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X00-42-4のつづきです。
「ミスタ・グラモン」
「え?!アニエスさん。どうして此処に?」
「明日から水精霊騎士隊の特訓の為だ」
「明日からだったんですか?」
「そうだ。陛下のご命令でな。叙勲式までに君達の力の底上げにな」
「と、言いますと?」
「君達も知っての通り、今回の決定は、大盤振る舞いだ。王宮内で表面的には、賛成しているが内心良く思っていない輩は、かなり居る。直接見た者は兎も角、見ていない者にはな。諸侯に至っては今回の決定が伝わったら、王宮に見直しを求めにやって来る輩も出てくるだろう。そういった連中に今回の決定が正当だと納得させる為にな」
「成程、確かにそうですね」
「顔が引きつっているぞ、ミスタ・グラモン。嫌なことでもポーカーフェイスが出来るようになっていたまえ」
「す・すみません」
「今、水精霊騎士隊は、何名いるかね?」
「40名です」
「そうか、それではミス・モンモランシは居るかね?」
「はい、少々お待ち下さい。……おーい、モンモランシー一寸来てくれ」
「なによ、ギーシュ」
「お楽しみのところ申し訳ない、ミス・モンモランシ」
「アニエスさん!あっすいません」
「いや、ところで疲労回復薬は沢山有るかね?」
「今手持ちは10瓶分くらいですが、如何なさるんですか?」
「水精霊騎士隊の特訓にな。大量に必要なんだが、今から作って今日中に何瓶作れるかね?」
「手持ちの材料だけですと100瓶位ですけど、他の水メイジからかき集めれば500から1,000瓶くらいでしょうか。簡単に作れますが、これだけ大量に作るには、学院の設備をお借りしないと出来ませんけど」
「手配しよう。それからそれではまだまだ足りぬ。あと2,000は必要になる。部下に持ってこさせるので、必要な物を書いてくれ。あと、これは材料費と礼だ。300エキューある。もし足りないようだったら言ってくれ」
「いえ、大丈夫ですが如何してそんな大量に必要なんですか?」
「私の特訓、サイトはしごきと言っていたな。メイジには死ぬほど辛いだろうからさ。かといって時間もない。自然回復など待っていられないのだ。幸い此処は魔法学院だ。魔法薬の類は多いし、無ければ作れるしな。兎も角ぶっ倒れたら回復薬、ぶっ倒れたら回復薬と言う風にしていきたいのでね」
(鬼だ!この人。いえ悪魔だわね。サイトが恐れるわけだ)
「それでは材料をかき集めてきます」
「よろしく頼む。ミスタ・グラモン、大騒ぎするのは構わないが、明日二日酔いでも手は抜かぬからな。朝7時から開始する。全員にそう伝え給え」
「了解いたしました(そんなの聞かされたら騒げないって)」
………………………………
「それ本当かよ、ギーシュ」
「嘘をついてどうするんだね」
「明日死ぬな、俺達」
「サイト確か10秒遅刻で、腕立て100回って言ってたな。口答えすれば平手打ち。他に何言っていたっけ」
「忘れた。兎に角機嫌を損ねる=死と思っていればいいんだよ」
「そうだな」
「残念だが、今日はお開きにしよう」
「わかった」
翌朝
「一人の遅刻も居ないとはな、先ずは合格だな。諸君、訓練はただやれば力が付く訳では無い。目標が無ければ力の向上は望めない。そこで諸君に目標を与える。ずばり『サイトに勝つ』だ。といってもこの短期間では、5対1うまくすれば3対1で、だ」
「サイトにですか?」
「そうだ。君達は今無理だと思っているだろう。しかし私の方法でやれば必ず出来る。サイトに勝ちたくはないかね?」
「勝ちたいです。でも本当に出来ますか?」
「勿論、君達が途中で諦めなければな」
「分かりました。お願いします」
こうしてアニエスの地獄の猛特訓が始まった。
内容は才人が行った特訓の一日を一時間に凝縮したものであった。それを可能にしたのが、モンモランシーの疲労回復薬であった。更に薬の力が不足している時は、モンモランシーが、魔法で補った。
今までの彼らだったら5分と持たなかっただろう。しかし「サイトに勝つ」という思いが彼らを支えていた。そして特訓を続けて行くうちに、力が向上して行くのが実感出来たのも大きかった。
かけがえのない友人であると同時に「絶対勝てない相手」憧れでもある。
しかしこれをやり遂げれば「勝てる」「勝つことが出来る」そんな思いが彼らのやる気を極限まで高めていた。
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王宮
「サイト殿、これが太守ホーキンス殿への親書です」
「有難う御座います。それでは行って来ます」
「御気を付けて」
才人達を乗せシルフィードは飛び立った。
「どの位で付く?」
「半日」
「テファ、ウエストウッド村の前は、何処に住んでいたんだ?」
「今日これから行くお城」
「えっ!テファの実家?!それじゃ懐かしいだろう」
「うん。でもね…」
「あっ、ごめん」
「ううん、気にしないで」
「ホントにあんたってデリカシーが無いわね」
「ごめん」
「本当に気にしないで。悲しい事も有ったけど、楽しい事も有ったから」
「サイト、次から発言する時は、十分注意しなさい」
「うん、注意する」
「サイト、聞きたい事が有るんだけど」
「何を?」
「私が王位に就いたら領地を返還するって」
「勿論」
「でも私、ハーフエルフだから無理だよ」
「難しいかもしんねぇけど、テファの事優しくて、思いやりのある良い子だって分かってくれたら、何とかなるって」
「何言ってんの、あんた。王は、優しいだけじゃ務まらないのよ。厳しさや時には非情さが必要なのよ。テファには、そういうの全く無いでしょ」
「確かにそうだけど」
「それに私ずっと世の中と離れて生きて来たから、政治とかそういうの全然分からないわ」
「そういうのは、大臣さんとかが何とかしてくれんじゃねえかな」
「確かに有能な大臣の方もいらっしゃるでしょうけど、同時に無能な大臣もいるわ。当てにし過ぎると国が傾くわ」
「俺の居た世界でも無能な大臣のせいで国が傾く事あったな」
「兎に角、今日あんたの部下になる人達の人柄を見ましょ。まずは、そこからね」
「そうだな」
半日後 サウスゴータ城
「ホーキンス閣下、アンリエッタ女王の親書を携えた方がお見えになりました」
「お通ししてくれ」
「畏まりました」
ドアが開き才人達が中に入るとホーキンスは目を見開いて固まった。
「はじめまして。サイト・シュヴァリエ・ド・ヒラガです。アンリエッタ女王陛下の親書をお持ちしました」
しかしホーキンスは、動かなかった。
「ホーキンス殿?」
「生きて…」
「え?」
「生きていらっしゃのですね」
「あのう」
「あっ、申し訳ありません。失礼たしました。あまりにも驚いてしまったので」
「どうなされたのですか?」
「貴方は覚えていらしゃらないのでしょうが、私はこの眼に焼き付いております。鬼神の如く我が軍を貫き、私に剣を突き付けて力尽きた貴方を」
「じゃあ、あの時の敵将は」
「ええ、私です。ですがどうやって助かったのです?とても助かる怪我ではなかったはずですが」
「此処に居る、ティファニアのお母さんの形見の指輪の力で助かったのです。実際一度心臓止まってたそうですし」
「あれ程の大怪我を治す指輪?聞いた事有りませんね」
「ええ、そうでしょうね。それよりも親書を受け取ってください」
「失礼致しました。早速拝見させて頂きます」
「………」
「今日は驚くことの連続ですな。王家の血が絶えていなかった。こんなうれしい事は御座いません。ティファニア様、よくぞご無事で。さぞお辛かったことでしょう」
「ホーキンス殿」
「サイト様、大公叙勲おめでとうごいます。心よりお祝い申し上げます」
「すいません。様は止めて下さい。柄じゃありませんから」
「そうは参りません。私の主君なのですから」
「でもそれってティファニアの方じゃ」
「無論ティファニア様もです。正式には、王位に就かれてからですが」
「ホーキンス殿は、ティファニアが王位に就くのを賛成してくれますか?」
「勿論です」
「ですが、他の人々は反対為さるでしょう」
「現状ではそう思います」
「やはりそうですよね。…ホーキンス殿お願いがあります。ティファニアが王位に就けるよう尽力して欲しいのです」
「サイト」
「畏まりました。このホーキンス一身を掛け尽力いたします」
「それから国税はどうする事も出来ませんが、領主税は徴収しないで下さい。そうすれば領民の人達は、多少生活が楽になるでしょう」
「ちょっとあんた何言ってるのよ。領主税取らないなんて」
「いいじゃねぇか、姫様だって返す気でいるんだし」
「確かにそうだけど」
「ホーキンス殿、これを受け取ってください」
「小切手ですね、これは一体?」
「今は、1エキューも振り込まれていませんが、1ヶ月後トリスタニアでドラゴンをオークションに懸けて、その売り上げ…俺が倒した分の1%が振り込まれます。多分100万エキュー位になる筈です。それを使ってこちらを復興して下さい」
「あんた、今回の叙勲の報酬殆ど貰わないつもり?」
「無駄遣いするより余程良いだろう。それに個人で使える金額じゃないし。俺は、大元帥とシュヴァリエの年金だけで十分だよ」
「あんたならそう言うと思ったわよ」
「サイト様、本当に宜しいんですか?」
「勿論です。長い戦争で生活が大変だと聞いてます。少しでも役に立ててください」
「それではこれで失礼致します。先程の件宜しくお願いいたします」
そう言って才人達が部屋を出て、ホールの中央付近にやって来た時、ホーキンスが才人に近づき、杖を掲げ膝をついた。
「私、ホーキンスはこの命ある限り、貴方様に絶対の忠誠をここに誓約いたします」
「ちょっと何してるんすか。周りでみんな見ているじゃないですか。止めて下さいよ、こういう事」
「私の貴方様への忠誠を皆に知らしめているのです。お気になさらないで下さい」
すると周りにいた人々が集まり、ホーキンスと同じように杖を掲げ膝をつき
「我々も貴方様にこの命ある限り、絶対の忠誠をここに誓約いたします」
才人は、頭を抱えた。これだから貴族ってやつは。
「後悔しても知りませんよ」
「私は、命を懸けて仕えるべき主君に出会えたのです。後悔なぞする筈ありません」
ホーキンスは、力強く言い切った。
「サイト様、お急ぎでないなら、領地をご案内致します。是非見て行って下さい」
「ルイズ、どうする?」
「領地を視察するのは、領主の役目ね。叙勲式まで帰れば良いわ。タバサ・テファ貴方達は大丈夫?」
「大丈夫」
「私も」
「ではお願い致します」
才人達は、領地視察に出発した。