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数合わせ ぎふと氏
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夜。才人が部屋に戻ってみると、ベッドの縁に腰かけたピンクの髪のご主人様が、
両手を前に唸り声をあげていた。なにやら深刻そうな様子である。
「ただいま」
と恐る恐る声をかけると、
「あ〜〜もうっ、わからなくなっちゃったじゃない!」
案の定というか、きつい目で睨まれてしまった。
「何してるんだよ」
それでもめげずに尋ねると、
「何でもいいでしょ。とにかく今忙しいんだから、声をかけないで!」
ルイズは怒鳴り、それから両手をお手上げといった風に大きく万歳して
そのままベッドに倒れこんで盛大にため息をついた。
「おかしいわ。どうしたって変よ……」
なおも呟く。「何が?」と才人は尋ねなかった。
過去の経験から見るに、気軽に声をかけてはいけない雰囲気だ。
こういう時は放っておくに限る。そう考えた才人は静かにその場を離れて、
壁際に座を占めた。ちょうどその昔ワラ束の寝床だった辺りである。
そしてご主人様を観察することにした。……とにかく暇だったのだ。
さてご主人様は、真剣な顔で眉を寄せると、何やらう〜んと考えているご様子で
それからぶるぶるっと頭を振り、目をつむり、またう〜んと唸り始めた。
そしておもむろに目をかっと見開き「1、2、3」と指を折り、また目をつむる。
何か数を数えているらしいと、それだけは理解できた。
時おり合いの手のように「これも数に入るわよね」などと独り言を呟く。
そうやって何度も目をつむっては開いて指を折ってを繰り返し、
結構な数になったところで、がばっと跳ね起きた。
「おかしい! 絶対合わない!」
そして勢いよく才人の方に顔と視線を向けると、にま〜っとイヤな笑みを浮かべた。
どくんどくんどくん……。才人の心臓がホラーの効果音を奏で始める。
「ねえ、サイト」
き、来た。痛む胸を押さえつつ、続くルイズの言葉を硬直して待つ。
「あのね。ちょっと聞きたいんだけど」
「はい、なんでしょう。ご主人さま」
「私の笑顔の回数って、まだ数えてる? 大体でもかまわないわ」
恐ろしくてとても否定できる雰囲気ではない。必死に記憶をたぐる一方で、
もちろんです。こくこくと頷いた。冷や汗がこめかみを伝い落ちる。
「じゃあ、言ってみなさい」
「……72回+2回、かな?」
「そうね。確かにあんたロマリアでそう言ったわ。偉いわ。よく覚えていたわね」
「お褒めに預かり光栄至極にございます」
「でもね。おかしいの。あんたからもらった記憶をすっかりさらってみたんだけど、
どうしてもね。数が合わないの。ものすっごく合わないの」
ぎくりと才人は顔を歪め、ゆっくりと立ち上がろうとした。逃げ腰である。
「あの時……、私がどんなに感動したか知ってる? もちろん覚えてないけど、
でも絶対に感動したと思うの。私すごく嬉しそうな顔してたもの」
もはや猶予はなかった。才人は猛ダッシュで部屋を飛び出そうとした。
しかし、ルイズはガンダールヴも真っ青な素早さでベッドから飛び出すと、
扉の前に立ちはだかった。右手にはもちろん杖。パチパチと火花を上げている。
「正直におっしゃい。あんた本当に数えていたの? それとも……」
選択ウィンドウが開いた。YES or NO。
しかしどちらを選んだとしても結果は恐らく同じに違いない。
その瞬間……、才人は己の運命を悟り静かにそれを受け入れたのだった。
〜FIN〜
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