サイトは夢を見ていた。四方八方が霧に覆われ、自
分はそこを当ても無く、歩き回っていた。『何処なん
だ、ここは』思ったが声がでない。それと同時に自分
は何故ここにいるのかと自問自答していた。暫くそう
していると「サイト、眼を覚まして…」とか「サイト
さん、あんまりですよ。ミス・ヴァリエールを選ぶだ
け選んで私達を振らずに死ぬなんて…」という声とう
っすらと入る光に気付いた。目を開けるとルイズやシ
エスタだけでなく、ギーシュやモンモン、それにテフ
ァ達の顔が見えた。なぜかみんな泣きそうな顔でサイ
トの顔をのぞきこんでいた。
「どうしたんだ。みんなそんな顔して」とサイトが呟
くとルイズが泣きながらサイトの胸を叩いていった。
「バカ!!死んだと思ったじゃないの!!プロポ
ーズしてくれたかと思ったらいきなり倒れちゃって
動かないんだから!!」といった。
しかし、サイトにはなんのことかわからない。
「プロポーズ?いつしたんだよ。そんなことより、
ドラゴンはどうなった?さっさと、教皇とデルフの
仇討ちしねえと!」するとギーシュが「もう終わった
よ。ドラゴンは君とルイズで倒したから」といった。
でもサイトには記憶がない。「いつだ。何日前だ?」
今度はコルベール先生がいった。「3日前だよ、サイ
トくん。それでは君はなにも覚えてないんだね?」
サイトは黙って頷き、「俺、デルフが壊れた後からな
にも覚えてないんです。今までどこに居たのか全く」
するとそれまで黙っていたシエスタが口を開いた。
「デルフさんが壊れた後、サイトさんはガリアに帰っ
て来て〔戦闘機〕があればドラゴンなんて倒せると言
っていたのを聞いていたミス・ヴァリエールが〔戦闘
機〕を取りに行きましょうと嘘をついて【世界扉】で
サイトさんを送り返したんです。サイトさんのいるべ
き世界に」といった。
「でも俺はここにいるぞ」
今度はテファが「サイトさんは太陽から飛び出してき
たんです。そして、ルイズさんのエクスプロージョン
をリーヴスラシルの力で増幅させてドラゴンを倒して
ルイズさんにプロポーズした後、今までずっと眠って
たんです」といった。さらにモンモンが続けて「私の
作った薬を飲ませたけどぜんぜん効果が無くてみんな
であれだこれだと大騒ぎだったのよ」と言った。
「そうなのか、でも全然何一つ覚えてないんだ」
「しかし、何でその周辺の記憶がないのかな?」とコ
ルベールが首を傾げた時、「原因がわかりました」と
声が聞こえ、アンリエッタがジュリオとタバサと一緒
に入って来た。「姫様!それにジュリオとタバサ!ど
うしたんです?」とルイズが尋ねた。アンリエッタと
タバサはサイトに「サイトさん、目を覚ましたのです
ね、良かったわ」と言った。
「でも俺、デルフが壊れたあとの事を覚えてないんで
す、本当にドラゴンは倒せたんですよね?」」
「うん、サイトとルイズがドラゴンを倒した後、サイ
トは意識不明になったからロマリアから取り寄せた秘
薬を飲む事でなんとか一命をとりとめたの」
「でも伝説じゃ、リーヴスラシルの力を使い果たせば
死ぬと云われてたのに何故俺は助かったんですか?」
「それを今からジュリオさんが説明します」
「それはガンダールヴのお陰だよ、きっと」
「ジュリオ!!ごめんな、教皇のこと」
「いいんだよ。サイトくん、君が生き延びてくれて
良かった、それだけが救いさ」
ルイズがジュリオに聞いた。「でもガンダールヴの
お陰ってどういうことなの?ジュリオ」
ジュリオは静かな口調ながらはっきりと語りだした。
「サイトくんが意識を失ったあと、ロマリアの古文書
をオスマン学院長と二人で読んだらこう書いてあった
のさ。6000年前のリーヴスラシルは二人いたそうだ
よ、一人目が途中で死んでしまい、二人目はガンダー
ルヴがリーヴスラシルの力も持って世界の危機を救っ
たそうだよ。さらにシャルロット女王からガリア王家
に伝わるという古文書を見せてもらい読んでみるとそ
こにはにはその際、リーヴスラシルはとても強い力を
一気に使ったから、ガンダールヴが自分の命を守ろう
としたのか自分の記憶に使う力を生命に回して、助か
った代わりに世界を救えたという記憶が無かったとい
う事が書いてあったのさ。それらの古文書に書いてあ
ることを照らし合わせて出た答えはガンダールヴは一
命をとりとめた代わりに前後数日間の記憶が抜けてし
まったという事さ」といった。
聞いていたキュルケがジュリオに聞いた。「それじゃ
6000年前と同じことがおきたことによって、サイト
は助かったということになるのかしら、ジュリオ?」
「その可能性が高いね。そうでないとしたら、サイト
くんとルイズの互いの絆が強かったから起きた奇跡と
しかいえないよ、どう考えても」
するとシエスタが突然、「サイトさん、ミス・ヴァリ
エールにちゃんとプロポーズし直しません?」
と言い出した。
「え〜!!恥ずかしいよ」
「シエスタ、いいアイディアね!私、返事してないし、
サイトが覚えてないんじゃ意味ないもん!」
「分かったよ、ルイズ!使い魔の俺だけど、世界で一番大好きだから結婚してくれ!」
「いいけど、浮気したら許さないんだから!!サイト、私のこと幸せにしてね」
翌日、サイトは胸のあたりの重さで目が覚ました。
見てみると自分の胸を枕にしてルイズが寝ていた。
そして、寝言で何度も呟くのはサイトの名前。
「サイトォ、死んじゃダメェ・・・」
サイトはルイズの頭をそっとなでる。
すると目を覚まして笑顔で「サイト、おはよう!」といってきた。
「目が覚めたか?ルイズ」頷くルイズ。
するとドアが突然開いて血相を変えたシエスタが飛び込んできた。
「サ、サイトさん、ミス・ヴァリエール。大変です!!」
「どうしたんだよ、シエスタ?こんな朝早くからそんなに慌てて?」 
しかし、シエスタはサイトの言葉が聞こえてないのか早口で
「ミス・ヴァリエールのお姉様がいらしたんです!!」といった。
「はぁ、ルイズの婚約者を決めたから実家にこいかな。やっぱり、
世の中甘くないな・・・」するとルイズはシエスタにむかって
「もしもの時はサイトと結婚してあげてね」
「ミス・ヴァリエール・・・」シエスタは複雑な心境だった。
出来れば二人に幸せになってほしい。
二人の気持ちが一番分かるのは自分だから・・・
でも二人の間をヴァリエール家が許すかどうかわからないこの状況では
頷くしかない。「分かりましたわ、ミス・ヴァリエール」といった途端に
「ルイズ、ちびルイズ!」と口調は普段どおりだが、
眠そうな声のエレオノールがはいってきた。
「エ、エレオノールお姉様!どうしたの、こんな朝早く?」
顔色を変えて叫ぶルイズ。
するとエレオノールは三人にむかって予想外のことをいった。
「お父様があなたたちに話があるから迎えに行ってこいって
言われたから来たのよ。いうことがわかったらさっさと
着替えなさい。聞いてるの?ちびルイズ!」
サイトとシエスタは顔を見合わせた。「夢じゃないよな。これ」
「ええ、現実のことですわ」
エレオノールはサイトにむかって
「あんたもぼさっとしてないで、シュヴァリエのマントをつける!」
「は、はい!」どたばたと準備を終えると四人は馬車に向かい、歩きだした。
すると途中で会った、モンモンとテファとキュルケが
「こんな朝早くから何処へ行くの?」と聞いてきたので、
ルイズが「実家に行ってくるのよ」と答えた。
シエスタに見送られて動きだした馬車の中でルイズはエレオノールにいった。
「父様ったら私に婿をとれっていうのかしら」するとエレオノールは
「父様ったら急に名門貴族から婿を取らないといいだしてね、(ルイズに
一番あってるのは、使い魔兼オンディーヌ副隊長のシュヴァリエ・サイトだ!)
といって、私と母様が(ヴァリエール家が平貴族を婿にするなんて前代未聞よ!)と
いったけど、聞く耳もたずで(エレオノール、今すぐ学院に二人を
迎えに行ってこい!)って怒鳴られたから来たのよ、お陰で寝不足だけどね」
と欠伸を噛み殺しながらいった。
それはサイトたちも一緒ということで、三人とも寝てしまった。
馬車は、猛スビードで街道を一気に走り抜け、昼過ぎにはヴァリエール家に到着した。
馬車を降りた途端にヴァリエール公爵は、ニコニコ顔で
「ルイズ、婿殿、待ってたぞ!」といった。
サイトは思わず確認した。「本当に俺なんかでいいんですか?
貴族のルールもなにも知らないのに・・・」すると公爵は、
「いや、その謙虚さと、勇気の大きさを私は気に入ったのだよ、
名門の子弟達は揃いも揃ってルイズを幸せにすることより、
我がヴァリエール家と親戚になり、この国の利権を持とうと
いう気持ちしかないのだし、ワルドの様に恩を仇で返すやつもいたからなっ!!」
サイトは思い出した。ギーシュが前に言っていたことを…。
そこにカトレアが出てきて、「ルイズ、良かったじゃない!」と言っていた。
しかし、エレオノールとカリン夫人がサイトに対し、「あなた、ルイズを
泣かしたりしたらヴァリエール家の伝統の魔法で命がないと思いなさい」と
睨み付けられ、サイトはすくみ上がっていたのだった…。サイトは考えた。
「ルイズの家やこの世界の常識で言えば、あり得ないことを俺は実現させち
まったんだからこれくらいの風はしょうがねえなあ〜」
そして、夕食を終えた後、サイトとルイズは寝室にいた。
ルイズはサイトに聞いた。「サイト、元の世界に帰る気あるの?」
サイトは一瞬で答えた。「帰る気なんかないよ。ルイズと居られるんなら・・・
それに嬉しかった。やっとみんなに認められたんだと想って」
「でも元の世界に未練は無いの?」
「なあ、ルイズ。(世界扉)ってまた使えるんだろう?だったらそれでたまに帰れ
ばいいという気持ちなんだ。元の世界に帰れる嬉しさより、ルイズと離ればなれに
なるほうがよっぽどつらいから・・・」
「サイト・・・」
「ルイズ・・・」
唇を合わせる二人…。やっとお互いの気持ちが素直になれた瞬間だった。
しかし、この頃、学院では大騒動がおきているのであった…。


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