら、渡し板で足場増設で200騎以上軽く出せる
竜母艦専任時なら、資材はアッパーデッキに固縛してしまえば良い
竜騎士一斉出撃なら、艦首ハッチを開けば、上下から一斉に飛べるのだ
但し、せっかくの暖房がおじゃんになるので、クルーが嫌がるだろう
で、零戦は4番デッキ倉庫、艦首に固縛されて、迷惑にならない様になっている
固縛しないとひっくり返るので、船舶ではお約束です、念の為
船格としては同等のロイヤルソブリン級は、どうして砲艦と竜母を同時に運用出来るのだろう?
ちなみに今は竜騎士含めて100名、搭乗最大250名に比べればまだまだ余裕があるので、三等船室(四人部屋)を二人で使ってる
艦長室が一番デッキ艦尾で、個人風呂とトイレが使える贅沢仕様
共用トイレは2,4,6,8番デッキ艦尾よりちょい前、風呂場は2番デッキ艦尾に二室
医務室が3番中央
サロンが1番デッキ中央(現在司令部)
食堂兼バーが4番デッキ中央(両倉庫からの搬入経路対策)
各長室や貴賓室が1番デッキ両舷、一等船室が2番デッキ、二等船室が三番デッキと4番デッキ、残りが三等船室だ
配管経路を想像するに、才人が非常にシンプルに造るべく腐心してる
艦長室の風呂の水?
風呂場用や飲料、厨房含めて艦橋にストックされていて、重力落下で楽々給水、湯船の蒸気システムで楽々湯沸かし
つまり艦橋は、一番上以外水タンクと落下防止柵の格納庫兼排気管だ
吸気口は両舷主翼の直上に位置してあり、1サント目の金網がフィルターになっていて、鳥の吸い込みを防止し、翼に立って簡単に清掃出来る
艦橋の重みで艦が右にロールする?
意外と左右バランス崩れても結構平気なものだ。何せドイツが実際に、そういう飛行機を作ってしまった。最も、採用はされなかったが
でも、一応左舷艦尾にバラスト仕込んで、バランスをある程度取ってはいる
全景として想像出来たであろうか?
そんなこんなで、やっぱり贅沢な艦長室でルイズは一人お風呂に入っていた
「う〜ん、やっぱり艦長室で正解だわ。だってあたし一人しか女居ないじゃない。あんなに大きいんじゃ、お風呂で無駄水だものね」
言われて見ればその通りだ
ちなみに緊急的に水の補給する場合は、雲に突っ込んで凝集唱えて、片っ端から水タンクに突っ込む手法が取れる
ザバッと上がって湯船に蓋し、パチンパチンとロックをかける
機動でお湯を逃がさない為だ
突然の突風もあり得るのでこうなっている
船舶の調度品類は、基本壷に至る迄、全て固定されている
「ふんふんふ〜ん」
鼻唄を歌いながらバスローブに袖を通し、タオルで髪を拭いて、鏡台の前に座る
女性用が何故有るかと言うと、備え付けなので悪しからず
ゼロ機関は調度品迄、誰も手を出して無い
新システムで全員手一杯だから、内装は船体の船大工と共に、全部業者に任せたのだ
恐らく、予算の無駄遣いが行われたのだろう
アンリエッタが、何か囁いたのかもしれない
髪の毛が乾く迄タオルでパタパタしながら、ルイズは上機嫌だ
ベッドは天蓋こそ無いとはいえ、豪奢なタブルベッド
クローゼットは重厚なオーク材
ソファーは革張りでしかもふかふか
一緒に付いてるテーブルは大理石削り出し
ワインセラーに各種酒が並び、食器棚には非常に美しいグラスが並ぶ(但し、転倒対策されてる為にちょっと不恰好)
そして本棚もある。現在は始祖の祈祷書以外、何も入ってないが
そして全ての家具が色調を統一し、壁に付いてる柔らかい光の魔法ランプ達と共に一体感を演出している
更につまみ迄用意されてる
「う〜ん。これぞ貴族の醍醐味ね」
正にその通り
だが、貴族ではなく艦長の醍醐味です。念の為
その分、艦長は責任重大なのだ
ルイズは室内温度を薄着で大丈夫な様に、蒸気暖房器に寄り、蒸気調節バルブをくるくると回転させて、ほぅっと息をつく
「う〜ん、魔法学院より良いわねぇ。サイト早く戻って来ないかなぁ」
だから、各長や貴賓室だけの恩恵だと言うのに、他の船室は覗いてないらしい
「よっと」
ぼふって音を立てベッドに飛び込む
先程、始祖の祈祷書を本棚から取り出してからだ
バスローブのまんまで、思い切りはだけている
「さぁて、虚無の新魔法……出なさい!」
パラパラ捲ってルイズが鼻唄混じりでページをどんどん繰るが、今日もやっぱり出なかった
「……う〜ん、そうよね。そんな簡単に出るんじゃ、誰も苦労しないわよ。まだまだこれからよ、ルイズ」
才人が居ない時にやる日課である
虚無に可能性が有るなら、ルイズは決して諦めない
諦めたら終わりな事は、自分自身が一番知ってるのだ
また祈祷書を本棚に戻して、ルビーを鏡台にしまい、またころんとベッドに寝転がる
「オストラント最高!新型艦最高!これがサイトの船で、しかも今までよりも、運用費用も安上がり!もう聖地でも何でも行けちゃうわ!」
ベッドの上で一人ごろごろして、きゃあきゃあしてるルイズ
「えへへ、えへ、えへ、サイトと一緒なら、どこでも行けちゃう。どんな事でも出来ちゃう。うふふ、うふ、うふ」
一人含み笑いしながら、いつまでも来ない才人を待っていた
「サイト、お仕事終わるのまだかなぁ?マッサージはしてもらうんだからね!それで、そのまま星になっちゃうの」
でも、何時まで経っても才人は戻って来なかった
* * *
ルイズが一人艦長室で悶々としてた頃、才人はバーに居た
司厨達がバーテンになり、酒とツマミを提供し、艦内で休息時間の連中が大量に居た
竜騎士達は全員酒に酔って、盛大に盛り上がっている
「僕、この船所属なら、真っ先に志願するよ」
「何を言う。僕ら第一中隊全員で、オストラント所属になろうじゃないか!なぁ、才人。僕らを雇ってくれよ!」
「無茶言うな。竜騎士と竜食わせられる程稼げてねぇ」
そう言って才人はテーブル席で盛り上がってる竜騎士達に、カウンターから答えた
竜は大食いだから、やっぱり食費が嵩むのだ。搬入資材の大半が、竜用の羊肉である
その為、8番デッキ倉庫は暖房が切られていて、非常に冷たい。上空は天然の冷蔵(凍)庫である
で、何故居るかと言うと、船内を探検してた竜騎士達に、司令部を出た所で取っ捕まったのだ
ちなみに、竜騎士達全員だ
皆が興味津々であちこち回ってたのだが、機関兼ボイラー室からは追い出されている
あちこち触られたら事故の元なので、本気で機関士達に睨まれたのだ
「良いだろ。ちょっと位」
そう言って押し入ろうとする竜騎士達に
「俺達でさえまだ把握してねぇのに来んな!死ぬぞ!」
「一歩間違えただけで、全員死ぬシステム使ってんだ。艦長の許可無く立ち入るな。オストラントじゃ、艦長の命令は軍令部より絶対だ。入りたきゃ、艦長に許可貰って来い」
杖すら抜かれて本気の表情だったので、全員退散したと云う訳だ
で、全員酒が飲めると知ってバーに集合、といった流れだ
「いや、俺、バーの設計なんざして無かったんだがなぁ」
才人がそう言って苦笑してると、バーテンが答えた
「船の上では酒が唯一の楽しみです。設置しない方が間違いです。なので、勝手に改装したのでしょう」
「ありゃ、そりゃ気が付かなかった」
そう言って才人が笑っていると、才人の隣に座った人物がいた
ジュリオだ
「隣、良いかい?」
「あぁ」
才人の隣で座ったジュリオがバーテンに注文すると、カランと氷の小気味良い音を立てて、酒がジュリオに出された
ジュリオがそれを口に含んで、思わず顔をしかめる
「くぅぅぅぅ、効くぅ。コイツは?」
「ゴールの古酒です。竜騎士達には良い酒をと、司令部からの命令です」
「ちょっと、トリステインの美食家振りを甘く見てた。ロマリアにも匹敵するな」
すると、才人が声をかけた
「何だ、ロマリアから来たのか。ロマリア人は初めて見たよ」
「おまけに僕は一応神官でね」
「へぇ、坊さんねぇ。お前ら、11人以下じゃないと強くないだろ?」
「何だいそれ?」
「いや、こっちの話」才人はそう言って酒を煽っている
「…で、坊さんが殺生して良いのか?」
「僧兵って、知ってるかい?」
ジュリオがそう言うと、才人が嫌そうに答えた
「何だ、神の御名の元にやりたい放題か。宗教絡むとこれだから……」
「君は面白い事言うね。まるで、宗教が間違っていると言わんばかりじゃないか」
「そりゃ、あんたらみたいな宗教が何やったかなんか、俺の国じゃ散々知られてるからな。どうせ、聖戦だなんだと遮二無二突っ込んで、無駄に人間殺して来たんだろ?」
才人が嘯くと、ジュリオはきょとんとして笑い出した
「あはははは!君はまるで見てきたかの様に言うね。その通りだよ。僕らは聖地奪還が御題目の一つだ」
「あぁ、やだやだ。精々、砂漠でパスタ茹でて水無くして、友軍に救援要請するだけにしとけよ」
その途端、傭兵隊含めて爆笑が起こった
全員面白そうだと聞いていたらしい
「ギャハハハハハ。砂漠でパスタ……ロマリアならやる!」
「言えてる!駄目だ……腹痛ぇ」
全員で腹を抱えて苦しんでる中、ジュリオが憤慨しようとして考え込んだ
「失礼な!幾らロマリア人がパスタ好きだからと言って、砂漠でパスタなんか茹でたり………」
「したのか?」
「……否定は出来ない。過去の聖戦の記録見たら、確かあったような……」
才人が聞くと、ジュリオが首を捻り、更に腹を抱えて皆が苦しんでいる
「なんつうか、ロマリアはやっぱりそんな国か」
「……来た事無いのに、何で知ってるんだ、君は?」
「似た国知ってるもんで」
「…本当に君は興味深いな。所で相談なんだが」
「……何?」
才人がチーズを摘まみながら酒を含んでると、ジュリオが相談を持ち掛けて来る
「船の機関室見せてくれる許可が欲しいんだが?」
「あ、それ俺も」
「僕も」
「僕達皆、追い出されちゃってさ」
口々に手を上げる竜騎士達に、才人は首を振る
「追い出されたんじゃ駄目だ。皆、習得に必死なんだよ。人の訓練の邪魔はするもんじゃない。だろ?」
才人はそう言って否を出し、皆が訓練の邪魔ならしょうがないと諦めながら頷いた
「確かにそうだね。軍艦出来た時には慣れてるだろうし、その時迄我慢するか」
ジュリオがそう締め、皆が更に酒とツマミを注文して盛り上がる中、才人は一人出て行った
* * *
ガチャ
才人が艦長室に戻ると、ルイズが枕を投げて来た
「遅い!」
ぼふっ
才人の顔面に枕が命中する
「……悪い。司令部出たらルネ達に捕まっちゃって」
「あたしとどっちが大事なのよ!」
女のコの必殺技、あたしとどっちが大事が炸裂
才人は困ってしまった
才人はため息付いて、こう言った
「竜騎士とは仲良くしないと駄目だろ?協同作戦張るんだから」
才人の言う通りなのだが、だから納得出来るかと言うと、納得出来ないのが女のコ
「だったら、ご主人様にも同じ位しなさい!」
プンプンしながら、ベッドの上で仁王立ちで腕を組んで、バスローブがはだけているのに気付いてない
「ルイズ……見えてるぞ」
「え……きゃあぁぁぁぁぁ!?」
そう言って両腕をささっと股間を隠しながらストンと座る
結構見せてるのに、不意打ちだと駄目らしい
「さっさと風呂入って来なさい!馬鹿犬!そしてマッサージ!」
「はいはい、じゃあ入って来る」
才人が剣類をベッド脇に立て掛けながら、ジャケットを吊るして同じくベッド脇のラックにかけ、上を脱ぎ捨てて、上半身裸のまま風呂場に入って行った
才人がベッド付近に装備を置くのは、暗殺者出没以降の絶対事項になっている為、ルイズも何も言わない
バタム
そして、才人の背中に傷痕の残る綺麗な逆三角形の上半身裸を見て、ルイズは顔を真っ赤にしてぽっぽとした頬に両手を当てた
「やだ、いきなり脱がないでよ。びっくりしちゃうじゃない」
ルイズが設定温度を上げ過ぎて、才人は暑かっただけである
風呂に入った才人は、頭を洗ってザバッと流し、身体を洗った後はザブンと湯船に脚を伸ばして入った
脚が伸ばせる長い湯船だ
「ここの設計、こうだったっけかなぁ?違った気がするんだが。余計な配管も、誰がやったんだか」
そう言って首を捻っている
才人が徹夜明けで居ない時に、他の作業者がちゃっかり作ってしまったのだろう
コルベールも、一枚噛んでるかどうか怪しいものだ
ちなみに艦尾に艦長室と副艦長室が並んでおり、風呂とトイレが中央に位置して、お互いの部屋の仕切りになっている
音が伝わらない様にという配慮だ
後は、小さいながらもせっかくの窓を、風呂で潰さない為でもある
副艦長室は、トイレだけ付属だ
「……まぁ、風呂場で他の連中に遭遇して、あれこれ聞かれるより良いか。どいつもこいつも期待の目で見やがる」
正直毎回は堪らないので、ルイズを使って遊んだり、常におどけて見せてる訳だが、成功したとは言い難い
才人には才人の苦労が有る訳だ
しかも、傭兵と聞くとつい身体が反応してしまう。もう、条件反射のレベルだ
彼らが、内密に暗殺依頼を請け負ってる可能性は否定出来ないからだ
「…やっぱりやり過ぎた。日本に帰っても、もう無理だな。来る前にゃ、戻れねぇ」
そして、肝心な物を付けてない事に気が付いた
「あ、そういや、脱出艇付けてねぇ!馬鹿じゃん、俺」
ザバッと跳ね上がると飛び出した
確かに馬鹿だ
才人もバスローブだけで身体を拭いたら飛び出した
「サイト、それじゃ」
「ちょっと待っててくれルイズ。マジで重大な忘れものしてた!コルベール先生の所に行って来る」
「え?」
才人はバタムと飛び出すと、隣の副艦長室に飛び込んだ
「コルベール先生!俺大事な忘れものが!」
才人が入ると、上半身裸で身体を動かしてるコルベールが居た
首筋に火傷の痕や傷痕も才人並にあり、何時もマントと衣装で全く身体付きを見せないコルベールだが、才人より筋肉が付いている
「やぁ才人君、どうしたかね?」
「トレーニングしてるんですね」
「当たり前だろう、才人君。私は、生徒達を守らなければならない立場だからね。研究ばかりじゃ鈍ってしまう」
「いや、マジで尊敬します」
「ふむ、ちょっと待っててくれ」
そう言って、片腕立てをずっとしてるコルベール
「やりながらで良いから聞いて下さい」
「何かね?」
そう言って、コルベールはちっともトレーニングの手を止めない
「俺、とんでもない忘れ物してたんですよ!もう馬鹿みたいな大事な忘れもの!」
「ほう、何かね?」
「脱出艇です脱出艇!艦がやられた時に、総員退艦が出来ない!」
「あぁ、その事かね?。そこのテーブルに、今回演習の軍の補給目録が有るから見てみなさい」
「あ、はい」
才人がソファーに座ってぱらりと捲って見ると装備目録の項目に、150人乗り魔法カッター×2が付属しており、更に航海長から報告が添えられていた
艦長は新型艦建造に集中して、そこまで気が回らなかったのかと思います。軍の使い古しですが、短艇なら問題無いでしょう。きちんと軍令部から許可を頂きました
お使い下さい
「……先生」
「……何だね?」
「俺って……駄目な奴ですね……」
「人間完璧なんかあり得ない。それで良いじゃないかね?」
コルベールに才人は背を向けており、コルベールは背中で語る才人に、ふっと笑みを噛み締めつつ腕立てをする
「確か艦橋にまだスペースありましたよね?そこに積みましょう。倉庫じゃ、ボイラーダウンしたら出せない」
「了解だ、艦長」
「……俺、まだまだだなぁ」
そう言って、上を見上げた才人
コルベールは、そんな才人が好きだった
「その為に私がフォローするのだ。存分にやりまたえ」
「了解」
やっぱり、ゼロ機関はこの二人ありきである
* * *
ガチャ
ルイズが思ってたより早く才人が戻って来た
「早かったじゃない」
パタム
才人が後ろ手にドアを締めつつ、笑う
「いや、コルベール先生達が対応してた。マジで助かったわ。本当、あの人居ないとてんで駄目だな、俺」
ルイズがそんな使い魔の抜けっぷりを笑ってみせた。彼は笑って欲しいのだ
「サイトが変な所で抜けてるのなんか、何時もの事じゃない」
「そうだな。じゃあルイズ、マッサージやるか」
ルイズはふふんとベッドにぽふりと俯せになり、心の中でガッツポーズをする
ゲルマニアで癖になったのだ
そしてサイトに宣った
「早く脱がしなさいよ。邪魔でしょ?」
「あぁ」
そう言って、才人がバスローブをしゅるりと脱がすと、全裸の背中のルイズが現れた
胴体の大きさは、タバサと対して変わらず、脚がその分長い
そして、腰のくびれはタバサもかくや
丸いお尻はぷりんとしてて、そこから伸びる太もも(表記は股、腿では駄目)は実に絶妙な少女期の肉付きで非常に美味しそう
更に膝裏からふくらはぎ、踵から足裏にかける曲線は、趣味の乗馬で鍛え上げられた、正に芸術
そう、ルイズの魅力はヴァリエール姉妹共通の背中と脚である
胸にコンプレックスを持っているが、脚の魅力は帳消しにして有り余るだろう
背が小さい事すら、才人に対しては武器になる
で、何故裸かと言うと、マッサージは裸で受けるものと、ゲルマニアでのマッサージで勘違いしたせいだ
実際問題マッサージする側としては確かに楽ではあるが、必要かと言えばそんな事はない
なので、マッサージ初心者の才人も敢えて訂正してない
「行くぞ、ルイズ」
「ん」
枕を首の下に置いて、頭を身体に真っ直ぐな状態にして、才人が乗って両手でギュッギュッとマッサージし始めた
才人の手に、これでもかとルイズの柔らかいが密着し、つい邪念が入るが、それでも才人はやっていく
首筋を重点的にやりつつ(女性はほぼ全員首こり持ち。肩こりではない)ギュッギュッとやっていくと、ルイズの身体から段々力が抜けていき、お尻から脚、脚の裏から脚の筋迄伸ばして時には、マグロになっていた
ちなみにマグロの股間周りはシーツがしみになっていて、ルイズの目はとろんとなっている
「サイトのキツいの…………すんごくいい」
マッサージした後に眠くなるのは、マッサージ師にとって最高の誉め言葉です
「このままぁ、抱っこして寝なさい………くぅ」
そのままルイズは意識が朦朧としてるが、才人が抱っこするためにころんと動かすと、才人に身体を寄せて来た
「ローブ……邪魔……脱げ」
帯の結び目が非常にお気に召さなかったらしく、手を帯にもそもそするので才人は仕方なく脱ぎ、バサッと投げて毛布を羽織りつつ枕を二人にやろうとして、身長差で出来ないので腕をルイズに提供する
「犬〜〜発情しっぱなし〜〜」
そう言って、才人のモノに手を使って股間に挟んで手で突起に当たる様に誘導して、ぐりぐりし出した
「サイトの好きにしていいよ……もう駄目………」
そのままサイトを素まただけで射精させつつ、ルイズは眠りに落ちた
「……あのな。寝ながら腰動かすな」
そう言いつつ、才人もルイズから離れなかった
なんだかんだ言っても、匂いと相まって抱き心地はルイズは最高なのだ
* * *