サイトとルイズは屋敷の庭園の池に浮かぶ小舟に二
人で乗っていた。ここはルイズの実家、ヴァリエール
公爵の屋敷の中にある庭園である。何故二人がヴァリ
エール公爵の屋敷に居るかというとドラゴンを倒した 
後、ヴァリエール公爵に屋敷に招かれ、二人の結婚を
認めると言われた後、サイトは暫く朝晩はヴァリエー
ル公爵の騎士団の訓練の相手をし、昼間はカリン夫人
とエレオノールに貴族としてのマナーを徹底的に仕込
まれていたからだ。サイトはくたくただった。何せ、
相手はヴァリエール公爵の屈強な騎士団、アニエスと
徹底的な訓練をしていなければ、デルフ以外の剣では
半殺しにされそうだった。訓練の後には名門貴族らし
い振る舞いを体に叩き込まされていたからだ。ちょっ
とでもダメだとかつて烈風カリンと呼ばれていた夫人
の鉄槌が飛んで来るものだから、サイトは全身傷だら
けである。ルイズが止めに入っても「貴女にふさわし
い男であり、ヴァリエール家の名に恥じないようにす
るためです」と聞く耳も持たない。ヴァリエール公爵
も妻の考えには素直に従うしかないのか普段の威厳が
嘘のようにおとなしい人だった。
しかし、毎日、訓練をしてきた成果か最初は一対一で
も勝つのが大変だったサイトは五人や十人の騎士団員
を木刀で片付けられるようになった。
それを見て感心した騎士団員は「さすが婿殿、ルイズ
お嬢様と旦那様が見初めた騎士だけでいらっしゃる」
とお世辞を言うようになったのだ。するとそれを聞い
ていたヴァリエール公爵の怒鳴り声が聞こえてきた。
「バカ者!!少年一人に五人や十人という大人数でか
かって勝てないのがどこにおる。もっとしっかりと特訓せえい!!」
そんなこんなで二人っきりの時間は中々とれなかった
のだ。だから騎士団は訓練休み、カリン夫人も一息つ
いた今日は久し振りに二人っきりの時間だ。
ルイズは小舟の中でサイトに言った。「サイト、ごめ
んなさい。母様が気合い入れているせいであんたの身
体、傷だらけになっちゃって…」
サイトは返した。「ばーか、あの程度でへこたれるか
よ。好きなお前と結婚出来るんならこれくらい耐えら
れるって」サイトはふと、遠くを見るような目でいっ
た。「そういや、この舟の上だったっけ。初めてお前
に好きだって言ったのは…」
「そうよ、母様とエレオノールお姉様が私を結婚させ
ようとしていて、私がこの舟に隠れていたところにあ
んたが来たのよ」
「あん時、カトレアさんに聞いたら、お前子供の頃か
ら嫌なことがあるとすぐここに隠れていたんだって?」
「うん。よく父様や母様に叱られてここに籠っていた
わ。でも今はこう思う、あの頃サイトに出会っていたら
どうしていたかなって」「俺もよく両親に怒られて公園
のブランコに座って色々と考えていたっけな…」とサイ
トは感慨深げに呟いていたとき、執事が走ってきた。
「ルイズお嬢様、サイト殿。旦那様がお呼びです」
「何かしら?」ルイズが尋ねると執事は「実を言うと明後
日にロマリアでドラゴンに立ち向かわれて命を落とされた
教皇聖下とその部下の勇敢な戦士の方々の追悼ミサを執り
行うとの事で女王陛下を始めとした貴族の方々とロマリア
に向かうことになったのです」と言った。
「俺達も一緒に行くと言うことですか?」サイトが聞くと
「その通りでございます」と返した。着替えを終えた後、
門の前に行くと馬車が三台いた。 
執事がサイトに「旦那様と奥様は先頭の馬車で二台目が
エレオノールお嬢様とカトレアお嬢様、そして三台目が
ルイズお嬢様とサイト殿です」と言った。
「分かりました。ありがとう」とサイトは返した。
さらに馬車の前後には騎士までついた。改めてサイトは
ヴァリエール公爵の実力の凄さを痛感し、気合いを入れ直した。
街道を走り、トリスタニアの王宮に到着するとすでに
大勢の貴族達がいた。サイトとルイズが馬車を降りると
小声で二人の事を話している声が聴こえた。
そこにギーシュがやって来た。「サイトとルイズ、暫く
ぶりだね」「おう、ギーシュ隊長か」するとギーシュは
サイトとルイズに声を潜めて「アンリエッタ様とヴァリ
エール公爵はオストラント号にお乗りになられる。お二
人の警護のため、アニエスの銃士隊と我々オンディーヌ
もオストラント号に乗ることになった」と言った。
サイトはギーシュに言った。
「なんでだ?姫様がお乗りになるのは分かるが…」
ルイズも続けて「父様が乗るって事は私たちもオストラ
ント号に乗るのよね?」とギーシュに言った。
ギーシュはさらに小声で「実を言うとこの貴族連中の中
にヴァリエール公爵やサイトの暗殺を企んでいるのがい
るかもしれんと言う女王陛下のご意見があってな…枢機
卿とアニエス殿が考えた末の結論だそうだ」と答えた。
そして出発時間になり、オストラント号を先頭にトリス
ティンの船は一斉にロマリアに向け、出港した。サイト
とルイズはオストラント号の操舵室にいた。と言っても
二人だけでは無くてキュルケを加えた三人で。
コルベール先生はと言うとアンリエッタとヴァリエール
公爵にオストラント号の内部を案内した後、かつての
教師と生徒と関係だった二人は話が弾んでしまい、部屋
に入ってしまったからだ。そこでオストラント号の操縦
が分かるサイトとキュルケが操舵することになったのだ。
まあ、これもアニエスとマザリーニ枢機卿の 考えた末の
計画の様だが…。「それにしてもルイズのお父様も良くあ
んた達の結婚を認めたもんよね…。私たちもそうだけど、 
大概の貴族達はみんな結婚は有り得ないと言ってるのよ」
とキュルケが言うとルイズは「私もそう思ったわよ。でも
ね、父様の眼は嘘ついて無いわ」とルイズは返した。
すると船内無線が鳴った。ルイズが出るとギーシュの声が
して「やあ、ルイズ。サイトいるかい?」と聞いてきた。
サイトが出ると「もう少し、石炭を加えなきゃ、聖地まで
持たんぞ 」と言ってきたので「もうほとんど燃えちまった
か?」とサイトが聞くと「ああ、釜のなかは空っぽだ」と
言うので、「それならもう少し燃やしてくれ」とサイトはかえした。   
それから数時間後、ロマリアに到着すると船着き場に
ジュリオの姿が見えた。「やあ、サイト君とルイズ」
「おお、ジュリオ。暫くだな」そして船から全ての貴族が
降りた後、ジュリオに案内され、泊まる部屋にはいった。
そして、翌日ロマリアの大聖堂にヴァリエール公爵達と向かうと
そこにはトリスティンだけでなく、各国の王家や貴族達が
勢揃いしていた。「サイト、ボーッとしてないでビシッとして!」
と小声でルイズがサイトに言ってきた。
「こいつら、みんな大物貴族達なのか?」サイトも小声で返すと
ルイズは「ハルケギニア各国の名だたる名門貴族のほとんどが
揃っているわ。中には王家より、権力もっている家もあるから」
と答えたらエレオノールが「あんた達二人は余計に色目で見られ
てるから気を付けなさいよ」と小声で二人に言った。
追悼ミサが始まり、トリスティンを代表してマザリーニ枢機卿が
お悔やみの言葉を皮切りに各国の代表は枢機卿らしく、次々と
お悔やみの言葉を述べた。各国の代表者の挨拶が終わった後は
数人の司教が出てきて出席者全員で両手を組み合わせてお祈り
を捧げた。日本で言えばお葬式が終わった後の行事だなとサイ
トは考えながらふと思った。[そう言えばこの世界で暮らし始め
てもう一年半ぐらいだよな…。日本で俺はどういうあつかいに

てもう一年半ぐらいだよな…。日本で俺の生死はどうなっている
のだろう。ルイズとの仲が決まったら一回実家に帰らねぇとな…」
とサイトは考えていた。
追悼ミサが終わった後、夜遅くのヴァリエール公爵夫妻の寝室。
ヴァリエール公爵の前にはマザリーニ枢機卿が居た。「公爵、
深夜になんの話ですかな?」マザリーニが訪ねるとヴァリエール
公爵は「ルイズとシュヴアリエ・サイトの結婚の話だ。枢機卿
お前も小耳に鋏んでおるだろうから分かると思うが今日のミサに
出ていた大概の連中は信じておらんだろう?」「全くその通りで
す。何しろ6000年の常識を覆す程の大変革ですからな…、ほとん
どの名門は誤報であってくれと願っているはずです」マザリーニ
が答えるとヴァリエール公爵も「私だって、逆の立場ならそう思
うさ…。しかし、ルイズの幸せのためならやらなくてはならない。
それにお前も見てきておるだろう? 貴族格差のせいで泣く泣く別
れた沢山のカップル達を…。ルイズにはそんな想いをさせたくない
のでな…」とヴァリエール公爵は一度言葉を止めたらマザリーニが
「そうですな、それにシュヴアリエとは言えサイト殿は世界を救っ
た英雄です。申し分のない相手ですぞ」と返した。
「そこでだな、明日ホテル・ニューロマリアのブリミルホールを
一日貸しきりにして、そこでいきなり発表しようと思うのだ」
「いいアィデイアですな、奴ら腰を抜かしますぞ」マザリーニが
返すと「もう、数日前から決めておったのだよ」とかえした。
翌日、サイトとルイズは朝早くからヴァリエール公爵の部屋で
衣装合わせをしていた。サイトはふだん通りの格好で舞踊会に
出るつもりだったのだが、「正装で出ろとの公爵のお指示です」
と言われたのだ。部屋に行くとどうやって持ってきたのかサイ
トに合うサイズだけが取り揃えられていてエレオノールとカリン
夫人が「あーだ、こーだ」とシエスタに指示をだす。結局半日
がかりで舞踊会でサイトの着る衣装は決まったのだった。
ルイズもカトレアが仕立てた衣装で出ることになった。
舞踊会が始まるとギーシュを始めとした全員が二人の側に
やって来た。「サイトとルイズ、二人揃って正装じゃないか」
「ああ、突然部屋に呼ばれてな、エレオノールさんに公爵から
あんたとルイズは正装で出ろと言われたからこの格好さ…」と
サイトは答えるとルイズも「私もいつものドレスでいいのにちい
ねえ様にこれを着て出なさいと言われたのよ」と続けた。 
暫くパーティーは何事も無く進んでいたが突然「ラ・ヴァリエー
ル公爵のおなーり」と従者の声が聞こえたと思ったらステージの
上にヴァリエール公爵が立った。「ルイズ、それにサイト・シュ
ヴアリエ・ド・ヒラガこっちに来なさい」と二人を呼んだ。
二人は顔を見合わせてからステージに上がると公爵は「本日は私
が主催した舞踊会にご参加頂き誠にありがとうございます」と挨
拶をしたあと、驚く言葉を言った。
「やっと我がヴァリエール家から花嫁が出ることになりました。
 皆さんもご存知だと思いますが我が三女ルイズと世界を救った
英雄サイト・シュヴアリエ・ド・ヒラガの結婚が決まりました
のでこの場を借りて報告させて頂きます」と言ったのだ。 
一瞬、静まり返った後、「公爵、本気ですか?」とか「ハルケ
ギニア6000年の歴史が変わった」「大改革だ!」で舞踊会の中は
大騒ぎになった。二人の側にギーシュ達が来て「サイト!おめで
とう!」とか「ルイズ、あんたすごいわよ!!」「サイト副隊長
万歳!!」「ルイズ、お幸せに!!」と声をかけてきた。
しかし、サイトとルイズは驚きのあまり、混乱していた。
「これって夢じゃないよな、ルイズ」
「あんたもそう思う?」
すると驚きのあまり、カリン夫人は倒れて気絶してしまった。
そんな大騒ぎとなった翌日からハルケギニア中で多くのカップ
ル達が親に「あのヴァリエール公爵も愛が一番大事だと言った」
と結婚を認めさせ、ゴールインを決めた
サイトとルイズのお互いに対する思いの強さとヴァリエール公爵
の英断により、ハルケギニア6000年の歴史が大きく変わった。
この伝説はいつまでもハルケギニアで語り継がれたそうな。

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