X00-42-7のつづきです。

 トリスタニア

 才人達が、門を潜ると割れんばかりの歓声が上がった。沿道には市民が詰めかけていた。
「水精霊騎士隊万歳!」「ギーシュ様万歳」「サイト様万歳」「…万歳」「…」
 道を進んでいくうちに、ギーシュの顔が少しづつ険しくなった。

「おかしいな、サイトに対する称賛が少なすぎる」
「は?」

「この間の件の一番の大手柄は、君だ。なのに君への称賛は、僕等の半分位しか無い」
「お前この歓声聞き分けているのか?」
「勿論、当り前じゃないかね」

 聖徳太子か?こいつ。そういや親しくなった女の子のスリーサイズ全部暗記してるんだっけな。無駄に凄い奴だ。勉強の方に振り向ければ、学年上位に成れるだろうに。

 城門に近づくと、ディティクトマジックを掛けられた市民が、中に入って行くのが見えた。
「一般市民が中に入って行ってるけど?」
「その様だね、どうやら僕等の御前試合と叙勲式を一般公開する様だね」

「何でまた?」
「僕等の実力を見せつけるのと、救国の英雄達の晴れ姿を見せるためだろうね」

「とすると、お前らが負けたら姫様に恥を掻かせるだけで無く、水精霊騎士隊の名誉も地に堕ちる。と」
「その通りだが、そうはならないさ」

「自信持つのは良いが、油断してへまやらかすなよ」
「勿論さ」

 城門を潜ると、再び大歓声が上がった。
 王宮の中庭は、凄く広い。
 元々は、王軍が整列して王の訓示を受ける為に作られているからだ。

 従って、御前試合用のスペースを差し引いても、1万人からの市民が入る事が出来た。

「これは気合が入るねぇ」
「流石に目立ちたがりだな」

「サイト、僕は嬉しくて仕方ないよ。こんな大勢に、僕の力を知って貰えるんだから」
「はい、はい」

 馬を預け、王宮の前に、集合した。
「水精霊騎士隊、只今参上いたしました」

「ご苦労様です。1時間後に御前試合を開始します。ルールは、1対1、5人1組で3勝した組の勝ちとします。但し、5戦全て行います。何かご質問は?」

「ありません」

「では、対戦順を決めて置いて下さい」


「1番手は誰だ?」
「隊長である僕が行こう」

「2番手は俺が行く」
 ギムリであった。

「じゃあ3番手は、僕だね」
 マリコルヌであった。

「それじゃあ4番手は…」
「5番手は…」

 次々と順番が決まって行った。

 才人は、デルフリンガーを抜いて話しかけた。
「どうだデルフ、手強そうなのは居るか?」
「見たとこ要注意は、2,3人くらいだあね。だが手こずる程じゃないがね」

 そして第1試合の時間が来た。
「では、諸君行ってくるよ」
――――――――――――――――――
 ギーシュの相手は、壮年の厳ついメイジだった。
「小僧、いい気でいられるのも今の内だ。今詫びれば不戦敗で痛い思いをしなくて済むぞ」
「そちらに優れた水メイジはいるかね?死人が出ては困るんでね」

「命が惜しくないんだな、小僧」
「いや、これから人生大いに楽しむ予定さ」

「第1試合始め!」
 一瞬後、厳ついメイジは、仰向けに延びていた。
「勝者、水精霊騎士隊ギーシュ殿」

 歓声とどよめきが起こった。常人には、ギーシュが踏み込んだら、厳ついメイジが倒れたようにしか見えなかった。

「やるじゃんか、ギーシュ。3連撃なんて」
「アニエス殿直伝さ。けどしっかり君には見えていたんだね。君との一戦で使わなくて正解だったな」

(見えていたが、あの時もし3人同時に3連撃かまされていたら、死んでたな)

 ギムリの相手は体躯のいいメイジであった。
「私は奴の様な油断はせん。心してこい」
「そう願いたいね」

「第2試合始め!」
 ギムリは、「ブレイド」を発動させ上段から打ち下ろした。
 相手も「ブレイド」を発動させ、受け止めようとした。しかし後方に飛ばされ、ギムリに杖を突き付けられた。

「勝者、水精霊騎士隊ギムリ殿」

 才人は、ある疑問を感じた。
「お前達、スクウェアになったんだよな。どうしてスクウェアスペル使わないんだ?」
「そんな事したら、次戦以降の対戦相手が、逃げてしまうかもしれないだろ?そうなったらせっかくの晴れ姿を両親に見せられないだろ。だから強敵以外は、使わない事になったんだよ」

「成程ね」

 マリコヌルの対戦相手は、20代の美男子だった。どことなくギーシュに雰囲気が似ていた。
「流石にドットメイジばかりの騎士隊、若さに任せた、体力勝負とはね。それでは、メイジらしい戦いとは言えないね。私はトライアングルだ。私がメイジの見本を見せて進ぜよう」

「見せて貰おうじゃないか」

「第3試合始め!」
 相手は、「ウインド・ブレイク」を放った。同時にマリコルヌが「ウインド・ブレイク」を放って相殺。
「なっ」

「この『風上のマリコルヌ』に風の見本とは笑止千万、死ぬがいいぃぃぃぃぃ」
 その呪文は
「『カッター・トネード』スクウェアスペルじゃねぇか」
 そう、タバサ救出後、ルイズママ・カリーヌに掛けられた恐るべきスクウェアスペル

 対戦相手は、200メイル以上上昇し、ズタボロになって落ちてきた。気を失っていたので、マリコルヌは、レビテーションを掛けた。

 モンモランシーが慌てて駆けて来て、治療した。
 気が付いた美男子は、怯えるように、逃げだした。

「勝者、水精霊騎士隊、マリコルヌ殿」

「スクウェアスペル、使っちまったな」
「マリコルヌ!!!!!!」
 マリコルヌは、少年達から袋叩きにされた。そして止めは、桃色の風だった。

「何て呪文使ってんのよ!姫様にもしもの事があったらどうすんのよ。状況を考えなさいよね、状況を」
 と言って恐るべきデビルキックを放って、1撃で仕留めた。

「余計な怪我人増やさないでよ」
「だって」
「ルイズ、お前も状況を考えろ」

「えっ?」
 周りは、大観衆、アンリエッタや有力貴族、無論ヴァリエール夫妻もいた。
 両親がじっと見ていた。

 次の瞬間ルイズは、物凄い速さで、学院生の中に潜り込んだ。
「ルイズ、オリンピックにでたら、金メダル確実だな」

 残りの水精霊騎士隊の隊員達も、いちゃもん諸侯の手勢を蹴散らしていった。

 結果は、水精霊騎士隊の全勝であった。
 いちゃもん諸侯も、学生の騎士ごっこ発言の王宮官僚も文句が言えなくなる程の圧勝劇であった。


 

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