XX1-155
Last-modified: 2012-08-25 (土) 09:37:06 (4261d)

学院では、その頃大量に刺繍作業と制服丈の調整でメイド達が大量に投入され、暇を持て余した女生徒の中から刺繍が趣味な生徒に軽いバイト代を出して、刺繍作業が進んでいた
小遣いに悩む女生徒には渡りに舟であり、バイト代欲しさに結構手伝ってくれている
勿論メイド達にもバイト代を払っている
制服一式揃えるにも、予備含めると大量に必要なので、数百着になり、人手が大量に必要なのだ
そんな中、エレオノールとルイズは刺繍をやろうとして解れさせ、二人して追い出された
「あんた達揃いも揃って下手くそね。そっちでワッペン作ってなさい」
モンモランシーにそう切り捨てられたが、流石にマントを穴だらけにした事実の前に黙ってしまった
何気に貴族の子女達で出来ない人の方が少なく、才人は驚いた
「皆、裁縫出来るんだな」
「服は高いのよ。補修出来なくてどうするの?」
「…納得」
キュルケの言に、深く頷いたのである
タバサも縫っていて、正に貴族の子女の教養の一つなんだなと、才人は納得した
皆がゼロ機関の休憩所で所狭しと針糸をチクチクやってる中、シエスタが才人に近寄って、後ろ手に何か隠しながらおずおずと語りかけた
「あの、才人さん、これ、どうですか?」
そう言って出したのが、厚手の帆布ベースのズボンだ
帆布自体はジーンズと同様綿素材だ
非常に堅いが、着馴れると柔らかく且つ丈夫なのが売りで、実は見た目よりやや軽量、格闘技の胴着にも使われる事のある非常に頑丈な素材だ
溶接を生業にする才人には、耐火目的の腕カバーや前掛け、頭巾等、お馴染みの素材であり、親しみが非常に強い
「あぁ、試しに縫ってた奴か……どうやって染めたの?」
縫ってた時は帆布特有のクリーム色だったのだが、綺麗な濃紺に染まってる為才人が首を傾げてると、モンモランシーから声が掛かった
「草汁煮詰めて作った染料に、水魔法掛けて生地に深く浸透させたのよ。全く、コイツの染料分集めるの大変だったんだから」
才人は感心して受け取り、二人に本気で頭を下げた
「すんげぇ嬉しい。有り難う二人共。やっと、着替えが出来た」
才人がちょっと涙ぐんで、ぐしっと鼻をすすっている
日本人には、着た切り雀はやっぱりキツイ
口に出さないだけで、毎日洗濯したかったのだろう
ブーツも同じ型で替えが届き、才人が首を捻ってたら、エレオノールにブーツは毎日履き替えるモノと指摘され、水虫対策に才人も頷いて毎日履き替えている
才人の感激ぶりに、シエスタはニコッて微笑んだ
「喜んで貰えて良かった。少しは御返し出来ましたよね?」
「充分だよ」
「まだまだですよ〜?私は、御返ししなきゃならない分が山盛りなんですからね?」
そう言って、指をチッチッチッチッと振ってウィンクしたシエスタに、才人は笑って頷いた
「楽しみにしてるよ」「はい!」
そんなシエスタの行いを見て、目の前のワッペンの刺繍の様な物を見て、溜め息を付くルイズ
「なんで皆チクチク出来るのよ?」
「全くよ」
エレオノールも苦心しながら、一針一針人の三倍の時間を掛けて縫ってたら、余りに稚拙な針仕事に、キュルケがとうとう口を出した
「ヴァリエールは他の仕事やってなさい。冗談抜きで邪魔」
周りからジトーと見詰められたエレオノールは、そそくさと立ち上がり
「それじゃ任せるわ。他の仕事も山積みだし」
そう言って逃げ出し、ルイズは視線に耐えつつ、必死に針糸を手繰って作業を自分のペースで進めた
ルイズもバイト代は欲しいのだ
何だかんだで借金返済をモンモランシーとかにしてたら夏休みのバイト代は全て飛び、おけらなのである

*  *  *
才人は仮眠室をダルシニに明け渡し、ダルシニは昼間は皆と一緒に働くと、夜は寝ないで済むのでぼぅっと一人佇んでいる事が多かった
話し相手たるアミアスが居ない為に、調子が出ない様だ
才人はそんなダルシニの様子がちょっと気になった為に、ちょくちょく顔を出している
「イーヴァルディ。そんなに頻繁に来なくても大丈夫ですよ」
「そう見えないんでね。飲む?」
そう言ってワインを掲げて見せると、ダルシニは首を振って微笑む
「水は飲みますが、口に出来るのは血だけなんです」
「厄介だね。人の料理なんて気持ち悪いだけか」
「そうですね。でも馴れました。何時までも気持ち悪がってると、バレちゃいますし」
才人はその言葉に頷く
「そっか」
「私を酔わせたいですか?」
「いや、気晴らしになるならって思っただけ」
才人にそう言われ、ダルシニはクスリとした
「一つ方法が有ります」
「へぇ、どんな?」
「貴方が酔って、私がその血を飲めば、酔っ払えます」
才人はその言葉を聞いた途端、ワインをグビグビやり出した
「旦那の酔っ払い中に飲んだんだな?」
「当たり」
才人は彼女の気晴らしの為に一気に飲み、腕を差し出した
「酔う?」
「そうですね……ちょっと酔いたいかな?」
仮眠室のベッドに二人座って、才人の腕にかぷりと牙を突き立てて、暫くするとそのまま舐め出した
「あ〜、もう酔った?」
「おいひい、これおいひい。なんれ?」
「そいや、日本人は美味いって、人食い種族の人が言ってた様な?」
才人がそう言って首を傾げてると、ダルシニは妖しい瞳をしている
「旦那裏切っちゃ駄目だよ」
「ちがう〜しょくよくぅ」
そのままぎしりと才人にのし掛かって才人をベッドに押し倒すダルシニ
そのまま頬をペロペロ舐め出し、才人が擽ったさに身を悶える
「おいひい。もっとなめさせてぇ」
どんどん呂律が回らなくなっていくダルシニに、才人は思わず苦笑する
「汗にアルコール混じってんだな」
才人の服を上をはだけてペロペロ舐めたダルシニは、そのままこてんと突っ伏してしまい、才人は突然動かなくなったダルシニを見て意識が飛んだのを確認すると、そのままベッドにきちんと寝せてから部屋を出た

*  *  *
才人がルイズの部屋に戻ると、ルイズはちくちくと針仕事をやっており、才人は思わず苦笑する
「あんまり根詰めるなよ」
「皆と同じノルマこなさないと、バイト代貰うの恥ずかしいじゃない」
「ご立派。だけど、そろそろ寝る時間だろ?」
「中途半端は嫌なの」
ルイズの真剣な仕事を見ながら、才人は首を捻って呟いた
「そいやこれ、ヴァリエールとの契約違反だな?」
真面目に考えてる為、ルイズはちらっと見た瞬間に才人に命令をする
「内緒よ内緒。お小遣いピンチなの」
「ん〜。他の家でも不干渉契約した家の子女にも手伝って貰ってるし、俺、かなりいい加減だな」
そう言って少々落ち込んでいるが、そんな才人にルイズは縫い物しながら宣った
「刺繍や縫い物なんか機密じゃないから平気でしょ?」
「契約は違うんだよなぁ」
才人の頭の堅さをルイズは更に弄る
「靡かせる為の懐柔作戦と思えば良いのよ。ウチに付けば得するよって」
「あ、そうか」
ポンと手の平を拳の底で叩いて納得し、才人は頷いた
「先に寝てて良いわよ」
そう言うルイズから針糸を取り上げた才人は、そのまま後ろからルイズをひょいっと抱え上げた
「ちょっと、ご主人様の仕事を邪魔しないでよ!」
「使い魔は根詰めたご主人様が朝迄頑張る未来が見えたので、止めたいのであります」
「あたしは仕事が遅いから、人の三倍頑張らないと!」
「女のコが徹夜すんのは美容の大敵。隈作ったルイズは見たくないから寝よう。明日朝一からやれば良いよ」
「才人は二徹三徹するじゃない!」
「野郎は耐久性有るから良いの」
そう言ってもがくルイズを抱き上げたまま、ベッドに横たえるとそのまま服を慣れた手付きでひょいひょい脱がして下着姿にすると、自身も下着姿になって毛布にくるまった
単純な力差を発揮されるとルイズには抵抗出来ず、しかも無理矢理されると、ちょっと良い
『えっと、私、無理矢理脱がされて抱っこされて、しかも抱き締められながら寝るって、もうあれよね?』
逃れようとしたが、腕枕に胸元の匂いをスピスピしたら逃げる気が失せて、張り詰めた緊張が解けて睡魔が一気に襲って来、すとんと気が付いたら寝てしまった
才人の身体は、ルイズにとって完全な安眠薬になってしまっている

*  *  *
ラ=ラメー伯の礼拝堂で、ささやかながら結婚式に参加する貴族達が席に付いていて、花嫁の登場を待ちわびていた
その頃、カトレアは別室にてウェディングドレスに身を包んで、浮かない顔をしている
とうとう彼は来なかった
「解ってました。平民の彼では、病気持ちの私は重すぎる」
そう呟いて、表情を堅くしているカトレア
「夢を有り難う、才人殿。私も、現実に向かい合わなくちゃね」
アミアスの言い分も解るが、そうそう上手く話が転がる訳が無いのだ
「少なくとも、ピエールは私を好きでいてくれる。無難な相手よ」
そう自身に言い聞かせ、椅子の上でギュッと握った両手にぽたぽたと涙が溢れていく
「ひっく、ひっく……私も健康な身体なら……今頃……きっと……」
コンコンとノックが響き、カトレアは涙を拭ってから返事をする
「はい」
「花嫁、時間です」
「分かりました」
そう言って、カトレアは席を立った
『もう少し、冒険したかったな。さよならカトレア』
心で呟いて、カトレアは表情を朗らかに変えて扉に向かって歩き、扉を開けた

*  *  *
「だぁもう、ギリギリになっちまったじゃないか!何でいきなり、ケティ達迄来たいだなんて言うんだよ?」
オストラントの艦橋で才人は頭をガシガシしながら呆れており、一年生女子の一部が横付けしたオストラントに興味津々でフライで飛び乗られてしまった為に、降ろすに降ろせずそのまま一緒に来てしまっていた
コルベールが舵を握っていて、航海長のトビが航路を決めて進路を指示し、他のメンバーも配置に散っており、艦橋は女性陣で華やかになっている
才人のジャケットの左肩にはゼロ機関の刺繍(ルイズ縫製)がされたワッペンが縫い付けられ、エレオノールやコルベールのマントはゼロの刺繍が翻り、ゼロ機関の証を示している
シエスタもメイド服の肩口にワッペンが才人同様縫い付けられ、所属を示している
そう、ゼロ機関は全員統一デザインで刺繍された品が制服やマントに翻り、機関として形を成し始めていた
キュルケやモンモランシーも着けようとしたのだが
「協力貴族でも学生は駄目よ。学生は学院所属が第一」
そうエレオノールが言って却下した為、渋々学生用マントのままだ
で、小遣い欲しさに手伝ったモノが船に運び込まれたのを見て、思わず付いて来てしまった
才人が女のコに甘いのは周知の事実であり、押し通せると思っただろう事は想像に難くない
「だって、こんなに速い空船なんて興味津々になりますわ!」
そう言って、ケティが好奇心に満ちた眼で才人をキラキラ見ている
「いや、君ん所の親父さんとウチ、仲悪いのよ。契約違反なんだよね」
才人が頭をガリガリ掻きながら言う才人に、ケティは更に涙を溜めて訴えた
「だったら良いですわ。私、ゼロ機関のお仕事しちゃったって、お父様に報告しちゃいます」
自分の仕事を楯にした脅迫に、とうとう才人が折れた。頭をガシガシしながらかろうじて喋る
「ああもう。勝手に動かない。命令には従う。守れる?」
「はい!」
勢い良く返事をしたケティ達に才人がルイズに指示を下した
「ルイズ、悪いけど彼女達を二人部屋に案内して。艦橋に遊びに来ても良いけど邪魔しない事。良いね?」
最初はルイズに、後はケティ達に話しかけて、皆が頷いてルイズが手招きして彼女達が降りて行った
「すっかり遠足になってしまったね、才人君」
そう言ってコルベールが笑っていて、才人も苦笑しながら頷いた
「トビ、好みの娘は居たか?」
「いやぁ、俺じゃ無理。なんせ平民だしね。艦長が異常なんだよ」
才人が話を振ると、トビはそう言って、片目隻脚の身体を笑いで揺すり、航路を見据える事に戻った
「艦長、そろそろラ=ラメー伯領上空だ」
「総員戦闘配置。ゼロドラグーン、アッパーデッキに出せ」
〈了解、ゼロドラグーン出します〉
トビの報告を元に才人が艦橋から指示を下し、甲板員が返答をし、昇降機が動き出してグリフォン、ヒポグリフ、ペガサスの混成幻獣騎兵がゼロのマントを翻しながらランス、軍杖、更に03式銃を背中に担いで10騎アッパーデッキに現れた
続いて、シルフィードに乗ったタバサも上がって来る
「総員に告ぐ。なるべく殺すな。なるたけ穏便に済ませたいっても、こんな船出してる時点で穏便もクソもねぇけどな」
才人がそう言うと、アッパーデッキの連中がニヤニヤしながら艦橋に見ている
外には拡声器で声を届けているのだ
「力ずくで突破しなきゃならない場合も、なるたけ人は撃つなよ?」
そう言うと、才人が良くやる様に、全員が親指を立てて見せ、才人は艦橋から頷いて更に言葉を繋ぐ
「戦はあんたらの方が得意だろうから任せる。頼むぜ、マルセル」
そう言うと、分隊長のマルセル=アルベールが自身の騎獣たるグリフォンの上で、ランスを掲げて見せた
「総員聴こえる?管制は私がやるわ。あんた達、勝手に動かないでよ?才人も戦経験してるから、あんた達並に判断出来るから信じなさい」
〈ウィ〉
エレオノールが話すと返事が入る
〈1時方向距離5000高度1500艦影有り。ラ=ラメー旗、哨戒艦です。旧式のスタンダード(76門艦)だ、ありゃ軍の払い下げだな。指示を〉
才人はその報告に暫く思考すると、トビに聞いてみる
「追い掛けて来ると思うか?」
「そりゃ、勿論。こっちが色々やってる最中に追い付いて、後ろから砲撃やられたら終わるね」
才人はその言葉に頷いて指示を下した
「先生、舵を戦列艦に。上を取るぞ。上を取ったと同時に出撃。帆を破壊して航行不能にしろ」
「了解だ、才人君」
「ゼロドラグーン、出撃準備。上を取ったと同時に飛び出して帆を焼くか切り裂いて航行不能後離脱。良いわね?」
〈了解〉
エレオノールとコルベールが才人の指示に頷いて指示を伝え、舵をコルベールが切り、オストラントは戦列艦に向かって行った

戦列艦のクラスは砲門数で区分される
戦列艦は砲門数イコール攻撃力であり、現在のトリステイン艦は96門艦が製造されている
片舷38門の76門艦はスタンダードと呼ばれるクラスで、製造コスト運用コスト共に優秀で各国で長らく使われた為に、スタンダードと呼称される様になった艦型である
フルで運用すると、砲手一門三〜四人で最低220人、運航で40人前後。更にコック、医師、ボーイが乗り組む戦列艦は最低人数だけで普通に三桁いくし、負傷交代要員含めると更に1.5倍は人を積む
如何に戦列艦の運用に金が掛かるか、お分かりになって頂けるだろう。それに伴い、ゼロ級が空恐ろしいコストパフォーマンスかが分かると思う。だから、軍人の給料は安いのだ
人手不足のトリステインには、渡りに舟なのだ
当然払い下げ品はフルでの運用人数は回していない。片舷分の砲手だけで手一杯だ
アルビオンのロイヤルソブリン就役、それにゲルマニアやガリアの新型艦に押され、スタンダードは戦力不足と判断されて暫時退役し、封建貴族に払い下げられていた
要は退役艦を売り払って、財源不足に充当していたのである
一部は裏ルートで空賊に回った事が確認されており、ネフテスとの国境付近での活動が知られていて、ガリアやゲルマニア、ロマリアに突つかれる要因になっている
全ては貧乏が悪い…と言うべきか、それとも、きちんと対策練らない政治中枢を担った連中の無策を責めるべきかは判断の分かれる所だろう
そう言った細かい積み重ねが、現在のトリステイン封建貴族の、王政府への忠誠低下に積み重なっているのだ
ラ=ラメー伯領にスタンダードが有るのはそんな王政府に対する忠誠の証であり、名門の名に恥じぬ軍人であった先代ラ=ラメー伯の薫陶が光っている証拠である
才人はそう言った細かい事情迄は知らないが、とにかく犠牲者を減らす戦術を摂った
事情を知っているコルベールやエレオノールは口許を綻ばせているが、才人は何故かは知らない為に特に感慨を浮かべない
トビは口笛を一つ吹いて、コルベールに視線を合わせて口許を吊り上げて賛意を示しただけにする
そんな中、付いて来たケティ達が上がって来たのと、ゼロドラグーンとタバサのシルフィードが翼を広げてバッと飛び出したのが同時に起こり、見た瞬間、歓声を上げたのだ
「うわっ!綺麗!」

*  *  *
スタンダードに乗って居た乗組員は不幸だった
普段は適当に手抜きして、哨戒任務もなおざりにしても文句すら言われなかったのに、何故か新ラ=ラメー伯に結婚が決まると異常とも言える哨戒任務を厳命されて、殆ど乗りっぱなしだ
自分達も、本来なら新伯爵の式に参列して盛大に宴会で盛り上げる筈だったのに、全部おじゃんになってしまった
そんな中、猛スピードで突っ込んで来る、所属旗が良く判らない変な船が自艦に舵を切ったのを確認した時には、既に対処の時間は無かった
艦速180リーグで飛行した場合、1リーグ進むのに僅か20秒。5リーグで100秒しか掛からない
最も、艦速とは風の流れに対する速度である為、地上に対する移動速度とは違う。風向で追い風なら艦の時速は増速し、向かい風なら減速する
つまり、理論上は向かい風が時速180リーグなら、オストラントは艦速180リーグで飛びながら、地上から見ると静止するといった事態が有り得る訳だ
そんな時には、飛行しないのがお約束である
そんな訳で向かって来るので舷側を向けるべく転舵しながら上昇しているとあっさり艦上を通過され、オマケが降りて来た
混成幻獣騎兵と風竜の騎士が降り様、帆という帆を全て燃やすか切り裂いて使用不能にし、一合で航行不能に陥ってしまったのだ
余りの一撃離脱に全員ポカンとしながら見送るしかなかった
「……おい、帆の予備有るか?」
「有る訳ねぇだろ。全部だぜ、全部。修理代だけで偉い出費だ」
「…撃沈よかましだよな」
「…だな。通信手、報告だ。我、攻撃により航行不能。離脱する」

*  *  *
「逆進ブレーキ」
「逆進ブレーキようそろ」
才人が後方を見ながらコルベールに指示を下し、コルベールがピッチを逆進にして一気にブレーキを掛けると、艦に続々と帰艦するゼロドラグーンとタバサ達
エレオノールが指示を下した
「初陣お見事。綺麗な一撃離脱だわ。総員そのまま待機」
〈了解〉
「いや、マルセルすげぇな。混成部隊を一匹の生き物にしてるわ」
才人が感心してると、トビが自分の事の様に宣った
「マルセルは元グリフォン隊の中隊長だってさ。両足膝から無くしたせいで、退役したんだと。ゼロ機関に来てから良い義足誂えてくれたおかげで、踏ん張りがまた効くって喜んでたよ」
「ウチには勿体ねぇ人材だな」
才人がそう言ってうんうん頷いてると、コルベールが苦笑している
〈艦長の艦の扱いが巧いから、楽させて貰ってる〉「だって」
エレオノールが魔法通信機でマルセルに話しをしたらしく、才人はエレオノールの代弁に苦笑した
「さてと、そろそろか?」
「あぁ、見えた。艦長、魔法拡声器」
「あいよ」

*  *  *
教会の式場では、花嫁の美しさに皆が息を飲んで注視し、一歩一歩バージンロードを歩くカトレアは、それだけで主役だった
伏し目がちの眼からは、感情は伺う事が出来ず、全体としては笑みを浮かべてる為に、花嫁も結婚を歓迎している様に見えた
「……誓いますか?」
「誓います」
ラ=ラメー伯ピエールの宣誓が、気が付いたら終わっていた
カトレアは笑みを浮かべてるが、どうも心此処に在らずとの様だ
「嫁……花嫁?」
カトレアは暫く自分が呼ばれている事に気が付かず、先程入って来た入口をちらちらと見ている
劇的なタイミングなら、絶対今だ。だが、一向に来ない
誓ってしまったら、反故には出来ない
流石に参列者がざわめき始め、カトレアが先程から扉を見ているのに気付いた何人かが、扉を見ては何も無いのを確認して怪訝な表情を浮かべ始めた
「おい、どうしたって言うんだ?」「さぁな」「マリッジブルーの女は沢山見て来たが、彼女もか?」「…だな」
司祭も慣れてるのか、辛抱強くカトレアに何度も何度も同じ文言を繰り返し、カトレアの気が向かう様に努力する
そんな中、走る足音が聞こえて来て、カトレアは身体を向けて振り返り、全員が扉に向けて注視し、ラ=ラメー伯が思わずカトレアの手を掴む。カトレアが今にも走り出しそうなのだ
ダダダダダダダ
走る足音が大きくなって人影が現れた
「ほ、報こ〈カトレアァァァァァ!〉
拡声器で多少変調しているが聴こえた瞬間、カトレアはいつの間にか掴まれてた手を無理矢理振りほどいて駆け出した
「待つんだ、カトレア」
ラ=ラメー伯の声を背にカトレアは走った
走って走って、産まれて初めての全力疾走
『走れ、走るのよ、カトレア。今走らなきゃ、私は絶対に後悔する。だからどんなにキツくても走るのよ』
教会から飛び出すと、目前にオストラント
そして、オストラントからは風竜が丁度離陸し、背中には求めた黒髪の男の影
「ぜぃ……イル………ソラ……フル………ウィンデェェェェ!!」
太ももから杖を抜いて、力の限りルーンを唱えてフライで飛ぶ
そして、そんなカトレアの下をシルフィードが滑空し、両手を広げた才人がカトレアをガシリと抱き止めるとそのままシルフィードがくるりと一回転してから地上に降り立った
「ひっく……ひっく」
「ごめんな。来るの遅くなった」
カトレアはそんな才人の胸で泣いている
「……ごめんなざい。…信じきれながった、わだし……ごめ……」「ほら、呼吸を整えて。大丈夫、俺が全部悪い。謝るのは俺の方だ」
カトレアは首を振って、そのまま才人の首にしがみ付いて離さない
その様を、ルイズはアッパーデッキから見て、一人暗い表情をしていた
ちぃ姉さまが一番綺麗なのは知っている
でも、反則的な美女振りは酷い。アレでは、ルイズが幾ら頑張っても届かないではないか
そんな中、花婿の衣装を纏った男が歩み寄って来たのがルイズに見えた
「兄弟。敢えてそう呼ばせて貰うよ。彼女と僕が結婚すれば、君とは縁戚になるのだろう?だからお願いだ、カトレアを此方に渡してくれないか?」
カトレアが眼を見開き、すかさず才人の背後に回り、才人はカトレアをシルフィードに乗せたまま、自分だけは降り立った
「さて、未来の予定は未定だから、そう呼ばれるのは抵抗有るねぇ」
「カトレアを渡してくれ」
手を差し出しながら歩み寄る男に、才人は一度カトレアを見るとぶんぶんと首を振るカトレア
「嫌だってさ。俺、甘チャンで、女のコのお願いに弱いのよ」
そう言って、才人は拒否し、ピエールは杖を抜いた
「きちんと抜け。決闘だ。生死を賭けて、カトレアを寄越せ」
「悪いけど、アンタを殺す気にはなれん」
「なら、そのまま死ね」
才人は拒否するが、ピエールは問答無用でブレイドを纏って斬りつけた
才人は初太刀をあっさり避け、そのまま説得を試みる
「だからやる気は無い。彼女さえゼロ機関で預かれれば、アンタとやり合う理由は無い。中立のラ=ラメー伯は貴重だ。頼むよ」
「黙れ!お前なんかに何が解る!平民のお前なんかに何が!僕は10年、そう10年だ!」
更に刺突を繰り出すが、才人はバックステップで間合いを開け、問題無く回避し、ピエールが更にこんこんと訴える
「其をお前、お前だ!ぽっと出たお前なんかに、何故想い人が簡単に振り向くんだ!お前なんかに、平民のお前なんかにぃぃぃ!」
才人はカチンとし、デルフに手を掛けた
「…平民のお前なんかに……か」
ブン
風が唸りを上げてデルフが抜かれ、デルフが才人に声を掛けた
「よう相棒、久し振り。寂しくて寂しくてずっと泣いてたわ」
「デルフが村雨みたいに濡れるのか?悪い冗談だ」
「おぅよ。もう娘っ子共なりに濡れて濡れてヌレヌレよ?相棒の相棒に来てぇってなもんだ」
才人がげんなりしつつピエールを見据える
「生死を賭けるんだろ?本気で来い。本気で相手してやる。結果は知らねぇぞ?」
「クックックックッ。なら、食らうが良い」
そう言って、長い長い詠唱を始めたピエール。才人は黙って見送った
「なんでぇ相棒。攻めねぇのかよ?」
「本気でやりたいってなら、気の済む迄は付き合わないとな」
そして、20メイル級土のゴーレムが生まれると才人は無造作に03式をガチンと取り出し、懐から赤い弾丸を抜き出し無造作にセットし、ゴーレムに照準を合わせると、そのまま無造作に撃ち方を始めた
ダアァン!
一発でゴーレムの腕の半ば迄抉れ、ピエールが唖然とする中、才人は無造作に弾丸を抜き出しては、セットしてまた撃つ
ダアァン!
ゴーレムの左手が落ち、そのまま才人が狙いを付けて撃つ度に、ゴーレムの右腕、頭、右脚、左脚と打ち砕かれ、慌てて再生するも、どんどん粉々に撃たれてあっという間に土に戻り、顔面蒼白になるピエール
「ひ、卑怯だぁ!」「…魔法使うアンタが言うか?」
才人はそう言って、今度は腰から緑の弾丸を抜いて03式にセットすると、そのままピエールに狙いを定めると引き金を引いた
ダァン!
衝撃波で身体事吹き飛び、狙いを付けられた杖が粉々になってしまった
「…グァ」
「ほぅ、通常ドレッドなら、衝撃波で死なないのか」
ザッザッザッ
才人が03式をしまった後に歩み寄りながらデルフを持ってピエールを見据える
「死ぬか?」
「…殺せ」「…そうか」
才人がそのままデルフを振り上げ「止めて下さい!」その声に才人が止まった
出したのは、他でもないカトレアだ
「才人殿、お願いします。私の友人の一人を殺さないで下さい」
「…」
才人は無言でデルフを鞘に収めると、何も言わずに踵を返し、シルフィードに向けて歩き、カトレアに声を掛けた
「アミアスさんの居場所は知ってる?知ってるなら連れ出して帰ろう」
「はい」
二人がシルフィードに乗り込むと、ピエールが笑い出した
「くくくくく。反則だ。僕は何にも勝てないじゃないか」
大の字に寝転がりながら笑っているピエールの様を参列者達が眺め、数有る結婚式でのかっさらい話がまた一つ出来たのを、呆れつつ笑いながら見ていた

*  *  *
カトレアの案内で路往く二人が塔の牢屋を村雨で切り開き、才人がアミアスの拘束を解くとそのまま消耗したアミアスが才人に寄りかかり、才人は彼女の口を首筋に案内すると、アミアスは素直に才人の首筋に噛み付き、血を吸うと直ぐに傷を付けた首筋を舐めつつ傷を癒した
「やっぱり、来てくれた」
「遅くてごめん」
「ううん、良い」
少々儚げに言いつつ、確かな足取りで立ち上がるアミアス
「帰ろうか」
「…何処へ?」
アミアスの問いに、ちょっと考えて才人は答えた
「オストラントへ。俺達ゼロ機関の家だ」
「はい」

*  *  *
才人達がアッパーデッキにシルフィードで乗り上げると、アミアスに向けてダルシニが走って飛び付き、双子姉妹は本当に再開を喜んでいる一方、花嫁姿のカトレアの姿の美しさに圧倒され、男達はおろか女達も近寄れず尻込みする中、エレオノールが進み出てそんなカトレアを抱き締めた
二人共に特に話さないが、気持ちは通じてるのだろう
「誰の為に?」「姉様、言わせる積もり?」
にこにこしながら言うカトレアに、エレオノールはフッと微笑むと頷いた
「ゼロ機関で正式に雇うわ。良いわね、才人」「あぁ」
才人も頷いてそこで思い出したのか、懐から何かを取り出し、カトレアの左手を取って小指に指輪を填め、カトレアはきょとんと受け入れている
「エレオノールとモンモンとヴァレリーさんの協同作品。加工自体はうちの行き付けの宝石職人だ。精霊の涙入りの簡易治療魔石。体調が悪化した時に指輪を付けたまま治癒のルーンを唱えれば、体調を整えてくれるよ。名称は水のクォーツ(水晶)」
そう、指輪の台座の水晶内に精霊の涙が治癒の魔法効果を乗せて封入されている
見た目はありふれたマジックアイテムだが、カトレアにはその心遣いが嬉しかった
「あ…」
モンモランシーが歩み寄って来て話し掛けた
「ミスフォンティーヌ。精霊の涙はまだ有るから大丈夫。気軽に使って下さい」
「有り難うございます」
深々と頭を下げたカトレアはそのまま才人を抱き締めた
カトレアの庇護はゼロ機関で受け入れた
もう、カトレアの瞳に迷いは無い
ずっと自分を見ながら何も言わないルイズに、カトレアはにっこり笑って話し掛けた
「ごめんなさいねルイズ。私、才人殿が居ないと生きていけない立場になっちゃった。だから、貴女の使い魔さんは頂くわね」
「……絶対、ぜぇったい、許しません」
カトレアは嫉妬バリバリのルイズに近寄って抱き締め、耳に囁いた
「皆で好きな人のお嫁さんになりましょ。正妻は譲らないから覚悟しなさい」
ルイズはそんなカトレアを睨み、言い放った
「将来性なら、断然あたしだもん」
「楽しみにしてるわ」
カトレアはにこりとしながら才人の傍に寄って、ゼロ機関の男達に頭を下げた
「皆様、ご迷惑をかけるとは思いますが、メイドと共に宜しくお願いします」
「美人は大歓迎だ。なぁ、皆」
トビが大声で皆を代表して答え、カトレアはにこりと微笑み、双子も同じく頭を下げ、ゼロ機関の陣容が更に強化、ではなく、恐らくは弱点を抱える事になったのだが、それを承知で全員飲んだのだ
「帰るぞ。全員配置につけ」
「「「ウィ」」」
才人の指示に全員持ち場に散り、才人も艦橋に向けて歩き出した

*  *  *


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Last-modified: 2012-08-25 (土) 09:37:06 (4261d)

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