ゼロの使い魔保管庫
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779 :夜中の練習:2014/03/18(火) 19:16:00.14 ID:wQZxwkzA 3巻はじめくらい アルビオンでの任務が終わり。ルイズが異常優しくなったりしたものの、二人は普段の日常に戻っていた。数日前までは。 授業が終わり、才人とルイズは女子寮へと続く廊下を歩いていた。二人とも、虚ろな目をして、足取りもおぼつかない。ふらふらと倒れかけたルイズを才人が肩を抱いて支えた。 窓から射し込む日差しが眩しい。軽く目を瞑って、才人は呟いた。 「眠い……」 才人は最近寝不足が続いていた。 理由は簡単で、優しくなったルイズが才人をベッドで寝かせるようになったからだ。女の子と同じ布団で寝ていてドキドキしない思春期男子はいない。さらに、それが好きな女の子ときたら、とても寝れたもんじゃない。そんなわけで、才人は毎晩布団の中で固まっていた。 まあ、自分の寝不足は慣れたら治るだろうし別にいい。 それよりも……。 「ふぁぁ……」 才人は隣であくびをかますご主人さまを見た。大口を開けて、瞼を袖でごしごし擦る。美少女台無しである。 「なあルイズ」 「あによ……」 眠いのか、声にいつものような張りがない。目の下にはうっすらくまが出来ている。 「お前さ、なんでそんな寝不足なわけ?」 才人の質問に、ルイズは10センチほど飛び上がった。 「べ、別にいいじゃない! あんたに関係ないでしょ!」 「関係あるっつの。そんなふらふらして、倒れられたら困るし」 「いいから、ほっといて!」 真っ赤な顔でそう怒鳴ると、ルイズはドカドカと大股歩きで先に行ってしまった。 怪しい。 才人は眠れない夜のおかげで、ルイズが毎晩どこかに出掛けていることは知っていた。トイレかと思って気にかけてなかったけど、それだけで寝不足になるのはおかしい。それに、あそこまで必死に隠す必要もないだろ。 才人は『考える人』のポーズになった。 いい年した娘が毎晩隠れて出かける理由なんて、そう多くはないはずた。しかも、さっき寝不足について指摘したら、ルイズのやつ、顔を赤くした。ここから導き出せる結論は……。 男か。 自分の結論に才人はがっくりと肩を落とした。ルイズへの気持ちを自覚しはじめていたゆえに、余計ショックだった。 でもいいんだ。俺、犬だし。ご主人さまが誰と何をしてようと、使い魔関係ないし。 そう自分に言い聞かせる。でも、やっぱり気になるものは気になる。 才人は頭をかきむしると、ぬぉおおお! と唸った。それから、ぶつぶつ呟きながらルイズの部屋へ向かった。 夜。才人はルイズが動き出すのを、今か今かと待ち構えていた。 ご主人さまの非行を止めるのも使い魔の役目だろ。大貴族の娘ですし、スキャンダルなんて起こしちゃ大変ですから。なんて自分に言い訳しつつ、結局現場を捕らえることにしたのだ。 何時間経っただろう。ルイズが起き上がる気配がした。しばらくして、タンスを開く音が聞こえる。おそらく上着だろう。杖を取るためか、枕元へ戻ってくる。才人の顔をちらっと見ると、ルイズは音を立てないように扉を開けた。 ルイズが完璧に出ていったのを確認して、才人は起き上がった。藁束の上のパーカーを引っ付かむ。そろっと扉を開けて廊下を見ると、遠くにルイズの桃色がかったブロンドが見える。音を立てないように、抜き足差し足でルイズのあとをつけた。 ルイズは周りをキョロキョロ見回しながら、どんどん進んでいく。どうやら、ヴェストリの広場に向かっているようだ。外で逢い引きするのだろうか、と才人が思っていると、火の搭の側でルイズが足を止めた。慌てて近くの壁に隠れる。 ルイズは辺りを見回してから、なにかごそごそやりはじめた。 ヴェストリの広場は日中でも日があまり差さない。月が出ているので真っ暗ではないが、ルイズが何をやっているのかまでは見えない。才人は壁に背中を預けて空を見上げた。 外に出てから、30分ほど過ぎた。ルイズに近寄る人影はない。そろそろ寒くなってきた。帰ろうかな、と才人が立ち上がったとき、ルイズが小さくくしゃみをした。 思わずルイズの方を見た。月が移動したからか、さっきより姿がよく見える。月明かりにぼんやりと浮かぶ彼女の姿は、ネグリジェ一枚だった。 「あのバカ」 考えるより先に駆け出していた。 780 :夜中の練習:2014/03/18(火) 19:20:56.08 ID:wQZxwkzA ルイズはいきなり後ろから何かを被せられた。驚いて、持っていた物をネグリジェの中に隠す。 「なにやってんだよ、風邪引くだろが」 振り向くと、才人が呆れた顔で立っていた。 「な、なんであんた起きてんのよ! べ、べべべ別に関係ないでしょ!」 そう言ってルイズはそっぽ向いた。だが、寒いからかすぐに才人に身体を寄せる。くしゅんっとまたくしゃみをした。 「ほら、やっぱ寒いんだろ? 上着貸してやるから、帰るぞ」 才人がルイズの手を引っ張るが、ルイズはいっこうに動かない。 「おい」 「あんただけ帰りなさい」 そう言って、ルイズは才人の手を振り払おうとする。才人は握る力をさらに強くした。 「バカか。誰を待ってるのか知らないけど、誰も来ねーよ」 才人は頭にきていた。もうルイズが逢い引きしているかどうかなんてどうでも良かった。こんな格好で、寒さに震えているのに意地を張り続けるルイズにムカついた。 「ほら、帰るぞ!」 「嫌だって言ってるじゃない! それに、別にわたし誰かを待ってるわけじゃないわよ!」 「……んじゃ、何してたんだよ」 ルイズは少し俯いて呟いた。 「……魔法の練習よ」 「え?」 才人は握っていたルイズの手を離した。ぽかんとしてルイズを見つめる。それをどう思ったのか、ルイズは憮然とした表情になった。 「出来もしないくせに、ばかばかしいと思ってるでしょ」 「そんなことないよ」 「うそ。思ってるくせに」 「思ってないって。そうじゃなくてさ、お前魔法出来なくてもすごいじゃん。こんな夜中まで練習しなくてもいいだろ」 ルイズはバカね、と呟いた。 「魔法が出来なかったら、手柄を立てても認めてもらえないじゃない」 ルイズの言葉に、才人は城から帰ってきた日の教室を思い出す。モンモランシーの言葉は負け惜しみに近かったが、ルイズは相当悔しかったようだ。 ルイズは空を仰いで、独り言のように続けた。 「努力しても失敗するときはするわ。今までのわたしはそうだった。でも、これからのわたしはどうかしら。明日には、失敗が成功に変わるかもしれないじゃない。たった少しでも可能性があるのなら。絶対に出来ないって決まったわけじゃないのなら。わたしは絶対諦めない」 唇を固く結んで、月を見上げるルイズは神々しいほどに美しい。 才人はそんなルイズを見つめるしか出来なかった。 781 :夜中の練習:2014/03/18(火) 19:21:59.04 ID:wQZxwkzA 「って、こんな話あんたにしてもしょうがないわよね。何言ってんのかしら、わたしったら」 うらめしそうにぼやくルイズ。それを見ながら、才人は口を開いた。 「あ、あのさ。俺、昔聞いたことあるんだ。人は絶対何かの天才なんだって」 「なにそれ」 「いいから聞け。天才ってことは上手ってことだろ。じゃあ、ルイズは努力したらなんでもできるようになるってことだ。なんせ、努力の天才だからな」 そっぽを向いて話す才人を、ルイズはぽかんと見つめていた。なんとなく恥ずかしくなって、目を反らす。 「なにそれ、意味わかんない。むちゃくちゃだわ」 「うるせー」 顔が熱い。暗くて良かった、とルイズは思った。 「サイト、帰るわよ」 ルイズは才人のパーカーを頭から被り直した。 「練習するんじゃなかったのか?」 「わたしが帰らなかったら、あんた帰らないでしょ」 「別に終わるまで待ってるけど」 「バカ、そんなかっこで外にいたら、風邪ひくじゃない」 ルイズは才人に背を向けて歩き出した。 「お前にだけは言われたくねえよ」 才人もルイズの横に並ぶ。 双月の光が照らすなか、並んで歩く。会話はない。 ルイズは才人にバレないようネグリジェの中に手を突っ込んだ。毛糸と編み棒があることを確認して、ほっとする。 ルイズと才人はほとんど一日中一緒にいるので、1人になれる時間はあまりない。そのため、ルイズは日課の練習ついでにセーターを編んでいたのだ。 782 :夜中の練習:2014/03/18(火) 19:22:39.98 ID:wQZxwkzA 「ルイズ」 いつの間にか寮の前にまで来ていた。才人の呼び掛けに、ルイズは慌てて手をネグリジェから出す。 「な、なによ」 「明日からは早く寝ろよ。魔法の練習はいいけど、それで風邪ひいたら意味ないだろ」 ルイズは少し頬を染めた。誤魔化すように才人に食いかかる。 「っていうか、あんたはなんであんなとこに居たのよ」 「お前が夜遅くに出ていくから、連れ戻しに行っただけ」 「どうしてよ」 「……変なことしてて寝不足にでもなって倒れられたら俺が困るし」 暗くて才人の表情はよく見えない。 なにそれ。わたしの心配してくれてたんじゃなかったの? 才人がくしゃみをした。 まだ春の終わりだ、Tシャツ1枚では寒い。ルイズはため息をついた。 心配してたわけではないといえ、こんな夜中に来てくれたのは確かだ。その上、自分も寒いのに、パーカーを貸してくれた。 自分のためにしてくれているのに、これ以上わがまま言うわけにもいかない。 「そうね、あんたの言う通りね。明日からはちゃんと寝るわ」 才人がルイズに顔を向けた。驚いているようだ。 「え、どしたのお前。ほんとに風邪ひいた?」 「失礼ね」 ルイズは腕を振り上げた。だが、しばらく上げた腕を見つめると、ゆっくり降ろした。 そして、頭を抱えてしゃがんでいる才人を置いて歩き出す。 「別にあんたに言われたから早く寝る訳じゃないわ。寝不足でろくに身体が動かないんじゃ、あんたが粗そうをしたときにお仕置きできないじゃない」 そういうことかよ、まあそうだよな……とかなんとか才人がぶつぶつ言っている。 そうじゃないけど、そういうことなの。そういうことにしとくの。ルイズは心の中で呟いた。 ふと窓の外を見ると、双月が輝いていた。 次の日、二人揃って風邪をひいて、学園にルイズと才人が夜中に外で破廉恥なことをしていた、という噂が流れるのはまた別の話。
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779 :夜中の練習:2014/03/18(火) 19:16:00.14 ID:wQZxwkzA 3巻はじめくらい アルビオンでの任務が終わり。ルイズが異常優しくなったりしたものの、二人は普段の日常に戻っていた。数日前までは。 授業が終わり、才人とルイズは女子寮へと続く廊下を歩いていた。二人とも、虚ろな目をして、足取りもおぼつかない。ふらふらと倒れかけたルイズを才人が肩を抱いて支えた。 窓から射し込む日差しが眩しい。軽く目を瞑って、才人は呟いた。 「眠い……」 才人は最近寝不足が続いていた。 理由は簡単で、優しくなったルイズが才人をベッドで寝かせるようになったからだ。女の子と同じ布団で寝ていてドキドキしない思春期男子はいない。さらに、それが好きな女の子ときたら、とても寝れたもんじゃない。そんなわけで、才人は毎晩布団の中で固まっていた。 まあ、自分の寝不足は慣れたら治るだろうし別にいい。 それよりも……。 「ふぁぁ……」 才人は隣であくびをかますご主人さまを見た。大口を開けて、瞼を袖でごしごし擦る。美少女台無しである。 「なあルイズ」 「あによ……」 眠いのか、声にいつものような張りがない。目の下にはうっすらくまが出来ている。 「お前さ、なんでそんな寝不足なわけ?」 才人の質問に、ルイズは10センチほど飛び上がった。 「べ、別にいいじゃない! あんたに関係ないでしょ!」 「関係あるっつの。そんなふらふらして、倒れられたら困るし」 「いいから、ほっといて!」 真っ赤な顔でそう怒鳴ると、ルイズはドカドカと大股歩きで先に行ってしまった。 怪しい。 才人は眠れない夜のおかげで、ルイズが毎晩どこかに出掛けていることは知っていた。トイレかと思って気にかけてなかったけど、それだけで寝不足になるのはおかしい。それに、あそこまで必死に隠す必要もないだろ。 才人は『考える人』のポーズになった。 いい年した娘が毎晩隠れて出かける理由なんて、そう多くはないはずた。しかも、さっき寝不足について指摘したら、ルイズのやつ、顔を赤くした。ここから導き出せる結論は……。 男か。 自分の結論に才人はがっくりと肩を落とした。ルイズへの気持ちを自覚しはじめていたゆえに、余計ショックだった。 でもいいんだ。俺、犬だし。ご主人さまが誰と何をしてようと、使い魔関係ないし。 そう自分に言い聞かせる。でも、やっぱり気になるものは気になる。 才人は頭をかきむしると、ぬぉおおお! と唸った。それから、ぶつぶつ呟きながらルイズの部屋へ向かった。 夜。才人はルイズが動き出すのを、今か今かと待ち構えていた。 ご主人さまの非行を止めるのも使い魔の役目だろ。大貴族の娘ですし、スキャンダルなんて起こしちゃ大変ですから。なんて自分に言い訳しつつ、結局現場を捕らえることにしたのだ。 何時間経っただろう。ルイズが起き上がる気配がした。しばらくして、タンスを開く音が聞こえる。おそらく上着だろう。杖を取るためか、枕元へ戻ってくる。才人の顔をちらっと見ると、ルイズは音を立てないように扉を開けた。 ルイズが完璧に出ていったのを確認して、才人は起き上がった。藁束の上のパーカーを引っ付かむ。そろっと扉を開けて廊下を見ると、遠くにルイズの桃色がかったブロンドが見える。音を立てないように、抜き足差し足でルイズのあとをつけた。 ルイズは周りをキョロキョロ見回しながら、どんどん進んでいく。どうやら、ヴェストリの広場に向かっているようだ。外で逢い引きするのだろうか、と才人が思っていると、火の搭の側でルイズが足を止めた。慌てて近くの壁に隠れる。 ルイズは辺りを見回してから、なにかごそごそやりはじめた。 ヴェストリの広場は日中でも日があまり差さない。月が出ているので真っ暗ではないが、ルイズが何をやっているのかまでは見えない。才人は壁に背中を預けて空を見上げた。 外に出てから、30分ほど過ぎた。ルイズに近寄る人影はない。そろそろ寒くなってきた。帰ろうかな、と才人が立ち上がったとき、ルイズが小さくくしゃみをした。 思わずルイズの方を見た。月が移動したからか、さっきより姿がよく見える。月明かりにぼんやりと浮かぶ彼女の姿は、ネグリジェ一枚だった。 「あのバカ」 考えるより先に駆け出していた。 780 :夜中の練習:2014/03/18(火) 19:20:56.08 ID:wQZxwkzA ルイズはいきなり後ろから何かを被せられた。驚いて、持っていた物をネグリジェの中に隠す。 「なにやってんだよ、風邪引くだろが」 振り向くと、才人が呆れた顔で立っていた。 「な、なんであんた起きてんのよ! べ、べべべ別に関係ないでしょ!」 そう言ってルイズはそっぽ向いた。だが、寒いからかすぐに才人に身体を寄せる。くしゅんっとまたくしゃみをした。 「ほら、やっぱ寒いんだろ? 上着貸してやるから、帰るぞ」 才人がルイズの手を引っ張るが、ルイズはいっこうに動かない。 「おい」 「あんただけ帰りなさい」 そう言って、ルイズは才人の手を振り払おうとする。才人は握る力をさらに強くした。 「バカか。誰を待ってるのか知らないけど、誰も来ねーよ」 才人は頭にきていた。もうルイズが逢い引きしているかどうかなんてどうでも良かった。こんな格好で、寒さに震えているのに意地を張り続けるルイズにムカついた。 「ほら、帰るぞ!」 「嫌だって言ってるじゃない! それに、別にわたし誰かを待ってるわけじゃないわよ!」 「……んじゃ、何してたんだよ」 ルイズは少し俯いて呟いた。 「……魔法の練習よ」 「え?」 才人は握っていたルイズの手を離した。ぽかんとしてルイズを見つめる。それをどう思ったのか、ルイズは憮然とした表情になった。 「出来もしないくせに、ばかばかしいと思ってるでしょ」 「そんなことないよ」 「うそ。思ってるくせに」 「思ってないって。そうじゃなくてさ、お前魔法出来なくてもすごいじゃん。こんな夜中まで練習しなくてもいいだろ」 ルイズはバカね、と呟いた。 「魔法が出来なかったら、手柄を立てても認めてもらえないじゃない」 ルイズの言葉に、才人は城から帰ってきた日の教室を思い出す。モンモランシーの言葉は負け惜しみに近かったが、ルイズは相当悔しかったようだ。 ルイズは空を仰いで、独り言のように続けた。 「努力しても失敗するときはするわ。今までのわたしはそうだった。でも、これからのわたしはどうかしら。明日には、失敗が成功に変わるかもしれないじゃない。たった少しでも可能性があるのなら。絶対に出来ないって決まったわけじゃないのなら。わたしは絶対諦めない」 唇を固く結んで、月を見上げるルイズは神々しいほどに美しい。 才人はそんなルイズを見つめるしか出来なかった。 781 :夜中の練習:2014/03/18(火) 19:21:59.04 ID:wQZxwkzA 「って、こんな話あんたにしてもしょうがないわよね。何言ってんのかしら、わたしったら」 うらめしそうにぼやくルイズ。それを見ながら、才人は口を開いた。 「あ、あのさ。俺、昔聞いたことあるんだ。人は絶対何かの天才なんだって」 「なにそれ」 「いいから聞け。天才ってことは上手ってことだろ。じゃあ、ルイズは努力したらなんでもできるようになるってことだ。なんせ、努力の天才だからな」 そっぽを向いて話す才人を、ルイズはぽかんと見つめていた。なんとなく恥ずかしくなって、目を反らす。 「なにそれ、意味わかんない。むちゃくちゃだわ」 「うるせー」 顔が熱い。暗くて良かった、とルイズは思った。 「サイト、帰るわよ」 ルイズは才人のパーカーを頭から被り直した。 「練習するんじゃなかったのか?」 「わたしが帰らなかったら、あんた帰らないでしょ」 「別に終わるまで待ってるけど」 「バカ、そんなかっこで外にいたら、風邪ひくじゃない」 ルイズは才人に背を向けて歩き出した。 「お前にだけは言われたくねえよ」 才人もルイズの横に並ぶ。 双月の光が照らすなか、並んで歩く。会話はない。 ルイズは才人にバレないようネグリジェの中に手を突っ込んだ。毛糸と編み棒があることを確認して、ほっとする。 ルイズと才人はほとんど一日中一緒にいるので、1人になれる時間はあまりない。そのため、ルイズは日課の練習ついでにセーターを編んでいたのだ。 782 :夜中の練習:2014/03/18(火) 19:22:39.98 ID:wQZxwkzA 「ルイズ」 いつの間にか寮の前にまで来ていた。才人の呼び掛けに、ルイズは慌てて手をネグリジェから出す。 「な、なによ」 「明日からは早く寝ろよ。魔法の練習はいいけど、それで風邪ひいたら意味ないだろ」 ルイズは少し頬を染めた。誤魔化すように才人に食いかかる。 「っていうか、あんたはなんであんなとこに居たのよ」 「お前が夜遅くに出ていくから、連れ戻しに行っただけ」 「どうしてよ」 「……変なことしてて寝不足にでもなって倒れられたら俺が困るし」 暗くて才人の表情はよく見えない。 なにそれ。わたしの心配してくれてたんじゃなかったの? 才人がくしゃみをした。 まだ春の終わりだ、Tシャツ1枚では寒い。ルイズはため息をついた。 心配してたわけではないといえ、こんな夜中に来てくれたのは確かだ。その上、自分も寒いのに、パーカーを貸してくれた。 自分のためにしてくれているのに、これ以上わがまま言うわけにもいかない。 「そうね、あんたの言う通りね。明日からはちゃんと寝るわ」 才人がルイズに顔を向けた。驚いているようだ。 「え、どしたのお前。ほんとに風邪ひいた?」 「失礼ね」 ルイズは腕を振り上げた。だが、しばらく上げた腕を見つめると、ゆっくり降ろした。 そして、頭を抱えてしゃがんでいる才人を置いて歩き出す。 「別にあんたに言われたから早く寝る訳じゃないわ。寝不足でろくに身体が動かないんじゃ、あんたが粗そうをしたときにお仕置きできないじゃない」 そういうことかよ、まあそうだよな……とかなんとか才人がぶつぶつ言っている。 そうじゃないけど、そういうことなの。そういうことにしとくの。ルイズは心の中で呟いた。 ふと窓の外を見ると、双月が輝いていた。 次の日、二人揃って風邪をひいて、学園にルイズと才人が夜中に外で破廉恥なことをしていた、という噂が流れるのはまた別の話。
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