その日、ギーシュからその言葉を聞くまではモンモランシーにとって
平和な一日だった。休み時間ギーシュは一つの方向に眼を向けていた。
その先にいるのはキュルケと話しているモンモランシーである。
ルイズはというとサイトと共にコルベール先生と学院長室に呼ばれて
居なかった。「どうしたんだい、ギーシュ?モンモランシーの顔ばか
りみて…」とマリコルヌが声をかけてきた。[そろそろ、決めるか]と
ギーシュは思い、モンモランシーに声をかけた。
「モンモランシー、ちょっといいかい?」「なに、ギーシュ?」
モンモランシーはすぐに分かった。ギーシュは大事な話をするとき、
いつも改まった口調になるのだ。「大事な話があるから今日の授業
が終わった後、土の塔の屋上に来てくれないか?」と続けた。 
「ええ、分かったわ」それを聞いたキュルケは声を潜めて、「ついに
ギーシュからのプロポーズじゃないの?」といった。「そうかも、
どんな言葉か楽しみだわ!」といった。その後、モンモランシーは
授業の内容が全然頭に入ってこなかった。何故なら心がウキウキし
ていたからだ…。そして放課後、はやる気持ちを抑えながらモンモ
ランシーは土の塔の屋上に向かった。とっておきの香水をつけて。
「ギーシュ、お待たせ!」と声を掛けたらそこにはギーシュはいな
くて、代わりに一学年下のケティがいた。「あら、ケティ。何で貴
方がここにいるの?」とモンモランシーが尋ねるとケティは驚く言
葉をかけた。「ギーシュ様に土の塔の屋上に来てくれと言われたか
ら来たんです」と言ったのだ。「何で…何でなのよ!」と声を張り
あげた瞬間、「モンモランシー、そう言う事なのだよ」と何処にい
たのか、ギーシュが出てきた。「ギーシュ、説明してよ…」と涙を
堪えるモンモランシーを嘲笑うかの様にケティがいい放った。
「ですから、そういう事なんですの…ギーシュ様が世界で一番好き
なのは私だとおっしゃってくださったの…」「ウソ、ウソでしょ?
ギーシュ、ウソだと言って!!」大粒の涙を流すモンモランシーに
対し、ギーシュは冷たい宣告を続けた。「いやモンモランシー、
本当なのだよ。僕はもう君のその焼きもち焼きですぐに水魔法で僕
を痛めつけるだけでなく、惚れ薬を使ってまで僕の心を操ろうとし
た君に命の危機を感じたのさ…。だから明日からは僕とは深い
交流をしないでくれないか?」モンモランシーは泣き叫んだ。
「どうして、どうしてなのよ!サイトの様にルイズにあれだけ
苛められても一緒に居てくれるようにあんたもそうじゃなかっ
たの?」しかし、ギーシュは冷静な声で答えた。
「ああ、確かにサイトはそうだ。しかし、あの二人にあって
僕たちにはないものに気づいたのさ…、それは愛だよ、僕は
本物の愛が欲しいのだよ。ケティは約束してくれた。ずっと僕
を愛してくれると…。だからサヨナラ、モンモランシー…」
 モンモランシーは目の前が真っ暗だった。さっきまでの嬉しい
気持ちが今では絶望に代わっていた。ずっと思っていた相手から
言われた一番聞きたくない言葉、それを聞いてしまった。呆然と
していると勝ち誇った顔のケティがギーシュの腕に手を回して、
「ギーシュ様、用が済んだのなら早く行きましょうよ」と言った。
「ああ、僕の大事なケティ、行こうか」と二人は塔の屋上から楽し
そうに話しながら階段を降りていった。「待って、待ってよ。ギー
シュ!」モンモランシーの叫び声はいつまでも屋上に響いていた…。

 モンモランシーがギーシュから別れを告げられた頃、学院の寮の
サイトとルイズの部屋。いつも二人だけでこの部屋にいるのだが今
日は少し違った。二人の前にはキュルケがいたからだ。急にキュル
ケがやって来て「話したい事がある」と言われたから二人で話を聞
いていたのだ。ついでにお茶を出したシエスタも一緒に。「あのギ
ーシュがついにプロポーズ?アイツがすると思えねぇな…」とサイ
トが言えば、ルイズも「サイトの上を行く浮気性のギーシュが一
人の女の子にプロポーズするとは思えないわね…」と冷めた口調だ。
更にシエスタまで「ですよね…サイトさんに二股かけていたのを暴露
された腹いせに決闘を持ちかけてサイトさんを三日間意識不明にした
人が一人の女性を大事にするとは到底思えません」と三人揃って似た
様な反応を示した。さすが何人ものライバルと取り合いになってもサ
イトを護り抜いたルイズと一番のライバルであったシエスタの意見で
ある。キュルケも黙って頷いて、「私もそう思ったのよ…、でもモン
モランシーがあまりにも嬉しそうでね、つい忠告出来なかったのよ…」
と情けない顔で言った。サイトはキュルケに聞いた。「それで、どうい
う事をギーシュが言うと見てるんだ?微熱のキュルケさん?」「まあ、
私の予想だと今までの関係のままでいこうってなるんじゃないかなと一
応そうなることを祈ってるわ」「一応ってどういう意味よ?」とルイズ
が尋ねるとキュルケは「ギーシュに他に好きな娘が出来て、モンモラン
シーに別れを切り出さないかと言うことよ」と答えた。「まさか!」と
サイトとルイズは言ったがシエスタが「あり得ますねぇ、あのギーシュ
さんの事だから」と言った。 「そう簡単に言うけどな、あのモンモンの
事だから、ショックの剰り、寝こんじまうぞ!」とサイトが言えば、ル
イズが「へまするとサイトがアルビオンで生死不明になった時の私の様に
自殺しかねないわ…」と悲鳴の様な声をあげた。
そんなことを話していると突然ドアがノックされた。「俺が出るよ!」と
サイトがドアを開けるとモンモランシーが眼を真っ赤にして立っていて
「サイト、キュルケ居るかしら?」と聞いてきた。「ああ、いるぜ。どう
せなら部屋に入れよ。シエスタ、お茶を出してあげて」「はい、ただいま」
とシエスタに声を掛けながらモンモランシーを部屋に招き入れる。 
「どうしたのよ?泣いてるだけじゃ分からないわ」と優しく声を掛けるキュ
ルケを二人は尊敬の眼差しで眺めていた。暫く様子を見ていたキュルケは
二人に「ここじゃ話せない様だから今夜、私の部屋でゆっくり話を聞いて
あげるわ」「じゃあ、キュルケ。頼んだ」と二人は見送った。

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