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虚無の魔法
※恐喝・陵辱あります
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部屋の片隅にそっと置いてある自分用の物入れの中から、何度か読み返した手紙をもう一度取り出した。
サイトが字を読み書きできるようになって、一番喜んでいるのはシエスタかもしれない。
以前は学院で留守番をしている間、行く先がはっきりしていても噂程度しかサイトの安否を計る方法はなかった。
今は手紙が出せる。
郵便の制度がしっかりしていない為、金銭的な負担は大きかったが、逆にそれを知ったサイトは返信用の封筒を同封すると真面目に返事を出してくれた。
戦時中の国からの郵便のため検閲された跡は有ったが、その字は確かにサイトの字で丁寧に現状が綴られていた。
――戦争が終わったので、まもなく戻れそうだ。
その一言を、何度も読み返した。
サイトが強いのは知っている。
それでも彼の参加した戦争が終わった事に安堵した。
手紙の費用の心配や、学院の様子を尋ねる文章にシエスタは返信を書きかけるが、今出しても行き違ってしまう可能性が高い。
(早く、会いたいなぁ……)
皺にならないように注意しながら、サイトの手紙を柔らかく抱きしめると胸の奥がほんのりと暖かくなる。
(…………会いたい……なぁ……)
ミス・ヴァリエールはずるい。
にじんできた涙を手の甲でぐしぐしと擦りながら、シエスタはいつもの通り気をそらし始めた。すっとサイトのことを考えているのは辛過ぎるから。
少し落ち着いてから、手紙の続きに目を通す。
女王陛下や、教皇聖下に頼み事をされていて忙しい。
まるで雲の上の話をされているようで、実感は沸かないけれど誇らしさと寂しさがシエスタの胸を締め付ける。
わたしの好きな人はこんなに凄い人なんですよ。
……そう、皆に言って回りたい。
でも……
そんな人に、わたしは愛してもらえるのかしら?
一人置き去りにされた部屋で、ひっそり泣くのが彼女の日課。
それでも気を取り直した彼女は、いつもの通りに部屋の掃除を始める。
部屋の主は居なくとも、使っていない家具であろうとも、手入れに手を抜く事など、彼女が教えられた知識の中に有りはしない。
無心に掃除をすることで、ようやく彼女は立ち直る。
どんなに辛い現実も、単純作業に没頭すればその間だけは見ずに済んだ。
――コンコン
いつもならば、彼女の一日はそうして過ぎるが、その日の作業は珍しく中断された。
「申し訳ありません、ただいまこの部屋の方達は留守にしております」
慌てつつも、来客に向かって粗相のない様に……
「あぁ、知っているよ」
見たことは有る人物だった。
ジュリオ。
確かそんな名前だったはず。サイトさんが死んだと思われていた時に学院にミス・ヴァリエールを訪ねていらした方だわ。
その程度の認識だったが……
シエスタが疑問に思う間に、ジュリオは彼女に話しかけた。
「ちょっとした特技が有ってね、ガンダールヴより先行したんだけれどね」
何度か小耳に挟んでいたので、ガンダールヴがサイトの事だと理解したシエスタは大人しくジュリオの話しの続きを聞いた。
「学院長に用事があるのだけれど、彼を少し預かって貰いたくてね。
できれば人目にさらしたくないので、彼女の部屋につれてきたのさ」
ここは確実に誰も居ないと思ったのでね。
理由は分かったものの、ミス・ヴァリエールが居ない部屋に、勝手に入れるわけにはいかない。
シエスタはその場で断ろうとしたが、断りの文句を口にするより早くジュリオの背後に居た人影が室内に滑り込んだ。
「ちょっ……待ってください、困ります、こんな勝手にっ!」
「問題があるのなら、貴女が見張っていて下さい。ハルケギニアで最も気高い方ですから心配は要りませんよ」
頭からすっぽりと聖衣を被った見るからに怪しい人物が、部屋の中央でぐるりと周りを見回して……
「や、やめて下さい。女性の部屋なんですよ」
身体を張って怪しい人物の視線から、ルイズの部屋を隠す。
ここまで不躾にされると、大人しくしておく訳にもいかない。
「わが子らの部屋に入る事に、何も問題は有りませんよ」
「っ! ミスタ・ヴァリエールのお顔なら一度拝見したことがありますっ! 嘘をつかないで下さいっ!」
怪しい人物の思いのほか整った顔に驚きながらも、シエスタは叫んだ。
ヴィットーリオ
どこかで聞いたとこがあるような名前を名乗った青年は、それ以上暴れることもなく大人しく部屋の隅でじっとしていたが……
「……………………」
部屋の隅で、延々何かを唱え続けていた。
(こ、怖いよぉ……サイトさぁん……)
すぐにもジュリオを追いかけるか、せめて人を呼びたかったが、主のいないこの部屋に不審人物一人を残すのは気が引けた。
そんなわけで、見知らぬ男と二人きりで部屋に残された彼女は緊張しつつも、ヴィットーリオを監視していた。
手の届くところに置かれた箒は、せめてもの護身道具。
手に馴染んでいる為、安心感は有ったが武器とするにはいささか軽すぎた。
それでも何も無いよりはましだと、しっかりと箒を握り締めながら、何か良からぬことをたくらんでいそうな青年を見据えた。
――シエスタの危惧は正しい。
ヴィットーリオの狙いは単純にこの部屋から何かを持ち出す事だった。
ルイズやサイトたちが戻る前に、ヴィンダールヴとしての能力を使い二人揃って学院に侵入したのはそんな理由だった。
何か。
文字通り何でも良かったのだが、人が居た為にジュリオが利かせた機転の結果、ヴィットーリオはここで足止めされていた。
今頃ジュリオは学院の各所で、様々な物を入手している予定だったが……
(……人がいるとは計算外でしたが……丁度良い……)
ここは最も重要な拠点で、出来れば今後も継続的に利用できる手札が必要だった。
……無機質な目でメイドを見ながら、ヴィットーリオは呪文を唱える。
目に付く部屋のものに、次々と呪文を掛けてゆき……
……そして……
(ミツケタ……)
ヴィットーリオは顔を上げ、メイドに笑いかけた。
「これを……見てもらえますか?」
静かに呪文が響き渡る。
――魔法の存在に竦むシエスタの後ろで、静かにドアが開き……
シエスタが部屋に入ってきた。
(え? え? な、なに?)
手に抱えた大量の洗濯物は、サイトが毎日訓練に使用していた動きやすい服。
サイトのために出来ることが有るのが嬉しくて仕方がない、見ているだけでそんな思いが伝わって来るほどに部屋に入ってきたシエスタは上機嫌だった。
(わ、わたし? どうして? 何がおきているの?)
一つ一つを丁寧にたたみ、サイトとルイズの洗濯物を仕舞ってゆく。
ルイズの可愛らしい下着や衣装を片付ける時は、自分の服を見て小さく溜息を吐いたりしたけれど、軽く頭を振り妬心を押さえ込むとサイトの服を仕舞う。
サイトはいつも無造作に一番前から次に着る服を使うため、実際のコーディネイトは実質シエスタ任せだった。
「……これ……と……これ……かしら?」
その服をサイトが着るところを想像しながら、彼の為に思う存分時間と費やす、彼女の至福の時間。
貴族としての位を貰ってから、サイトの服は学院のお抱え業者からも購入できるようになっていて、仕立ての良い服を幾らでも仕入れることが出来た。
……軍馬に年金をつぎ込んだサイトは、本来新しい服を着ることが出来るのは来年からのはずだったが……
「やっぱり、この間のお洋服……無理してでも買うべきだったかしら?」
貴族育ちのルイズや、異世界の服の相場の知識がないサイトに黙ったまま、サイトの生活必需品はシエスタの蓄えを切り崩すことで得られていた。
サイト付きのメイドとして、給金は前より多く貰っているが、支出のほうが遥かに多い。
それでも、好きな人が自分の選んだ服を着てくれる歓びはお金では代え難かった。
「ん……これでいいかな?」
あまり似た取り合わせが続かないように注意しながら、全ての服を並べ替える。
毎日並べ替えても意味はないのだけれど、楽しいのだから仕方なかった。
「……何か言ってくれるかしら……」
そんな風に思ってしまう自分を、シエスタは慌てて戒めた。
「別に、感謝して欲しくてやってるわけじゃないもの……サイトさんが、綺麗な格好してると、わたしも嬉しいし……」
少し悔しかった。
毎日、サイトの為にシエスタは努力している。
もしサイトがその気になっても良いように、自分の服だって毎日綺麗にしているし、身体だって……
それでも……サイトが見ているのは、同じ部屋にいる素直に成れない貴族の女の子。
――様子を見ることしか出来なくなっているシエスタは、この後に起こることを思い出し、必死に叫んでいた。
(だ、だめっ、だめだからっ……見られてっ、見られてるっ……)
どれだけ叫んでも、彼女の声は彼女自身に届かない。
狂乱し自分の姿に掴みかかろうと、過ぎ去った過去に触れることは何者にも出来ない。
――サイトの服の中から、シエスタは一着選んで持ち出した。
それは、彼と始めて会った時の服。
替えを作ってあげたかったけれど、編み方が解らなくて挫折してしまった不思議な感触の洋服。
そうっと抱きしめてから、恐る恐ると部屋の入り口を見る。
この時間に誰も入ってくることはないと分かっていても、今からするコトを考えると緊張が止まらない。
サイトの服をルイズの使っている鏡台の横につるすと、その胸元にすりすりと頬擦りをする。
ベットサイドは柔らかかったし、テーブルの縁は丸くて使い難かった。
サイトの服に密着したまま、シエスタのふとももが鏡台のふちに掛けられて、冷たい木の感触がひざからゆっくりと進む。
熱い吐息を吐きながら、じわじわと目的の場所にたどり着く。
この部屋に来る前も、相部屋の友達が居たシエスタは自分を慰めるのに、幾つも問題を抱えていた。
時間を掛けすぎるわけにもいかなかったし、着衣が乱れるような真似をすれば、戻ってきた友達に言い訳も出来なくなる。
シエスタの自慰はいつも着衣のまま行われていた。
片足を鏡台の上に乗せた、はしたない格好のまま床に着けたままの足の力を緩める。
体重が一箇所に集中する。
柔らかい肉に、硬く無機質な感触が押し当てられる。
腰がじりじりと動かされ、馴染んだポイントを探す。
ドロワーズの分厚い感触をもどかしく思いながら、シエスタはいつもの位置を見つけ出す。
シエスタは下着一枚挟んで、鏡台の角をぴったりとスリットの上に重ねると、たたまれたままの左足と、伸ばされ床に着けられた右足でバランスを取ると、ゆっくり上体を揺らす。
体重が集中しているポイントが不規則に乱れ、快感がシエスタの理性を溶かしていく。
時折腰にひねりが加えられ、蜜を零し始めた入り口を斜めに横切るようにこすり付けていると、時折漏れてしまう声をサイトの服で封じ込める。
そうして、乱れた呼吸を繰り返すだけで……
(サイトさぁんっ……いっぃよぉ……)
胸の奥一杯に愛する人の匂いが満ちると、下腹部で燻っていた炎が激しく燃え上がった。
シエスタの体がゆくっりと傾き、鏡台の上にぺたりと片手が付けられる。
僅かな前傾だったが、シエスタの目的はそれで遂げられた。
ドロワーズの中で硬くなり始めた肉芽が強く押し付けられ、しなやかな肉体と硬質な木材の間でくにくにとその形を変える。
這い上がる快感に流されたシエスタは、そのまま無心に腰を動かし始める。
ルイズの鏡台が、ぎしぎしとリズミカルに軋み始めても、シエスタの衝動は止まらない。
胸元にサイトの服を押し付けたまま、熱と柔らかさを増していく秘所が堪えられない位まで快感を高めてゆく。
サイトの服を見つめながら、薄く目を瞑ればシエスタはサイトの上で人とは思えないほど硬くなった部分に責められていた。
「サイトさ……ん……そんなに……つよくしっ……ちゃ…………だめで……す……」
妄想のサイトはシエスタの言葉に笑うと、しっかりと肩を掴んでシエスタの動きを止めさせた。
快感に慣らされたシエスタの身体は、その供給が途絶える事に数秒も耐えることが出来ない。
「ひぁ…………ふ……ぁ……だ、だめ……やめないで……」
思わず漏れた声の大きさに、シエスタは慌てるが理性の制止を振り切りシエスタの身体は貪欲に快楽を貪った。
シエスタの頭の中のサイトは腰に手を回すと、そのまま肉棒を押し付ける。
その想像に押されるように、シエスタの腰はぐるりと円を描くように動き始める。
サイトの肉棒の上で、シエスタのクリトリスが執拗に責められる。
もしサイト本人が見ていたら、その場で襲い掛からずにはいられないほどに淫靡にグラインドを始めた腰はシエスタに痺れる様な快感を送る、シエスタは崩れ落ちるまで快感に浸り、やがてぐったりと力尽きた。。
ほんの数分、そうやって一息ついたシエスタは上気したままの顔でじっとサイトの洋服の袖を見ていたが、やがてスカートを緩めると震える手でコルセットを外す。
(い、今誰か来たら、言い訳できない……)
からからに渇いた喉が、自分がどれほど恥ずかしいことをしているのかを教えてくれる。
メイド服をめくり上げ、お腹の所からサイトの服の袖を差し込むと、そのまま胸に押し付ける。
火照っていた身体に、新しい刺激が加えられ何もかも忘れて声を上げてしまいそうにある。
(だ、だめっ……みられちゃう、サイトさんに見られちゃうよ……)
頭の奥が燃えるように熱く、心臓が煩いほどに高鳴る。
尽きない欲望への予感と、快感への好奇心。
なにより今だ熱の冷めない肉体が、シエスタの行動を決定した。
サイトに触られている。そう妄想しながら、シエスタの指がふくよかな胸に食い込むと、さっきまでとは比較にならない快感が荒れ狂う。
――くすくすという笑い声が聞こえ、シエスタは真っ赤になってヴィットーリオを睨みつける。
魔法による虚像だと、こんな事は嘘だと、そう叫びたかった。
しかし、彼女の記憶は言っている。
これは、真実。
本当にあった出来事。
目の前で床の上に転がり、持ち上げるように胸をこねているのは間違いなく過去の自分。
捲れ上がったスカートも、いつもはその影で日焼けから逃れている素肌も、淫らな痴態はすべて自分の記憶の通り。
「まるで犬ですね」
優しげな声が、容赦ない裁断を下す。
サイトの服の上を這わせていた指先を、シエスタは水音を立てながら唇の中に吸い込んだ。
唾液を塗した指先が、真っ直ぐにドロワーズの中を目指す。
湿らせた指先が熱い感触に飲み込まれていき、シエスタの背筋を何かが這い上がる。
潤み始めた瞳がサイトの姿を求めて彷徨い、幻と共にサイトの服を抱きしめる。
服と共に圧迫された胸も、浅く出入りを繰り返す秘所も、何時まで経ってもシエスタの渇きを癒すことが出来ない。
それが出来るのは一人だけで…………そんな望みはずっと叶わなくて。
「切な……い……よぅ……サイトさぁ……ん……」
媚と色を含んだ自分の声に、黙ってシエスタは俯く。
サイト以外に見られたくないのに、ヴィットーリオは目を逸らそうともしていない。
「っく……サイトさん……ね……」
噛んだ唇に血の味が滲んだ。
ずっとサイトの側に居て、ミス・ヴァリエールと親しくなって、そうして忘れてしまっていた事実。
メイジは――貴族は、平民の事なんてモノ程度にしか考えていない。
優しいライバルにそんな素振りは無いけれど、きっと殆どの貴族はこの男の様に……
「ガンダールヴが……」
ヴィットーリオの囁きに、シエスタの身が竦む。
背後の自分は、甘やかな声でサイトの名前を呼び続けている。
「コレを知っても、彼はまだ貴女を側に置くでしょうか?」
溢れたの恐怖。
零れたのは悲鳴。
「コレは何度でも繰り返し見れるのですよ……ガンダールヴの帰還が楽しみです」
一瞬だけ途切れる魔法。
次に目に映った光景は、それから三日後の『ひとりあそび』繰り返される自分の痴態。 その次は一月前の、その次はその一週間前の、幾らでも用意されている光景。
そしてその度に嘲られ、馬鹿にされ、サイトに焦がれる透明な想いを土足で踏み荒らされていく。
「も、もう……許して……許してください……」
自慰行為を覗かれるだけでも恥ずかしいと言うのに、ヴィーットリオはシエスタが泣き出すまでその手を緩めなかった。
「貴族は……始祖の信徒はこのような真似いたしませんよ」
「ガンダールヴも今は貴族でしたよね?」
些細な棘が、胸の奥にずっと残る。
「この様な行為に耽る貴女は、彼に相応しいのですか?」
「聖女のこの様な様を見たことは有りますか?
平民というのはこれだから度し難いですね」
サイトに相応しくないといわれるのが、彼女には何より辛かった。
実際は頻繁に行っているわけでなくとも、魔法の力で立て続けに見せられると自分がずっとこんな行為のためにこの部屋に居るのだと、
サイトの為などという言葉は、気持ちよくなるための言い訳に過ぎないと、
繰り返し語られるヴィットーリオの言葉で誘導されていく。
そして……ソレが、どんなに罪深く、そんな自分がサイトの側に釣り合わないのか講釈を受けた後でヴィーットリオは尋ねた。
『ガンダールヴに見せて差し上げてかまいませんか?』
と
――何でもするから、それだけは許してください。
その言葉が、彼女の地獄の始まりだった。
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