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『ギーシュ・ド・グラモンの最後』 後編
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(しまったぁぁぁぁぁっ)
頭からシャワーを浴びながら、モンモランシーは冷静になり始めた頭を抱えた。
建材を利用してのゴーレムの創造等という大技の為に、ギーシュとモンモランシーは即座に聖堂騎士たちに囲まれたが、
同時に駆けつけたサイトや水精霊騎士隊、そして聖女と呼ばれるルイズとティファニアのお陰も有って、カルロの行動はあっさりと明るみに出た。
……それは良いのだ。
別に。
ただ……
攫われて監禁されていたモンモランシーに、ルイズ達は声を掛けた。
『今日はわたし達と休む?』
二人にしたら当然の提案だったのだろう。
今から宿を探す時間もないし、なにより安全を確保できる。
が、モンモランシーは無言のまま首を振り断った。
(うあぁぁぁぁぁっ)
思い出したくないのに、自動的に脳内で自分の声が再生される。
『ギーシュから離れるのやだぁっ!』
(し……死にたい……)
あの場には、水精霊騎士の主だった面々が揃っていたし、聖女二人どころか……
(陛下までいらっしゃった様な……)
そんな人たちに囲まれたまま、モンモランシーは必死にギーシュにしがみつき、離されるように掴まっていたのだ。
引き離されるのが怖くて、かたかたと震えながらギーシュの腕の中に居ると、
ギーシュがふわりと自分のマントをモンモランシーに羽織らせて、何も言わずに自分の部屋に連れ込んだのだ。
(あ、あ、あ、明日っからどんな顔してみんなの前に出ればっ……)
今にして思うと、なんだか皆、妙に祝福する表情で二人を見ていた気がするが、あの時は、そんな皆の表情もなんだか嬉しくて、掴まったままのギーシュにもっとぴったりと身体を押し付けてしまった……
……後ろから見ていた皆には、二人がどう見えただろう?
そう考えるだけで顔から火が出そうになり、温めにしたシャワーが気持ち良い。
正気に返ったのは、ついほんのさっき。
そして、今モンモランシーが最も悩んでいることは、
『シャワー浴びたい』
ギーシュの部屋に着いた時に、最初に切り出した言葉。
あの男に触られたところを一刻も早く洗いたかったのだが……
――二人きりで部屋に着いて、シャワーを浴び始める女に、ギーシュはどんな期待をするだろうか?
(っっっきゃぁぁぁぁぁぁっ!)
モンモランシーの悩みは尽きない。
触られたところを中心に、モンモランシーは念入りに身体を洗う……が、
この状況で『念入りに身体を洗う』事が、何かを『期待』してる様で、またも彼女をフリーズさせる。
(違うのよ、ちがうのよ、チガウノヨ、チガウノヨ、……)
湯に浸かっている訳でもないのに、真っ赤に茹で上がりながら身体を磨くモンモランシーは、ふと気づいた事実に慌てて浴室から出る支度を始めた。
この状況でギーシュが中の様子を覗くとは思わないから、ギーシュにとってモンモランシーがお風呂で何をしているのかは時間で判断するしかない。
つまり、あまり時間を掛けると、『念入りに身体を磨いている』事がばれてしまうのだ。
(で、出なきゃ、早く出なきゃ……)
一通り良く室内を片付けたモンモランシーは、そのまま外に……
出る寸前で、もう一度シャワーの前に引き返す。
(……も、もう一回だけ身体洗お……)
――彼女が部屋に戻ったのは、3回ほど身体を洗った後になった。
「お、お先に……」
「う……うん」
ギーシュの部屋に女物の服の用意等有る筈も無く……もっともそんな物が有ったら、モンモランシーはそのままルイズの部屋に泊まることに成ったかも知れないが。
ギーシュに用意できたのは、洗濯した所の自分の下着と制服のシャツ……それに念の為パンツも置いてあった。
モンモランシーは延々悩んだ末に、ワイシャツだけ着て部屋に戻った。
男の子のパンツを穿いている所をギーシュに見られるのは避けたかったし、ワイシャツの丈なら、十分に隠れる……と、歩き始めるまではそう見えたのだ。
「モモモモモ、モンモランシー、そのっ、刺激的な格好だね」
シャツの裾が翻るたびに、ギーシュの視線が不自然に踊っていた。
「そ、そう? だって、着る物他に無かったし」
気まずい空気が数秒流れた後、ギクシャクとギーシュは立ち上がり、
「僕も、シャワーを浴びさせてもらうよ、少々汗をかいてしまってね」
棒読みの台詞の様な言葉に続き、ギーシュが不自然な挙動で浴室に向かう。
……ギーシュの背中を見送りながら、寂しくなったモンモランシーは、ぽつりと呟いた。
「早く、帰ってきてね?」
ドアの向こうでギーシュがこけた。
けたたましい音を立てている脱衣所の方を見るとはなしに見ながら、モンモランシーはベットに倒れこんだ。
疲れていた体と心は、それだけで安らぎを感じ強制的にモンモランシーを眠らせようとしたが、
彼が帰ってきたときに、部屋で一人寝こけている女には成りたくないモンモランシーは、必死でそれに抵抗しながら、
(……ギーシュの……匂い……だ……)
枕に顔を埋めたまま深呼吸した。
そして、自分が何をしたのかを自覚して飛び起きた。
(ル、ルイズがうつったぁぁぁ、へ、変態になっちゃった!?)
ばたばたとベットから飛び降りながら、危険この上ない場所を見つめた。
ギーシュの匂いに包まれているだけで、頭の奥がぼーっとして……
(だ、だめよ……あそこは危険すぎるっ)
眠っているのなら、まだ良かった。
もし……もしも、だ。
(ギーシュが帰ってきたときに、『準備OK!』とかって、わたしどんな女の子なのよっ)
年中女の子を追っかけてるギーシュでも引く。
絶対、引く。
(って、この部屋、どこもかしこもギーシュの部屋だぁぁぁぁっ)
見覚えのある服がかかっていたり、自分のプレゼントがそこかしこで使われていた。
何より嬉しかったのは、サイドテーブルに載った自分の肖像。
(ひ、卑怯だぁ……)
冬眠前の熊のように部屋をうろついていたモンモランシーは、ぺたりと床の上に座り込む。
ここは危険だ。
ここに居るだけで、自分はギーシュに一切の抵抗が出来なくなる。
(うー、どうしてくれよう……あれ?)
ふかふかの絨毯の上でごろごろと転がっていたモンモランシーの視界の端に、何かが映った。
(? 靴下?)
ベットの下に丸められたソレが、ちゃんと自分が知っている男の子の名残のようで側まで寄って拾い上げてみた。
(……な……に? これ……)
ソレは、体力の限界も、日頃のペースも、一切無視して動き回った結果。
足の裏の皮がめくれても、血が溢れても走り回った結果。
――じったりと血を吸って重くなった靴下を見つめたまま、モンモランシーは泣きそうに成っていた。
(し、しみるぅぅぅぅ、死ぬ、死んでしまうぅぅ)
シャワーを浴びながら、ギーシュは一人悶えていた。
魔法で治すのは自信が無かったし、なによりモンモランシーの耳に詠唱が届くのを恐れたギーシュによる、男の子の必殺奥義『やせ我慢』
部屋に入った直後の呆然としていたモンモランシーに気づかれなかったのを幸いと、ギーシュは血が固まって脱ぐだけで再出血する靴下を剥がし、
新しい靴下に履き替えた上で、脱衣所に向かっていた。
(せ、石鹸を使ったら、死んでしまうかもしれない……)
お湯に当たっただけでこの激痛である。
石鹸水だとどうなるだろうか?
だが……
(き、貴族として、紳士として……身体も洗わず、モンモランシーの所に帰れないっ!)
斜め上を見上げながら、男泣きに泣いたギーシュは、覚悟を決めてタオルの上に石鹸を乗せた。
「ギーシュ?」
「ひゃ、ひゃいっ!?」
不意を付かれたギーシュは、妙な声で返事をしてから、すり硝子の向こうに見えるモンモランシーに返事をした。
「ど、どうかしたのかい? モンモランシー?」
硝子の向こうに見える、モザイクの様な肌色にギーシュは先の彼女の姿を思い出して、真っ赤に成って俯いた。
(同じ石鹸のはずだよなぁ)
自分がいつも使っている石鹸の匂いとは絶対違った。
なんだかすごく良い匂いで、足の痛みが無かったらその場で襲い掛かっていたかもしれなかった。
「……わたしの杖……知らない?」
硝子の向こうの肌色が、ゆらゆらと誘うように揺れる。
「あ、あぁ、君がシャワーを浴びている間に届いたよ、机の上に置いてある」
あんな怖い目にあった後だから、手元に武器が無いと不安なんだろうなぁ……
そう考えたギーシュは切なくなった。
(け、警戒されてる……)
良い雰囲気だと思ったけど、今日もまた、手は出せないようです。
始祖のこんじょーわる
ギーシュはしくしく泣きながら、身体を洗う覚悟を決めていたが、
そんなギーシュの背後で、すり硝子に映る肌色の範囲が大きく広がっていた。
「ギーシュ」
「ん? なんだい? モンモランシー」
泡立てたタオルを見ながら、ギーシュは返事をする。
悲鳴を上げてしまう可能性を考えて、彼女が立ち去ってから身体を洗い始めよう。
そう考えていたギーシュの目論見は、次の瞬間崩壊した。
「入るわよ?」
「……ふぇ? って、きゃぁぁぁぁぁ」
ギーシュは悲鳴を上げながら、浴室の一番奥……といってもそんなに距離を取れるわけではなかったけれど。
まで、逃げた。
身体を洗うつもりだったタオルは、パンツの代わりにクラスチェンジした。
「なななななぁっ」
仰向けのまま四つんばいという、いささか器用な体勢で壁際まで逃げたギーシュの足の裏は入り口のほうを向いていて、
バスタオル一枚で浴室に踏み込んだモンモランシーには、真っ赤な傷口がしっかり見えていた。
「ばか」
つかつかとギーシュに近寄ったモンモランシーは、そっとその場に座り込んだ。
胸のやや上めで固定されたバスタオルは、しっかりと胸を覆っていたがその代償に太ももは、ちょっぴりサービス大目だった。
「ちょっ、ご、ごめん、モンモランシー……その、しんぱ、うひゃぁっ」
モンモランシーはギーシュの足を手に取ると、傷口を見つめる。
足を取られたギーシュは、浴室の床から天井を見つめることになった。
……つまり、視点がとても低くなり……モンモランシーのタオルが非常に気になった。
そうなると、彼の分身は巨大化し始めるが……この体勢では、モンモランシーに丸見えだ。
(み、みちゃらめぇっ)
アワアワのタオルをしっかりと股間に押し付けながら、ギーシュは必死で関係のないことを考えようと……
「……なんで……こんなに成るまで……」
小さな小さな声が響いたその後に、ギーシュの視界は真っ白になった。
「んっ……」
モンモランシーの舌が、ギーシュの足の裏に触れていた。
前もって何らかの魔法を使っていたらしく、痛みはまったく無かったが。
「ちょっ、まって……モンモランシー、だめだ、そ、そこはちょっと……」
「……知ってる魔法の中で、これが一番痛くないの……」
口論する気は無いとばかりに、続きを始めるモンモランシーの恐る恐る当たる舌は、ギーシュに意味のあることは一切しゃべらせないほどの快感を与え始めた。
傷の治る気持ち良さや、痛みの引く安堵だけなら、ギーシュはまだ抵抗出来たろうが。
力ずくで逃げ出そうにも、足の先にあるのはモンモランシーの顔で、無理に抵抗すれば彼女の顔を蹴ってしまうかも知れなかった。
背中には壁。
逃げ道も無いギーシュは、されるが侭に成るのみだった。
与えられる刺激はあくまでもソフトだが、行動の自由が無い状況下ではもどかしさが感覚を増幅させる。
爪先から踵に向かい、また爪先に戻る舌先は、触れるか触れないかの距離でギーシュに魔力を送り込み続ける。
僅かな範囲しか触れていないため、何度も何度も往復することで、徐々にその治癒範囲を増やしていくが、
ギーシュにとっては身動き出来ないままに弄られているに等しかった。
「まって……モンモラ……ンシ……ちょっ……ふあっ……」
小さく開かれた唇の中に、ギーシュの親指が隠されて温かい口の中で何度も舌が踊る。
血の味が感じられなくなるまで繰り返したモンモランシーは、ギーシュが一息つくよりも先に人差し指に。
「っ! って、モンモ……休ませ……っ……」
舌を這わせるより、確実に治癒が確認できる事に気付いたモンモランシーが、愛しそうに口付け、丹念にギーシュを狂わせる。
柔らかい唇。
震える舌先。
何も考えられなくなったギーシュは、両手で床を支え喉が枯れるまで叫んだ。
隠すものの無くなったギーシュの股間は、モンモランシーにその興奮を伝え彼女の口撃は、治癒した後もギーシュの気持ち良い所を責め続けた。
肝心なところには指一本触れていないため、ギーシュは達することも無いままに小一時間ほど弄られ続けた。
流石に顎が疲れてしまったモンモランシーが、足を離しても全身の力を振り絞り続けたギーシュはすぐには動けず、
興味深そうに大きくなったギーシュ自身を見つめるモンモランシーをとめる事も出来なかった。
「……モ……ラ…………シー……恥ず……かしぃ……」
ビクビクと脈打つギーシュの分身は、モンモランシーの指先を求めギーシュの意思に反してその手の中に向かって腰を使わせた。
加減の分からないモンモランシーによって、やわやわと包まれるとギーシュの倦怠感は一瞬で晴れた、
ほんの少し強めに触れるだけ、それとも軽く擦るだけ。
それだけで、ギーシュは限界を超えそうだったが。
燻り続けていた彼女に触れたい欲求によって、攻守交替を求めモンモランシーの手首をつかんだ。
「っ……たぃ…………」
(モンモランシ……こんどは僕がっ)
そう伝えるつもりだったギーシュの手の中で、カルロに縛られていたモンモランシーの手首の傷が滑った。
「ご、ごめん」
「……いいわよ……別に、痛くないし」
さっきの悲鳴は、無かった事にするつもりらしい。
正直ギーシュはそのほうが有り難かった。
ギーシュの限界はもうすぐそこで、力ずくで押し倒してでも本懐を遂げたかったが……
「見せて……」
「ん……」
ギーシュの中の『男の子』は、女の子の怪我を放って置く事が出来なかった。
「痕が残るといけない」
そう言って、自分の杖を向けたギーシュの耳に、(残ったら、もう貰ってくれない?)そんな声が小さく届いて、頬を染めながらモンモランシーがさっきまで使っていた魔法を唱える。
「ちょっ、ギーシュ?」
自信は無かったが、思ったより簡単に魔法が成功したギーシュはお返しとばかりに傷跡に沿って舌を這わせた。
「ひぁっ……まって、ギーシュ。これっ、なんか変っ」
「……モンモランシーがしてくれた事だよ」
身体を捩って逃げ出そうとするモンモランシーを、ギーシュは腕力だけで留めると、
自分がそうされたように、治った所でもなんども舐め上げ、舌を這わせる合間にじっと彼女の目を見つめた。
「……こんなに早く治るのに、モンモランシーはあんなに時間を掛けてくれたんだ?」
「ち、ちがっ……なんで? ギーシュ? 貴方こんなに水魔法得意だった?」
両の手首はすっかり完治していたが、ギーシュの舌は手首から肩に向かってにじり進む。
「ひぅ……まって、ギーシュ、そこ怪我してないっ」
「…………」
その場に倒れこんでしまったモンモランシーを逃がさないように注意しながら、ギーシュは純白の肌を味わい続ける。
ついさっきまで、自分がどんな恥ずかしいことをしていたのか思い知らされる形となったモンモランシーは、羞恥に染まりながらもギーシュから距離をとろうとしたが、ギーシュの膝にタオルが踏まれていたため、
絡み合う二人の間で、モンモランシーを守っていた最後の一枚が解けてしまった。
ギーシュの動きが止まった。
「な、に?」
タオルが解けた瞬間、さっきまで有った甘い雰囲気は払拭され、ギーシュの顔に浮かぶ真面目な表情にモンモランシーは怯えた。
無言で身体に乗っていたタオルをむしり取るギーシュに、モンモランシーは抵抗も出来なかった。
(あっ……)
モンモランシーは思い出した。
自分がどうしてタオルを高い位置で留めていたのかを。
――モンモランシーの胸には、カルロが力任せに掴んだ事による痣が浮かんでいた。
爪あとのようなソレは、乳首に向かうように乳房ごとに5本引かれた醜い痕。
(……き、嫌われ……る?)
モンモランシーは恐怖に震える。
天国から地獄に突き落とされたかのように、甘い恋人同士の時が一瞬で終わってしまった。
そう感じていた。
目の前のその痕は、ギーシュ以外の男が触れた証明に他ならず、最後の一線は無事だったとはいえ、ギーシュが……
(し、信じてくれなかった……ら?)
杖を取り戻した時、ギーシュの怪我のことしか考えられなかった自分の愚かさにモンモランシーは泣きたくなった。
――ギーシュは怒っていた。
モンモランシーの考えているような事はまったく無かったが、
彼女がひどい目にあった証は、自分を心配してここまで来てくれたことによってついた痕。
もし、自分の助けがもうほんの少し遅れたらどうなっていたのかを、ギーシュにまざまざと感じさせた。
それは、彼を冷静にさせるには十分すぎる衝撃で。
自分に対する目の眩む様な怒りが、ギーシュの行動を停止させていた。
狂おしいまでに見ることを望んだ胸に刻まれた痣を睨みながら、ギーシュは深呼吸を繰り返す。
それがモンモランシーにどれだけ恐怖を与えているのか知らないままに。
次いで感じたのは絡みつくような感情。
ギーシュが他の娘に声を掛けることで、モンモランシーが嫉妬することは有った。
だが、モンモランシーは本気で怒ってダンスの相手を別に申し込んだにしても、別の相手と付き合い始めるようなことは一度もなかった。
――ギーシュはカルロに嫉妬していた。
大切な大切な相手に自分より先に触れた相手を、今から殺しに行きたいほどに嫉妬していた。
そして、渦巻く殺気はさらにモンモランシーを怯えさせた。
「あ……あの……ギーシュ? あの……あのねっ」
ギーシュは無言のまま、モンモランシーを引き起こすと裸のまま彼女を抱き上げた。
「きゃっ、ギーシュ? ちょっ……まって……ねぇっ、聞いて……きいてよぅ……」
徐々に小さくなっていくモンモランシーの声を聞きながら、ギーシュは自分ではどうにも出来ない苛立ちを感じていた。
モンモランシーを怯えさせているのは分かるのに、自分の中にある独占欲が彼を駆り立てる。
そして、黒々とした独占欲を自覚すればするほどに、ギーシュは自分に対して怒り、モンモランシーを怖がらせる自分に対し、また怒った。
「ちが……の……なにもされてないからっ……、だからっ……」
『嫌いに成らないで』腕の中で泣くモンモランシーを無言のままベットに横たえる。
恐怖と混乱で怯える彼女を安心させたかったが、今口を開くと自分が何をしゃべるのか見当もつかないギーシュは、黙っているしか選択肢がなかった。
二人きりでベットの上に全裸でされるがままに成る、大好きな彼女。
その存在はギーシュに強烈な優越感と占有感をもたらすが……
だからこそ、他の『雄』の痕跡にギーシュの心は狂おしく燃えた。
せめて怒りの理由を隠そうと胸の前で重ねられたモンモランシーの震える腕を、ギーシュは無言のまま力に任せて引き剥がした。
片手一本でのその両手を固定し、ぎらぎらと光る瞳で無言で胸を見詰めた。
ギーシュがいつもモンモランシーに向けていたのは、穏やかな優しい瞳。
モンモランシーが怒っているときも、笑みを崩さないその目が見た事も無い色のまま無言で注がれるモンモランシーの心が少しづつ磨耗を続ける。
攫われ、拘束され、犯される寸前まで追い詰められた彼女の心は、その危機を救ってくれたギーシュに無意識のうちに幼子の様な信頼を寄せていて、
ギーシュの非を考えることを止めていた。
そして、ギーシュと二人きりなのに彼が怒っている以上、悪いのはきっと自分だと愚かな自傷を始める。
彼女に罪はないというのに、攫われてしまった自分が悪いと。
逃げられなかった自分が悪いと。
傷つけられた自分の所為だと。
ぐるぐると、頭の中がそんな考えで一杯になった。
カルロに取り押さえられていた時に遥かに勝る恐怖が、彼女の行動を縛り、掠れて聞こえない声が喉から流れていた。
(ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……)
好きな人に嫌われたかもしれない恐怖が、彼女に心を壊す寸前、
ギーシュはのそりと動き出した。
モンモランシーの腕にかかっていた圧力が消え、ギーシュがその手を開放したのが分かったが、彼女はぴくとも動かなかった。
もし、彼がこのままこの部屋を出て行ったら?
ギーシュが次に帰ってきたときに最初に見るものは、物言わぬ彼女の体だったろう。
そんなところまで追い込まれているモンモランシーの上で、獣が獲物の柔らかい腹部を狙うかのような動きでギーシュの口がモンモランシーに迫る。
喰いちぎられる。
モンモランシーがそんな覚悟を決めてしまうほど、ギーシュの表情は鬼気迫っていた。
反射的に目を瞑り、身体を竦めたモンモランシーの胸に、何か熱いものが押し付けられ胸の曲線に従って先端のほうに向かって走った。
(……っ……ギーシュ?)
驚いて目を開くモンモランシーの目に映るのは、無心に胸を舐め上げるギーシュだった。
「あ……の……?」
「…………………………」
突き出された舌が痣に重ねられ、正確になぞり、もう一度同じ動きが繰り返される。
いつの間にか背中に手が添えられていて、その暖かさにモンモランシーの心がほぐされてゆき、
「ギーシュ?」
その言葉に、ほんの一瞬動きが止まる。
彼女の震えが止まっている事に、ようやく気付いたギーシュはやや乱暴に彼女を引き起こすと、濡れたままだった彼女の体が冷えないように自分ごと布団で覆った。
騎士隊長格の客が泊まる部屋の布団は、魔法でも掛かっているらしく、羽根のように軽く二人を包み込む。
じわりと伝わり始める体温に、モンモランシーの身体が崩れそうになる前に、
ギーシュは彼女の背中にクッションと枕を置くと、もう一度舌を動かし始めた。
「ちょっ……あのっ……ギーシュ?」
ギーシュの行動の理由を尋ね様としたモンモランシーは、下ろした視線の先で自分の痣がかすかに薄くなっているのに気付いた。
「……殺してやればよかった……あの……男っ!」
自分を怒っているわけではなかった事に、気付いたモンモランシーはようやく心に余裕が出来き、
まっすぐにギーシュの顔に目を向けられた。
ギーシュが自分に向けていた怒りはすっかり息を潜め、胸に刻まれた痣を通してその向こうに何かを見ていた。
そして、それは何時もならモンモランシーがギーシュに向ける感情だった。
――妬いてくれたの?
喉まで出掛かった言葉を、モンモランシーは飲み込んだ。
――ギーシュが浮気する理由……分かったかも……
(始めて感じた嫉妬してもらえる優越感に、胸を熱くしていた)
子犬でも抱くみたいに、胸の中にあるギーシュの頭に優しく触れると、たとえようのない幸福が満ちる。
夢中で痣を治癒するギーシュを見ながら、穏やかな気持ちでギーシュの髪を指で梳いた。
「こ、これからはっ、ぼ、僕以外に……見せたり、触らせたりしたら……相手と決闘するからっ」
「…………皆で覗きとかしなかったっけ?」
「……あとで皆殴っとく」
ギーシュはようやくサイトの心境を理解していた。
穏やかな時間がゆっくりと流れたが、5分もするとモンモランシーに次の苦難が訪れた。
(……っ…………ぁ……)
喋る事が出来たのはほんの暫くの間だけで、それからは声が漏れるのを必死に絶え続けることになった。
胸に刻まれた指の痕は、乳首までは届かず外れていたが、その為にギーシュの舌は肝心なところを避けたまま延々と往復を続けた。
胸の周りから始まり、一番敏感なところに向かった真っ直ぐに進む刺激は、肝心なところには近寄りもせずに、また離れた。
(やぁっ…………ギ、ギーシュ……はっ、真面目に治してくれてるのにっ……)
ギーシュの舌が先端に近づいたとき、身体が無意識に捻られそうに成るのを必死に押しとどめる。
舐め上げてくるギーシュの口に、つんと尖り始めた敏感な所を飛び込ませようと胸を押し付けてしまいそうになった。
抱いているギーシュの口を、無理矢理胸に向けそうになった。
寸前で離れていくギーシュの舌に、全身が付いていきそうになった。
(あっ……あぅっ……やあっ…………やだっ……)
いっそ、さっきまでみたいに押さえつけてくれれば良いのに。
全身を強張らせ、与えられる刺激に耐えようとすれば耐えようとするほど、身体は勝手に暴れだしそうになる。
耐えようと刺激に集中することが、更に感覚を鋭敏にしていることに、混乱し始めたモンモランシーは気付けない。
刺激を繰り返された胸の奥がじんわりと熱を帯び、そのまま蕩ける様に身体を滑り堕ちて行く。
トロリと熱い蜜のような塊がお腹の奥で自己主張を始めるころ、
クチと小さな音がモンモランシーの耳に届いた。
ギーシュの舌が胸に当たる音ではなく、もっとずっと下のほうから聞こえてきた音の正体に思い当たった瞬間、
モンモランシーの頭は羞恥で沸騰した。
そして、羞恥は与えられていた快感を数倍に跳ね上げる。
いつの間にかギーシュの頭を支えていた手は、自分の身体を支えるためにシーツに置かれていたが、その手に力が込められギュッとシーツが握りこまれた。
(ダ、ダメッ……こえっ……声……がっ……)
いつの間にか降り始めた甘い嬌声に、ギーシュは自分の行動がどれだけ際どいのか、その時になって理解した。
夢中だったのだ、それまでは。
自分の色欲などより、痣を消すほうが遥かに重要だと感じられていたのだ。
そして、まだ痣が有るうちはそれに集中できた。
殺しているつもりらしい声が、どれほど甘くなろうとも。
自分の拙い舌先で、操られるようにピクンピクンと跳ねる身体も。
離れようとする時に、堪え切れずに加えられた力によって頬に熱く尖った先端がかすろうと。
その時に漏れ出る吐息が、聞いた事が無いほど扇情的でも。
まだ集中することは出来た。
が、実はもうとっくに彼女の胸は純白を取り戻していた。
抜けるような肌も、薄い桜色の突起も、ギーシュが求める理想そのものでそこに有った。
それは、毎夜毎夜狂おしく求めたもので……
その文字通り夢にまで見た光景に、ギーシュは舌を止める事が出来なかった。
そして、とめる機会を逸すると、今更に
『終わった』
その一言は伝えられなくなった。
頭の奥の甘い痺れに押されるように、ギーシュは舌を動かし続けていた。
いつの間にか回りに満ち始めたモンモランシーの牝の香りは、ギーシュの思考能力を容易く全て麻痺させた。
「ひっ……あっ……ぅ……」
ビクンと、目の前で白魚が跳ねた。
支えあうように寄り添っていたはずなのに、気付くとギーシュは覆いかぶさるように胸を貪っていた。
その二人の体重を支えていたモンモランシーの腕が、崩れるように力を失ったのだった。
支えを失ったギーシュは、飛び込むようにモンモランシーの胸に顔を押し付ける。
埋まるほどの大きさではない。
周りを見回せば、幾らでも大きい胸はある。
が、浅い谷間の底でギーシュはこの上ない幸せに包まれた。
押し付けられる間際に、ギーシュの頬を熱い塊が通っていった。
「ひぁっ……」
僅かに与えられた、望んでいた刺激にモンモランシーの思考は閉じかけたが、自分の脱力の結果胸に押し付けられたギーシュの頭に、思わず謝っていた。
「ご、ごめんな……さひっ……」
クッションと背中の間でギーシュの指が蠢く度に、体温が上がっていく。
快感で繊細な行動を放棄し始めた言語中枢は、彼女の理性の残り少なさを物語っていた。
――このままだと、おかしくなっちゃう。
その思いが、彼女に問いを紡がせる。
「治っ……た?」
ギーシュと一つになりたい。
女の子からそんなことを言い出せるはずも無く、治療さえ終わればギーシュが続きをしてくれる。
そんな期待を含んだ問いに、ギーシュの一言は短く無常に告げられる。
「……まだ」
――もう終わり。
そう告げることが、この行為の終わりを意味する。
そんな錯覚にとらわれているギーシュにとって、『治った』等とは口が裂けても言えなかった。
甘い香りの立ち込める中で息を整えようとするギーシュだったが、呼吸すればするほどに甘い香りが彼の魂を縛った。
肺からだけではなく、まるで素肌からも透って来ていると錯覚しそうなほどに甘い香りはギーシュは魅了されていた。
堪えきれない衝動に押されるようにもう一度モンモランシーの胸に舌を這わせるギーシュ首元を、何か暖かいものが包み込んだ。
ほんの少しでも接触面積を増やそうと、無意識のうちに首元に回されたモンモランシーの腕は、
燃えるように熱く、しっとりと汗に濡れた肌は艶に満ちていた。
何時の間にかカラカラに乾き始めた喉を、胸元の汗で潤そうとしているかのように、
ギーシュはもう一度動き始めた。
何時まで続ける。
そんな展望は微塵も無いギーシュは、何時まででもこの行為を続けるつもりだった。
痛いほど膨れ上がった自分は、次に進みたがっていたが、未知への好奇心よりも今そこにある快感に抗えなかった。
繰り返し繰り返し、貪っているギーシュに、お気に入りの角度が出来始める。
下乳の陰りからゆっくり上がるように舌を這わせる。
右も左もモンモランシーの熱を感じながら、視界に侵入する乳首を観察する。
筋肉が有る訳ではないのに、ピクピクと震え続ける先端突起に軽く息が掛かったときのモンモランシーの狼狽も好きだ。
彼女は気付いていない。
もうかなり前から声が溢れていることを。
「ひあっ、いやぁっ……、……っあああああ」
首に回されていた腕に、ぎゅっと力が入る。
ふるふると何かを否定するかのように、首が必死で振られていてその振動がどこに触っても気持ちよくなり始めたお互いを狂わせる。
(はぁっ……はぁっ……はぁっ……はぁっ……はぁっ……)
荒い息をつきながら、ギーシュがまた胸の下に潜り込もうとすると足元に何か違和感があった。
ギーシュの太腿になにか軽いものが乗った。
モンモランシーの足首だ。
そう悟った頃には、こすり合わせるように白い脚が絡み付いてきていた。
(うぁっ……)
柔らかな太腿が、ギーシュのお腹に当たりお尻のほうに向かって脚がぴったりと絡みついた。
思わずモンモランシーを見上げるが、無意識の行動らしく朦朧とした目でうっとりギーシュを見つめるだけだった。
快感への予感に震えながら、ギーシュが姿勢を低くするとギーシュの身体に、何か熱く湿ったものが当たった。
――部屋にモンモランシーの悲鳴が響く。
やっと触ってくれた!
望んでいた箇所への刺激に、モンモランシーは必死でギーシュにしがみ付いた。
だんだん開いていったとはいえ、片足が絡むまではギーシュは跨る様にモンモランシーに触れていた。
だが、片足が背中に回った今、ギーシュは彼女の足の間に入り、
結果として限界まで熱くなった箇所に無造作に触れてしまった。
首元で彷徨っていた腕は、ギーシュの頭を胸に押し付け、
弾かれた様に絡みついた両脚は、その中心でギーシュに火を点ける。
本能に導かれるままに、ギーシュはじっとモンモランシーを見つめる。
自分からギーシュに抱きつき、大切な所を押し付けている事に気付いたモンモランシーは、
もうこれ以上は無いだろうと思われていた体温を更に上げ、染まった頬をギーシュの視界から逃がそうとした。
しかし……その身体はギーシュから離れようとせず、更にそれが羞恥をあおり……
全ての仕草が、ギーシュに点いた火に油を注ぎ……
――そしてギーシュは獣になった。
モンモランシーの手に逆らわないようにするだけで、ギーシュの唇は一番感じるところへと運ばれる。
微かにかかる吐息で、腕の中のモンモランシーが悶え始めるのにギーシュの体温が上がった。
唇を軽くあて乳児の様に吸いたてると、悲鳴の様な声と共にギーシュの頭を抱きしめてきた。
ギーシュは舌先に感じられる乳首を、口の中の捉えたまま弄り、小さく吸い、舌先で押しつぶし、悲鳴を上げるまで吸い上げた。。
加減が分からないギーシュの愛撫は、軽い痛みを伴ったがそれすらも、モンモランシーは快感と捉え始めていた。
ギーシュを捕らえていたモンモランシーの手足が、ギーシュの動きを邪魔しないように僅かに緩む。
ギーシュが身体を離せるほどではないが、ギーシュの行動を妨げるほどではない。
そんな絶妙の距離を、モンモランシーの本能が探り当てた。
密着したままだと背中に回されるだけだったギーシュの指が、空いている乳首に向かうのを二人は黙って見つめていた。
触れられると、自分がどんな反応をしてしまうか分からないモンモランシーも、
見ることすら禁忌だった箇所を、吸いながら触れることを許されたギーシュも、
黙ってそれを見つめていた。
人差し指が触れるか触れないかの位置に来たとき、胸に密着していたギーシュは早鐘のような心音に気付いた。
自分のそれも、決して負けないスピードで打っている。
頬には柔らかいおっぱい。
唇に乳首。
そして舌より遥かに思うままに動く指が、つ、と乳首に触れる。
背中に回された腕が、期待と興奮でもじもじと動くのがかわいらしかったが、
ギーシュは興味を優先させ、それ自身の硬度で乳首を乳房に向けて押し込んだ。
硬さと柔らかさを同時に味わおう。
その程度のつもりだったが、限界まで感度が上昇した乳首を自身の柔らかい胸で受け止めることを強制されたモンモランシーはそれ所ではなかった。
先端を弄られる鋭い感覚と、胸に対する柔らかなタッチ。
そんなふたつの始めてを同時に受けたモンモランシーのもぞもぞと暴れ始める身体を、ギーシュはしっかり味わった。
不規則に彼女に訪れる痙攣の、小さな波をいくつか越し、最後に来た大きな波の後ぐったりと動かなくなったモンモランシーを見ると、
ギーシュはそっと自分の身体を起こした。
薄明るいランプの光で、うっとりと脱力した恋人を心行くまで観察する。
が、観察の時間はそう長く取れなかった。
(い、いよいよ……)
一刻も早く繋がりたいと、ギーシュの下半身が暴れ始めていた。
脱力仕切ったモンモランシーの脚を開き、
初めて興味を持ったときから、ずっと気になっていた隙間に指を当ててみた。
長時間繰り返された愛撫で十分に準備されたそこは、ギーシュの指を待ち構えていたかのように飲み込むと、
愛液を絡め奥へ奥へと飲み込もうと、熱くなった肉が蠢いた。
もしこの指が、アレだったら?
ギーシュは接合部を見ながら、血走った目で想像した。
いつのまにか息を潜め、ゆっくりと出し入れを繰り返しながら膣の感触を確かめる。
いよいよ事に及ぶために、中の形を確かめようと押し付けるようにグルリと指を回す。
それまでぐったりと動かなかったモンモランシーが、ピクリと微かに反応を返したが、ギーシュはまったく気付かず、念入りに入り口を確認したギーシュはおもむろにモンモランシーに圧し掛かる。
敏感な亀頭が僅かに熱を感じただけで、ギーシュは腰が引けそうなほどの快感を感じた。
先端を愛液で濡らし、そのままずるりと押し込もうとする。
外れ。
入り口の襞の上を滑る様に包まれたまま、皮の下で大きくなっていたモンモランシーの突起を擦り、漏れ出た甘い声に、ギーシュはそれだけで達しそうになった。
はずれ。
下を狙いすぎたギーシュは、粘液に包まれたままの亀頭をお尻の谷間に挟まれる。すべすべの素肌は、それだけでも快感で、繰り返したくなる衝動を抑えるのにギーシュは苦労した。
ハズレ。
しっかりと自分を掴み、襞をかき分けて入り口を求めるが、自分で強く握り締めたまま繰り返し訪れる襞々の感触は、気付くのが遅ければ、ギーシュは入れずに達するところだった。
何度も繰り返し挑戦するが、失敗するたびに限界は近づき、焦りは次の失敗を容易にする。
『い、入れたい……いれ……たい……イレタ……イ……』
入り口に僅かに潜り込む感触が、事の及んだ際の期待を煽り、ギーシュは荒々しく動き始めるが、結果に結びつく様子は無かった。
――すい、とギーシュの背中に手が回され、軽い力が加えられた。
「モ、モンモランシーそ、そのっ……ごめ……」
情けない気分で謝ろうとするギーシュの唇が、キスで塞がれる。
「ギーシュの意地悪……わたしの『初めて』の思い出、独り占めするつもりだったの?」
酔った様に潤んだ瞳が、じっとギーシュに向けられて、目を逸らせないままのギーシュの身体を、モンモランシーは自分の身体に重ねた。
「モンモランシー?」
「……暖かい……」
ギーシュが落ち着くまで、モンモランシーは抱きしめた。
痛いほど膨らんだギーシュの分身は、二人の間で熱を放っている。
ほんの少しの間、ギーシュはモンモランシーが主導権を握るとこを期待したが、彼女にその様子は無かった。
初めてなのはモンモランシーも同じだったし、ギーシュも出来ればモンモランシーに抱かれるのではなく、
モンモランシーを抱きたかった。
モンモランシーを見つめたまま、ギーシュはもう一度入り口を探す。
「んっ……」
粘膜同士が擦られたときの、モンモランシーの声にギーシュは二人で事に及んでいることを理解した。
真っ赤になった頬や、ギーシュの視線から逃れようと彷徨う瞳のに比べ、ぐったりした彼女をそのまま抱こうとしていた時の、なんと味気ないことか。
襞の間をかき分けているギーシュの背中に、モンモランシーの脚が回されそっと位置を調整する。
「「あ……」」
先が僅かに潜り込む。
ギーシュがそのまま進もうとするのを止めたモンモランシーが、腰を少し浮かせた。
「あの……こ、これで……」
ギーシュは無言で頷くと、浮かせたモンモランシーの腰が辛くない様自分の手で支えた。
彼女を気遣ったその行動は、ギーシュが腰を動かすのに都合が良かった。
腰を前に進めると共に、腰に添えた手でモンモランシーを引き寄せる。
指で感じていた感触が、ギーシュを包み込む。
それは指より遥かに気持ちよく、奥に進めば進むほどに柔らかい締め付けは増していく。
初体験のモンモランシーが示す抵抗も、ギーシュにとっては心地よい感触だった。
火照った身体がギーシュの下でくねる。
ギーシュが奥には入るほどに、引き換えのように深く熱い息が吐き出される。
――初めては痛いって聞いていたのに。
モンモランシーは混乱していた。
破瓜の血がシーツを汚しているのが確かに見えるのに、お腹の底から満たされる感触は痛みより遥かに快感が強かった。
感じたことのない違和感が、徐々にお腹からゆっくりと這い上がってくる。
モンモランシーは声が出そうに成るのを必死に殺しながら、苦しそうにすら見える表情で腰を動かすギーシュを見つめた。
挿入のために身体を起こしているギーシュの身体が遠いのが切なくて、一生懸命に手を伸ばすとどうして欲しいのか悟ったギーシュが、抜けないように奥まで差し込んだ後そぅっと抱きしめる。
(っ! っくぁ……うっ…………ぁ)
腰と腰が密着したときに、何かが捏ねられる感触にモンモランシー何度目かの悲鳴をかみ殺す。
二人の間で潰されたのは、皮に包まれたまま大きくなっていたモンモランシーの突起で、ギーシュが挿入に失敗するたびに擦られたため、
そこに触れられると、とても気持ち良い事を身体はもう教えられていた。
快感にもがくモンモランシーの腕の中に、ギーシュの身体が滑り込み二人は固く抱き合った。
何度も弄られた胸がギーシュの身体を直接感じ、そのまま動き出したギーシュによって胸から絡められた足まで、満遍なく擦られる。
そして、目の前には真っ直ぐに自分を見つめるギーシュの顔。
擦られた部分ではなく、胸が奥から熱くなる。
愛しくて、嬉しくて、ギーシュのこと以外何も考えられなくなる。
――初めてなのに感じで恥ずかしい。
そんな事はどこかに吹き飛んで、無心に彼にしがみつく。
殺していた声を、想いに任せて彼に届ける。
堪えていた快感を、感じるままに受け止める。
……いきなり反応が良くなり、飲み込むようにうねり出した肉体に、
そしてなにより蕩ける表情で自分を見上げるモンモランシーの、いつもと違う艶と色に……
ギーシュはあっさりと果てた。
お腹の奥に何かを注がれる生まれて始めての感覚に、モンモランシーの動きがしばし止まる。
ギーシュが逝った。
それに気付いたモンモランシーは、ほぅと一息吐くと優しくギーシュを抱きしめた。
中に入ったままのギーシュの分身は、気持ちよさそうにピクピクと跳ね、出し入れとは違う位置を甘く撫でた。
自分の身体で好きな人が果てた。
笑いたい様な、叫びたい様な、微妙な満足感がモンモランシーを満たす。
ギーシュもわたしに、気持ち良い事沢山してくれて……それだけで満足……
「……モンモランシー……逝った?」
「? い……く……?」
自分でするときより、ずっと気持ちが良かったから、
これで終わりだと思っていたモンモランシーは、思わず不思議そうにギーシュを見返す。
昔キュルケが何か言ってたような……
女の子同士の話を思い出して、慌てて頷いたが時はすでに遅し。
「が、がんばるからっ、がんばるからね、モンモランシー!」
「ちょっ……ギーシュ、待って、わたしはじめてっ……っあ……」
硬度を保ったままだったギーシュは、歯を食いしばりごつごつと奥を突付く。
一度逝った直後で、敏感なギーシュはさっきまでほど激しく動けなかったが……
初めてのモンモランシーにとって、それは適度な甘い刺激になっていた。
「っ……ま……って……いっ……」
程なくモンモランシーの身体は仰け反り、飲み込んだままのギーシュを強く握り締める。
「……うっ」
感度の上がっていたギーシュはそれだけでまた果てる。
「……ギーシュ……気持ちよか……」
たよ。そう言う前に、いきり立ったギーシュはもう一度腰を動かしだした。
「逝ったフリなんか要らないんだぁぁぁぁ、モンモランシーィィィ! 僕で気持ちよくなってくれぇぇぇぇっ!」
「ふぇっ? ちょ……まってぇっ……」
モンモランシーは何か言い募ろうとするが、ギーシュによって強引に奪われた唇は言葉を紡ぐのを禁じられた。
(まっ……て……ギーシュっ! ちょ……つらいのっ……休ませ……てぇ)
「うおぉぉぉぉぉっ!!!!」
ギーシュはとても頑張った。
――日が昇るまで。
あまり寝ていないはずなのに、ギーシュの目覚めは良かった。
心の奥が満たされていて、溢れるような魔力が身体能力を引き上げているようだった。
そっと隣を見ると、モンモランシーがぐったりと眠り込んでいる。
(夢じゃなかったんだ)
ほっと一息ついた。
モンモランシーとの睦み合いが、一晩過ぎたら夢だった。
実は結構良く有った。
間近で見ることの彼女の寝顔が、昨夜の行為を思い出させて、寝起きだというのに局所に血液を集中させ……
生唾を飲み込んだギーシュは、かろうじて彼女の身体を隠している布団をそーっと捲ってみる。
もちろんその下は全裸で、ギーシュの劣情を……
(って、だめだぁぁぁ、眠ってる所を襲うとかしたらっ)
最悪怒られて、昨日のことはなかった事に……
それはかなり悪夢だ。
彼女が目覚めるときには側に居たいが、昨日の誘拐劇は彼女を相当疲労させたらしく目覚める様子はまったくなかった。
(疲れてる彼女の邪魔をしないようにしないと……)
このままだと起きる前にモンモランシーに襲い掛かってしまいそうなギーシュは、静かに服を着ると起きたときの彼女のために食堂へ何かを貰いに行った。
不機嫌そうなレイナールが、食堂に入るなりギーシュに毒づいた。
「昨日は一晩中地震で、よく寝れなかったな! ギーシュ」
「? いや、地震なんか有ったかな? 隣だけど気付かなかったよ……それ所じゃなくてね」
無邪気にギーシュは答えた。
そんな二人を面白そうに水精霊騎士隊が見つめるなか、ギーシュは食べやすそうな果物や飲み物をトレイに集めた。
「ギーシュ、おめでとう」
何人かがそう言って、ギーシュの肩を叩く――ちょっと強めに。
和やかな雰囲気の中、誰かがポツリと聞いた。
「ギーシュ、モンモランシーと結婚するのか?」
浮気性の友人の気まぐれを、密かに皆気にしていた。
しん……と、静まり返った食堂に、ギーシュの声が響いた。
「うん……そのつもりだよ」
起きて、彼女の顔を見たときに……ひょっとしたらもっとずっと前に、
ギーシュはすっかりと彼女に捕まってしまった。
なにより……昨夜の彼女を……他の男に見せたくなかった。
彼女は自分の物だという強烈な独占欲が、他の選択肢を削っていた。
「おめでとう」
「おめでとう、ギーシュ」
一斉に祝福の声が溢れ、ギーシュは仲間たちに笑顔を返した。
そんな中、一人だけギーシュに否定的な目を向けるものが居た。
「……いいのか? ギーシュ」
レイナールは、眠そうな目でギーシュに聞いた。
「も、勿論だよ、レイナール、結婚するからには、浮気とかもね、そのね、しないでね」
「いや……そうじゃなくてさ、ギーシュ」
?
不思議そうな皆の視線を集めながら、レイナールは言った。
――モンモランシーが目を覚ましたのは、昼前だったが目を覚ましたとき最初に見たものはギーシュの顔だった。
「おはよう、モンモランシー」
「……お、おはよう、ギーシュ」
立ち上がろうとして、自分が何も着ていない事に気付くと真っ赤に成って固まった。
「……昨日、全部み……」
「そんな問題じゃないのっ!」
ギーシュは殴られた。そのままベットから転げ落ちてしまったギーシュはよろよろと立ち上がると、真剣な表情でモンモランシーの手を取った。
「モンモランシー!」
「は、はいっ」
真面目な表情で見つめるギーシュの真剣な表情で、モンモランシーは彼の用件を想像して、胸を高鳴らせる。
――『責任』を取ってくれる。そんなつもりで身体を許して訳ではなかったが、それはとても嬉しいことで……
「僕を……」
一呼吸溜めたギーシュは勢いよく続けた。
「お婿さんにしてくださいっ!」
「……っ、空気読めっ、ばかぁぁぁぁぁっ!!!!」
これが、ギーシュ・ド・グラモンの最後を締めくくる事件であった。それから程なく彼はギーシュ・ド・グラモンでは無くなった。
その名を持つものは大勢の祝福を受けながらハルケギニアから消えた。
モンモランシーはその時の事を、延々彼に怒り続ける事になってしまったが……
レイナールは言ったのだ。
「彼女、一人娘だろ? 嫁に取れないんじゃないのか?」
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